少女の風景






権兵衛党



 そこは、薄暗い病室だった。
 この広い病院に入院している人は数多くいると思うけれど、この部屋にはたった一人しか居なかった。
 素早く部屋に他の人間がいない事を確認し、部屋に踏み入った。後ろ手に扉を閉める。これで、この病室でこれから起こることが知られることはまず無いだろう。
 ゆっくりと歩を進め、ベッドに眠る彼女に近づく。彼女は動かない。
 わたしがベッドのすぐ脇に立っても、眠る彼女は目を覚まさなかった。
 そう、彼女は目を覚まさない『眠り姫』だ。


 わたし、巫条霧絵が彼女の存在を知ったのは、偶然だった。
 ある日いつもの様に窓から外の風景と空を眺めていると、あの人の後姿を見つけた。わたしが恋する、名前も知らない男の子。
 いつにもまして『死の気配』の移り香を宿した彼の姿が小さくなっていき、そして見えなくなった。
 ベッドの上から離れられず、ただ自分の部屋と窓から見える風景だけが自分の世界であるわたしが、そのときに限ってなぜ彼の後を追おうとしたのかは今もって分からない。ただ、いてもたっても居られず、ベッドの上から降り立って必死に彼の後を追った。
 もちろん、何年もロクに歩いてもいないわたしが彼に追いつけるはずもなく、わたしは病院を出る事も出来ずに力尽きた。それでも連れ戻されたくない一心で隠れたのが彼女の病室だったのだ。
 彼女は眠り続けている。決して目を覚まさない。
 そしてその身にまとう『死』に直感した。
 彼女が彼の見舞う相手なのだと。
 彼が頻繁にこの病院を訪れるのは彼女に会う為なのだ、と。
 わたしに会いに来る訳では無い事は頭では理解していたけれど、彼の姿を見かける度に心のどこかでわたしの部屋を訪れてくれるのではないかと有り得ない期待を抱き、当然のように裏切られ続けてきたわたしにはそれは酷く悲しい現実だった。
 つまり。
 彼はわたしの存在を知らないけれど。
 彼女はわたしの事を知らないけれど。
 それでも。
 彼女とわたしは恋敵という事になるのだ。
 だって。
 わたしは彼に恋しているのだから。


 ベッドの上の恋敵の少女をじっと見詰める。
 端整で、やや少年の面立ちにも似た女になる前の少女の顔。目覚めれば、さぞ中性的な魅力をかもし出すことだろう。まだ成長途上と思える身体もその印象を強めている。
 その姿は、まるで、人形のようで。
 彼がこの眠り続ける少女の所にいつも見舞いにやって来る。それは痛みを伴う現実ではあったけれど、その気持ちは分かる気もする。
 だって、この可愛い彼女はすごく美しい反面、ひどく脆く感じられた。
 あたかも目を離せばそのまま『死』に連れて行かれるかのような幻視をしてしまうくらいに。
 ただの一時すら目を離してはいけない、と思わせるほどに。


 けれど、今、ここに彼女を見守る彼はいない。


 医者も、看護婦もいない。
 ここにいるのは、わたしだけ。
 彼に恋焦がれ、彼女に嫉妬しているわたしだけ。
 そして、彼女は抵抗すら出来ない眠り姫。
 今この瞬間、彼女の生殺与奪を握っているのはこのわたし。


 ―― わたしは、自らの命を紡ぐことすらもう長くはできそうにないけれど、でもあなたの命を奪い去る事は簡単なのよ?


 クスリと笑いが漏れる。冷たく、切れるように思える微笑。
 彼女は医者ですら回復を期待していない。
 今死んでも誰も不思議に思わないだろう。
 わたしは隠し持っていた紐を取り出した。細く、長くて丈夫な紐だ。
 これを首に回せば…あなたの命は止まるのでしょうね。
 なぜだか、その想像はわたしをクスクスと笑わせた。
 だけど。
 その片方の端をきゅっと握る。
 ゴクリと咽喉が鳴った。
 心臓がバクバクと鳴る。
 握り締めた手の平に汗が滲んでいるのが分かった。
 そう、覚悟を決めたわたしであってもさすがに緊張はする。
 今からわたしがしようとしている事は、許されない事なのだから。
 わたしは紐をしっかりと握り締め、慎重にその紐を彼女に掛ける。交差した紐の端と端を固く握り締め、一度汗の浮いた額を片手で拭って、再び紐を握り締めた。


