思えば……ずっと。
あの時から……ずっと。

この情景を。
この風景を。
この、場所を。

私は思い浮かべていたのかもしれない。

思えば……ずっと。
考えれば……もっと。

この場所を。
この空気を。
この……人を。

私は探していたのかもしれない。

――――あの……?

そう問い掛ける。
返事はまだ無い。

――――あの、一つ聞いてもいいですか?

私の……私は―――――







along with……           末丸







夕焼け迫る帰り道。
両手に今夜の食材を詰め込んだ袋を抱えながら、伸びる影。
商店街からの帰り道。
通り過ぎていく風と響く足音。
朱に染まる帰り道。

少し、買いすぎたかもしれない。
腕に掛かる重みに、僅かだけ後悔する。
今日のメニューは何だったっけ。

袋に詰め込まれているのは、
豆腐、キャベツ、葱、人参、卵、豚肉、小麦粉、しょうゆとみりん、スパナ………
す、スパナっ?
何でこんな物……って、ああそう言えば、確か買ってきてって言われてたんだっけ。

買い漏らしは無し、と。
それはリストを見て何度も確認したからそれは大丈夫。

ゆっさゆっさと揺れる袋二つ。
こうして見ると、ビニール袋って強いんだなぁとかどうでもいいことを考えたりす
る。
すると、不意に横から、

「大丈夫か桜? 重いんじゃ……」
「いえ、大丈夫ですよ」

そんな優しい声に自然と返事をした。
私を見つめるその瞳は、自分はさらに重い荷物を抱えているにもかかわらず、私を
心配している。

「先輩こそ大丈夫なんですか? それ、かなり……やっぱりライダーに来てもらっ
た方が……」

今度は立場が逆に。
私も返ってくる言葉は分かりきっているんだけど聞いてしまう。
そう、この人は、きっと。

「いや、大丈夫だって」

こう言うんだ。


――――――――大丈夫。


いつも、同じ笑顔で。
いつもと、同じ笑顔で。
いつも、変わらない笑顔で。

以前、ライダーに言われた事があった。
貴女が大丈夫と笑顔で言う時、私はいつも心を切り刻まれる思いでした、って。
今ならその言葉の意味が分かる。

戦いは終わった。
でも、この人の笑顔は変わらない。

そんな笑顔。
今私だけを見てくれている笑顔。
そんな表情を見て、心が、熱くなる。

何でもない、いつもの言葉。
なのに。
不自然さなど無く、流れからして当然出てくる言葉。
なのに、そんな言葉に。

痛みが、蘇りそうになる。
でも、押し止める。
それを表には出さない。
表情に出す事ができれば、どれほど楽だろうか。
でも出してしまえば、またこの人は私を心配して、また要らない苦労を背負う事に
なってしまう。

それは、荷物の事だけではない。

犠牲にするのは―――――いつも自分自身。

今はそんな事は無い。
私も戦える。
ライダーだっている。
姉さんだっている。
でも、でもきっとこれから先の未来……きっとどこかで。

この人は、自分を二の次にして、自ら危険な道を歩もうとするだろう。

そんなのは嫌だ。
絶対に。

だから、私が消えれば、と。
そう思った。
少なくとも私が消えれば、私はこの人と戦わなくて済む。
私が、この人を殺してしまう事は無くなる。
でも、そんな事は多分ただの言い分けでしかない。
単純に、怖い。

