聖杯戦争 もう一杯 まる31以降


メッセージ一覧

1: 微妙 (2004/04/26 18:11:40)[sevenstar_2 at hotmail.com]


もうすぐ士郎の家に着く
そうしたら今日はゆっくり休んで明日はバーサーカーを連れ戻そう
バーサーカーとアーチャーが仲良くなってくれれば、きっと楽しい
楽しい未来を想像して道を歩く

「・・・?」

その時、ちょっとした違和感があった

「凛・・・」

アーチャーが深刻そうな顔をしている
それで気付いた、流れていた魔力の量が減っている

「・・・まさか」

バーサーカーへ流れていくはずの魔力が一切流れていない
つまりは

「バーサーカー・・・!」

霊脈が途絶えている

霊脈を辿る事は当然出来ない
探すのなら自分の足と、アーチャーの目が頼りだ
走るしかない

「遠坂?」

「リン、どこへ?」

霊脈が途絶えたという事は、契約が切れたか、最悪消えたのか

「契約が切れたってのに期待したい所ね・・・」












聖杯戦争 もう一杯 まる31










アーチャーの目が最大限に生かせる場所を探している途中

「バーサーカー!」

偶然か、それでなければバーサーカーも私達を探していたのか
一日ぶりに見たバーサーカーは、少し雰囲気が違っていた
マントを羽織っているのもそうだけど

「・・・・」

いつもならバーサーカーって呼ぶのを止めてくれって言うのに
今日のバーサーカーは答えない、冷たい目をして私を見ているだけだ

「凛、下がっていろ」

「アーチャー・・」

アーチャーが私を庇う様に進み出て、バーサーカーと対峙する

「・・・・そっか、アーチャーさんと契約しちゃったんだ」

バーサーカーが初めて口を開いた
その声はいつもと違って温かみのない、凄く冷たい声
私はその声に負けないように腹に力を入れて答える

「サーヴァントの二人くらい軽く扱って見せるわよ
 そんな事より、さっさと戻ってきなさいバーサーカー」

「駄目だよマスター
 私もう別の人のサーヴァントだし、礼呪を酷い事に使われたら最悪だもん」

「・・・・」

「それにしても契約しちゃったんだマスター
 私マスターと戦うの嫌だったんだけど、そんな事されたら戦うしかないよね」

「!?」

突然バーサーカーが視界から消え

「っつ・・!」

何かが激しくぶつかる音
横を向くと、バーサーカーの爪をアーチャーが二対の剣で防いでいる姿が目に入った

「この・・私の邪魔ばっかりして・・・!」

バーサーカーが今まで見たことも無いほど怖い顔をしてアーチャーを睨んでいる

「・・・バーサーカー・・?」

「凛!下がれ!」


私は一歩後ろに下がる
アーチャーの怒声に押されてでもなく
自分の意思で下がったわけでもない、足が勝手に後ろへ下がった

何となく気付いた
目の前のバーサーカーは友人としてでもなく、サーヴァントしてでもなく、死徒として私達に対峙している
足が勝手に後ろに向かったのは、私が怖いと感じているからだ









相手は強力だが倒せる

私の下した判断はそれだ
固有結界を張る隙さえ与えなければ、投影した宝具で難なく殺す事が出来るだろう
凛に気遣う必要は無い
サーヴァント同士は殺しあうのが当然だからだ

だが

「まるで子供だな・・・!」

バーサーカーは単に腕を振り回しているだけ、なんの技術もなく腕を振り回しているだけだ
派手さは無いが、一撃でも貰えば人の体なんて簡単に吹き飛んでしまう
防ぐ事を止めれば他人事ではない

「・・・!」

「・・っ」

離れる事が出来れば弓で狙い撃ちできるが

「―――!」

「・・・!」

どうにもバーサーカーは距離を置くつもりは無いらしい
一瞬の間すらなく延々と攻撃を繰り出している

何となく距離を置くのは不味いと感じているのか、それともこのまま押し切れると思っているのか









成す術もなく二人の戦いを見る

(バーサーカーあんなに強かったの・・!?)

