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なんて――酷い
                                大崎 瑞香


「なんて――酷い」

 セミが遠くで鳴いている。
 少し汗ばむ、けどまだ夏ではない。
 そんな季節、そんな陽気の中、浅上女学院の生徒会は活動していた。
 この浅上女学院における生徒会など、生徒の自主性を重んじたモノとか、生
徒のことは生徒による、なとど高尚な理由などで設置されているわけではない。
 お金持ちのお嬢様――特に問題があって家においとくことができない、また
はお嬢様としての教育の一環――を預かり、中等部、高等部の6年間を問題なく、
あるいはきちんと育てるというこの学校において、生徒会とは生徒によるお遊
びといってもいい。
 もちろん改革を唱えたり、きちんと生徒会として運営し、生徒の生徒による
生徒のための、などというスローガンを掲げた者も数名はいたが、いずれも日
常に埋没し、生徒同士の権力闘争というものにかわって、うやむやになってい
くのが常であった。
 まぁそれでも。
 生徒の自主性という表向きの理由のため、こうして会議が行われて、予算の
分配などを行っている。

 白墨が黒板を書く固い音と紙をめくる音、時計が時を刻む機械音、そして鉛
筆を走らせる音だけが響く。
 まるで授業中のようであった。
 ただそこにいるのは生徒会役員だけであり、あの気だるげな雰囲気はない。

「さて予算案申請は各部からの実績と申請額を計らなければならないから……
ここまでね」

 副生徒会長の遠野秋葉は、この汗ばむ陽気だというのに、汗ひとつ見せず涼
やかな顔で司会として議題を進めている。
 生徒会長は今回は実家の都合でお休みであり、司会のお鉢が副会長である秋
葉にまわってきたのである。
 長い髪が秋葉が動くたびにふわりと持ち上がる。
 そして視線を役員に向ける。
 その視線は黒板を見ている者、秋葉を見ている者、違うところに視線をさま
よわせている者――様々である。
 そして中等部の瀬尾晶と視線が一瞬だけあう。
 とたん秋葉は目をそらす。

「――何か質問は」

 秋葉の語尾は少し震えて、今までは違ってほんの少し大きかったが、誰も気
づかなかった。

「あ、はい」

 元気よく声がする。
 そちらを見ると晶がおずおずと手を挙げている。まるで小動物のようで――
高等部役員からは密かに「晶ちゃん」とちゃんづけで呼ばれ親しまれている――
その少し怯えた態度がとても似合っていた。

「各部の実績ということですけど、手芸などの場合、実績とかはありません……よね」

 語尾が小さくなる。小動物系といわれるゆえんである。
 その晶の視線を逸らすかのように、秋葉は書記に目を向ける。と書記は前年
の議事録を確認し読み上げた。

「そのような部活の場合、浅上祭での出展作品の規模など生徒会役員が手分け
して調査し判定して実績として評価するという方式です」
「ありがとう――わかった、瀬尾?」
「あ、はい」

 ぱたぱたぱたと両手を振り、えへへへという笑みを浮かべる。

「他に質問は――ないようね」

 ここで再び全員を見る。また秋葉と晶の視線が絡む。

「では、おしまいにします」

 とたん、がやがやとざわめきが生徒会室を支配し、様々な指示が飛び交う。

「あ、遠野先輩――」

帰り支度を始めていた秋葉の背後から声がかかる。
びくり、と体がゆれる。

「瀬尾、なにかしら」

 冷ややかで澄んだ瞳、柳眉、整った鼻梁、赤い唇そして流れる絹のような黒
髪――その艶やかでまるで日本人形のような秋葉の姿に、瀬尾はいつもドキド
キしていた。
 そしてその少しキツい眼差しが、瀬尾をドキリとさせる。
 なんでもない視線だというのに、その秋葉の視線を受けて瀬尾は顔をそらそ
うとする。――が留まり、笑いかけた。

「あのぅちょっと手伝って欲しいことがあって……残ってもらえませんか……」

 本当に済まなそうにいう。
 秋葉はその笑顔から視線をずらして、

「えぇ……先週と同じ用件……かしら」
「はい、そうですよ、遠野先輩」
「……わかったわ」





               ◇    ◇    ◇





 二人しかいない生徒会室。ふたりは椅子に腰も掛けずただ立ちすくんでいた。
 セミの声と時計の音だけが静寂に響く。
 晶は上目遣いで――まぁ秋葉の方が背が高いからそれは仕方がないのだが――
秋葉に話しかける。

