Cool?
天戯恭介
〜承前〜
「俺のこと…愛している?」
「ならお前は――私を愛しているか?」
嘘でもいいから言えばよかった…俺、遠野志貴はそのことを…
四年間ずっと後悔し続けてきたのだから…。
そして今も…。
彼女がどうしてDryになってしまったのか…分からないまま。
「俺のこと…愛している?」
「ならお前は――私を愛しているか?」
嘘をつけばよかったのだろうか…言えば有間とはどうなっていたのだろう…
四年間ずっと考えていた…
そして今も…。
有間は何を考えているのだろう。
Siki/
季節は梅雨、じとじととした気候に皆が苛立つ季節
この日は曇りで灰色の雲が繁華街を覆っていた。
その雲を待ち合わせの場所で睨みながら俺、遠野志貴は最後のタバコに火をつけた。
フゥ……
ゆらゆらと頼りなく揺れる煙を見つめまるで自分のようだと自分を嘲笑する。
「く…くく…」
周りの人間がまばらなのをいいことに俺は少し下卑た笑いをこぼす。
タバコを吸い自虐的なことを考えるようになったのは高校を卒業してすぐだった。
まるで嵐のように俺の周りの環境は一変した。
一年前、妹が俺を屋敷に呼び戻した時全てが始まった。
一年前、見たことのない先輩をずっと前からいたと思い始めた時から全てが始まった。
一年前、この目が最強の真祖を殺した時から全てが始まった。
魔眼を行使した殺し合い…。
その最中、自分の秘密を知った。
自分が何者であったかを…
そして全てに決着をつけたとき…。
俺は……。
「志貴さ〜ん」
俺を呼ぶ声…俺は気だるげに吸い終わっていないタバコをもみ消し、
彼女に振り向いた。
「遅いぞ、晶」
俺の視線の先には今の俺の彼女、あの時から髪を伸ばし始めた瀬尾晶がいた。
Akira/
私よりも四つ上のこの人とはある事件で知り合った。
あまり多くは語りたくないけど、あの時の志貴さんの蒼い瞳に私は心奪われた。
―ああ、この人になら殺されてもしょうがない―
と、思うほどに、私の心は一瞬にして遠野志貴に支配されてしまった。
今日は珍しく志貴さんが洋服屋を周るのに付き合ってくれる。
いつもなら
「めんどい…」
とか言って付き合ってくれないのに。
青いYシャツに黒いズボンというシンプルな着こなしをする
彼はファッションに関しては全くの無頓着だ。
前はヴィジュアル系の洋服を薦めたことがあったのだけど
「やだ」
の一言で一蹴されてしまったのは記憶に新しい。
しかし志貴さんは…何故私なんかと付き合ってくれたのか?
前公園で会った金髪でまるでモデルさんのような美人…え〜と、
アルクェイドって人だったと思う。
とても私には敵わないその人からの誘いを志貴さんは簡単に却下した。
なんだかつまらなそうな顔をしていたのを覚えている。
そしていつのまにか…付き合い始めてしまった。
雨降りの日だったと思う…その日、私と志貴さんはホテルの一室で結ばれた。
初めは恐かったけどあまり抵抗は感じなかった。
ただ自然に流れるように…私は志貴さんと体を重ねたんだ。
それは至福の時だった。
気持ちよかった。
志貴さんは優しかった。
知らず、涙が零れた
でもその反面いつもこう思ってしまう。
―志貴さんは私を……。―
「志貴さんは私を…」
「ん?」
「え!?…あ、いや」
思わす心で思っていたことを口に出してしまいそうになり、
思わず私は口をつぐんでしまった。
「………」
志貴さんはそんな私を訝しげに見つめる。
「……服」
「はい?」
明らかに不機嫌そうな声
「服、見に行くんだろ?はやく行こうぜ」
Siki/
繁華街にあるデパートの中にある洋服店「ミスチア」に入った。
女性モノを中心に扱うお店で
女の服装にお世辞が言えない俺にはよく分からない店だ。
―晶が目をキラキラさせて洋服を見ている―
そんな晶を尻目に俺はふと奥に飾ってある服に目がついた。
―真紅のYシャツ―
「………に似合いそうだな」
なんの考えもなくそんなことを呟いた。
自然に零れた言葉だ。
言ってみて…違和感を感じなかった。
不思議な感覚だった。
