昼下がりの乙女達
しにを
その日、昼を迎える前頃から、秋葉はそこはかとない体の不調・違和感を覚
えていた。
定期試験の最終日とあって疲れが出たのかもしれない。
選択科目の時間割を間違え、午後一番と思っていたテストが4限目と知り教
室に駆け込むような真似を常体であればする訳が無い。
ともあれ試験は無事終わった。未来の勝利を確信できる出来で。
秋葉にとって試験は単に己の成績を左右するだけでは無い。
この学院での地位に影響を与える大イベントである。
女子校などという特殊空間で地位を築く為に、秋葉の選択した武器は、政治
力、他者への恐怖心、そして勉学・運動両面に渡る優秀さという看板であった。
もとより万民に慕われる人柄などには縁が無いのは承知している。
異例の自宅通学を学院側に認めさせている点も、秋葉に常に成績上位を維持
させる理由になっていた。
昼食は取らずに迎えの車を待ち、まっすぐ帰宅の途につく。
運転手に声を掛けると、目を閉じる。
屋敷までの長い道程を、睡眠不足の解消にあてる事にしたのだ。
坂を登る辺りで目を覚まし屋敷に到着したが、琥珀も翡翠も出迎えどころか
姿も見えない。
まだ本来の帰宅予定時刻から一時間ほど早い。それぞれ仕事をしているのだ
ろう。
秋葉は、別に気にする事も無く、すたすたと自分の部屋へ急ぐ。
そんな事より体の違和感を確認したかった。
体のと言っても全身がおかしい訳ではない。
端的に言えば下半身が良く分からないが『変』だった。何か異物感があると
言うか、自分の体ではない様な感じがあるというか。とにかく何かおかしい。
学校で確認するのも躊躇われ、戻るまではあえて意識しないように過ごしていた。
まず制服の上を脱ぎ、椅子の上に掛ける。部屋着に袖を通して、スカートに
手をかける。
どきどきしながらやや乱暴に脱ぎ捨てる。
明らかにおかしい。
この膨らみは何?
何か入れているように妙に股間が膨らんでいる。
何か触れてはいけないような恐怖心を覚えたが、このまま固まっているわけ
にもいかない。
思いきって脱ぎづらいパンツを下ろす。
?
?
?
何なの、これは?
これまでの人生を通してもベストに来る驚きと疑問。
生まれて初めて見るというものではない、ないが、ないが、ないのだが、何故
ここに?
自分の股間についている、これは一体。
いつのまに、おちんちんが、ペニスが、陰茎が、肉根が、マーラ様が、……
以下秋葉の脳内卑語が羅列されるも割愛……が生えたの?
つくりものではない。明らかに血が通った体の一部であり、恐々とひねったり
ひっぱったりすると、秋葉自身にその感覚が返る。
頭が真っ白になる。
秋葉にしては珍しく、どうしていいか分からぬ狼狽状態でしばらく立ち尽く
していた。
その時、扉が開いた。
翡翠が洗濯したてのシーツを持って入って来る。
秋葉の姿を目にして、あら? という顔をして慌てて頭を下げる。
「お帰りなさいませ、秋葉さま。お帰り前に部屋の片づけとベッドメークをす
ませ……」
そこまで言って言葉が途切れる。
ちょっと形容し難い表情で、秋葉を、いや秋葉の下半身を凝視する。
「あの、秋葉さま」
「質問不可」
「え、そ、はい」
「と言うか、私も今こうなったのに気がついたの」
「はい……」
自分以外に驚き惑っている者が出来て、少しだけ秋葉は冷静さを取り戻す。
翡翠の顔を見て、連想された顔。にこにこと笑っている悪魔の顔。
「琥珀……」
なんですぐに思いつかなかったのだろう。
こんな異常事には琥珀が関わっているに決まっている。
すぐさま部屋の外に飛び出そうとして、ふと疑問が浮かぶ。
「翡翠、あなたは異常ないの?」
「は? はい、おそらく」
「ふーん。でも分からないわよ。私だっていつこうなったのか分からないんだ