「――ねぇ遠野先輩」

秋葉は視線をずらす。

「私の顔をちゃんと見てください、遠野先輩」

 その言葉におずおずと視線を向ける。
 その眼差しはいつもの冷ややかなものではない。
いつもの人懐っこい、それでいて少し怯えたような、あの小動物系の表情で晶
はじっと年上の先輩を見つめていた。
 視線が絡んだ途端、秋葉は目を伏せる。

「駄目です、先輩」

 その声に再び顔をあげる。
 その眼差しは、その瞳は熱く潤んでいた。
 目尻はほのかに赤く――色っぽい。

 上目遣いに見上げる瞳が、怯えながらもしっかりと秋葉を見据えていた。

「ちゃんと見てください」

 羞恥を含んだ視線を晶に向ける。それはいつもの凛々しく麗しいお姉さまで
はなく――。
 視線がきちんと絡まると、晶は半歩詰め寄る。
 思わず、秋葉が視線をそむけようとするが、

「駄目です」
 
とゆるされない。微かに震える秋葉に手を伸ばし、髪をとる。その手触りを楽
しんだ後にさらりと舞わせる。
 絹糸のような滑らかで光沢のあるそれは、ふわりと舞って、秋葉の香りをほ
のかにまき散らす。

「可愛いですよ」

その言葉にふるえる。

「さぁ――見せてください秋葉先輩」


 何か言おうとした瞬間、瀬尾が人差し指を秋葉の柔らかい唇に押し当てて、
しっ、と息を吐く。 

「誰かに聞こえちゃいますから、声を出しちゃだめです」 

 耳元で妖しく囁くとそのまま晶は耳を舐める。

「……あぁ……」

 秋葉はただ首をふるばかり。

「いやなんですか、遠野先輩」

 また首をふる。
 羞恥で顔どころか首や胸あたりまで薄桃色にそまって――。

「可愛い、遠野先輩」

 晶は人差し指で、秋葉の頬を撫でる。
 それに感じているのか、ふるふるとわななく。
 そして唇にまたふれると、すっと紅をつけるように愛撫する。
 秋葉の膝はがくがくして用をなさない。
 でも、晶は追い詰めるばかり――。

「さぁ早く見せてください」

 甘い囁き。でもそれは酷くて――その言葉ひとつひとつが、秋葉の心を縛り
付けていく。

「……あぁ……ひどいわ……」

 息も絶え絶えに言葉を紡ぐ。
 少しびっくりしたかのように、晶は目を大きくあける。
 でもそれはすぐに細まり、笑う。
  いつものあの少し怯えた人懐っこいものではなく、女の笑み――。

「遠野先輩の方ですよ、ひどいのは」

 うたうように囁く。その言葉は甘く残酷に響く。

「わたしをめちゃくちゃにして――こういう風にしたのは先輩、あなたですよ」
「……あぁ……瀬尾……」
「さぁ――早く」

 晶からの命令が下ると、だまって受け入れる自分がいた。

(瀬尾の淫らな命令に逆らえないなんて……まるでわたしは、淫乱みたい……)

 花も恥らう乙女として、秋葉は自分がそんな淫らな変態だなんて思いたくなかった。
 でも逆らえない。
 逆らうことができない。
 言われるがままに――動いてしまう。
 目を閉じ、そしてそっとスカートをつまむ。
 セーラー服の胸が大きくゆれているのがわかる。
 そしてゆっくりと持ち上がる。
 白い太股が顕わになる。
 それはほっそりとしていて女ではなく少女のそれで――艶めかしい。
 そろり、そろりとあがっていく。
 ゆっくりと開花していくように、匂いが立ちこめ始める。
 息が詰まっていく。
 視線がスカートの中に注がれていき、秋葉は見られていることを実感する。
そう感じるほどに恥かしさが募ってゆく。
 
