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朱い月様のおみ足

                  からたろー


 ♪ピンポ〜ン。

 チャイムを鳴らしたけど、反応はなかった。
 まぁ、無理もない。こんな朝早くにあいつが起きてるはずがないわけで。

 いつもの通り、勝手に合鍵でドアを開ける。
 起こしたら悪いので、細めに開けたドアの隙間から静かに玄関に滑り込む。
 そのとたん。

「……んー。おはよー、志貴」

 眠そうな声がかかった。
 見ると、素肌に男物の――『俺の』ワイシャツを着ただけのアルクェイドが
眠そうに目を擦りながら立っていた。

「悪い。起こしちまったかな?」
「……ううん。起きていたから」

 言葉とは裏腹に、アルクェイドは物凄く眠そうなんだけど。
 そして―――
 上みっつのボタンがはまっていないので、胸の谷間がくっきり覗ける。
 袖の長さが絶妙なので、袖口から指先だけが覗いている。
 このだぶだぶ感が遠野志貴のフェチ心を絶妙にくすぐるわけで。
 おまけに、アルクェイドが燦々と朝日の差し込む窓を背にしているせいで、
身体のラインがくっきりと透けて見えている。
 やっぱり、『俺シャツ』っていいよね。うんうん。
 しかも、それを着ているのがアルクェイドのような超絶的な美人と来れば、
俺じゃなくても思わず押し倒したくなるよね。うんうん。
 一人で納得しながらアルクェイドに手を伸ばしたら、軽く身をかわされた。

「眠いから嫌」
「あ……そう」

 アルクェイドは猫みたいなもんだから、気が乗らなければ、こうなる。
 向こうがその気になった時は、こっちの都合なんてお構いなしだけど。
 もちろん俺としては、アルクェイドの要望に従うしかないわけで。
 だってさ、本物の猫に引っかかれても『痛い』で済むけど、『猫みたいな』
アルクェイドに本気で引っかかれたら、首と胴体が生き別れじゃないか。

「これから寝るところだったのか。邪魔してごめんな。
 いやほら、学校行く途中で、ちょっと顔を見たくなっただけだから……
 すぐ出て行くから、ゆっくり寝てくれ。―――夕方また来るよ」
「あ。待ってよ志貴」

 言い訳しながら部屋を出ようとすると、アルクェイドに引き戻された。

「眠いのに眠れないのよ。だから、もう少しここにいてくれない?」

 両手でしっかり俺の学生服の袖を掴んだまま、上目遣いに言われては……
 おまけに、白うさぎみたいな赤い目に涙なんて溜めて言われては……
 やっぱり、逆らえないよなぁ。

「あ、ああ。まだ時間はあるから、別にいいけど」

 回れ、右。
 靴を脱ぎ捨てて、そのまま寝室へ向かう。
 もちろん、まだ袖口を掴んだままのアルクェイドに引っ張られて、だ。

「眠れないって、どうかしたのか?」

 軽く尋ねると、アルクェイドは憂鬱そうな顔でうなずいた。

「……うん。最近、悪い夢を見るのよね」
「そりゃ、誰だって夢くらい―――」
「違うってば」

 アルクェイドが、苛立たしげに俺の言葉を遮った。

「わたしは、あなたたち人間の言うような意味での夢なんて見ないわよ」
「え?」

 そうだったっけ?

「そんなことより!ねーねー、一緒に寝ようよー、志貴ー」
「はい?」

 一緒に寝よう?
 そのついでに、あ〜んなことやこ〜んなことやはたまたそ〜んなことまで!
 などと勝手に盛り上がりかけた俺をよそに、アルクェイドはぽややんとした
顔で生あくびを繰り返している。
 あいにく、今回は俺が期待したような展開はないみたいだ。
 今日はアルクェイドがただひたすら眠いだけみたいだから、品行ホウセーな
態度で文字通り一緒に寝るだけ、と。
 まぁ、俺としては、ワイシャツ一枚でなまあしのアルクェイドと一緒に寝る
のを断る理由なんて何もありはしないわけで。

