Dum aurora fulget, adulescentes, flores colligite.
〜若者達よ、曙の光りが差している内に、花を摘み取れ〜
作:しにを
阿羅本さん作『Forsan et haec olim meminisse iuvabit』より 「ふむ?」 「どうしました、橙子さん?」 私宛に届いた郵便物を順番に眺めていて、ふと一通の封書に目が止まった。 作りがしっかりしている事を除いては、ありふれた飾り気の無い封筒。 「これは、郵便局の私書箱の方にあったものかな」 「いえ、ドアの隙間に……って、あれ?」 答えて幹也は奇妙な顔をする。 しげしげと私の手にした封筒に見入る。 黒桐も気づいたか。 「変ですね」 「ああ」 普通の郵便物が届く訳が無いのだ。 何しろ配達に来る人間がここにはやって来れない。 より正確に言うなら、当たり前の手段ではやってこれない。 つまり尋常でないやり方であれば 「それでも届かせる方法はあるのだがな……」 黒桐にとも自分にもつかぬ呟き。 封筒を良く見れば、宛先の住所は記していない。蒼崎橙子様という宛名のみ。 差出人はと見ると、署名はあるが記憶に無い名前。 同じく住所は記していない。 それは黒桐などには非常に奇妙に見えるだろう。 普通の人間にとっては、単なる不完全な郵送物にすぎない。 もっとも鮮花や式辺りならば、この封筒の別な異常さに気づくかもしれない。 簡単な魔術の効果が保たれている事に。 封が切られるまで、それは続く。 これは、古式ゆかしき魔術師の手紙だった。 互いに結界を張り、行方をくらましている者同士が連絡を取る時の儀式めいたもの。 最近では、他者と接触も少ないし、代替の方法も幾らでもあるから、私にしても珍しく感じる。 仕掛けは簡単だ。 手紙それ自体に力を持たせ、ある種の強制力を帯びさせる。 微弱でしかも害は無い。 それを手にした者は、自分が知る限りの知識を元にそれを送り先へ近づける。 後は断続的なリレー。 完全に地に潜り外部から遮断しない限り、それはいつか届く。 いつかどころか、それは意外な程の速さで飛んで来る。 まあ、時には地球を何周もした挙句、隣りの街に届いたケースなどもあるようだが。 基本的にこれならば、差出人に、受取人の所在がわからないままになる。 いろいろと抜け道はあるのだが、そういう紳士協定めいた決まり事で成立している。 とりあえず今回の手紙を運んできたのは、他ならぬ目の前にいる黒桐だろう。 本人にはそうした自覚は無いから、不思議そうにしているけれど。 今でもこんな古めかしいやり方をやる奴もいるのだな。 そう思いながら、封を切る。 ざっと怪しげな罠など無いかを確認しつつ。 幸い、この手紙には他に仕掛けも害意も存在していない。 一読。 「ほぅ……」 私宛の手紙、それもどうやら黒桐には縁無き領域の関係と判断したのか、黒桐は特に訊ねてこない。 こういう辺りの気の遣い方はよろしいな。 「黒桐」 「はい、何です?」 「仕事の依頼だった。早速だが出掛けて来る」 「へぇ、珍しいですね。橙子さんがそんなにやる気を見せるなんて」 「相手が面白そうだ」 ちょっと黒桐が難しい顔をする。 また悪い癖が出てと思っているのだろう。 「大丈夫だ。あまり趣味に走ったものでなくきちんとした仕事のようだ。 相手もしっかりしている。 それだけに少々怖いのだが……。 およそ、私などに縁がある相手では無いからな。 そうだな一応、何か指示を与えておくか。 もしも私の帰りが遅いようなら……」 なるべく穏かに言ったつもりだった。 だが黒桐ははっとした顔で私の顔を探るように見た。 「あくまで、用心だよ。まあ、普通の相手ではないからな」 「魔術師の協会とかと関係あるんですか?」 「当たらずとも遠からじというか……、いや、似て異なるな。 ふふ、そんな顔をするな、黒桐。 大丈夫だ。何しろ愛と慈悲を説く者が相手だ」 「へ?」 「教会、カトリックの教会関係者が相手だよ。 じゃ、行ってくる」 妙に胡散臭い顔をした黒桐を残し、私は出掛けた。 ◇
「ほら、黒桐」 デスクから茶色い封筒を手渡す。 かなり厚手。 表面には手書きで、給与と記してある。 意外と達筆だな、我ながら。 ……要するに滞っていた黒桐の給料である。 黒桐は、中を見て、唖然とした顔をしている。 なんだその幽霊でも見たような表情は? 「余分に入れておいたのはボーナスとでも思ってくれ。 式とでも泊り掛けで遠出というのも、悪くは無いのではないかね。 鮮花も友達と出掛けているしな」 黒桐は少し佇まいを変えて聴いている。 ふむ。 勘が良いな。 ここにいるなと言っていると、正しく言外を受け止めているな。 「心配する要素は極めて少ない。 どうにも美味い話には警戒する癖がついているだけだ。 依頼の裏については他ならぬ黒桐自身が調査してくれたろう。 そこには何も仕事の話との、齟齬は見られなかった」 「それはそうですが……」 手紙がきた日からもう半月ほど経っている。 あの日、数時間後に私は無事帰ってきた。 特に何事もなくあっさりと。 ほっとした顔をして迎えた黒桐。 私は人形作りの依頼を受けたよとだけ述べ、しばらく考え込んだ。 そして、幾つかの調査を黒桐に頼んだ。 対象たる人物についての裏取りだった。 さほど日にちを要さずに黒桐は調査をまとめた。 その人物が小さい頃に、勘当同然に他家にやられた事。 当主が死に、跡目を継いだ者によって実家に戻されたらしき事。 らしきと言うのは、正規に戻ったのに僅かな期間で姿を消した事。 それ以来、預け先であれ学校であれ消え去ったようになっている事。 そして、今現在は小学生程度の子供がどうやら館内に暮らしているらしい事。 その他、いろいろ不可解な事象について。 それらは多少足したり引いたりをすれば、依頼人の説明と外れる部分はなかった。 「まあ、あの一族がどういうものかは、もともと話に聞いていたしな。 それが何故教会と結びついているのかは、さすがに黒桐でもわからなかったが、決して合致しないではない」 もっと時間を与えれば、いや私が深入りを止めていなければ、もっといろいろと探ってきただろう。 「不慮の事故とやらで体を喪失して再構築した仮体であるが、本来の体により近い体を作って欲しい。 まあ、別におかしな事ではない」 「そうですが……。 僕にはなんで所長がそんなに警戒するのかわからないんです。 何か隠していませんか?」 「いや」 完全なポーカーフェイス。 しかし黒桐は今ひとつ納得していない。 自分の事以外には、意外と聡い事もある男だからな。 いなしてごまかしても良かったが、一応説明を補足した。 「それだけ魔術師にとっては天敵だと言う事だよ、教会は。 それに今回の件はどう考えても魔術の領域に属する背景があるようだ。 警戒してしすぎる事はないと私は考える。 純然たるビジネスで終わるならそれに越した事はないがね」 煙草の煙を吐く。 そう、近寄らない方が無難な相手というモノは存在する。 「何かあっても私一人ならどうとでもなる。 ただ、おまえ達が巻き込まれるのは、少々後味が悪い。 それだけだよ。 だから、仕事が終わるまでは一人にして欲しい。 それにだな、もしも何かあれば此処は蒼崎橙子の名にかけて破壊するから。 巻き添えを食うのも面白くないだろう。 それでだな……」 どうしようかちらと迷って、結局言う事にした。 意外と私はこの若者を信頼しているようだ。ああ、意外にも。 「もしも此処が瓦解していてなおかつ私から連絡が途絶えていたら、式と二人でここを始末してくれ。 何もかもをとにかく完全に殺しきって欲しい。 その手間賃と退職金として、事務所の口座の残金は好きにしていい。 封筒の中にカードも入れておいた」 「でも橙子さんは……」 「ああ、言いたい事はわかる。 だがな、全てを同時に殺されれば、さすがに次は無い。 それに例え生き残った私がいるとしても、姿をくらまし地に潜らねばならないだろう。 どのみち、黒桐、おまえとは二度と顔を合わせないかもしれん。 鮮花には古巣への連絡先は教えてあるし。。 まあ、鮮花が魔術師になる事を思い直せば別だが……。 ……そんな顔をするな。 そうそう、何も起こらなかったら、もちろんそれは返すんだからな。 使用していたのがわかったら酷い事になるだろうな。横領罪にあたるし、秋巳刑事のお世話になるかな」 部署が違いますよという黒桐からのツッコミはなかった。 ただ、真顔で頷かれた。 挨拶を交わし、黒桐は去った。 よし、まあ余計な事を話さずに済ませられたな。 そんな事を考えながら、私は数時間後に訪れる客人を待った。 ◇
