中華凸
練馬
久しぶりに、宿舎の屋上に登った。あの時は夜だったけど、今は日曜の昼下
がりだ。頬に当たる風が、心地良い。最後にここに来たあの夜は、突然後ろか
ら突き落とされたけど……。
ドンッ!
「――――え?」
また、このパターン?
四条つかさは、もう絶対に私に近寄らない筈なのに。
私は、四階建ての宿舎の屋上から、久しぶりに墜落した。
今度は打ち所が悪かったみたいで、私は医務室で目を覚ました。視界一杯に
羽ピンの今にも泣きそうな顔が見えた。
「あ、秋葉ちゃーん」
ベッドに寝たままの私に、羽ピンが抱き付いてきた。
「やっと目を覚ました。良かったー」
「どいてよ、重いじゃない」
まだ身体が言う事を聞かないせいか、私は手足をもぞもぞ揺する事しか出来
ない。
「屋上で秋葉ちゃんを見かけて、声を掛けようとして手を伸ばしたら、いきな
り落っこっちゃうんだもん、ビックリしたー」
そ、それは、つまり……。
「アンタのせいじゃないっ!」
ベッドから跳ね起きた私は、羽ピンの頭を叩いた。どうりで今回も、殺気を
感じなかったわけだ。
バキッ!
「え?」
私の手とは思えない破壊音が、羽ピンの頭から発せられた。
「秋葉ちゃん、ひっどーい!」
頭を抑えている羽ピンの抗議は無視して、音の原因を確かめた。
「な――――、」
音だけじゃない。私の手は、外見まで違っていた。いや、これはもう手じゃ
ない。
「な――――、」
これは既に、ヘラだ。
「なによ、これーっ!」
掛け布団を跳ね除けると、そこにあったのは、私の身体ではなかった。
私の首から下は、機械に替わっていたのだ。
「んっふふ、凄いでしょ。わたしがやったんだよ」
「どういう事よ?」
「屋上から落ちた秋葉ちゃん、打ち所が悪かったのか今回は全然動かなくなっ
たんだよ。だからわたしが、七つ道具で新しい身体を作ってあげたの」
「余計な御世話よっ!」
バキバキッ!
今度は両手、いや両のヘラで羽ピンの頭を叩いた。
「ばたん、きゅー」
目を回した羽ピンを床に放って、私はベッドから立ちあがった。
ギー、ガッシャン!
金属製の両足は、何で出来ているのか、新造品とは思えない程に錆び付いた
不快な音を奏でている。両足のつま先も、ヘラで出来ていた。
胴体は、金属の函だった。しかも外側が枠組みだけで出来ていて、中身のシ
リンダーがまる見えだった。
「こんな姿、兄さんには見せられない」
私は、兄さんの顔を思い浮かべた。幻の兄さんは、何故か子供の頃の姿で、
手にオモチャを抱えていた。それは、御菓子の箱に木の枝の手足を取り付けた
だけの、手作りのロボットだった。
『いくぞーっ。ミサイルだ、バキューン!』
『こっちは、スペイサービームだ!』
何時の間にか、子供の頃のシキの幻まで出て来て、似たような手製のロボッ
トを持って遊んでいる。
そういえば、確かにそんな事もあった。男の子は、ロボットが好きだから。
「この身体、何処かで見た事があると思ったら、兄さんの夏休みの工作にそっ
くりだったのね」
いつまでも、こんなオモチャの身体でいるつもりは無い。私は、羽ピンをた
たき起こした。
「羽居、私の身体はどこにやったの?」
羽ピンの胸倉を掴もうとしたが、手がヘラになっててはそれは無理だった。
しょうがないので私は、右腕でヘッドロックを決めて左のヘラでおでこを小突
いた。
「い、いたたたー」
「さっさと白状しなさい!」
私の腕の中で、羽ピンはウンウン唸って首を振った。
「あ、秋葉ちゃんの身体はねー」
ガタン!