「別にいいけど。それより、さっき言ってた夢って一体……」
「……んー、眠いから後にして」

 それだけ言うと、アルクェイドはベッドに倒れ込んだ。
 その際、アルクェイドが俺の学生服の袖を掴んだままだったので、必然的に
俺までベッドに引きずり込まれる格好になった。

「こら!アルクェイ……ド?」
「すー……」
「……もう寝てるし」

 アルクェイドは、両手でしっかりと俺の学生服の袖を握り締めている。
 そうしているから、俺がここにいるから、安眠しているんだろう。
 せっかく眠れたのに、無理に手を開かせて起こしちゃ悪い。
 と、いうことで、お姫様が目を覚ますまで側にいるしかなさそうだ。
 と、いうことで、今日は学校は自主休校と決定…だな。
 そうと決まれば―――寝よう。
 カーテン越しに差し込む朝日も、昨夜しっかり寝たことも、無視しよう。

「おやすみ」

 アルクェイドの髪の、柔らかな香りを胸一杯に吸い込んで、目を閉じた。


 夢を見た。
 夢を見ていると自覚しながら。
 夢を見た。

 走っていた。
 暗い、迷路のような城の廊下を、ナイフをしっかりと握り締めて―――
 走っていた。

 理由はわからない。
 とにかく、走っていた。

 これ以上走れない、というところまで走り続け、ようやく足を止めた。
 薄暗く、がらんとした広間。
 その奥に、小さな窓がひとつ。
 だが、ここは城の奥深く。
 外が見えるはずもない。

 その窓から何かが見えるとしたら―――この城の玉座だろうか?

 窓に近付こうとした時、不意に背後から呼び止められた。
 振り返ると、そこにいたのは、髪の長い、白いドレスを着たアルクェイド。
 しかし、アルクェイドは、まるで俺が全く知らない人間であるかのように、
というよりもむしろ、虫けらでも見るような無関心さで、見ていた。

 夢の中で、アルクェイドと何を話したのかは、忘れてしまった。

 覚えているのは、トツゼン金色に輝いたアルクェイドの魔眼。
 そして―――
 自分が、遠野志貴が十八分割されて瞬殺されたこと。
 それだけだ。


「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 みっともない悲鳴とともに、俺は目を覚ました。

 アルクェイドの魔眼が金色に輝いた瞬間―――
 俺が、遠野志貴が、本当に殺されたのだとわかったからだ。
 おかしな話だ。
 夢の中で、これは夢だと自覚していたのに。
 それでも、身体中が嫌な汗にまみれていた。

 手足がちゃんと付いていることを確認してようやく、安堵の息をついた。

「まさか、さっきのがアルクェイドの―――」

 間違いない。
 俺の全ての感覚が告げていた。
 おまえは既に死んでいる、と。
 俺の全ての感覚が悲鳴を上げていた。
 俺はさっき本当に殺されたんだ、と。

 これまで何度も本当に死にかけた俺が言うんだから、間違いない。
 あの瞬間に俺が直面したのは、本物の、死の深淵だった。

「た、たまらんぞ、これは」

 思わずひとりごちながら隣に目をやると―――
 アルクェイドは、安心し切った顔ですやすや寝息を立てていた。
 相変わらず、俺の学生服の袖を掴んだままだ。


 アルクェイドが目を覚ましたのは、夕方も遅くなってからだった。

「ん………」

 俺と目が合ったとたん、アルクェイドがにぱっと笑顔になった。

「ずっと側に付いててくれたんだね、志貴。
 やっぱりそのおかげかなぁ、今日は嫌な夢見なかったんだよ。
 ―――ありがと、志貴」

 アルクェイドが寝返りを打ち、俺の上に覆い被さって来た。

「お礼、しなくちゃね」

 後頭部に腕が回され、きつく抱き締められる。
 ワイシャツ越しに圧し付けられる大きな胸の柔らかな感触。
 いつもなら、そのままえっちに雪崩れ込んでしまうところだけど―――

