直死と未来視(仮題)後編(M晶 シリアス)


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1: 嶺梅 (2001/07/20 06:13:00)[mineume at lycos.ne.jp]

 最終話  「直死の憂鬱、未来視の微笑み」



 「やっぱり説明しなくちゃダメかな。」
 塵と変わり果てた『男』にびっくりする私に、志貴さんはやさしく声をかけてくれた。
 「夢だったってことに、出来ないかな……。」
 その声はどこか哀しい響きが含まれているようで……
 出来ればなんにもなかったことにして、
 お互い笑いあって夢でしたということにして終わりにしたかったけど、そんなことは出来なくて、
 私は意を決してこう、言った。
 「はい。夢には出来ません。
  どうして『男』が塵になってしまったのか、
  どうして志貴さんがこんな行動に出たのか、
  どうして……。」
 逃げるわけにはいかない。
 ここで逃げたら私はだめになる。
 志貴さんにもう、会えなくなる。
 そんな思いが私を突き動かしていた。
 「分かった。じゃあ、ちょっと座ろうか。
  暗いけど、いいよね。」
 志貴さんは蒼い瞳でじっと私を見つめてから、
 はぁっと、ちょっとため息をついて、眼鏡をかけなおした。
 そしてそこらへんに転がっている大きめの石に腰掛けて、長い話を語り始めた。

 「特別な力は、特別な力を引き寄せるって、知ってるかな?」
 出だしはこんな言葉だった。
 私は驚きつつも志貴さんに質問する。
 「特別な力って……たとえば私の『目』みたいなものですか?」
 「ああ。そうだよ。晶ちゃんの目も、そして、俺の『目』もね。」
 初耳だった。
 志貴さんにもそんな『瞳』があったなんて……。
 もう、危険はないと安心していた私はちょっとすねて見せる。
 「もう、志貴さんずるいですよ。私がこの『目』について説明した時そんなこと一言も
  言ってくれなかったじゃないですか。」
 「うん……。ゴメン。」
 でも、そんな冗談は通用しなくて、
 志貴さんの反応を見て、これは真面目な話なんだと私は自分を恥ずかしく思った。
 志貴さんの話は続く。


 志貴さんが子供のころの話。

 数ヶ月前の十月末の話。

 吸血鬼の話。

 「今日の『男』はね。
  あれはたぶん、吸血鬼になれそうでなれなかった憐れな末路なんだ。
  死ねない死体。それが『彼』だよ。」
 「吸血鬼……。」
 信じられなかった。
 だけど何より、志貴さんが言っていることだし、
 そして、自分でも見たことだから……。
 信じることが出来た。
 「普通はこんな早い時間からは活動しないんだけどね、たぶん、俺か晶ちゃんの『力』に
  引きずられたんだろう。」
 「じゃあ、なんで志貴さんは『彼』が『死んでいる』と分かったんですか?
  パッと見ただけじゃおかしいなと思ってもそんなすぐわかることじゃないだろうし……」

 不意に、本当に唐突に、私は理解してしまった。
 そうか……。

 「うん。そうだろうね。
  でも、俺の『瞳』は違うんだ。
  そんなことすぐ分かる。
  だって、俺の『瞳』は……『死』が見えるから……」

 「『死』……ですか……?」

 「ああ。居間で晶ちゃんが襲われた時にね、ちょっとだけ眼鏡をずらしてあいつを『見』たんだ。
  そうしたらすぐ分かったよ。前にも見たことがあるから間違いなかった。
  あいつらは人間とは違う。明らかに違いすぎる。だからさ。
  相手があいつ等なら何とかできる。そして、晶ちゃんにあいつだと聞いて、作戦を思いついた。
  晶ちゃんの未来視に従ってね。そして俺たちはなんとか生き延びることができた。」

 「…………」

 「本当のこと言うと晶ちゃんに見せたくなかった。
  知られたくなかった。 
  吸血鬼のこともそうだし、何より、俺の瞳のことを知って欲しくなかった。
  気味が悪いだろ。
  『死』が見えるなんてさ。
  もう、俺にかかわらないほうがいい。」
 志貴さんは自嘲気味にそう言って話を締めくくった。
 そして、座っていた石におもむろにナイフをつきたてて、
 「こう言う風になるかもしれない……」
 石が真っ二つに割れていた。