「遠野先輩――いやらしいですよ」

 晶はわざと明るく言う。

「ほら、内股にまで……」

 その言葉の一つ一つが鞭となって秋葉を責め立てる。
 太股にはしたたり落ちる滴があった。

「お漏らし、ではありませんよね」

 そういって、その滴をそっと拭う。
 わななく秋葉。
 指についた液体をぺろりと舐める。

「先輩の味がします、ふふ」

 そしてまたぬぐうと、今度は秋葉の口元にもっていく。

「ほら――おいしいですよ」

 最初唇を噛みしめていたが、粘液で汚れた指先が動かないのを知って、よう
やく口をあける。
 とたん指が入ってくる。その指を咥えこむ。
 うすく引き締まった唇で挟み込み、歯を立てず、まとわりついている粘液を
なめとってゆく。
 口中に生臭い動物的な匂いがひろがり、舌先は酸いような塩っぱいような奇
妙な味がする。
 でも止まらなかった。
 晶が望んでいるからこそ、止めることはできなかった。
 だから、その奇妙な味がなくなるまで 呼吸は荒く、目尻には涙さえ浮かべ
てまでも、ただ熱心に指先をしゃぶった。

(――可愛い)

 晶は被虐に打ち震えわななく先輩を見て、心臓が大きく鼓動した。
 そして熱くどろりとしたものが躰の奥底、オンナからわき上がってくるのが
感じる。

(――先輩が……こんなに可愛いのがいけないんですからね)

 そうして晶はさらに嬲る。

「もしかして、会議中ずっと濡らしていたのですか」

 わざわざ、さも意外といった口調で責め立てる。

「麗しの憧れのお姉さまである遠野先輩が、みんなが見つめる中――まさか」

 そうして指を抜き去る。
 濡れぼそった指とその唇が唾液でつながり――そして切れる。

「……いわないで、瀬尾……」

 弱々しく、いつものあの麗しいお姉さまではなく、ただ哀願する様は――。
 晶の加虐心を刺激した。

(――いつもは正反対なのに……)

 その倒錯的な立場が、その態度が晶をエスカレートさせていく。
 晶の頭も興奮と快感で一杯になっていった。

「まだ上げきっていませんよ、先輩」

 催促する。
 スカートはまだ膝上10cmにまでなったばかり。
 秋葉は観念したかのように、熱くねっとりとした吐息を吐く。
 そしてまたゆっくりと持ち上げる。
 見えるのは薄く茂った恥毛とぬれぼそった股間――まるで何かを塗りたくっ
たかのようだ。

「ちゃんと履いていませんね」

 秋葉が下着をつけていないことを確認すると、すごくうれしそうに笑う。

「きちんと言いつけを守ったご褒美です」

 そして軽くキスをする。
 秋葉は口をひらき、舌をだして求めようとするが、すっと離れる。

「……あぁ……」

 悦楽に突き動かされて、甘く喘ぐ。

「……意地悪はよして……瀬尾……」
「意地悪だなんて……」

 晶はかがむ。ちょうどその目の前は秋葉の秘所で――それがわかると、さら
に秋葉は羞恥のため肌を赤く染める。

「まだちゃんと見てませんからね」

 そういって両手をほほにあて、待ちどおしげに女陰を見る。
 それがなにをせがんでいるのか、なにを命じているのか、秋葉にはわかっ
ていた。
 でも――そうする自分の姿を脳裏に浮かべるだけで、恥ずかしくて泣きたく
なってしまう。
 それでも、逆らえなかった。
 秋葉はスカートを口にくわえ落ちないようにすると、そっと自分の手を秘所
に伸ばす。
 そして茂みをかきわけ、白くほっそりとした人差し指と中指で、オンナを開
いた。
 むせかえるような、クラクラするようなオンナの匂い。
 真っ赤な淫花が、見事に咲き誇っていた。
 花弁の上にはぷくりと充血して皮から頭を覗かせている真珠があり、熱く火
照っていた。
 そして花心の奥から、とろり、と蜜があふれてくる。
 花弁を抑える指先は羞恥と歓喜と被虐にふるえ、そのままぬめりをおびた花弁
をいじりそうである。
 でも晶は許さない。
 まだ、いじってよいとも、触れてよいとも言わない。言ってくれない。
 ただ広げて、見せるだけ。
 ――だから秋葉はただ頭が沸騰するような羞恥と悦楽の中、震えて待ち続けていた。