「志貴………」
「……………………」

 今は、とてもじゃないけどそんな気にはなれなかった。

「どうしたのよ志貴?」

 反応しない俺に焦れたように、アルクェイドが俺を睨む。

「ねえ、身体の具合でも悪いの?」
「そうじゃないけど」
「だったら、どうして?」

 アルクェイドが、俺の腰のあたりをまたぐ格好で身を起こした。
 怪訝そうに俺の顔を覗き込んで来る。

「悪い、アルクェイド。今、そんな気になれない」
「ええっ!」

 目をほとんど点にしてのけぞるアルクェイド。
 そこまで驚くようなことか?

「ちょ、ちょっと志貴?ホントにどこか具合でも悪いんじゃない?」
「違うって。嫌な夢を見たもんだからさ、ちょっと気分が悪いんだ」
「夢?」

 アルクェイドが、はっと息を呑んだ。

「まさか……それって、志貴がわたしに殺される夢?」
「そう。そのまさか」

 俺はうなずいてみせた。

「俺が、アルクェイドに殺される夢」
「わたしが最近ずっと見てたのと同じ夢よ、それ。
 そっか。今日は志貴がわたしの代わりに見てたのね」

 アルクェイドは一人で納得しているみたいだけど、夢ってそんな都合のいい
物じゃないはずだ。

「あのな、おまえの夢を代わりにって、そんなこと出来るわけ―――」
「志貴には出来るわよ。前にわたしの血を飲んだでしょう」

 確かに、そういうこともあった。

「わたしの血を受け入れることで、志貴は精神的にわたしの影響を強く受ける
ようになってるわけ。
 もっともあの時は、ほんの一滴飲ませただけだから、覚醒している状態なら
わたしの言うことに逆らい難くなる程度だけど。
 でも、眠っている時は抵抗がないからね」
「なるほど。それでおまえの夢を見させられたわけか」

 応じながら、思わずため息が漏れた。

「でもさアルクェイド、おまえ、夢が無意識下の願望だって知ってるか?」
「違うわよ」

 アルクェイドが、むっとした顔で言い返した。

「それはあなたたち人間の話でしょう。
 わたしは夢なんか見ないもの。眠っている時は機能を停止してるんだから、
もちろん思考も停止しているわけで。
 記憶を整理する都合で思考を停止していないこともないわけじゃないけど、
そういう時にわたしが見ているのは『既に起こったこと』だけよ。
 眠っている時の意識活動を夢と呼ぶなら、それは確かに夢かもしれない。
 でも、それは志貴の言うような意味での『夢』じゃないでしょう?」

 まぁ、厳密に言えば、確かにそうだ。
 でも―――

「でも、現実には、俺はまだアルクェイドに殺されてない。
 だったら、あれが『既に起こったこと』のわけがないじゃないか」
「違うわ。あれは、『既に起こったこと』なのよ」

 アルクェイドはきっぱりと言い切った。

「そうでなければ、わたしが夢に見ることはないもの」
「ちょっと待て。おまえ、滅茶苦茶矛盾してないか、それって?」

 俺は、人差し指でこめかみを押さえながら言い返した。

「さっきも言った通り、俺はまだアルクェイドに殺されてないんだぞ?」

 何か言いかけたアルクェイドを手で制して続ける。

「だからあれは『将来起こること』であって『既に起こったこと』じゃない」
 だが、アルクェイドは首を振った。

「わかってないわね、志貴。わたしには未来視は出来ないの!
 わたしに見られるのは『既に起こったこと』だけなの!」
「アルクェイド、俺は生きてるのか?それとも死んでるのか?どっちだ?」
「生きてるわよ。―――どうしてそんなわかり切ったことを訊くの?」