 ―― もう、後戻りは出来ない。


 その現実を何度も確認し、恋敵の可愛い顔を凝視する。




「あなたが、いけないのよ?」




 返事が無い事を知りながら、そっと、でも優しく囁く。今、わたしは酷く残酷で冷たい、でも愉悦に満ちた顔をしている事だろう。だって、ぞくぞくして来るじゃない?
 この背徳感はたまらない愉悦であり、また悦楽である。


 そして。


 わたしは紐を両手で、締めた。




















「…胸、やっぱり小さめ」




 そう、抵抗できない可愛い女の子にする事と言ったら…


 ……『お医者さんごっこ』に決まっているわよね !?




















 『ちちサイズ』を計り終えた巻尺をにんまりしながらウエストに移動させた。
 むう、やっぱり細い。全体的に細くて華奢。でもどことなくしなやかさも秘めているようだ。わたしは目前の眠り姫に薄く笑いかけた。
 幼い頃から病弱だったわたしにとって、覚えのある遊びといえばお人形遊び位だった。思いもかけない偶然で、わたしの目の前にはすごく魅力的な『お人形』が横たわっているのだ。玩ばずにはいられない。
 最初は身体検査から入って、お医者さんごっこ。
 …いたずらする、とも言う。
 可愛い無抵抗の女の子にいたずら。…ああ、なんて背徳的な、素敵な響き!


「あなたが、いけないのよ?」


 もう一度繰り返す。
 彼女は彼の物だ。そしてわたしは彼に恋している。
 彼のものを奪うというのは、彼女が彼の物であるというのは、嫉妬と暗い愉悦とが混ざり合って、わたしにたまらなく冷たい興奮を与える。
 そのうえ。




 ―― 可愛すぎるんですもの! 霧絵おねーさん、もうたまらないわ!




 自らを掻き抱いて身悶える。しばらく興奮は治まらなかった。
 ハアハア…無駄に体力消耗してしまった。


 気を取り直して、ベッドの上の眠り姫に向き直る。
 何も知らないままの彼女はやっぱり眠ったまま。
 可愛い寝顔に向けて、そっと手を伸ばした。指先が彼女の頬に触れる。




 ぷに




 少女特有のふっくらとしたほっぺに触れた指先は柔らかくかつ弾力のある感触を伝えてきた。


「うふふ…」




 ぷに、ぷに、ぷに、ぷに




 その感触は捨てられない快感で何度も何度もほっぺたをつついてみた。
 指先で感じるたまらない愉悦。
 でもそれでは飽き足らなくなって、手の平で彼女の頬を撫でる。
 そのすべすべとした感触は瑞々しく、それだけならとても死の気配などは感じられない。
 さわさわと手の平を滑らしてその感触を楽しむ。
 いっそ、反応が無いのが残念でもあるが、意識があればこんな事は出来ないだろう。贅沢は言うまい。
 手を動かすうちに、ふと、指先が唇に触れた。
 その感触に心奪われ、指先を彼女の唇にそっと這わす。
 ここに唇が触れたら、きっとすごく気持ちいいんだろうな、と思うと堪らなくなり自らの唇を舌で舐めた。
 じっとみつめればみつめるほど、そうしなければならないような気がしてくる。


 ―― あなたは、もう、彼と唇を重ねたの?


 なんとなくだが、まだのような気がする。
 それならば。




「んっふふふっ、おねーさんが奪ってあげるわねっ!」




 なんだか奇妙に高揚した精神状態でうきうきと宣言し、彼のものでありながら未だ重ねられていないであろう唇に顔を近づける。
 抵抗できるものならしてごらんなさい、と意地悪く思う。無論彼女は眠ったままだ。
 ゆっくりと唇を近づける。落ちてきた髪を片手でかきあげて、そして。


「ん...」


 彼女の唇の感触を味わった。
 予想通り、すべすべしてていい感じ。唇でチュッと彼女の唇を摘んでみても、弾力も申し分なし。まさしく天に昇る心地で更に力を込めて唇に吸い付いた。
 …今回は気まぐれだったのだけれど、なんとゆーか、このまま美少女愛好家な女になっちゃってもいいかなー…とか思ったりして。
 ああ「お姉さま」と言わせて見たい!
 …いや、彼だってあきらめた訳じゃないから、バイ?両刀?


