復讐 作:瑞香 「……!」 何かが叫んでいる。 「……志貴ー!」 誰かが呼んでいる。 「……起きろー!」 その声には聞き覚えがある。 脳天気であーぱーな俺のお姫様。 吸血鬼のクセに燦々と降り注ぐ陽光の下、堂々と出歩き、白がとても似合う――。 何でも知識はあるクセに本当の意味では何も知らない、無垢のお姫様。 白いサマーセーターと紺のスカートを身にまとう、どこか抜けている美女。 素直で自分にはまっすくで、我が儘で、ウソはつかないけど、よく逆ギレして、律儀なくせに人の話を聞かないで、えっとえーと……。 「全部聞こえているわよ、志貴」 少しご機嫌斜めな模様。 そっと目を開ける。 そこには金髪で白いお姫様がいた。 腰に手を当てて、少し口をとがらしている。 でもそんな様子でもとても綺麗で、どんな表情でも美麗な美貌を損ねることはできないのだな、と実感する。 美女の小言を聞き流しながら、眼鏡をすぐにかけて、よいしょとベットに腰掛ける。 今は朝。 窓からは雀の鳴き声と清々しい朝の光が射し込んでくる。 一日の始まりである。 「もー志貴ー」 無視された彼女はむーとしている。 まるで光を束ねて編み上げたような髪は陽光を浴びてキラキラと輝いている。 「おはようアルクェイド」 「あ、おはよー志貴」 すると、てへへへと何のしまりもない、でも彼女らしい笑みを浮かべる。 今までご機嫌斜めだったようなのがウソのようで。 まるで万華鏡のようにキラキラと輝きが変わる。 「朝からくるなんて珍しいな、お前」 「うん」 にぱっと笑う。 ――なんていうか、お前本当に吸血鬼なのか? と言いたいぐらい、それはとても無邪気で子供のような笑みで――。 思わず毒気が抜かれてしまう。 「今日はねー、志貴に復讐しにきたの」 ――そうか復讐か、でも学校があるから…… ………… …… … えっと今なんておっしゃいました、アルクェイドさん。 復習ってお前なにか学んでいたのか……まぁ人間社会というか常識というか、たしかにそういうところは勉強中だよな……でもこれは違う。うん違う。ということは、ふくしゅうって復讐のことで……も、もしもかして17分割したことに今更――。 目の前が少し暗くなる。 すっと意識が途切れそうな、あの貧血に似た感覚――。 顔が青ざめていくのだろう。 もし彼女が、この深紅の瞳のお姫様が本気で復讐するのなら……。 急いで逃げようと立ち上がる。 ――が、おかしい。 立ち上がっても、俺の視線はアルクェイドとは並ばず、まるで座っているかのように低い位置から見上げていた。 むふふふふ、といったなにやらたくらんでいる満面の笑顔。 まるで琥珀さんのよう。 彼女もすっかり人間に染まって――真祖の姫君としてはいささか問題があるのではないか、と思った矢先。 彼女は 俺を 押し倒した。 その血のような瞳はすごく嬉しそうで。 舌なめずりしているしなやかな猫科の猛獣を思わせた。 「痛かったんだからね」 彼女はじいっとこちらを見ながら言葉を紡ぐ。 17分割されたことのない身では、その痛みなどわからない。 というか、それにわかった時には死んでいる。 いや、今もしかして17分割される、とか――。 ごくり 喉が鳴る。 「知識では痛いって知っていたけど、あんなに痛いだなんて――」 彼女の告白は続く。 その目は濡れて、殺戮の予感に興奮している獣のよう。 「だから復讐――」 そういって彼女は顔を近づけてきて、じいっと見る。 その吐息が、まるで血に飢えたそれで――。 殺される そう実感する。 でも彼女になら、これでおあいこかな、なんて思ったしまうあたり、自分でも納得してしまっていて。 彼女は手を振り上げはじめる。 その手には鋭い爪。 それがゆっくりと持ち上がる。 清々しい朝の光の中、死を授ける黒い死神の鎌のよう――。 そして振り下ろされる。 秋葉やシエル先輩、翡翠に琥珀さん、有彦や一子さん、朱鷺恵さん、そして有間家の人々の顔がよぎる。 