囚われの王子様
作:しにを
異様な風体であった。
黒ずくめ。
黒いコートの襟を立て顔の下半分を隠し、目にはサングラス。
そんな格好で電信柱の陰に隠れて目の前の様子を覗っている。
一昔前のスパイ映画でもあるまいに。
そう言いたくもなる。
しかしその探索行動中の女スパイ……、その人物は女性である……、は不思
議と違和感を感じさせなかった。
ほとんど身をコートで隠してはいても、すらりとした均整の取れたプロポー
ションの素晴らしさが分かる。
そして目を隠していてもなお、その女性の美貌は垣間見ることが出来た。
立っているだけでそこを非日常の場と化すオーラ故に、観る者にそれが何の
特徴も無い街角でなく、まさに劇が演じられている舞台の上ででもあるかのよ
うな錯覚を感じさせる。
幸か不幸か観客は一人も存在していなかったが。
いもしない者の視線などには当然の事ながら痛痒を感じず、彼女は前で繰り
広げられている騒動をじっと観察している。
金髪のラフな格好をした少女が、黒衣の少女と対峙している。
どう見ても尋常ではない雰囲気。
始まった。
かなり離れた彼女の耳にも届きそうな声を張り上げ、口だけでなく手も足も
動いている。
常人では認識出来ない程のスピードでめぐるましい攻防が繰り広げられてい
る。完全に殺意を伴った死闘。
そして、両者の間でおろおろとしている若い男が一人。
「あれがそうなの……?」
失望の声が彼女の口から洩れる。
彼女が観察しているのは二人の女ではなくこの男であった。
しかしこの男、さっきから二人を止めようとしているらしいのだが、何ら実
りを結んでいない。
ああ、また巻き込まれてごろごろと転がった。
立ち上がって、今度は……、あーあ。
あれだけモノが乱れ飛ぶ中に入って致命傷を受けないのは尋常ではないが、
戦闘能力に関して言えば、明らかに二人の足元にも近寄れないレベルだ。
時間の無駄であったかと背を向けかけ、彼女は冷水を掛けられた様に動きを
止めた。
何、今の……。
まごう事無き純粋なる殺気。
ここからは微弱にしか感じないが、彼女にはその殺気の質がわかる。
ここまで届かせる程というだけで、凄まじき殺気である。
目の前で叩きつけられたら、鬼気として物質化して感じられる程であろう。
「ほう……」
彼女の顔が愉悦の表情を浮かべる。
あくまであれは見せる為の殺気だ。
本来であれば内に秘め外には洩らさぬが常道。
しかし威嚇の為の紛い物とは言え、人間にあれほどの殺気を漲らせる事が出
来るとは……。
見よ、金髪の少女……、真祖の姫君アルクェイド・ブリュンスタッドも、黒
衣の少女……、埋葬機関第七の座のシエルも、今や諍いをやめている。
今や彼女らが怯えて宥める側に回っている、あの男、遠野志貴を……。
満足げに彼女は頷いた。
◇ ◇ ◇
「お目覚めかしら」
半覚醒のまどろみから意識を浮上させたのは、その声だった。
遠野志貴はぼんやりと顔を上げ、辺りを見回す。
ここは……?
自分の部屋じゃないよな。
なんで眠っていたのだっけ?
頭がまだ上手く働かない。
声のした方を向く。
そしてぽかんと口を開ける。
「うん、目を覚ましたみたいね」
「は、はい……」
なんて綺麗な女の人……。
目の前で艶然と微笑んでいるのは、知らない女性だった。
会った事は無い。
それは確信できる。
こんな人を見間違えたり、一度でも目の前にして忘れる訳が無い。
「初めまして、遠野志貴」
「初めまして……」
反射的に挨拶を交わしかけ、初めて事態のおかしさに気がつく。
ここは何処だ?
いつここに来た?
何故記憶が無い?
彼女は誰だ?
何故、遠野志貴という名前を知っている?
その時、初めて志貴は自分の体が震えている事に気がついた。
寒い訳では無い。
これは恐怖……。
改めて彼女を見る。
漆黒の長い黒髪。
白い肌。
人形のような整った美貌。
年の頃は20歳前後くらいか。もっと若いようにも、不思議な事にもっと年
を経ているようにも見える。
何でまた黒のロングコートなど着込んでいるのかわからないが、寒気がする
ほど美しい姿だった。
人間とは思えないほどの……。
そう、例えばアルクェイドなどにも似た人外の美と言った……。
はたと気付く。
「もしかして死徒か?」
「そうよ……」
そのぞっとするほどの美貌の女性は、なんだつまらないと言う顔をする。
ぎょっとして志貴は間合いを外そうとして、蒼褪める。
なんだ、体が動かない?
