Fate / S.S.E Tiger's Dream(M:虎? 傾:タイガー召喚)


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1: 山猫 (2004/04/28 01:56:03)[yamaneko at m8.dion.ne.jp]

 男の腕が動いた。
 今まで一度も見えなかったその動きが。今はスローモーションのように見える。
 走る銀光。
 俺の心臓に吸い込まれるように進む穂先。
 一秒後にはもう一度俺の身体を貫き、そして今度こそ完全に命を奪うだろう。
 ……ふざけてる。
 助けて貰ったのだ。なら、こんなところで簡単には死ねない。
「ふざけるな、俺は――――」
 こんなところで意味もなく、
 おまえみたいなやつに、
 殺されてたまるものか――――!!!

 ――刹那。
 光が、辺りを塗りつぶし。
 風が、舞った。

「え――――?」
 それは、本当に。
「なに……!?」
 魔法のように現れた。
 目映い光の中、それは、俺に背後から現れた。
 思考が停止している。
 現れたそれが、少女の姿をしている事しか判らない。
 ぎいいいいん、という音。
 それは現れるなり、俺の胸を貫こうとした槍を打ち弾き、躊躇う事無く男へと踏み込んだ。
「―――く、サーヴァントか!」
 弾かれた槍を構える男と、手にした剣らしきものを一閃する少女。
 二度火花が散った。
 剛剣一閃。
 現れた少女の一撃を受けて、たたらを踏む槍の男。
「く―――!」
 不利と悟ったのか、男は獣のような俊敏さで土蔵の外へと飛び出し―――
 退避する男を身体で威嚇しながら、それは静かに、こちらへ振り返った。
 風の強い日だ。
 雲が流れ、僅かな時間だけ月が出ていた。
 土蔵に差し込む銀色の月光が、青い服の少女を照らす。
「……」
 声が出ない。
 今起こっている事態が信じられない。
 ひょっとして、俺はあの槍に貫かれ、死ぬ直前の夢の中にいるのではないかとすら思う。
 その位目の前にいる少女は、俺の理性を破壊した。
 だって――、だって彼女は。
「……。」
 少女は何の感情も無く俺を見据えた後、凛とした声で言った。
「―――問おう。貴方が、私のマスターか。」
 背筋が凍るかと思った。
 その声は紛れもなく、彼女の声。
 ありえない。
 見れば判る。少女は外の男と同じ存在だ。
 だが姿も声も、紛れもなく彼女。
 だから俺は……。
「藤……ねえ?」
 そう、呼びかけた。
「え――――?」
 少女は目を大きく見開いて、俺を見つめる。
 当惑。
 疑念。
 思索。
 いくつもの表情が交錯し、そしてようやく理解に至った彼女は、
「え、し、士郎?」
 驚愕の表情を浮かべて、そう言った。


Fate / Servant System Error

“Tiger's Dream”

 2/2:運命の夜


 話は数時間前に遡る。
 ちょっとした用事で遅くまで学校に残っていた俺は、そこで二人の騎士の戦いを目の当たりにした。
 一人は赤、一人は青。
 二人の騎士の間まう剣風はすさまじく、巻き込まれれば死は免れまい。
 しかしその剣戟は美しく、目を奪った。
「誰だ!」
 結局俺は、片方の騎士に見つかり、追い詰められ、槍で心臓を貫かれて死んだ。
 ……筈だった。
 気がつくと、誰もいない廊下に倒れていた。
 目に付いたのは、一面に広がる大量の赤い液体と、赤いペンダント。
 そして服の胸元にはぽっかりあいた穴。
 俺は朦朧とした意識のまま、辺りを片付け、ペンダントをポケットにしまって学校を後にした。
 しかし、悪い夢のような出来事はまだ終わりではなかった。
 家に辿り着いた俺は、再度あの騎士に襲われたのだ。
 数回の攻撃を何とか凌いだが、最終的に俺は土蔵へと追い詰められた。
 そして、槍が俺の心臓を貫こうとした瞬間。
 辺りを光が包み
 そこには藤ねえが立っていた。
 