「なるほどな」 その少年を見つめて呟いた。 外観は幼い。 ほんの子供である。 だがその瞳に宿る意志の発現は、彼が決して見かけ通りの存在で無いと示していた。 最初から、どういう存在であるか知らなかったとしても、こうしげしげと見れば違和感を覚えただろう。 得体の知れぬ場に一人で訪れ、この乱雑なる我が工房にいて怯えている。 また、無言で私がじっと見つめている事に落ち着かないものを感じている。 それは無理からぬだろう。 一人前の大人ですら、ここで何一つ気にせず寛げはすまい。 それでもなお、どこか覚悟を決めた様子、向うからも私という存在をじっと観察している様子、それは少年には不釣合いだった。 凝視した視線を外し、私は眼鏡をかけた。 目に見えて、彼の緊張が薄れる。 初めて私を見たように、少年から改めてしげしげと見つめられた。 私もじっと観察し直した。 やはりまだあどけなく見える。 なかなかに将来性を期待させる顔立ち。 いや、今のままでも非常に可愛い。 このままの方がいいのではないだろうか。 依頼とは相反する想いを、私は抱いた。 彼―――、遠野志貴という少年に対して。 と、互いに沈黙が続いている事に気がついたと言うように、遠野志貴は口を開こうとする。 それを、手で制した。 おそらくは彼なりに説明をしようと言うのだろうが。 「いいわ。全て説明は受けているから。 それよりも見せてくれるかしら。志貴君が本物だという証拠」 「証拠?」 「ええ。君が私の妹と浅からぬ因縁を持っていたという証」 なるべく平穏にと心掛けた。 震えそうになる口調を意志の力で抑え込んだ。 怒り。 期待。 憎悪。 普段は埋め火のようになっている様々な想いが、出口を見つけようもがき出している。 奪った者を、奪われた物を。 思い出す。 あの時の感情が……、いやいや、いかんな。 そんな私の様子に気がついているのか、素直に遠野志貴は頷き、『それ』を取り出した。 その大切なモノを取り出す手つき、そして表情は、私の心を少し静めた。 「これです。これが先生に貰った眼鏡です。 長いことお借りして、その、ありがとうございます。 先生にはこれは姉さんに会った時に返すように、って言われていました」 先生ね。 そう呼ばれていたのだったな。 遠野志貴の言う処の先生。 私の妹。 それこそが、黒桐には話していないファクターだった。 黒桐も蒼崎の一族、私と妹の因縁については多少知っている。 私が青子にどんな感情を抱いているか知っている。 となると、依頼者の話の中にその名が出て来る事は無駄な心配を生んだろう。 私は仕事には私情を捨てるなどと真顔で言っても信用しないに違いない。 ましてこの少年と青子との関わりについての詳細を聞いたならば……。 どう反応しただろう? 今の外観だった時分に、青子と出逢った。 この直死の魔眼を持っていたという少年と。 そして青子は彼の為に、私から魔眼封じを奪い取っていった。 ……。 聞かせられんな。 何より私がこうして仕事を受けているのは自分でも不思議でもあるのだから。 どう考えても、私が知る蒼崎青子像に少年の話の先生は一致しなかった。 そこに無性に興味を抱いた。 これは事実なのだが……。 束の間そんな無駄な思念に身を委ね、そして自分を取り戻す。 差し出された眼鏡を受け取った。 あの時以来、私の手を離れていた魔眼封じ……。 返せと言っていた? ふん、逆上した私が有無を言わさず、おまえの少年から奪い去るとでも思ったのか。 確かに、別ないきさつでこれを見たら……、この少年を血塗れの肉塊とする事に躊躇いを覚えなかったかもしれない。 あくまでひとつの可能性として。 労せずして奪回したそれをしげしげと見つめる。 不思議と平静だ。 あまりにアレの色に染められていたからかもしれない。 しかし彼のために青子は本当に……。 「なるほど、稚拙な工作だこと。実に……らしい。 何か言っていた、妹は?」 「はい、姉さんに会ったら伝えて置いてって」 「ふうん?」 「相変わらず……」 幾分の緊張を込めて言葉を口にしていて、初めてその内容に思い至ったというように遠野志貴は言葉を止めた。 ふむ? 「どうした? 相変わらずの続きは何かな?」 「……偏屈なことばっかりやってると、嫁き遅れるわよって」 一気に言って遠野志貴は顔面を蒼白にして立ち竦んだ。 まっすぐ彼を見つめている私の顔を見てだろう。 しかし、私は怯えた少年の顔を見ているのではなかった。 その奥の、何年も実際には会ってもいないアレを睨みつけていたのだ。 手の中の煙草をへし折る。 物理的に、そして他のあらゆる意味をもって。 とりあえずそれがアレの首の骨であると模して。 「そうか、そんな事を言っていたのか、君の先生は……」 言いながら思い浮かべ殺した。 何度も何度も。ばらばらにし、圧し、潰し、もぎ、溶かし、焼き……。 そしてようやく冷静さを取り戻した。 まあ僅か数分の事だ。 「持っていなさい、まだ」 「……? はい」 不思議と執着は消えていた。 あまりに奴の手が入り、稚拙にして嘲笑を誘う有り様になったそれを見て、幻滅したからかもしれない。 それに、私の注意は別に向かっていた。 「心配するな、受けた仕事はする。 誰一人文句をつけようのない出来でな。 魔術などと言う言葉にはあまり縁は無いかもしれないが、これはこれで極めてリアリズムに貫かれたものだ。その理法が狭い世界でのみ生きているだけでb無闇と怖れる必要は無い。 高度に発達した科学技術は魔法と見分けがつかないという言葉があるが、これはどちらがマジョリティかという事にすぎないかもしれん。 要は結果だろう。これでも、仕事自体にはそれなりの誇りも持っている」 折れた煙草を無造作に床に投げ捨て、新しい煙草に火を点ける。 ふぅと煙を吐く。 「何より、報酬が大きい。 単純に人形代としての破格の値段も、0を二つ程多くつけ間違えたのではないかと眼を疑うほどだ。 タイミングもいい。いい加減に給料を払わんと何をされるかわからんからな」 いや、もう払ったのだったな。 黒桐の顔が浮かぶ。 まったく、人の顔を見れば無駄遣いだの、未払いがどうのだのと。 私など給料が支払われなくても、これまでの人生で困った事など無いと言うのに。 気がつくとぶつぶつとつまらぬ戯言を呟いていた。 いかんな、去れ、黒桐。 「それ以外にもいろいろと裏に手を回して頂けるようだ。 まあ、そちらの因縁はどうでも良いが、必要とあれば使える手段が増えるのはありがたい話だ。 疑わしいほどに。 どう考えても、何かの罠かと思うほどの好条件すぎる。 もちろん、裏はきっちりと調べさせて貰った。 ああ、もちん問題は無し。でなければ、こんな処まで迎え入れんよ。 むしろ仕事の中身を知った事で恐ろしく興味が湧いた。正直、ただでも手を突っ込みたいと思うくらいにな」 貰うものは貰うがねと言って、また煙を吐く。 大人しく遠野志貴は私の言葉に耳を傾けている。 ふむ、躾はされているのか。 しかし、この期待と不安が混ざり合った表情の少年は、どれほど認知しているのだろう。 これから起こる事に対して。 「それより、聞かされていないか、私の事を? 