今のこの幸せが、粉々に崩れてしまう日が来るのが、とてつもなく怖い。
そこから逃げようとしている自分。
何も出来ない自分。

でも。
この人は言ってくれた。


―――――――――――守る、と。


そんな、そんな私を。
何があっても、世界の全てが敵に回っても、俺は桜の味方だって。
こんな、こんな私を。


―――――――――――守る、って。


言ってくれた。
抱きしめてくれた。

その言葉は、今も覚えてる。
その情景は、今も思い出せる。

雨に濡れて、手足の感覚も無かった。
でも……

息は白く、自分の鼓動さえ残り僅かだと感じる。
でも……

響き、耳に届く音も、殆ど聞こえない。
でも……

――――桜がどれだけ悪い奴かはちゃんと分かったから。

でも……

――――俺が、桜を守るよ。

その声は、ちゃんと耳に届いた。
その温もりは、ちゃんと私に届いた。

その言葉通り、私を守り、今も守ってくれてる。

信じられないわけじゃない。
この言葉以上に信じられる物なんて、私は知らないし、知ろうとも思わない。

それに、純粋な力関係で言えば、魔術師として彼は私には到底勝てない。
魔力量の差。
魔術の種類。
威力。
聖杯戦争が終わり、サーヴァントとして現世に残ってくれているライダーを行使す
るまでも無く、それは明らか。

だけど、その強さはそんなものでは測れない。
そのあり方は、誰よりも強く、誰よりも弱かった。

この人が救おうとしたのは私だけ。
私を救えたのは彼だけだった。

そしてまた、怖くなる。

もし、もしも、あの時、私だけの味方になる、と。
そう言ってくれなかったら……と。
あの時、私を追いかけてきてくれなかったら、私を見つけてくれなかったら、と。

不意に、頭を過ぎる言葉。
思い浮かべるのは常に最悪の選択肢。
浮かんでは消える、

多くの

―――――――――――兄さん。
   
   人々の

―――――――お爺様。

           顔と声

―――姉さん。

              そして、言葉。


その、言葉。


――――――正義の、味方。


いつも彼が口にしていた言葉。
自分の周り全てを、自分の手で守る。
悪を倒し、強気を挫く。
そんな、理想めいた呪いの言葉。

矛盾を背負っている歪な生き方。

いつもそうだった。
どんなの冗談めかしていても、この人はいつも自分の事を計算にいれずに行動して
いた。
それが、当たり前。

どれだけ笑っていても……思いは変わらず。
どれだけ優しくされても……心は、いつも同じ言葉を吐き出す。

――――本当に?
――――私でいいの?
――――私は、この人の、隣に……?

居ても、いいのだろうか、って。

何度も。

私なんかよりも、相応しい人が……いるんじゃないか、って。

何度も。

もしあの言葉をなぞった生き方をするのであれば、間違いなくその道の上で私は最
もと言ってもいいほど大きな障害となるはず。

何度も何度も。

そんな、私が……私、なんかが……。

考える。
でも、いつも答えは出ずに、私は思考を押し潰す。

例え、私がその道を塞いでいたとして。
きっと、またこの人は悩むのだ。
悩んで、苦しんで。
きっと私にはこう言うだけ。

―――――大丈夫、と。

隠し切れないはずの痛みを隠して。
全てを守ろうとするのだろう。

相容れない。
私がいれば、きっとこの人を不幸にしてしまう。

全てを破壊してしまった私が、全てを守ろうとするこの人の傍に居るなんて………
なんて、矛盾。

私は、この人にとっての――――――――――悪、そのものなのに。

違う。

搾り出すような否定の言葉。
対する相手など存在しない事も忘れて、私はただ叫び続ける。

違う。
チガワナイ。
違う。
チガイハシナイ。
違う、違う、違う違う違う違うちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちが
うちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう―――――――――
―――――!!!!!!!!!


―――――――チガワナイ。


「―――っ!!」


………嫌だ。
絶対に嫌だ。

体が震える。
押さえつけようとしても、言う事を聞かない。

私にはこの人の隣にいる資格なんて無い。
私はこの人の隣にいてはいけない。

違うっ!!
違わないっ!!

私は……ただ傍に居たかっただけ。

―――無駄だ。

そんなこと無いっ!!

分からないのか?
お前の存在が、この人を苦しめている……と。

私は……大切な人達の傍に居たいだけ。

―――諦めろ。

嫌……絶対に嫌。

あの言葉。
私の心の氷。
それを優しく溶かしてくれた、あの言葉。
それを……裏切るなんて―――――。


――――――――っっ!