かろうじて首の上だけが動くが、そこから下はぴくりとも動かない。
「ああ、さっき招待した時の魔眼の効果がまだ効いているから動くのは無理よ。
大人しく椅子に座ってなさい」
志貴は首を下に曲げる。
なるほど椅子に体を預けている。
魔眼、さっき、招待……。
「思い出した。あの後、帰り道で誰かとぶつかりそうになって……」
「それがわたし」
「そうか……。
取り合えず名前を教えてくれるかな、そっちだけ知ってるのは不公平だ」
待ってましたとばかりに、その美女はコートをばっと片手で脱ぎ捨てる。
どこにそんなものがと目を疑う、黒いドレス姿に変わる。
その非現実的な姿は驚くほどその黒髪の女性には似合っていた。
「わたしは、真にブリュンスタッドの名を継ぐ者、アルトルージュ・ブリュン
スタッド」
どうだと言わんばかりに胸を反らせる。
あいにく聞いている方はほとんど感銘を受けていない。
もっとも立ち上がって拍手しようにも、体は動かないのだが。
「ブリュンスタッド、ブリュンスタッド……。ああ、聞いた事あるなあと思っ
たらアルクェイドと同じか。じゃあ姉妹か何か、かな?」
「あんなのと一緒にしないでくれる。
敵よ、敵なんだから。見てなさい、私の前ではもはや最強を誇れぬ事、思い
知らせてあげるんだから」
急に興奮してアルトルージュは握り拳で叫ぶ。
志貴はぼんやりと美人はどんな顔しても美人なんだなあとつまらない感想を
抱いていた。
その長い黒髪と激した表情はどこと無く秋葉を連想させる。
「で、俺はどうしてここに?」
「関係筋ではなかなかの有名人なのよ、遠野志貴という存在は」
「……俺が?」
「ええ、実際には名前すら外には洩れていないけど、あのネロ・カオスやロア
を倒し、あの真祖の姫君と埋葬機関の冷酷無比な不死身の悪魔を篭絡した人間
がいる……という噂だけが伝わっているの」
真祖の姫君はともかく、埋葬機関の冷酷無比な不死身の悪魔ってシエル先輩
の事だよなあ、あんまりな呼び名だなあ。
まあ、滅殺される方からすればそんなモノかもしれないなあ。
そんな事を考えながらアルトルージュの心地よい声に耳を傾ける。
「ふうん。それで……」
「それで、私は興味を持ったの。どんな魔人だろうって。
調べに出た使い魔とか死徒は誰一人として帰って来ないし。
それでこっそり渡し自らやって来て本人に会って、……気に入ったわ」
にこりとアルトルージュは笑みを浮かべる。
こんな時なのに、志貴は見惚れ、ドキドキとする。
「いろいろ使えそうなんですもの。そうね、生きたまま指を内臓を目を一つ一
つ切り離してアルクェイドに送りつけるも良し、クリスタルに封じ込めて生け
る彫像とするも良し、脳の神経を何本か焼き切って一生私に仕える快楽奴隷に
するのも楽しそう……、冗談よ。
ところでも、あなた、アルクェイドの純潔を奪ったんでしょ」
嘘ついても無駄よ、という顔でアルトルージュが訊ねる。
志貴は意表をつかれた表情で視線を宙にさ迷わせる。
「え、それは……」
「処女ではなくなっていたけど?」
「わかるの?」
「血の動きでね。って、ほら、やっぱり。
それで興味が湧いたの。あのアルクェイドの相手なんてね。
それでね、奪っちゃおうかなって。人間の愛人なんて久々だし、彼女に寝取
られ女のミジメさを味あわせるのも悪くないし……」
すっとドレスの手の込んだレース生地が消えていく。
一枚、一枚。