 ………いやいや…
 ……………いやいやいや……
 …………………いやいやいやいやいやいや………

 ………………………ああ、そんなそんな! 二人いっぺんになんて!!……
 ……………………………おねーさん、壊れちゃう♪(ポッ)…………………










        ≪ しばらくお待ちください ≫










「ゲホッゲホッ…」


 …や、やばかった。
 もともと少ない肺活量の限りを尽くしながら妄想に浸ってしまったものだから。
 確かに天に昇るような心地ではあったが、本当に昇天してしまったらシャレにならない。まだほとんど何もしてないのに。
 さて、気を取り直してっと。
 改めて「お医者さんごっこ」に取りかかりましょう。
 スリーサイズは測り終えた。
 身長体重、視力とかめんどくさいのはパス。
 そう、次はコレ。


「じゃーん」


 口効果音と共に取り出しましたのは聴診器。


「これで、今すぐおねーさんが診て上げるからねー」


 なんだか異様にハイテンションな気もするが、実際わたしは嬉々としていた。
 もう何年も楽しい事など無かったのだから。
 いつぞやくすねておいた聴診器を耳にセットしてっと。
 さて、胸に聴診器を当てて…
 ……胸……
 ………………うふ、うふふふふふっ。胸、胸かっ!


「さあ、胸とお腹を出してくださいねー」


 にこやかに言いつつ、指をワキワキと妖しく動かす。
 そしてなぜだかドキドキしながら僅かに震える手で、彼女の大きめのパジャマのボタンを外していく。


 …第一ボタン…


 …第二ボタン…


 …第三ボタン…



 第四ボタンが外されて、わたしの目の前に彼女の白い素肌が晒された。




 ―― 女の子の、白い綺麗な柔肌…




 なんだか感動である。
 …いや、自分のは見慣れてるはずなんだけど。
 ああ、やっぱり柔らかそうだなあ。わたしはどこも肉付きがないから、と思うと憧憬すら覚えてしまう。


「さて」


 とりあえず、お腹の辺りに聴診器を置く。聴診器って、この最初に触れるのがヒヤッとして嫌なのだが今は関係ない。


 ぽふ


 おヘソの周りに聴診器を置いて耳を澄ましてみる。わたしには何も分からないが、まあ雰囲気である。
 ぽふ、ぽふ、と何箇所か聴診器の位置を変えて、もっともらしく首を捻ってみたり。
 わたしの入院生活は豊富だ。たぶん、医者のものまねだったら日本でも十指に入るのではないだろうか。…いや、どうでもいいのだけれど。
 ついでに、『触診』もしておこう。


 ―― あなたの事だから、きっと、良い肌触りなんでしょうね。


 軽い嫉妬を感じつつ、手でそっとお腹を撫でまわした。
 ああ、すべすべだ、柔らかい。でも肉の下に少し固さがあるような。これは…筋肉?あなたなにか武道でもしていたの?それとも成長し切れていない少女の固さなの?それともずっと動いていない身体が固まっているだけ?
 それは判断がつかなかったし、彼女も答えられはしない。
 わたしに分かるのは、彼女のお腹周りは綺麗な曲線を描いていてかつ柔らかくていい肌触りだということだけだ。


「……クス…」


 なんだか嫉妬心が疼いて、おヘソの周りの肉をギュッとつねった。


「うふふっ、痛そう…」


 つねった部分に赤く跡が残ったのを見て、わたしは少し満足した。
 赤くなった部分をさすってあげながら、わたしは次に目を移す。
 …次は胸だ。
 なんかワクワクしてきた。でも、お医者さんごっこだと…
 しばらく、手にした聴診器を睨む。


 ……聴診器パス。いきなり『触診』に決定! 