ドアの向こうから、物音がした。
「見られた?」
こんな身体を、知られたくない。間接を軋ませながら、私は廊下に駆け出し
た。
覗き見していたと思われるドアの隙間にヘラを差して勢い良くドアを開ける
と、そこにいたのは腰を抜かした中等部の生徒だった。牛乳壜の底のような眼
鏡には、見覚えがある。
「高雅瀬、あんたなの?」
よりによって、高雅瀬だったとは。ゴシップ好きの彼女は、この場で口止め
してもすぐに言いふらすだろう。口の軽さは羽ピンも変わらないが、ルームメ
イトの羽ピンのようには高雅瀬を監視し続ける事は出来ない。
高雅瀬は、自慢のマシンガントークを披露する事もなく四つん這いになって
逃げ出そうとした。消されると思ったのだろう。
その通りだ。
高雅瀬を逃がすまいと追いかけた私だったが、いかんせん身体の性能が低す
ぎた。このままでは、彼女を取り逃がしてしまう。
こうなったら、檻髪を使おうかと思ったその時だった。
「秋葉ちゃん、今こそ発射する時よ!」
え、発射?
羽ピンの視線を追って私の股間に目をやると、そこには円筒形の物体が生え
ていた。
「な、なによこれ?」
兄さんのモノより、大きい。
「それは、中華キャノンなの。さあ、大地のパワーを吸収して」
私は、羽ピンの指示の通りに全身を振るわせた。
「集めたパワーを、キャノンに収束して」
「こ、こうなの?」
何か、熱いモノが股間にみなぎっているのが、私にも判った。
「エネルギー充填120%! 発射!」
「ビーム、ビーム、ビーム!」
股間のキャノン砲からビームが発射されて、高雅瀬に命中した。
「キシャアアア!」
壮絶な悲鳴を挙げて、高雅瀬は吹き飛んだ。
「よかったね、秋葉ちゃん」
「ちっとも良くない!」
私は、また羽ピンの頭をヘラで叩いた。
「早く、元の身体を渡しなさい。さもないと……」
羽ピンに向けて、私はコマネチを繰り返した。この学校は地脈の上にでもあ
るのか、面白い程に大地のパワーをどんどん吸い取れる。
「あはは、秋葉ちゃんって面白ーい」
さっきの高雅瀬を見ていたのに、羽ピンは相変わらずおっとりしていた。
「こういうの、映画で見たことある」
そう言った彼女は、右手人差し指を突然キャノンの銃口に差し込んだ。
「あ……」
「ほら、これでもう撃てないんでしょ。撃つと暴発しちゃうから」
それは、ピストルの場合だ。そう言おうとした私だったが、口からは違う言
葉が漏れた。
「あん……」
妙な声を挙げた私を見て、羽ピンは首をかしげた。
「あれぇ? もしかして、秋葉ちゃん……」
羽ピンの顔に、小悪魔的な笑みが浮かんだ。銃口に差しこまれた指を、細か
く振るわせた。
「あ、あ、ああん」
指の振動に合わせて、私はあえぎ声を出した。
「やっぱり。秋葉ちゃん、感じているんだ」
嬉しそうな羽ピンが手首のスナップを効かせて、指を何度も回した。
「ああ、そ、そこは……」
羽ピンのフィンガーテクニックにすっかり参った私は、腰を抜かして床に座
りこんだ。
「ち、違う。私はそんなの……」
「気持ちいいんだね。もっと気持ち良くしてあげる」
羽ピンは、銃口に指を差したまま、左手でキャノン砲をにぎってしごき出し
た。
「秋葉ちゃん、気持ちいい? 気持ちいいよね?」
「あん、あん、あん」
まともな言葉が出ず、私はただ激しく首を縦に振り続けるだけだった。
「ああ、だめ、だめ」
キャノン砲から全身に快感が広がった。
「もっと、もっとよ」
そう言いながら羽ピンは、キャノン砲を握っている左手のピストン運動を速
めた。
「も、もう駄目! 飛んじゃうっ!」
羽ピンが、銃口から指を思い切り引き抜くと、私の中で決定的な何かがハジ