教会関係者の情報なら相当酷いものだろうが、まあ半分は真実だ。 何を言われているかは知らんが、どのように言われているかは見当がつく。 それでも、一人でこんな処に来て、およそ真っ当でない処置を受けるのは、不安ではないかね、遠野志貴クン?」 思い出している。 いや、今に到るまで頭から離れていまい。 どう言おうか迷った様子で、遠野志貴は口を開いた。 「聞かされました。……正直、怖いです。 でも他に手は無いし、先生にも橙子さんの処へ行くように言われました。 だから……」 「聞いたのなら、妹の事を持ち出すのは、逆効果だと知っていると思うが。 しかし、そんなに君にとって神聖視するような存在かね、あれは?」 「先生がいなければとっくに俺は発狂するか、命を絶っていたか……。 少なくとも先生がいなければ、全然ちがった存在になっていましたから」 なんて表情をするのだろう。 思わず惹き込まれそうになるそれは、憧憬にいちばん近かっただろうか。 とても強く。 とても深く。 こんな目で面と向かって見られたら、石ですら感じ入るかもしれない。 それほどの影響を与えたと言うのか。 あの、青子が? 信じがたい。 とても信じられない。 あの人でなしの、悪鬼羅刹が? 私にあれだけの事をした、最低の人間の屑が? 思わず問い質したくなり、自制する。 まあ、その事実をこの少年に教えてやる事もあるまい。 「ふん。本性を知らぬから……、いや、それを隠し通した事こそに着目すべきかもしれん。少なくとも、ろくに縁もなかった少年の為に、私から魔眼封じを強奪していくなど、およそ……、らしくない」 改めて遠野志貴を見つめる。 青子が出会った頃の姿のままだと言うその少年を。 アレが僅かに残っていたらしい人間らしい心を他へ示したという当の相手を。 じっと注視されたからだろうか、遠野志貴は不安げな怯えた目になっていた。 「確かに、こういう部分の嗜好は不本意ながら似ているか。雨に濡れた仔犬の瞳は、さぞ心打つものだったろうな」 「仔犬?」 そうだ。 その頼りなげな姿は仔犬を連想させた。 青子と出会った時にどうだったのかはわからないが。 「こちらの事だ。 では、裸になってもらおう。何一つ体には身に付けるな」 「はい」 異性の前で裸になれと言われ、やや抵抗もあろう。 だが、事が始まったのに対し安堵したようにも見える。 大人しく遠野志貴は着ているものを脱ぎ始めた。 シャツも下着も何もかもを。 「ほう」 細い腕、細い脚。 無駄な肉の無い体。 貧弱な訳では無い。 むしろしっかりしている。 でも成長期の少年のほっそりとした体つきは、内実と相違する脆さを感じさせた。 ……。 良いな。 ああ、これは良い。 さらに舐めるように視た。 首筋、背中、腹、まるみの薄いお尻、手足、そして皮を被った小さな生殖器。 落ち着かない様子で、しかし一種の医療行為と解釈しているのだろう、隠したりはせずに遠野志貴は身動きしない。 ふう……、目では充分に堪能した。 眼福。 では、今度は触覚を満足させようか。 腕を撫でさすり、その筋肉のつき方に頷き、腿のラインを飽く事無く掌で触れ味わう。 男では無い少年の肌。 今度は……、屈み込んで体を近づけた、触れるほど。 胸を重点的に触った。 鼓動が掌に伝わる。 脇腹を撫で、臍を指で突付き、大胸筋にそって手を動かす。 あくまで軽く、少しばかり優しく。 そしてされる側の方は……。 くすぐったく、そして触れられるだけでぞくぞくする感触を味わっているようだった。 身悶えしている。 それでも必死に声を出さないようにしているのが何とも笑みを誘う。 嫌だとは言わない。 ただ、耐えている。 ふむ、ではこんなのはどうかな? 胸の先に指を伸ばした。 指先で軽く乳首掻くように嬲り、そして指の腹で柔らかくその膨らみを潰す。 「ああッッ」 さすがに耐えられず、声を洩らした。 ふふ、乳首もさっきまでとは違う。少し反応している。 少年の嬌声が耳を打つ。 甘美に響く声を聞きながら、もっともっとととその尖った部分を丹念に指で弄りつづけた。 「橙子さん」 「何かね?」 「その、そんな処弄らないで下さい」 「何故?」 「何故って……」 弄られると変な気分になるからですとは言えないのだろう。 真っ赤になって口ごもっている。 その困惑の表情。 ははは、それを見るのがぞくぞくするほど楽しい。 「言いたい事があるならきちんと言って貰わねば困るな。 まあ、嫌がるのなら止めよう」 「すみません。……ああッッ!!」 安堵の表情。 それを確認してから、動きを変えた。 片手で遠野志貴の肩を押さえて自由を奪い、空いた手を胸から動かす。 臍より下。 下腹部のさらに下。 悲鳴を無視してそれに手を滑らせる。 遠野志貴の生殖器……、いや、こういう方が似合っているな、おちんちんに。 「騒々しいな、志貴?」 ああ、我ながら弾んだ声。 呼び名もいつの間にか志貴に変わっている。 そう訊ねながらも、原因たる行為を続けた。 掌に、睾丸を乗せて転がすように動かす。 小さく軽く、でもちゃんと存在感はある。 残った指で小さな陰茎を弄る。 これも小さいけど、ちゃんと機能を果たしている。 ふふふ。 揺られて袋の中の小さい二つの球は触れ合い離れる感触。 指を這い回らせた時の硬い感触。 根元から皮だけを下へと引っ張った時の相反した柔らかみのある感触。 抑えようとしているのがよくわかる。 でもまったくその意志は体に反応されていない。 遠野志貴のおちんちんは、硬く大きくなり、明らかな性衝動の発現の姿を見せていた。 これならペニスと呼ぶ方が似つかわしい。 訴えるような志貴の目。 でも無視する。 いや、むしろより熱心に指を動かす。 そんな目をされたら、その気が無くても少し苛めようかという気になる。 少年の可愛い玉袋を軽い痛みが生じるギリギリまで握り締めて離し、その痺れが残っているうちに、五本の指を志貴の逞しくなった陰茎に絡ませる。 単純なしごくだけの動きでなどではない。 こうやって指をばらばらに動かすと、どうかな? まるで指のそれぞれが勝手に這い回り舐め擦っているようだろう。 「ああ……、や、だ、こんな……」 「ふふ、どう見ても嫌そうではないぞ」 体とは裏腹に、いや体がこうなっているからこその羞恥の様子。 何とも可愛く悶える。 手の動きはそのままに、耳元で囁く。 息だけで、ぴくんと反応する。 悲鳴と嬌声のない混ぜ。 そしてその切羽詰った顔。 これは、堪らないな。 ほとんど無造作に、いきなり唇を奪った。 あっと言う驚きの声を飲み込み、そのまま舌を潜らせる。 喘ぎ声を吸う。 舌を伝い、吐息が流れる。 柔らかい舌は逃げるに逃げられないのか、動かない。 おもむろにより強く私の舌を絡める。 自然と互いの唾液が混ざり合う。 その間も手は休めない。 ただ、少しささやかなる細工をする。 キスと手での愛撫だけで果てられてはつまらない。 絶頂を迎え、しかし射精はさせない。 何とも都合のよい術と、暗示。 子供じみたペニスは、勃起してもまだ完全に赤い亀頭を覗かせてはいない。 ただ先端の方だけが、はちきれそうな様子を記している。 そこはぬらぬらと塗れていた。 だが、それだけ。 鈴口から腺液をどれだけこぼしても、異名の通り、それは単なる先走りで終わる。 どれだけ幹を擦りあげ、鈴口をこうして指で突付き押し開こうとも、そこから精液を飛び散らせる事は無い。 ただ、志貴は乱れ、耐え切れぬ声を洩らすだけ。 「可愛いな、志貴」 さすがにキスしたままでは無く、何度か離れてはまた唇で繋がってを繰り返した。 その何度目か。 今度は志貴の舌を誘う。 絡ませあいながら、私の口に引き寄せた。 恐る恐るといった様子で志貴の舌が動いている。 いや、自由にはさせない。 のこのこと来たのが間違いだよ。 唇で舌を挟む。 そして吸上げた。 舌を唇で何度もしごく。 ねぶる。 唾液がこぼれ顎まで垂れる。 それでも止めない。 