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『澱・檻・折』

 作:しにを




「兄さん、ご気分はいかがですか?」

 その声で、志貴は頭を上げた。
 機敏な動きではない。
 のろのろとした、緩慢な動き。

「秋葉……」
「そうです、兄さん」

 問いともつかぬ兄の言葉に、秋葉は頷く。
 そしてそのかすれた響きに眉をひそめる。
 
「声が……。
 喉が渇いているのですね?」

 志貴は答えない。
 もしかしたら、怪しむような目をしていたかもしれない。
 秋葉には見て取れなかったが。

「大丈夫です、騙まし討ちするような真似はしませんよ。
 私はあくまで、兄さんがご自分の意志でしてくださるのを望んでいるのです
から」

 秋葉の声に、今度は皮肉さを漂わせて志貴は答えた。

「……こんな目に合わせ…て、何が」
「お水、いりませんか?」
「……」

 志貴は答えないが、秋葉は同意と察する。

「少し待って下さいね、兄さん」

 秋葉は手にした水差しを、直接自分の口に当てた。
 水差しが傾き、中の水が口に流れ込む。
 頬が軽く膨れるまで口の中に含むと、秋葉は屈みこんだ。
 椅子に座っている志貴に対し、秋葉は立っている位置関係。
 兄を見下ろす形。
 その視線の差がほとんど縮められた。

 秋葉の水に濡れた唇が、志貴の乾いた唇に近づく。
 ほんの僅かにわなないている唇が、を兄のそれに触れる。
 押し付け、志貴の顎に手をやり上を向かせる。
 志貴も意図を察して、それに素直に従った。
 
 秋葉が含んでいた水が乾いた志貴の口中に送られる。
 志貴の喉が動く。
 僅かに唇から垂れた水が顎を伝う。

 秋葉の唇が離れる。
 志貴の口に半ば突き入れられていた赤い舌が、踊るように戻る。
 もっとと渇望するように志貴の口は開いたまま。
 その親を待つ雛鳥のような様に、秋葉は嬉しそうな笑みを浮かべる。

 再び、口移しで水を飲ませる。
 二度、三度と繰り返し、水差しを置く。

「こんなに、垂らしてしまって……」

 秋葉は呟き、口元と顎に垂れている水滴を舌で舐め取った。

「これで、少しはお話する気分になれましたね。
 兄さん、どうですか?
 わたしのお願いを聴いていただけますか?」
「断る」
「即断ですか。意外と頑固ですね」

 呆れましたという口調。
 それに対し、志貴の唇が歪む。
 おそらく、睨むような表情なのであろう。

「……こんな真似をされて、はいと言える訳がないだろう」
「それは、違いますよ。
 兄さんがはいと言わないから、こんな真似をしなければならないんです」
 
 こんな真似……、志貴の姿と、この部屋とを、秋葉はゆっくりと見回す。
 椅子に後ろ手に縛られ身動きが出来ない志貴の姿。
 厚い布で目を覆われ、視界も完全に奪われている。
 何処とも志貴には知れぬ一室。
 さすがに地下室などではないと空気でわかるが、普段は使われぬ部屋なのだ
ろう、空気は澱み、どこかすえた匂いすら漂わせている。

 資格を奪われた志貴には関係の無い話ではあるが、厚くカーテンが窓を閉ざ
し、光をほとんど通さない。
 秋葉が扉を開き、明りを点すまで、その暗く閉ざされた部屋の中に志貴は閉
じ込められ、長いこと放置されていた。

「少し弱らせてみたら素直になってくださると思ったのに……。
 何も食べないと、体に悪いですよ」

 どこか非難めいた響きすらある秋葉の言葉。
 間近にそれを聞いていると、もしかして悪いのは俺の方なのか、志貴の頭に
そんな疑問が湧き、慌てて振り払う。
 正常な判断がつかなくなりつつあるのかと軽い恐怖が浮かぶ。
 
