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先人の知恵 〜実験〜


コンコン。

夜十時を過ぎた頃、
秋葉の部屋のドアがノックの音を響かせる。
「誰?」
もう寝ようとして、自らの長い髪に櫛を通していた秋葉は、薄い寝巻きを揺ら
して立ち上がるとドアを開ける。
「秋葉、夜分遅くに訪ねるのは失礼かと思いましたが、聞きたい事がありまし
たので」
ドアの反対側には、秋葉と同じくパジャマ姿のシオンが立っていた。
「こんな所で立っていてもしょうがないでしょう。入りなさい」
「では、失礼します」
シオンは部屋に入ると後ろ手にドアを閉めた。



シャンデリアから来るオレンジ色をした光の下、二人の少女が寝巻き姿で向き
合う。

「それで、聞きたい事って何?」
静寂を破って秋葉が声を発する。
「はい。単刀直入に聞きます。
 あなたと前当主が反転衝動を抑えた方法。それを教えて欲しいのです」
「あなた一体誰からその話を?」 
「以前、志貴から情報を得た時に知りました。ただ、志貴からの情報は外視的
なごく一部の情報だけで、詳しい事がわからないのです」
秋葉は「はあ、」と溜息をつく。
「たしかに私と父が反転衝動を押さえた方法はあります。しかし、詳しい内容
を教えるとなると、もう一人にも許可を得ないとね」
「ええ、分かっています」
「わかりました。彼女には私から聞いてみますが、あまり気分のいい方法では
ないから、了承は期待しないで下さいね」
「はい、それで結構です。ありがとう秋葉」

しかし、秋葉の言葉は杞憂に終わることになる。もう一人の人物はごくあっさ
りと了承したのだから。



「シオン。先程の件、了承が取れました。教えましょう」
「ありがとうございます」
「ただし、その事は口外しない事と、疑問・質問等を口にしない事を守ってい
ただきます」
口外しない事はともかく、質問等を禁じる条件に引っ掛かったが、シオンは首
を縦に振った。


――― 三時間後 ―――

シオンは秋葉に指定された場所に着いた。
遠野屋敷の離れ。
さすがに庭へ出るのにパジャマでは好ましくないと感じたのか、いつもの服を
着用していた。

「秋葉、居ますか?」
シオンは慣れない手付きで日本独特の戸を横にスライドさせる。
薄暗い建物の中、玄関から差し込む月の光が紫苑の足元を照らす。

玄関から中へ入ろうとしたシオンは足を止める。
しばらく考えた後、靴を脱いで、揃えて置いた。

襖を開けると、部屋の中には秋葉ともう一人の人物、琥珀が畳の上に座してい
た。

日本の美しさと言うのだろうか。障子から月明かりが透けて、秋葉を照らす。
洋館である本邸で見るよりも、秋葉の長い黒髪が映えて、神秘的なほど、美し
い。

シオンに目を向けた秋葉。
「では、教えましょうか」
秋葉の声で見とれていたシオンは我に返る。
それと同時に琥珀が立ちあがり、シオンへと歩を進める。
彼女の流水のような動きに目を奪われる。まるで夢でも見ている錯覚を感じる。

ん―――!

近付いた琥珀の唇とシオンの唇が重なる。
その事が夢心地で居たシオンを正気に戻す。

「な、何を―――」
そういいかけたシオンの言葉を遮って、秋葉の声が通る。
「質問はしない約束だったのではなくて?」
そう言われて押し黙るシオン。

「感応能力は体液交換からなります。その事は知っているでしょう?」
「反転衝動はともかく、吸血衝動を押さえる為に血を口にするのでは本末転倒
ですよ」
秋葉、琥珀が口を揃えて言う。
それはたしかにそうだが、
「琥珀。私は男性ではありません。志貴に行なった方法は私には適応しないの
では?」
「大丈夫ですよ。要は体液を交換すれば良いだけですから、女同士でも」
シオンは気が付いた。二人の目に奇妙な光が宿っている事を。
(こんな目の事をたしか日本語でこう言うんでしたね。『あっちの世界に行っ
ちゃってる目』と。
しょうがない。甚だ不本意ではありますが、ここは彼女たちに合わせた方が良
いでしょう)
観念したシオンは、琥珀から離れようと突っ張っていた手から力を抜く。
そして、圧縮保存してあった志貴から採取した『アレ』に関する記憶を解凍す
る。
これで準備は万端、百戦錬磨の志貴からの記憶だ。不足はないだろう。


