ズキズキズルズル

 ……………い

ズキズキズルズル

 …………たい

ズキズキズルズル

 ………いたい

ズキズキボロボロ

 ―――――なんだろう……………

ズキズキボロボロ

 何かが崩れるような音……………

ズキズキザラザラ

「っつ………ぁ」

ズキズキボロボロ

 声がした……………
 ―――――でも、誰の?

ズルズルボロボロ

 痛い。すごく痛い。
 この音は何?どこからするの?

ズキズキザラザラ

 すごく近くから聞こえてる………
 痛い。気が遠くなりそうなくらい痛い。

ザラザラボロボロ

 ―――――わたし?
 わたしの体から、音がしてる……………
 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い―――――

ズキズキズルズルズキズキボロボロ

 ………………ん、……………て

ズキズキズルズルズキズキザラザラ

 ……………くん、…………けて

ズキズキズルズルズキズキボロボロズキズキザラザラズキズキ…………

「………遠野くん、………助けて」





『この声を...』

春鐘





 背中が冷たい。

――――痛い。

 何かヒンヤリした固いものの上に寝ているみたい。

――――痛い。

 なんだろう……錆びた鉄みたいな臭いがする。

――――痛い。

 そうだ、家に帰らないと……


 ―――――それにしても。
 ―――――どうしてこんなに、体中が痛いのか……………


 起き上がろうと力を入れた途端に、

「っあ!?…………ぁ」
 
 それまでの痛みなんて話にならないくらいの激痛が走った。
 少し動かすだけで、死んじゃいそうなくらいに体中が痛む。
 手を着こうと動かした腕はギシギシと軋み、立てようとした脚はズルズルと地面を擦るだけで、ちっとも思ったとおりに動いてくれない。
 でも、どうしてだか、ここにこれ以上いてはいけない気がした。
 だから、もう一度。

「ふっ…………く……ぅ」

 やっぱりダメ。ちゃんと動かない。
 痛い。すごく痛い。

 それくらいなら、動かしても痛くなさそうだったから。
 ゆっくりと、目だけを開けた。
 開いた瞼の隙間から青白い光が入ってくる。

「ぁ……………」

 わたしを囲むようにして聳え立つビルに切り取られた空は四角くて、その夜色のキャンバスに、蒼い月が窮屈そうに輝いていた。
 首を動かすと痛いから、目だけを動かして辺りを見る。
 どこかの路地裏のようだった。
 でも、なんでわたしはこんなところにいるんだろう……………

 ―――――そういえば、わたし、なにしてたんだっけ?

 たしか、お昼休みに話したときは■■くんは違うって言ってて………
 でもやっぱり気になって、■■くんを探しに街に出て………
 それで、■■くんによく似た人を見かけて………
 それから………
 それから…………………

ズキズキジクジクズキズキボロボロ……………

「っ!?………ぁあ……………」

 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い―――――
 ……………涙が出てきた。
 まだ秋だって言うのに、そういえばひどく寒い。まるで冬みたい。
 それに、あれだけ綺麗に月が出てるのに、どうしてこんなに暗いんだろう。

 ―――――俺に出来る範囲なら、手を貸すよ。

 不意に。
 誰かの言葉を思い出して、
 誰かの笑顔を思い出した。

 そうだ、■■くんなら……………
 あれ?■■くんって誰だっけ……………
 とっても大切な人のはずなのに、名前が出てこない。
 それどころか、こうして必死に思い出そうとしている間にも、顔まで忘れそうになってる。
 でも、それはダメ。忘れちゃダメ。
 痛いのも、寒いのも、暗いのも、寂しいのも、恐いのも。
 ■■くんなら助けてくれる。
 だって、約束したんだもん。だから、思い出さなくちゃ………

ズキズキジクジクズキズキボロボロ……………

「っつ………ぅ………」

 ダメだ。
 痛くて考えられない。
 無理だ。
 寒くて思い出せない。
 助けて。
 恐くて耐えられない。
 こんな暗いところには、もう一秒だって居たくない……!

