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士郎は凛をゆっくりと押し倒す。
その柔らかい肢体が畳の上に横たわり、美しい黒髪が乱れ、広がる。
凛の眼差しは熱く、潤んでいた。白い肌は汗ばみ、緋色にそまっていた。
倒すと凛は士郎の服の裾を掴む。何か触っていないと不安そうな怯えた顔。いつもの赤いあくまではなく、女の子の顔。
それがとても新鮮だった。だからつい、可愛いよ、なんて口走ってしまう。
とたんさらに赤くなる赤いあくま。
「……なんでそういうセリフはさらりと言えるのよ」
「――どうしてかな?」
士郎は自分でもそう思いながら、凛の服をたくし上げる。
それが嫌なのか、凛は躰を捩る。しかしそうすればそうするほどその美しい躰のラインがオトコを誘うように蠢き、士郎を昂ぶらせていく。
白磁のような肌の上を指を滑らせるたびに、凛の躰は蠢く。裾を握っている手はさらに強く、けっして離さないかのように固く握りしめてくる。
赤い服が脱げると、士郎が見たことのない下着だった。色は真紅。まるで鮮やかな紅玉を布地に溶けこましたかのような色合い。薄い布地で刺繍と透かしをあしらっていて、上品にまとめられている逸品。
「や、やだぁ。そんなに見ないでよ……」
消え入りそうな凛の声。でも可愛いのとは違う、ちょっとだけ大人っぽい下着を士郎は見入ってしまう。
「こんなの……持っていたんだ」
「…………バカ」
赤いあくまは下着でも赤かったのか? とよくわからないことを考えながら、感嘆の溜め息をつい漏らしてしまう。恥じらいを覆い隠すようにある真紅の下着。朱色に染まった肌よりもさらに紅く、その瑞々しい肢体を覆い隠していた。
凛は恥ずかしかった。どんな色がいいのか、どんな形がいいのか、凛は散々悩んだ結果、赤。自分のイメージカラーである赤にしてみた。
でも派手だったかもしれない。男って女に清楚さとか求めることがあるし……いつもの白いコットンの下着がよかったのかも、と思う。
でも士郎の賞賛に満ちた眼差しが躰を疼かせる。いつもの瞳ではない、男の目。男というより雄の目だった。
その視線に犯されるような愉悦に、凛の躰は震え、喘いだ。
士郎はそっとその胸に触る。その柔らかさに驚いてしまった。それほど柔らかい乳房。
女の子ってこんなにやわらかいんだ、としみじみ感じてしまう。最初は感じることも考えることもなく、ただ凛の躰を貪った気がする。
その時もこんなに柔らかかったのだろうか?
その時もこんなに温かかったのだろうか?
たぶん、そうだろうと士郎は思う。だから覚えていないのが悔しかった。
こんなに柔らかくしなやかで温かいオンナという躰に士郎は感動さえ覚えていた。
その胸は張りと弾力に満ちていた。知っている女の子と比べるとセイバーよりかは大きく、桜よりも小さい……のかな? とは思う。でも実際に桜とセイバーのスリーサイズを知っているわけでもないし、触ったわけでもない。この紅いブラジャーに包まれた量感あふれる柔肉が凛の乳房だと思うと、それだけで興奮してしまう。
凛の胸は大ぶりではない。手を乗せるとすっぽりと収まってしまう。手のひらをかぶせてみると柔肉が震えた。
凛は士郎の手がのると恥ずかしかった。自分では形がいいかなとは思っているけど、ちょっと小ぶりな胸。妹の桜とくらべるとあからさまに小さい。そんな桜の大きな胸をみていた士郎には物足りないのでは? なんて思ってしまう。
でも士郎の目は真剣だった。胸をそっと揉み始める。やさしく、柔らかく、静かに。丁寧にゆっくりと触る士郎の手は、とても気持ちよかった。
士郎は凛の顔をチラリと見る。興奮していた。指が動くたびに、手が擦れるたびに、乳房が揺れるたびに、蕩けるかのよう。
快楽を堪え、顔を苦悶にも似た表情に歪む。けれども漏れる吐息は悩ましげで、粘ついている。震える声がかすかに士郎の耳に届く。快楽に震えた紅い唇が、甘い声を発していた。