から。少なくとも朝は正常だったわ。……そうだ、翡翠の見せて?」
「ええっ」
「いいから見せなさい。裾を捲り上げるのよ」
「い、嫌です」
「……逆らうというのね。いいわ、実力行使」
秋葉は翡翠を抑えつけて、下着を晒け出そうとする。
翡翠は抵抗するものの、主人に全力で逆らう真似はできず、結果的になすが
ままになってしまう。
涙を浮かべて翡翠は助けを求める。
「嫌。おやめ下さい、秋葉さま。助けて、志貴さまあ。姉さーん」
なんで兄さんの名前が真っ先に出てくるのと秋葉がちらと疑問に思った時、
扉がへし折れんばかりに音を立てて開いた。
火の玉のような勢いで琥珀が飛び込んでくる。
「どうしたの、翡翠ちゃん!」
琥珀の目に映ったのは、「残虐な女主人に衣服を引き裂かれ今まさに散らん
としている、涙を湛えた可憐なメイド」という構図であった。
凄まじい力で秋葉から翡翠を引き剥がし、自分の胸にしっかりと抱き締める
と、全身を怒りで震わせて秋葉を睨み付ける。
「これはどういう事です、秋葉さま。み、見損ないました。ケダモノのような
志貴さんならいざ知らず、秋葉さままでが、翡翠ちゃんの肉体を貪ろうだなん
て。ああ、外道揃いの遠野の一族でも、秋葉さまだけは、秋葉さまだけはこん
な真似をなさらないと信じていたのに……」
本当にこれが琥珀なのかという凄い剣幕に、翡翠も目を見開き、秋葉もかなり
とんでもない事を言われていたが、毒気を抜かれた顔で棒立ちになっていた。
「あの……、琥珀、そのね」
「弁解ですか。私は秋葉さまの言い訳など聞きたくありません。だいたいそん
な下半身を丸出しにしてどう言い繕ったところで。……ええっ、秋葉さま、一
体それは」
10分後。
「で、誤解が解けた処で聞くけど、これは貴方の仕業ね、琥珀」
「違います」
「……。何故、目を背けるの?」
琥珀は両手を目の前に開き、ぶつぶつと呟きながら指を一本一本折り畳む。両
手の指で足りなくなると、翡翠にも指折り数えさせる。
「思い当たる節がまったくありません」
「ふーーーーーん。少し話し合う必要がありそうね」
15分後。
「……納得はしたけど、振り出しに戻っただけね」
「ハイ、ソウデスネ、秋葉サマ……」
「姉さん、大丈夫?」
三人で溜息をついていると、開いたままの扉から、ショートカットの女の子
がひょこりと顔を出した。
秋葉の顔を見て、制服姿の少女が少しおどおどしながら入ってくる。
「遠野先輩、すいません、どなたもいらっしゃらないので、勝手におじゃまし
ました」
「瀬尾、どうして?」
なんで彼女がこんな処に。
「遠野先輩にどうしても明日の朝までに裁決いただかないといけない生徒会の
書類がありまして。クラスの方に伺ったらお帰りになった後でした。みんな、
届けるのを泣いて嫌がるものですから、仕方なく私が…… ええっ、それ、先輩」
依然として、上着一枚を着ただけの秋葉を見て、晶も異常に気づいた。
「私より胸薄いし、あんなに狂暴だけど、まさか遠野先輩が男の人だったなん
て……」
「そんな訳ないでしょ」
秋葉の怒鳴り声に晶は条件反射のようにビクンと硬直する。
「いいわね、瀬尾。この事を外で一言でも洩らしたら、言葉が使える人間とし
て生まれた事をゆっくりと死ぬほど後悔させてあげますからね」
「学校だとああいう恫喝方法なのね、憶えておこう」
「姉さん、笑顔が怖い……」
メイド二人のひそひそ声は取敢えず無視して、さらに理に諭しての説得を続
けようとし、ふと秋葉は晶の様子に訝しげに眉を八の字にする。
「瀬尾、聞いてるの?」
ぶつぶつと呟いている晶の姿に、脅かしすぎたかと少しだけ不安がよぎる。
「……いいなあ、遠野先輩」
「へ? あの、瀬尾?」
「あんなのがあれば、実際に試してみる事が出来るのに」