 つ、と自分の頬を涙が落ちていくのを感じる。
 ザ、と意識にノイズが走り。

 ―――――ねえ、痛いよ…………

 まるで、何かに上書きされていくように。

 ―――――寒いの……死んじゃいそうなくらい…………

 知らない言葉が流れ込んで。

 ―――――寂しいのは嫌だよ……恐い………独りにしないで…………

 誰かの顔が。

 ―――――暗いの………助けて、遠野くん…………

 浮かんで消えた。


◆ ◇ ◆


 ビシャリ

 水の弾けるような音。
 くぐもった、踏み潰された蛙のような声。
 手には、生温い感触。
 零れそうになる“それ”を口に運び、コクコクと飲み下す。
 途端に。
 体中の痛みが和らいだ。

 ―――――体組織ノ崩壊
 ―――――陽光ニ因リ加速
 ―――――修復セヨ
 ―――――摂取スルコト
 ―――――生物ノ遺伝情報

 頭の中を流れる言葉。
 目の前に転がる、人“だった”モノ。
 赤い。朱い。紅い。
 赫く濡れた両手を見ながら、突然、自分が何をしたのかを理解した。

「ぁ………う、そ………」

 人間って、こういう時は意外と声が出ないものなんだ。
 そんなつまらないことを考えながら、必死に目の前の惨状を否定する。

 違う。
 ソレはわたしじゃない。
 違う。
 コレもわたしじゃない。
 違う。
 わたしがやったんじゃ、ない―――――

 でも。
 じゃあ、今この手にあるのはなんなのか。
 今飲み込んだのはなんだった?
 そこに転がっている、中身をコンクリートにぶちまけているモノは?
 誰も居ないこの場所で、
 わたしじゃないと言うのなら。
 誰が、この人を 引き裂いた のか。
 喉の奥が熱くなってくる。
 何か、酸っぱいものがこみ上げて、堪らずそれを吐き出した。
 途端、体中の痛みが戻ってくる。

「ひぃっ!?」

 後ろから、掠れた悲鳴。
 振り返れば。
 スーツ姿の女の人が、こっちを見ながら顔を強張らせていた。
 足が竦んでしまったのか。
 そこから一歩も動かないまま、近づくわたしを血走った目で見ている。
 引き攣った顔のまま、

<た、たす、たすけて……ぉねがい、助けてっ!!>

 その人が何かを言った。
 でも、よく解らない。
 とにかく、この痛みを抑えるために、この人を、―――なきゃ。

 ゾブリ、という感触。
 騒がれると困るから、空いている手で口を塞いで、一息に胸を貫く。
 その、惨状を。
 どこか他人事のように見つめながら、わたしの意識は、冥い闇へと沈んでいった。


◆ ◇ ◆


 話し声。
 聞き覚えのある声が、二つ。

<いた―――い。やっぱり、お腹が減ったからって無闇に吸ってもダメみたい。
 質のいい、キレイな血じゃないと、体に合わないのかな―――――>

 これは、わたしの声だ………
 じゃあ、今話しているのはワタシの方か……

 ――――コホコホ

 痛い。声が漏れる。
 ごふり、という、何か温かいものを吐き出す感じ。
 赤い。咳が赤い。
 少しだけ、わたしが戻る。

「おい……苦しいのか、弓塚……!?」

 また、声がする。
 なんだろう――――ひどく、懐かしい………
 あ、誰かが近づいてくる……
 あれは…………
 ――――そうだ、志貴、くん、だ。
 嬉しい。私を探してくれたのかな……
 でも、きっともうすぐワタシになっちゃう。

「――――だめ!近寄らないで、志貴くん!」

 近寄らせるわけには、いかない。
 きっとワタシは、彼を傷つける。

「……ダメ、だよ、全然大丈夫じゃないよ、志貴くん」

 ―――――なに、を。
 そんなこと、言ったら…………

 ――――はあはあ

 赤い吐息。
 痛くて、
 寒くて、
 暗くて、
 恐い。

 志貴くんが、何か言ってる……
 でも、よく、聞こえ、ない――――

「弓塚――――そっち行くけど、いいな?」

 それだけが、いやにはっきりと聞こえる。
 でも、それはダメ。
 苦しくて。
 うまく、声が出ない。
 だから、必死に首を振る。
 なのに。
 彼はまだ、わたしに近づこうとする。
 どうしてわかってくれないのか。
 それ以上来られたら、きっと、ワタシは…………

