三澤羽居は三人部屋だというのに、ひとりぼっち。
 なぜなら、同室の遠野秋葉は寄宿舎があるのに、なぜか実家から遠距離通学。
 もう一人の月姫蒼香は外泊常習犯――たぶん今日もライブか何かを見に行って終電をのがしたのだろう。
 だから羽居は、ひとりぼっち。
 でも――。


Good Night


 (う゛〜)
羽居はベットの上でゴロゴロする。
(う゛〜)
また、ごろりと寝返りをうつ。

(……眠れない)
 羽居はひとりぼっちは嫌いだった。
 昼間はみんないてくれる。秋葉ちゃんも蒼香ちゃんも、そしてクラスメートもいてくれる。
 でせっかくの三人部屋なのに、居るのは自分ひとり。
 三人の広い部屋だから、余計に淋しい。
 だからぬいぐるみを置く。
 自分の机いっぱいに、淋しくないように置く。
 片づけなさい、と強い口調で秋葉ちゃんは羽居を叱るけど――そんな秋葉ちゃんを思い出して、ふふふ、と笑う。

(秋葉ちゃんっていい子だもんね〜)

 怒りんぼさんでも、自分にかまってくれる秋葉ちゃんは好き。
 でも、もうちょっと手伝ってくれると、もっと好き。
 蒼香ちゃんは時々手伝ってくれる。なんかあきらめたような顔をしてるけど、蒼香ちゃんはあーゆーいい子だから。だから好き。
 二人とも大好き。

 (ふふふふ)

 今度は声を出して笑う。
 ひとりぼっちでも、ルームメイトのことを思い出すと、淋しくない。
 こんなに暗くても、月が地上を照らしてくれるように、あの二人が一緒に居てくれる、そう思うだけで、淋しい、というものはどこかへ消えてしまう。

 最初、同室になった時からわかっていた。
 あの二人と同室になった時、羽居は喜んだ。
 秋葉ちゃんはねー、まるでお人形さんだったの。真っ黒い髪が長くて、凛としていて、気丈で――綺麗だったの。
 蒼香ちゃんはねー、背が小さくて可愛くで、でも粋で、ピンっと背筋を伸ばしたような感じで――格好よいの。

 あんな二人と同室だなんて――だから羽居はうれしくて、きちんと挨拶したんだけど、その時は。
(秋葉ちゃんは、なんかため息っぽいのついていたなー)
 なんか困っちゃったような顔をして、でもそれを隠していて、でもバレバレで。
(蒼香ちゃんは、手をあげただけ)
 よろしく、なんて軽くいって――でも荷物の包装をほどいてくれて――養子に出した「あるじゃーのん」をなんだかんだいって机においてくれて。

 ちらりとベットから蒼香ちゃんの机を見る。
 そこには白いぬいぐるみがちょこんと片隅に、でもきちんと掃除されて、置かれていた。
(「あるじゃーのん」は蒼香ちゃんを一目で気に入って、どうしても行きたいって駄々をこねたからねー)
 見ていると、「あるじゃーのん」が紅潮した、気がした。

 浅上女学院の寄宿舎に入れてよかった。
 じゃないと、秋葉ちゃんにも、蒼香ちゃんにも出会えなかったもんね。
 微睡みの中、またふふふと笑う。それはとてもとても幸せそうで。
 麻雀に負けた時の怒った秋葉ちゃん、ロックについて語る蒼香ちゃん、目を細めて柔らかく笑う秋葉ちゃん、きししといじわるそうに笑う蒼香ちゃん、照れて横向く秋葉ちゃん、照れ隠しで、慌ててベッドの中に隠れる蒼香ちゃん、はぁとため息をつく二人――どのふたりも好き。みんな、みんな大好き。

 明日学校でそのことをいわなきゃね、なんて思う。
 言うと秋葉ちゃんは照れて横を向き、蒼香ちゃんはあーと何か言いたげで、でも何も言わずにほほをポリポリとかくだけ――。

 目を閉じればすぐに明日。
 そうすれば、また秋葉ちゃんと蒼香ちゃんに会える。
 そう思えば淋しくない。
 「あるじゃーのん」も「ぺてぃ」も「るーく」も「ほーぷす」も「にょろ助」も「めちょ」もいるもんねー。
 そっとぬいぐるみの名前を呼ぶ。
 そして、そっと

    秋葉ちゃん、蒼香ちゃん

 ふたりの名を呼ぶ。
 ふたりの顔が浮かぶ。
 それに向かって、思いをこめて

    おやすみなさい。

    また、明日――。

あとがき
 えっとなぜか羽ピンの話で、しかもまたまた少女マンガの世界。
う゛〜、とうなりたくなる瑞香です。

 告白します。これは最初18禁だったのです。
 ひとりさびしい羽ピンがひとりえっちに……という話だったのに。
 あぁなぜここまで少女マンガで乙女チックなの!?
 あぅあぅあぅ。
 ――どうやらえっちものは、きばって「書くぞー」と気勢をあげないと無理なようです。とほほ、です。

 このSSはサクラ大戦4が終わって、そのままつい書き上げました(笑)
今度こそ18禁のSSで会いましょう。
 会えたらいいな……たぶん、きっと……。

22nd March. 2002
#007
26/03.2002 Ver 1.2


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