かき消しても振り払っても、そんな声は消えない。
いつもいつも自分の声で、心の一番深い部分から、それは語りかけてくる。
重く、苦しく、哀しい声で。
心は既に痛みさえ感じている。
それは、今だけではない。

逞しい腕に抱かれているときでも。
一緒に台所で食事の準備をしているときでも。
のんびり縁側でお茶を飲んでいるときでも。
そして、こんなありきたりの帰り道の風景でも。

ふと、思ってしまう自分がいる。

彼は確かに私を救ってくれた。
私だけの味方になってくれた。

でも、そうであったとしても。
この不安は、いまだこの胸に息づいている。

深く、深く。
まるであの”虫”のように。

「―――――」

視線を動かして、その横顔を見つめる。
重い荷物を運んだ所為か、少し汗ばんでいるように見えるその顔。
そんな顔と、自然に目が合った。

「――――ん、どうした?」
「ぁ――――――いえ……」

自分でも不自然と分かる。
でも、その時の私に、その瞳を直視する事など出来なかった。

慌てて目を逸らし、俯いてしまう。

――――悪い、癖。

私はいつも都合が悪くなると、相手と視線を重ねていられなくなる。
それは、一種の自己嫌悪。
同時に目の前の人、物事からの逃走だった。

嫌になる。

その繰り返し。
終わりなんて無い。

目を逸らしてしまう理由、そんなのは簡単。
逃げてしまえば、それ以上誰かに干渉されて、それ以上苦しむ事なんて無くなるの
だから。
それで、いいの?

また、別の声。

いいの、いいのよ。

違う。
よくないっ!!

もう、いいの……。

違う。
私はっ、私は………。

違う。


――――――私は………私は――――――!!!!!


「―――――――桜っ!!」

「っ!?」

そんな声に、思わず目を見開いた。

いつの間にか、抱えていた荷物を降ろし、こちらをじっと見つめている、その瞳。
深刻そうな顔で、じっと私を。

それくらい表情に現れてしまっていたのか。
また、心配かけてる……。

動けなくなる。
その輝きに。
夕日を纏い、半紅に染まった二つの光は、私の体をいとも簡単に拘束していた。

邪眼でも、ましてや魔眼でもないそんな瞳に………。

――――私………見とれて、る?

綺麗だった。
そう、この輝きは……同じだったから。
丁度この季節、始めてみたあの光景に、よく似た夕日の光。
この光を。
叶う事の無い望みに、挑み続けるあの姿を。

美しい、と。
何よりも先にそう感じた。
感じていたのは他でもない自分。

ブラックホールのように開いた穴に、差し込む光。
鮮明に、心を包んでくれる、その光。

だから、

「―――――桜」

そんな当たり前の言葉が。

「――――せ、ん」

こんなにも。

「ぱ、い……」

こんなにも。
こんなにも。
こんなにも。

「―――――せん、ぱい」

ただ名前呼んでくれる。
それだけなのに。
こんなにも、私を。

「…………」
「せん、ぱい……?」

ふ……っと。

何かが切れる感覚。

それだけだった。
まるで何事も無かったかのように、その人は荷物を抱え直し、また家路に戻った。

怒って……る?

そう感じさせるほど、その背中は、熱く、どこか声をかけづらい雰囲気を纏ってい
た。












「―――――桜」
「はい? 何ですか先輩」

夕食が終わった後、不意に名前を呼ばれた。
まだ洗い物の途中という事もあり、声だけの返事になってしまう。

でも、振り向く必要なんて無かった。

ぇ―――?

