しづ心なく・・・

                      作:しにを

 ぎしぎしとベッドが軋みをあげている。
 それに伴奏するかのような二人のはぁはぁ言う荒い息。
無自覚に洩れる喘ぎ声。
 嬌声と悲鳴のブレンド。
 時折発せられる意味の無い言葉の断片。
 もう意味のある人間の言葉など失っていた。そう、まるでケダモノのように……。

 交わっている姿も、恋人の甘い愛の営みと言うには程遠い。
 私は犬のように四つんばいでお尻を高く上げている姿。
 恥ずかしい部分を全て晒している浅ましい格好。
 その雌犬に、ケダモノのようにのしかかり、荒々しく体を貪っている遠野くん。
 私もそれを嬉々として受け止めている……。
 ひとしきり私を蹂躙し、何度も何度も昇天させた挙句、遠野くんは止めとば
かりに後ろの穴に猛り狂ったペニスを突き立てている。

 それでも最初は、

「今、どこに入れられてるのかな、シエル先輩」(一突き)
「お尻、お尻に……、あああっ」(一突き)
「お尻の何処?」(一突き)
「お尻の、穴、お尻の穴に遠野くんのが入っています……、あああ、駄目、く
んんっ」(一突き)
「何が入っているの?」(一突き)
「遠野、くんの……」(一突き)
「俺の何?」(一突き)
「遠野くんのペニス。大きくて熱いペニスが入っています。あっ、あんん」(一突き)
「シエル先輩は、それを入れられてお尻の穴で感じちゃうんだよね」(一突き)
「ち、違う……んん」(作動停止)
「そんな事言うんならやめちゃおうかなあ」(作動停止)
「う……、ああ」(作動停止)
「嫌なんでしょ。ごめんね先輩、今抜くから」(ずずずーーっ)
「ああ、嘘です。やめないで下さい。お尻の穴でされるの好きです、私はお尻
の穴で感じちゃう恥ずかしい女の子です。
 入れて、入れて下さい。お願い、遠野くん……」(ず、ず。一時停止)
「素直で可愛いシエル先輩に……、そら、ご褒美だよ」(深く一突き。以降倍速)

 ……といった仲睦まじいやりとりもあったのだけど、最後は二人ともただた
だ快楽を貪りひたすら頂点へとひた走るだけだった。

「もうダメ。イッちゃう、遠野くんイッちゃいます」
「俺も、もう限界。イクよ、一緒に……」

 動きの激しい抜き差しではなく、深くつながったままで私の背中に密着して
、抱きすくめる形で腰を動かす。
 遠野くんの体重がかかる。その重さが嬉しい。
 それでも、遠野くんは私の負担にならないよう片手で体を支え、空いている
手でびしょびしょに濡れそぼっている秘裂をかき回して、さらに刺激を与えて
くれる。

「ああっ、遠野くん……」
「シエル……、」

 最後にお腹まで突き破るんじゃないかという激しい一撃を加えられて私は絶
頂を迎え、遠野くんも熱く滾っている迸りを爆発させた……。
 

「それにしても先輩もすっかり慣れてきたよねえ」

 二人して横たわり余韻に浸っている。力尽きたという方が正解かな。
 まだ、小さくなっていないペニスをずるりと抜きながら、遠野くんは私に言った。

「最初はあんなに嫌がってたのに……」
 うー、不本意な言われ方。

「今だって喜んではいません。いえ、その、嫌々やってる訳ではないけど、え
えと……」
「でも、俺だって嫌がってるのを無理やりなんて嫌だから、先輩も感じてくれ
るんなら、その方がずっと嬉しいよ」
 そう優しく言われると、弱い。

 あれだけ何度もやられればお尻に入れられるのに馴染みもするし、遠野くん
が喜んでくれるのなら多少辛いのも我慢できる。
 いや、もう我慢なんかしていないのかも……。

「あーあ、こんなにこぼれちゃって」

 終わって、まだ閉じていないらしいお尻の穴を指先でふにふにと弄っていた
遠野くんが、ティッシュを数枚取りながら言う。

「拭いてあげるよ。ちょっとお尻上げて」

 横になっていた格好を、さっきのような形にする。
 正気に戻るとかなり恥ずかしい……。

「凄い光景だなあ。前も後ろも丸見えでぐちゃぐちゃに。……ごめん、もう変
なこと言わないから。じっとしてて」

 遠野くんの言葉に恥ずかしさで座り込もうとしたのを、制せられる。
 しとどに濡れそぼっている谷間と、今吐き出されたものが溢れ出しているお
尻の穴に、柔らかい紙が当てられる。
 たれてきた愛液と精液を何度もティシュを当てて染みこませ、びちゃびちゃ
にしては新しいもので同じ拭き作業を繰り返す。

