聖杯戦争終了より二ヶ月程たつ。 聖杯戦争が始まった時より俺を取り巻く環
境は次つぎに変わっていった。
しかし、ことセイバーとの関係が奇妙な変化を遂げたのは聖杯戦争終了から今
日までの二ヶ月だろう。
―奇妙な関係?そう、確かに今の俺とセイバーの関係はひどく奇妙で、…そし
て、とても歪なモノなのだろう。
何故そんな関係になったのだろう。
理由は簡単だ。…何故なら、俺は遠坂と恋人関係にありながら、セイバーとも
肉体関係を持ってしまったからだ。 
どうして、そんなことをしてしまったのか…。成るほど、セイバーはとても魅
力的だ。
だからといって、遠坂を裏切っていいわけがない。ああ、俺はそんなに薄情な
人間だったのだろうか…?
それでも…、俺はセイバーとの関係は断ち切れない。
―もう、知ってしまったから。 
セイバーの
声を、
体を、
ぬくもりを…。

彼女の淫らな声に興奮する。
彼女の薄紅色に染まった身体に欲情する。
彼女のぼぉ、とした暖かさの中にいつまでも身を委ねていたいと思う。

遠坂を愛してる…。きっと世界で一番…。それでも尚、彼女の全てが俺を誘い、
そして狂わせる。
そう、俺はセイバーに魅了されている…。きっと世界で一番…。

―始まりは唐突に到来し、侵食はゆっくりと、だが確実に俺達を暗い沼の中へ
堕としていく…。 
―戻ることの出来ない、なだらかな破滅へと。

『堕散る』
       一色紫






シロウとの逢い引きが始まって、すでに一ヶ月半がたつ。
今の自分のマスターである凛のことを考えると、不安と自己嫌悪で胸がいっぱ
いになる。
もし彼女が今の自分とシロウの関係を知ったらどうするのだろう?
怒るだろうか?
何らかの手段で報復してくるかもしれない。
それとも、落ち込むのだろうか?
平然としている可能性もある。
全く予想できない。
それ故に、私の中の不安と自己嫌悪はより一層募る。
さらに、質の悪いことに私の中に眠る不安とは“シロウとの関係が凛にばれる
こと”に対して生じる感情ではなく
“シロウとの関係が終わってしまうこと”に対して生じる感情なのだ…。
そんなことを思ってしまう自分は穢れていると感じる。
―それでも、シロウに求められたら私はきっとそれ拒めないだろう。
なぜなら、セイバー、と名を呼びながら私を求めるシロウの姿に、悦びと期待
を感じている私がいるのも事実なの
だから…。

例えば、今日この瞬間ように…。

夜の帳も落ちた今、俺の部屋にはセイバーがいる。部屋は薄暗い。
この時間に二人っきりでいるのだから、お互いこの先何が起こるかなど、とっ
くにわかっている。
その証拠に、セイバーは時折こちらに期待と怯えの入り混じった視線を投げか
けてきている。
一瞬、目が合った。
それを合図に、俺はいつものように、

「セイバー…。」

と彼女の名前を呼びながら、その柔らかに震える唇に口付けをした。

「…ん…ぁ。」

セイバーの唇から苦しげに吐息が漏れる。
そのまま、彼女の身体を抱き寄せる。

「…あ…。」

突然の事だったためか、ビクッとセイバーは身体を強張らせた。
それに構わずセイバーの服を脱がせに掛かる。
まず、シュルッと小気味のいい音をたてさせながら青いリボンをはずす。
そうやって、セイバーのシャツのボタンを外していく。
セイバーはその間、抵抗もせずに俺を潤んだ瞳で上目使いに見上げていた。
その姿はさながら怯えた小動物の様だった。

…セイバーの上半身を剥き出しにした段階で一旦、服を脱がせる手を休める。
そして、無防備に外界に晒されたセイバーの裸身を眺める。
―息を飲む。 その完璧な肢体に魅入られる。
穢れを知らない新雪の様な肌。
少女らしさを残す形の良い、小ぶりな胸。
猟犬のように均整の取れた、引き締まった身体。
…俺を狂わせる、その姿。

「シ、シロウ…そんなに見ないで下さい…。そんなに見られると…少し恥ずか
しい…。」

俺の無遠慮な視線に気付いたのか、顔を真っ赤にしながらセイバーがそんなこ
とを言ってきた。
その初々しい反応に思わず唇を歪ませる。

何故、笑ったのだろう?

何回もシテいるのにそんな事を今更恥ずかしがるセイバーが可笑しかったのか?
俺の行動にセイバーが影響されている事実が可笑しいのか?

…それとも、遠坂を裏切ってこんな事をしている自分が可笑しいのか?