 押し黙っている志貴に構わず、秋葉は次の行動に出た。
 志貴は秋葉の手が自分の後頭部に触れているのを、感じた。

 ?
 疑問符が形になる前に、刺す様な光に目が悲鳴を上げた。
 慌てて志貴は目を瞑り、ゆっくりと薄目を開けながら慣らしていく。
 視界を覆っていた目隠しの布が外されていた。

「下手な真似はなさらないで下さいね」

 秋葉の囁き声に志貴は慌てて頷いた。
 そうしている間にも目が外に慣れてきた。
 何処かは知ない部屋。
 ベッドがあってそれなりに立派なタンスや棚が一面に並べてある。
 その真ん中の椅子に座っているのだとわかった。

「どうして、私のお願いを聞いて下さらないんですか?」

 背後からの秋葉の問い掛ける声。
 まだ屈んでいるのか、耳元近くから声が届く。
 
「だって、そんなのあたりまえだろう?」
「どこがあたりまえなんです?
 普段の兄さんは、私からすれば抵抗を感じるような事を平気でなさるじゃな
いですか。
 秋葉のものなら平気だよって仰って。
 体中をくまなく舌を這わせて、私の恥かしい処も全て嘗め尽くしたり。
 嫌がる私に無理矢理に目の前でおしっこをさせて、挙句にまだ滴っている私
のあそこを嬉しそうに舐め取ったり。
 キスして舌を吸って、口の中の唾液を啜ったり、上から垂らさせたり。
 それに……、あれだけはさすがに泣いて止めましたけど、私が始まったのを
知って、見せろと言ってそれから……。
 なのに、どうしてこれだけはダメなんです?」
「だって……」

 強い口調の秋葉に対し、志貴は口ごもる。
 もとより明快な答えが返るとも思っていなかったのだろう。
 気にした様子も無く、秋葉はつと立ち上がった。
 そして志貴の目の前に回ると、無言でスカートの裾を捲り上げた。

「秋葉……」

 志貴は驚き目を見開き、しかし秋葉から目を離せない。
 ほっそりとした白い脚が露わになっていく。
 形の良い膝、そして艶かしい腿。
 腿の付け根まで剥き出しにして、秋葉は手を止めた。

「見て下さい、兄さん。
 何もスカートの下に穿いていないんですよ」
「……」

 志貴は息を呑んだ。
 もし、縛り付けられていなければ、立ち上がっていただろう。
 それでも身を乗り出し、秋葉のそこを覗き込もうと体が動いている。

 腿の合わせ、立ったままの姿勢故にはっきりとは見えないが、閉じられた谷
間が薄紅の線となって、ほんの僅か中を覗かせている。
 明らかに周りの白い肌とは違った色づき。
 美しくも生々しい秋葉の女の部分。
 そしてその谷間の上に、異物があった。
 
 そこに、それがある事は承知している。
 それ自体はよく熟知していると言ってよい形状である。
 それでもなお、強烈な違和感。
 頭がくらりとするような酩酊感にも似た感覚が生じる。
 
 秋葉のその姿に。
 秋葉にそんなものが付いている事に、
 女性器のすぐ上に、男性器を生やしているその姿に。
 魅惑的な秘裂と共に、ペニスが誇らしげに屹立している様に。

「当然ですよね、普通のものではこんなのを収められませんもの。
 まだ小さいままなら、いいですけどね」

 右手を離し、ペニスに手を添える。
 そっとゆっくり二度三度としごいてみせる。
 
「こんな風になったら、女もののショーツではダメですからね。
 ほら、もうこんなになっているんですよ、兄さんのそんな姿を見ただけで。
 いえ、もしかしたら、今日こそは兄さんにして頂けるのではないかと期待し
たて、部屋に向かう間にもう、こんなにいやらしく……。
 何もしていないのに、秋葉はこんなにおちんちんを……、痛いほど勃起させ
ているんですよ」 

 ゆるゆると手を動かしながら、熱っぽい口調で秋葉は話していた。
 そして、片手でスカートを持ち上げているのをもどかしく感じたのだろう、
はらりと脱ぎ捨ててしまう。
 腰から下が完全に裸となり、細い女体に不釣合いな勃起したペニスが生えて
いる様がよりはっきりと現れた。