より大胆にしてみる。恐る恐るといった具合で凛の乳を撫で回す。どのくらい力を入れたらいいのかわからない。こんなにも柔らかいから力をいくらいれても関係ないのもしれない。指に力をひめると柔肉に食い込み、ゆるめると弾力で戻ってきて、指に密着してくる。
いつまでも揉んでいたい。
その胸をかすかに揺すり、そして握ってみる。指と指の間から柔肉がこぼれるぐらい、強く、はっきりと凛の胸を握ってみた。
「……い、痛っ……」
凛の声に士郎は思わず手を離す。赤い指の跡があった。その白くけれども紅く染まった乳房にくっきりと士郎の指跡がのこっていた。
「……ゴ、ゴメン……」
少し涙目でこちらを見る凛。いけないことをしたと慌てる。いやいけないことをしたのはわかっている。けど、どうすればいいのか、士郎はわからない。かといって今やめるのは失礼だ。凛にも、そして士郎の滾る息子にも。
一瞬、躊躇したが、今度はそっと触れる。指先で微かに触れ、撫でまわす感じ。でもより淫らに。まるで乳房の上に絵を描くようにそっと撫で回してみた。
あっ と凛の口から喘ぎが漏れた。短かったけれども確かに甘い声。甘くて粘ついた吐息。凛はそれを必死に呑み込み、殺す。
士郎の触り方が気持ちいいのだ。今さっきまでの強い刺激でじんじんとしたところをまるでくすぐるかのように触れる指先。固い爪と柔らかい指腹が凛を刺激する。
じんわりとした愉悦。くすぐったいような感触なのに、なぜか肌の下がゾクゾクするような溶けるような感覚に、凛はまた声を漏らしてしまった。
乳首が痛かった。勃ってブラシャーに擦れているのだ。ツンと尖っているのが見なくてもわかった。
熱くジンジンと尖った先を士郎に弄って欲しかった。ちょっと強く、でも甘く弄って貰いたいと思ってしまっていた。
士郎はより淫らに指先を動かす。そのまま胸をくすぐるかのように、そっと滑らせていく。その乳のまるみにそってまるく、まぁるく、優しく、まるでくすぐるかのように。
そのたびに凛の躰は反応して、その躰が震える。歓喜と官能に打ち震えていた。
堪えているけど、もれる牝の喘ぎに、士郎はゾクゾクした。
喘いでいる。遠坂凛が自分の愛撫で気持ちよくなっているという事実。
見ると、悦びを隠そうと必死に堪えてその柳眉をしかめていた。その凛の顔は色っぽく、扇情的だった。
声が漏れてしまう。それが凛はイヤだった。
声を出してもかまわないのかもしれない。セックスをしようとしてるのだから、それは当たり前の反応なのかもしれない。けど、士郎の前だと恥ずかしかった。顔を両手で覆い隠してしまう。見せたくない。見られたくない。こんないやしい顔をしている自分を士郎に見せたくなかった。
胸が熱かった。熱く尖っていた。
先のじんじんと痺れが集い、尖らしていく。張りつめていく。張りつめすぎて、乳が膨らんでいるかのよう。その上を士郎の指が動くたびに、じぃんと躰の深い処が反応してしまう。
凛はその顔を覆ってしまう。その蕩けるような色っぽい顔が手に隠れてしまった。けれど、士郎が胸をいじるたびに、甘く喘ぎ、その劣情に染まった白い肌が揺れる。
士郎はそのまま肋骨の上を撫で、乳房を撫で回す。
辛かった。士郎の指が辛い。触ってくれない。あんなにも尖っている胸の先をいじってもくれない。触ってほしくて、構ってほしくて、あんなにツンと尖っているのに、見てくれもしない。ブラジャーをこんなにも押し上げているのに――バカ。士郎のバカ。凛は心の中で士郎を罵倒する。
触ってほしい。弄ってほしい。摘んでほしい。擦ってほしい。
欲しい。ほしい。ホシイ。
でも言えなかった。そんなはしたないことなんて、凛は言うことができなかった。
肌は熱くとろけているかのようで、凛の躰はぐにゃぐにゃだった。顔を手で覆っていても、漏れる喘ぎ。短い吐息は熱くぬかるんでいて、見える唇はわなないていた。