 聴診器を部屋の隅に放り捨て、代わりに再び妖しくワキワキ蠢く指先。




「うふうふっ、さあ触診のお時間よ」




 笑みを隠し切れない顔でそんな事を言った。
 さっき、わたしは医者のものまねなら日本でも十指に入ると言ったけど。
 …こんな女医本当にいたら嫌だなあ…患者としては。
 それはさておき。


「くっくっく…胸。女の子の、可愛い、胸」


 意味不明な事を呟きつつ。
 わたしは彼女のやや小振りだが、形のいい胸へと手を伸ばした。




 ふに




 …柔らかい。暖かい。ふかふかしている。わずかに堅さが残る、少女の、胸。




 ふに、ふに、ふに、ふに
 ふにふにふにふにふにふにふにふにふにふに。




 ああ、止められない。身体のどこもやあらかいけど、このふくらみの感触は格別だ。霧絵おねーさん、感涙しそう。
 これが少女の胸。ちち。ばすと。おっぱい。
 …乳に拘る男が多いというのもうなづける手触りだ。
 そこでふと思いついて、わたしは彼女のベッドに一緒に上がった。


「よっと」


 彼女の上半身を起こし、その下に自分が座り込む。
 形としては、座ったわたしに彼女がもたれ掛る形である。
 彼女の重さとぬくもりを感じながら、脇の下から自分の手を彼女の胸へと回す。
 下側から手を膨らみに添えるようにすると、乳が上手く手に収まった。




 ―― おっし、ジャストフィット!




 誰にとも無く、親指をビシッと立てる。
 うふっうふふふふふふふふふっ!さあ、再開よぉっ!



 むにむにむにむにむにむにむにむにむに
 むにむにむにむにむにむにむにむにむに


 ああ、いい気持ち。
 悦に入って揉み続ける。
 彼女の胸は柔らかくていつまでも揉み続けていたい。
 でも、本来彼女はわたしの物じゃない。
 彼は、わたしが恋する彼はきっとこうやって彼女の胸を触った事なんて無いんでしょうね。あなたはどうしたかった?わたしじゃなくて彼に触れられたかった?
 でも残念ね、あなたに選択権は無いの。あなたの身体は、今だけはわたしの物よ。
 さあ、おねえさんに全てを委ねなさい。気持ちよくしてあげるわ…


「…くくっ」


 自分の想像に自分で吹き出した。
 もちろん彼女は目を覚まさないのだけれど、哀願のまなざしとか向けられたら燃えるだろうなあ。…いや、「萌え」るのだろーか。
 いずれにせよ、たまらないものがあるのよねー。
 正直、今の今まで自分がこんな性癖持ってるなんて知らなかったのだが、萌えるものはしょうがない。萌え萌えなのだ!


 でも。


 自分を省みて思う。
 彼女の身体はこんなに気持ちいい。
 けれど、わたしの身体はどうなのだろう。
 あの人がわたしの胸に後ろから手を廻すところを想像する。




「んんっ」




 いきなり、キュンと切なくなった。
 衝動に押し流されるままに、彼女の背中に自分の胸を擦り付ける。
 …そう、もっとこねくり回して…
 自分の想像した通りの刺激を、わたしの両手は無意識に彼女に送り込んでいた。
 …そう、乳首を優しく摘んで、それから軽く擦って、その先端を…


 ………そう、それで…
 ……………違う、そこじゃなくて…そう……
 …………………そんな!焦らすなんて…ああん、ソコはダメ!……


 …………………………ダメって言って……何時の間にそんなに上手く…
 …………………………………あああん…すごい♪(ポッ)










        ≪ しばらくお待ちください ≫










「…いたたたた…」


 両腕がつった。
 腕が、腕がぁっ。


 …まあ、あんだけ揉みまくれば当然ではある。
 普段、ほとんど動かないからなー。
 疲れたのでちょっと休憩しようと思った。
 幸いにしてここはベッドの上だった。
 彼女と一緒に倒れこむ。
 こうすると、彼女の体温を全身で感じる事が出来た。
 暖かい抱き枕という見方も出来る。
 誰かの体温を感じる事など無いわたしにとっては、それは非常に甘美な誘惑だった。このまま彼女を抱きしめて眠ってしまおうか?