私自身も息苦しくなってから、ようやく志貴の唇を解放した。 志貴は深く酸素を求め、喘いでいる。 それを余裕を持って眺め、私はすぐに回復した。 志貴の放心した顔を味わいながら、依然としてペニスに触れていた手を軽く捻った。 「っああ」 硬くなっていた志貴のペニスの皮が根元へと引っ張られる。 先まで被っていた包皮がにゅると捲られ、ピンク色の亀頭が大きく顔を覗かせる。 痛いだろう? でも気持ちいいだろう? 二つの感覚の狭間で志貴は呻き声をあげる。 背筋がぞくりとする。 なんていう―――、愉悦。 「奇麗なものだな。食べてしまいたいくらい可愛いよ」 そして私はしゃがんでいた体勢を、さらに下げた。 志貴のペニスに顔を寄せた。 つんとした匂い。 何度か味わった匂い。 清潔にはしているようだが、亀頭の皮を捲りあげた事で蒸れた匂いがする。 その辺は女の陰核でも同じだが、排泄器官を兼ねているだけに微かにアンモニア臭を帯びた塩っぽい匂いもしている。 冷静に判断すれば、悪臭ですらあるかもしれない。 でも……。 「いい匂い」 この少年特有の強い匂いは、決して深いではなかった。 それどころか、私はこれが好き、いや大好きですらあった。 もう、我慢できない。 我慢する必要もあるまい。 ちろと舌先が軽く志貴に触れる。 舌の先に鼻で嗅ぐよりもむわっとした異臭が伝わる。 さっきまで志貴の唾液に塗れていた舌が、今度はペニスからの腺液にねっとりと汚された。 唇にも付着したねとねととした感触。 舌に残っている少し塩気のある刺激。 堪らない。 本当に堪らない。 そして、手をゆっくりと志貴の幹に沿って動かした。 そうしながら、少しずつ亀頭を覆う皮を後ろに後退させていく。 「やだ、痛いよ……」 「もう少し、ふふ、匂いが強くなってきた」 亀頭の雁首の縁が見える。 いよいよ、全部御開帳だな。 普通は女性に対して使う言葉を口の中で転がす。 そら。 わくわくとして包皮を摘んだ手を下へと動かした。 「ああああッッッ………」 悲鳴。 それとも嬌声か。 にゅるんと幼いペニスを守る包皮が完全に捲れ上がる。 同時にびくびくと張ちきれそうなペニスが動き、一瞬膨れ上がった。 そろそろ拘束が解けていたからな。 この刺激は引き金となったのだろう。 来る。 避けなかった。 しっかりと目を見開き、一瞬も逃さないとばかりに見つめた。 その有り様を全て。 ぷくりと膨らんだ鈴口。 びくんとした震え。 そして迸り。 勢い良く、精液が弾け飛んだ。 私の顔を、髪を、眼鏡を、志貴の放った精液が汚していった。 「あ……」 悲鳴と陶酔のミックスされた志貴の声が、悲鳴と怯えのそれに変わる。 快楽の放心が、目にしたものに消されている。 気の毒に。 私が言うのも何だが。 交尾している犬に水をかけたような罪悪感を少々感じる。 しかし放っておく。 大丈夫だからという声は飲み込む。 眼鏡をしていなければ、そう言っていたかもしれないが。 ゆっくりと曇った眼鏡を外し、裏返す。 濃厚な白濁液の付着。 透明なレンズは濁り、粘性を持った雫が垂れ落ちる。 ハンカチを取り出し、それを拭った。 見せつける様にゆっくりと丹念に。 言葉を発せず、そして表情を消して。 視界の隅に、怯えてがだかた震える仔犬を意識しながら。 時に思い出したように視線を上げると、それだけでびくんと志貴は震える。 そんなに私は兇悪な顔をしているのだろうか。 歯の根が合わぬ様が振動として伝わってくる。 さて、よかろう。 まっすぐ志貴を見つめる。 そして告げる。 「舐め取れ」 ぞくり。 そう命じる行為に。 そしてそれを聴いた志貴の表情に。 少年の聴き、理解するまでの僅かな時間。 その変化の味わい。 酷い命令だ。 志貴は反射的な反発の色を浮かべる。 しかし、それは半瞬で消え失せた。 そして入れ替わる従順さと救いの表情。 命じられた事によるほっとした喜び。 ああ、なんて。 なんて可愛いのだろう。 己の出した精液を舌で拭き取らねばならないという事に対して浮かべる安堵。 その心理状態を考えると堪らないものがある。 慌てて跪き、顔を寄せる志貴。 自分の精液を見て、匂いを感じて、決して喜ばしくは無い、いや嫌悪すべき状態の筈。 しかし、そのまま躊躇無く舌を突き出す。 舐めるのか。 舐めとって口に含むのか。 青臭い匂いで鼻をくすぐっている私の頬の、精液を。 全身これ従順といった態度で。 嫌悪以上の怯えの強さ故に。 ぎりぎりまで待った。 もう触れたと言っても良い、そのぎりぎりの瞬間に私は体を後へ動かした。 志貴の舌がむなしく虚空を舐め上げる。 「あれ、なんで?」 「冗談だ」 びっくり顔。 思わず笑いそうに成るが、無表情を崩さない。 ぽかんとした顔でこちらを志貴は見ている。 それを無視する振りをして、顔を拭き清めた。 本当はきちんと顔を洗いたいところだが。 顔を洗って、また化粧し直す訳にもいくまい。 まあ、これでよかろう。 眼鏡を再び掛ける。 目に見えて志貴は緊張を緩める。 ……そんなに違うものなのか? どうも性的興奮が作用して、眼鏡のある無しで変わらぬテンションになっている気がするのだが。 ふと指を見ると、人差し指が塗れていた。 拭く時に直接触れたのだろう。 粘液。 少年のエキス。 特に考えるでもなく、それを口に含んだ。 ああ、男のモノの匂い、味。 青臭いそれが口いっぱいに広がる。 うん、志貴が見つめている。 かなり強く見つめている。 情欲を起こしているのか? 己の精を口にしたという事実に。 それとも指を妖しくしゃぶっている仕草にか。 妄想を掻き立てているのだろうか。 この、私の口の中で舌が蠢くさまに。 唇が動き歪む有り様に。 それともこのぴちゃという小さな音に。 この指を自分の指と置換え、さらに別なモノに連想を広げているのだろう? 淫らな事にその頭の中をいっぱいにしているのだろう? そう思うと、ただ自分の指をしゃぶる行為すら、いかがわしく感じられる。 たまらなくなり、口戯を止める。 ちゅぷと湿った音。 唾液に塗れた指を、そのまま小さく開いた志貴の口に突きつける。 戸惑っている。 開けなさい。 唇の隙間を突付く指に、志貴は口を素直に開けた。 そこに挿入する。 熱く濡れた処に人差し指をゆっくりと潜らせた。 本能的に、それを受け入れ、志貴はしゃぶり始める。 舌が指を探る。 嫌がってはいない。 唾液に塗れ、おそらくは己の精液を残滓が混じっている指を。 しゃぶっている。 むしろ嬉々として、しゃぶっている。 志貴が指を舐め、そして唇で強くしごく。 「ふふっ、んん……」 愉悦に思わず声が洩れた。 ああ、我ながら……、艶めいた声。 これほど発情しているのか、私は。 そうだとも。 ああ、そうだとも。 中身は知らず、外観としてはこんな年端も行かぬ少年を弄び、口に己の指を含ませる。 その行為に、激しく私は発情している。 別に狼狽するような事ではない。 最初からそのつもりだったのだから。 指を引き抜く。 「本当に可愛いな、志貴……」 つっと立ち上がって、部屋の隅の長椅子に座す。 きちんと寝るのが面倒な時に使ったりもする。 私と子供が横たわるくらいは造作も無い。 浅く腰掛け、志貴を呼ぶ。 「おいで」 「はい」 従順だな。 無理も無い。 そう仕向けてもいる。 妖しげな場所、部屋、周りの物。 魔術師なる常識から乖離した存在。 一種の医者と患者にも似た、縋り縋られる関係。 性的な興奮。 恥辱と恐怖。 全てが遠野志貴にとって束の間の異界を創出している。 今は、この私が彼にとっての絶対者だ。 少なくとも彼は、無意識にそう思っている。 ―――元の体を得る為に従わねばならない。 心に起こる当然の反発は、彼自身がその言葉で封殺する。 これから起こる事へ、その言葉が免罪符として機能する。 異常に対する受け入れが驚くほど容易に、ハードルを低くする。 では、始めようか? 「あんなものを舐めようというくらいなら、こちらは文句あるまい?」 