今度はシオンから琥珀の口内を攻める。
自ら腰を引き寄せ、舌を絡め、歯の裏を探り、舐る。
一分ほど舐め尽くした後、唇を離す。
「んっ」
「まるで志貴さんにされてるみたい。翡翠ちゃんならこれだけで参っちゃうか
も」
そう言う琥珀さんの顔もほんのり上気している。

「この様子なら心配ないみたいね」
「何の心配ですか、秋葉」
「後で泣きだされても困るなって思ったのよ」
「安心してください。この実験で得られるデータに比べたら、処女を捧げるな
ど大した事ではありませんから」
さらりと自分が未経験である事を言ってのける。
「あらあら、やっぱりシオンさん乙女だったんですね」
「そう、シオンの純潔を奪うのだから、こっちも手を抜くわけにはいかないわ
ね」
秋葉が立ち上がる。

するり、
太ももに衣擦れの感触。
いつの間にか琥珀の手がスカートの留め金を外している。
スカートが床に下りて、白い三角形の布地が露わになる。
さらけ出されたきめ細やかな太腿。
琥珀の手がシオンの足に触れるか触れないかの所を行き来する。
「んくっ。琥珀、くすぐったいです」
「シオンさんはくすぐったがり屋さんなんですね」
今度はしっとりと吸い付くような手を、ぴったりと密着して足に這わせる。
そして、そのまま白い布地の上を往復する。
すり、すり、
「ん、あふっ」
シオンの口から自然と嬌声が漏れる。
感じてきた事を知ると、その手を止め、今度は舌で同じ事を始める。
じんわりと下着に染みができる。
琥珀の唾液だけではない。
それを裏付けるようにシオンの口からは、間断無く艶のある声が発せられてい
る。


なっ、何?この感覚は―――
情報と、全然違う―――
あれは志貴から、つまり男性から得た情報。
女性側の情報不足―――。
ああっすごい、電気が走っているみたい。
それに感覚の情報量が普通じゃない。
分割してある他の思考も解放しなければ、感覚情報を処理しきれない。
三番、五番も解放。


下着に微かな染みを作るくらいだったシオンの潤みは、下着を通り越して床に
垂れ落ちるくらいになっていた。

「準備はいいみたいね。そろそろいくわよ、シオン」
そう言って秋葉は自らスカートを脱ぐと、腰を前に突き出す。
夢心地だったシオンは一瞬にして現実に引き戻される。
「こ、これは―――」
秋葉の股間には半透明の、白い男性器らしきものがそそり立っていた。

「エテーライトを編みこんで作ったの。なにしろ5000mもありますからね。結
構大きいのが出来たでしょう?」
さすがに5000mあっても、本来目に見えぬほどの細さ、内部まで構築する体積
は無い。
おそらく中は空洞。だから薄く、透き通って見えるのだろう。

それにしてもすばらしい応用力。幼い頃からエーテライトを使用してきたシオ
ンには、頭の中で固定化されたイメージがあって思いつかない方法だ。

一瞬、硬直したシオンを、琥珀さんが肩を掴んで組み伏す。
なすがままに畳の上で仰向けに寝転がってしまう。
そこをすかさず秋葉が覆い被さる。
「秋葉さま、どうぞ」
サイドから手を割りこませて、純白の下着をずらす。
秋葉はエーテライトを掴んで、準備の整ったとろとろのシオンにあてがう。
「いくわよ。シオン」
ぬるり、
エーテライトの塊がシオンの中に侵入する。
「痛っ」
奥に至る途中で抵抗が増し、侵入を阻む。