すっ……と。
寄り添うように佇む淡い熱。

「せん、ぱ―――」
「俺が洗うから、桜は拭いて棚にしまってくれ」
「あ、はい……」

少しだけびっくりした。
いつの間にか、触れ合うような距離にいるんだから。
いつもは奥手と愚鈍の極みの癖に、こういった時に見せる、中途半端な積極性は、
結構厄介な代物だ。
―――――というのは姉さんの言葉。

でも、私も思わず納得してしまう。
いつもは近づいただけで顔を赤くしたりするのに、不意に不意打ちを食らわせてく
るんだから。
まぁ、不意に食らわせるから不意打ちなんだけど……。

でも、そう言うときに限って本人は全く気付いていない。
性質が悪い……でも、そこもまた、数多いこの人の魅力の内の一つ。

「………うし」
「終わりましたね」

そうこうしている内に無事洗い物も終了。

二人で居間へと戻り、並んで腰を下ろした。
ライダーは姉さんの家にいて、藤村先生は今日は来ていない。

自然と、二人きり。
静かに、肩を並べる。

何も言わない。
何も言ってくれない。
何も聞こえなくなる。

怖い。

また、そう思った。

このまま何も聞こえず、何も見えず、何も感じなくなるのではないか。
そう思ってしまう。
何を馬鹿な事を―――とも思う。
でも、否定しきれない。

帰り道と、同じ。

また………聞こえる、声、それは―――――


「――――――大丈夫」


―――――やっぱり暖かくて。

「っ………ぁ」

砕けた。
流氷が氷解するが如く、音を立てるように。
堰を切ったように、流れ出す……それは、とても暖かい――――

「ぁぁ……」

――――答えが、そこに。











目を開ける。
あれ……暗い。
どうしてだろう……目、悪くなったのかな?

すぐにそうでない事に気付く。
暗いのは当たり前だ、部屋の電気が消えているのだから。
でも、どうして…………ぇ?

何故か横になっていた上半身を起こして、両手をごそごそと動かしてみた。
感じる違和感。
異物の感触。
で、それもすぐに何か分かった。

「ぁ――――せん、ぱい?」

返事は無い。
徐々に闇に慣れていく視界。
色までは分からない、でも、輪郭と素肌の手触り、それだけで十分。

指先から伝わってくる熱。
とても心地よく、テンポの良い鼓動。
あれ………先輩? ………ぁ。

すぅー すぅー と。

眠ってる。
先ほどの違和感は、この人の腕。
ん………?
素肌の手触り………ぁ。

裸。
もう完全に全裸。
よく見れば一つの布団に二人で入って……あ、そうか、あの後私―――

泣き叫ぶように抱きついて、そのまま………。

自身をもう一度逞しい体の隣に横たえて、閉じている瞳と視線を重ねた。
こうしていれば素直にこの瞳を見る事ができる。

この人はいつだって私だけを見ていてくれているというのに。

この人はいつだって自分だけを犠牲にして私を守ろうとするのに。

正義の、味方。

小さく呟いてみた。
小さな子供が口にするような幼稚な言葉。
でも。
この人にとっては、何よりも勝る聖なる呪いの言葉。

目に映る全てを守る。

私だけの味方。

矛盾する思考に………また、怖くなる。

分からなくなる。
この人はどう思っているのか。
分かっている筈の答えが、靄が掛かったように嘘に見えてしまう。

どちらなのだろう。
私は……傍に居てもいいのだろうか。
私は……傍に居たい、離れるなんて考えられない。
私は……私は―――――――!!!!!

「ぇ――――? きゃっ!?」

一瞬、目の前が揺れた。

「ぁ……ん」

次に体を包むのは、自分よりも遥かに高まった熱と、苦しいくらいに力を込め、私
を抱き寄せている、もう一つの体。
胸が押しつぶされ、背中に回された腕はさらにその距離を縮めていく。

「……せんぱ、い」

本当に、包まれている。
嫌な思考の全てが、その熱と、伝わる鼓動と、耳元に掛かる吐息にかき消されてい
く。
届く、言葉。

「桜………俺じゃ、駄目か?」
「ぇ―――?」

今、この人は何と言ったのか。

――――俺じゃ、駄目?

