「えっ?」
驚いて、琥珀は目線を下に落とした。
やんわりとさっきまで侵入者を拒んでいた関門が消え失せていた。
ほとんど抵抗も無く、指は谷間の奥へ迎え入れられた。
琥珀の秘処は気がつかぬ間に開き、異性を迎え入れられる体勢を整えていた。
琥珀の指は直接粘膜に触れ、そしてとろとろになった粘液に塗れた。
「なんで、濡れてる……」
もう、下に少し垂れている。
「ふうん、濡れてるんだ」
「あ、志貴さん」
幾分身を乗り出して志貴がその様を見ていた。
かあっと琥珀の顔が紅く染まる。
「俺の見て、そんなになっちゃったのかな?」
「え……」
「そうか、琥珀さんはオカズがないと出来ないタイプなんだね」
「オカズですか?」
「うん、写真とかビデオとか、下着とか。オナニーの時、そういうのがあると
興奮したり、感情移入しやすくなったりするんだよ。
琥珀さん、ただ指で触った時と比べて全然違っているでしょ。そんなにお気
に召したかな、これ?」
「ち、違います。ただ……」
ただ、何だろう。
志貴の裸の姿を見て、自ら怒張を刺激する様に激しく興奮したのは確かで、
それは志貴にもばれてしまっている。
言い訳のしようもなかった。
これ見よがしに志貴は怒張を誇示し、それを見ると琥珀の思考能力は低下す
る。
「じゃあ、志貴さんはどうなんです?」
「俺?」
「わたしがいなくて、お一人でなさっていた時には、その……オカズは何を」
逆襲に転じようとしたが、質問をする側が恥ずかしがってしまう。
「何も使わなかったよ。琥珀さんの事考えるだけで充分だったし。琥珀さんが
してくれた事とか、した事とか。今度会ったらどうしようかなとか考えるだけ
で、凄く興奮したから」
平然と志貴は答えた。
それを聞いて、琥珀はさらに真っ赤になる。
そんな様を少し頭に思い浮かべて、顔を隠してしまいそうなほど恥ずかしさ
を感じる。
「なんで、そんな事平気で言えるんです」
「別に、他人に話してる訳でもないし。やっぱり男と女だと羞恥のツボが違う
のかな。
琥珀さんの事想ってしたのって、俺は全然恥ずかしくないけど、琥珀さんは
嫌かな?」
「嫌では……、ちょっぴり、嬉しいような恥ずかしいような……」
視線を落としがちになる琥珀の視界の端で何かが動いた。
志貴がまた、ペニスを擦りたてていた。
知らず揺れるペニスに琥珀の目は引き寄せられていた。
「頭の中の琥珀さんだけでも相当なものだったけど、本物を目の前にするのは
凄く贅沢だね。まして、琥珀さんが目の前で可愛い姿を見せてくれるときたら」
「はい……」
軽い指示を含んでいるのを察して琥珀は泊まっていた指の動きを再開した。
さっきより抵抗なく、琥珀は指を這わせ始めた。
ぴちゅと水音が指に絡む。
恥ずかしさを抑えて、志貴を見た。
志貴も熱っぽい目で自分を、快感を指で探求している自分の姿を見ている。
そして、その興奮を露わにしてるペニスを自らの手でしごいている。
体が熱くなる。
その熱に急かされるように、指をさらに激しく動かす。
志貴の前で恥ずかしい姿を晒している事で、琥珀は興奮していた。
恥ずかしくて堪らないのに、もっともっと見て欲しかった。
どれだけ薄紅の柔肉が充血しているのか。
どれだけとめどなく蜜液が洩れているのか。
どれだけ自分の指が、そこを弄っているのか。
そして、志貴のペニスをうっとりと眺める。
さらに大きくなっているみたい。
あんなに先端が膨らんで、手が動くたびに皺になったり伸びてみたりして、
先端の傷穴からとろみのある透明な液を滴らせて。
志貴の手が驚くほど滑らかに動いて、自分のペニスを擦りあげている。
それを見ていると、琥珀は欲情の度合いを深めていった。
志貴も同じなのかと琥珀は思った。
見られる、そして見せる事への羞恥と快感。
相手の姿を見る事による興奮。
