永 劫 志貴は私を想ってくれている。 ・・・しっとりと、そして、強く。 今は、隣で志貴は眠っている。 彫刻になってしまったかのような、「動き」のない眠り。 そして、その骨ばった身体は志貴を「男」なのだと認識させてくれる。 今は、シーツに隠れて見えないけれど、志貴の胸の中にいると安心する。 大きな傷のある胸の中に・・・。 志貴の胸に顔を埋めれば、鼓動が聞こえてきて、私を心から、ほっとさせてくれる。 そう、いつも、「死」というモノを纏っている志貴の鼓動は、何よりも、まったくの 反対である「生」を連想させてくれる。 ・・・その感覚を愛おしいと想う。 それが今の私の、大切なもの。 私は今まで、８００年という過去と共に生きてきた。 否、過去とずっと戦い続けていた。 それは、過去しか見ていなくて、過去に塗り固められていたのだと思う。 そんな私を志貴は解き放ってくれた。 そう、あの時、「殺」して。 正確に言うならば、志貴は私に未来を見せてくれた。 機械のように、物事を見るのではなく、自分の意志を持った、「生きる者」として。 そう考えながら、愛おしい志貴の髪を撫でる。 少しクセのある漆黒の色をした髪の毛。 それは彫刻のように眠る志貴の雰囲気と混じり合って、どこか 浮世離れしているようにも見える。 志貴の髪の毛を撫でながら、私は思考を巡らせる。 私は志貴の不器用な所が好き。 私も器用だとは言えないけれど、志貴のそういうところが好きだ。 妙な言い方になってしまうけれど、私は志貴がこうじゃないと、こんなに 好きにはならなかったし、愛せなかっただろう。 ・・・そう思う。 床に落ちたシーツで、胸を隠しながら窓辺に立って、少し窓を開ける。 季節はもう冬に近くて、窓を開ければ少しひんやりとした風が頬を撫でる。 かすかなこの風にも、もう少しすれば冬なのだと思わせてくれる。 こんなに季節を巡ることが楽しいなんてね・・・。 空に向けて響かせた言葉。 私みたいな存在に、こんな「幸せ」があるなんて考えたことがなかった。 ただ、「狩る」者としての生活だけだと。 あの日、志貴に殺されたのは、そんな日々だったのかもしれない。 窓を閉めて、ベッドに戻る。 誰かが入っているベッドに入ると温かい。 それがたまらなく嬉しい。 「えへへへ」 つい、にこっとしてしまう。 こんなに近くに感じられて、愛しい人だから。 ねぇ？ 志貴、貴方は幸せ？ いつも聞いているけれど、志貴は毎回、 「アルクェイドは幸せか？」 って逆に聞いてくるから、答えてくれないよね。 でも、解ってる。私が幸せだと、志貴は幸せって思ってくれるんだよね。 よく、二人で幸せも２倍なんて言うけれど、無限にあると思うんだ。 ね？ 志貴。 志貴の手を握ってみる。 温かいし、私の手よりも少しだけごつごつしてる。 ぎゅっと握ると、眠っているはずなのに、志貴の手が握り返してきた。 なにか、口をもごもごさせている。 耳を近づけてみれば、 「アルクェイド・・・」 って私の名前を呟いてる。 「志貴が私の名前を呟いてるなんて嬉しいな」 と志貴の胸に顔を乗せる。 シーツを１枚、隔てていても聞こえる志貴の鼓動。 優しく、そしてゆっくりと、どくん、どくん、と聞こえる。 「ふふ。じゃあ、おやすみ」 そう言って、私は瞳を閉じた。 「アルクェイド、起きろ〜」 私が目を擦りながら目を覚ますと、志貴がエプロンをつけてベッドに腰掛けていた。 「おはよう。志貴」 眠気と戦いながら、体を起こす。 「ほら、朝ごはん作ってるぞ。とは言ってももう１１時だけどな」 ふと見ればコーヒーの湯気が美味しそうに上がっている。 隣には、ハムエッグとトースト。 「ありがとう！」 ぱっと立ち上がってテーブルにつく。 そして朝ごはんを食べる。 志貴が作るものは美味しい。 私も料理は作るけれど、こんなに美味しいって思わない。 前に聞いてみたけれど、志貴にもわからないみたい。 琥珀に聞いたら、 「それは好きな人に作るからですよ」 と笑顔で言われた。 でも、それが嬉しい。 私の作ったものは美味しいのかな・・・。 食べ終わった瞬間、私はふと思いついた。 志貴としたいこと。 「ねぇ、志貴、遊園地に行こう！」 今の時間を大切に、楽しもうと――― そうやって、志貴の腕をとった。 「これから」に向かって・・・。 〜〜〜Ｆｉｎ〜〜〜
あとがき こんばんは。 お久しぶりです。 最近、「冷静と情熱のあいだ」という有名な小説を読んでから、 まったりとした話を書きたくなったので、書いてみました。 久々のＳＳかもしれないです。 もうすぐ１０万ＨＩＴですね。 これからも、頑張ってくださいね。瑞香さん。 では、この辺で。 TAMAKI
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