前まではその名を呟くたびに俺の心は悲鳴を上げていた。
彼女が変わってしまったのを目撃した夜は
眠れないほど苦しんだというのに…。
―喉元を過ぎれば熱さを忘れる?―
そうかもしれないな…。
「可愛い彼女ですね?」
「は?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった、振り向くとこの店の店員が
俺に愛想笑いを浮かべている。
「え……ま、まぁ…」
と、俺もそれに合わせて愛想笑いを浮かべて見せる。
気付けば俺も随分演技が上手くなったような気がする。
今有彦に「色欲魔」と言われても俺は何の反撃もできないと思う。
自嘲の笑みを零し俺は晶を置いて店を出て近くの休憩室に腰をおろした。
タバコを吸うためだ。
やはり、ああいう所は居辛くてしょうがない。
内ポケット探ってみる…が
「あれ?ない…ぞ」
そういえば…あれが最後の一本だったのを忘れていた。
「しょうがない…な」
タバコを買いに行こうと腰を上げたその時だった。
「ほら」
「!?…」
目の前に差し出される一本…銘柄は俺と同じマルボロ
「……イチゴさん」
何時の間に…という表現が適切だった。
真っ赤な髪をポニーテールで纏め上げ
真紅の色を好んで着込む彼女…
イチゴさんが俺の目の前に立っていた。
Akira/
「アレ?」
私は初めて志貴さんがいないことに気がついた。
洋服を選ぶのに夢中で気がつかなかったようだ。
「もう…声ぐらいかけてくれればいいのに」
そう、志貴さんは自分勝手な所がある。
知らないうちにふらっと消えてはふらっと現れる。
私もよくこんな神出鬼没(?)な人をよく好きになれたと思う。
あわてて店を出て左右を見回す…と
「あ、いたいた…」
すぐ近くの休憩室に志貴さんがいた。
手に持ったタバコに火をつけないで…
ずっと一点を見上げている。
誰かと話してるみたい…けどここからでは壁が死角になって見えない。
一体誰と話しているんだろう?
それを確認してみようとした瞬間、それは躊躇われた…。
「!!」
ここからでもよく分かる…志貴さんが
涙を零していた…。
「……!?」
私は多分初めてビッグフットを見た日本人みたいな顔をしている。
それだけ目の前の光景が信じられないのだ。
あの天上天下唯我独尊を表した様な志貴さんが泣いているのだ。
とても信じられない光景に私の足は竦み、そして
「あれ…?」
軽い眩暈…そう、これは未来視が来る前兆…。
Siki/
「どうした?」
差し出されたタバコを見つめ俺はやっと腕を動かし
一本のタバコに手を伸ばした。
だが火をつけようとはせず、じっと目の前の彼女、イチゴさんを見る。
――真紅の髪
――紅いYシャツ
――美人という言葉をそのまま表したかのような…顔つき。
なんでだろう…有彦がいるときに何度も逢ったのに
今のイチゴさんは…
まるで何年も逢っていなかったと錯覚するほど
なつか、しく思える…。
――でも…どうして?――
「……奇遇です…ね」
「ああ…」
向かいのベンチに彼女は座る。
「………。」
「………。」
視線が交錯する――。
だがそれも一瞬のこと、イチゴさんは視線を横に流した。
刹那――沸き上がった感情が消えた。
まるで熱く煮えたぎったモノが凍っていくように
それはメンソールを吸ったときの喉越しにも似た…
空虚な心が俺をまた支配した。
「ひさしぶり…だな」
こちらに視線を送らずイチゴさんはそう呟く。
「……何が…です?」
分かっているくせに…と自分に悪態をつく。
「……。」
僅かに眉をひそめイチゴさんは溜め息をつく。
「こうして二人だけで話すのが……だ。」
「……そう、ですか?」
また――とぼける。
「ああ…」
長い沈黙――。
彼女との感情に身を任せ、性欲に溺れた日々を思い出す…。
あれは何だったのだろう…
あの時俺はただ気持ちよさに身を任せていたのだろうか…?
違うと否定できない自分が憎い
その証拠に俺は彼女の質問に応えられなかった。
期待……そう、彼女はあの時どんな言葉を聞きたかったのだろうか…。
俺はあの時なんと言えばよかったのか…?