もはや琥珀には自分で手を動かしているという感覚はなかった。
まるで志貴に操られているように、あるいは志貴自身がその手を取っている
ように、指が手が自然に動いていた。
片手は胸に伸びていた。
硬く尖った乳首を人差し指の先で突付き、擦る。
じんわりとした刺激を感じながら、親指も添えて摘み、転がす。
志貴にそうされる時は舐められたり、甘噛みされ吸われていると思い出す。
試してみるまでもなく、自分で乳首を舐めるのは無理があった。
代わりに、舌を乳首に差し向け、たらりと唾液を垂らす。
乳首の先に垂れ落ち、少し不安定に留まり、さらに下へとぽたりと落ちてし
まう。
にちゃと指を濡らしぬめらせつつ乳首を弄んだ。
さっきまでとは違う感覚。
右手はそのまま、花弁を弄っていた。
しとどに濡れたそこは、すっかり蕩けていた。
手で軽くなぞってやると、聞き分けよく従い、左右へと開いてしまう。
太股は大きく開かれて、そちらに引っ張られてもいる。
もはや殊更に手で開いて見せなくても、存在感を増した肉芽も、粘膜も、複
雑な形状の襞の重なりも隠すものはなく露わになっている。
琥珀の指がかすめる度に、志貴の視線を感じるたびに、その襞からは蜜液が
滲んできて露となってこぼれ落ちる。
「ああっ、ッッ……」
切羽詰ったような声。
中から弾けるような快楽の高波に揺られつつ、琥珀は視線を上げた。
ああ、と琥珀は思う。
いつの間に志貴さんの事、忘れていたんだろう。
意識がそちらへ向く。
志貴が苦痛に耐えるような顔をしている。
どこか、加虐心を刺激する表情。
上気した顔、これは、琥珀は良く知っていた。
それを見て、琥珀の中のスイッチが切替った。
さっきまでの、志貴を見る従属者の目とは明らかに違う光を湛える。
「志貴さん」
「うッ、琥珀さん」
「イッてしまわれるのですね」
「う……」
「わたしにあさましい真似をさせて、それをお楽しみになられて、そして自分
だけ先に」
喜んでいる。
琥珀は見て取った。
琥珀にそう言葉で軽く嬲られながら、志貴はいっそう激しくその手を動かし
ている。
「だって……」
「何です?」
「琥珀さんがそんなにいやらしいから」
琥珀の中でも何かが弾ける。
しかしそれに耐え、言葉を紡ぐ。
それは志貴には壮絶なまでに、艶然たる表情となった。
「もっといいのを見せて差し上げますよ」
「いいもの?」
「もう少し我慢なさってくれれば、わたしも、もう限界……」
「琥珀さんもイキそうなの」
「ええ。わたしが自分の指で初めてイクところを見ながら、どうですか志貴さ
ん?」
志貴が息を呑むのがわかった。
志貴の手は多少緩やかに放ったが止まらない。
体の今の状態を崩してしまったら、それがたとえ手を止めて自ら生み出す快
感を消す事でさえ、最後を迎える契機になってしまうとでも言うように。
ただ、顔に苦悶の色を浮かべ、体を震わせて、しかし琥珀の姿を瞬きも惜し
いと言うように見つめている。
自ら性器を擦りたて、それでいながら必死に絶頂を迎えるのを堪えている。
第三者から見れば笑い出すような馬鹿な状況であったが、志貴にとってはそ
れは真剣な問題だった。
そして琥珀にとっても。
琥珀も、今は秘裂で両の手を濡らしていた。
右も左もなく全ての指が、粘膜を軽く爪弾くように擦り、肉芽を包皮ごと押
し潰し、捻りしごく。
ぬめぬめとして摘みにくい花弁を引っ張ろうとし、そして指を膣口からずぼ
ずぼと挿入させ、中を抉るように動かす。
その指の一本一本に体を狂わせながら、琥珀の意識は今は志貴に向けられて
いた。
志貴の熱い視線。
そして志貴の姿。
快楽に耐えている表情。
歪み歯を食いしばり悶えるその様。
それは志貴の言うところの、何よりのオカズとなっていた。
志貴さん、もっと見てください。
わたしより先に言ってしまって下さい。
どうですか、こんないやらしい姿は?