何が?
いや、もうそんな事は分かってる。
そんな、そんな質問も答えも分かりきった事を、今更ここで私に言うんですか?

「桜……」
「先輩……どうして…」
「ぇ?」
「どうして……そんな事言うんですか?」

一瞬だけ表情を曇らせたのが、伝わったのか、目の前で私を見つめている顔も、次
第に険しい物へと変わっていく。

「私は……私は先輩さえ居ればいいのに……傍に居れれば……それだけで……」
「じゃあ……どうしてだよ」
「ぇ?」

今度は、私が聞かれる番だったようだ。

「どうして…どうして俺には何も言ってくれないんだ?」
「せん―――」
「言ってくれよ……俺が居るから、大丈夫だからっ……だから……俺の前では、泣
いてもいいから………弱くなっても、いいから……俺が――――」


――――――桜を守るから。


その言葉を聞いた時、不意に思い出した事あった。

それは、やはり言葉。
風景とかは思い出せない、ただ聞こえる音が、声に似ていただけ。


―――――桜。


私の、名前。
呼んでいるのは――――――


「絶対に……離さないから」

何処までも優しい言葉。

「先輩……」
「ん?」

この時、ようやく私は、ちゃんと”想い”を話し始めた。

「………私、怖い、んっく……です……怖、くて……怖、く、て………」
「俺じゃ……助けられないか?」
「そん、っなことっ、そんなことっ!! ………ある、っく、っ、わけ、ないじゃ、
ないですか……」

そう、そんなことあるわけない。
私を救えるのはこの人だけ。
絶対に、それだけは間違い無い。
でも、でも……貴方だからっ!!

「―――ごめんな」
「ど、どうして先輩が謝るんですかっ」
「桜が辛い思いをしてたのは知ってたのに、気付いてたのに……俺……」

また、繰り返すのか、と。
今度は気付けてたのに、と。

自分を戒めるような、そんな言葉が聞こえる。

違う。
違います。
違うんです。

「桜――?」
「先輩は……私の傍に居てくれてます………それに、ちゃんと今、私を包んでくれ
てます……だから、そんな顔をしないで。そんなに自分自身を卑下しないで下さい、
お願いです……私が、間桐桜が選んだ貴方は…………絶対にそんな人じゃありませ
んから」
「――――」

何も言わない。
何も言わずに、聞いてくれている。

「私は貴方が好きです。先輩がこの世の何よりも大切で、愛しくて………。私を救
えるのは先輩だけなんです。他の人なんて本当はいらないっ! 姉さんも、先生も、
ライダーもっ!! みんな居なくなっても構いませんっ!! 私は、私には………
先輩が、貴方が居てくれれば………それだけで」
「――――」
「……でも、怖くなるんです……私は本当に、この人の隣に居てもいいのかなって。
私なんかが傍に居れば、この人はまた危険な道に足を踏み入れてしまうかもしれな
い、また、あんなに血だらけになってしまうかもしれないっ、もしかしたらもっと
酷い事になるかもしれないっ!!」
「――――」
「先輩、ずっと言ってましたよね? 正義の味方になるって……助けられる人は、
手が届く人なら、絶対にみんな助けてみせるって……でも、今の先輩は矛盾してま
す……私だけの味方になっちゃったら……、セイギノミカタじゃなくなっちゃいま
すよ? それに、先輩が正義の味方になったら、わ、私は……きっと、先輩の敵に
なっちゃいます……先輩と、戦う事になっちゃうかもしれません……そんなの、そ
んなの………もう、もう二度と―――――!!!」

目が合う。

「――――ごめんな」
「私怖いんですっ……やっと、やっと全部終わって……こ、これからだっていうの
に……姉さんもいて、先生もいて、ライダーもいて……………先輩も、ちゃんとこ
こに居てくれて。何も他に欲しい物なんて無いのに。今が続いてくれればそれだけ
でいいのにっ………でも、でもっ、私、不安になるんです……貴方の言葉に、笑顔
にっ!! 優しい声に、暖かい温もりに、大好きな、貴方にっ………」
「桜………」
「ん――」