「……あの、瀬尾、何を言ってるのかな?」
「例えば、志貴さんとかに、……うわあ、凄い」
何処か遠くに行ってしまったらしい後輩の姿に、秋葉はちょっぴり恐怖を抱
いたが、瀬尾晶の趣味に思い当たる。
少年同士でくんずほぐれつしているマンガやら小説、銀縁の眼鏡の青年に可
愛がられる美少年の話とか、後輩の男の子を取り合う上級生二人(もちろん男)
とか、そんな傾向の作品を晶は愛好している。やおいだかボーイズラヴだか
言っていたような。確か晶の部屋にはそんな内容の同人誌とか言うものが、何十
冊も隠されている。
「兄さんか……」
あいにくそういう方面には傾倒せず、いたってノーマルな秋葉であったが、
そういったものを理解できない訳ではない。
志貴の名を聞いてちょっと妄想が脳裏に広がる。
鎖に繋がれ首輪をつけた姿で哀れみを乞う、鞭の痕も痛々しい志貴。無慈悲
にも秋葉の猛り狂った肉隗で陵辱され、最初は嫌がるものの、やがて身も心も
蹂躪され、主人に屈してしまう……。
兄さんはあれでけっこう体格良いし、美少年という感じとは違うけど……確
かに……ちょっといいわね。
「秋葉さま」とか言ってすがる目をしたりして……。
「……あの、秋葉さま?」
「戻ってきて下さいったら」
琥珀の声ではっとする。
気がつくと、翡翠と琥珀、そして何時の間にか晶までが、顔を強張らせてこ
ちらを見ている。
「な、何よ?」
見ると、翡翠と晶は顔を赤くして、秋葉から微妙に目を逸らしつつ、ちらち
らとまた視線を向ける。
?
「あの、秋葉さま。何をお考えになられていたのか存じませんが……。その……」
琥珀の視線が下に落ちる。
つられて秋葉もそれに倣う。
先程まで縮こまり下を向いていたそれが、今は大きく猛々しく上を向いている。
「な、な、な、なにこれ」
「何か、秋葉さまが性的に刺激をもたらすような事を思い浮かべていらしたの
ではないかと推察致す次第でございますが……」
やらしい事考えてたんでしょ? と遠回しに言われて秋葉は赤面する。
「やだ、元に戻らない。どうすればいいのかしら?」
「そうですね。実は先程から秋葉さまのそれはどうなっているのだろうかと考
えていたのですが。単に男性器が生えたのでなくて、位置的には陰核が異常肥
大したのだと思います。睾丸もありませんし」
ちょっと医師が説明するような感じで、内容はともかく羞恥無く聴ける。
「では、それははたして外見の形だけなのか、きちんと生殖器としての機能を
有しているのか?」
「どういう事?」
「精液は出るのかなあと。興味深いですね、もちろん医学的にですよ。出すだ
け出したら元に戻るかもしれませんし。そういうマンガ読んだ事ありますから」
それ、医学的違う。
「まあ、勃ちっぱなしってのも何ですから、私が何とかします。ベッドに腰掛
けて下さい、秋葉さま」
秋葉は素直に従う。
琥珀はしゃがみ込むと、特に抵抗無く秋葉のペニスに手を伸ばす。
「感触が何というか、ちゃんと体の一部ですねえ」
あちこち触れて確かめると、幹を握ってゆるゆると上下に動かす。
「どうですか?」
「分からないけど、悪くない感じかな?」
「じゃ、もっと強く」
琥珀は少し握る力を強めると、動きを激しくした。
乱暴ではなくあくまで滑らかな動き。
翡翠も晶も一言も発せず、その姿を食い入るように見ている。
実際の性体験などない二人であるから、そうした行為を目の前にするのは初
めてだった。
自分の主人が、先輩が、メイドに奉仕され、時折蕩けた表情を浮かべている
様に目を離せずにいた。
「琥珀、何か、体の中から出てきそう」
「そうですか」
琥珀の手付きが変る。より強くぎゅっと締め付け、指一本一本が滑らかに絶
妙な動きで秋葉の肉棒を刺激する。
「うんん、気持ちいい……」
「ふふふ、イっていいですよ、秋葉さま」