ありがとうっていえなかったな、 それがちょっと心残り。 ……………… ………… …… … あ、あれ――痛く……ない。 振り下ろされた場所をみると、その手は俺の服を引きちぎっていた。 はだけた胸には血どころか傷一つない。 ――? なにか違和感がある。 見慣れているはずの自分の胸。 なのに違和感。 それは―― 「……傷ひとつない?」 胸に傷痕がないのだ。 そして金髪の姫君はその胸に口づけする。 わからない。 ワカらない。 ワカラナイ。 いったいなにが――。 すると鈍くそして甘く疼く。 アルクェイドは俺の乳首を甘噛みしていた。 「ふふふ」 アルクェイドは、顔を近づけると俺の唇を奪う。 舌を入れてくる。 つい反応して舌を絡めてしまう。 いったい何が――。 なにがどうして―― どうなっているというのか――。 わからない 「……これは復讐よ」 甘く耳を噛みながら、目の前のお姫様は言う。 そして耳の中に舌を入れてくる。 躰がびくんと反応する。してしまう。 そして舌で首筋をチロチロと舐める。 甘く重い疼きが腰のあたりを痺れさせる。 俺の反応を見て、楽しそうに笑う。 その赤い瞳は濡れて――何かを期待しているようであった。 「志貴にヤられた時痛かったんだから」 そして俺の胸に爪たてる。 痛みが心地よい。 感覚が鋭敏で、腰のあたりがもぞもぞしてしまう。 「ダメよ、志貴」 そしてその赤い舌は俺の肌の上をなめ回し、その爪は痛みではなく、快楽を引き出す。 まるで俺の躰を楽器にしたかのように、俺の声を的確に引き出す。 耐えきれなくて喘ぐ。 もう勃っていた。 たまらない。 ! そこをアルクェイドがスボンの上から握る。 「ほらこんなにしちゃって……」 そしてスボンの上からこする。 痛いぐらいにこすりあげる。 直接触られていないというのに、たまらない快感に腰が浮き上がる。 こらえて食いしばる。 にぶい快感が腰をなめ回す。 「ほら、痛いでしょー、志貴」 ……え、痛いって…… 痛いほど勃ったそれは、たしかに痛いといえば痛いだけど――。 「わたしも初めての時は痛かったんだからね」 それよりも悦楽の方が大きくて。 「えっとえーと、こういう時はこういうんだっけ。 『お姉さんが教えてあげるから――』」 ………… …… ――っておい。 ガバっと起きあがる。 目をまん丸にして驚く彼女と視線が合う。 そして自分の手足を見る。 どうみても小さい。 いつもの俺の体ではなくて――まるで子供の……子供!? 「ア、アルクェイド、これは!」 すると、にぱっと笑って、とても嬉しそうに話し始める。 「志貴に初めて抱かれた時、本当痛かったんだから」 顔をちょっと赤らめて、俯く。 「だから、初めてならば、志貴も痛いだろうって――」 ちらりとこっちを見る。 初めてならば痛いって…… ………… 「それ間違っている」 つい言葉にしていってしまう。 「――えぇ違うの!?」 コクリとうなづく俺。 「……」 「……」 沈黙が支配する。 「だ、だって、わたし初めての時は痛かったよー、志貴」 なぜかモジモジして答え始める。 「だから初めてする時はみんな痛いもんだと思ったんだけど――」 ――いや、それは処女膜というものがあるためで、それは女性特有のものであってだなぁ…… 言いかけて止まる。 ちらちらとなんだか恥ずかしそうにこちらを伺う、そんな初々しい姿にドキリとする。 なんて初いヤツなんだ。 「……だからこれは復讐よ。復讐なのよ」 思わず黙ってしまう。 そして―― つい笑ってしまう。 「何よ、志貴ー、笑うなんて感じワルー」 「いや、ゴメンゴメン」 口では謝るが、笑いは止まらない。 むーとする俺のお姫様。 「だからせっかく夢魔で夢の中の志貴に出会って、志貴を子供にしたのに」 「じゃあ。これは――夢」 「そうよ。いくらわたしがブリュンスタッドだからいって、志貴を子供に戻せっこないじゃない」 なにがブリュンスダッドなのかわからないが――まぁそうなんだろう。 