ハッピーバースディを口ずさみながら
 
 まだ早いと思ったけど、蝋燭に火を灯してしまった。
 次々に橙色の華が咲く。
 夜のとばりがやさしく包む暗い部屋の中に、あたりを照らす温かい橙色の光の華が咲き乱れる。
 唇から漏れる歌。
 空間がその音色でいっぱいになっていく。
 
 テーブルの上にはケーキ。よくわかんないからたくさん並べてみた。
 白いクリームの上には真っ赤なイチゴとサンタクロース人形。
 柊をかたどった緑色のデコレーション。
 雪を被った小屋の形をした飴細工。
 色とりどりの蝋燭が立ち並び、橙色の光の華が揺らめいていた。
 板チョコの上には器用にHappy Birthday, Arcueid Brunestud
 そしてシャンパンと2つのグラス。
 おいしそうに焼けたターキー。
 それらがところせましと並んでいる。
 微笑んでいた。
 口ずさんでいた。
 どうしてだろう。
 わかんない。
 ぜんぜんわかんない。
 でも楽しい。
 なんだか、わくわくする。
 知らないけど、ドキドキした。
 うずうずしてきて、どうしようもない。
 それがハミングとなって唇から漏れる。
 
 今日は特別な日。
 クリスマスという特別な日。
 ナザレの大工の息子が産まれた日。
 そしてわたしが産まれた日。
 唇は単純な歌を繰り返して動いてしまう。
 
 祝うなんて不思議。
 ずっと眠ってばかり。
 祝ってくれたのは眠る前の爺だけ。
 
 リセット、消去、最初から。やり直し。白紙。
 すべて白色。真っ白。浸み一つない白。
 白。白。白。
 なんにもない。
 白しかないから、そこにはなんにもない。
 からっぽ。
 なのに見るのは赤い夢だけ。
 
 悲しむことも、笑うことも、楽しむことも、何にもなかった。
 祝うことなんてまったくなかった。なぁんにもなかったの。
 
 でも今は。
 もうすぐやってくる。
 わたしを祝ってくれる人が。
 急いで、一生懸命に、そしてあのはにかんだ笑みとともに。
 
 ゼル爺の笑い顔。
 志貴の笑い顔。
 
 単純なメロディーを幾度も繰り返してしまう。
 笑みとともに声が空間を満たしていく。
 音が反響して、世界が歌を歌い、祝ってくれているかに思えてしまう。
 この壁も、この窓も、このカーペットも、なにもかもが祝ってくれている。
 
 ――――――――――――――ああ。
 
 ほんとうに目が覚めているだけで――――――楽しい。
 これはゼル爺が教えてくれたこと。
 
 無駄なことがこんなにもたくさんある。
 そのどれもが美しくて、綺麗で、儚くて、そして――――楽しい。
 口ずさむほど、笑っちゃうほど楽しくてたまらない。
 これは志貴が教えてくれたこと。
 
 志貴はプレゼントを持ってきてくれるっいってた。
 何をくれるんだろう?
 ドキドキする。
 志貴は何を用意してくれるんだろう?
 いくら考えても、うーんと唸っても、わからない。
 何が貰えるのかわからない。
 ただ誕生日プレゼントなんていうものもらったことがないから。
 しかも志貴がくれるというんだから、それだけで。
 ワクワクしてしまう。
 ドキドキしてしまう。
 ウズウズしてしまう。
 知らないうちに顔がゆるんできてしまう。

 早くこないかなー志貴。

 まだ早いっていうのはわかってるんだけど、待ちわびてしまう。
 嬉しくて、楽しくて、笑いたくて、体が勝手に動いてしまう。真っ白でなくなったわたしの体が動いてしまう。

 ――――だから、唇が勝手に口ずさんじゃう。
 志貴が教えてくれた歌を。
 いままでしたことがない無駄のことをしてながら。
 早く志貴がこないかなぁ、ってわくわくしながら。

 ハッピーバースディを口ずさみながら。
 
 

おしまい。

 

 あとがき。
 
 ちょっと18禁の、アダルティックかつセクシャルなものばかり書きすぎて、汚れてしまった自分を少しでも『綺麗に見せよう』と努力(笑)して書いた、詩的なSSです。
 去年のはアルクェイド誕生日SSとは言い難かったので、今年はまともにしてみたのでずか、どうでしょうか?
 ……短いというつっこみはご容赦を。
 
 また別のSSでお会いしましょうね。
 

24th. December. 2003 #127

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ついほ。
 
 志貴はアルクの部屋に入って、心の底からの深い嘆息をついた。
 
「あ、志貴ぃー」
 
 部屋の中だというのに元気いっぱいにぶんぶんと手を振るアルクェイド。
 無邪気な笑みを浮かべている金髪のお姫様になんていえばいいのか、迷いながら告げた。
 
「……蝋燭しこんなにたくさん灯さなくてもいいんだから、な」
「――えぇーーっ!? だって歳の数だけ灯すんですよって言われたよー」
 
 目をまん丸にして驚くお姫様。
 …………。
 …………。
 …………。
 …………(嘆息)。
 
 まぁ煌びやかすぎで、派手で、そこがなんとなくアルクェイドらしくていいかな、と志貴は思いこむことにして、挨拶した。
 
「ハッピーバースディ、アルクェイド」
「――――うん」
 
 お姫様はこれ以上ない明るい、まるで温かいお日様のような笑顔を浮かべた。
 
 

ほんとうにおしまい