脚を組む。 微妙に太股が覗き、さらにタイトスカートの奥までが見えそうになっている。 いや、見えても構わない。 自然、志貴の目が吸い付いてくる。 それを意識しつつ、ゆっくりとスカートの裾をたくし上げる。 見ている。 息を呑んで見ている。 どうだね、黒いストッキングとガーターとかの方がお好みだったかもしれないが。 そこまで凝るのは面倒で、最初から剥き出しですまないが。 けっこう脚には自信あるのだがね。 うん……、最高の賛美だ。 その眼は。 さらに捲り上げる、裾を。 秘められた部分を少年の目に晒していく。 黒いレースが覗いてしまうほど。 ああ、見せつける快感がじんわりと体に湧き上がってくる。 そこでいったん止める。 焦らす、それもある。 それより、私を抑える為。 あくまで悠然とした態度は崩さない。 「どうせ我が侭で気分屋だから気を損ねるな、と注意されたのだろう?」 精いっぱい悦ばせた方が無難だぞ、我が侭な人形師をな」 小さく頷きつつも、志貴の眼は貼りついたに動かない。 はは、唾を飲み込んでいる。 そら、見せてあげる。 肌を覆う僅かな薄い三角。 「これは、取ってくれ。やり方はわかるだろう?」 両手でスカートの裾を持っている為、自分ではやり難い。 それに、させるのが良いのだ。 震える少年の手で、大事な部分を全て剥き出しにされてしまう。 ああ。 早く……。 あくまで艶然としたまま、見守る。 膝を落とす志貴。 伸びる手。 躊躇いがちな指。 触れた。 ショーツの紐状になった部分を志貴の手が掴んだ。 問うような眼。 軽く笑みで答える。 志貴の手が動く……。 「あれ?」 わずかに下着は脱がされるべく引っ張られたものの、戸惑ったような声があがった。 うむ? 難儀している。 ああ、少し難易度が高かったか。 こうしたものを手ずから脱がした経験に乏しいか、さすがに。 「知らぬのか? なら憶えておけ。後ろから先に下ろすんだ。こういう処でもたつくと興醒めだ。 大人になってから苦労するぞ」 まして好き好んで年を取るのだしな。 そう呟いて、何故か笑いのツボに入り一人でくっくっと笑う。 志貴は不思議そうな顔を一瞬して、そして忠告に従った。 こちらも腰を浮かせてやる。 そうだな、最初から言葉によらず導けばよかったか。 するりと丸みを越え、後はあっさりとショーツは脱がされた。 そのまま腿を膝をと進み、足首から抜かれた。 ちょっと迷って、志貴はテーブルの端に置き、そして私に眼を向けた。 正確には、私のオンナに。 軽く自分から脚を開いて、はっきりとは見え過ぎない程度に茂みも谷間も志貴の眼に晒した姿に。 呼吸をするのも忘れそうなほどの没頭。 視線で焼け焦げそうなほど見つめている。 本当に物理的に触れられているよう。 もう少し、はしたなくならない程度に角度を広げよう。 ほら、ははは、食い入るように見つめて。 うん……、あ、あそこが少し粘る感じ。 この構図。 お姉さんがいたいけな少年を誘惑し、いけない事を教えようとしているといったこれは――― 何て、心躍らせる。 何て、陶酔を誘う。 何て、淫靡だろう。 元来、魔法使いを目指す者などは、いろんな意味で人の道徳から外れている。 禁忌を侵す事を好む者。 単なる社会生活不適応者。 喜びを持って犯罪に身を投じる者。 もちろん、何ら違法行為に触れぬ者もいる。 徳高く、清廉なる人格者もいる。 家族を愛し慎ましやかに生活する者もいる。 しかしそれでも基本的に私を含め魔術師は、己が定めし規範を何よりも第一義とする。 多くの場合、それは国家が定める法律や、人と人が折り合う最低のルールとは矛盾しないが齟齬を生じればまったく躊躇い無くそれを踏みにじる。 そしてその事を何ら疑問視しない。 事が露見すれば犯罪史上に濃厚な記述がされるであろう社会の敵も、決して悪意も違法である意識も無く、ただ己に忠実であるだけだったり。 非の打ち所が無いジェントルマンが、ただたまたま機会がなかっただけで恐るべき邪悪なる意志で世を睥睨していたり。 性に関してもそれは同じ。 厳格な規律に自ら縛られる者もいれば、放埓なる性生活を送る者もいる。 最低の娼婦でもしない嘔吐すべき行為を自ら望み、何もかもを受け入れ快楽を貪り尽くすのを常とする清らかな少女としか見えぬ聖女と 私は興味深い会話の一時を持った事があった。 で、私は、基本的にはそう逸脱をしていない。 女性でも構わないが、通常は好ましい男性の方を選ぶ。 色情狂的な処もあまり無いようだし、同意する相手を求めるのに苦心するプレイもほとんど好まない。 ただ、強いて言えば一つ。 同年代、あるいは年上の男性への嗜好と共に、あるいは別なリビドーとして、少年を好んでいる。 そこはやや普通より嗜好が強いような気が……しなくもない。 まだ性の何たるかを理解していないような少年を。 まだ自ら放った事すらないような男の子を。 半ズボンの似合う……、ああ。 まあ……、さすがに、無差別に貪るような真似はしないが。 あれのように、鎖で繋いで愛玩動物とするような真似はしないが。 それでも……、初めての性感に気持ちよがるよりむしろ戸惑い混乱する様。 あえぎ、未成熟な生殖器をはちきれそうにする様。 私の手で、精通させるとてつもない快美感。 初めての女性となる以上の喜び。 そして……。 こうするのも、久しいな。 とても我が従業員や弟子には、こんな少年愛好癖など見せられんしな。 だが、今ここにいるのは。 少年の体に、ずっと大人に近づいた若者の心。 理想的だった。 無垢は良いが、馬鹿は嫌いだしな。 トラウマを植え付ける事もなかろう。 それにしても、この目の前の少年は、まだこれを人形作りの一環とでも思っているのだろうか。 性行為に誘われている事を疑問には思っているのだろう。 それとも、もう何も考えられないか。 私の魅力で。 それならば、女として誇るに足るが。 微妙に志貴の視線が揺らいでいるのがわかる。 恥丘の辺り、薄目のヘアーに眼を向けたかと思うと、ずっと下に向かったりもする。 ほころびかけた陰唇を眺め、ぴらぴらとした様を確認している。 さらに下、僅かに見えるであろう不浄の場所に視線を動かし、そうかと思うと薄目の陰毛故に隠される事も無く姿を表しているクリトリスの膨らみを見つめる。 どう思っているだろう。 何もしていないのに、もう濡れ光っている様。 固く閉ざす事は無く、男の指を、舌を、ペニスを、待ち望むように開きかけた谷間を。 皮は被っているが、隆起しているのが覗えるかもしれない陰核は。 オンナの発情の発露は? 男ならばわかるだろう。 この状態を。 私の顔を。 このオンナの匂いを。 女と交わった経験が無いわけではなさそうだし。 ただ、動かない。 動けずにいる。 明らかに欲しているのに、どうしていいのかわからずにいる。 「どうした? 普段、眼にしているものと比べると、声を失うほど、醜悪かな?」 「凄く、綺麗です。こんなに、誰も触っていないみたいに、綺麗で、それでいてなんていやらしい……」 飾りの無い賛美。 くすぐったくすら感じる。 事実、私は笑い声を出していた。 ご褒美だ。 見えなかった処まで……、ほら? 秘肉の奥。 折り重なる襞。 小さな尿道口の窄まり。 そう、我慢できないか。 その眼。 「では、舐めてくれ。いや、ちょっと待て」 じらした訳では無い。 ささやかなる身だしなみ。 小さな赤い粒を手に取る。 指で摘んで、自分の谷間に近づけ、そして潰した。 一滴、小さな雫が垂れて、谷間に落ちて弾ける。 ふわっと花の香りにも似た芳香が立ち上り、消えた。 「大人の女の嗜みだよ、さあ、楽しませて貰おうか」 媚薬というほどのものでもないが。 これからの行為をより楽しむ為の演出。 幾らでも面白い薬はあるが、そんなものに頼る必要はあるまい。 ふふ……。 影響が出ている。 さあ……。 はぅ…あぁ……。 いきなり、志貴は顔を埋めた。 