そうしてようやく士郎はブラジャーに手をかける。でもどうはずしていいのかわからない。後ろのフック? いやフロントというのもあるらしいし、でもこれはいったい……躊躇するが、士郎はええいとめくり上げた。
びくん、と凛の躰が大きく震える。
胸が弾けたような感覚に、頭の芯まで痺れてしまう。躰の奥にあるどろりとした圧力がじりじりとこみ上げてくる。
あそこが濡れているのがわかった。まだ弄られてもいないのに、胸だけだというのに、あそこが濡れている。
解放感で胸が弾けてしまったかと思うほど。擦れていた乳首はツンとさらに腫れているよう。ジンジンと疼き、士郎を求めていた。
「……やぁ……」
凛の弱々しい声。しかしその声は淫悦への期待に滲み、蕩けていた。
士郎はその胸をマジマジとみる。胸が腫れているかのよう。仄かに紅い乳首がツンと士郎に向いて、尖っていた。
その先に指で恐る恐る触れてみる。
とたん、凛の躰が震える。
ちょっとつつく。それだけでこんなにも震えていた。
摘んでみる。固くしこっていた。それを触れるだけで凛は躰を捩らせて逃れようとする。
「……もしかして、凛って胸が弱い……?」
「…………ば、バカぁ……」
消え入るような声に士郎は確信し、胸の先を摘んだ。
ひっ、と凛の喉奥が鳴る。気持ちよかった。じぃんと深いところが痺れていく。甘い電気が肌の下を流れていく。さわさわとした感覚に産毛が立ってしまう。
恥ずかしい。気持ちいい。ダメ。いい。いいの。士郎、いい。
凛はそれから逃れようと手を動かす。でも士郎の指は離れない。むしろ、執拗なまでにそこを責めてくる。今さっきのやさしいふれるような愛撫ではなく、強い触り方。
今さっきのでも気持ちよかったのに、もう物足りなくなってしまう。
摘まれた乳首がとろけていくような感じ。どろどろになって躰の奥にあるやらしいものを呼び出してしまう。
士郎の胸を叩く。弱く、でもはっきりとわかるように。
でないと、凛はどうにかなってしまいそうだった。
「……ダ、ダメだといったでしょう……」
凛は涙目で士郎を見つめる。その顔に士郎は心を鷲掴みにされる。
いつも強気で、常にイケイケで、普段はふふんと笑っているのがとても似合っている遠坂凛。その遠坂凛が甘えるように、媚びるように顔を真っ赤にしながら涙目でこちらを見つめているのだ。
ガツンときた。士郎は堪えきれない。
士郎のあそこはすでに滾っていた。凛の胎内に入りたいといきり立っている。けど、まだ入れない。入れてやらない。せっかく凛の弱点がわかったんだ。こういう時でしか仕返しというか強気にでれないのだから、凛の胸を責め立てる。泣いて、鳴いて、啼きまくるまで、責め立てる。
士郎はさらに胸を玩んだ。
あっ、と凛は啼いた。隠しきれず、殺しきれなかったやらしいオンナの声。瞳を潤ませながら、士郎をにらみ付ける。けど、続かない。士郎が胸を玩ぶたびに、甘く啼いてしまうから。
腰奥からゆるゆるとしたものが昇ってくる。なにかどろりとした粘液質なものが骨を伝わってくる。ゆるゆるとしながら躰の中を浸食していく。
士郎が触れるたびに、それが増えていく。高まっていく。昂ぶっていく。
頭の中がバチバチという。おかしい。おかしかった。でも何がおかしいのか、凛はわからない。
脳髄が焼き焦げていく。作り上げた魔術回路がショートしていく感じ。魔力が暴走している感じ。溜めきれない魔力が満ちて、荒れ狂っている。こんなにも荒れ狂っている。
それが突き抜けてくる。一気に駆け上ってくる。きてしまう。避けられない。避けようもない。ただ追い詰められていく。それが抜けて、喉から喘ぎとなって出てしまう。
「……っあ……ああ……ん……くぅ……っはあぁぁ……」
凛の体臭が強くなる。甘い薔薇の香りを覆い隠すかのように、ただ淫蕩な牝の匂いが士郎の鼻についた。
凛の汗と体臭を胸いっぱいに嗅ぎながら、士郎は胸を責める。
その弾力あふれる乳房をもみ上げ、乳首を摘む。そうして舌も這わせた。しょっぱい汗の味にまじって凛の味がした気がした。
