愛撫の技巧


「ごちそうさま」
 俺はフォークを置き、手を合わせた。
「おいしかったよ、琥珀さん」
 食器を片づけている琥珀さんは、その言葉に表情を崩す。
「イヤですよ志貴さん、おだてても何も出ませんからね〜」
 それでも嬉しそうな琥珀さんの歌声が、厨房かここまで聞こえていた。

「兄さん」
 秋葉は、ワインが軽く入ってご機嫌だ。それでも食後の紅茶を啜りながら、
「兄さん、私には無いのですか?」
 そう、おねだりをしてくる。
「はいはい。秋葉、火照ったその顔が可愛いよ」
 俺がそう言ってやると、更に顔を赤くさせる。
「そんな、可愛いだなんて……って違います!」
 ハッと思い出し、秋葉が俺にくってかかろうとした時、琥珀さんが応接室に戻ってきた。
「秋葉さま、少し飲み過ぎなんですよ〜」
 そう言われて、確かに今日はボトルの半分を空にしていたことを思い出した。つとに最近そのペースは恐ろしい。もう中毒か?そう思える感じだった。

「おっと……琥珀さん、お風呂の後部屋行って良いですか?」
 俺は壁の時計を見ながら、時間を逆算して琥珀さんに告げる。
「はい、もちろん……どうしました?」
 琥珀さんは至って冷静に応えるが、その瞳が僅かに輝きを増しているのを、俺は気付いていた。
「ビデオ、借りてきたんだ。一緒に見ようと思って」






「はあっ! 志貴さん、そこ、凄いです!!」
 琥珀さんは、未知の感覚に信じられないといった具合で体を小刻みに揺らしていた。
「うっ……俺も凄く気持ちいいよ」
 琥珀さんの反応と、その形の珍しさに俺はうめき声を上げる。

「あっ、ああん!」
「ああ!あああ!!」

 二つの女性の声が、琥珀さんの部屋に響き渡る。
 ひとつは、目前で抱かれている琥珀さんから。
 そしてもうひとつは……テレビの中から。

 テレビに映されているのは、男女が一糸纏わぬ姿で絡み合うそれ。
 そしてそれを見る俺達も、ソファーの上で一糸纏わぬ姿で、全く同じようにしていた。

「へぇ、今度はこうするんだ……」
 俺はブラウン管を覗きながら、次なる体勢に移行した。
「ああはぁんっ!」
 ぐるりと体をねじられ、その刺激に琥珀さんが喘ぎ声を上げた。
「志貴さん、激しいっ……ですっ!!」
 琥珀さんは息も絶え絶えで、その次々襲いかかる快楽の大渦に完全に我を失っていた。
「そうさ、そういうヤツを選んだんだからね……」

 俺はふたりが交わるソファーの脇に置かれたそれを見る。
 レンタル用の粗放なレシートには、タイトルが刻まれていた。

「実践で教える、女が悦ぶ体位ベスト10!」

 琥珀さんの性技には流石の俺も叶わない。だから、AVを参考にしてちょくちょくふたりで実験をしていたのだった。
 琥珀さんも、そうすることで自分の知らない何かを開発してもらえると期待しているようだ。
 実際このビデオの男優の真似をしてみると、それは琥珀さんに新たな快感を呼び起こしているようだった。

 繋がったまま膣内を捻るようにして突き上げ深く貫くその体位で、琥珀さんは一気に陥落した。
「あああん……志貴さん、ダメェ……」
 こころここにあらずの表情をした琥珀さんが、立て続けに攻める俺に許しを請う。
「ダーメ。そんなに気持ちいいんだから休んだら勿体ないって」
 まだビデオは半分の体位も紹介していないけど、それだけ強力な布陣がふたりを興奮させていた。

 今度は琥珀さんの両足を大きく広げさせ、上から垂直に俺が琥珀さんの花弁を突き刺す体位になった。
「きゃあっ!あああっ!!」
 じゅっぷ、じゅっぷと、深いストロークに合わせて琥珀さんが緩やかなペースで、しかし激しく声を上げる。あまりに気持ちよいそれで、琥珀さんは完全に落ちていた。
「ダメ、ダメ、ダメエーーーーーーッ!」

 琥珀さんが激しく叫ぶと、膣の収縮が急激にきつくなった。
「来て、来て、志貴さんーーーーー!!」
 琥珀さんが俺の名前を呼ぶ。正直最期まで持たせたかったけど、俺にも限界が近付いていて、それに抗う気力が残っていなかった。
「分かった、行くよ!」
 俺は最大の力で琥珀さんの中に打ち込むと、その最奥でブルリと先端が弾けていた。

 ビュクンビュクン!

 かなり我慢していたそれが、熱き鉄砲となり琥珀さんを満たしていった。
「ああ……」
 琥珀さんはあまりの激しさに失神していた。琥珀さんにしては初めてかも知れないその痴態に、俺は感動を覚えながら最奥に向かって発射し続けていた。



「あーあ、結局全部試せなかったね」
 残り半分は、結局ふたり裸で毛布に肩を寄せ合い、息をのみながらの鑑賞会となっていた。
「これ……期限はいつまでですか?」
 琥珀さんの問いに俺はレシートを軽く覗きこむと、ちょっとにやっとした。
「明々後日まで」
 そう言うと、期待以上の応えに琥珀さんが紅潮して嬉しそうに手を合わせる。
「じゃぁ、また明日残りを試して、明後日は通しで出来たらいいですね〜」
 あっけらかんとそう言うが、俺に対してはきつい提案だったかも知れない。
「うーん、俺が堪えられそうにないかも」
 正直早いほうでは無いと思っているが、男優のそれに叶うわけもなかった。まぁ男優も実は偽挿入と言う可能性もあるから、何とも言えないのではあるが。

「あはっ、志貴さん、それでは射精を遅らせるお薬でも飲みますか?」
 琥珀さんが嫌な提案をしてくる。流石にクスリに頼るのはゴメンだ。色々理由ありで。
「大丈夫、次は何回果てても琥珀さんにつきあってあげるよ」
 服薬を誤魔化す為の言葉だったが、琥珀さんはそれを嬉しそうに聞いていた。
「そんな……何回も注いでもらえるなんて、恐れ多いです……」
 ちょっと恥ずかしそうにそう言う琥珀さんが、なんだか初々しく可愛くて。
「ほら……」
 俺は指で顎をつんと上げさせると、琥珀さんに口づけした。



「じゃぁ。秋葉に見つかったら嫌だから、お願いします」
 部屋を去り際、俺は琥珀さんにビデオを預かるようにお願いした。
「そうですね、秋葉様も含めて3人でも面白いと思うのですけどね〜」
 琥珀さんがそう言うので、俺は苦笑いしてしまう。
「ははっ、そう言う時はそう言うのを借りようよ」
 いつ訪れるとも知れぬその現実を思い、俺は琥珀さんに手を振って部屋を後にした。
 いや実際、翡翠と琥珀さんとで試してみたいかな、とか思いながら

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