ゆめだということに、安堵を覚える。 むーと唸っていた彼女は、えへへと笑う。 「じゃー志貴ー」 ベットの俺を再び押し倒す。 「な、なにを……」 「じゃあ、志貴の『初めて』を私に頂戴」 そう言って唇を再び甘く奪われる。 「志貴にわたしの『初めて』をあげんたんだからいいでしょ」 ――といわれても、俺は朱鷺恵さんと……。 「いいのよ、志貴」 優しく微笑む。 目は細み、囁く。 「今の志貴は夢でもまだ『はじめて』なんだから――」 そしてあの台詞を、少しだけ言い換えて言う。 アルクェイドお姉さんが、色々教えてあげるから―― アルクェイドはズボンのジッパーを下げて、再び俺のものを、今度は直接さわる。 その瞳は濡れていて―― ようやくそれが欲情して濡れていることに気づく。 「ほら出てきたよ」 アルクェイドがその柔らかいクセに固い逸物をこすり上げると、甘い痺れが走る。 いつもならばこの程度ではこんなに感じないというのに。 びりびりとする。 腰の奥にある淫靡な火がともったような、そんな甘い疼き。 「感じるでしょー志貴」 先からてらてらと腺液がもれはじめる。 それが彼女の白く細い指先で塗りたくられる。 怖いくらい感じる。 皮がひっぱられて、いやらしい音をたてる。 淫靡な炎はゆっくりと官能に火をつけ始める。 俺はいつしかアルクェイドとキスしている。 舌をからめ、唾液を啜り合うような激しいものに。 「ほら見て、志貴。もうこんなになって」 淫らな響きで彼女の言葉が脳髄を灼く。 俺の陰茎はこれ以上ないほどにふくれあがっている。 しかし彼女はやめない。 その指先で亀頭の先をこねまわり、切れ目をなで上げる。 首をふり、その快感に耐えようとする。 しかしそれを許してくれない。 細い指先が、子供のそれをこすり上げる。 浅く強く、ゆるく、そして強めに緩急をつけて、弄ぶ。 悦楽の海で弄ばれる俺の感覚――。 「ア……アルクェイ……ド……」 たまらず名前を呼ぶ。 「ダメよ志貴、こういう時は、お姉さんっていうのよ」 そういって、動きをとめ、ただ握る。 達しようとしていた俺は突然刺激がなくなり、身悶える。 早く出したい、出したい、出したい 腰を動かそうとするが、それを押さえつけられる。 痒い痛みが脊髄を駆け抜ける。 焼き尽くそうとする。 「お姉さん、は?」 嬲るように甘く囁く。その言葉の一言一言が突き刺さる。 「ア……アルクェイド……お姉さん」 とたん、彼女は激しくしごき出す。淫猥な音をたてて、陽根がこすり上げられる。 痛いほどの感覚がたまらない。 とたん、 突然、溶かされた。 いや違う。 喘ぎながらも確認すると、金髪の美女がその薔薇色の唇でおれの男根を溶かしていた。 そしてまなじりがほのかに赤く染まり、上目がちでちらりと俺を見る。 その色っぽさに、蕩けていく。 「……お姉さん……たまら……ないよ」 粘膜が絡みつき、そしてすすり上げられる。 「お姉さん……ダメだよ……なんだかヘンに……あぁ」 身悶えてしまう。 軟体動物のような舌がカリをこすり上げ、絶頂へと導いてくれる。 「許して……ア、アルクェイドお姉……さん――」 美麗な顔をゆがませて俺のそれをくわえているその姿はたまらなく、 頬に朱が散っていて、 なんとも淫猥な眺めだった。 そして感覚は快感だけ伝えてくる。 甘美な感覚だけが駆け抜ける。 「つっっ………………!」 そして一気に吸い上げる。 まるでそのまま精を吸い出すかのように、その頬をへこませるほど、啜られる。 「……お姉……さん……、あぁ…………ああっ!!」 腰にあった体をとろけさす甘い疼きは全身を焼き尽くし、何も残されない。 俺は出していた。 いっぱい出した。 魂も体も、その中にあるすべてを放出していた。 熱い精を彼女はイヤな顔ひとつせず、ただ静かに受け止めてくれる。 そしていやらしい音をたてて、彼女は口からそれを放つ。 