 しかし。


 この程度でへこたれては、いられない
 わたしにはまだやるべきことがある。
 そう、お医者さんごっこもここまでだ。
 本来の目的に立ち返らねばならない。
 わたしは何がしたいのか?
 そんなことは決まっている!
 激情に駆られ、わたしはベッドの上に雄々しく立ち上がる。
 わたしはある衝動に駆られたのだ。それが全ての始まりだった。
 その、わたしを突き動かした衝動。その衝動を高らかに叫ぶ。
 それは…




















「可愛い女の子のぱんつを脱がしたいという衝動だぁぁぁぁっ!!」




















 …そこっ!いきなりコケない! 溜め息をつかない! 「ヤレヤレだぜ」って言うなああっ!!
 諸君は思った事は無いか?
 女の子と言っても幼女ではない。ちゃんと発育した女の子だ。
 柔らかそうな身体の、女の子。
 ぎゅっと抱きしめればふにふにしていて、暖かさを感じる、かわうい女の子だ。
 その子の体温を感じさせるほかほかのぱんつを、みつめている中で、泣きそうな顔で羞恥に震えているその前で。
 自らの手で脱がしてみたいと思った事はないかっ?
 そう、ショーツでも下着でもパンティでも無く、あくまで『ぱんつ』をっ!


 『おぱんつ様』をっっ!(力説


 思った事の無い精神的勃起不全野郎は帰ってしまえ!




 ゼイゼイ、はあはあっ
 …誰に向かって言っているのかはともかく。
 わたしは非常に脱がしてみたくて堪らなかった。
 愛くるしい少女からぱんつを。
 別にぱんつに執着はない。執着するのは脱がすという行為そのものにだ。
 そこを間違えてはいけない。


「うふふっ…」


 我ながら妖しい目つきだろうな、と思いながら彼女をみつめる。
 パジャマの上着の前をはだけたまま、横たわっている彼女。
 その彼女にニンマリと笑いかけながら、ベッドの上を四つん這いで進む。
 広くも無いベッドの上、すぐに獲物はわたしの眼下に来た。


「うふふふふっ」


 なんだか妙に楽しくて、うきうきしながらパジャマのズボンに手を伸ばす。
 両手をズボンの腰のところに掛ける。
 そして、ずるりとめくり返すようにズボンを一気に引き抜いた。


「おおぉ…」


 眼下には可愛い『眠り姫』。
 上着は前がはだけ、下はぱんつだけの姿で横たわっている。その肢体はほとんど露出しており、僅かに最後の一枚が彼女の大事な部分が外気にさらされるのを防いでいるに過ぎない。
 それは非常に扇情的で、艶かしい光景だ。女のわたしでもそう思う。
 そして、これからその彼女のぱんつを脱がす。
 …ど、どきどきするわね…
 わたしは舌で唇を舐め、そして唾を一度飲み込んむ。
 それから、恐る恐る手をぱんつに手を伸ばそうとして、ふと思いついた。
 クスリと笑いが漏れる。
 ストライプの可愛いパンツへと伸ばした両手をそのまま彼女の腰に廻した。


「んんーっ」


 そして、彼女のパンツに顔を埋めて、思いっきり息を吸い込んだ。
 …ああ、これが彼女の匂いなのね…
 ほんの少し『女』を感じさせる少女の匂い。それはわたしを否が応にも興奮させる。
 できれば恥じらいの表情など見せて欲しかったが、それは無いものねだりというものだ。
 でも見たいなあ、恥らう顔。
 暖かいぱんつにグリグリと顔を擦りつけつつ、ちょっとだけ残念に思った。
 充分にその香りを堪能した後、わたしはもう一度パンツの縁に手を掛けた。
 慎重に、慎重に。
 まるで取り返しのつかない事をするが如くに、ゆっくりと脱がしていく。
 パンツは端からめくり返りながら少しずつ少しずつずり降ろされていく。
 彼女の淡い翳りの先端が露わになった。
 そしてその面積がじりじりと広がっていき、ほぼ完全に露出した。
 それでもパンツの動きは止まらない。


 ―― 脱がしちゃったら、その後どうしよう?