 ぶるん、と震える。
 晶がオンナに息を吹きかけたのだ。

 それだけでジンジンとした甘い疼きが背筋を駆け抜ける。
 またとろりと蜜があふれ、そして雫となってこぼれ落ちる。
 とろとろとあふれかえる蜜に太股は濡れ、艶めかしい。
 淫欲にわななくソコはどろどろとしてわななき、甘く淫らに誘う。
 ――でも触れてくれない。許可も与えてくれない。


   なんて酷い


 と秋葉は官能に痺れた頭の片隅で考える。
でもそれを考えるたびに、ひどいと思うたびに、躰に歓喜が走る。
 恥ずかしいはずなのに、イヤだと思うのに。
 なのに、ぞくぞくとした甘い愉悦が、脳髄と神経を沸騰させ、溶かしていく。
蕩していく。
 秋葉の躰の奥のオンナが淫蕩に、歓喜に呼応して指の先まで痺れさせていく。

 そして晶はそっと性器に手を伸ばす。
 ようやくくるという期待に、悦びに花弁が蠢く。
 しかし、爪先のふれるかふれない程度のかるい刺激で――逆に飢えを覚えてしまう。
 貪欲に快楽を求めて、神経がスパークする。
 乳首がたち、張って痛い。それほど興奮している。
 なのに――求めても、晶はくれない。
 切なくて声が漏れていた。
 よがり泣きそうだった。
 オンナの疼きが喘ぎとなってもれていく。

「……お願い……瀬尾……もっと……きちんと……」

涙がこぼれ落ちる。
触れられてもいない。
だた見られているだけ。
ただ息をかけられただけ。
なのに、こんなにも感じていた。
恥ずかしさが、心を灼く。
悦楽が、理性を灼く。
こんなにも脆い理性。
恥らいつつも耐えがたい快感によがり泣くしかないというのに。

でも晶は爪の先で微弱な快感を与えてくれるだけで。
脳髄が沸騰する。
狂おしいほどの渇望。
快楽を求める淫蕩な牝の本能。
なのに、与えてくれない。
そんな惨めで淫らな姿を強要するというのに。
与えてはくれないのだ。

 すると晶はすくっと立ち上がる。
 人懐っこい、でもイジワルな笑みを浮かべていた。

「ここまでです、遠野先輩」

その言葉が最初わからなかった。
悲鳴に似た何かがもれそうになる。
頭が、神経が、魂が、心が、それしか求めていないというのに。
目の前の人が与えてくれる愉悦しか、求めていないというのに。
なのに、この目の前の人は――なんて酷い。
 気が狂いそうだった。

「この続きは今晩、消灯時間が終わった後――ここで」

にっこりと笑う。でも少し怯えたような小動物の笑み。

「あ、でも絶対にいじってはいけませんし、また履いてもいけませんからね」

なんて――酷い。
秋葉は被虐にただ震えるばかり。

「きちんと守ったら――」

とたん、艶やかな、秋葉の心に住む女の貌に変わる。その瞳に、その唇に、その声に、秋葉は縛られる。
言いつけを守るしか、秋葉にはなかった。

「明け方まで、気を失うまで、幾度でも――ね、淫乱な遠野先輩」

そういってカバンをもって晶は出ていってしまった。
とたん、へなへなと座り込んでしまう秋葉。
 髪が乱れ、顔を紅潮させ、荒い息をし、火照った躰の中で荒れ狂うオンナを鎮める手段がなく、狂おしいほどに乱れた姿であった。
 残るは恥辱と悦楽と――そして期待だけ。

 秋葉はただそっと唇を噛みしめる――しかしそれは被虐の悦びと今晩の期待にわなわなと震えていた。




                                    了
                              20th. May. 2002
                                    #28


あとがき

 なんて――酷い。
 ここで終わるだなんて、なんて――酷い、と思った人ごめんなさい。
 最後までいかないところに今回美学を求めてしまったので(笑)
 希望があれば、この後もきちんと書き、MoonGazerさんに寄稿させていただきますので(笑)
 あ……古守さんの30,000hitのリクエストにこの話の続き、というのもあり……かな?
 それは……なんて――酷い(笑)

                                      《つづく》