この作品はしにを様のサイト「西奏亭」の掲示板に約半日の間公開されたイタズラ目的でかかれたSSであり、お目汚しなものです。
西奏亭の掲示板にあっぷしたものからなんら手を加えておりません。
ご了承下さい。
橙子#4
「――塗って」
「――――暇ね」
とうとつな一声が事務所に響いた。
「僕は暇じゃありませんよ」
一応、確認のため橙子さんに返答してみる。
だから?、と情け容赦のない身勝手な返答。
僕は嘆息しながら、首をふる。
「僕は帳面と格闘している最中なんですから」
「ああ――――もう月末なの、早いわね」
うんうんとわかっているように頷くが、けっしてわかってはいないだろう。伽藍の堂は工房で一応日本政府にも敬意を払っているので、きちんと税金やら年金やらの支払いが毎月待っているのだ。
「そういえば橙子さん、疑問なんですけど」
「――ん、なにかしら?」
「橙子さんは年金を納めなくてもいいんですか?」
帳簿を開いて見せる。
「ああ、そんな事――」
「そんなことって」
「だってわたし貰っているもの。いくらなんでも二重取りはねぇ」
…………。
…………。
…………。
…………ヘ、イマ ナンテ オッシャイマシタカ?
僕はついつい橙子さんの顔を見つめてしまう。どうみても三十路。若く見ても二十代後半に見えるのに……もしかして若作りこう見えても還暦をこえているとか……。
「女の人をそんな目でみるもんじゃないわよ」
窘めるような声と目。好奇心でつい小鳥にじゃれついていたぶって殺してしまうような猫の目だった。
「ちょっと操作して、父親が存命していることにしておいて、頂いているだけよ」
「……それって」
「犯罪ね」
「…………」
「でも、それがあなたのお給金になっているのだから」
…………。
…………。
…………。
…………イマ ナンテ……
あでやかに艶やかにウィンクする橙子さん。
「だからきちんと毎月もらっているでしょう?」
と不敵でタフな笑みを浮かべる。ふふん、と自慢するかのように鼻で笑う。
何か言おうとして口をパクパクさせて、そして――――諦めた。
この人に何言っても仕方がないし。
「ふふーん、わかっているようね」
暇だといったわりには上機嫌な橙子さん。ショートカットした髪を掻き上げて、自分の耳を玩んでいた。胸元に橙色のブローチが踊り、輝いていた。
「――――ねぇ、幹也君」
「……なんです?」
警戒心がそのまんま表に出てしまったかのような言葉。こういう猫なで声の時の橙子さんは危険なのだ。暇をもてあました魔女というべきなんだろうか? もしそのことを本人にいったらただではすまないだろうけど、橙子さんが暇なときは、まさしく魔女そのものなのだ。
橙子さんは、ふふふ、と笑って椅子をぐるっと回す。そして僕の机の上にその綺麗な曲線美で形成された両脚を乗せた。
「な……な……なっ…………」
残忍で、冷酷で、でも見とれてしまうほど色っぽい笑みを浮かべる。
「――塗ってくれないかしら」
そういって投げつけられて、驚いて受け取ると、それはペディキュアだった。血のような真っ赤な色。
「ねぇ――――お願い」
「お願いって言われたって……」
足を机の上で軽くぶらぶらとさせる。黒いパンプスが目の前で誘うように揺れる。
「お、ね、が、い」
甘く囁くようなハスキーな声。うっすらとルージュで濡れた肉厚の口唇がまるで卑猥な淫語をしゃべるかのように蠢く。
僕は溜め息をついた。それをみて、ほらやっぱりと勝ち誇ったような笑みを浮かべる。そんな女の笑みを言い訳にして、僕は恭しくその足を手に取った。
パンプスを脱がす。形の良い足が突き出される。爪までも綺麗に磨かれていて、まるでピカピカに光る宝石をはめ込んだかのよう。
「ストッキンクが邪魔ですよ」
「――――破いていいわよ」
肌色のストッキングを僕は摘む。
口唇がそんな僕の様子をみて、艶やかな笑みを形作る。
そして艶めかしい曲線を描く脚を撫でる。その足の指から足の甲、足首、ふくらばきをそって指先でなぞるかのように滑らせる。
「ねぇ――――早く」
橙子さんは腰を揺すって、誘うように脚を揺らめかす。
足の甲をそっと掴んで、ストッキングを摘むとひっぱった。
破れない。伸びる。そこで爪を立てる。式を傷つけないように短く切っているので、立たないのはわかっているけど、爪の端にひっかけるようにしてやる。
するとあっさりと破けた。あまりにもあっけなく、一気に――そして誘うように。
そして足をにぎると固定して、ペディキュアを塗る。ゆっくりとゆっくりとムラができないように、はみ出ないように、塗り残しがないように。
温かい橙子さんの足。艶めかしい曲線。そして視線をずらせば飛び込んでくる橙子さんの――――ショーツ。
くすぐったそうに僕が塗るたびに、橙子さんは躰を動かす。そのたびに、薄いブルーの下着が顔を覗かせる。少し膨らんでいるのような肉のもりあがりがぐにゃりとうごき、太股の間で見え隠れしている。