「やっぱ藤ねえ、なのか?」
 なんでさ。
 訳がわからない。
 確か藤ねえは今年で25、現在24。穂群原学園の英語教師かつ俺のクラスの担任であるはずだ。
 だが目の前にいるのは……その藤ねえではなかった。
「……。」
 問題点その一、背が低い。
 藤ねえは確か身長165cmだった筈だが、目の前の藤ねえの身長は150cm半ばと言ったところだ。
 問題点その二、髪型が違う。
 大学のときに髪を切ってショートにしてから、ずっと同じ髪型の筈なのだが、目の前の藤ねえはポニーテールにまとめている。
 そして問題点その三。これが重大なのだが……服が違う。
 トレードマークの虎縞シャツではなく、制服。それも、セーラー服。
 普段の藤ねえが来ていたら犯罪物である。
 だが、それでも俺は少女が藤ねえである事を確信していた。
 なぜなら今の姿は
 俺が初めて出会った時の藤ねえの姿だったからだ――。
「つっ!」
 左手に痛みが走った。
 見ると、手の甲になにやら文様が浮かび上がってきていた。
「な、なんだこれ?」
 強い魔力を感じる。
 何かの契約の証――?
「――士郎がわたしのマスター……か。」
「え?マスター?」
「そっかそっか。……うん。それじゃ、とりあえず外の敵を追っ払ってくるね。」
「え?ちょ、ちょっと待てよ藤ねえ。」
 追っ払うって……あいつをか?
 確かに藤ねえは強いけど、あんな人間離れしたやつに敵う筈が無い。
 それに第一、手に持ってる武器は……『虎竹刀』じゃないか!
「無茶だ!いくら藤ねえだって――。」
「違うよ、士郎。」
「え?」
「わたしは藤ねえ、藤村大河じゃない。今のわたしは、聖杯戦争に呼び出されたライダーのサーヴァント――英霊タイガ。」
 それだけ言って、藤ねえは土蔵の外へ飛び出していった。
「待――。」
 止める間もない。
 体の痛みも忘れ、立ち上がって藤ねえの後を追う。
 聖杯戦争?ライダー?サーヴァント?英霊?
 訳がわからない。
 だが、藤ねえをあの男と戦わせるわけにはいかない。
「やめ――――!」
 ろ、と叫ぼうとした声は、ギィンという何かがぶつかり合う音で封じられた。
「な――――」
 我が目を疑う。
 今度こそ何も考えられなくなるくらい頭の中が空っぽになった。
「なんだ、あれ……。」
 響く剣戟。
 月は雲に隠れ、庭は元の闇。
 その中で、二人の間に火花が飛び散る。
 土蔵から飛び出た藤ねえに、男が襲い掛かる。
 繰り出される真紅の槍を、虎竹刀で払いのけると、そのまま踏み込んで袈裟切りに竹刀を打ち込んだ。
 ギンッ!
 それを男は槍で防ぐ。
 払い、薙ぎ、突き、受ける。
 突き、受け、かわし、斬る。
 戦いは互角。否、藤ねえが優勢。
 剣戟が交わされるたびに、男は次第に後退を余儀なくされている。
 ――何てことだ。
 さっき藤ねえが言った事がようやく理解できた。
 目の前で虎竹刀を振るう藤ねえ。
 あれは、確かに藤ねえなどではない。
 ギン、ギィン!
 刃が交わされる度に火花が飛び散る。
 火花?――そう、火花。
 竹で出来た竹刀が火花を散らす筈は無い。
 ならば、あの竹刀は見た目どおりの武器ではなく、強力な魔力の込められた、マジックアイテムの類なのだろう。
「く――!」
 男は後退しつつ、藤ねえを突き放そうと槍を繰り出す。
 俺を追い詰めたその槍を
「――」
 ギ……キイィィイン
 藤ねえは男の手から弾き飛ばした。
「ふ―――っ!!」
 とどめ、と藤ねえが、大きく踏み込み、相手の脳天目掛けて渾身の一撃を振り下ろす―――!