凛はただイヤイヤと躰を震わせるだけ。目から随喜の涙がこぼれる。唇がふるふると震え、声にならない声を上げている。躰を薄桃色にそめて、全身で喘いでいた。
そんな凛の胸の先を咥えた。唇で挟み、吸ってやる。舌で舐めてやる。キスと同じ。乳首を転がすように舌で擦り上げてやる。
「……んは…………くっ……っつ……んんっ……」
どうしていいのかわからないのか、凛は士郎を叩いてくる。けどそれもできず、今度は抱きしめてくる。
爪を立てて痛いが、士郎はそれさえも嬉しかった。凛が感じてくれていると思うだけでその痛みさえも嬉しい。もう二度としないと言って怒った凛が、こんなにも感じてくれている。自分の両腕の中で、こんなにもわななき、震えている。涙目になって、その頬を淫蕩の火で紅に染め、感じきっているのだ。
もっと感じて欲しくて、もっと気持ちよくなって欲しくて、士郎はさらに胸を玩ぶ。
凛は苦しかった。切なくて、苦しくて、でも気持ちよくて――。
涙ににじんだ世界。そこでは士郎しか見えなかった。ただ胸を弄くっている士郎。真剣な表情だった。引き締まった顔つき。戸惑ったようなはにかんだような、でもただ一生懸命な顔。凛が一番大好きな士郎の表情。目を閉じ、一心不乱に自分の胸を愛撫している。額には玉のような汗が浮かび流れ落ちていく。それを見た時、とくんとひときわ大きく胸が高鳴った。そして締めつけられるかのように胸がきゅんと痛んだ。
――ああ、わたし士郎のこと、こんなに好きなんだ。
胸が高鳴る。とたん、さらに熱く感じてしまう。こんなに感じる。こんなにも感じてしまう。熱くて、苦しくて、狂おしくて、でも気持ちいい。凛は涙が流れるぐらい、気持ちよかった。
「……っく、っくあぁっ!」
士郎に凛が激しくしがみついてくる。強く、愛おしく、全身の力をこめて、抱きついてくる。
士郎の顔に火照った乳房を押しつけられる形。潰れるような、でも弾かれる様な生々しい感触。
胸をそのまま愛撫する。吸い、舐め、撫で、そして捏ねる。
そのたびに、凛の躰が跳ねる。蠢き、そして踊る。凛が啼いていた。鳴いていた。泣いていた。
甘く、打ち震えるように、痺れるように。それだけで士郎は痺れてしまう。この甘い淫悦に乱れてしまう。
惚れた女が感じているのは、恋している雌が啼いているのは、愛している牝が感極まっているのを見るのは、快感だった。
組み敷いた凛がただ官能に乱れるという淫靡な光景に、ただ溺れてしまう。溺れるだけではない。このままとろけていってしまう。
この喘ぎに、この肌に、この香りに、この牝に。
……士郎ぅ……、と切なそうに幾度も啼く。
士郎は息が苦しいけど、胸を責めたて続ける。指と手のひらと唇と舌を使って虐める。切なそうに感じている胸をまだ虐める。虐め尽くす。
荒い息をあげ、官能に染まる胸を、まだ貪り、ついばみ続けた。濡れる肌がこすれ、汗が飛び散る。
凛もしがみつき、離さない。爪をたて、何かから逃れるように。
その乱れた吐息がかかり、その喘ぎ声が耳を震わせ、尖った乳首が擦れ、その白い肢体がわななき、士郎の神経をこんなにも犯していく。
啼いている凛が愛しくて、可愛くて、そんな痴態を眺めているだけで気持ちよくて。堪えきれなくて、さらに虐めてしまう。胸をいじりまわしてしまう。
乳首を唇で挟み、ぢぢゅうっと吸ってやる。両手で胸を持ち上げるようにもみ上げてやる。そうして唇を離すと白い胸に吸いつく。今度は首筋ではなく、ここにも跡を残るぐらい強く吸ってやる。
尖ってしこっている乳首を指先であえて強く弾く。んっ と凛は顔をしかめる。そうしてそこを舌で舐め回す。そうすると凛の顔が蕩けていく。
凛は啼いてしまう。
気持ちよかった。気持ちよくて、良すぎて、啼いてしまうぐらい。
ぎゅっと抱きしめられ、胸を弄られるだけ。
大好きな士郎にこうして愛撫される。それだけで、こんなにも――。
士郎に全身で抱きしめられると、こんなにも気持ちいい。