手で私の腿を掴み、もっと大きく広げさせて 谷間の濡れた部分に息が掛かり、唇が押し当てられる。 もちろん、それでじっとしてなどいない。 すぐにぴちゃぴちゃと音がする。 何か液状のものをすする音がする。 荒い息が弾ける。 仔猫がミルクを舐める音……、そんな官能小説じみた表現はとても使えない。 もっと大きく、もっと激しい。 そしてずっと猥雑な音。 舌が休まず動いている。 谷間の粘膜を舐め、膣口をこじ開けるように突付き、ほじっている。 やや性急だが、単調ではない動き。 意図しての緩急でなく、むしろひとところに専念できない状態のようだった。 陰唇を舌で嬲り、一転、周りを丁寧に舐め上げる。 はしたなく愛液の滴りを唇を押し付け音立てて啜り、こぼれた雫を舌で飽く事無くすくい取る。 太股を舌をぺたりと貼り付けるように舐め上げたり、陰唇の外側にくちづけしてみたり。 しばらく好きに振舞って、ようやく余裕が出来たのだろう。 私の反応を見て弱めたり、それとなく指示したとおりに舌で突付いたり何度もキスしたりと、変化している。 そしこれは、意図的なのだろう。 アヌスの近くや尿道の口までも舌を這わせるのに、いちばん感じやすい部分には近寄ろうとしない。 あえて外している。 ふふ、のってやろう。 確かに、私はそこを可愛がって欲しい。 早くと待ち望んでいる。 「ああ、いいぞ、うまいぞ」 素直に声にする。 志貴が視線を上げる。 どうだ、私は熱っぽい眼で見ているだろう? 愉悦の色を浮かべているだろう? おまえの舌でちゃんと感じているだろう? 一瞬止められた秘裂への愛撫が再開された。 ただし、動きにさっきとは違う変化があった。 膣口の上を少し念入りに舐めると、そのまま上に上がる。 ゆっくりと。 唾液と愛液とで塗れて粘液を滴らせた舌が近づく。 さっきより明らかに勃起している、クリトリス。 ちろと舌で舐められた。 ふぅ。 敏感になっている処へ、しかし今の今まで直接与えられなかった刺激。 これは……、効く。 ぴくんと動いた体に、効果を感じたのだろう。 志貴は違う動きに出た。 これまで、太股を抑えるくらいでまったく愛撫に参加しなかった手が。 いちばんの急所を迷う事無く攻めてきた。 つい今しがた舐め濡らした包皮。 そこに指の腹があたる。 一瞬の停止。 期待。 そしてそれはかなえられる。 つやつやとしたクリトリスが剥き出しになる。 包皮が後ろに剥かれ擦られる刺激。 外気に触れ震えるよう。 そして、志貴は容赦しない。 舌が直接触れる。 触れ、当てられるだけでなく、突付き力が入れられる。 根本からこねられるよう。 唇が。 息があたり、そして柔らかい二つの肉に挟まれる。 「あああッッッ」 一瞬、我を忘れた。 すぐに手綱を戻すが、その僅かな飛ぶ感覚の心地よさ。 しかし、耐える。 急所責めする、舌に、唇に。 刺さる息に。 蕩かす唾液に。 幾分、体を強張らせて、その快楽の波に耐え切った。 「もういい」 軽く志貴の髪を後ろへと押した。 志貴は、素直に応じる。 少しとろんとした眼。 女陰に顔を埋め、酔ったような顔つき。 言葉は無い。 ただ、「次は?」と目で問い掛けてくる。 「こちらからばかりと言うのも申し訳ないからな、お返しはしないと」 志貴の手を引き、ソファーに横たわらせる。 入れ替わるように立ち上がった。 よれ折れ、ところどころ汁の跳ねたタイトスカートを脱ぎ捨てる。 上半身は脱がずにブラウス姿。一番上までボタンを留めたまま肌は晒さない。 下半身には何一つない状態。 全裸よりも裸を意識させられる。 「こんな小さな子供にリードして貰うのも楽しそうだが、やはり最初は……」 志貴のペニスに手を掛け、上を向かせる。 今度は私が楽しませてあげねばな。 こちこちだ。 さっき精を放った後はまだそのまま、そして新たに腺液をとぽとぽこぼしている。 私の手でひくひくと反応する。 出したばかりだから大丈夫とは思うが、すぐに激しく吐精したとしても不思議でない漲りよう。 ベッドで無い為に、やや不安定。 体を曲げ、志貴を少し動かし、ようやくまたぐ姿勢。 志貴は息を呑んで見つめている。 自分のペニスを自由にされているのを。 年上の女が自ら濡れた柔肉を近づけているのを。 もう、少し腰を落とせば、ずぶりと結合されるほど近づいたのを。 私の体がゆっくりと沈む。 赤い肉襞が、志貴のピンク色のペニスの先に触れ、そのまま包み込み始める。 ああ、感じる。 硬さ。 熱さ。 志貴もまた私を感じている。 身震いしている。 気持ちよさそうにして。 それを見ると、じわりと快感が接触面から広がる。 そんな炙られる様な快感を受けていると、さすがに私の理性のたがが外れてくる。 封じていたモノが隙間から這い出てくる。 ……。 どうだ、青子。 おまえが目をかけていた少年は今私の体の下だ。 これから、喰ってやる。 何もかも全て。 悔しいか……、いかんな、こんな惨めたらしい思いは。 ただ、欲するからでいい筈だ。 アレを思い出すなど……。 最後だ。 体重をかける。 ずぶずぶと。 刺し貫かれる。 呑み込んでいく。 「入った」 奪った。 まだ結合を果たそうと奥へと進む硬いペニスの感触よりも、その思いが体を駆け巡る。 ちっ。 まあ、よかろう。 これも快感だ。 私の快楽の道具となっていると思えば、歪んだ喜びすら覚える。 普段は意識して脳裏から消し去る忌まわしき名を自ら甦らせる。 青子。 おまえが気に掛けた少年を、私がこうしている。 少しは悔しいか。 私から、未来への希望も何も奪った貴様に対しては、あまりに哀れな意趣返しかもしれぬが。 それでも、ああ、これだけは姉妹揃って同じ嗜好だったからな。 青子。 おまえがまだ手を出していなかった志貴を私は、貪るぞ。 こうやってな。 ああ、おまえの顔を思い出すと愉悦だ。 目の前で見せてやれたらどんなにか……。 さらに体を鎮める。 これ以上なく、志貴のペニスを飲み込んだ。 完全に。 恥骨があたる感触。 「えっ?」 だが、私と結ばれた相手は、喜びをまったく共にしていなかった。 志貴は驚いた顔を、より正確に言えば失望した顔をしている。 およそ、女を抱いた時に浮かべる表情ではない。 それではまるで、私が“良くない”みたいではないか。 暖かく濡れた私の中が不快かね、そうではなかろう? ペニスに柔らかく膣壁が触れるのは? これも決して悪くはないだろう? 「どうした、気持ち良くないのか?」 「いえ」 慌ててかぶりを振る。 ああ、隠し切れていないが、女性に対する良い気遣いだ。 ははは。 では、ご褒美を上げようか。 お遊びはここまでにしておいてやろう。 「なんだ、素直に言えばいいのに。 こんなのじゃぜんぜん感じないって」 「え?」 そうだ、物足りない筈だ。 まったくのゆるゆるなのだから。 ただでさえ、大人の女性を相手にするには、少々迫力不足なペニス。 皮を被って、ピンクの綺麗な色で。 それが可愛くも魅惑的なのだが、少なくとも挿入に困難さはまったくない。 通常の私だったとしても。 ましてや膣道が異常拡張している今は。 私は今は志貴の握り拳を飲み込み、肘くらいまであっさりと挿入可能なほどなっている。 むろん常態ではない。断じて違う。 あくまで意図的に今だけ変体しているのだ。 自分で挿入して襞に擦りつけるならまだしも、僅かに触れる程度の刺激では、具合の良さ云々以前に、入れている感覚すら乏しいだろう。 さて……。 「入れた途端にいきなりでは、たまらないからな。 ほら、これでどうかな」 「えっ? うああ、何これ、あああああ!!」 落胆させておいて、おもむろに膣内を収縮させる。 志貴に跨る形のままで、一見私は何ら動いてなどいない。 しかし、志貴の局部に与えた効果は、劇的であったようだ。 見えざる私の動きで、こんなに……。 ああ、笑みこぼれる。 何て快感。 身悶えし、喘いでいる少年。 