そして、薄絹がアルトルージュの体を申し訳程度に覆うだけに。
白い肢体が志貴の前で魅惑的に浮かび上がる。
その効果を知り尽くしている顔で、嫣然と笑みを浮かべる。
「凄い……」
アルトルージュの狙い通りに志貴は目を奪われた。
アルクェイドのようなボリュームに富んだ体つきではないが、細身でいて美
しいライン、要所要所はしっかりとした膨らみがある。
志貴は上からゆっくりと下へ視線を走らせる。
両足の付け根で止まる。
ある筈の黒い翳りがない。
「あら、不思議? 今はいろいろあってこんな童女みたいに……、ふうん、そ
ういうの興味あるんだ。見たい?」
はい、と答えそうになるのを必死に堪える。
何か嫌な予感がした。
この女に手を出しちゃいけない。
頭の中の何処かで警戒音が鳴り響いていた。
「あら、私が魅力ないみたいじゃない。ふうん、まさかアルクェイドに操を立
ててるとかそう言うんじゃないでしょうね」
アルトルージュの唇が近づく。
止める間もなく志貴の唇が奪われる。
「んん……」
「ふぅんん……」
柔らかい唇の感触と、踊るような舌に志貴は抵抗できない。
とろとろと甘い液体が流し込まれる。
美酒のようなそれを志貴は飲み込む。
「えっ」
喉の火がついたが如き熱さに我に返る。
アルトルージュの唾液と思っていたそれは、喉から志貴の体内を燃え上がら
せる。
「な、なんだよ、これ」
「ええとね、簡単に言うと媚薬。どう、一回りして体がぽかぽかして来るとだ
んだん抑え切れなくなる筈だけど?」
「う、ううう……」
我知らず立ち上がってアルトルージュの体に手を伸ばす。
動く……。
でも燃え上がる体と別の存在のように頭はがんがんと痛む。警鐘の如く。
止めろ、と。
この抗いがたい衝動に従えば、とんでもない事態になる、と。
さっきまで動かない体を動かそうとしていたのに、今度は動こうとする体を
必死に意志で止める。
アルトルージュがこれ見よがしに見事な体を見せつける。
「どこまで我慢できるかしら」
「あああ、ああ……」
苦悶しつつも志貴は動かない。
むう、とアルトルージュが顔を顰める。
「うーん、しぶといなあ。じゃあ……」
そう言うとちょっと無表情に志貴を見つめる。
神経を集中している。
手も触れていないのに、志貴のズボンのベルトがするすると外れる。
そしてチャックが下ろされる。
「な、何だ、これ……」
驚愕する志貴に構わず、見えぬ手?の動きは続く。
志貴の体を持ち上げ、ズボンを引き抜く。
まさか、これもとトランクスを志貴が押さえるが、それには触れずにまた志
貴の体は椅子に戻る。
「よっこいしょっと」
志貴の右太股にアルトルージュが馬乗りになる。
「あっ」
直接肌と肌が触れ合う。
アルトルージュの柔らかいお尻、滑らかな太股の感触。
気持ちいい、何だこれは……。
それほど感覚が鋭敏な箇所では無いというのに、まるでそこが性器にでも変
わったかのようにそこから異次元の快楽が生まれ体中に広がる。
アルトルージュはずずっと体を進めた。
その摩擦が生み出す感触。
それに今の?
志貴の目がそこを射抜くかの如く見る。
ベルベットのような滑らかな感触と別に、舌で舐められたみたいなぬめった
感触が?
「もう、こんなになってるんだけど……」
視線に気づいたアルトルージュが指でそこを開いてみせる。
無毛の秘裂の奥が濡れ光り、志貴の脚にまで蜜液が滴っている。
「まだ我慢するの?