ビリビリと電気が胸から流れる。それが全身を貫いていく。電気なのにゆったりと、じんわりとしてくる。
何かがこみ上げてくる。躰をバラバラにしそうなほど圧倒的で暴力的ななにかが奥底から這い上がってくる。全身の神経のひとつひとつを嬲り、ゆすり、舐めまわしながら。
なのにそれがぼおっとするほど気持ちいい。まるでアルコールに酔っているかのよう。酩酊してフラフラでクラクラしているはずなのに、とっても気持ちよくてふわふわしている。
士郎の腕の中でぎゅっとされるだけで気持ちいい。胸を弄られているだけで、こんなに気持ちいい。
躰が動いてしまう。凛は抑えようと思っているのだけど、勝手に跳ねてしまう。殺していたはずの声が出ていた。勝手にでていた。止められない。気持ちよくて、心地よくて、堪らなくて。
躰が痺れ、とけていく感じ。このままどろりとした粘液質の何かにとろけていってしまって、遠坂凛というものがなくなってしまうような感覚。
頭の中が白くなっていく。士郎のことばかり。士郎のことを考えているだけで、頭が白くなってしまう。
考えられない。
まるで強大な魔力の奔流にさらされているよう。
強大すぎてバラバラになって躰がちぎれていく。首から下の感覚がなくなっている。なのに乳房だけはあった。首から下は乳房だけになってしまったと錯覚するぐらい。
士郎の下が、士郎の指が、士郎の唇が触れるたびに、舐めるたびに、舐るたびに、ああと啼いてしまう。
躰がふかふかとしてきて。
あんまりにも気持ち良くって。
とろとろになってしまって。
凛は何もかもが真っ白に、ただ真っ白に――。
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凛はさらに抱きしめてくる。必死に何かから落ちないように、しがみついてくる。
凛の殺しきれない淫靡な声が、士郎を責め立てる。
士郎の逃げようのない胸への愛撫が、凛を追い詰めていく。
こんなに責め立て、こんなにも追い詰めていく。
凛の躰がビクンと震える。
また震える。幾度も震える。しがみついていた腕から力がなくなり、ひときわ大きくうち震えた。
今まで我慢してきたソレが躰の奥底から一気に吹き出したかのように、凛は悲鳴をも似た声を上げた。それが士郎の、雄の本能を痺れさせた。
凛はかすれた細く長い悲鳴にも似た媚声を幾度も上げる。そのたびに躰に痙攣が走る。躰は何度もヒクつき、のけ反る。
そして凛は何の反応も示さなくなった。
「…………ええっと、凛」
士郎は胸から顔をあげると、恐る恐る尋ねる。
凛はぐったりしていた。幸せそうな、恍惚に満ちた顔で気持ちよさそうにしていた。
汗でぬめった白い躰は紅に染まり、時折びくんと痙攣している。鼻につくオンナの匂い。
「…………ええっと、遠坂」
士郎は痛いほど昂ぶっているのを意識しながら、気持ちよさそうに寝ている凛に囁く。
「……もしもし、もしもーしっ」
凛はすーっと軽い寝息を立てていた。
ビクンとアソコが反応する。
「……このまんま? こんな状態で?」
士郎は情けないような顔をする。あそこが自己主張するかのように、またビクンと跳ねた。でも凛はとても気持ちよさそうにすやすやと寝ていた。
天使ならぬあくまの寝顔。可愛いあくまの寝顔を見ながら、士郎は深く深く、それはとても深く男としてのサガをすべて吐き出すような嘆息を盛大についた。
――この滾った思いはどこにぶちければいいんだよ、遠坂っ!?
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雀の鳴く声が聞こえる。閉じている目蓋には明るい陽光が感じられた。もう朝なの、と凛は思った。
もう少し……と思ったとき、何か忘れている気がした。何だろう? 凛はふかふかで温かい床の中で夢見心地に思う。もう少し? 何か疑問に思う。首をひねる。寝ているのに……寝ている……寝てい…………?!