 赤い呼吸。浅く、速く。
 苦しい。
 志貴くんの顔に浮かぶ恐怖と困惑が、はっきりとわかる。
 そんな顔、しないでよ――――
 そんなに恐いなら、どっか行ってくれていいのに――――
 志貴くんが、何か言ってる。
 わたしも、何か返事をした。
 ダメだ。
 もう、ワタシが出てきちゃう。

「……痛いよ、志貴くん」

 ――――あ………
 言っちゃ、ダメ………

「……痛くて、寒くて、すごく不安なの。ほんとは、今すぐにでも志貴くんに助けて欲しい」

 言っちゃ、ダメ、なの、に………

<けど、今はまだ、ダメなんだ>

 ワタシの声。
 唐突に、切り替わる。
 何かを言うワタシの声が、ものすごい速さで遠くなっていく。

 ――――ああ、また、わたしは………

 あの暗がりへ、落ちていくのか。

 ――――嫌だなぁ……
 ――――あの場所は………
 ――――暗くて、寒くて、寂しい……から…………


◆ ◇ ◆


 声。
 志貴くんの、声。
 私の名前を、呼んでくれてる。
 苦しい。
 足音が、近づいてくる。
 ――――それは、ダメ。

「待って―――――!」

 今近寄られたら、何をするかわからない。
 だから、嬉しいけど、今は、ダメ。
 もう、わたしは大分ワタシに消されちゃった。
 今喋っているのがどっちなのか、それももう、よくわからない。
 志貴くんが何か言ってる。
 ワタシと何か喋ってるみたい。