琥珀は空いていた左手を広げて、膨らんだ先端に被せるようにしながら、人
差し指で穴の辺りを突ついてぴんと弾く。
「きゃうっ」
秋葉の悲鳴と共に、びゅくと何か放出される。
凄い勢いで琥珀の手にぶつかり、ぴちゃりと弾ける。
「ふーん、感触も、匂いも本物そっくりですねえ」
特に嫌悪する事も無く、白濁した液体を琥珀はしげしげと眺める。
指で弄び、ドロリとした感触を味わい、香りを嗅いでみる。
果ては、ぺろりと少し舌を伸ばして舐め取ってしまう。
「味も同じ……」
あくまで真面目な様子でやっている事だが、翡翠も晶も当事者の秋葉もそん
な琥珀をどきどきとした目で眺める。
「何処で作ってるんだろう。それにしても……」
手を拭いながら、秋葉の股間に目をやり溜息をつく。
「無くなるどころか、全然治まりませんね、秋葉さま」
依然として秋葉の肉棒は勃起したままであった。
「じゃあ、今度はこんなのはいかがです」
言うやいなや、てらてらと濡れている先端をぱくりと咥え込む。
「琥珀、やだ、そんな」
羞恥に秋葉は琥珀の頭を押しやろうとする。
琥珀は構わず口をもごもごさせる。
翡翠と晶には、小悪魔めいた笑みの琥珀が見えぬ処で何をやっているのか、
分からなかった。しかしビクビクと体を硬直させ泣きそうな顔をし、必死に唇
を噛んで声が出るのを押さえている秋葉の姿に、自分達まで何かされているよ
うな錯覚を覚えていた。
「遠野先輩……」
「……」
「お願い、琥珀。もう少し、弱くして。舌が……。おかしくなりそう」
秋葉の懇願を受け入れたらしく、頭を前後に動かす緩やかな動きに変わる。
その度に唾液で濡れ光る幹が垣間見える。
「琥珀、また……、出ちゃう」
その瞬間、今度は琥珀の頭を引き寄せる動きをして、喉深く突き込む。
琥珀は苦しげな顔も見せず、受け入れる。
数瞬、二人の動きが止まり、ちゅぽんと琥珀の唇が離れる。
少し濁りをおびた唾液の糸が秋葉の先と細くつながり、つーっと落ちる様が
淫靡な感じを与える。
口の中に残った精液を呑み込み、琥珀は呆れたように秋葉を見て首を振る。
「あんなに頑張っていっぱい出して貰ったのに……。では、今度は」
「まだするの。もう勘弁して」
「我慢なさってください。きっともう少しですよ」
30分後。
「やっぱり、ちゃんと性交しないと駄目なのかしら?」
ぽそりと琥珀は呟く。
何度、絶頂を迎えても、秋葉の肉棒は隆々としたままだった。
「ふうん」
剣呑な響きの秋葉の声に、ビクリと琥珀は顔を上げた。
秋葉の目にどこか危険な色が見える。
「長い人生、一度くらいこんな体験してみるのも……」
ゆらりと立ち上がる。
「……悪くないかもしれないわね。ねえ、貴方達?」
「ひいっ」
悲鳴をあげ、琥珀以下三人が後ろに下がる。
まず、恐怖にがたがたと震えている後輩に秋葉の目が向く。
「ねえ、瀬尾。あなたこういう事に興味あるわよねえ。いい経験になるわよ。
前からめちゃくちゃに可愛がってあげたいと思ってたし」
「嫌ですよう。わたしまだちゅーがくせいだし。こ、こ、校則でも不純異性
交遊は禁止されています」
「同性ならOKという事ね。昔、私の事憧れてたとか聞いた事あったけど?」
「そんなの本性知る前の、ひいいっ。それだけは許して下さい」
いやいやをしながら晶は後ずさる。
その横を見ると、いつもは無表情な翡翠。
「じゃあ、翡翠は? 主人の命に従ってこそのメイドと言うものよね?」
「お断りします。私の初めては、志貴さまにと……」
思わずポロリと火に油を注ぐ本音を洩らし、はっとした顔をする。
「ふうううん、そうなんだ。そんな可愛い夢を見ているんだ。まあ、夢は夢で
終わるから美しいものよね」
不吉な笑いを浮かべる秋葉に、翡翠は再び涙を浮かべる。
「お許し下さい。どうか、秋葉さま」