 うっとりと夢見るような口調。
 志貴を見ていながら、同時に何か他のものを見ている顔。
 そして、ただ手を添えて動かしているだけだったペニスへの軽い愛撫が、そ
の程度を強くする。
 ほっそりとした指が幹に巻きつくように力を込められる。
 掌の角度が変わり、ぎゅっと幹を握る。
 撫でるような動きが、根元から先端近くまでをしごき上げる動きに変わる。

 妹の、男としての自慰行為に志貴は目を奪われた。
 ある意味グロテスクで、それでいて淫靡で壮絶な美にも満ちた姿。
 口の中をからからにしながら、志貴は魂を抜かれたように見つめる。

 紅く充血した亀頭の先から、とろりと露液が滲んだ。
 秋葉の手の動きとは別に、ペニス自体がびくびくと弾むように動いているの
が見て取れた。
 とろんとした秋葉の目と、荒げた息。
 むずむずと動き震える腰。

 あ、イクのか……。
 秋葉の絶頂の瞬間を志貴は瞬き一つせずに見守る。
 このまま秋葉が迸らせたら、目の前に座している自分がどうなるのかという
判断力は微塵も無い。
 
「ああッッ、にいさ…ん……」

 切なげに秋葉が声をあげる。
 その刹那、激しく体が震える。
 秋葉のはちきれそうなペニスから驚くほど多量の精が放たれた。

 しかし、志貴にとって幸か不幸か、その瞬間は秋葉の手によって遮断された。
 素早く、もう一方の手が、亀頭の先を遮るように広げられ、そこにぴしゃり
と精液は弾け散った。

 文字通りのイッてしまっている顔。
 それは呆けたようにも見えるが、絶頂の様を露わにした秋葉は壮絶な美しさに
満ちて、そしてなんとも淫靡だった。
 絶頂の余韻を味わうように秋葉は身じろぎ一つしない。
 目の前の志貴も見えいてないのか、虚ろな目は焦点を失っていた。

 しばらくその状態のままだったが、ようやく目に光が戻り、落ちそうに曲げら
れた膝が真っ直ぐになった。
 
 いまだ衰えぬペニスを握ったままだった手がのろのろと動く。
 二度、三度とゆっくりと幹をしごきあげた。
 根本から先端へと揉み送るような動きで、真っ赤に充血した亀頭の先から、ぷ
くりと白濁液の残滓が珠状になって浮かび、そしてつうーっと糸引くように下へ
と垂れた。
 垂れて、下で受け止めようとしていた掌に落ちる。
 既に精液溜まりとなっている掌に付着する。

 秋葉はまだ鈴口に残る滴を指でちょんと突付き、そしてその手を顔のすぐ傍に
近づけた。
 形の良い鼻梁が小さく動く。

「ふふ……」

 花の匂いでも楽しんだように、口元に笑みを浮かべ、秋葉はためらい無く自分
が吐き出した精液に舌を伸ばした。
 ぴちゃぴちゃと音がする。
 志貴に見せつける様に舌を動かし、精液を舐め取っていく。

 音も仕草もさながら、仔猫がミルクを舐めるよう。
 しかし、そんな微笑ましいものとはまったく異質な淫猥なる光景。
 志貴は赤い舌が白い精液に汚れては口中で拭われ、また精液を絡める様を、呆
然と見つめていた。
 目を背けたい、そして目を離せない、相反する想いを生じさせる妹の姿。
 
 志貴の視線を感じながら、秋葉は最後の一滴まであまさず舐め取り、そして満
足そうに小さく息を吐いた。
 
「美味しい……。
 どうにかなってしまいそうな程。
 兄さんは、知らないでしょう、薫り高い精液がどんなに美味しいものなのか。
 自分のものですら、これほどに……」