こんなに体は正直なのに……」
つんと先端をつつかれる。
「うっ」
トランクスを押しのけんばかりに既に志貴の肉棒は漲り、先端は露を滲ませ
布を濡らせていた。
「止め……ろ……」
「アルクェイドなんかよりわたしの方がよっぽどいいのに。
そう言えばさっき……。
じゃあ、もしかして、大人の体よりこっちの方がお好みかしら?」
アルトルージュは立ち上がった。
何を、と志貴は視線を向ける。
薄絹の衣がぱさりと床に落ちる。
一瞬でアルトルージュが消え去ったが如き錯覚を生む。
しかしそれは姿が変貌を遂げた為。
すらりとした姿のアルトルージュの身体が縮む。
いや、二回りほど小さくなる。
そして、別なアルトルージュが現れる。
小柄な年の頃、十三、四。いやもっと小さいだろうか。
美しいながらもどこか妖気を漂わせていたアルトルージュの姿とは異質な、
可憐で儚げな少女。
「これがわたしのもう一つの姿」
声も少し舌足らずな甘い声になっている。
さっきまでの妖艶な雰囲気は微塵も無い。
長い黒髪、顔の造作は当然似ているのに、まるで別人のように見える。
「こっちの方がお好みなら、え、きゃあああああっ」
◇ ◇ ◇
「志貴、助けに来たよ」
「遠野くん、大丈夫ですか?」
志貴の消失に気がついたアルクェイドとシエルは〜中略〜を突き止め、その
罠に満ちた迷宮庭園を〜中略〜結界の張られた一番上の部屋へ〜中略〜を倒し、
志貴が囚われている部屋へ辿り着いたのであった。
分厚い木の扉をへし折らんばかりに開き、豪勢な部屋へと突入する二人。
「えっ」
「何これ」
それは囚われの王子様を救いに来た二人の少女が想像していた光景とは、だ
いぶ様相が違っていた。
「うわあ」
「これは……酷い有り様ですねえ」
床の所々に水たまり、いや多量の白濁液による精液だまりが出来ている。
あちこちに切れ切れになった薄絹の布が散らばっている。
血の香り、アンモニアの香り、精臭、性臭、汗の匂い。
水音、粘音、吐息、嬌声、悲鳴、肉音。
「やだ、もう。助けて、そんな。死んじゃう。ああああっっっっ」
ずちゅ、ずちゅ、ずちゅ、じゅぽん。
「わたしの記憶違いじゃなければ、あれってもう一人のブリュンスタッドじゃ
ありませんでしたっけ?」
「うん、アルトルージュだね」
「なんで、死徒の姫が遠野くんに陵辱されているんです?」
「わたしが知る訳ないでしょ」
アルクェイドとシエルの目の前で、アルトルージュが四つん這いにになって
志貴に激しく腰を使われていた。
可愛らしい小柄な少女が、眼を血走らせている異様な雰囲気の男に、無理や
りまだ未成熟な体を弄ばれ貪られている……、そういう構図にしか見えない。
加害者が志貴で、被害者がアルトルージュ……そうとしか思えない。
「あっ、イった」
ひときわ高い声を上げてぐたりとアルトルージュが脱力して頭を落とす。
志貴はアルトルージュの腰に指を食い込ませて硬直している。
じゅるりという音を立てて志貴は肉棒を引き抜いた。
ごぼりと濃厚な白濁液がアルトルージュの秘裂からこぼれ、また床に精液だ
まりを作る。
志貴の怒張はまったく萎えていない。
休む事無く、息も絶え絶えなアルトルージュの足首を掴んで引き寄せるとそ
こに頬擦りする。
そしてそのまま、また挿入する。
「ああ、また。んんんんんっ」
手が充血しきった秘裂に伸び、肉芽を摘む。
無惨な程に押し広げられた膣穴に志貴の肉棒が激しく出入りする。
「あっ、やだ、これ以上イッたら、本当に死んじゃう……」
「ねえ、アルトルージュ、何やってるの?」
「ア、アル、アルクェイド……」
「ねえねえ、楽しそうだけどいったいどういう事、これ……」
「あ、こんな強力な媚薬と精力剤使ってる。
これなら死人でも飛び起きて来ますね。これを遠野くんに?」
「そ、そうよ……。あンンンン」
わからないと言う顔でアルクェイドは再度訊ねる。
「なんでわざわざそんな魔力もろくにない姿になってる訳?」
「んんんんーーーっ。 わたしの姿じゃ反応しないから、こっちの方が好みか
な、ああああぁぁぁぁ、と思って姿変えたら、突然こんなケダモノみたいに、
後は何度も何度も……、抵抗も出来ないし、お願い……、たす、んんっふ」
シエルがやれやれといいたげな顔をする。
「自業自得ですねえ。遠野くんの前にちょっとロリ入った女の子の姿になって