 アルクェイドは少しばかり不機嫌そうだ。
 もっとも、俺も少しばかり不機嫌になっているから、お互い様だけど。

「おまえがちっともわかってないからだ。
 だって、おまえが俺を殺すのは、ずっと先の話なんだぞ」

 俺は言葉を切り、下から手を伸ばしてアルクェイドの髪に触れた。

「なにしろアルクェイドの髪が、腰より長くなってたんだから」
「わかってないのは志貴の方よ」

 アルクェイドはそう言って、やれやれ、と大きく肩をすくめた。

「ねぇ志貴、あなた、あの夢を未来視と勘違いしてない?」
「違うのか?」

 訊き返したとたん、アルクェイドが呆れ顔でため息をついた。

「あのね志貴、アカシックレコードには、過去も未来も関係ないのよ」
「……なんだ?その、アカシックレコードって?」
「知らないの?」

 心底不思議そうに聞き返されても困るんだけど。本当に知らないんだから。

「知らないから訊いてるんだけど」
「……まぁいいわ。説明してあげる」
「そりゃ、どうも」
「アカシックレコードっていうのは、この宇宙で起こったこと全ての記録よ。
 宇宙の始まりから終わりまでの、文字通り全てのね」
「ちょっと待て」

 また矛盾を発見してしまったので、俺はさっそくツッコミを入れた。

「この宇宙で起こったこと…って過去形で言っときながら、宇宙の始まりから
終わりまでってのはどういうことだよ?」
「あのねぇ……」

 アルクェイドは、頭痛を堪えるみたいに右手で自分の頭を押さえた。

「実際には、宇宙に始まりも終わりもないのよ。始まりと終わりが環になって
ぐるぐる回ってるんだから。
 アカシックレコードも同じ。始まりと終わりが環になって回っているの。
 そこに全てが記録されているの。
 だから、志貴にはまだ起こっていないことのように思えても、それらは全て
『既に起こったこと』なのよ。誰にも変えられないのよ」
「そんなことは―――」

 そんなことはないだろう。
 例えば、晶ちゃんがそうだ。
 未来視の出来る晶ちゃんは、努力すれば未来を変えられるじゃないか。
 だが、俺が言い終わる前に、アルクェイドは首を横に振っていた。

「志貴はアカシックレコードと未来視を混同しているのね。
 いい?未来視っていうのは、アカシックレコード自体ではなく、そこに至る
可能性のひとつを見ているの。だからこそ、努力しだいで結果を変えることも
可能なわけ。でも、わたしには未来視は出来ない。結果は変えられない。
 仮にこれから起こることであっても、それは『既に起こったこと』なの」
「あー、ようするにだ」

 俺はよっこらしょと起き上がった。

「アルクェイドが見ている夢ってのは、そのアカシックレコードとかいう物を
覗き見してるってことか?
 だから、将来起こることであっても、未来視とは違って結果を変えることは
出来ない。これで合ってるか?」
「……うん」

 アルクェイドは小さな声で答え、そのまま俯いてしまった。

「わたし、志貴を殺したくない………」

 くすん、くすん。
 アルクェイドってば、肩を震わせて泣き出してしまった。

「あー、こらこら、泣くなアルクェイド」
「だって………」
「だって、夢なんだぞ?」

 俺はアルクェイドの頭に手を置いた。
 頭を撫でてやりながら先を続ける。

「夢っていえばおまえ、前に夢魔を使って俺の夢をえっちな夢に変えちまった
ことがあったよな?」
「え……?う、うん。それがどうかしたの?」

 きょとんとした顔で訊いて来る。

「おまえが飼ってる夢魔だけどさ、あいつはおまえの夢も変えられるのか?」
「え…………!」

 アルクェイドは、首を傾げたまま固まってしまった。

「う〜〜ん、どうなのかしら。わたしがこれまでにレンを使役したことって、
志貴の夢を変えさせた時だけだから……」

 ひとしきりうんうん唸った後で、アルクェイドが顔を上げた。

「そうね。レンには、わたしの夢も変えられるはず」
「だったら話は簡単じゃないか。レンに夢を変えさせればいい」
「でも…………」
「おまえの夢は『既に起こったこと』そうだったな?
 でも、それだって夢には違いない。
 夢なら、夢魔を使えば内容を好きなように変えられる。そうだろ?
 夢魔がおまえの夢を変えられるなら、未来も変えられるってことだろう?」
「………でも、アカシックレコードを書き換えるってことよ?それって」
「少なくとも、やってみるだけの価値はあるだろ」