 ほんのりと酔った様な口調で秋葉は語り始めた。

「でも、兄さんのはもっともっと美味しいんですよ。
 当然ですよね、私の愛する兄さんの精液ですもの。
 それも、口の中で出して頂いたのをそのまま呑む時の素晴らしさ。 
 舌を弾く勢いで飛び出して、口の中いっぱいに広がって、むせ返るほど濃い。
 そして喉にねばっこく絡むのを、呑み込むあの感触……。
 兄さんが私のお口で気持よくなってくださって、そして最後まで達した証を味
わい呑み込む……、あの時、どんなに幸せな気分になれるか……」

 陶酔の表情で秋葉はうっとりと喋り続ける。
 一種異様なまでの迫力があった。
 志貴に聞かせると共に、自分自身を高めるほどに熱が入っている。

 はぁと溜息をつき、数秒口を閉じる。
 そして秋葉は身を乗り出すようにして強い口調で志貴に言葉をぶつけた。

「だから、一度で結構です。
 私の精液を、兄さんにも味わって欲しいんです。
 口の中に迸らせた熱い精液を、兄さんに飲んで欲しいんです」

 爛々と目を輝かせて秋葉は叫んだ。
 そして志貴の返事を待たずに言葉を続ける。

「それに、兄さんも私に飲ませるのが、お好きではないですか。
 意地悪して飲ませてくれない事もありますけど。
 どんなに懇願してもダメで、あそこの中に出されたのを指で掻き出してしゃぶ
ってるのを笑った事がありますよね、兄さんは。
 それにもう少しで出るという時に、秋葉の口じゃ物足りないとか言って抜いて
しまったり。それから私、恥かしいけどいろいろと勉強して兄さんを満足させる
ように、どれだけ口戯の方法を練習した事か……。
 でも私がまだ慣れていない時から、兄さんは私が飲み込むのを凄く嬉しそうに
して感激していたでしょう。
 今の私にはそれがよくわかります。
 兄さんに飲んで貰ったら、どんなに、どんなに嬉しくて感動する事か。
 だから、兄さん、私の……」

 勢い込む秋葉に志貴は怯み、しかし首を振りつつ返事をする。

「ごめん、秋葉。それだけは勘弁してくれ」
「……」
「他の事なら何でもする。
 でも、いくら秋葉のだと言っても口の中で射精されて、おまけにそれを飲むな
んて、嫌なんだ。それだけは許してくれ。頼む」

 高揚がふっと消えたように、それどころか反動でマイナスまで針が振られたよ
うに、秋葉の表情が暗くなる。

「どうしても嫌なんですか、兄さん?」
「嫌だ。このままもっと長いこと放置されたとしても、それだけは嫌だ
 こんな、気持ち悪いこと」

 嫌悪の表情で志貴は言い放つ。

「そうですか。
 兄さんは……、私がどれだけお願いしても……」

 秋葉の呟くような声の語尾が震える。
 なんだ、今度は泣き落としか。
 そう皮肉ろうとして、志貴は言葉を噛み殺した。

 秋葉の目から涙がこぼれていた。
 泣き真似の演技ではなく、本物の涙が。
 ほろり、ほろりと。
 そして、あれほど屹立していた男のモノが、小さくうなだれていた。
 いや、それよりも秋葉から漂う悲痛なまでの雰囲気。 
 
「そうですよね」

 呟くような小さい声。
 秋葉は立ち竦んで志貴を見つめている。
 涙が流れているのに気付いていないように、拭おうともしない。

「気持ち悪い……。
 本当、そうですよね。
 こんな女なのに、男のものを生やしている姿。
 それを嬉々として兄につきつける妹。
 兄さんが顔を背けるのは当然です。
 私だって、目覚めるたびに今までの事は馬鹿な夢だったのではないかって期
待しているんですから。
 でも毎朝毎朝、その期待を裏切られて……」
「秋葉、そんなつもりじゃ……」

 秋葉は志貴の言葉に首を左右に振る。

「いいんです。
 今更取り繕われたら、もっと哀しくなります」

 手で涙を拭い、秋葉は笑みに見えぬ笑みを浮かべようとした。

「私、このままだったらどうなるんだろうって……。
 不安で不安でどうしようもなくて、だから……、だから無理にでも兄さんに
して欲しいのかもしれません。
 兄さんにされたらどんなに幸せだろう、そう想う気持ちも強いです。
 でも、それよりこんな体でも、兄さんが私の事を愛してくれるのだと、私の
無理なお願いを聞いてくれるんだって確認したくて、それで私……」

