Fate/Red-rock M:凛 傾:桜トゥルー後 ややシリアス


メッセージ一覧

1: 蒔身-王 (2004/04/24 21:12:27)[ymhkx211 at ybb.ne.jp]

『エピローグにしてプロローグ』

―――ここで・・・俺は死ぬのか
男が倒れている。若い男だ。
だが、男の命の炎は今、消えうせようとしていた。
―――済まない父さん・・・約束、破った・・・
父に誓った・・・生きると。だが、男は、首の骨を折られていた。
目はもう見えない。朦朧とした意識の中、聞こえるのはかすかな波の音と、自分を呼ぶ声・・・
「―――君!!―――君!!」
―――結局、名前じゃよんでくれなかったな・・・
自分の名を呼ぶ想いの人の名も、口にすることはできない。
―――俺は・・・
過去の記憶・・・特に、ここ半年の記憶が鮮明に蘇ってくる。
思い返されるのは、想いの人、共に暮らした男、仇を執ると誓った仲間達。
そして・・・憎くかった、決して許せなかった・・・だが、頼れた男・・・背中を任せられた男。
―――あいつに・・・   は任せたくない・・・
想いの人があいつに惹かれていることには気付いていた。
―――だから・・・嫌だ
自分が、自分が守ってやる必要性など無いことも、知っているが・・・
―――俺は・・・    を
彼の体は、だんだん風化を始めていた・・・

意識が沈む・・・深く暗く、二度と這い上がれる闇へ・・・
彼はその感覚を覚えていた。既に一度は死んだ身だ。
それに、彼は幾人もの敵を、その闇の中へ投げ込んできた。
だから、次は自分の番なのだと・・・そう、割り切りたかった。
だが、不幸なことに彼は、自分がそう割り切れないこともわかっていた。

―――このまま消え去るのは・・・絶対に・・・嫌だ・・・

と、そこに、聞こえない声が聞こえた。

「ならば、守護者にならないか?」

と。

          Fate/Red Rock

2: 蒔身-王 (2004/04/24 21:13:28)[ymhkx211 at ybb.ne.jp]

『1』
「聖杯・・・戦争?」
洋館の一室で、黒髪の女性・・・遠坂凛は聞き返した。
忘れられない・・・が、自分は二度と関わらないだろう単語を耳にしたからだ。
「そうです。ミストオサカ」
聞き返した彼女にそう言ったのは、ルヴィアゼリッタ・エーデルハイト・・・彼女のライバルと自他共に認める女だ。
学生だが、このやけに広い洋館の所持者でもある。
「貴方は知っているでしょう、その存在は」
「まぁ・・・ね」
知っているなんてモノじゃないんだが・・・と、詳しい話は危険なのでやめておく。
「・・・で、それがどうしたの?」
できるだけ平静を装いながら、ルヴィアゼリッタに問い返す。
「なんでも、英雄の霊を受肉させて、戦うって話じゃない」
ルヴィアゼリッタは紅茶に砂糖を入れる・・・甘く無いのかと凛は思ったが、それは彼女が甘党なのだろう。
「それで・・・何なのよ?私忙しいんだけど」
事はルヴィアゼリッタから、「話がある」と言われたことにある。
「用件は簡単よ。アナタはそれに強制さんかさせられるんらしいわよ」
「・・・・っ!」 
手に取った紅茶が、震える手で床にこぼれた。
「ちょっと、こぼさないでいただきます?」
ルヴィアゼリッタが文句を言うが、そんなことは聞こえない。
「ちょちょちょちょっと・・・どういうことよ!」
完全に焦っている。
「いや、私は知らないわよ、ただ、私はそのことを伝えるから、トオサカをここに連れて来いって言われただけだし」
「・・・誰に」
と、そこで扉が開く音がした。
「私だ」
そこに現れたのは、凛よりも歳で10ほど違うと思われる外見の女だった。
「ごきげんよう、遠坂凛。貴方と会ったことは初めてじゃないけど、覚えているかな?」
男装の麗人・・・という表現がピッタリの女性で、妹の同居人のライダーほどではないものの、かなりの美人の部類に入るだろう。
それが、その女への凛の評価だった・・・しかし、初めてではない?
「いえ、私は会ったことは無いと思いますが・・・」
「まぁ、覚えていないのも無理はないかもしれないね・・・何せ、私が貴方に会ったのはもう10年も前だし、
 覚えているとしても、貴方は私のことを遠目から見た程度でしょうから」
少し考える・・・と、そして結論を出す。
「貴方、綺礼の知り合い?」
こういった人物が訪れる場所は冬木には教会しかない。確かに、たまに綺礼の客がいた。
「ご名答だ」
左手を差し出す女。
「あ、はい」
と、凛も左手を差し出す。
「・・・・・!!」
女は手袋をしているが、その手は硬かった。
「義手・・・ですか?」
「ああ、私の名はバゼット・フラガ・マクレミッツ。前回の聖杯戦争の参加者だ」
女は、そう名乗った。