「もう何回も見らてるのに、恥ずかしいのか?」

そんな事を言いながら、セイバーの胸に舌を這わす。
瞬間、彼女の身体が跳ねる。

「ぁく…何回見られても恥ずかしい物は恥ずかしい…です…ん…。」

舌で彼女の胸の突起を苛める。

「あ…ふぁ・・・。」

セイバーの乳首が硬くなる。
遠坂程ではないがセイバーも敏感だと思う。
…セイバーとこんな事をしているのに、遠坂のことを思い出して自分が嫌にな
る。

彼女を抱いていた方の手を離して、セイバーを布団に寝かす。
そのまま、空いた手を彼女の秘所へと伸ばしていく。

「ぁ…シロウ…そこは…。」

俺の行動の意図に気が付いたのか、セイバーが身を固くした。
それに構わず、スカートと下着を脱がせ、彼女の中へ指を侵入させる。
くちゅ、と湿り気のある音がした。
セイバーの膣の中は熱かった。
指が蕩けそうな感覚。

「く…ひゃうんっ…!」

喘ぎ声が一段と高くなる…。
その甘美な響きに頭がクラクラする。
彼女の全てを貪り、略奪したい。
その、白い肌。碧の瞳。紅い唇。金色の髪。

それら全てをぐちゃぐちゃに汚したい―!

指を引き抜き、体をセイバーから少し離す。

「…あ。」

名残惜しそうなセイバーの声。
淫蕩なその声。
体が熱くなる。

彼女の足を掴んで開脚させる。

「なっ、なにを・・・。」

セイバーの声を無視して彼女を視姦する。
うっすらと汗をかいた身体。
部屋に充満するセイバーの匂い。
その匂いに肌が焼けそうになる。

「…。」

セイバーは恥ずかしそうに俯いたまま何も言わない。
何を恥ずかしがっているのだろう?
俺とセイバーは自分の恋人とマスターを裏切っている、それでいて平然とした
振りをしてまで今の日常に縋り付く
狂いたくなるほどの恥知らずなのに―。

彼女の秘所へ顔を近付ける。
彼女のそこにまた指を入れる。
ぐちゃぐちゃ、と彼女の中をかき回す。

「ひやぁ…うく…ああぅ…!」

俺の指のリズムに合わせて踊り、鳴くセイバーの肢体。
俺のせいで汚れていくセイバーに悦びを感じる。

空いているほうの手で彼女のクリストリスを摘む。

「…あきゅぅぅぅ…!」

乱れきるセイバーの呼吸。
セイバーの吐息。
淫らな暖かさを持つそれに部屋が包まれていく。

指の動きを一段と激しくする。

「ぅぁ…くぅ…ひゃうぅぅぅ…!」

さらに激しく悶えるセイバーの身体。

「あふ…シロウ…もう…。」

セイバーが潤んだ瞳で俺を見つめる。

そろそろ、頃合だろう。俺は自分のモノを取り出した。
俺のモノはもう十分に勃起していた。
…それはそうだろう。今まで、セイバーの淫らな身体に触れ、その淫蕩な声を
聞いていたのだから。

「いくぞ…セイバー…。」

セイバーにそう呼びかけ、挿入しやすい位置に身体を移す。

「…はい…きて下さい、シロウ…。」

その言葉と共に自分のモノをセイバーの膣に挿入する。

「う…はぁ…くぁ…!」

まだ、半分しか入っていないのにセイバーが苦しそうな声をあげる。
だが、それもいつもの事。相変わらずセイバーの膣は狭く、熱かった。
指を入れた時とは比べよう様のないほどの熱に襲われる。
その熱を無視して挿入を続ける。

「きゃう…ああう…!」

セイバーがよがる。
挿入を終える。セイバーの膣が締め付けてくる。
まるで、俺から全てを奪おうとするかのよう。

「うぐ…あ…。」

思わず声が零れる。
しかし、こんな物で満足する気は無い。これだけでは俺もセイバーも汚れ足り
ない。
俺は一度自分のモノをセイバーの膣から引き抜くと、ソレをまたセイバーに挿
入する。

「ひゃう…ぁ…く…んぁん…!」
「あ…く…。」

何度も挿入を繰り返す。グチュグチュと音が響く。セイバーの膣と俺のモノか
ら零れる物が布団に染みを作る。
脳が麻痺する。セイバーの鼓動と俺の鼓動が重なる。乱れた互いの吐息が俺達
を覆う。
セイバーの存在に誘惑される。狂いそうになる。―いや、すでに狂っている。

「…く…セイバー…!」
「…く…あはぅぅ…シロウ…!」

彼女の中に射精する。彼女もイったのが分かる。
俺達を闇が隠す。互いの匂いと息遣いだけが互いを感じさせた―。



これは日常…。俺とセイバーだけの狂った日常。背徳と甘美の日常。退廃と喜
悦の日常。
いつ終わるのか誰にも分からない、脆い硝子細工の楽園。
互いを思う気持ちに嘘はなく。また裏切ったヒトに対する気持ちにも嘘はない。
だから、誰かに暴かれるまでは壊れない二人だけの狂愛の世界。

堕ちてゆく。この暖かな闇の中へ。
二人きりで。
彼女を汚したのは俺だから。
彼女に汚されたのは俺だから。

二人で堕ちてゆく。
どこまでも。

堕散てゆく―。