 胸から血を流すような秋葉の告白。
 聞いている志貴の心にも、それは刺すような激しい痛みを与えた。
 
 顔を伏せたまま秋葉は黙った。
 志貴もすぐに声を出す事無く、しばしの沈黙が二人を包んだ。
 そして……。 

「秋葉、これ外してくれないか」

 静かな声。
 これまでのようには、怒りも恐怖も懇願といったものを何も含まない声。
 平静な志貴の声。

 秋葉は顔を上げた。
 志貴がまっすぐに自分を見つめている瞳と視線を合わせる。
 それ以上の言葉を志貴は口にしなかった。 
 しかし秋葉は吸い寄せられるように志貴に近づき、手の拘束を解いた。
 その声に、その志貴の目に魅せられたように。

「少し手首が痛いな」

 両の手首を摩りながら、志貴が呟く。
 座ったままで強張っている脚で、恐る恐る立ち上がる。
 それを秋葉は子供のように怯えた顔で見ている。
 志貴はそろそろと数回足を動かし、秋葉の前に立った。
 そして秋葉の手を自分のそれで包んだ。

「馬鹿だな、秋葉は」
「兄さん……」
「俺が秋葉の事を、嫌いになったりする訳無いだろう?
 こんなのがついていたって秋葉は秋葉だよ」

 秋葉の体を引き寄せ、抱擁をする。
 志貴の行為に秋葉はただ黙って従っている。
 涙を浮かべた目で、志貴の顔だけを見つめて。

「どうしても、精液を口にするなんて抵抗があっただけで、秋葉自身を拒む
なんて……、そんな事絶対にないよ」

 そう言いながら唇を合わせる。
 まだ精液の残滓が残る秋葉の口中を、舌で優しく探る。
 頬を口蓋をくすぐる様に動き、そして秋葉の舌に絡ませる。
 おずおずと秋葉もまたそれに応じて自分の舌を絡めた。
 
 小さくぴちゃと濡れた音がする。
 悩ましげに秋葉は目をつぶり、兄の舌を受け入れ息を吐く。
 抱かれている肩が落ち、強張っていた腕がだらりとする。
 志貴が唇を離した時には、兄の支えなしにいられぬほど脱力していた。

「普段、こうしているんだものな。
 秋葉が俺のを熱心にしゃぶってくれた後、秋葉のどころか自分の出したの
が残っていて、まあ少しは気になるけど構わずにキスだってするのに……」

 もう一度、ちょんと軽く唇を合わせる。

「にべも無く拒否しちゃいけないよな。
 それにいつも秋葉にして貰っているのに、逆はダメってのは不公平かも
しれない。いや、不公平だな。
 口に合わなければ一度で勘弁してほしいけど、試しもしないのは……」

 そこで志貴は言葉を止めた。
 秋葉は息を呑んで、次の言葉を待っている。
 まさかという、しかし期待を目に宿した表情で。

「いいよ、秋葉がそれで気がすむのなら。秋葉のをしてあげるよ」
「兄さん……」

 ぽろぽろと涙が秋葉の目から落ちる。
 さっきよりも激しく、雫が落ちる。
 志貴はそれを指で拭いながら、耳元でゆっくりと囁いた。

「秋葉の精液、飲ませてくれるかい?」
「はい、はい、兄さん」







 ベッドに移り、二人は並んで腰を下ろした。
 側面から足を垂らすような形。

 寄り添いながらも、二人で緊張している。
 志貴も秋葉も何かを言いかけては、相手の顔を見て黙ってしまう。
 ただ、そうして黙って座っているだけの状態に、僅かに変化が生まれた。
 秋葉の下腹部。
 すっかり縮こまっていたソレが、内心の高まりを素直に表して、頭をもた
げ始めていた。
 志貴は、くすりと笑ってそれを見つめ、秋葉は顔を真っ赤にする。

