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憧れ
                              靖ゆき



 暗がりの中でむくっと一つの影が動いた。柔らかな髪が流れる。
 影は上半身だけを起き上がらせて、しばらくそこにたたずんだ後、布団から
抜け出してベッドの傍らに立った。
 夜半という時はとうの昔に過ぎている。
 規律の正しさが象徴の浅上女学院寮内でこんな時間に起きているものはいな
い。聞こえてくるのは少女達の寝息と時計が眠らずに時を刻んでいるしるしだ
け。
 そんな静寂の中を立ち上がった影、一人の少女はスリッパをぺたぺたと鳴ら
しながら歩き始めた。ベッドの中の二人の同居人はそんな彼女の行動に気づか
ず、穏やかな眠りの中に溶け込んでいる。カーテンの隙間からこぼれる細い光
を頼りにドアまで辿りつくと、そっとノブを回してドアを開き、廊下へと出た。
小さな音を立ててドアを閉じる。
 ゆっくりとした少女の足取りに、歴史のある木張りの廊下はその身をきしま
せて応える。ほんの十数歩の散歩の後、膝下丈までのワンピースのネグリジェ
はトイレの前で立ち止まり、手をしばし宙にさまよわせた後にスイッチを探し
当て、照明をともした。
 数回の瞬きの後、蛍光灯がトイレ内を照らし、少女は強い光に目を細めた。
光の強さに一瞬反応はしたものの、その顔はいまだ夢うつつのようにぼんやり
としている。はいてきたスリッパを脱ぐと備え付けのつっかけに足を通す。カ
ランコロンと音を反響させながら個室の前に立つとそのまま扉をくぐって中に
入り、扉を閉め、鍵をかけた。
 前にかがみこみ、まずはショーツを下ろす。そして次にネグリジェの裾をた
くし上げる。

 そこで彼女はようやくそれに気がついた。

 それで彼女の動きもそのままのポーズでしばし停止した。
 洋式便所に座りかけでネグリジェをたくし上げているポーズ。

 しかし、少女はすぐにすくっと立つと、中途半端な位置で止められていたネ
グリジェを一気にまくし上げた。
 腰の位置まで。
 そんなところまで上げてしまえば当然下半身が露わになってしまい・・・、
 そこに屹立しているものも、薄暗い個室の中でもはっきりと分かるぐらいに
露わになった。少女はその姿を更にしっかりと見ようとしているかのようにネ
グリジェを胸元まで引き寄せ、自らの股間を凝視した。
 薄い陰毛に隠された股間からは、見慣れない肉塊が隆々とそびえていた。
 その先端は桜色に染まり、てらてらと光っている。
 髪が肩のラインにそってはらりと落ちる。しかし少女は構わず、股間を凝視
し続けた。
 柔らかい身体のラインと豊かな胸と肉付きの良い腰。女には脱皮しきれてい
ない少女特有の硬さは残っているものの、その白い肢体は女性のものとして美
しいと賞するのに何らためらうことのない素晴らしいものだ。
 そこに生える男性器のアンバランスさ。
 しかし少女はそれに対して何ら驚きの声を発することなく、ただじっとそれ
を見つめ続けていた。
 その奇妙な光景は少女がやわら顔を上げて終わった。ネグリジェをたくし上
げたまま半回転すると便器へ向かう。右手をネグリジェから離し、そっと股間
の男性器に添えた。
 そこで気が付いたのか、いったん男性器から手を離すと便座を上げ、またも
とのポーズに戻った。
 今度はさほど待たずに、男性器の先から黄金の液体が迸り出た。薄暗い空間
の中で一際輝く液体は綺麗な放物線を描き、見事なコントロールで便器の奥へ
と吸い込まれていく。
 便器の奥の暗い水溜りに黄金色の奔流が勢いよく注ぎ込まれる。
 女子トイレの個室にあるまじき派手な音が響き渡る。水と水が叩きあう声。
 少女はその光景をじっと見詰め続ける。
 心地よい音はたっぷり一分以上続いた。
 勢いよく迸っていた水流は徐々にその勢いを逸し、放物線は小さいものとな
り、やがてとだえた。
「ああぁ〜」
 心の奥底からの喘ぎ声がこだまし、あわせて少女の身体がぶるぶると小刻み
に震えた。少女は自然にちょんちょんと先端に残る滴を落とした。
 ショーツを上げるがその小さな布切れの中には立派な一物はとても収まりき
れず、半身以上がはみ出している。しかし少女は気にすることなくネグリジェ
の裾を下ろすと水を流した。
 水が吸い込まれ、そしてまたタンクに貯められて行くのを背に個室から出て、
洗面所で手を洗う。石鹸をつけ、よく洗う。
 備え付けのタオルで手を拭いた後につっかけからスリッパに履き替え、トイ
レの照明を消す。きしむ廊下を少女は部屋へと歩き始める。緩やかなネグリジ
ェのラインは股間のそれを完全に隠し切っている。
 部屋のドアをそっと開け、小さな音を立てて閉める。同居人達は変わらず小
さな寝息を立てるのみ。少女は自分のベッドに潜り込むと布団をかけなおし、
横になる。そしてすぐに軽い寝息を立て始めた。
 その寝顔にはなんとも幸せな、そして満足げな笑みが浮かんでいた。
 カーテンの隙間からこぼれる細い月の光だけが、その笑顔を見ていた。