<ね。志貴くんはわたしのこと、好き?>

 唐突に、掠れた意識がそれを拾う。
 それで漸く。
 さっきから聞こえていたワタシの声は、わたしの言葉を話していたのだと理解した。

「――――正直、俺にはわからない」

 志貴くんの声。
 一言。二言。三言。
 そして、

「きみのことが、好きなんだと、思う」

 それを、聞いた。
 頭の中が真っ白になって、わたしも、ワタシも、思考が止まる。

「―――――、だ」

 嬉しくて、哀しかった。
 ずっとずっと好きだった志貴くんが、わたしのことを好きだって言ってくれた。

「―――――そんなの、やだよ」

 声が漏れる。
 それはきっと、わたしの声。

「だって、そんなの――――わたし、ばか、みたい」

 否定の言葉。
 拒絶の言葉。
 もう戻れない、わたしの言葉。

 ワタシの声が、わたしに響く。

 ―――――“あなた”が戻れないのなら

 ごふり、と。

 ―――――彼がこちらへ来ればいい

 熱くて冷たい、赤い塊を吐き出して。

 ―――――好きだと言ってくれたのだから

 響く、ワタシの囁きと。

 ―――――助けてくれると言ったのだから

 歯を突き立てるその感触に。

 ―――――『わたし』と一緒に来てもらおう………

 境界が、空ろになっていった。


◆ ◇ ◆


 途切れ途切れのわたしの意識。
 そこに、ワタシの困惑が伝わってきた。

「……弓塚。きみは苦しいって言ってた」
<―――。――――、――――――。――、――――。>

 微かに響く、志貴くんの声。

「……痛いって、言ってた」
<――、――――。―――、――――――。――――。>

 どこか悲しそうな音。

「……寒いって、言ってた」
<――。―――、――――。――――。―――、――。>

 遠くでワタシが何か言ってる。

「必死に―――――助けてって、言ってた」

 あはは……志貴くん、優しいなあ。
 けどね、それは無理なんだよ。
 だって――――

<わたしは元のさつきには戻れっこないんだから>

 ワタシの言葉がはっきり聞こえる。
 でも。
 諦めたようなそれは、ほんとにワタシの声だったのか。

 また、志貴くんの声がして。
 また、ワタシがそれに応える。
 そうして、まるでそれが最後だと言う様に、

「――――助けて、志貴くん」

 縋る言葉が、口を衝いた。
 恐いと。
 寒くて、孤独で、不安なのだと。
 助けを求めるわたしの声が、消えそうなほどに、小さく響く。
 答える彼のその言葉は、遠い昔の約束と同じ。
 やっぱり彼は、どこまでも優しい。
 こんなになってしまったわたしを、まだ戻せるのだと信じている。
 でも、それは無理なんだ、志貴くん。
 わたしを助ける方法なんて、もう、どこにも――――

<志貴くんが、わたしの仲間になってくれればいいんだから……!!>

 ―――――何を、言っているのだろうか……
 志貴くんを仲間にする?
 そんなの、だめにきまってる。

 ―――――けれど。
 さっきのあの感触は、
 『わたし』が牙を突き立てたのは、
 いったい誰の喉だったのか………

 もう手遅れだというワタシの声。
 穿った喉は志貴くんの喉だと、わたしに言う。
 それでまた。
 わたしが、ワタシに削られた。
 溶け合うように、わたしがワタシに侵される。

 ―――――さあ、彼をつかまえなくちゃ

 ………いや、だ。

 ―――――ほら、腕を伸ばして掴まないと

 ………やめ、て。

 ―――――ああ、ちゃんとしなさいよ

 不意に。
 ザクリ、と肉を切る音。
 悲鳴が毀れる。
 裂かれた腿が痛い。
 それで、僅かにわたしが持ち直す。

 ―――――そう。じゃあ、わたしがやるわ

 ゆらりと、ワタシが足を踏み出した。


◆ ◇ ◆


 走る。
 ワタシが走る。
 アスファルトを蹴る脚には、とっくに傷なんてなくなっている。
 追う。
 ワタシが追う。
 点のようだった志貴くんの後姿が、どんどん近くなってくる。
 痛い。
 ココロが痛い。
 こんなのは見たくない。
 こんなことが、したかったんじゃない。
 投げた。
 ワタシが男の人を投げつけて、それが志貴くんの背中に当たる。
 嗤う。
 ワタシが嗤う。
 アスファルトに転がった志貴くんに話しかけながら、愉しそうに嗤っている。
 会話の内容なんて、聞きたくもなかった。
 それでも聞こえてきた言葉。

「けどな、それでも約束したから。
――――――俺は別の方法で、おまえを助けてやらなくちゃ」

 そう言って、志貴くんはメガネを外しながらナイフを構えた。
 その意味を理解して、ああ、それもしょうがないか、なんて考える。

 でもね、志貴くん。それじゃあきっとワタシを殺せないよ。
 だって、今のわたしには、あなたの動きは止まって見えるんだから………

 思ったとおり、ワタシに吹き飛ばされた志貴くんが、背中を地面に打ち付けた。
 苦しそうに呻いている彼に歩み寄りながら、ワタシが腕を振り上げる。
 わたしには、もうワタシを止められない。
 できるのは、ただ彼が弄られるのを見てるだけ。
 びしゃり、という音がして。
 ズキズキと。
 痛んでいるのはココロだろうか。
 それとも、腕の傷なのか。

<うそつき―――――!>

 そう叫びながら、ワタシが腕を振り上げる。
 路地裏の壁に叩きつけられた志貴くんは、もう、動けないみたいだった。

 わたしは今から、自分が好きだった人をこの手で殺すところを見なければならない。
 志貴くんを殺して、吸血鬼にして、わたしの仲間にするところを、見なくちゃいけない。
 振り下ろされる腕をスローモーションのように見ながら、そんなことを覚悟した。