「期待しているんだ、秋葉?」
「……」

 無言で、しかし素直に頷いて秋葉は志貴の顔をすがる目で見た。
 志貴は手を秋葉の股間に伸ばした。
 その一秒にも見たぬ間に、秋葉のペニスはよりそり返り、ひくついていた。
 それに、そっと志貴の掌が触れた。

「兄さんが、私のおちんちんに触れている」

 感極まった秋葉の声。
 感動に震える顔。
 そして、志貴の手の中の秋葉のペニスはさらに張りつめた。

 志貴は、ゆっくりと手を動かした。
 しごき、擦り、秋葉のペニスに快感を与えていく。

「気持ちいい。
 兄さんの手、凄い、なんて……、ああッッ」

 髪が波打つ。
 志貴の手が、秋葉の先端からにじみ出てこぼれる腺液に、ぬらぬらと濡れ
ていく。
 それは決して好ましい感触ではなかっただろうが、志貴は気にする素振り
を見せずに、妹のペニスに手を滑らせていた。
 優しく。
 そして快感の波を途切れさせないように。

 秋葉の反応を見ながら、力を弱めたり、速く動かしたり。
 全体を動かしたと思うと、亀頭のカリの裏や筋を指で弄って甘い悲鳴をあ
げさせたりもする。
 さすがに男性器の仕組みとその勘所の把握については、秋葉より一日の長
どころではない蓄積された経験を誇っている。

 強めては弱めて幾分落ち着かせる。
 そんな行為を多彩なやり方を以って繰り返すが、だんだんと秋葉の高まり
は戻ることが出来ない領域に近づいていった。
 さっきとは違う嬉し涙を浮かべる秋葉の上気した顔、熱っぽい目を見て、
志貴は快感を長引かせるより、絶頂を迎えさせる事に重点を置いて手の動き
を変えていった。

 吐息と喘ぎ声が乱れる。
 兄の名を呼ぶ声が、意味をなさなくなっていく。
 と、突然に志貴は動きを止めた。

「え、あ、兄さん?」
「手で終わるんじゃダメだろう?」

 戸惑いを見せる秋葉に志貴は説明し、くすりと笑う。
 そして立ち上がり、秋葉の前に回ると跪いた。
 そしてあらためて秋葉の屹立したものを手で触れた。

「いくよ、秋葉……」

 志貴の面前にひくつく男性器が迫っている。
 妹のペニス。
 秋葉の今にも破裂しそうなペニス。

 およそ今まで考えたことの無い状況に、頭がくらりとする。
 しかし、志貴は内心の葛藤や逡巡を殺して行動に移った。

 舌先に、突付けば破裂しそうな秋葉の亀頭が触れる。
 目の前で見せた手淫の跡と、新たにこぼした腺液が舌に触れる。
 
 雄の匂い。
 志貴からすれば好ましくない……、いや嫌悪すら誘う匂いであり感触、
そして味。
 こんなものを秋葉はいつも……と思うが、今は自分の問題。
 今更、止める訳にはいかなかった。
 視線を上げれば、不安そうな目でこちらを見ている秋葉がいる。
 秋葉の体は緊張し硬直している。

 志貴は口を開き、一気に秋葉を口中に咥えた。
 喉をつきそうな程深く。
 えづきそうになるのを堪える。
 いまだ、口にしたことが無い感触。
 熱く、硬く、そして脈打つ棒。
 口に舌に、秋葉の雄の匂いが濃厚に満ちる。
 舌に触れた亀頭から、ねばっこい汁が垂れる。

「兄さんが、兄さんが私のを……」

 歓喜に満ちた声。
 そしてびくびくと秋葉の腰が動いた。
 来るな、と志貴は悟った。
 視線を上げる。
 瞬き一つするのを拒むように、秋葉が見つめているのに体が熱くなる。
 自分のペニスを咥えた兄を、秋葉は蕩けるような顔で見ている。

「出ます、もう我慢できない……。
 ああッ、出していい…ん、んんッです…か……、兄さん」

 ぎりぎりの処でためらいを見せる妹に、志貴は行動で答えた。
 今までで一番強く、頬をすぼめて亀頭と幹全体を強く吸上げた。
 同時に舌先で秋葉の射精を促すように、発射口をほじるが如き動きで突付く。