「いくらあっても足りないな、これじゃ」

 優しくふきふきしてくれながら、遠野くんはぽつりと呟く。
 遠野くんはその気はないのだろうけど、丹念に拭き清めてくれようとすると、
小陰唇のびらびらにそっと触れたり、お尻の穴の内周をなぞったりと軽い愛
撫にも似た行為になってしまって……、その新たな刺激に私はまた感じてトロ
リと濡れ始めている。

 遠野くん、絶対気づいてるだろうな……。
 恥ずかしいなあ……。
 恥ずかしいけど、意志の力でどうにかなるものでもないし、駄目だと思うと
かえって遠野くんの指を感じてしまって……、ああ、また。だめだってば……。

「そうだ、先輩」
「なんです?」
「どうせなら、お風呂に入らない?」
「お風呂ですか……」
「うん。一緒に入ってさ、体洗って綺麗にしてあげるよ」
「うう、それは魅力的な提案ですね」


§  §  §

 少し手狭なお風呂場に二人していちゃいちゃしながら入った。
 遠野くんの言うままに椅子に腰掛けて、体を洗って貰う。
 後ろから背中を流しながら「おっと手が滑った」とか言って、胸に手を伸ば
すお約束とかされながら上半身をスポンジで洗ってもらう。
 もっと力を入れてもいいのにと思うくらい、そうっと繊細な壊れ物でも扱う
ようにゆっくりと軽く軽く石鹸を泡立ててこすってくれる。
 手の指の一本一本、手首から腕のライン、胸とお腹。
 肌を優しい感触で何度もなぞっていく。

 なんだかくすぐったいような嬉しいような変な気分になる。
 さっきまでのケモノのような遠野くんの別な側面。
 あれはあれで遠野くんの素敵な一面だけど、こうやって優しい遠野くんも好き……。
 なんだか幸せだなあ。
 今度は下に移りつま先から足首、ふくらはぎから太ももにと進む。
 気持ち良いなあ。
 まるで召使に体を洗わせているお姫様にでもなった気分。
 それとも、忠実な下僕を従えた女王様かな。

「シエル先輩、ちょっと足開いてくれない?」

 はっと我に返る。

「いえ、そこまででいいです」
「うん? どうせなら最後までさせてよ」
「嬉しいんですけど、その、遠野君にして貰うと……、恥ずかしいんですけど、
感じちゃうから、そこは自分で……」
「そ、そうか」

 わわわ、遠野くん真っ赤。いや、私も多分同じだろう。

「ええと、湯船にでもつかってて下さい。さすがに二人は無理ですから」

 うん、と頷きそそくさと遠野くんはそちらへ避難する。

 石鹸を泡立てて、指で直接秘処の襞を擦る。まだどろどろしてるなあ。
 そちらを綺麗にして、今度は後ろ。
 ちょっとお尻を持ち上げて、白濁液を掻き出してお湯で流す。
 少しひりひりしてる。
 うう、こんな姿は他人には見せられ、見せられ?
 横を振り向くと……。
 ああ、やっぱり遠野くんが身を乗り出してまじまじと見つめている。

「遠野くん、見ないで下さい」
「ええーっ」
「なんですか」

 しぶしぶ遠野くんは背を向けてくれた。
 シエル先輩のけちんぼって、ちゃんと聞こえてますからね。

「ねえ、遠野くん」
「んん?」
「遠野くんて私と結ばれた時って、もう何回もこういう事した経験あったんですか?」

 とたん、ごぼごぼ言う音がした

「突然、何を言い出すんですか。思わず沈んだじゃないですか」
「ごめんなさい。……でも、初めてで女性との経験が無かったって訳ではなか
ったですよね」
「……。うーん、初めてみたいなものだよ」

 不思議な表現。こういうのって0か1かという問題で、どちらでもないなん
て解は無いはずですけどね。
 知らないうちにやられちゃってたとか、失敗したとか、そういう事なんだろうか。

「で、それがどうかしたの?」
「ええ。私と初めての時から遠野くん、お尻に興味示してたじゃないですか」

 興味どころじゃなかったですけどね。

「……うん」
「男の人の性癖ってよく分かりませんけど、そんなに経験の無い男の子が、後
ろの穴に興味持ったりするものなんですか?」
「……そんなのわからないよ」
「そうですよね」

 ざばーっ。
 お湯をかぶる。

「でも初めてこーいうことする女の子に最初から後ろを強要するって、あまり
ノーマルでは無いですよね。何度もその女の子と経験を重ねて、変化を求めて
とかなら分かるんですけど」
「……やっぱり変かな」
「女の子にしてみたら、初めてした男の人にいきなりそんな事されたらショッ
クじゃないですか」
「そうだよな、やっぱり」
「普通の女の子なら嫌われちゃいますよ」
「うーん」
「傷ついちゃうかもしれないし」
 ちょっと沈黙。