バーサーカーが攻め、アーチャーが防ぐ
斧剣が重すぎたのか、バーサーカーは斧剣を使っている時とは比較にならない速さで攻撃を繰り出している

アーチャーには防ぐ以外の行動は許されない
バーサーカーの一撃はランサーほど鋭くも無いし、セイバーの様に魔力が注がれている訳でもない
それでも人間一人殺すには十分な威力


だがアーチャーの勝ちは決まっている


バーサーカーだって永遠にあの攻撃を続ける事は出来ない、アーチャーは防ぎきるだろう
それにアーチャーはバーサーカーの固有結界を知っている
アーチャーなら知っているからには固有結界を出させる愚は犯さない、決め手を無くしたバーサーカーの負けは当然の結果だ

(だと言うのにバーサーカーを奪った相手は姿を現さない・・・!)

マスターはサーヴァントの援護をする
バーサーカーの様に応用の効かないサーヴァントであれば手段を講じて突破口を開くのもマスターの仕事の筈だ
負けが見えた勝負だと言うのに、何故バーサーカーのマスターは姿を見せない

 
「な、なんで二人が戦ってるんだよ・・!?」

「リン!どうなっているのですか!?」

何時の間にか二人も追いついたらしい

「・・バーサーカーがどっかのマスターに奪われたの、攻撃してきたからアーチャーが応戦中」

「・・・!」

二人が絶句している
そりゃそうか、私だって卒倒しそうだもの

「悪いけど、バーサーカーを取り返すのに少し手を貸してくれる?」

「ああ・・どうすればいい?」

「アーチャーの時に使った短刀を投影して
 後は私とアーチャーで何とかする」

「リン、アーチャーには短刀を使う余裕はない。その役目は私がするべきだ」
 
セイバーが不満そうに口を出す
確かにアーチャーは確実に勝てるだろうけど、手加減をしてやれるほど余裕が有るわけでもない

「だけど、これは明らかに私の不始末じゃない・・」

「ったく、なんだってそんな事気にするんだよ・・!
 セイバー、今からサーヴァントの契約を断てる短刀を作るからそれでさっちんを頼む」

「わかりました」






「これはピンチかな?バーサーカー、もう戻っていいよ」






「!?」

誰かの声が響いた

同時にバーサーカーは大きく後ろに飛んでアーチャーと距離を取る
アーチャーは追撃する様子を見せない、声を警戒しているんだろう

「君の実力は良く分かった
 あの固有結界を持っていて、それだけの力があれば十分だ」

「はい」

暗い道に、金髪の髪をした少年が姿を現す。目の色は紅い
こいつが私のバーサーカーを奪った奴か

「こんばんわ、皆さん。自己紹介が必要かな?」

軽い調子で話しかけてくる
セイバーとアーチャーが身構えるのが視界に写る

「バーサーカーを返しなさい・・!」

私の言葉に、ソイツはさも愉快そうに笑いながら答えた

「はは、今更それは無いだろう元マスター
 君はそっちのサーヴァントの方が欲しくてバーサーカーを放って置いたんだろ?」

「違う!私は―――」

「それにしてもバーサーカーも大変だね、元マスターの君と戦うのは嫌だなんて健気に言っていたけど
 そのマスターが戦う理由を持ってきてしまうなんてね


私の言葉を遮って、楽しそうに言う

「まるで道化だよ、折角バーサーカーを失って戦う理由がなくなったのに
 今度は別のサーヴァントを持ってくるなんて浮気性もいい所だ
 可哀そうなバーサーカー、これじゃバーサーカーは君まで殺さないといけなくなっちゃったよ」

