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帰還

          You

 遠野家の離れ、
 薄暗い部屋の中、
 聞こえてくるのは、
 嚥下する音。

 薄暗い部屋の中、うきでるような白く柔らかいふくらみから、艶かしく光る唇が離れる。
 残るのは赤い、痕。

「ありがとう琥珀」
 その声は赤く光る唇から発せられた。

 反転の衝動を抑える為に、琥珀の共感能力の世話になる秋葉。

 
 はだけた着物を直しつつ、琥珀は思う。

 秋葉様は今日も、するのだろうか……

 秋葉様は口に出さないですが、
 こんな血の猛る日には、私の能力だけではとても我慢できないらしい。

 反転衝動は、心理学で言うところの『欲求に対する四つの合理的処理』のうち、

 『克服』(原因の克服)
 『回避』(問題を回避、別方向からの対処)
 『延期』(時間をおいての解決)

 の三つでは対処できない為、残りの一つ

 『代償行為』(欲求を置き換えて代償的に要求を満たす)

 に頼らざるを得ない。
 秋葉様はその代償行為により、かろうじて反転の衝動を押えている。

 秋葉様は気付いていない。
 私の能力、『共感』。
 秋葉様と共感する事は、私も秋葉様からのフィードバックを少なからず受けるという事を。
 反転衝動は、遠野家の血の問題ですから、私にその衝動が起きる事はなく、
 「ちょっと、イライラする」くらいで済むのですが、

 秋葉様が反転衝動を抑えるために行う代償行為。
 あれは駄目です。



「琥珀、私は部屋に戻ります」

 落着いた(様に見える)秋葉様は離れを出て、屋敷に戻る。

 私も部屋に戻りましょう。
 外してあった割烹着を手早くたたみ、離れを出る。

     §          §

 部屋に戻るとあの感覚が…、
 琥珀のものではない感覚が浸透してくる。
 
「あっ」

 先刻、秋葉に吸われた胸の辺りが熱を持ち始めた。

「秋葉様、始められたみたいですね」

 段々強くなる感覚をこらえ、ベッドの縁に腰をおろす。

「んっ、は、あっ」

 もどかしいような感覚は、胸から背筋をゾクゾクと駆け下りる。
 たまらずのけぞった琥珀は、そのままベッドに仰向けに倒れこむ。

 もう下腹部に熱い『何か』が、わだかまっている。
 そっと着物の合わせから手を差し入れ、秋葉のつけた痕をなぞる。

「やっ、はあう」

 痺れるような快感。
 そのまま自分の乳房を掴む。
 もう一方の手は、切なく擦り合わせている太腿の内側へと向かうと、熱くなった箇所を指で触れる。

「んふっう」

 反射的に嬌声がもれる。

「もう濡れてる」

 その言葉通り、裾から出した琥珀の指に、部屋の明かりが妖しく反射する液体がべっとりと付着している。
 自然と指は内股に戻り、動き出す。

くちゅ、ぬちゅ

 着物の奥からの音は、かなり大きい。
 合せから差し入れる手だけではもどかしくなり、皺になる事も考えず乱雑に着物を脱ぎ捨てる。
 しなやかな肢体が露わになる。

 そして、また指が動き始める。

「やっ、はぁっ。すご、い」

 今この時、秋葉も琥珀と同じように部屋で悩ましい声をあげているのだ。

 秋葉様。何を思ってるんでしょう。
 きっと志貴さんの事ですね。

 だって、
 こんなに感覚が高ぶってる。

 志貴さんが屋敷に来る前には、こんなになる事なんて無かった。
 志貴さんが来た時から、段々激しさ増している。

 この指は志貴さんの指、
 この行為は志貴さんの行為。
 そう考えると、自然と動きが速くなる指。

 くちゅくちゅっぬちゅっ

 指の動きに合わせて音も大きくなってゆく。

「もう・・・ああっ、
 だめっっっっ」

 肩を震わせて、達する。

「はー、はーっ」

 呼吸をするのも辛い。

 しかし琥珀の指は、余韻を味わうつもりの心とは裏腹に、敏感になっている身体を前よりも『もっと、もっと』と攻めたてる。

「やあぁ、
 止まらない。
 感覚が、あっ。
 鋭くなっているのにぃ。
 これじゃまた、すぐ に、きちゃ、ああっ」

 二度目、達してしまっても止まらない。
 身体は益々熱くなり、手は激しく動く。

「あ、きは、さま。もうっ私、おかし、く、なっちゃ――――」


今日の夜は―――――

長い―――――。

     §          §


翌朝

「おはよう。ひしゅいちゃん」

 翡翠と顔を合わせた琥珀さんは挨拶をする。

「ね、姉さん。どうしたんですか?」

 翡翠がうろたえる。
 それもそのはず。
 琥珀の目の下にはくっきりとしたクマができていた。

「昨夜ちょっとね。
 大丈夫だから、翡翠ちゃんは志貴さんを起こしてきて」

 翡翠は時々心配そうに振りかえりながら志貴の部屋へと向かう。

「さあ、秋葉様を起こさなくては。
 でも、今日はなかなか起きてくれないかもしれませんね。
 何しろ一晩中でしたから」

「ふぁ〜あ」
 琥珀は大きなあくびをして、眠たい目を擦りながら、自分と同じようなクマができているであろう秋葉の部屋へ向かった。


 
                                          


あとがき。

 御付合い頂きありがとうございます。
 私、youの初めて書いたHなSSです。
 すっげぇ恥ずかしいですね、こういうの……

 かなりの御意見がおありかと思いますが、
 これでも精一杯やらせてもらいました。勘弁して下さい。
 
 このSSの『共感の能力』のフィードバックは、私の勝手な想像です。
 志貴の魔眼は本人に負担が大きいし、遠野家の能力は反転衝動がある。
 大きな能力には何らかの副作用があるはず。
 だけど、ヒスコハには副作用が無いなぁ。
 と思ったのがこのSSのモトです。

 あと、「ひしゅいちゃん」は別に狙ったわけではなく、
 普通に「翡翠ちゃん」と書いたつもりだったんですが、気付いたら入力されていたんです。
 なんか気に入ったんで直さないでそのまま使いました。
 
 それでは失礼。