〜Crystal Life
                                                                                                           TAMAKI

 







   暮れていく街を眺める。









      それは憂鬱そのものだ。











   もう私は20歳になった。

   大学に行くことになって、兄さんが「秋葉はこの家を出て行くのか?」と心配され、翡翠や琥珀からも

   「秋葉さまはお屋敷を出られるのですか?」という言葉に根負けするように、屋敷から通える大学に

   通うことになって、もう2年。

   その前からの兄さんとの関係もずっと続いている。

   勿論、兄さんは屋敷から通える大学に行っているが、私と同じところではない。

   兄さんの学力なら、ここに入れると思って進めた私の立場はどうなったのだろう・・・なんてことを

   考える。

   それでも、あのどこか儚い、優しい笑顔を見ると許せてしまう。

   













      愛しい人の笑顔というだけで・・・・・・許せる。













   この前、久しぶりに羽居と、蒼香に会って、「秋葉ちゃん変わったね。」なんて言われたりするし

   意識してしまう。

   二人は浅上を卒業したあと、さらに実家から遠くの学校へ行っている。

   「秋葉ちゃん、また顔が優しくなったね〜」

   なんて相変わらずの羽居の言葉を聞いて、最近は特に意識してしまう。


















     はぁ・・・・・















   迎えの車の中で溜息をつく。

   「・・・兄さん・・・・。」

   そう、兄さんの体の調子が思わしくない。

   琥珀も必死に薬を作って、与えてくれているけれど、それでも、一向に容態は安定しない。

   調子のいい日が、たまにあるから、質が悪い。

   脳に負担がかかるとは兄さんに聞いていたけれど、それでも、覚悟なんて出来る筈もなく

   最近は授業も頭に入ってこない。

   今日も、なぜか家に兄さんがいるというのに、キャンパスの中を無駄に歩き回って、時間が

   来た子どものように、拗ねた自分がいる。

   そんな私にも、夕焼けの西陽は頬を照らす。












   物思いに耽っている私をよそに風景は屋敷に近づいて、とうとう屋敷に着いてしまった。

   「おかえりなさいませ、秋葉さま」

   いつものように翡翠が私を迎える。

   「兄さんは?」














      もう、何度繰り返した言葉だろうか・・・・・。














     「志貴さまは、お部屋で休まれています。」

   この言葉も何度も聞いた。

   ・・・・何度?・・・そう、去年の夏から。

   あの蝉の声が煩いくらいに響く日から・・・何度も・・・・。

   「そう。じゃ、琥珀には夕食の準備をお願い。私は兄さんの部屋にいるから。」

   「かしこまりました。」

   深々と翡翠は礼をする。私は私で、兄さんの部屋に向かう。

   途中、自分の足音にも歯痒くなりながら・・・・。













     コンコン。









       「秋葉か・・・・入っていいよ。」














     中から聞こえてくる兄さんの優しい声。

    「失礼します。」

    いつものように私は兄さんの部屋に入る。

    「どうだった?今日の講義は。」

    「えぇ。経営学の講義はすごく役に立ちましたよ。」

    そう、毎日兄さんは私にこう問う。

    それに私は簡潔に答えて、兄さんと話す。

    「兄さん、まだ冷えますよ。そんなに起き上がって薄着で居ないでください。」

    いつものように言ってしまう。「兄さんのことが心配で」と正直に言えればどれだけ楽なのだろうか。

    私はいつもそれが悔しい。

    兄さんにもっと優しく接したいのに・・・・。

    思っても行動できない。









    







      悔しくて・・・・・









        そう言ってあげられない自分が歯痒くて









            兄さんを胸に抱きしめた。


















    「あ・・・・秋葉?」

    胸の中から兄さんの声が聞こえる。

    愛しい声。














        たった一人の人の声。












     「ねぇ?兄さん・・・」

    抱いたまま、その胸の中の兄さんに向かって囁くように言う。

    「兄さんは・・・私の・・・最初で最後の人なんですよ。」













     ぽつり・・・ぽつりと・・・ぎこちなく、ただ想うことを言葉にする。










    

   「私は、一人に慣れていたんですよ。兄さんの居ない日々に・・・・。」

   「うん・・・ごめんな・・・秋葉。」

   兄さんはいつもこう。

   私が言うのに、それを超えてしまうくらいの言葉を返してくる。

   「それなのに、兄さんは酷い人です。兄さんがいなくちゃいけなくなったんですから。」

   ・・・自分でも、どうしてこういうことを言っているのかわからなくなる。

   「兄さん、ずっと傍にいてくれるんですよね。」

   抱きしめながら・・・答えに怯えながら兄さんに問う。














     「あぁ・・・・俺が出来る限り、傍にいる。」













       私が一番、欲しかったもの。

   



   



    


        「兄さんの一番の場所なんです。」













    「ん?」

    兄さんはこういう正直なことは聞いてくれない。

    ・・・意地悪なのだろうか・・・。

    











     「兄さんは、私の最後の人なんです。」












     「うん。」

     ただ同意の声。















    「だから、私は死ぬまで傍にいてください。」














     「うん。」


















    「兄さん、私の全部・・・兄さんのものなんです。」




















     「うん。」



















    「明日も傍に・・・・兄さんの傍にいられますか?」


























    「いられると・・・思う。」























    ただ、抱きしめた体から聞こえてくる兄さんの声は静かで、確実な「鼓動」だけが








     私の心臓に響いていた・・・・・。













    私と兄さんの頬を照らし出していた夕日が





      やがて沈んでいった・・・・・

















   〜〜〜f i n〜〜〜



















   あとがき


   お久しぶりです。

   純情というか・・・清純に書いてみました(ぉ

   たまたま、MoonGazer様に来させていただいていたら、今回の企画があって

   参加表明しました。

   ・・・・お目汚しかもしれませんが、楽しんでいただければ・・・。

   それでは

   







                           TAMAKI