=ACT.4=

気がつくと、体が信じがたいほど軽く温かく、活力が漲っていた。
琥珀の力を貰った時のような。
いや、さっきまでが重く冷たく、枯れていたんだ。これが普通の状態なんだ。

目を閉じたまま深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
本当に生き返ったようだ。

「大丈夫ですか、兄さん?」

ビクリとして、目を開けると、秋葉の顔。
覗き込むようにこちらを見ている心配そうな顔。

「うん、楽になった」

上体を起こそうとする志貴をかいがいしく秋葉が手助けする。
先とはうってかわって太平楽な表情の兄に、ポツリと秋葉が言った。

「まったく、あの時もそうですけど、なんて兄さんはここぞという時にあんな
顔をして私を駄目にするんです?」

どんな顔をしていたというんだ。そんな志貴の心の声が聞こえたかのように
言葉を続ける。

「自分で鏡でもご覧になって下さい。……なんでみすみすチャンスを逃すんで
す。じっとしているだけで良かったのに」
「大事な、一番大事な妹を、殺したり抱いたりできる訳ないだろう」

反射的に叫んだ志貴の言葉に、秋葉が頬を赤く染める。

「いや、あの」

志貴もまた動揺したように口篭もる。
しばし二人で俯いて沈黙を守る。

「一番大事と言ってくれても……、一番好きなのは琥珀なのでしょう?」

問いかけと言うより、確認の言葉。

「それは……、一番好きなのは琥珀さんだよ」

馬鹿正直に本当の事を言ってしまう。

「そっか……」

じゃあ、仕方ないですね、という顔で秋葉はベッドからトンと降りる。
また枕を抱えて扉の方へ向いかける。

「秋葉」

怪訝そうに振り向く。
志貴はベッドに横になり、隣の空間をボンポンと叩いて見せる。

「一緒に寝るんじゃなかったのか?」
「……はい、兄さん」

一面の笑顔に変り、秋葉は嬉しそうに兄の横に潜り込む。
志貴は黙って布団を肩までかけてやろうとして、初めて自分が今、きちんと
寝間着を着ているのに気づいた。
さっきまでの乱れた姿が直っている。
と、言う事は……。
気絶しているうちに秋葉が直したのかと思うと、猛烈に恥ずかしさがこみ上
げてくる。

自分の姿を見て呆然としている兄の姿に、秋葉もまたもじもじとする。

「あの、兄さん。その……」
「いや、いいから」

寝てしまおう、志貴はそう思った。

「秋葉、あんまり引っ付くなよ」
「おやすみなさい、兄さん」

そう言いながら、秋葉は少しだけ擦り寄って、頭だけ志貴の方につくようにする。

「引っ付くなって」
「もう。明日になったら秋葉は兄さんの妹に戻りますから。……駄目ですか?」
「……好きにしてくれ」




月明かりのみの暗がりの中。
志貴は眠れずに虚空を見つめていた。
いろいろな事が頭をぐるぐると廻っている。
秋葉のこと。琥珀のこと。さっきはあれだけ秋葉を拒んだくせに、それを後
悔している自分のこと。その感情を必死に否定している自分のこと。

傍らの妹に目をやる。
秋葉はすやすやと寝息を立てている。穏やかな安心しきったような寝顔。
秋葉の事を本当はどう思っているのか分からない。
本当に妹としての「好き」だけなのか、いや多分それだけじゃない。
でも、俺は秋葉の兄さんでいたいんだ。
それは嘘じゃない。
そう結論づけると、やっと心が落ち着いた。

「おやすみ、秋葉。」
最後に一言呟くと、志貴は目を閉じた。



《おしまい》






―――――「後書き」


地下室系書いた反動で、萌えでほのぼので軽めの秋葉が可愛いお話でも書こう
と思ったんです。「お兄ちゃん、あのね、あのね、お兄ちゃんは秋葉の事なん
か気づいてもくれないけど、秋葉、お兄ちゃんのこと……」みたいな原作置い
てきぼりの奴を。
なのに何故? 攻め秋葉、とか思った時点で間違いだったか。
長々書いた割に寸止めだし、さながら空手ダンス。 琥珀ルートでの可愛い妹
に迫られて、握り締めた拳に爪を食い込ませ血を滴らせながら「否」と言う志
貴が好きなので、今回もそれを遵守して頂いたのですが。
後、文中で有彦の姉さんの名前を勝手につけてますが、全然公式じゃありま
せん。いわゆる「俺妄想」ですので念の為。
前回、翡翠を出しておきながら指チュパが無いという失敗を犯しましたので、
今回秋葉でやれてちょっと満足しました。
蛇足。志貴と秋葉入れ替えると猛烈にやらしいシチュエーションになりうる事
に気がつきましたが手後れ? 

                               by しにを 2001/8/6