けた。
「あっ! あーっ!!」
私のキャノン砲から、ビームでない何かが飛び出した。それは、白い流動体
だった。
「すごーい。大地のパワーが、クリームみたいに固まってるの」
それは、エクトプラズムの一種だ。霊能力者が口から吐き出す事があるのは
知っているが、大地のパワーのエクトプラズムなんて私しか出せないだろう。
間欠泉のように断続的に溢れ出すエクトプラズムを、羽ピンは両手で受け止
め、あろうことか舌でぬぐった。
「うふ。秋葉ちゃんのクリームって、おいしいね」
床にへたりこんでいる私を、羽ピンはうっとりした表情で見下ろした。
「ねえ、もっとわたしにクリームを飲ませて」
羽ピンは、そう言って銃口に唇を近付けた。直径が牛乳壜程もあるキャノン
砲を、羽ピンは精一杯口を広げてくわえ込んだ。
「ん、んん」
大きく広げた口の輪で、羽ピンはまたキャノン砲をしごき出した。
「ああ、そ、そんなの……」
再び、全身を快感が襲いかかった。羽ピンの舌で銃口を舐め回されると、私
の身体は痙攣を繰り返した。
「ま、またイッちゃう!」
二度目だと言うのに、今度の絶頂の方が早かった。それ程羽ピンの口は気持
ち良かったのだ。
「うん、んぐんぐ」
口内に発射されたエクトプラズムを、羽ピンは全部飲み干そうとする。銃身
の中まで吸い取られる感触は、舌や指先とはまた違う新しい快感だった。
「あ、あ、あ」
私は、それしか口に出なかった。
エクトプラズムを残さず吸い取った羽ピンは、私の胴体をつかんで持ち上げ
た。私の体は空間だらけで、見た目よりずっと軽い。
「続きは部屋で、ね」
脱力していた私は、羽ピンに逆らえなかった。まるで、エクトプラズムと一
緒に、精力まで吸い取られたみたいだ。
蒼香は、まだ帰って来ていないようだった。羽ピンに連れられて部屋に戻っ
て来た私は、一安心した。いつかは帰って来ると判っていても、だ。
「もう一つ、やってみたい事があるんだ」
私を自分のベッドに寝かせた羽ピンは、そう言いながらセーラー服のスカー
フをソロリと引き抜いた。
「今度は、何をする気なの?」
「勿論、気持ちいい事よ」
セーラー服とスリップを脱ぎ捨てた羽ピンは、私の上に背中を向けた馬乗り
になると、ブラジャーも外した。
私は、何をされるのだろう? 不安と期待が入り混じり複雑な気持ちになっ
た。
「あんっ」
羽ピンがかがむと、キャノン砲が何か柔らかい物に挟まれる感じがした。そ
れは、羽ピンの豊かなバストだった。
私の控え目な胸と違って、豊満な羽ピンの胸はキャノン砲を挟むどころか包
み込んでしまった。
「ああっ、いい!」
羽ピンが上半身をくねらせると、キャノン砲は心地よい振動に揉まれた。
「もう一度、秋葉ちゃんのクリームを飲ませて」
キャノン砲を乳房でしごきながら、羽ピンの唇が再び銃口に添えられた。
「ああっ、もう駄目!」
羞恥心が、快感に反比例して消えて行ったせいだろうか。理性のタガが緩く
なった私は、何の抵抗もせずにあっさりとエクトプラズムを吐き出した。
「ラっラっラ!」
のどを震わせて、羽ピンはエクトプラズムを飲み込んだ。大地のパワーを摂
取した彼女は、ますます元気になっていくみたいだった。
「ねえ、秋葉ちゃん。今度は私を気持ち良くさせて」
そう言って羽ピンは、パンティを脱ぎ捨てて一糸まとわない姿になった。
「ま、まさか羽居?」
今度は私のほうを向いてキャノン砲の真上にまたがった羽ピンが何をするつ
もりなのか悟った私は、慌ててヘラの腕をついて起き上がった。
「駄目よ羽居、それだけは」
「秋葉ちゃんが気にしなくていいよ、わたしが気持ち良くなりたいだけなの。
