月姫 15禁SS
月下の獣



 何一つ見えない漆黒の暗闇の中。
 漂うは、甘い香り。
この香りが頭の芯からくらくらさせる。
 そして聞こえるは自分の荒い息と――
 滴がしたたる音。
 ぴちゃん、ぴちゃん
 その音だけが響く。
 後は何もない。
 いや――。
 あるのは熱い高ぶり。
 躰の奥底からわき上がる熱い高ぶり。
 あそこがいきり立っている。
 肉に埋めたい。
 柔肌に埋めて、思う存分貪りたい。
 そっと、甘い香りに近づく。
 たった一歩だけでも近づくだけで、その香りはまし、くらくらさせる。
 甘い疼きに喉がからからで、渇いていた。
 そっとしゃがみ込む。
 そこには、薄らぼんやりと白いものが見える。
 いや、本当に見えているのか――。
 わからない。
 白い肉塊がある。
 ぶよぶよとした脂肪につつまれた、それでいて柔らかい『それ』――。
 自分のいきりたったものをだす。
 こんなに勃っているのは初めてだ。
 息が荒くなる。
 イタイぐらいに勃ったそれを数回こする。
 尾てい骨の裏から脊髄を通って、快楽が背筋を駆け抜ける。
 ゾクゾクする。
 たまらない。
 ちくしょう。
 なんてたまらないんだ。
 そっとその肉塊に近づく。
 それは、だらんとしていて
 赤くまだらで
 動かない
 それでも、自分は
 そのぱっくりと開いた傷口に
 まだ湯気が出ているほど
 そしててらてらとしたところに
 俺自身を埋める。

 ――暖かい。

 にゅるりとした感触がたまらない。
 何の力も入るはずのない肉片に、
ぎゅうぎゅうに揉まれて、絞られて――。
 俺はたまらず射精していた。
 たまらない。
 出しながら腰を揺する。
 気持ちいい。
 止まらない。
 止めようがない。
 後頭部がぴりぴりと痺れ、口から涎が流れる。
 なんて気持ちいいんだ。
 溶けていく。
 飲まれていく。
 消えていく。
 だしながらも、俺は腰を振る。
 出したというのに、まだ硬い。
 収まらない。
 たまらない。
 俺はそのままだた腰を振る。
 ぐちゃぐちゃと
 その腸が
 胃が
 心臓が
 俺のモノをしごく。
 ――たまらず
俺は首もとに口づけした。
 甘い香りが鼻先でする。
 首もとから流れる甘くとろりとしたそれを舐める。
 甘美だ。
 ぺちゃぺちゃと舐める。
 啜る。
 飲み干す。
 やめられない。
腰をふりつつ、俺は甘いものを啜り続ける。
 俺はケダモノだ。
 野獣だ。
 怪物だ。
 それでもいい。
 知っているのか、この悦楽を。
 知っているのか、この解放を。

 ふふん

知るまい。
 くびきから解き放たれたら、こんなにも世界は広く、甘く、そして楽しみに満ちていたとは。
 貴様等にはわかるまい。
 俺だけがわかる。
 俺のような狩人だけがわかる世界だ。
 ケダモノ?
 野獣?
 怪物?

 ふふん
それがどうした。
 見ろ。
 これが俺だ。
 またごうなく俺だ。
 自分を偽り、隠し、羊のふりをしているようなヤツらには解るまい。
 俺は俺なのだ。
 それが――たまらない。
 自分が自分であること――それだけでこうだ。
 腰を突き入れる。
 ほらみろ
 こんなに俺はいきり立っている。
 喉元に流れるそれを啜る。
 いきり立っているのがわかるか?
 お前達の人生にこれだけの時間があったのか?
 ありえたのか?

 ふふん
 あるまい。
また射精する。
 と同時に喉笛を噛み切る。
 くちゃくちゃと咀嚼する。
 うまい。
 とろけるほど甘く、
 それを、ごくり、と飲む。
 喉につっかえる。
 でもたまらず飲み込む。
 胃まで流し込む。
 舌なめずりする。
 なんと――うまい――。

 ――でも。
 それでも
 飢えは収まらない。
 渇きは癒されない。

 こんな肉塊じゃ駄目だ。

 もっと暖かく、怯えて、逃げまどい、涙し、感情をぶつけてくるような――獲物ではないと。

 俺は狩人なのだから。
 頭の中のラジオが鳴る。
 うるさく鳴る。
 俺に指示する。
 うるさい。
 かまうな。
 狂おしいほどの高ぶりが昇ってくる。

 こんなんじゃ駄目だ。

 駄目だ。
 だめだ。
 ダメだ。
 俺はそれから離れる。
 服はすっかり濡れて重く、口の周りも濡れぼそっていた。

 もどろう
 もどろう
 ねぐらへ。
 住処へ。
 今日の狩りは取りやめだ。
 最近は獲物も警戒している。
 それでも獲物は減らない。
 だから羊なのだ。
 もしきちんとした狼ならば、テリテリーをわきまえ、きちんと生き延びるために行動する。
 なのにこいつらは――。
 所詮、羊なのだ。

 まぁ、いい。

 あそこには、牝がいる。
俺のためだけの牝が――。
 あれをくびりたくなる時もある。しかしあれは牝だ。
 したたかなで、淫猥な牝だ。
 今日はあれを存分に嬲ろう。
 今日はそれでいい。
 いつも、狩り、というわけにはいかないからな。

 そっと暗闇から出る。
 ネオンと街灯が夜を照らす。
 空には星々の煌めき。
 そして満月――。

 びくん

 月を見ると、あそこが反応する。
 勃起する。
 たまらない。
 肉体の
 精神の
 魂の
 飢えが
 渇きが
俺を苛む。

 もどろう
 もどろう
 もどろう
 自分の
 住処へ
 ねぐらへ
 戻るところへ

 あぁ今日も月が照らしている。
 頭の奥でラジオが鳴り響く。
 狂おしいほど鳴り響く。

 俺はケダモノだ。


あとがき

 え、えっと、皆様、シキの話です。
なんかこれも一気に書き上げてしまいました。
 本当に病気で体調崩して寝込んでいたのか、わたしってば――。

 ま、まぁともかく。
 春めいた昼下がりで、シキくんを書いたら、ちょっと図に乗りまして。
 死徒(吸血鬼)だったころのシキも書きたくなって――。
 ほら「春めいた……」でその描写をちょっとしたら、ムズムズしまして……はははは、ダメですね自分って(笑)
 もう思ったら即実行、というのでしょうか。
 シキくんじゃないですけど、たまらず書いちゃいました(笑)
………………愚か、かもしれませんが。

 いつもの瑞香の作風でないところも、いつもの作風のところも入り交じっていて、なんか楽しいです(笑) あ、酔ってませんからね、別に(笑)
 志貴くんと秋葉さんへの思いは書いていません。
 書くと恨み言と恋慕でぐちゃぐちゃになるので(笑)
 今回書きたかったのは、この文体で、この文章で、このリズムなので。

 内容がちょっとあれなのでR指定としました。ご了承下さい。

では、また別のSSで。

5th. April. 2002
#012


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