最初からこんなに締め付けたのではダメ。 これだと入れるだけで、最後まで達してしまう。 あくまで容易く飲み込み、そしてぎゅっと握り締めるからいいのだ。 収縮。 揺れ。 震え。 何もせずともそうやって志貴のペニスは刺激されている。 そして、さらに技巧を咥えてみよう。 うねらせ、包み込む。 絞り上げ、こねまわす。 ぎゅうっと先から根本までを握り、部分部分を放してやる。 その度に、新しい刺激を受ける度に、志貴は新たに叫び嬌声と悲鳴を洩らす。 ペニスだけではない。 ちょんと、胸を突付いてみると、それだけで泣きそうな顔で仰け反る。 体全体がペニスになったように鋭敏になっている。 「少しはお気に召したかな?」 澄ました声。 締め付けを抑え目にして、志貴の顔を覗き込む。 志貴はがくがくと頷くのがやっとだった。 「では、始めようか?」 「始める?」 「ああ」 自然と人の悪い笑みがにやりと浮かぶ。 さんざん悶絶していたようだけど。 まだ、私は始めていないから。 さっきのは、いわば慣らし運転。 この少年の勘所を探る為の行為。 ぺたんと腰を落として跨っているだけでは申し訳ないからな。 さあ、スタートだ。 ゆっくりと腰を動かし始めた。 上げて、また沈める。 ゆっくりと上げ、さらにゆっくりと沈める。 それを繰返し、今度は上げる方を緩やかに変えてみる。 あくまで単純な上下の抽送。 志貴のペニスを味わいながらの律動。 幹の部分の固さ。 亀頭の部分の違った肌触り。 くびれはまだ成熟が足りないが、それでも抜く動作の時にひっかかりとなる。 剥かれて帯のようになっている包皮が伸びかけ、またよれて集まる時の独特の感触。 かなりの摩擦。 志貴はどれだけの快感を得ているのだろうか。 少年の体に私も強い快感に酔いつつも、冷静に体を動かす。 少し馴染んできたと判断し、緩やかな動きのギアを上げていく。 膣襞も収縮させてみたり、抜き差しに合わせてアクセントをつけていく。 体を前に倒し、腕やお腹に触れてみる。 脇腹をくすぐるように指でこすったり、乳首を撫ぜてあげたりしてする。 女の子の如く身悶えする様を堪能し、さらに体を曲げ、肌を舌で舐めてみる。 存分に『年上のお姉さんがいたいけな少年を弄んでいる』感覚を楽しんだ。 快楽に翻弄されつつ、時折志貴は私を見つめる。 いや、私ではなく、別の女を思い起こしている。 彼にとっての運命の女。 その面影を姉である私に見出そうとしているのだろう。 まあ、良い。 本来、女と抱き合っている時に別の女の事を考えるなど言語道断であるが。 その、少し罪悪感を混ぜた表情と、陶酔に震える顔が入れ替わるのは、見ていて楽しいから。 青子を脳裏に浮かべて、それで背徳の喜びに浸るのなら。 ある意味、私と交わる事で、青子を汚している事になるのだから。 びくんと志貴の体が動く。 これは、近いな。 よくもったと思う。 さっき出させておかなかったら、始める前に終わってしまっていただろう。 ほう……。 健気にも歯を食いしばって耐えようとしている。 その表情もなんとも快美だ。 「いいぞ、我慢しなくて」 「でも、俺だけ……」 「ああ、私を悦ばせずに自分が先に、と気にしているのか。 いいんだよ、快楽に耐え切れずに達してしまう少年なんてのは、堪らない愉悦なんだから、ほら、志貴、イッていいよ」 「ふぁ、ああ―――」 ぎゅっと締め付け、そして根本から先のほうへと締め付けの波を送った。 これで決壊。 志貴は体を震わせ、びくんと体を硬直させた。 ああ、出している。 中に、びゅくびゅくと射精して……。 それが広がっていく……。 痛みを堪えるような顔が、一転弛緩する様をまじまじと見つめた。 女の達する様子も艶かしいが、少年のイキ顔というのも、なんとも胸に響く。 息を荒げている志貴を抱き締めた。 まだつながったままで。 胸の膨らみに志貴の顔は当たった。 志貴は自分でも胸の谷間に顔を埋めた。 小さく呻き声。 余韻に浸っているのだろう。 少しそうして休ませてやった。 こうしているのは、私にとっても喜びだったから。 私自身は絶頂には程遠かったけど、そのお裾分けをして貰う。 しばらくそうして、志貴の息が整ったのを見て、身を離した。 体を浮かせる。 志貴のペニスがまだ萎えない状態で、秘裂から姿を現す。 てらてらと淫水に濡れた姿。 少年じみたペニスにはふさわしからぬ汚れ化粧。 志貴の方は、私の谷間を見つめている。 ぎゅっと中を閉じさせているから、こぼれた愛液で濡れそぼってはいるが、志貴の出したものはほとんど痕跡もない。 「座って」 次なる指示をした。 志貴は従い、のろのろと身を動かす。 疲れてはいないのだろうが、まだ放心が続いているのだろうか。 夢心地にいるかのような、どこかふわふわした感じを与える。 「まだ、元気だな」 硬く勃ったままのペニス。 抽送の動き故か、包皮は剥けたままで、亀頭のくびれの部分に畳まれて輪のようになっている。 今の交合の名残で、ツンとする性臭を放っていた。 なんていやらしくて、なんて好ましい匂い。 椅子から降りて、跪くようにして顔を近づけた。 鼻を動かしてその匂いをたのしみ、そのまま我慢できずに口に含んだ。 「んん……」 キツイ匂いが口から鼻へと抜ける。 でも、この舌と鼻の刺激は、私を酔わせる。 精液も、自分自身の垂れ流した淫液も、私は決して嫌いではない。 吐息が洩れる。口の感触は、蕩けるように気持ち良かった。 志貴は、わずかに身を捩ったが、そのまま私に身を委ねた。 まだ、ペニスが敏感で辛いのかもしれない。 少し緩めてやろうか。 しばらく口に含み、ただそれを味わうだけにする。 唇。 舌。 頬の内肉。 動かずにただ、あたっている部分を味わう。 そうしていて溜まってくる唾液を啜るだけ。 その時には舌が少し動いてしまう。 いやらしい匂いの溶け込んだ唾液が喉を流れる。 これも、なんとも素晴らしい。 ああ……。 志貴のペニスは復調を見せた。 ずっと大きくしていたままではあったが、射精直後よりも硬く反り、口を中から押すかのようになっている。 舌が触れた鈴口から、また新たなツンとする匂いが溢れる。 ならばと動き始める。 舌を絡め、顔を動かした。 唇で志貴のペニスの幹を締め付け、根本からくびれの部分までゆっくりと上下させる。 志貴は抗わず、そのまま素直にペニスを私の口に委ねた。 さすがに二回も射精すると余裕も出ているのだろう。 気持ちよさそうにして、私の奉仕の様を眺めている。 剥き出しのお尻に眼が向けられているのがわかる。 脚や、ボタンが外れかけた胸元などに視線は向けられている。 でもいちばん眼が貼り付いているのは、口元だった。 自分のものを咥え込んでいる唇。 すぼまっては膨らむ頬。 中でペニスがどうされているのかを、直接見えぬものの外観で確かめている。 そして時折、私の顔を見つめている。 まただ。 また、青子を思い出している。 それがわかる。 目を。 耳を。 口元を。 鼻を口を頬を。 見つめて考えている。 その表情は……、どうかね? 僅かにでも血の繋がりを示すものはあるだろうか、と考えているのだろう? どうだろう。 私の中に青子は見出せるのだろうか。 私は無理だと思うが、君の心象世界までは覗えないからな。 どちらでも良い。 ただ私は志貴を深く呑み込み、強く吸上げるだけだ。 「ああ、もう……、橙子さん、出ちゃう」 それを聞いてさらに動きを加えた。 口での抽送の邪魔にならぬようにしていた舌を志貴のペニスのくびれに走らせ、誘い出すようにペニスの先を先っぽで撫ぜる。 強く幹を唇で締め付け、そのまましごきあげる。 舌は別の生き物のように蠢き、要所要所を責め上げる。 ペニスの脈打ち。 プラス、これではどうかな? 唾液を、精液の残りと新たな腺液を、頬の中の空気を強くすすり上げ、飲み込む。 そろそろだ。 一息おいて、いわば一個の穴の開いた筒である強張りを、中身を求めて吸上げる。 