今なんて言ったの?
バーサーカーに私を殺させるですって
冗談にしたって性質が悪すぎる

「えーと、なんだっけ・・・・そうそう自己紹介だ
 僕の名前はメレム・ソロモン
 27祖の20位で埋葬機関の第五位でもある、よろしくね」

「27祖・・・!」

おかしいわよ、なんで一生に一度もお目にかかれないような化け物に最近ポンポン会うのか

「バーサーカー、ちょっと不利みたいだし逃げようか」

「・・・・」

そう言ってメレムは軽い跳躍で家を飛び越えて路地から姿を消す
バーサーカーは最後にこちらを一瞥した後、無言で付いて行った

「士郎とセイバーはここで待ってて
 ああ、その短刀だけは貰ってくけど」

「リン」

セイバーは私を戒めるような目で見てくる

「私の責任だもの、きっちり後始末位してくるわよ
 アーチャー、行ける?」

「27祖とバーサーカーを纏めて相手するなんて無理だと思うがね」

肩をすくめて答えるアーチャー

「さっさとバーサーカーをこっちに引き込んで
 それからあの27祖を倒せばいいでしょ」

「君は簡単に無茶を言うな」

口で文句を言いながらも私に従ってくれるようだ

「悪いわね
 いきなり死にそうな戦いだけど、頑張ってもらうわ」










きつい自己嫌悪がある
マスターもアーチャーさんと契約していたけど
私も人の事を言える様な立場じゃない、あそこまでメレム・ソロモンに接近されて気付かなかったのは私の落ち度だ
挙句にマスターの腕を落とそうとした

(結構最低かも、私)

遠野君に会う、それだけの為にここに居て
だけど一人で居るのは寂しくて
アーチャーさんばっかりのマスターが嫌になって

(結局一番悪いのは私かな)

気分が沈む、こんな事ならもっと早く遠野君に会えば良かった
マスターとちゃんと話しておけばこんな事にはならなかったのに

マスター達から逃げるべく、屋根を伝って走る
少し前を走るのはメレム・ソロモン、私の新しいマスター

「バーサーカー」

そのメレム・ソロモンがニヤニヤと笑いながら切り出してきた

「・・・」

「君は僕の事、嫌いだろ?」

頭に来たので答えてやる

「大嫌い」

「ははは、そりゃそうだよね」

何が可笑しいのか、私の言葉を聞いて楽しそうに言う

「そんな怖い顔しないでくれないかな?
 怖くて近くに寄れないよ」

「・・・・」

無理を言うな
自分のマスターがコイツだと思うだけで吐き気がするんだから

「君は正直者だね
 隙があったら殺してやるって顔してる」
 
「・・・」



「当然でしょう、貴方に好意を抱く人なんて見たことがありません」



聞き覚えの有る声がした
学校の先輩、私を追いかけ回した代行者
立ち止って声のした方向を見る

「シエル先輩・・!」

「お久しぶりです弓塚さん
 マントなんて着ちゃってそれらしくなったじゃないですか」

にっこり笑って言う、昔のまんまの笑顔だ
気分が悪くなる

「シエル、遅かったじゃないか」

「突然呼びつけて、よく言いますね」

「そんなに怒らなくてもいいだろ?
 それより僕等を追いかけている二人の足止めをお願いするね」

「解ってますよ」

足止め?私達を追いかけてる二人?

「ああ、君の元マスターが未練たらしく追いかけてるんだ
 君はこれから忙しくなるから、シエルに時間を稼いでもらう」

追いかけてきてるんだ、殺すためか
それともメレム・ソロモンを倒して私を解放してくれるのか

「正直、弓塚さんが他の英霊達に敵うとは思えませんけどね?」

「シエル、それは偏見だよ
 彼女はこう見えて強い、力の使い方が解っていなかっただけだ」

「どうでもいいですね
 それでは私はちょっと行って来ます」

どうでもいい物を見る目で私を見て、シエル先輩が屋根の上を走って行く
シエル先輩だけは一生かかっても仲良くなれる気がしない

「さてバーサーカー、早速だけど一仕事やって貰らうね」

「・・・・」

ああ、シエル先輩だけじゃなくて、この人とも仲良くなれないだろう
どちらとも仲良くなりたいとも思わないし

それにしても今日は最低の日だ
最悪なマスターに当たるし、シエル先輩なんか再会したし
これ以上の最低が有るって言うなら見てみたい位


2: 微妙 (2004/04/27 23:37:46)[sevenstar_2 at hotmail.com]

(32)



