○○○音頭
                                                   υχε



 「ねーねー、志貴ー!」

 ここは公園。俺を呼ぶアルクェイドの声が聞こえる。俺は、アルクェイドに
走り寄る。

 ……あの、交差点での再会からもうすぐ3年になる。俺たちは、いつの頃か
らか一緒に住むようになった。

 俺が遠野の屋敷から独立して小さな部屋を借り、アルクェイドと共に暮らし
――遠野の屋敷の暮らしと比べれば、決して楽なものではなかった。だが、だ
が何故なのだろう? 俺は今、とても幸せなんだ――。

 「志貴ー、早く早くー!」

 ああ、俺はなんて馬鹿だ。そんなことは…そんなことは考えるまでもないじ
ゃないか。俺は……アルクェイドの笑顔さえあれば、それだけで幸せなんだ―
―。

 「どうしたんだ、アルクェイド?」

 「うん、前にね、とっても面白い歌教えてもらったの。志貴に聞かせてあげ
ようと思って」

 こんな無邪気なところも、アルクェイドの魅力の1つ。前奏らしきメロディ
を口ずさみ、そして……

 「♪ひと〜つひ〜とり〜のひ〜めは〜じめ〜 みぎて〜よことし〜もよ〜ろ
し〜くな〜♪」

 (思考停止)







































 (思考復活)

 な、なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 さっきまでの『ほのぼの〜』かつ『らぶらぶ〜』な雰囲気はどこ行ったんだ
よ! これじゃ一気にギャグモノに成り下がったじゃないか! というか天下
の往来で大声でそれを歌うのはやめてくれ! 街の人たちの視線がイタすぎる
YO!!
 
 「あ、ああああアルクェイド!!」
 
 「♪みっつみてくれこのちむぐぅっ!?」

 とりあえずアルクェイドの口を押さえて近くの茂みに引っ張りこんだ。

 「何するのよ志貴。いつもならこんな時間から私が誘ったら怒るくせに」

 「違うっ! …いや確かにそれはそうだけどとにかく違うっ! アルクェイ
ド、お前いったいどこで、いや誰にそんなの教えてもらったんだよ!?」

 あっけらかんと彼女は言った。

 「え? 妹のところの和服の人だけど。これを歌ったら志貴が喜んでくれる
って言ってたけど、違うの?」

 ……許せん。今日という今日は絶対に許せん。俺のアルクェイドにこんな不
純な歌を教えるなど、天が、地が許しても、この遠野志貴が許さないッ!!

 「アルクェイド。たった今急用ができたから、先に帰って待っていてくれ。
じゃぁな!」

 アルクェイドに言い含めて、

 「ホウキ少女まじかるアンバーァァァッ!!!」

 走り出す。公園を飛び出し、道路を駆け抜け、坂を駆け上がり、邪魔な門を
『殺し』、壁を『殺し』、ドアを『殺し』、琥珀さんの部屋に飛び込む。

 「あらあら志貴さん、お久しぶりですねー」

 「あ、お久しぶりです。……ってそうじゃなくて! 琥珀さん、あんたアル
クェイドになんつー歌を教えてくれたんですかッ!!」

 「あは〜、志貴さん、お気に召しました?」

 「召すわけないだろっ! とにかく、アルクェイドに変なことを教えるのは
やめてくれ」

 メガネを外しながら言ってやる。
 
 「わ、分かりました分かりました、分かりましたからメガネを外さないで下
さい七夜のナイフを出さないで下さいイッてる笑顔を浮かべてにじり寄らない
でくださいっ! 怖いですってば!」

 効果は覿面だ。…さぁ、言うべき事も言ったしアルクェイドの所へ帰ろう。
あいつが待っているんだ。

 ドアを開けて部屋を出……って、ドアがある? おかしいな。


 ・・・回想・・・



 ”走り出す。公園を飛び出し、道路を駆け抜け、坂を駆け上がり、邪魔な門
を『殺し』、壁を『殺し』、ドアを『殺し』、琥珀さんの部屋に飛び込む。”



 ・・・終了・・・


 そうだ。確かに俺はここに来る時ドアを『殺して』入ってきたはずなのに。

 「あはははははははは……引っかかっちゃいましたね志貴さん」

 「『引っかかった』?」

 不吉なモノを感じて振り向けば、そこに琥珀さんがいた。「あの」笑みを浮
かべて。

 「そうですよー。アルクェイドさんにアレを教え込んでおけば、すぐに志貴
さんが飛んでくるだろうと思ってましたけど……まさかこんなにうまくいくと
は思いませんでした」

 ドアを『殺して』まで入ってくるとは思いませんでしたけどね、と付け加え
る。

 「お…俺をどうするつもりだ!?」

 虚勢にしかならないと分かっていても、声を張り上げるしかない。

 「いやですねー志貴さんったら。そんなの決まってるじゃないですか。志貴
さんってば、おクスリの効きが普通の方とは全然違うんですから」

 …………は?

 「秋葉様も翡翠ちゃんも、おクスリの効きは普通の方と変わらないんですよ。
ですから私は志貴さんがいないともう退屈で退屈で」

 実験台なんスか俺。

 「さーせっかく志貴さんもいらっしゃったことですしサクっと逝っちゃいま
しょー! えいっ」

 琥珀さんが笑顔でヒモ(いつの間にか天井からぶら下がっていた)を引くと、
いきなり俺の足下の床がなくなる。

 「…っでも琥珀さんさっきのは字が違うと思うぅぅぅぅぅ………『ドスン』
……痛てて…」

 そんなに長いこと落ちたわけじゃないし、咄嗟に受身もとれたけど、石の床
は硬い。

 「あはー。志貴さん、遠野の座敷牢へようこそ。実験し尽くしたら解放して
差し上げますから、安心してくださいねー」

 …ちっとも安心できない。

 ……ああ、何だか凄く毒々しい紫色のクスリを入れた注射器片手に琥珀さん
がにじり寄ってくるよ……。

 「ああっ!? あ、あ、あ…いやだあああぁぁぁぁぁぁぁっっ!! あああ
あっ! ああああああああああああああっっっっっ!! あああっ!! や、
やめ…これ以上は……ぎゃあああああああああああああああああっっっっ!!!」



                   BAD END

 後書き

 皆様お初にお目にかかります。υχε(ユプシロン・キー・イプシロン)と
申します。読めなかった方、恨むなら私のネーミングセンスを恨んでください
(オイ)。

 …なんというかまあ凄い読む人を選ぶモノに仕上がってしまいました。しか
も私はこういったものを書かせて頂くのは初めてですので、色々とお見苦しい
点もあるかと思いますが、楽しんで頂ければ幸いです。

 それではまた、(書けたら)次の作品でお会いしたいと思います。


  υχε

 追伸:私は2ちゃんねらーではないですよ?(笑)

(To Be Continued....)