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「領域侵犯」
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 ガタガタ

 秋葉は体育倉庫の建て付けの悪いドアを力いっぱい引く。

 ギ、ギー

 腐蝕の進んだドアは嫌な音をたてた。
 開けるというより、こじ開けるといった表現がぴったりくるだろう。

「まったく。人を呼んでおいて自分は遅刻ですか」
 中に誰も居ないことを確認した秋葉はそう呟いた。

 秋葉はシエルに呼び出されたのだ。

 今、グラウンドでは体育祭の全学年合同練習が行われている。
 それを途中で抜け出してきた為に、今の格好はブルマと体操服だ。

 埃っぽい倉庫の中をのぞき込む秋葉に、背後から何者かが羽交い締めにし、
口に布のような物を当ててくる。
 布はやけに湿っていた。

 秋葉はこの暴漢に反撃を試みるが、意識が朦朧としてままならない。

 クロロホルム―――

 薄れる意識の中で、その薬品名を思い出した。


  §          §

「うう、ん」
 体育倉庫の中で、目が醒める。
 なんだか動きにくい。
 ここは、どこ?

 わからない。
 順序立てて考える。

 確か今日は、体育祭の全校合同練習があって、
 その時だ、シエルが私を体育倉庫に呼び出したのは。

 だんだんと頭が覚醒してくる。

 呼び出された体育倉庫で、薬を嗅がされ―――
「そうだった。シエルの奴!」
 秋葉はがばっと立ち上がったつもりだったが、よろけて立てない。
 その原因はすぐにわかった。
 縄で両手を固定されてる。

 周りを見回すと、跳び箱の上に体操服姿のシエルがこちらを見て笑っている
のを発見する。

「志貴さんを追って転校までしてくるとは、結構やりますね。
 でも、学校は私の領域です。
 一つ屋根の下という自らの領域をはみ出した秋葉さんには、お仕置が必要で
すね」
 そう言ってふふっと笑う。

「シエルさん。この縄を解きなさい!さもないと―――」
「さもないと、何です?」
激昂する秋葉に、どこか挑発するような態度を示すシエル。
 
「この私の手を縛ったところで、動きを封じたおつもりですか」
「そんな事はわかっています。貴方には檻髪の能力がある。
 手足を拘束したところで、貴方の動きは封じる事が出来ませんね」
「わかっているのなら早く解きなさい」
「わかっているから、解かないんですよ。
 私が何の策も講じないでいると思っていたんですか?」

 はっ

 気が付いて檻髪の能力を使おうと試みる。

 秋葉の顔が段々と青ざめてゆく。
「なんで?使えない…」

 にやにやと笑うシエルを見る。
 先程と変わらない笑みのはずなのに、なぜかより恐ろしく見える。
「秋葉さん。どうしたんですか?
 檻髪の力を使って逃げないんですか?」

「何をしたの」
 声が微かに震えている。
 平静を装っているが、動揺の色は隠せない。

「いえ、たいした事じゃないんですけど、
 ちょっとこの倉庫に結界を張っておきました。
 倉庫の隅を見て下さい。
 四隅に短剣が刺さってますよね。あれで結界を維持してるんですよ。
 暗示の応用で倉庫を認識できなくなりますから、他の生徒が入ってくる事は
ありません。安心してください。
 それに、この結界。視線をかく乱する作用もあるんですよ。
 ほんの少しの作用ですから、気付かなかったでしょうが、
 秋葉さんの能力を妨害する事は出来ます」
 優位に立っているせいか、シエルはいつもより口数が多い。
 短に説明好きなのかもしれないが…。
 逆に秋葉の方は、何も出来ない自分の立場と、これからの事を考えると声も
出ないようだ。

「とりあえず。こういった状況の定番ですよねぇ」
 屈んで秋葉に手を伸ばす。
「ひっ」
 びくっ
 身を竦ませる秋葉。

 体操服の裾からシエルの手が侵入する。
 手が上に進む事で、自然と裾もずり上がって行く。
「い、いや。やめて」
 這い上がってきた手は胸を撫でると服を上げて、肌を露わにする。
 ブラはしていない。
「かわいい胸」
 秋葉は目を伏せる。恥かしさと悔しさで今にもはちきれそうだ。
「でも、この程度の胸で志貴さんを誘うとは、なんて身のほど知らずな」
 シエルは先端を摘み上げる。
「いっ、痛っ」
「ここにピアスをしたら遠野くん、なんて言うかしらね」
 絶句。
 もう秋葉は声も出すことが出来なくなった。