 疑わしそうな表情のアルクェイドに、俺は大きくうなずいてみせた。


「ところで、おまえの夢魔…レンだっけ?…は、どこにいるんだ?」

 俺は室内を見回しながら尋ねた。

「んー?今日は天気がよかったから、公園に昼寝しに行ったと思うのよね。
 だから、もうそろそろ帰って来る頃」

 アルクェイドは全く考えた様子もなく答えた。

「……なんで公園だってわかるんだ?」
「えー?だって気分いいじゃない。公園でのんびりするの」
「………………なるほど」

 ようするにアルクェイドは、夢魔の行き先を知っていたわけでもなければ、
推理したわけでもなく、単に自分だったらどこに出かけて何をしたか、という
ことをそのまま答えたらしい。
 まぁ、確かにアルクェイドも猫みたいなもんだから、何も考えなくても一番
居心地のいい場所をみつけてそっちに行くわけで。
 そう考えれば、あながちハズレではないかもしれない。

 俺がそこまで考えた時、首に大きな黒いリボンを巻いた黒猫が、ベランダに
ひらりと音もなく降り立った。
 右の前足で器用に窓を開け、そこから室内に滑り込んで来る。

「あ。ほらほら、言った通りでしょ?帰って来たでしょ?」

 得意そうな笑顔を浮かべて言いながら、アルクェイドは黒猫を抱き上げた。
 そろそろ帰って来る頃、というのは当たりだったけど、でも、黒猫…夢魔が
公園に行っていたかどうかまではわからないぞ?
 ………いや、そんなことは別にどうだっていいんだけどさ。

 アルクェイドは黒猫を抱いたままベッドに腰を下ろし、黒猫の目を見ながら
何やら事細かに指示を与え始めた。
 大真面目に話しかけるアルクェイドに対し、黒猫の方は時折前足で顔なんか
洗いながら、聞いているのかいないのかよくわからない態度で聞いている。
 ダメモトでやってみる価値はあると思っていたけど、あの様子だと……
 どうも無理っぽいような気がして来た。

「はぁ………失敗だったかも」
「ちょっと志貴、どうしてため息なんてついてるの?」

 アルクェイドが、心底不思議そうな顔で俺の顔を覗き込んでいた。
 その胸に抱かれたまま、黒猫はあくびなんかしているし。
 ますます無理っぽいような気がして来た。

 アルクェイドは、抱いていた黒猫をベッドに下ろした。
 黒猫は枕元に丸くなり、俺の方をじっと見上げる。

「ほらほら志貴ー、早く寝ようよー」

 にこにこ笑いながら、アルクェイドが自分の隣をぽんと叩いた。

「ついさっき起きたばかりだろ、おまえ」
「いいじゃない。志貴と一緒だったら寝られるよ、わたし」
「わかったわかった」

 確かに、俺は寝てなかったわけで。

「ちょっと待ってくれ」

 一声かけて、俺は学生服を脱ぎ始めた。
 昼間着たまま寝ていたせいで既に皺くちゃだけど、気分の問題だ。


 ベッドに横になったとたん、アルクェイドが俺の腕に抱きついて来た。

「んふふ〜」
「楽しそうだな、おまえ」
「うん。楽しいよ。志貴と一緒に寝るんだもの」

 アルクェイドは無邪気な笑顔で答えた。

「そりゃ、どうも」
「あはは」
「それより、夢魔にはどんな夢にするように言ったんだ?」

 俺の問いに、アルクェイドはまた楽しそうに笑う。

「志貴が夢って無意識下の願望だって言ってたから、志貴の願望を取り入れる
ように言っといたのよね。楽しみだなぁ」
「ふーん………」

 なんだか、トツゼン眠くなって来た。

 そして

 目を閉じると

 そのまま

 ふっと

 意識が

 遠のいて

 行った

                                      《つづく》