だから、わたしのはじめてを、貰って」
キャノン砲の真上で、羽ピンは腰を落とした。
「あ、うぅん」
羽ピンは、私に貫かれて苦悶の表情を見せる。
「ああん。さ、裂けちゃう。裂けちゃうよ」
「や、やめて羽居。早く抜いて」
腰を振りながら、羽ピンは激しく首を横に振った。
「違うの、違うのよ。痛いのに、気持ちいいの。だから、秋葉ちゃんも気持ち
よくなって」
羽ピンは、私に覆い被さって来た。頭をだき抱えられた私の顔は、豊満な羽
ピンの胸の谷間に挟まれた。今の私はロボットだから、息が詰まる心配もなく
彼女の弾力を楽しんだ。
「いいの、いいのよ秋葉ちゃん。もっともっと、私を感じて」
私に抱き付いたまま、羽ピンは全身をくねらせた。
「うんうんうん」
「ああん、あああん」
もう、二人で同じあえぎ声ばかり繰り返していて、どっちがどっちの声なの
か判らない程に混ざりあっていた。
「いく、いっちゃう」
「出して、わたしの中に!」
「あっああーーーっ!!」
私達は、互いに強く抱き合いながら激しく痙攣した。
キャノン砲から発射されたエクトプラズムが、彼女の産道を激しく駆け巡っ
て子宮に流れ込んだ。
「熱い。熱いのおっ!」
よだれと涙、それに鼻水にまみれた顔を羽ピンは私に押しつけたが、不思議
と不快感は無かった。彼女の全てが、私には心地よかったのだ。それに、きっ
と私も同じ顔をしていたから。
「あぁ、あぁあ」
脱力した羽ピンが、私に覆い被さった。私も全身の力が抜けて、羽ピンを押
し退ける事もなく、彼女の重さを体中で感じるだけだった。
「はぁはぁはぁ」
「はぁはぁ」
絶頂から何分も経つというのに、私達の呼吸は一行に整う事は無かった。
「なあ、もういいかな?」
突然声を掛けられて、私達は仰天した。勿論、見上げた上にいる顔は、ルー
ムメイトだった。
「そ、蒼香」
気が付かなかった。この私が、周囲の事が全く目に入らない程に、前後不覚
になっていたなんて。
「何時から、ここに?」
「聞きたいか?」
私達の痴態を詳しく説明されるのは、嫌だった。
「安心しろ。この事は誰にも言わないから」
そういった点では、見られた相手が蒼香で良かったと思う。
「それで、おまえさんの姿は、どういう事なんだ?」
やっぱり聞かれたか。腰からキャノン砲がはえていたら、誰だって疑問に思
うだろう。
「実は、これは……」
私は、事のあらましを全部話した。
「成るほど、そういう事か。おい、羽居」
「蒼ちゃん、何か怒っていない?」
そりゃ叱るだろう。あんな事しでかしたら。
「おまえ、またあたしのベッドを物置がわりに使っただろう」
この状況に無関係なような事を、蒼香は言い出した。
「秋葉も、これを見ろ」
そういう蒼香のベッドの掛け布団をめくると……。
「あ、あんな所に」
首無し肢体がそこにあった。あんな近くにあったなんて。
「気が付かなかった」
ぐずる羽ピンを威圧して、私達は体を元に戻させた。
こうして私は、元の体に戻った。
このまま髪が生え揃えば、今度こそ私は兄さんと再開出来る。それまでは、
私は元通りの生活を続けるだけだ。
ただ、一つだけ違っている事があった。
私のベッドの下には、再び使われる時を待っている中華キャノンが、眠って
いたのだ。
<fin>
ほとんどの人には初めまして。練馬というものです。
なにぶん18禁SSは初めてで、一度は挫折したのですが、短いながらもなん
とか最後まで書き上げました。
+凸と言えるのか、微妙というか突っ込み所満載というか、そんな作品ですが
感想を頂けたら幸いです。
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