 一瞬の間を置いて、秋葉の深奥から熱い精液が迸った。

 さっきの手淫での射精の比ではない勢い。
 熱さ。
 量。
  
 秋葉の嬉しさの極まった叫び。
 絶頂の声。
 泣き声。
 渾然として、志貴の耳を打つ。
 言葉の一つ一つはわからないが、途方もない感動が声に宿っていた。

 口内に溢れそうなほど、生臭い粘液が満ちている。
 さっきから溜まっている唾液と混じり口からこぼれそう。
 吐き気すら伴っている。

 それなのに。
 秋葉の絶頂を口で受け止めたという認識が、
 狂おしいばかりの妹の歓喜の声と表情が、
 志貴のどこかから未知の感覚を掘り起こしていた。

 気付かぬうちに高まっていた志貴のペニスもまた、秋葉にシンクロしたよ
うに、激しく吐精し果てていた。
 志貴は戸惑いながらも、快感の残滓と共に、妹の精液を啜りこんだ……。


  《糸



「待て、待てって、秋葉。これでおしまいなのか?」
「ええ、そうですけど」
「実はこれはアキラちゃんの創作、秋葉が無理矢理書かせていたもので、秋
葉は満足して箱入上製の箔押しで紙なんかも特注の使った凄い立派な同人誌
にして云々……とか、そんな終わりじゃないのか?」
「お断りです、そんなベタベタなのは」
「だって、こんな……、嫌だよ俺は。なにが哀しくて秋葉のを」
「もう……。愛し合う兄と妹のあるべき美しい姿だと思いますけど?」
「こんな異次元の兄と妹がいるか」
「ならば、あくまで私を拒むお話がよろしい……、そう仰る訳ですね」
「当然だろう」
「では、そうですね……、あくまで兄さんは私の精液を口にするのを拒んで、
可哀想な妹は泣きながら部屋を出て行ってしまう展開に変更しましょうか。
 それ以上は妹も兄さんに強要する事も出来ず、ただ夜になると兄の処にや
って来ては、哀れにも兄さんにされていると思い込んで、自分でおちんちん
を擦って慰めるようになるとか。半ば、頭をおかしくしながら……」
「おい……」
「そして愛しい兄に、自分の愛を受け入れられずに狂っていく儚く繊細な妹
は、兄に水や食べ物与える事などを亡失してしまうんです。
 朽ちつつある兄の実像を見ながら、脳内の優しい自分を愛してくれる兄さ
んを想いうかべて、身を浮かべて精液を何度も何度も迸らせて……」
「おーい、秋葉……」
「そしてある日、飢えと渇きに耐えられなくなった兄さんは、椅子ごと体を
倒して、床に撒かれた妹の精液を舌を伸ばして舐めとる。
 夢中になって舌を動かし、唇を押し付け……。
 うん、いいですね。実に好みです。では、そういうお話に替え……」
「わかった。俺が悪かった。
 頼むから、秋葉のを飲ませて下さい、お願いします」
「……兄さんがそこまで懇願なさるなら、このままENDにします」

    冬》








―――あとがき

 兄の精液を求める妹である秋葉を引っくり返したら、やっぱり飲ませたい
のかな、と思いまして。
 本当は、上記のベタベタなオチで、同時に書いていた晶ちゃんのお話と関
連づけようかとしていたのですが、あまり面白くなら無そうなので、没。
 メタなお話とかは上手い人が書くと、面白くなるのですけどね。

 しかし、精液、精液っていったい何を書いているのだろう……と我に返る
と呆然とさせられるものになってますねえ。まだ書き終わった高揚感で、平
気ですけど。

 ……あ、よく考えたら舞台が浅上じゃないや。既定違反だな。
 場所の特定はしていないから、寄宿舎の何処かと言い張れなくもないけど。
 阿羅本さんに、ご判断お任せします。
 
 お読み頂き、ありがとうございました。

  by しにを(2002/12/25)