つっーと、白い粘液が柔らかい唇とつながり、そして切れる。 そして俺が見ていることを確認すると、ワザと喉を鳴らして飲む。 そして口元についた粘液を舌で舐め、湯気が出そうなほど熱い吐息を吐いた。 その表情は、艶めかしい怠惰な風情で。 「……濃かったよ、志貴」 そして淫らに微笑む牝のそれであった。 「いっぱい感じたんだね――志貴」 清純なイメージ――まぁ白が似合う吸血鬼なんて他にはいないだろう――が紡ぐ淫猥な言葉に、俺の分身は反応してしまう。 「でも、まだこれから本番よ――志貴」 そういって、彼女は立ち上がる。 彼女は火照り朱に染まった肌を曝しながら、服を脱いでいく。 その曲線を堪能する。 めりはりのある躰はほっそりしているくせにグラマラスで。 そして裸になると、アルクェイドはまたがってきた。 「おまたせー志貴」 そして、微かに熱い粘りがこもった声。 「ほら――」 そうして、彼女は目の前で自分の秘所をさらけ出す。 金色の陰毛を書き分けて、淫らに咲く花弁を自分の指で開いていく。 ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり。 その女は赤く充血していて、ほのかに牝の香りを放っていた。 「見て――これが女よ……」 ぷっくりとふくれた陰核、そしてその下に広がる花びら。 それは湿っていて、てらてらとしていて、赤く染まり、淫らに咲き誇っていた。 それを白い指で開いていく。 ごくり、と唾を飲む。 「ほら――見たことがないでしょ――」 少しうわずった彼女の声。その声はかすれていて、淫らに響く。 「ほら、ご覧なさい、これが『女』よ」 まるでアルクェイドらしくない、艶めかしい台詞とその淫蕩さに、何も考えられない。 そこを凝視する。 アルクェイドの女は濡れて、誘っていた。 触れたい。 手が動きそうになる。 あの熱い花弁にふれてみたい。 イジってみたい。 舐めてみたい。 そしてそして……。 考えられない。 男を誘う女の匂いがたまらない。 花の香りに誘われた虫のよう。 逃れられない。 ただそれを凝視するばかり。 アルクェイドを下から見上げると、期待に満ちた淫らな輝きに満ちた赤い瞳と絡まり、そして彼女は頷く。 ゆっくりと手を伸ばす。 そっと。 でも確かに。 近づくだけで熱気が感じられる。 それはとても熱そうで。 とろけていて。 それにそれようとした時――。 「えっと、ここは『お姉さんが、女の体の秘密、教えてあげる』でいいんだよねー、志貴ー?」 なんて気が抜けることを言う。 とたん、今までの淫猥さは霧散して、残るのは、このあーぱー吸血鬼のおバカな雰囲気だけで――。 つい笑ってしまう。 でも意外に興奮するもので――俺ってこんなフェチだったけ? などと思ってしまう。 というか、これはこれで楽しい。 なんというか、○○プレイだと思えばいい――って、俺、この歳からこんなのにはまっていいのかな、なんて思いながら。 続くアルクェイドの『お姉さん』っぷりを楽しむことにした……。 夢の中だし、まだ十分楽しめるだろう。 まだ夜は明けていないのだから――。 そのころ、志貴の部屋では、翡翠が困り果てていた。 もう朝だというのに、志貴が起きないからだ。 もう学校が始まる時刻である。というか1限目はどう考えても始まっている――朝8:55 つついても、ゆすっても、耳元で大声を出しても――効果はいっさいなし。 秋葉はあきれてすでに学校へ行き、琥珀は寝たいだけ寝かしとけばいいんですよー、と言い切ってしまっていて。 でもメイドの翡翠は職務として起こさなくてはならず、ゆさゆさとゆすって起こそうとする。 でも志貴は、時折、『お姉さん』などと意味不明な寝言をつぶやくばかりで――。 翡翠の眉はむーと、八の字によっていくのであった。 了
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