未練だ…これはあまりにも未練たらしい…。
「……変わってないな、お前」
「え?」
沈黙を破ったのはイチゴさん
何時の間にか俺を真正面から見据えている。
それは射抜くような視線。
「か、変わりましたよ…」
今度は俺が視線を彼女から反らす
「ほぉ…?」
どこらへんが?と目が訊ねている。
どこか小ばかにしたような笑みを浮かべている。
「……四年前」
それでカチンと来たから…だからタブーを言った。
「変わり果てた貴女を見たときから…。」
イチゴさんから表情が消えた。
「答えになっていないぞ…どこが変わったかと聞いている。」
それは冷酷で、なりぞこないの魔法使いのような口調。
イチゴさんがDryに生きていくと決めたあの日
「……俺はあの時からCoolに生きていくと決めた。」
無表情のイチゴさん
「変わった貴女を見て俺はまともな恋愛が出来ないと知ったから」
もう抱きしめられないと知ってしまったから…
無表情な俺、淡々と言葉を紡ぐ。
「たくさんのモノを切り捨てた…」
そう、気付いてた、
秋葉の兄を思う感情が男女の関係と大差ない感情ということ…。
翡翠が少しずつ俺だけに感情を見せるようになったこと…。
琥珀が心の底から俺だけに微笑みかけてくれていること…。
アルクェイドやシエルが俺を巡ってまだ決闘してることも…。
知らないふりをして全て知っていた…。
知らないふりをすることで全て切り捨てた。
「だから俺は変わったよイチゴさん…」
そう、俺は貴女ほどじゃないけど強くなった…。
「くく……。」
イチゴさんは声を殺して笑い始めた。
「く、くはははは…!!」
そして我慢できないのか声を上げ一子さんは笑う。
俺はそれを憮然とした表情で見つめている。
「く、ふふ…なあ…有間」
あの時とは変わらない呼び方。
「お前はやっぱり変わらないよ」
俺を真正面から見つめイチゴさんが微笑んだ――。
刹那――胸が早鐘を打った。
全く初めての感覚だった。
それは幼い子供がいつも一緒にいた女のコを
初めて女と認識してしまった時に抱くモノに似ていた。
そして――俺の中で何かが音もなく崩れ去った。
刹那、その崩れ去ったものが一筋の涙となり頬を零れた。
まるで日の光に溶ける氷のように…。
そんな俺を彼女は最初、驚いた表情を見せたが
すぐに表情をいつものモノに戻し意地悪な微笑を浮かべ
「有間」
視線を反らせない俺にそっと顔を寄せ、そして耳打ちした。
「……!!」
Akira/
「あ、ああ…」
こんな時ほど自分の能力が疎ましく思ったことはない。
いくらランダムだからってなにもこんな時に発動しなくてもいいじゃない!!
理不尽すぎる…これはあまりにも…酷すぎる
その場に崩れ落ちたい衝動を押さえる。
この衝動に負ければ私はこれから起こることを防ぐことができない。
葛藤している間に志貴さんのいる休憩室から女の人が出てきた。
―赤髪の美女―
その表現がピッタリ来る人だ。
服装もその髪に合わせたように紅一色
私とは比べ物にならない大人の女性、志貴さんはこの人と何を話していたの?
「あ……」
その人は真っ直ぐこちらに向かってくる。
あの人が志貴さんと話していた人…?
志貴さんを泣かせた人?
彼女は私の視線に気付いていないのか、それとも気付いていて無視しているのか
分からないけど、スッと…私の横を通り過ぎて行った。
「………。」
よく分からないけど…何だろうこの、敗北感は?
「晶?」
目の前にはいつもと変わらない、うぅん…
―いつもと違う志貴さんがいる。―
Siki/
「晶?」
俺は平静装って見せる。
その晶は俺に不安そうな瞳を見せた。いつもならここでからかってやるのだが
「志貴さん…あの「服はどうした?」
晶が何かを言う前に俺はそれを征した。
大体何を言いたいか想像がついてしまう。
「……もう、服はいいです」
「そうか…」
ビシッ…
何かに亀裂が入る音。
「じゃあどうする?」
「あ、あの…わ、私…」
「……何?」
挙動がおかしい彼女を俺は偽りの優しい瞳で見つめてみせる。
「その、志貴さん…夜」
それが精一杯だったのか…晶は顔を赤らめ下を向いた。
だから晶の言いたいことは分かる。
「……じゃあ、どこかで時間を潰そうか?」
Akira/
何度…私は志貴さんと体を重ねたのだろうか?