現れて誘惑するなんて」
「そうね。どうせわたしの志貴を奪おうとか、つまんない事考えてたんでしょ。
きっとウラドとかシュトラウトにも黙って来たのね」
「そうですね、ろくな護衛もいませんでしたし」
いつの間にかアルトルージュ、松葉崩しを経て騎上位に移行させられている。
薄い胸を手で押しつぶしながら、志貴は片手でアルトルージュの腰を掴んで
動かしている。
快感は無理矢理に生み出されているようだが、それは与えられすぎてもはや
苦痛ですらあるようだった。
アルトルージュは嬌声と悲鳴を交互にあげていた。
「あの、アルクェイド」
「なによ……」
「あなたはここまで、その、遠野くんにされちゃった事は……」
「さすがにここまではないなあ。でもこの間なんて、両足をね、こう……、そ
れで引っくり返されて、後はもう……、ちょっと泣きそうになっちゃった。
恥かしくて泣いて嫌がったのに、志貴ったらもっと高ぶって……」
「うわあ。わたしも前にこうで……、その上……」
「やだ、わたしそんな事されたら死んじゃう。とても真似できない」
「わたしだって好きでやってるんじゃありません。
もう心の底から嬉しそうな顔してそのまま指を。おまけにですね、そこにあ
った……」
アルトルージュと志貴の痴態を前にして、どうしたものかなあと言う顔でア
ルクェイドとシエルが二人でぼそぼそと会話を始める。
互いの告白に驚愕の色を浮かべながらも、志貴をちらりと見て、さもあらん
と深く頷く。
「ひっどーい、さすが鬼畜ねえ、志貴って」
「さすがに遠野くん帰った後にさめざめと泣きましたね。わたしはいいけど、
この若さであんな事している遠野くんの未来を思うと……」
「でも志貴がしたいんなら、わたしいいよ」
「わたしも遠野くんが望むんなら……」
ちょっと頬を染める二人。
「でも、これはちょっと……」
「どうします?」
アルクェイドとシエルが告白&糾弾談義をしているうちに、さらに志貴は5
回アルトルージュの中に放ち、さらにさらに数を加えようとしている。
「やだ、もう…… 死んじゃう……」
「そうねえ、なんか気が抜けちゃったし」
「裂けちゃうよう……」
「帰りましょうかね」
「やだ、そんな処に入れないでよう。んぅぅぅ」
「そうね」
「ああっ、うんんん、気持ちいい」
「で、後始末はどうしましょうか?」
「やだ、そんな処しゃぶっちゃ。あああ、後ろはいやあぁぁぁ」
「うるさいわね、アルトルージュ」
アルクェイドの手が伸びる。
めきょり。
首がくたりとして崩れ落ちる。
「遠野くんも大概にしておきましょうねえ」
どずっ
何気に怒気をまといつかせたシエルの拳が志貴の腹にめり込む。
それはもう直接肌に当てたままで手を動かしているのに、背中から衝撃波が
抜けるような、天に愛された者のみが放てる一撃。
さすがの超絶倫人も意識を失う。
「よっこいしょっと」
シエルが志貴を肩に担ぐ。
「わ、何キロか軽くなってる。その分出ちゃったのかしら」
一方、首の骨が折れたのに早くも治りつつある少女の両手首を握り、軽々と
目の高さまで持ち上げているアルクェイド。
「一日だけ時間をあげる。
次に来た時ここが更地になっていなかったらどうなるか、わかるかしら?」
「わ……、わたしが、アル……、アルクェイド、あなたなんかの命令を……」
「ふうん。そんな事言うんだ。せっかく見逃してあげようって言ってるのに。
じゃあ、完全封鎖空間の中で三日間ほど反省して貰おうかな」
「そ……、それが……な、何だと言うのよ」
精一杯のアルトルージュの強がり。
アルクェイドは全然気にせずに話を続ける。
「あなたはその姿で固定させて本来の力が出せないようにして、無尽蔵に生命
力補充される志貴と一緒してあげるわ。
まあ、死にはしないでしょうけど……。
わたしなら死んでもごめんだわ」
「ひ、ひぃぃぃ。やめて、それはやめて。お願いだから」
「じゃあ、この国には二度と近寄らない事。あなたのお城でなら好きな事して
て構わないから」
「わかったわよ……」
「それから、今後いかなる形であれわたしの志貴にちょっかい出したら、殺す
わよ」
固形化した殺気がアルトルージュを射抜く。
この一瞬、アルクェイドは本気だった。
がくがくと頷くアルトルージュ。
よろしいとニコリと笑い、アルクェイドは手を離す。
「じゃあ、帰……、あれ」