「どうも、こんばんわ」

「・・・・」

目の前の女は気軽に話しかけてきた
カソックに身を包み手にはそれぞれ三本の黒鍵

「いきなりですけど
 これ以上あの二人を追い回されると困るので邪魔させてもらいますね」

聞き覚えの有る声だ、確か私に聖杯戦争が始まると告げた声

「シエルさんだったかしら
 監督役がどうして私達の邪魔をするなんてどういうつもり?」

「監督役が邪魔してはいけないなんて誰が決めたんでしょうね」

あっさりと言い放つシエル

ムカつく、第一印象はそれだけ
この忙しい時にこんな相手に構ってられない
バーサーカーを見失うなんて間抜けな事をしたら士郎とセイバーの良い笑いものだ

「アーチャー、ソイツを捻じ伏せて」

「分かった」

アーチャーが実体化して、シエルに詰め寄るが
シエルはあっさり引き下がる

「・・・・?」

シエルは電信柱の上に着地してこちらを見ている

「戦うつもりは無いのか?」

「英霊相手に真正面から戦うなんて怖くて出来ませんよ
 私がするのは足止めであって、貴方達を倒す事じゃありません」

「手も足も出ないんじゃ足止めなんて無理でしょう?」

「ちょっと過小評価されてる気もしますが
 まぁ、私は仕事をキッチリこなせばそれでいいんです――よ!」

手に持っていた黒鍵を私に向かって投擲するが

「っち!」

アーチャーが短刀を投げてそれを阻む

「マスターの貴方に狙いを絞れば、釘付けにする位出来るでしょう?」

第二印象は、すごくムカつく
私って教会の連中と相性悪いのね










  聖杯戦争 もう一杯 まる32











「一仕事?」

「何、ちょっとこれから言う場所に居るサーヴァントを倒してきてくれればいいんだ」

簡単に言ってくれる
サーヴァントに勝つってのは簡単じゃないのに

「はは、大丈夫だよ
 君と面識の有るサーヴァントだし、油断している所を後ろからばっさり行けばいいさ」

「・・・」

最低、私に知り合いを後ろから殺せって言ってるんだ

(この場でコイツを殺してやろうか?)

礼呪を使わせる間もなく頭を吹き飛ばせば平気かもしれない
こうして見ればまるで隙だらけだ、
まともに戦えば負けるのは道理だが不意打ちなら勝てるかもしれない

「どうでもいいけどバーサーカーって考えてる事が顔に出やすいよ?
 まぁ、そんなに殺したければいいさ
 君が一撃で僕を殺せれば君は自由だけど、外せば礼呪が三つ有るって事を忘れないでね」

「・・・」

「大丈夫、どの道最後まで勝ち残ればちゃーんと自由になれるんだからさ」

私が悩んでるのを見て楽しんでいるように見える
どうにかしてやりたいけど、メレム・ソロモンは27祖である上に礼呪まで持っている
27祖の強さは身に染みて解っているし、まともに戦うのは自殺と同じだ

(結局勝ち残るか、他の誰かがこのマスターを殺してくれるか待つしかないか)

どちらにしても生き残る可能性が極端に低いけど
ここで逆らって死ぬよりは生き残れる可能性が有るだろう

「納得いったかな?」

「納得は出来ないけど理解はしました」

「頭も悪くない、やっぱり君を選んでよかった」

この台詞を遠野君辺りに言われたら嬉しさのあまり踊りだしそうだが
メレム・ソロモンに言われても、胸がムカムカしてくるだけだ

「それじゃ、これから君が倒してくる相手の場所を教えるね」











前に進もうとすれば黒鍵が飛び、こちらから攻めれば逃げながら黒鍵を私に放つ
シエルは足止めと言う目的を確実に果たしている

「本当に代行者ってのはロクな人種が居ないのね・・」

「同感だ」

アーチャーも敵の煮え切らない態度に少しイラついている

「職務に忠実だって言って下さい」

シエルは相変わらずこちらに近寄っては来ない
距離を置いて牽制するだけだ

「大体なんで私達の邪魔をする訳?邪魔する理由はないでしょう」

「彼が勝ち残ったら聖杯を使うのは私ですから」

「・・・はぁ?」

「メレム・ソロモンは聖杯を手に入れば、それだけで良いんです
 聖杯を使うのは私なんですよ」

訳が分からない事を言う
折角聖杯を手に入れて、他人に使わせるなんて意味が解んない

「ぶっちゃけますと彼ちょっとした秘宝コレクターなんですね
 別に聖杯を使ってかなえたい願いなんて無いんでしょう、ただ単に欲しがってるだけです」

「頭おかしいんじゃないの?」

「きっとそうですね」

嫌味を込めて言ってやったが、シエルは肩をすくめて同意してくる

「まぁ、私はメレムが正気かどうかなんてどうでもいいんです
 要は私が聖杯を使えればいいんですから」

「・・・」

ったく、どいつもこいつも
聖杯の中身がなんだか知らないで聖杯戦争に参加するから性質が悪いのよ
アンリ・マユに汚染された聖杯で一体どんな願いを叶えるのか聞いてみたいもんね