「ひゃうっ!!」
不意打ちに耳たぶをかまれ私は奇声を上げてしまう。
志貴さんはその反応を楽しむかのように耳たぶから首筋付近を
丹念に舐め上げる。
ここはホテルの一室…
ブラックライトがベットを照らし、白いシーツを青白く輝かせている。
その中心で私と志貴さんはすでに一糸纏わぬ姿で抱き合っていた。
……まだ始まったばかり、アレまでまだ時間があるはず…。
だから今、私に出きることは志貴さんを悦ばせるだけ
できるのは責任という鎖でこの人を縛り付けるだけ。
だから今日は志貴さんがどんな行為を要求しようと…飲むつもりだ。
「晶…胸、大きくなったね」
首筋にはいくつかのキスマーク、志貴さんは私の全てを見つめ、そうつぶやいた。
「そ、そうですか?」
「ああ、見たことないけど秋葉よりあると思う」
うぅ、志貴さんなんでそこで遠野先輩を出すんですか!?
思っていることが顔に出てしまったのか、志貴さんは意地の悪い笑みを零す。
「……晶、秋葉のこと苦手?」
更にかくし…いやいや、そうじゃなくて
「いえ、そんなことないですよ、遠野先輩は優しいですし…うっ!!」
その言葉の続きを志貴さんは唇で封じた。
「ん、ん…んん…あっ…」
互いの唾液が混ざり合う音は子犬がミルクを舐める音に似ている。
しばらくして舌と舌が離れると一本の銀色の弦が名残惜しげに伸びる。
……志貴さんは今夜もゴムを付けている。
初めてのときもそう…志貴さんは例え安全日でも絶対にナカには出してくれない…。
一度だけ興味本位で聞いたことがあるんだけど志貴さんは
「……男のエチケットって奴だ」
と言っていた。
前までは何となく納得してたけど、
今…その台詞を聞くと私は違和感にも似た不快感を覚える。
だから…初歩的な手だけど、志貴さんが先にシャワーを浴びている間に
ゴムにある細工を施した…ニ個あったから両方に
―コンドームに穴を開けた。―
今日は幸いにも(!?)危険日だし…
志貴さんには悪いけど…
――責任とって貰います。
Siki/
晶と何度も体を重ねてきたが…今日ほど気分が重い日はないと思った。
その気分を振り払おうと、俺は晶のさまざまの個所を触りしゃぶり、噛む
そのたびに晶は喘ぎ、喚き、淫猥な声を上げる…。
前はそんな可愛いリアクションに興奮したものだが…
今の俺の心情は…Coolなままだった。
全くエンジンがかからない。
つまり…その
全然勃たない…
待ってくれ…!!いくらなんでもこれはないだろ!!
まだ晶には悟られてはいないが…いつばれるかわからない…。
でも、なんでこんな時に限って…!!
全く今日は厄日だ!
イチゴさんに会うし……。
…………………………。
イチゴ…さん?
俺…いつ、そう呼ぶようになった?
おねえさんと乾家の門で会った時?
違う…もっと後だ。
一子さんと一夜を過ごした後?
そうだ…突き放された後だ…。
でもなんで呼べなくなったんだ?
一子という名に苦しんだからじゃないのか?
心が悲鳴を上げるほど苦しんだからじゃないのか?
でも、あれから四年もたってる…それに
言ったじゃないか…真紅のYシャツを見て―
ポタ―――ポタ―――。
「あ、……。」
でも…それは、本人の前じゃない。
そう、本人の前で「一子」と呼んだときこそ…
『……私と同じ痛みを知ったらまた家に来な』
今、気がついた…俺はあの時彼女に呪をかけられたのだ――と。
涙を拭って俺は…晶から離れた。
晶/これが現実なんだ…受け止め、なきゃ……
話にならない…こんなのはあまりにも
「志貴さん…どうしたんですか?」
私の頬に涙をこぼした志貴さんは両手で顔を覆ってしまっていた…。
まるで私を拒絶しているように…
――ビシッ
分かっている…分かっているけど聞いてみる…。
志貴さんに涙を流させるのは昼間のあの人しか思いつかない。
「な、んでもない…目にゴミが入っただけだ」
――苦しい嘘
なんで?