しかしその翡翠の姿が、秋葉の嗜虐心をよりいっそう強く刺激する。
そこを遮るように琥珀が悲壮な表情で前に出る。
「あら、妹の替りに琥珀が身を投げ出すの?」
「私だって嫌です」
「さっきはあれだけ楽しんでた癖に」
「それとこれとは別です。だいたい今危険日なので、まかり間違って秋葉さま
の子供なんて出来ちゃった日には、死んでも死にきれません」
なまじ琥珀の精緻を極めた性技に翻弄されすぎた為、その男性としての性衝
動に秋葉は魂を奪われてしまっていた。
本末転倒な話ながら、この状態を鎮める事など忘れて、今や思う存分行使し
てみたいという思いに支配されつつある。
ずい、と秋葉が歩を進め、
みなぎる緊張感が最高潮に達し、
惨劇が起ころうとした時……。
その時、新たな闖入者が現れた。
「なんだ、みんなこんな処に集まって」
間の悪い所に現れる事では後塵を拝する事のない男、遠野志貴の登場であった。
天の助け。
普段から言語を介さずして会話を成立させる琥珀・翡翠の姉妹はもちろん、
ほとんど面識の無い晶も含めての三人が、危機を避ける小動物の連帯感をもっ
て素早くアイコンタクトで連携を取る。
翡翠がすっと下がって扉を閉め、後ろ手に鍵を掛ける。
晶が志貴の右腕にぶら下がる様にして、がしりと束縛する。
左腕には琥珀が同じ様に抱きつき自由を奪う。
「秋葉さま。志貴さまですよ」
兄の唐突な登場に一人わたわたとしていた秋葉であるが、琥珀の声に我に返る。
「兄さん……?」
志貴を呆然と眺め、ゆっくりと表情を変えていく。
状況が呑み込めていない志貴にも明らかに危険と分かる凶々しい笑顔に。
「秋葉、これ何なんだ? ……えっ、秋葉、それ、何で」
近づく秋葉の体の一部の異常に初めて気がつく。
「兄さん。ふふふふ。うふふふふふふふ」
こっちを見ているようで、何か別の何かを見ている秋葉の姿に本能が必死に
危険信号を発している。
ニゲロ、ニゲロ、ニゲロ、ニゲロ、ニゲロ……
しかし身を振りほどこうとするものの、二人ともがっしりと掴んで離れない。
「翡翠、何とかしてくれ」
「すみません、志貴さま。これには私達の貞操がかかっておりますので……」
翡翠までが、志貴を押さえ付けに回る。
身動きもままならぬ状態でもがいていた志貴は、何か首筋にチクリとしたも
のを感じる。
「動くと針が折れるかもしれませんからじっとして下さいねえ」
琥珀に注射を打たれたと気がついた時には既に遅く、急速に眠気が襲って来
ていた。
ふっと、意識が断続的に途切れる。
ああ晶ちゃんの声がする。
「いいですか、こういうのは雰囲気づくりが重要です。蝋燭とか鞭とか鎖とか
ありませんか」
「琥珀、用意して」
「はい」
「地下室なんてのもこんなお屋敷だとありますよね」
「とっておきがあるわ。じゃ翡翠準備して来て」
「わかりました」
……なんでみんな活き活きとした声なんだ。
何が起きるのかは分からないが、目覚めた時が最後だと志貴は悟った。
決定的な何かが壊される予感。
さよなら、今の俺……。
耐え難い眠気に抗う事が出来ず、志貴はつかの間の安息の地に落ちていった。
・
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・
次回「青い蕾の散華 〜さよなら少年の日々〜」に続く。
後書き―――
いや、続きませんけど。……さすがに男の直腸描写とかは嫌。
ところで、なんで、女×女だと成人マークがついて、男×男だと一般書籍なんですかね。不思議、不思議。
ふたなりものは決して好きじゃないのになあ。勢いって怖い……。
by しにを (2001/8/28)
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