少々太すぎるストローを通して、やや薄まっている白濁液を口一杯にすすり上げた。 口の中に広がる青臭い匂い。 くらくらとしそうなそれを、喉を鳴らして飲み込む。 薄まったと言っても、充分喉に絡む。 だが、それが良い。 「はぁはぁ、あッッ……、やだ、もう……、わあああ」 悲鳴。 すすり上げる口の動きはまだ休めていない。 自分の唾液と志貴の精液とをずるずると啜り込み、そのまま萎えかけたペニスを吸い、舌を絡ませている。 射精したばかりの敏感なままのペニスへの強い絶え間ない快感。 女であれば、何度も絶頂を迎えて高まっていくが、射精と言う爆発じみた行為でクライマックスを迎えざるをえない男には少しきついかもしれんな。 その刺激は快感の領域を超えて、痛みですらあるのかもしれない。 「ああぁッッ」 ぴくぴくと志貴の体が弾み、悲鳴と呻き声を洩らし、涙すら流して志貴は身を振り解き、その「苦痛」から逃れようとする。 立ち上がり、身を捻じ曲げようとする。 だが、そこまでだよ。 逃がしてなどやらない。 けっこう、私は力はあるんだよ、外観からは窺い知れないほどね。 それに、逆らおうとするものを無力化する手段にも事欠かない。 もがいているうちにベッドから床へと崩れた。 しかし、私はディープスロートを続けた。 やめられるものか。 この変声期前の少年の悲鳴。 これを止めさせるような真似。 耳からの愉悦。 床へと落ちた時にズレかけた眼鏡を外して放る。 「と…う、こさ……、ひッ」 こちらを見て、恐怖の色を志貴は浮かべている。 それがまた快感ではあるが……。 しかし、少し冷静になる。 冷静に? ああ、少し酔っていたか。 ゆっくりとペニスを口から抜いた。 反り返った姿で、ペニスが現れる。 「すまんな。 さっきの可愛い声を聴いていたら堪らなくなった。 もっとぞくぞくするような泣き顔と、泣き声を堪能したくなってな」 眼鏡を掛け直す。 志貴は泣きそうな顔で、ぺたんと座り込み息を荒げている。 だが、股間のものは萎える事なく隆起している。 ソファーに仰向けに寝転び、志貴を手招きをした。 なるべく優しい口調で呼びかける。 「最後だ。 もう一回くらいは大丈夫だろう?」 志貴は泣きながらも、従う。 体が私に重ねられた。 軽い体。 「もう、苛めないから」 ペニスの先を指ではさみ、誘導する。 志貴も僅かに這うように協力してくれた。 今回は特に何もしない。 当たり前に志貴のペニスを受け入れる。 少し入れにくそうにしているのを、じっくりと味わう。 今日始めての能動的な志貴の動き。 それ故だろうか、志貴も思ったより積極的に動いている。 より深くペニスで私を刺し貫こうとしている。 「全部、入りました」 「動いて、ゆっくりでもいい」 動き出す。 外観はあどけない少年なのに。 不釣合いに慣れた動き。 淀みなくリズミカルに腰が振られている。 もう少したどたどしい位が好みだが。 そう思いながらも、遥かに若く小さい少年に貫かれ、貪られる感覚に酔う。 これは、たまらない。 さっきからは考えられないほど、射精せずに持続している。 何度か呻き声を上げて志貴は深く突いたが、終わりを迎えない。 いや、迎えられない。 「もう出すものも無く、むしろ苦しいのに、体は快楽に踊っている。 その苦痛と悦楽の表情。 それは……、私には快美だ」 快楽の見返りのない奉仕に従事する少年。 むしろ苦痛になりつつあってなお私を喜ばせるべく動く少年。 やはり、これはいい。 「このまま精が補填されるまで交わりつづけるのも楽しそうだが……。 まあ、それもきつかろうから、手伝ってやる。 ちゃんと快楽と共に果てるがいい」 さあ、サービスだ。 口の中で笑いつつ、手を動かす。 背に回していた指が平たい臀部を探り、その割れた谷間へ。 「え、なに……」 迷う事無く指先は志貴の肛門に辿り着く。 小さなくぼみ。 皺の感触。 押すと少し柔らかく抵抗する。 「何を、橙子……、ひゃん」 「うふふ、初めてでもなかろう? わかるぞ体の反応で」 ずぶずぶと指を潜らせる。 第一関節、第二関節と潜り抜ける度に志貴の悲鳴は大きくなる。 ふふ、この細指でも苦労するとは。 そんなに締め付けるものではないぞ。 まあ、こんな抵抗を破るのも良い。 「きついな。 ん……、ほら、全部潜ったぞ。 声も無いか」 「やだ、なに、これ……、あああッッッ」 「どうだ、中で曲げるとなかなかに楽しいだろう。もっと捻ってあげる」 「……!!!」 「ふふ、嫌がっているようで、こちらはずっと硬くなって……、 私の中でびくびくしているぞ」 違和感もあろう。 気持ち悪いだろう。 だが、体はそれをだんだんと認識しているはずだ―――、快楽だと。 指が腸壁を弄る度に、志貴の押し殺した声が呼気となって洩れる。 「そら」 今度はペニスの根元を体内から、直接刺激する。 私を貫く志貴の動きに合わせて指を蠢かす。 これで、終わりだ。 志貴のペニスが脈動した。 ありったけの精液を迸らせるのをはっきりと感じた。 子宮口に注がれた白濁液を目にしたように認識した。 その熱さ、その量、その激しさ。 「ああ、こんなに……」 体を紅潮させ、はしたなく叫びはしない。 だが……。 私は、志貴と共に絶頂を迎えた。 久々だ。 こんな、男と抱き合い、高みを極めるなど。 その快楽の波に、志貴の小さな体にしがみつくように強く、抱き締めた。 貫かれたペニスの感触。 中に染み込む精液。 オトコの匂い。 汗ばんだ小さい体。 熱さ。 そんなものに心は蕩けきっていたけど。 ただ、僅かな陶然だけを露わにして。 ◇
ふぅ……。 志貴はまだ力尽きている。 少しだけ無理をさせたかな。 まあよかろう。 この体でいるのもあと少し。 もっと一方的に、いたいけな少年を弄ぶいけない行為に喜びを見出そうと思っていたのに。 何だかんだで私自身も肉の悦びを得てしまったか。 こんなシチュエーションで、そのまま達するまで到れるのは珍しいからな。 しかし……、堪能した。 汗と精液と愛液で酷い有り様ながら、何とも言えぬ充実感。 まだ体がぴりぴりいっている。 この満ちたりた虚脱感とも言うべき状態。 大仕事はこれからだと言うのに……。 まあ、いい。 少し休んで、それから……。 直死の魔眼か……。 どうしたものかな。 さっきまでは何もしないつもりであったが。 もし望むなら……。 何だ、少しは情が移ったか。 ある意味何よりの、悪意の発露とも言えるが……。 まあ、どう望むかは、彼自身の考え方だからな。 そんな事より……。 よく考えてみると、今の私が性行為をしたのは初めてではないかな。 最後に交渉を持ったのが確か……ええと……。 ああ、やっぱり。 つまり、志貴に私は処女を捧げた訳だ。 ははは。 何てことだ。 ならば……。 お返しとして、彼の初めてを頂くのが筋と言うものか。 新しい体での初めて。 ああ、いいな。 誰よりも早く、正真正銘の初物を……、それは面白くも魅惑的だ。 ちらりと志貴を見る。 こうしていると今、あんな事をしたようには見えないあどけなさ。 隣りの私が何を考えているのかなど窺い知れないであろう。 私は少しほくそえみつつ、煙草に手を伸ばした。 《END》
――――あとがき 冒頭にも書いておりますが、Moongazerの阿羅本さんが書かれたショタ志貴物語のシリーズを下敷きにさせて頂いております。 要は橙子さんが男の子弄ぶお話ですので、そう御読み頂けば結構なのですが、未読の方はぜひお読み下さい。その手のお話好きな方には致死レベルの素晴らしさですから。 既読でなおかつ、このお話の表版?もお読み頂いた方、いろいろ手を加えたつもりですが、要は同じ話の使いまわしで恐縮です。 書きたかったんです………………、橙子さんで遊べて満足(笑 by しにを(2003/5/20)
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