秋葉はシオンの体を抱きしめると、
「シオン。我慢してね」
耳元でそう囁き、ゆっくりと貫く。
「くっ―――」
秋葉の腕の中でシオンがうめく。
「シオン。全部入ったわ」
秋葉から生えたエーテライトがシオンの中に収まっている。
「動くわよ」
エーテライトがゆっくりと引き出される。
破瓜の苦痛に、苦悶の表情をするシオン。

秋葉の額にも苦悶のタテジワが表われている。
エーテライトは神経に繋ぐ事ができる。つまり神経と同等の能力を持ったもの。
言わば剥き出しの神経なのだ。
ダイレクトに繋がっている剥き出しの神経の塊。
こんな物でしていれば、通常男性の得る数倍の快感を味わう事になるだろう。


一回、二回、三回、秋葉の腰がやさしく前後に動くにつれて、シオンの顔から
険が取れてゆく。
痛みから快感に変わってきている。
少しずつ、秋葉の動きが速くなってゆく。

編み込まれている為に、表面にできた微細な凹凸がシオンの内壁を擦る。
「ああっ、はふっ、ひゃん!」
秋葉の腰が動くたびにシオンという名の楽器が艶やかな音色を奏る。

すでに破瓜の痛みは消えて、快感のみを得ている。

しかし、そこで調子よく動いていた腰が止まり、微妙に震える秋葉。
エーテライトからの刺激が強すぎて、耐えられなくなったのだ。
「はあぁぁぁぁ」
大きく息を吐いて何とか持ちこたえる。

「この感覚、シオンにも分けてあげるわね」

トン

シオンの額に秋葉の指が触れる。

え?これって、エーテライト―――

刹那、強烈な感覚の奔流がシオンを包む。
「ああっ、あ、やっ、こん、な、あくぅっ」

熱い物に貫かれる感覚と、その反対。熱い物に包まれる感覚。
その二つが濁流となって思考を押し流す。
「秋葉、やめっ、はうっ」
未知の感覚、しかも通常では考えられないほど強烈な物。
必死に逃れようとするも、もはや許しを乞う言葉すら発する事が出来ない。

対する秋葉の方は、感覚を移した事で余裕を取り戻す。
「あら、どうしたの。シオン」
からかう様に秋葉が尋ねる。
「あ、あきは――――んっ、かはっ」


「秋葉さま。御一人で楽しまれては実験の意味が無いですよ。私の能力を試す
のが目的なんですから」
そう言って二人の結合部へ舌を伸ばす。
「はう―――――っ」
もはや言葉を発する余裕もないシオン。
分割した思考を全て開放しているにもかかわらず、処理が追いついていないの
か、それとも処理できる情報ではないのか、快感だけがシオンを埋め尽くす。
「あ、あ、あ、ああぁぁぁーーーー!」


     §          §

ようやく落ちついたシオンは、露わになっていた肌を隠すように、脱ぎ散らか
された自分の服を手繰り寄せる。
「どうだった?」
すでに着替えてしまった秋葉が尋ねる。
「あの、えっと、きもち、よかったです」
顔を真っ赤にして答える。
よく覚えていないが、快感に流されて、色んな事を口走っていたような気がす
る。それにあれだけ乱れてしまったのだ、今更何を言ってごまかしても意味が
ない。
そして何より、事実として気持ち良かったのだ。


屈託なく笑う青年の顔を思い浮かべ、シオンは耳まで真っ赤になる。
「好きな人とだったら、もっといいのかなぁ」


  ――― 了 ―――



後記

秋葉に凸。浅上凸祭の影響でしょうか?
別に秋葉達がしおんたんを散らす必要などは『全く無い』のですが、つっこま
ないで下さい。
あと、「琥珀さんの能力がシオンの吸血衝動に効果があったのか」も、つっこ
まないで下さい。
2003/04/30  you

                   

                                      《つづく》