「・・・羽居、なにをやっているの?」
 しっかりと身支度を整えて部屋に戻ってきた秋葉は、その同居人の姿に頭を
痛め、朝からきつい言葉を発してしまう。
「うーん」
 尋ねられた少女は曖昧な返事を返すが、それはいつものことだ。彼女は答え
を導き出すのにひどく時間をかける。自分が何について考えているのかを忘れ
てしまうこともしばしばある。そのくせ、たまに帰ってくる言葉がずばりと真
実をついていたりするからこの娘は侮れない。
 それはともかくとしてだ。
「とりあえず、そのはしたない格好はおやめなさい」
 羽居の格好はといえば、ベッドの上にぺったんと座り込み、左手でネグリジ
ェの裾をたくしあげ、右手はショーツを引っ張ってその中をじっと凝視してい
るという、すがすがしい朝の清純な女子高生としてはあるまじき光景だった。
 秋葉が怒っているのにも関わらず、羽居はなかなか止めようとしない。
「羽居!」
「秋葉ちゃんさー、」
 秋葉の怒りなど全く気にしていないようなのんびりとした声があがる」
「なんです?」
「・・・やっぱり、いいや」
 羽居はにぱっと笑うとベッドから飛び降り、顔を洗ってくるーとタオルを片
手に部屋から出て行った。
 おねしょしてなくて良かったー、などとわめきながら。
「全くあの娘は・・・」その姿を見送りながらぶつぶつとこぼす秋葉は、しかし
すぐに目標を次に移した。彼女のもう一人の同居人、月姫蒼香はいまだにベッ
ドの中で毛布に包まっている。「ライブ」とやらに出かけた次の日には遅くま
で惰眠をむさぼっていることのある彼女だが、平日にここまでぐずぐずとベッ
ドから出てこないのは珍しい。
「蒼香、具合でも悪いの?」
 だから最初は一応やさしく声をかける。
「ん・・・そんなことはない」
 背中を向けているので表情は見えないが、しっかりと起きてはいるようだ。
「だったら早く起きなさい。あなた一人が遅れたらみんなが迷惑するのよ」
 浅上女学園では一人のミスは連帯責任だ。
 その時ドアの向こうから「遠野さん、いらっしゃいますか?」と秋葉を呼ぶ
声が聞こえた。
「いいこと。早くしなさいよ」
 イライラとした雰囲気を残して秋葉は足早に部屋から出て行った。
 急に部屋には静寂が戻ってくる。カーテンが開け放たれた窓からは光が差し
込んできている。その窓の隙間から爽やかな空気が入ってくる。穏やかな朝の
におい。
 しかし壁に向けられた蒼香の顔は真っ青で冷たい汗が吹き出し、筋となって
流れていた。
 どうしてこんなことになったのか、さっぱり分からない。
 昨晩からの記憶を何度も辿ってみるが原因は全く思いつかなかった。理由は
分からない、しかしその現実は確かにそこにある。
 それを今一度確認する為に、蒼香は本日何十回目か分からないその動作を取
った。
 おのれの手をゆっくりと、恐々と股間へ伸ばしていく。寝巻きがわりのスウ
ェットの上から股間に触れる。
 びくんと指は震え、そこから逃げ出した。
「はぁー」
 深い溜め息がこぼれる。
 やはり、あるはずのないものが確かにそこにあった。
「ど、ど、ど、ど」
 どうして?
 どうやって?
 どこで?
 ばたばたと羽居が帰ってくる音が聞こえるから、蒼香は混乱する頭を布団の
中に突っ込んだ。







後書き
 初めて寄稿させて頂きました。
 今回は18禁じゃなくても良いってことなので頑張ってみたのですが、途中か
ら普通に18禁書いたほうがましだったんじゃないかと思いました。