 自分にかかわらないほうが良い。
 そんなことを言って。
 そんなこと、そんなこと、認める訳にはいかなかった。
 認めてしまったら私はもっと辛い。
 事実から逃げて、そして志貴さんから逃げ出して……。
 志貴さんはたちあがって屋敷の方へ向かおうとしていた。
 「晶ちゃんももう、帰ったほうが良いよ。
  それじゃあ、元気でね。」
 そう言って志貴さんは闇の中へ足を踏み出していた。
 何かここで言わなくちゃいけない気がして……
 でも、何を言って良いか分からなくて……

 「好きです!!」

 あわわわわ。な、何言ってるんだろう、私。
 志貴さんはびっくりしてこっちを向いている。
 多分私の顔は今、真っ赤になっていることだろう。

 「も、ももももも、もちろん、志貴さんの『瞳』の事です。
  確かに怖いと思ったけど、
  でも、それ以上に
  とても綺麗だと思いました。
  それに志貴さんは私のことを守ってくれました。
  感謝こそすれ、私が志貴さんから離れるなんてことありません!!」
 「晶ちゃん……。
  だけど特別な力は特別な力を呼ぶ。
  俺にかかわると晶ちゃんに不幸が及ぶかもしれない。」
 「も〜。まだ言うんですか、志貴さんは。
  私だって特別な力を持っているんです。
  そんなの関係ないじゃないですか。
  また、私が襲われたときはよろしくお願いしますね。志貴さん。」
 ちょっと照れ隠しな言葉たちだったけど、真意は志貴さんに伝わったと思う。
 だって、
 「……ありがとう、晶ちゃん。」
 本当に、本当に、嬉しそうに志貴さんは微笑んでくれたから……。
 「きゃっ!!」
 突然志貴さんは私を抱きしめて……
 ぎゅっと強く抱きしめてくれた。
 う、嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい……。
 「ありがとう、晶ちゃん……。」
 「こちらこそ。これからもよろしくお願いしますね。志貴さん。」

 私はちょっと緊張気味に志貴さんの背中に手を回した。
 僅かに震えている志貴さんを感じながら……。
 志貴さんの体温を幸せに感じました。
 いつの日か私の体温で志貴さんを幸せに感じさせることが出来ると良いな。
 ちょっと大胆なことを思いながら……。

 えぴろ〜ぐ  「小姑、小姑、また小姑」

 「瀬尾ーーーーーー!!!
  あんた一体なにやってるのよ!!!!!」
 「あ、秋葉……。お前何でこんな所に……」
 「屋敷の中はめちゃくちゃだし、兄さんの姿は見えないしで何処に言ったかと思えば……」
 「あ、秋葉、髪が赤いぞ……」

 「おやおや、志貴さんもやりますねぇ。
  こんな『小娘』を……」
 「こ、琥珀さん……誤解です。」
 「そうですか?幸せそうに抱き合っていたじゃないですか。」

 「…………」
 「ひ、翡翠?」
 「お構いなく。主人の『やる』ことに意見を言わないのが使用人たるわたしの勤めです。」

 「えへへへへ。」
 そんな喧騒に囲まれながら私は微笑んでいました。
 ちょっと来週からの生徒会が怖いけど。
 でも、私は幸せでした。


 これからも続くであろう瀬尾晶と遠野志貴の物語を予想しながら……。




直死の憂鬱、未来視の微笑み(本決まり)  取り合えず終幕。



後書き

ようやくアップすることが出来ました。
いかがでしたでしょうか?

今回のテーマは直死の瞳を持つ志貴君が背負っているつらさを
未来視をもつ晶ちゃんがほんの僅か和らげる話だったんですが……
成功したかどうか分かりません(おい)

晶ちゃんが和らげたのはちょっとだけです。
これからどうなるのかは分かりませんが、あれだけのこと(失礼)
で、志貴君の辛さが解消されるわけないですしね。
と言う話でした。

うお〜最近さっちんに追いつかれつつあるSSの数。
頑張らなくては。

それでは……次回作(あれば)でお会いしましょう。

追伸

感想を下さったぽーさま。
SSお互いに頑張りましょう。


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