「あ、でも案外喜ぶかもしれません。
 この案は却下ですね。
 まあ、色々と用意してありますし」
 そう呟きながら、部屋の隅からパン屋の紙袋らしき物を持ってくる。
 紙袋からは金属やプラスチックのぶつかる音が聞こえる。
 この状況から、中身は容易に想像がついた。
「どれを使いましょうかねえ、秋葉さん」
 迫るシエルに、いやいやと首を横に振りながらあとずさる。

 シエルはじりじりと秋葉に近付きつつ、紙袋からロープを取り出す。
 逃げようとする秋葉を取り押さえ、ブルマをずり下ろし下着の上からロープ
をかける。
 そのロープは腰を回り、体操服を胸までたくし上げられて剥き出しになって
いるおなかを通る。

きゅっ
 しっかりと縄をかけて絞る。
「ひあっ」
 縄が敏感な所に食い込み声を漏らす秋葉。
 食い込んだ縄は息をする度に動く腹部によって、引っ張られる。
 繋がった縄が引かれて、下着の上を通る縄に振動が伝わる。
 微かに動く縄が、秋葉を刺激する。
 しかも下着越しのため、かなりもどかしい。

五分後―――

 秋葉は微かな擦れの与えるもどかしさに音を上げた。
「シエルさん。もう、堪忍して」
「切ないですか?秋葉さん」
 許しを請う秋葉に、優しい口調で言う。
「すぐ楽にしてあげますよ。
 でも、その前に。
 秋葉さんにゲストを紹介しますね」
 秋葉の正面にあった。跳び箱の二段目から上を持ち上げる。
「兄さん!」
 そこには志貴が猿轡をかまされて転がっている。
「ほら、秋葉さんが虐められる所を見てこんなにしちゃって」
 志貴の短パンの前がはちきれんばかりになっている。
「可哀相な遠野くん。私が鎮めてあげましょう」
 シエルは志貴の拘束を解くと、短パンに手をかける。
 ベルトではなくゴムなので、するりと脱がされる。
「せ、先輩。ちょっ、待っ」

 はむっ
 シエルは一気にほお張ると、
 頭を前後にスライドし始める。
「ああっ」
 ひとしきり喉の奥まで味わった後、ちろちろと先端を舐める。
「先…、やめ…」
 しばらく暴れていた志貴だが、段々と抵抗しなくなってきた。

 志貴の目が恍惚としてくる。

 最愛の者が、自分ではない女の手で弄ばれる。
 悔しさと惨めさで、秋葉は声を上げずにはいられなかった。

「いや、やめて」

 しかし、そんな秋葉の悲痛な言葉を聞いたところで、やめるはずも無く。
 シエルは志貴のそそり立ったモノをしゃぶり尽くす。

 最愛の者と、他の女が淫らな行為を行っているのを見て、俯いて肩を震わせ
る秋葉。

 そして――――

「そ〜れ〜は〜。
 わたしのだぁぁぁぁー!」

 とうとう秋葉がキレた。

 ぶちぶちっ

 切れたのは秋葉だけではない。
 秋葉の手を縛ってあった縄が切れた。いや、引き千切られた。

「ふぁんてふぁかふぃかふぁ」
「くわえたまま喋らないでください!」
 シエルは咥えていたものを出して言いなおす。
「な、なんてバカ力」
 秋葉は言いなおしたシエルの隙をついて、倉庫の結界を維持している短剣を
引っこ抜く。
「しまった!」
「よくもやってくれましたね」
 結界が無くなり、檻髪の能力が使えるようになる。
 黒い秋葉の髪が、血液を吸ったストローの様に根元から紅く染まってゆく。

 戦闘態勢に移行した秋葉は、檻髪の能力でシエルをからみ取る。

がくん
 シエルの両手足から力を略奪すると、膝が落ちる。
 さすがのシエルも力を奪いながら拘束する檻髪の前には成す術もない。

「シエルさん。先程はありがとうございました。
 とてもいい体験が出来ました。
 お返しをして差し上げなくては」
 にやり。
 誰が見ても震え上がりそうな笑みだ。
 普段の秋葉も怖いが、屈辱的な思いをした為か、いつもの三倍は怖い。
 身動きの出来ない先輩の頭を地面に押えつける。
 自然と秋葉にお尻を晒す格好になる。
 自分に差し出されたお尻に秋葉の手が伸びる。

 何をされるか悟ったシエルは逃れようとするが、それもかなわず。
 僅かな抵抗として出来る事は、いやいやとお尻を振る事だけだった。

 しかし、そんなものは何の抵抗にもならず、
 お尻を覆う布―――ブルマを引き摺り下ろされる。

 秋葉は露わになった下着に、シミを確認するとくすりと笑う。
「あら、兄さんのを舐めて濡らしてらっしゃったんですか?
 いやらしいですね」

 床に押え付けられているシエルの顔は、恥かしさのあまり耳まで真っ赤にな
る。

「せっかく用意していただいたのですから、
 存分に使わせて頂きましょう」
 そう言う秋葉の手には、先程シエルの持っていた紙袋がある。
 袋を逆さまにして中身を床に広げる。
「いろいろありますね。どれからおためしになります?」