 終わった
 そう思った時。
「――――――――。」
 男の唇が動いた、ように見えた。
 ギィイィイイイイイン……
 確実に相手をしとめたはずの一撃は
 何時の間にか男の手に現れた真紅の槍に、阻まれた。

「……。」
「……。」
 藤ねえの一撃で離れた間合いのまま、二人は無言でにらみ合っていた。
「……。」
 なすすべなく見ていた俺もまた、無言で二人を見つめていた。
 藤ねえは言った。
 自分は藤村大河ではなく、英霊タイガなのだと。
 ああ、確かに。
 目の前で起きているそれは。
 人知の及ばない、遥か神話の戦いの再現のようだった。
「――貴様、何者だ?その武器その姿。真っ当な英霊とは思えん。」
「さあ、何かしらねー。とりあえず剣を使ってるんだから、セイバーかもよ?」
「ありえんな。」
「ふーん。即答するって事は、もうセイバーに会ったのかしら?」
「……。」
「ふふん。で、そう言うあなたはランサー……のつもりなのかな?」
「……どういう意味だ?」
「別に。ただわたしは、あなたがランサーじゃありえないって事を知ってるだけ。あなたに適任なのは、……アーチャーってとこかしらねぇ?」
「!!」
 アーチャー……弓兵だって?
 弓なんて持ってないのに、どうして藤ねえはそんなことを言うんだろう。
 まさか……あいつの事を知っているのか?
「私が誰か、知っていると言うのか。」
「うん、知ってるよー。あなたはわたしのこと分からないみたいだけどね。よっく思い出してみたら?ひょっとしたら生前の知り合いかもしれないし。」
「……ふん。」
 男は鼻を鳴らし、一度目を閉じた。
 次の瞬間。
 ぶんっ!!
 男の槍が俺の眼前にまで迫っていた。
「な!?」
「士郎!!」
 ガキィン
 慌てて藤ねえが槍を叩き落す。
「大丈夫!?士郎。」
「あ、ああ。大丈夫だ。それより……。」
 視線を戻した先に、男の姿は無かった。
 引いたのか、あいつは。
 助かった、そう思うと
「ふう。」
 思わずため息が漏れた。
「ほんとに大丈夫?士郎。」
「ああ。大した怪我はしてないよ。」
「でも、その血……。」
 藤ねえの視線は、服に空いたあなと、べっとりとついた血に向けられていた。
「ああ、これは今のじゃない。どうも一度死にかけたらしいんだけど、誰かが助けてくれたみたいだ。」
「誰かが?」
「ああ。ってそれよりも!」
 和んでいる場合ではない。
 今すぐにでも聞かなければならない事柄があるはずだ。
「? なあに?士郎。」
「なあにって……。藤ねえは一体何者なんだよ!聖杯戦争とか、サーヴァントとか、一体何の事なんだ?」
「え。」
 藤ねえは呆然とした顔で俺を見つめた。
「士郎……ひょっとして何も知らないでわたしのこと呼び出したの?」
「呼び出すっていうか……そもそも呼んだ覚えも何も無いんだけど。」
 俺は今までの出来事を説明した。
「むー……。」
 藤ねえは頭を抱えてしまった。
「一体何なんだ?さっきの槍男といい藤ねえといい……。一体何が起こってるんだ?」
「それは――。」
「戦争よ。」
 声が響いた。
 俺でも、藤ねえでもない第三者の声。
「誰だ!?」
 誰何の声をあげる。
 藤ねえは既に虎竹刀を構え、声のした方、屋敷の入り口の方を睨んでいた。
 そこには二人の人影。
 一人は、校庭で見かけた騎士。
 そしてもう一人は――
「戦争が始まったのよ。……そして貴方はそれに巻き込まれてしまった。」
 もう一度響く声。
 聞き覚えのある声。その声を発した主は間違いなく――
「遠――坂。」
 学校のアイドルであり、俺のほのかな憧れの対象であった、遠坂凛、その人だった。

つづく

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ステータス情報が更新されました。

クラス:ライダー
マスター:衛宮士朗
真名:タイガ
性別:女
身長・体重:156cm・45kg
属性:中立・中庸
詳細
藤村大河が英霊となったもの。詳細不明。

武器
虎竹刀
虎のストラップのついたタイガ愛用の竹刀。詳細不明。


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