肌の下をゾロリと舐め上げられていくような感覚。
ザワザワと、ザワザワと、ただ熱く、熱く、熱く―――。
「お……終わり……ました……よ……」
「じゃあね」
少し媚びの含んだ甘い声。
「今度は――――こちら」
足を組み替える。まるで見せつけるかのようにその白いむっちりとした太股とその間の下着が蠢く。
やらしい匂いが、いやらしい熟したオンナの匂いが漂った気がした。鼻腔の奥を擽るような、この感覚。
煙草の匂いとそれを消すような強く毒々しいまるで神経を冒していくような、心を犯していくような――――香り。
艶めかしく、そそらせる。こんなにも躰を熱くさせる、女の香り。牝の匂い。それは香水なのか、それとも橙子さんのものなのか――それさえも定かではなく。
ただ淫靡な香りが鼻腔だけでなく、躰も、心さえも擽っていく。撫でさっていった。
僕はただ差し出された足をつかむと、恭しく塗り始めた。ひとつひとつ丁寧に、几帳面に、終わらないように、この時間がなんだか惜しくて、終わって欲しくなくて。
自分が勃っているのがわかった。それが気恥ずかしい。橙子さんに知られるのがなんだか恥ずかしい。だからなるべく指に集中した。
その刷毛で指をそっとそっと、まるで愛撫するかのように、赤く、紅く、朱く染めていく。薄く伸ばして塗っていくと、爪はまるで橙子さんの名のような色合いになっていく。
爪先が赤く、そして光っているのはとてもやらしくて、とても淫靡で、みだらで――――とても橙子さんに似合っていた。
それで終わりの時間はやってくる。
塗り終わると、顔を上げた。
「…………終わりましたよ」
ようやく終われたという思いと後ろ髪ひかれる思いが入り交じったなんとも言い難い声。
とたん、脚が首に絡んできた。まるで絡みつくかのように僕の首に巻き付き、その柔らかく温かい太股に挟まれ、引き寄せられる。白い太股にはうすく蒼白い血管がはしっていて、色っぽかった。肉に埋もれるという蠱惑的な感触に僕の躰は反応してしまう。
淫らものを隠した薄い下着と、淫らなものを一切隠さない橙子さんの顔。
いつしか眼鏡を外していた。
怖くて、恐ろしくて、おぞましくて、そして綺麗な――吸い込まれるかのような妖しい瞳。肉食獣に見つけられたしまった草食動物のよう。
ただ一歩も動けずに、その瞳に、熱くて、ソソる、淫靡な光をたたえた、やらしいオンナの瞳に――――。
吸い込まれていく。
溺れていく。
呑まれて――――――いく。
とたん、ふわっと香る。鼻をくすぐる橙子さんの煙草と香水とそして体臭が入り交じった、艶めかしい“匂い”。
唇がふさがれていた。
うっすらとルージュがひかれた肉感的な口唇でふさがれていた。柔らかく温かく、そして少しだけ化粧の匂いがして、痺れてしまった。
舌がちょっと入り込んでくる。歯茎をなで舌をなで上げてくる。そしてそのまま絡めると吸い付いてくる。
唇をあわせたまま、ただ貪るように。唇を貪られている。橙子さんに貪られている。感覚が麻痺してしまったかのよう。なに感じない。
ただ熱い胸の鼓動と、甘い吐息と、柔らかい口唇と、くすぐったくも気持ち良い舌の動きと、濡れたオンナの瞳だけ――。
まるで酔ってしまったかのよう。甘く、ただ甘く、ただひたすらに甘く、唇をねぶられ、吸われ、弄られていく。
そしてゆっくりと名残惜しそうに離れた。舌がぬるりとぬけていき、唾液が淫らな気持ちとともにつながり、そして切れた。
「――――お礼はこんなものでよかったかしら」
「…………ケッコウ デス」
僕はギクシャクとしながらなんとか離れる。ようやく僕は自分が堪えきれないこと滾っていることに気づいた。胸がドクドクといっている。荒い息をしていることにも今更ながら気づいた。
「今日は暇だから、もう帰ってもいいわよ」
いつもと変わらないあっさりとした橙子さんの言葉。
「式も待っているのでしょう?」
「…………あ、はい…………えぇ……そうです……」
ぼおっとしながらも頷く。
「では、また明日ね」
橙子さんはそういって、塗り立てなのにそのままパンプスをひっかけて自室の方へと歩き去ってしまった。
呆然としている僕のまわりに漂う煙草と香水とオンナの、橙子さんの匂い。
そして口唇の感触だけ。
それだけがまとわりついていた。
-------
良いこの西奏亭は、ここまで、ここまでなのです(笑)
了
没になった理由
イタズラ用に仕上げたモノなので、SSとしては未完成のため削除し、そのまま没に。
読んでない方もいるようなので、きちんとアップ(しにを様には確認をとっております)。
ちなみにオチとして
>良いこの西奏亭は、ここまで、ここまでなのです(笑)
とあったのですけど、それ以上を期待されたために削除しなければならないと判断したイタズラ作品です。イタズラはイタズラのまま。それが目的なのですよ(笑)