「ああ、そう言えば私もちょっと疑問があったんですが
 聞いてもいいですか?」

シエルは散々邪魔をしておいて、学校の友達に話しかけるように言ってくる
なんとも不遜な態度だと思う

「貴方はなんでバーサーカーに拘るんですか?
 サーヴァントとマスターが一組になるまで殺しあうのに
 聖杯を求めるのに二人のサーヴァントを抱えていいことなんて無いでしょうに」

「私は聖杯を必要だと思っていないもの
 私がこの戦いに参加したのは―――」

・・・・・何でかしら?

今回は勝つために参加したわけでもない
士郎の真似をしたいと思ったなんて有り得ないし
かと言って士郎が首を突っ込むのを見てられないってのは弱い気がする
答えは――

「考え無しで参加したって言うのなら、メレムより酷いですよ?」

解ってるわよ
答えは出たけど、何となく認めるのが悔しい
前回聖杯戦争の時みたいに皆でいれたらいいと思ってたなんて
一人の魔術師として、こんなみっともない理由言えるわけも無い

「この地を管理する魔術師として放って置く訳に行かなかった、ってのはどうかしら?」

とりあえずそれっぽい意見を出しておく
これなら文句を付けようが無いでしょう

「成る程、それなら聖杯目当てじゃないともいえますね
 ま、バーサーカーに拘る理由にはなりませんけど」

「折角答えてやったのに随分な言い草ね?」

「バーサーカーに拘る理由は気にしないでおきますね
 私もそろそろお暇したいですから
 もう大分距離が開いています、二人を追うことなんて出来ないでしょう」

「・・・」

言うだけ言って、シエルはさっさと帰っていく
まんまと足止めさせられた訳か

「どの道あの代行者が居るとなれば私と凛だけでは対処できない、セイバーに手伝ってもらうべきだ」

「そうね」

あの代行者は有能だけど大馬鹿だ
バーサーカーに拘る理由なんて考えるまでも無い

「私が数少ない友達を見捨てるわけないじゃない」

また魔術師としてはみっともない理由だ
アーチャーの馬鹿が聞いてない事を祈ろう









「・・・・」

教えられた場所は私がいつか来ようとしていた所だった
高級そうなホテル、私のお小遣いじゃ絶対泊まれないだろう
遠野君が泊まっている場所だ

メレム・ソロモンは居ない
ここのマスター、真祖のお姫様とは顔を合わせ辛いらしい
一人だし逃げるって言うのも悪くないけど、
多分、一日経って帰ってこなければ礼呪で呼び戻されてお終いだろう

「こんな時に顔を合わせないといけないなんて、ね」

気分が沈む
折角、遠野君に会える時代に出て来れたのに敵になって再会か

「どうしてこんな事になっちゃったんだろ・・」

ここに来る途中に何度となく考えた事
結論は、自業自得

ため息がこぼれる

ランサーさんを殺す、それが私に与えられた「一仕事」だ
ランサーさんの性格悪ければ少しは気持ちも晴れただろうけど

「なんか悪い人じゃないんだよね」

ここで悩んでいても意味がない
私は生き残るために他人を殺す
割り切ってしまおう、どうせサーヴァントは死んだって帰るだけなんだ

「私のチャンスなんてこれから巡ってくるかどうかも判らないんだから」

頭では解っている
このチャンスを逃せば私はきっと後悔する

「解ってるならさっさと行けば良いのに」

中々踏み出してくれない足を無理矢理進める

まだマスターと仲直りもしてないし
お父さんとお母さんにも挨拶してない

なにより、遠野君と会っていない



私はまだ英霊の座に戻る訳に行かない


記事一覧へ戻る(I)