なんでこんな時に気の利いた嘘を言わないの?
ずっと私をダマしてきたんでしょう?
コレが貴方なの、遠野志貴?
「………ふぅ……。」
志貴さんはタバコを口に咥えそれに火を付けた。
よくドラマとかでやるシーンを志貴さんはやる。
最初はカッコイイとか思えたけど…
「……時間あとどれくらいあったっけ…?」
紫煙を吐いて志貴さんが尋ねる。
「……もういいです」
冷たく、私は答える。
「そうか…」
もうすでに賽は投げられていて結果は出てしまった。
そう、もういいのだ志貴さんは初めから私など愛していなかったのだ。
私のことは体のいい…玩具とでも思っていたのだ…。
なんて――なんて酷い男
私はこんな人を好きになっていたのだ。
目を閉じれば志貴さんが取る数々の仕種が…蘇る
――タバコを吸う時に見せる翳り
―――髪を気だるげに掻きあげるクセ
そしてあの蒼い瞳
私の中の志貴さんが音もなく崩れていく…。
前まで大きく見えた隣にいるこの人は…今ではとても小さく見える…。
「……私、見ました」
Siki/
「……私、見ました」
「何を…?」
タバコの所為で少ししゃがれた声で俺は尋ねる。
「赤い髪の人…綺麗な人でしたね、」
「!!」
晶の目はとても冷たかった……。
そしてイヤでも思い出してしまうあの瞳とダブる。
『ならお前は――私を愛しているか?』
と、自分に問い掛けるあの、女の瞳に……。
「……私とじゃとても比べ物にならない程綺麗な人でした…何を話していたんですか?」
責めるように…否、晶は俺を責める。
あおんな晶を直視できなくて……俺は視線を外す。
――これ以上、自分の荒んでいる心に入って欲しくなかったから……。
「……晶には」
「関係ないですか?」
その言葉に俺は衝撃を受けた。
見透かされている…この、俺が……。
晶は溜め息を一つつくと俺に侮蔑の眼差しを向ける。
酷く、晶が恐く感じられる――。
「何も話してくれませんでしたね…最後まで…遠野さんは」
「………」
その、遠野さんという呼び方にはどれだけの負の感情が込められているのか…。
晶は身支度を整えて真っ直ぐに俺を見つめる。
そう、あの射抜くような瞳で……まるで
――イチゴさんに射抜かれたような……。
「じゃあ、もう帰ります…」
晶はベットからおりて出口へと向かう
俺はその背中を見つめることしかできない…
――なんて情けない、男……
「……私、視えたんですよ」
「……え?」
こちらに向かず晶はそう言った。
「あの赤い髪のお姉さんと遠野さんが…」
「……が?」
「………」
晶はなにかに耐えるように上を向いた。
「……教えません」
それだけいうと晶は……出て行ってしまった。
ブラックライトは未だ俺を照らしている。
晶の姿は、ない…今ここには俺しかいない。
ほんの数分の出来事だった。
嵐が過ぎ去ってしまったように…俺と晶の関係は終ってしまった。
まるで一緒だった…あの時と……
涙がまた頬を濡らした……気がした。
エピローグ/Akira
「くぅ……くぅ……うぐっ……」
私は泣きながら夜の街を歩いていた。
ネオンの明かりが私を照らす…
それが反射して涙がきらめく――。
「さよなら…志貴さん…ありがとうございました。」
夢を見せてくれてありがとうございます……。
志貴さんと付き合えて私、本当に嬉しかったです……。
私……忘れますからあの涙……
せめて私の思い出の中の志貴さんは…一番かっこよかった男にしておきたいので……
さよなら……志貴さん
エピローグ/Itiko
『……私と同じ痛みを知ったらまた家に来な』
初めて、私は小細工を使った。
我ながら…何とも遠まわしに使ったものだ…
ダイレクトに言ったほうが効果的だったのかもしれないが……
まぁ…今の有馬には酷というものか……。
さて、あの言葉の意味を悟ることができるのかな?