 ―――――――けれど。
 殴りつけた、その場所は。
 彼の体ではなくて。
 路地裏の、壁だった。

<うそつき―――――!
 助けてくれるって、わたしがピンチの時には助けてくれるって言ったのに!>

 また、壁を殴りつける。

<どうして?わたしがこんなになっちゃったからダメなの?
 けど、そんなのしょうがないよ……!
 わたしだって、好きでこんな体になったんじゃないんだから……!>

 コンクリートに罅が入って、握った手から血が滲んだ。

<……こんなに痛いのに、こんなに苦しいのに、どうして志貴くんはわたしを助けてくれないの!?
 助けてくれるって約束したのに、どうして―――――>

 何度も、何度も。

<志貴くん―――志貴くんがわたしの傍にいてくれるなら、この痛みにだって耐えていけるのに。
 どうして、どうしてあなたまでわたしのことを受け入れてくれないの……!>

 壁を叩きながら、ワタシが叫ぶその言葉は。

<――――志貴くん、わたし……こんな、つもり、じゃ――――>

 泣きそうなワタシの声が吐き出す想いは。
 いったい、どちらのものなのか。

「……いいよ、弓塚さん」

 不意に、静かな声がした。
 あんまりにも穏やかで、志貴くんの言葉を理解できない。
 今、彼はなんて言ったの?

「俺の血でよければ吸っていいよ。約束だもんな……キミと一緒に、いってやる」

 何かの、聞き間違い、だろうか……
 彼が、わたしと一緒に来てくれると、言っている。
 さっきまで、あんなに必死で拒んでいたのに。
 志貴くんは、いいよ、って、言ってくれてる。

<―――――――ほんとに、いいの?>

 志貴くんを抱き上げて、不安そうなワタシの声。

<だって――――わたし、本当にそうしたいけど、でも―――――>

―――――それをしたら、本当にダメになってしまいそうで―――――

 ワタシが零したその言葉に、わたしは、唐突に理解した。

 こんな体になって、人を殺さなきゃ生きていけないって解ったときも、ただ自分が死ぬのが怖くて殺したんだ。今だって、独りじゃ痛くて死にそうだから、大好きな志貴くんを道連れにしようとしてる。
 つまり、今日まで人を殺してきたのも。
 今、志貴くんの首に牙を立てようしているのも。
 ワタシじゃない。
 わたしだったんだ。
 しょうがないって、どうしようもないって言い訳して。
 痛いのも、怖いのも、暗いのも、みんなワタシに押し付けて。
 だけど自分で死ぬ勇気も無くて、わたしは泣いてるばっかりで。
 みんなワタシの所為にして、ただ、逃げてただけだった。

 だから、

「弓、塚―――――」

 ここからは、

「―――――志貴、くん?」

 ちゃんと自分でやらなくちゃ。

「――――ごめん。俺は、弓塚を助けられない」

 この胸に刺さったナイフが、彼の答えなのだから。
 それにきちんと答えなきゃ。

 思いを綴り、
 想いを渡す。
 まだ、彼の体温がわかるうちに。
 今まで言えなかったことを言って、
 今まで言いたかったことを伝えて。

「――――ごめん。俺は―――――――無力で、最低だ」

 きっと彼は、これからも自分を責めるから。
 わたしは多分、彼の痕になっちゃうから。

「弓――――塚………っ!」

 まだ、言葉を話せるうちに。
 大好きな志貴くんが泣かなくていいように。

「うん、ばいばい遠野くん」



 この、声を...



「ありがとう――――それと、ごめんね」





おわり



 謝辞

 春鐘です。
 最後まで読んでいただき、有難うございます。

 さっちんブーム再燃のようなので、こんな妄想超特急なものを書いてしまいましたが、いかがだったでしょうか。
 以前から、吸血鬼になったさっちんがどんな気持ちで最期にあの台詞を言ったのだろうか、というのがありまして、それを自分なりに書いてみたつもりです。
 ちなみに、ご都合主義なことに二重人格っぽいことになってますけど、私にはこれが限界でした。
 もっと巧い方ならさっちんの心情を掘下げられるんだと思いますが、まだまだ修行が足りませんね。
 がんばります。

 では、阿羅本様と呼んでくださった方に感謝をしつつ。