〜紅い鬼〜
TAMAKI
「秋葉、時間だね。」
兄さんは優しく私に語りかけてくれる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
私は何も言わず、ただ、兄さんの顔を見つめる。
何の意思も持たない人形のような目。
兄さんの蒼い目の色と対照的な・・・・・。
「さ、秋葉・・・・・・・・。」
兄さんは私を抱き上げ、私を抱き締める。
そして、ただ私の鼓動だけを確かめるように、瞳を閉じる。
その、真っ青な瞳を・・・・・。
兄さんの少し色の白い首に私は自分の歯をつき立てる。
「―――やめてっ。」
叫びは私の周りにだけ、木霊する・・・・。
私の叫びは兄さんに聞こえる筈もなく、鬼娘の私は兄さんの首に牙を立てる。
「うっ・・・・くぅ・・・・・。」
兄さんはただ、その痛みに耐えて、そして、微笑みながら私の真っ赤な髪を撫でる。
「秋葉、今日は寒いから、あとで着替えもしなきゃな。」
ただ、優しく響いてくる声。
答えてあげられない私には・・・・・とても、残酷な・・・・。
私が兄さんの望みに答えてあげたことなんてあったろうか・・・・。
ずっと前の夏の日、一度だけ・・・。
たった一度だけ答えてあげたことがあるだけだろう。
兄さんが私の望みに答えてくれたことはない。
「・・・・・どうして・・・・殺さないのですか?」
あの日の約束。
私に「女」というものを兄さんが教えてくれた日の約束すら、果たしてくれない。
兄さんはいつもそう。
私の望みなんて聞いてくれなくて、自分のやり方で私を困らせる。
けれど、それすら伝えることも許されない。
私は堕ちてしまった。
遠野という家の忌わしい血に飲まれてしまった。
そうやって「遠野秋葉」という存在は、真っ赤な髪をした鬼娘に代わってしまって、
私はその真っ赤な檻の中で、ただ閉じ込められて見せられるだけ。
何もできない。
伝えられないのが
辛くて・・・・・。
もっと兄さんといたかった。
秋葉自身の手で、兄さんの温かさを感じたかった。
他愛ない話をしたかった。
有間の家の話も聞きたかった。
兄さんの8年間というものを・・・もっと知りたかった。
もっと、兄妹らしく・・・過ごしたかった・・・・・・。
この・・・・忌わしい血じゃなければ・・・・・・。
「っと、秋葉、これくらいでいいかい?」
微笑んで兄さんは「私であったもの」に言う。
『兄さんこそ体を大事にしてください。』
何度も言った言葉を・・・・・・・・・・・。
今、言えなくて・・・・・・・・・・・・・。
そんな自分が、ただ歯痒くて・・・・・・・。
伝えようとすればするほど、この真っ赤な檻は強固で、私の思考を掻き乱す。
嘲笑うかのように、残酷に兄さんとの距離を知らしめてくる。
閉じ込めた紅い鬼が微笑む。
「貴女の本性なのよ。これが。」
その冷徹な笑みが、私と同じ姿で、嘲笑う。
「返して!兄さんを・・・・・返して!」
「こんな罪から、貴女は逃れようというの?遠野という業から、逃れられるなんて思ってるの?」
紅い鬼が笑う。
残酷な声が檻の中を響き渡る。
「じゃ、秋葉、また夜に来るよ。」
よろめきながら立ち上がる兄さんに伝えたい。
「私を・・・・・・・殺して・・・・・・・・・・。」
振り返った二人の間には、ただ透明な雫だけ・・・・・・。
〜〜〜END〜〜〜
あとがき
TAMAKIです。
秋葉の純情なトコで・・・。
純情秋葉に入るのだろうかと悩みながらです。
現在出されているものの裏を少しかいてみました。
レベルが追いつけない自分が悔しいです。
それでは
TAMAKI
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