フフ…楽しみだよ…有間
しかし…私もバカだな……本当に……これが未練というものか……。
――気が付くかな…フフ、楽しみだよ有間――
To Be Continued……「Cry?」
あとがき
私は何度「投稿します!!」とか偉そうなこといいながら見送ってきたのだろう……。
お久しぶりです。マリ見てに嵌って脳みそピンク色の天戯恭介です…。
えぇ、これはですね…お嬢祭に投稿した私の処女作「Dry?」の続編にあたります。
なのでいきなり読むと「なんすかコレは?」になってしまうのでDry?を先に読んでください。
さて、この二人どうなってしまうのでしょうか…?
実は私の中ではまだ何も結末が見えていません。(苦笑)
さて、どうしようか?
と、マリ見て読みながら紅茶を優雅に飲む天戯恭介でした(w
最後に、このSSを掲載してくださった阿羅本さまに感謝を――では。
おまけ/
それは…志貴の一言が始まりだった……。
「俺、シオンのことが好きだ」
崩れていく人間関係――それは志貴の人生を大きく変えていくことになる。
「じゃあ、志貴…私と…私のRX−7と勝負して!!」
突如、なんの脈絡もなく始まった高速道路でのダウンヒルバトル!!
アルクェイド・ブリュンスタッドのFD3Sが立ちはだかる!!
そして…志貴の車は……。
「志貴!ふざけないで!!そんな車で私とやろうっての!?」
志貴が乗ってきたのは「乾とうふ店(自家用)」のステッカーが貼られたAE86レビン!!
「……アルクェイド…やれば分かる」
「な、なんなの!?あの車……!!」
コーナーで突き放したはずの86がアルクェイドのFD3Sの後方にピッタリくっつく!!
「……し、信じられない!!私は夢でも見ているの!?86なんかに抜かれるなんて!!」
月姫5ヒロインの内アルクェイドを撃破した志貴!!
だが志貴のシオンの処女を賭けたダウンヒルバトルは続く!!
「兄さん!!私は負けませんよ!!」
秋葉の真紅のスカイラインが先行の86を追い抜く!!
「あのバトルで分かったことがあるわ…志貴は後追いでものすごい集中力を発揮するの…
だからこっちが焦れて抜いては絶対に勝てない!!」
「な、なんでくっついてくるんですか!?」
「秋葉、スカイラインだって欠点はあるんだ!!それを俺が教えてやる!!」
秋葉の性格が勝負の明暗を分ける!!
「し、しまったアンダーを……!!」
秋葉が開けたインを堂々と突っ走る志貴の86レビン!!
「あはぁ♪志貴さん勝負ですよぉ」
ヒスコハのシルエイティーが志貴に勝負を挑む!!
元もとの86の持ち主である一子さんは語る。
「あ?あいつが負けるわけないじゃないか、私が仕込んだ走り屋だぞ有馬は」
「翡翠ちゃん!!このコーナーはそんな大きくふっちゃ駄目!!」
「姉さん!!そういうことは早く言って……きゃあああああ!!」
怒涛の快進撃……だがその志貴の前に強力な敵が現れる!!
イエローのエボV…シエル!!
「初めに言っておきます…遠野君、これはバトルではありません「セミナー」です!!」
――パンパンパン!!
シエルのエボVのバックファイアの音が峠に木霊する!!
ミスファイアリングシステム――!!
「後ろからパンパン、パンパン……うるさくてしょうがねぇ!!」
86の怒りのエキゾーストノート……だがシエルのカウンターアタックをくらい……
目前に出現するストレート、狂ったように加速する黄色いエボV!!
そしてシオンとの…距離感!!志貴の心に絶望が渦巻く…その、刹那!!
ボン……!!
限界に達した4AG改……。
「……遠野君、分かったでしょう?その車では私には勝てない…
私と競い合える車に乗り換えたとき…また勝負をしましょう」
86は死んでいない…志貴は動かなくなった86の座席で涙を零す――。
そんな志貴に一子さんは言う…
「……有馬、86が壊れたのはおまえの所為じゃない……」
果たして86レビンは蘇るのか!?――
「一子さん…教えてくれ、この86の限界を……!!」
「フン……一万一千回転まで、キッチリ回せ!!」
果たしてシエルとの勝負は!!シオンの処女を志貴は奪えるのか!!
「月姫でD〜The Movie〜」(嘘です)
(To Be Continued....)
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