左手の膣口への動きはそのままに、右手が交替する。
ぎゅっと肉芽の包皮を一気にめくってしまう。
志貴がすりあげているペニスにも似た形状の肉芽が志貴の目に曝け出された。
真珠のように光る肉芽はすっかり勃起しきっていた。
琥珀の指がそれを直接摘み、しごいて見せた。
ぶるぶると震え、あまりの刺激の強さに琥珀もまた身悶えする。
「琥珀さん、もうダメ。そんなの見せられたら……」
それでも、志貴がなんとか面目を保った。
あまりに強く握り締め、熱い奔流が堰き止められたのか。
その精液の量の多さ故に、尿道管を詰まらせたのか。
「志貴さん、ああッッ、ああああぁぁぁッッッッッ!!!」
先に絶頂を迎えたのは琥珀だった。
圧倒的な快感。
体が痺れ、びくびくと跳ねた。
白い喉がまっすぐに伸び、そして体の反りが戻る。
手を、霧状に吹き上げた蜜液が゛ちゃびちゃと濡らす。
同時に、志貴もまた、激しく精液を迸らせた。
かろうじてそのままだと琥珀を精液まみれにしまうと、体を捻るのがやっと。
それでも、琥珀の足にねっとりと白濁液が弾けた。
激しく射精し、膝で立っていた体勢が崩れる。
ぺたんと腰を落としてしまった。
満足げな表情で、まだペニスを握ったまま。
琥珀は放心したまま、その熱い志貴の快楽の結晶に指に伸ばした。
ねっとりと糸をひくそれを指に絡める。
そして、まだ剥き出しにしたままの自らの肉芽に塗り立てた。
ぬめぬめと。
その白濁した粘液に彩られた様は、さながら琥珀もまたその小さなペニスか
ら射精を行ったかのように見えた……。
◇
「どうだった、琥珀さん?」
「凄かったです」
「そうだよね」
「志貴さん、一人でこんな事なさっていたんですね」
幾分複雑そうに志貴は苦笑してかぶりを振る。
えっと不思議そうな顔をする琥珀。
「さすがに、あんなに凄くはないよ。一人ならもっとあっさりしたもんだよ」
「そうなのですか?」
「まあね。琥珀さんの事で頭をいっぱいにしながらすると、少しは慰めになっ
たけど。
やっぱり本物に会いたいなあってちょっぴり虚しくもなったしさ」
「そうだとすると私が今したのも、正確には自慰ではないのでしょうかね」
「うーん、どうだろ。二人で見せっこしたから、普通とは違うかな」
「そうですね、志貴さんの視線を感じたり、志貴さんの姿を見ていたからあん
なに……」
思い出したように少し遠い目をする琥珀。
そして表情を変えて、ふふふと小さく笑う。
「どうしたの?」
「今度、もしまた志貴さんの顔が見られなくて寂しくなったら、試してみよう
かなって思いまして。素敵な……、ええとオカズでしたっけ、頂きましたし」
「オカズ?」
「志貴さんの身悶えなさったお顔とか声とか。可愛くていやらしくて、思い出
しただけでどうにんなってしまいそう……」
「うう、忘れて欲しいなあ」
「そうしたら、もう一回見たくなって志貴さんとしてる時に、少し焦らして苛
めて再現しちゃいますよ」
「それなら俺も、琥珀さんのこと苛めちゃおうかな。途中でやめたり、逆にや
めてって言われてもそのまま琥珀さんがおかしくなっちゃうまで、激しくした
りとかね」
まんざら冗談ではなさそうな口調で志貴は呟く。
琥珀は、むしろ嬉しそうに答えた。
「それは、怖いですねえ。でも、志貴さん、当分わたしは一人で慰めなくても
良いと思うんです。志貴さんもひとりで寂しくなさらなくてもよろしいのでは
ないですか?」
「今は離れずに一緒だもんね」
「そうです。今はわたしの傍に志貴さんが、志貴さんの傍にわたしがいます」
「そうだね、本物の琥珀さんがいるよね」
互いの視線が柔らかく絡み合う。
「お試しになってみませんか? お一人でどんなに気持ちよくなられても、本
物には敵わないんだって事を教え差し上げますよ」
「うん、琥珀さんにも自分でやった方がいいですなんて思われたら困るし。い
いかな?」
「はい、もちろんです」
どちらともなく身を摺り寄せる。
そして、二人はゆっくりと体を重ねた。
それだけで達してしまいそうな表情を見せ合いながら。
普段よりもいっそう飢餓感を見せながら。
なんだか既に一戦交えたような気すらしていた志貴と琥珀の、それは、今日
互いに触れ合う初めての行為だった。
《FIN》
―――あとがき
書き始めは最初だったのですが、出来たのは三番目。
なんだか、琥珀さんで書いているといろんな意味でのめり込んでいきます。
今回は馬鹿SSのつもりだったんですが……。
二人で見せっこオナニーなんて、馬鹿プレイの極みだと思います。少なくと
もSSに書く行為としては。あんまり盛り上がってくれないし。
だからか、なんだか自分で書いてみて、不必要にえっちぃ方へ行こうとして
るのが見えて、げんなり。だいぶ舵取り失敗といった印象です。まあ、枯れ木
も云々という事で。
お読みいただいてありがとうございました。
by しにを (2002/7/25)
|