 ふと自問した。
 そして自答。




 ―― 甘い、甘いぞ霧絵!女の子のぱんつ脱がしておいてそれで終りとは、それでも貴様、男か!?




 ………………………あれ?




 ―― いや、間違い。それでも女か!?




 という事で結論。










 『本能のままに!…希望の未来へレディ・ゴー!!』










「好きだあああぁっ! お前が欲しいぃぃぃっ!」


 ……本当か?
 と、とりあえず確認とかしてみよーか?…膜とか。
 ちょっと見てみたかったし。くっくっく、楽しみだ。
 その後はもう、あんな事やこんな事や…うふっ、うふふふっ。
 じりじりとしながらも慎重に手を動かし続ける。
 あ、あとちょっと…
 …ぱんつが…脱げ…




















 ガチャ
「両儀さん、検診…」




















  ビックゥ!!


 心臓が止まるかと思った。
 …というか、本当に止まりそうだった。
 ギギギギっと錆び付いたような音を立てて扉の方を見ると、看護婦さんが見慣れぬ怪しげな光景に呆然と立っていた。


 ……しかも、二十年来顔見知りの婦長だよ……
 ………………最悪だ。




「ふ、婦長さん…こ、これは…」




 さて、なんと言い訳する?


 答え


 選択肢なんてなくても。
 つまり…




 …ない。現実は無情である。




 な、なにか言い訳をっと思うのだが、…意識不明の女の子をひんむいたあげく、ぱんつを脱がそうとしている現場を押さえられて、…どう言い訳しろと?
 霧絵、絶体絶命のピンチ。


「ふ、巫条さん…貴女って人は…」


 案の定、我に返った婦長の顔色が恐ろしい勢いで変わっていく。
 彼女の身体から放たれる禍々しきオーラに『問答無用で悪・即・斬』と書いてあるような気がした。




 ―― あれは、鬼だ。




 そう直感し、逃走経路を探る。
 扉は婦長の後ろ。
 …ならば、道は一つ。
 そして。
 婦長が鬼の形相で一歩こちらへ踏み出した瞬間。










 ガシャアアアアン










 わたしは窓をぶち破って逃走した。
 普段のわたしには決して出来ない行動だっただろう。
 …というか、健康な人でも三階の窓をぶち破ったあげく足から着地して、そのまま走り出したりは出来ねえと思う。
 それだけ婦長がわたしに死を感じさせたからではあるが、いやあ、人間火事場のクソ力って本当にあるものだなあ。ハッハッハ。




「てめえ、元気なんじゃねえかああああっ!」




 普段の上品さをかなぐり捨てた婦長の罵声が庭に轟く。
 更にガラスの派手に割れる音が響き渡る。
 そして、『鬼』は見事にわたしと同じ動作で庭に降り立ち、爆走を開始した。
 ……………マジ?




「ヒ、ヒイィィィィッ!?」
「まちやがれぇぇぇっ!!」










 こうして、わたしの人生で一番『死』を感じさせる鬼ごっこが幕を開けた。
 ……恋焦がれるどころか、二度と味わいたくない感覚だった……




















 そして現在。


「ねえ、婦長」
「なんですか」


 わたしは婦長の監視下に置かれている。


「もうしませんから…」
「当然です」


「…だから、コレほどいて?」
「ダメ」





 簀巻きのままで。





「ううううっ、患者虐待で訴えてやるぅ…」
「性犯罪者の言う事か!? 」




















「ああああ、わたしのお姫様があっ」
「…あんたのじゃない!」




 ―― 巫条霧絵、『二週間簀巻き』の刑。




                 < 了 >






後書き

 えーまあ、誤解のないよう言っておきますと作中の主張はお話上の演出であり、筆者の主張ではございません。
 …本当だ、信じろ。これが嘘を言ってるやつの目か!?

 いかがでしたでしょうか?「少女の風景」は。…一部の方には「空の風景・補完計画」といった方が作品スタンスが分かって頂けるかと思いますが。ええ、アレの系譜でございます。
 …某 Love も混じったかな?

 作者の側の事情はさておき、お読みくださった皆様ありがとうございました。
 …「空の風景」の印象は爆砕しちまっただろうなあ…。

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