一瞬だけの口付け。
でも、その柔らかさ、愛しさは、私の言葉を一旦中断させるには十分だった。

「馬鹿だな」
「先輩……?」
「何一人で全部背負い込もうとしてるんだよ……馬鹿桜」

また、唇を重ねる。
今度は少しだけ長く。

「いいか? 俺は桜を守るって決めたんだ……これはあの時にちゃんと言っただろ
う? 何があったって、俺は桜の傍に居る。俺はちゃんと気付いたから……みんな
が、気付かせてくれたから。俺は、もう迷わないから、だから―――」

――――もう、泣くなって。

震えが、止まらない。
歓喜が、止まらない。

「先輩、先輩っ………!」

こちらからも抱きしめる。

でも、ちゃんと顔が見えない。
ぼやけて、霞んで……。
でも、声はちゃんと聞こえる。

「俺は、桜だけの味方になったんだ。でも、別に親父の夢を裏切ったわけじゃない
ぞ? 桜を守る事が、俺の夢の形。何も救えなかった親父に誇れる、俺だけの夢。
当たり前だろ? 桜は、俺が一番大切にしている人なんだから………な?」

その笑顔。
もう、止められなかった。

「ぁ、せん、ぱ………うわあああああぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁあああああああ
あああ」

この時だけは、誰の顔も見たくなかった。
ただ、抱きしめてくれるだけでよかった。
この人は、もちろん、ただ―――私が泣き飽きるまで抱きしめてくれていた。




それから………何を話しただろう。

多分、何も話すことなく、私はまた思いっきり泣いたんだと思う。

でも、哀しくは無かった。
嬉しいのとも、少し違っていたように思える。

何か、とても長いトンネルを抜けた、そんな、視界を埋める白眩しさだけが印象に
残っている。


―――――――――大丈夫。


どこかで、そう聞こえた。


朝の光に目覚めて、まるで最初から一つであったかのように、熱の残る体を重ねる。

聞こえる。
伝わる。

思えば……ずっと。
あの時から……ずっと。

この情景を。
この風景を。
この、場所を。

私は思い浮かべていたのかもしれない。

思えば……ずっと。
考えれば……もっと。

この場所を。
この空気を。
この……人を。

私は探していたのかもしれない。

「あの……?」
「ん?」

そう問い掛ける。
ちゃんと起きてる。

「一つ……聞いてもいいですか?」
「ああ」

ちゃんと返ってくる答え。

「私は……私は――――きゃっ!?」
                 
ぎゅって、された。
それだけで熱が何倍に何十倍にも膨れ上がっちゃいそう。
でも、そんな風にしてもらえる事が。
そんな風になる自分が。
今はとても愛しい。
とても。
そして、

耳元で聞こえた、何でもない言葉。
それは、一つの魔法だったのかもしれない。

「決まってるだろ?」
「ぇ――――」

想いが、嬉しさが、溢れる。

「私……」
「桜、もう、大丈夫だから。桜の居場所は、俺の隣。ここに決まってるだろ? そ
れとも、ここじゃ不満か?」
「ふぇっ? ―――ぃ、いえっ、そんな事絶対に無いですっ!」

そこで、ちゅっ、って。

「ぁ――――」
「じゃあ………ちゃんとここに居てくれ」

「ぇ、ぇと………はい」






                         <FIN>









〜〜あとがき〜〜

わ、分かり難い………。orz
自分で書いていて何ですが。
う〜〜んう〜〜んう〜〜ん………うっきゃああああああああ!!!!(逃

一応HFトゥルー後ということで。
突っ込み所満載かと思いますが、
出来るだけお目こぼしをしていただけると嬉しいかと。(更逃

ぷっちぷっちぷち桜〜〜♪(壊


で、ではまた修行の放浪へと。
末丸