ガバっと起きる。と、そこは遠坂邸ではなく、衛宮家の見覚えのある部屋だった。
そして今までのことを思い出すと、凛は真っ赤になる。自分の姿を確認するとバッグに詰め込んできた猫柄の寝間着をちゃんと着ていた。
慌てて着替えるけど、頭がはっきりしない。いつもの様子でふらふらとしながら居間に向かう。
居間では士郎が朝食をこしらえていた。
凛の方を向くと、おはよう、と屈託のない明るい笑顔。
いつもの雰囲気。暖かで家庭的な衛宮家のいつもの光景。
何か力が抜けそうだった。へなへなとその場に崩れそう。
気張ってきて、こうなるなんて――何に対してこの怒りをぶつければいいのだろうか? 凛はマジメに神様を呪いたくなった。神様だなんて、と思うけど兄弟子である綺礼の教えは根深い。だてに後見人ではないのだ。一応神学っぽいことも少しなら囓っていたりはする。だから神様に対してなにかいうのは罰当たりだ。とは思う。それにこのことに対して神様は何も関係ないし。そう思うけれども、何かにぶつけてしまいたくなる、可愛いらしい乙女心。
慌てて士郎へ向くと、きちんと正座し、
「ゴメン、士郎」
と、凛は両手をあわせて、士郎を拝むように謝った。
「あーーー、うん、いいよ」
士郎は照れてそっぽを向いて答える。
「遠坂がよければそれでいいよ」
士郎はそんなことを言ってくれるけど、凛は謝って済む問題じゃない気がした。本当に悪いと思う。男の人って途中で終わるのが辛いって聞いたんだけど――と耳年増なことを考えながら、チラリと士郎を盗み見る。
でも士郎はいつものとおり。
なんだかそれはそれで悔しい。凛は自分がこんなに悔しいのに、せっかく恋人としての時間だったというのに、なんで士郎はいつものとおりなのよ! と逆にキれてしまいそうになる。
せっかく士郎と恋人としての時間だったのに、と悔やむ。どう挽回すればいいのかわからない。あんなに気張ったのに、気張りすぎて緊張が解けたためか、気持ちよくて寝てしまうだなんて――。アレの最中で寝てしまうだなんて、サイテーと思う。士郎が怒っても仕方がないと思うのに。
「しかし遠坂があんなに胸が弱いだなんて思ってもみなかったよ」
なんて言い出す始末。
その言葉に凛はますます赤くなる。恥ずかしくて、居たたまれなくて、気まずくて、凛はただ、う゛ー、と唸るしかない。
「――士郎、怒ってない?」
「怒るって……まぁ、でも気持ちよかったんだろ?」
恥ずかしい。そんな直球な物言いに、凛は照れてしまう。けど、照れていては仕方がない。それを無視して凛は言ってみた。
「今夜はちゃんと――ね?」
「あ――う、うん」
二人してまた照れる。
そして凛は昨日みたビデオを思い出す。
あんないやらしいことなんてできっこない、と思う。けど、士郎になら、そのぅ口で……してあげてもいいかな、なんても思ったりした。
綾子もそう言っていたし、人生何事も経験だし。士郎をぎゃふんと言わせたいし。
だから綾子にもう一度だけあのビデオを見せてもらおうと密かに心に誓う。
そして今夜こそ――。
「シロウに凛。いちゃつくのも構わないのですが――」
とセイバーが入ってくる。凛と士郎はいけないところを見られた子供のように、びくんと躰をすくませた。凛と士郎は互いに視線を交え、どうしていいのかわからず、硬直していた。
セイバーはそんなふたりを交互に見ると、あからさまに嘆息した。
「シロウ、朝食の用意は出来たでしょうか?」
「あ……ああ――う、うん。今、用意するよ」
士郎は慌てて台所へと戻る。
セイバーはいつもの席に座ると、お茶を注ぐ。
「はい、凛」
「あ、あら。ありがとう、セイバー」
「あと、着替えはわたしがしましたから、大丈夫です」
「………………あ、ありがとう、セイバー」
照れてそっぽを向く凛。
そんなぎこちないふたりを見て、セイバーは、初々しいのは構わないのですが、このふたり、本当に大丈夫でしょうか、と内心、盛大に溜め息をつくのであった。
今晩こそは、と凛は誓ったけども、それも無理で――。
凛と士郎がちゃんとえっちできたのは、なんだかんだいってそれから1ヶ月後だったそうな。
おしまい。
あとがき
寸止めって胸キュン?
なんだか最近、寸止めが多い気がしますが、気のせいです。えぇ気のせいですとも。
お話し的にこのままの方がいいので、ここでおしまいです。
本番を期待していた人、ゴメンなさい。
わたし、実はラブコメかけないんじゃないか、と言われ続けていました。みんなに、わたしの書いたエロってそのまま心中しそう、と言われていまして、なによ、こういうのも書けるんだぞ、と一念奮起して書いてみました。みましたら、あら長すぎよ、と。あうあう。
やっぱりこの手のお話しは心中するぐらいのいきおいの方がいいでしょうか?
それでは、また別のSSでお会いしましょうね
誤字誤変換タイプミスを指摘され、そこを改訂しました(11/12.2004)。
1st. Novenver. 2004 #137.