壊れ物
ワレモノ
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8月1日
――目を覚ましたら、目の前に見知らぬ少女の顔があった。
黒い、服を着た少女だ。
紅玉のような瞳の持ち主。
青い髪の毛は、腰まで延びていて、黒い大きなリボンが、可愛らしい。
けれど、少女の表情は可愛らしい容姿と切り離されたかのように無感動。
視線をあわせても、なにを考えているのかわからない。
けれど……そう。
この瞳は、誰かに似ている。
とても、自分に近しい誰かに。
そうだ、あれは……。
タイトル
「ぁ……れ?」
「お目覚めになりましたか? 志貴様」
目を覚ませば、そこは見なれた自分の部屋。
翡翠色の瞳をした少女が、こちらを見下ろしたまま問い掛けてくる。
『相変わらず、無表情。』
ふと、そう思う。
思ったまま、けれど言葉に自分を心配している響きを感じて志貴は素直に頷いていた。
「うん……ありがとう。 もう大丈夫だよ。 えっと……翡翠?」
「はい。 翡翠です……志貴、様」
じっ、と。
少女は志貴を見つめてくる。
その視線は、何故か、志貴には泣きそうに見えた。
だから。
「あっ……」
志貴は自分の上にある少女の頬に手を延ばすと、そっと撫でた。
優しく上下する手にも、少女は無表情なまま。けれど心地良さそうに目を閉じる。
訪れる、わずかな静寂。
吹く風も、今は止まり。おぼろげな日差しも、ぬくもりを体に留めてくれる。
心地よい、時間。
……あ、なんだかまた眠くなってきた。
ぽかぽかと、熱が体に溜まる感覚に目を細めて、志貴は再び眠りに落ちた。
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