きょろきょろと部屋を見回してむう、と首を捻る。
あっと気がつき窓へ駆け寄る。
「え、ああ、シエル何やってるのよ」
「ああ、化け物同士積もる話でもあるかなと気を利かせてあげたのに」
窓から叫ぶアルクェイド。
先にとっとと降りたシエルがしれっとして答える。
もうアルトルージュへの興味は消えたとばかりに、数階の高さをものともせ
ずアルクェイドは地上へ飛び降りる。
「油断も隙も無い。これだから陰険女って嫌ね。志貴に何をするつもりだった
のかしら?」
「いくら何でもこの状態では……。そもそもあなたのせいで遠野くんがこんな
目にですね……」
「わたし悪くないもん」
「ほう、そんな事言いますか」
「じゃあ仇討ちでもして来たら? 埋葬機関の仕事でしょ、死徒を倒すのって。
今ならシエルでも楽勝だよ」
「うっ。ええと、遠野くんの安全確保が第一で」
「わたしが責任もって連れ帰るよ」
「おあいにくさま。あなたが一番危険です」
「なによ」
「やる気ですか」
「……」
「……」
「…」
「…」
・
・
・
・
「いなくなった……」
まだ満足に立てないアルトルージュは這いつくばって窓に近づき、アルクェ
イドとシエルの言い争う姿が完全に消え去るまで見送った。
安堵してがたりと崩れ落ちる。
腰が抜け切っている。
肉体的なダメージもさる事ながら、精神的なダメージが大きい。
単なる人間に。
このわたしが。
ブリュンスタッドの名を持ち、
強大な力と権勢を有し、
多くの死徒を従える、
姫と呼ばれるこの私が。
好き放題やられちゃって、
何度も許しを乞うて、
それでもぼろぼろにされて、
泣き叫んで、
それで何度も何度もイカされてしまって……。
形の良い口が歪みギリギリと歯軋りの音が洩れる。
この屈辱を雪ぐには……。
この屈辱の傷口を癒し、わたしを取り戻す為には……。
行動しかない……。
遠野志貴を、アルクェイドを、ついでに埋葬機関の小娘を打ち倒す。
それしかない。
アルトルージュは立ち上がりかけて……、こけた。
もう顔からぺちゃっと。
完全に膝が笑って腰がふらついている。
もがきつつ上げた顔は泣き顔。
ううう……。
やっぱりお家帰ろうかなあ。
それにまた、あんな目にあったら……。
がたがたがたがた。
ぶるぶるぶるぶる。
でも、あんなの初めて。
わたしの周りにあんな男の人いないし……。
アルクェイドが執着してるのもちょっとわかる。
またわたしの事を……。
……違う違う違う、何を考えているの、わたしは。
どうやら超絶倫人にちょっぴり篭絡された模様のお姫様。
何故に?
恐るべし遠野志貴。
しかし気の迷いを払うようにアルトルージュは頭を振る。
今は引き下がるけれども、憶えてなさい、遠野志貴。
今度あったらただじゃおかないんだから。
おかないんだから……。
結局、アルトルージュは力を貯える為に帰国の途についた。
このままこの辺りに留まったらとんでもない事になりそうだと悟った為。
恐らくその予感は正しかったろう。
こと志貴の為となると白だの黒だの紅だのが凄まじいから。
双子の力もそれはもう恐ろしいものだから。
何より、遠野志貴がいるから。
関わった者全てを蜘の巣の如くに絡め取る、あるいは直死の魔眼なんかより
よっぽど恐ろしい能力を振るう志貴が棲まうから。
その魔手から逃れたのは、さすがに吸血姫、血と契約の支配者、アルトルー
ジュ・ブリュンスタッド故だと言えたかもしれない。
たとえ怖かっただけだとしても。
たとえ泣きながら逃げ帰ったのだとしても。
どうせ敵はろくな死に方はしないから、最後に笑えば勝ちだ。
きっと未来は明るいぞ、アルトルージュ。
多分ね……。
《END》
―――あとがき
誰も行かないのならば、あえて足を踏み入れよう……。
そういう訳でアルトルージュで一本。
……。
……。
……。
だって手持ち情報ってこれだけですよ(言い訳モード)
・黒髪(秋葉に似ている?とかなんとか)
・普段は可憐な14歳の姿だが、魔法少女の如く変身?して力を振るう。
・護衛とプライミッツ・マーダーを従えている。
・アルクェイドの髪を奪った。
せめてイラストとかあれば拡大解釈するのに……。
仕方ないので一つ特徴づけしてみました。
・へっぽこ
それでこーいう酷いお話になりました。あーあ。
御一笑頂ければ幸いです。
by しにを (2002/3/27)
|