「ひぃっ」

 秋葉は取り出した紙袋中身の中から、ローターと呼ばれるピンク色の小さい
卵状の物を選ぶ。
 そして、シエルの下着に手をかけずり下げると、
 つぷっ
「ひやぁぁぁっ」
「すんなり中に入っちゃいましたね。
 これだけすんなり入るなら、物足りないんじゃないですか?」
「ひっ」
ぐりぐり
「好きでしょう?
 後ろ。
 どうぞ。召し上がれ」
ぐっ
「あ、やっ、そこは、だめ―――
 ああっ」
 シエルは前と後ろに入れられ、身悶えする。
「ふわあぁぁぁ」

「それじゃあ」
 と、秋葉はシエルから伸びているコードの先端にあるスイッチを入れる。

ヴィィィィン

 シエルの中から、機械音が響く。
「はぁぁっ、んうっ」
「あら、もう感じてらっしゃるんですか?」

「遠野くん…」
 シエルの目がとろんと虚ろになる。
 その目は、なんとも言えぬ淫靡さをかもし出している。
 堕ちた―――
 秋葉は確信した。
 長年浅上にいたわけではない。
 先程は先手を打たれて不覚を取ったが、『秋葉お姉様』の名は伊達ではない。
 今のシエルは何も考えられないだろう。

 シエルは潤んだ瞳で、志貴の股間を舐める様に見ている。

「ふふっ、もう兄さんにおねだりですか?
 それなら兄さんを立たせて差し上げ無ければね」

 シエルの拘束を解いてやる。
 しばらく股に手を挟んでもじもじしていたが、
 ゆっくりと志貴に近寄り、相変わらず剥き出しな『それ』を舐める。
「うあっ」
 熱い粘膜の再接触に、志貴はたまらず声を上げた。
「『うあっ』ですって。
 なんて可愛い声で鳴くんでしょう。
 でも、その様子なら準備はいいみたいですね」
 その言葉に動きを止めるシエル。

 秋葉は期待した目で見るシエルに言い放つ。
「なんですか?その期待したような目は。
 誰も貴女に兄さんの相手をさせるなんて言ってませんよ」

 シエルから志貴を奪い取ると、マットの上に押し倒す。
「ふふっ。貴女はそこで見ていなさい。
 私と兄さんの愛の営みをね」
 秋葉の髪がシエル動けなくする。

「兄さん。秋葉を愛して下さいね」
 何か言おうとした志貴の口を自らの唇でふさぐ。
 そのまま自分のを志貴のモノに擦りつけた後、ゆっくりと腰を下ろ――――

 ガタガタッ
 不意に倉庫のドアが音を立てる。

「おーい、倉庫の戸、開かねェぞー」
「建て付け悪いんだよそれ、もっと力込めれば開くぜ」

 シエルの結界を解いたから、倉庫を認識できるようになって、やってきた男
子生徒だ。

 一瞬にして、中にいた三人の顔から血の気が引く。

「「「こんな所を見られたら!!!」」」

三人は神速の動きでその場を取り繕う。
急いで服を着なおし、怪しい道具を抱えてドアとは反対の小窓から飛び出す。



「心臓に悪い」
全速力で倉庫から離れた志貴はそう言った。
拭く時間が無く、べとべとに濡れたままで下着を履いたので、気持ち悪いが仕
方が無い。

「全くです。ドアの建て付けが悪くて助かりました。
 だれかさんが結界を崩したおかげで、危うく恥を晒すところでした」
 シエルの言葉に、反論する秋葉。
「何を言ってるんです。先にあんなことを計画したのは誰だと思ってるんです
か」
「途中からあんなに乗り気だった人が言う言葉ではありませんね」
「なんですって!」

 二人はお互い睨み合っていたが、『ふん』と同時に目をそらす。
「今日の所は引き分けにしておいてあげます」
「それはこちらの台詞です。
 早く帰って、まだ前後に入ってるそれを取り出した方がよろしいんじゃなく
て?」
「秋葉さんも。着替える時は気をつけた方がいいですよ。
 お腹や腰に縄の跡がついていますから。
 一般生徒に見つかったら遠野家の当主以前に、
 女としての尊厳に関わりますよ」

 二人は睨み合うと互いに引きつった笑みを浮かべ合う。

「「うふふふふふふふ」」

(志貴)
「ふたりとも、一番被害をこうむったの俺なんだけど…」


おしまい




2002/09/30  you