一月の終わり。
俺はその日、運命に出会った。
「再会・キス、誓い」
一色紫
あの日、彼女…セイバーとの別離を果たしてから何週間かがたった今日。
俺は目の前の光景に只、唖然としていた。
いや、今日は朝からそんな予感がしていた。
俺は今日、衛宮士郎のとって最も大切の人に再会するだろうという、ひどくアヤ
フヤで…それでいて確かな予感。
だが、だからといって目の前の光景に驚くなというのは無理だ。
今、俺の目の前にはセイバーが…俺の最も愛しい人がいる。彼女は居間の窓の
そばに佇み、夜空を見上げている。
「………」
声が、出ない。驚きで声が出ない訳わけじゃない。声が出ないのはただ単純に、
月明かりに照らされた彼女の横顔がとてもキレイで…
…その美しさに、魅了されただけ。
「………」
声を出さずに彼女へ歩を進めてゆく。
一歩。
彼女との距離が狭まる。
彼女の横顔。最後に見た時と変わらない、澄んだ湖の様な翠の瞳。
白く、透きとうる白磁器のような肌。
彼女があまりに美しくて、儚くて。
まるで、
幻のようだと思った。
…否。こんなにキレイな幻はこの世に存在しえない。
二歩。
また、彼女との距離が狭まる。
薄く形の良い桃色の唇。その凛とした眼差し。
彼女と過ごした時間、彼女の姿、彼女の仕草、声。
その全てを覚えている。
決して忘れない。忘れられない。
あの時の選択に後悔は無い。
けれど、彼女を見た瞬間、彼女の全てが懐かしくて、嬉しさで心が縛られた。
三歩。
もう手を伸ばせば触れ合える距離。
まるで、予め決まっていたかのような柔らか仕草で彼女はふわりとこちらに振
り向いた。
心臓が高鳴る。胸の鼓動はうるさいほど。
そんなこちらの気も知らず、彼女は、
「…困りました。」
と、はにかむように笑った。
「…どうして。」
自分でも驚くほど優しく、穏やかな声で訊く。
「はい。シロウに会ったら色々言おうと思っていたことがあったのですが…。
…シロウの顔を見たら…その…胸がいっぱいになってしまって…言おうとし
た事を忘れてしまいました。」
だから、困りましたと言うと彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
そんな彼女の様子があまりに可愛くて、自然と口許が綻んでしまう。
「何だ。そんな事か。それより、セイバー」
と言って彼女の華奢な体を抱き寄せる。
あっ、とセイバーが声を漏らす。
「自分の家に帰ってきたら、まず言う事があるだろ?」
そうでしたね、と腕の中で彼女が微笑む。
「ただいま、シロウ。」
「お帰り、セイバー。」
そうして、自然と互いの唇を重ねあう。
永くて、短い口付けの後。
「なぁ、セイバー。」
「はい。なんでしょう。」
月明かりが俺達を照らすなか、
あの土蔵での出会いを思い出し、たった一つだけ質問をしてみようと思った。
俺と彼女の初めての会話を思い出しながら。
そっと、訊いてみる。
「…問おう。貴方は俺を愛しているか?」
恥ずかしい…。きっと、俺の顔はトマトのように真っ赤になってるだろう。
それでも、そう言って笑ってみせた。
すると、彼女は顔を俺以上に真っ赤にし、拗ねた様に上目使いに俺を睨むと
「…シロウはずるい。意地悪だ。…そんな答えがわかり切っていること訊くなん
て。」
そう言って一瞬俯いたかと思うと急に顔を上げ、
そして、
自分の唇を俺の唇に重ね合わせてきた。
そんな、彼女の行動が愛しくて、嬉しくて、彼女を抱いていた手に力を込める。
…そして誓う。この腕の温もりを何があっても、もう、二度と手放さないと。
何があっても、必ず彼女を護りきると。
…そう自分に誓う。
冬が終わりを告げ始める頃。
俺は運命に再会する。
《Fin》
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