「それに、だいたい排泄器官じゃないですか、あそこは。そこをいじったり舐
めたり、汚いとは思わないんですか」
「うーん、あんまり考えないけど。……でもさ」
「なんです」
「シエル先輩だから、あんな事出来るんだよ」
「私だから? 私なら、あんな真似しても傷つかないし、嫌われないと……」
「そういう言い方するかな。そうじゃなくて、シエル先輩の事好きだから、あ
んな事までしたんだよ。あの時のシエル先輩凄く可愛かったし、全てが欲しか
ったから。やっぱりお尻の穴舐めたり、って抵抗はあるんだし、他の女の子に
はあんな事までできないよ。
シエル先輩のだから、平気というかしたいんだ。先輩が感じてくれるのも嬉しいし」
「私だからですか……」
「そうだよ。それに好きな人に対してここまで、俺はしてあげられるんだって
言う変な満足感とかあるし。
先輩だってしてくれるじゃない、俺の舐めたり咥えたりしてくれるの。あれだっ
て凄く抵抗あるんじゃないの? 精液、口の中に出されるのだって気持悪
いだろうし」
「好きな人のなら平気なんです。私、遠野くんのなら全然嫌じゃないですよ。
むしろさせて貰うのが嬉しい……、って、ああ、同じですね」
「でしょ。好きな人にならなんでもしてあげられるんです」
「正面切ってこんな話すると、照れちゃいます」
「俺もだよ。……そろそろのぼせちゃいそうだから交代しよう」
「私も洗ってあげましょうか?」
「うう。とりあえず温まってよ。背中はお願いしようかな」
「はい」

 ばしゃー。
 お湯で泡を流して遠野くんと場所を替える。
 うーん、もう少し大きなお風呂で一緒にお湯に浸かったり出来るといいんで
すけどねー。
 埋葬機関って、お金はある癖にこういう処には予算が廻って来ませんからねー。

 ちゃぽん。
 気持ちいい。
 日本式のお風呂も最初は違和感ありましたけど、馴染むといいものですねえ。
 ほうっと溜息などつきながら首までお湯に浸かる。
 温泉なんかも風情があって良いと聞いてますし、今度遠野くんと行ってみた
いですね。

 それにしても、遠野くん、ずいぶんと自分の体だとがしごしと乱暴で速い洗
いっぷりですね。
 ……。
 こうしてあらためて見るとけっこう良い体つきしている。
 特に運動とかしてないし出来なかった訳ですけど、均整がとれて男の子から
青年になる間の微妙な若々しさが……。
 ついつい、目の前の遠野くんの肢体に見入ってしまってる。
 まだ、ロアと関わった時の傷が残っているんですね。
 私がつけた傷、ロアと戦ってつけられた傷、やがて消えるものもあれば、胸
の傷の如くおそらくはずっと痕として残る傷もある。
 普通の高校生はそんな傷を負う目にはそうは遭いませんよね。
 その生まれも、育ちも、後天的に得た直死の魔眼も、遠野くんを平穏には生
きさせてくれなかったかもしれないけど、もっと普通に生きる選択もあり得た
と思う。
 ちょっとしんみりとそんな事を考えてしまう。

 遠野くんは自分の事、将来の事をどう考え……。
 ……ふうん、遠野くん、おちんちんはそうやって洗うんですねえ。
 他の箇所同様、タオルで(さすがにゆっくりと力は抑えて)洗ってから、手
で改めて丁寧にきれいにするんですか。
 そうですね、先端のほうなんか敏感ですし、ゴシゴシやる訳にはいきませんよね。
 今みたいな可愛い状態じゃなくて、勃ってる時なんかはどうするんでしょう。

「……ぱい」
「シエル先輩」

 へ? いつの間にか遠野くんが股間を手で抑えて真っ赤になっています。

「何、人のこんなところじいーっと見てるんですか」
「いえ、面白いなあって。ごめんなさい」
「さっきは自分だって嫌がってたじゃないですか」
「そうでしたねえ」

 遠野くんは、向きを変えてしまった。ちぇっ、遠野くんのけちんぼ。

「そう言えば遠野くん、さっきの続きですけど」
「うん、何?」
「じゃあ、遠野くん、別にお尻にばかり固執している訳ではないんですね?」
「うん」

 それでは……。
 前から疑問に思っていたのだけれど……。
 ひそかに内心悩んでいたのだけれど……。
 聞いてみようかな。

                                      《つづく》