「貴方・・・どういうこと?」
バゼットが名乗ってから数分、バゼットはルヴィアゼリッタに席を外してもらい、バゼットと2人で話している。
「言ったとおり、私は前回の聖杯戦争に参加した・・・まぁ、君で会う前に脱落したが」
凛は気付いた。
「貴方・・・ランサーを召喚した・・・!」
「そう、私はこのルーンのイヤリングでクーフーリンを召喚した・・・しかし」
そこからの展開は凛も知っていた。
「言峰綺礼にこの左腕ごと令呪を獲られて、痛かったわ」
手袋を外しすと、そこにあるのは銀色の・・・機械の腕。
しかし不思議だ。確か、「協会から派遣されたマスターは暗殺された」・・・と、報告されていたはずだ。
「私は死んだことにしておいた」
その前に、疑問の本人から答えが入った。
「死んだはず・・・ってどうして?」
「生き恥をさらすのもどうかと思いな・・・・と、本題に移ろうか」
バゼットは鞄から数枚の書類を取り出すと、それを机に広げる。
「聖杯戦争というよりも・・・そのシステムを使った魔術大会だな」
「魔術・・・大会?」
凛はバゼットの広げた資料の1枚を取り、見る。
そこには確かに、聖杯戦争のシステムを上手く使ったものの要項が書かれている。
「ああ、そして、その参加資格は、異端者であること・・・だ」
異端者・・・確かに、自分は時計塔に来た者としてはかなりの異端だ。
「異端者・・・ですか?」
だから、何故自分が・・・とは思わなかった。だが、疑問はある。
何故、異端者を集めて大会をやるのか・・・と
「はっきりって、君は死ねと言われている状態だ」
バゼットははっきりと言った。
「は?」
「つまり、協会や教会は異端者がだんだん煩わしくなってきたわけだよ・・・君のようなものも、異端の部類だ。
 だが、公然と抹殺するのは些か問題がある・・・ならば、同意の上での戦闘で殺せばいい」
つまり、こういうことらしい。
大会というのはあくまで名目で、事実は異端者の処刑・・・互いを殺し合わせるという形での。
実験データが取れるという、素敵なオマケ・・・というか、オマケついでに死んでもいい人間を殺すのか・・・
「この大会は、制限時間を要しない。つまり、最後の1人になるまで戦わなくてはならない」
参加人数は七人。それは正規の聖杯戦争と同じだ。
「以上だ。開始は一週間後なので、それまでにサーヴァントを調達して、現地に集合するように」
バゼットは現地に到着しない場合は、命令無視で抹殺される可能性がある。と、付け加えた。
「用件は以上」
バゼットはそう言うが、席は立たない。
「で・・・後は私用・・・よね。アナタが連絡係なわけないから」
「ああ、君と世間話をするのも悪く無いだろう。例えば・・・そうだな、君の兄弟子で私の片腕を奪った神父の話とかな」
「はぁ・・・」
凛は、溜息をついて、もうどんな味かもわからない紅茶を口に含んだ。

3: 蒔身-王 (2004/04/24 21:56:32)[ymhkx211 at ybb.ne.jp]

それから数時間後、バゼットと別れ、ルヴィアゼリッタの屋敷から出たころには、既に空は暗くなっていた。
早足で寄宿舎に帰ると、渡された資料を広げる。
「しかし・・・よく出来てるわね・・・これ」
システムとしては良く出来ている。「ここに聖杯がある」という暗示効果を餌に、英霊を吊り上げるというものだ。
「けど、これって暗示にかからない英霊には意味無いわね・・・まぁ、戦うことを目的としたクーフーリンみたいなのならどうでもいいっぽいけど」
バゼットから、選別にルーンのイヤリングを貰った。
確かに、あのランサーなら生き残る戦いには最適ともいえる。
「サーヴァントの調達は問題ないわね。二年前とは大違いだわ」
それに、今回は確実に召喚できる英霊がいる。
今も持っている赤いペンダント・・・件のランサーに殺された少年を助けたペンダントを使えば、「彼」が来てくれるだろう。
「けど・・・1回日本に帰らないと」
召喚は前と同じく自宅で行おうと思っている。
移動時間を考えると、そろそろ出ないと間に合わないかもしれない。
凛は荷物をまとめ、そそくさと寄宿舎を後にした・・・


ロンドンからは25時間。七月の日本はやっぱり結構暑い。
「映画館もう潰れたの・・・早いわね」
バスと徒歩で十数分、自宅は、鍵が開いていた。
「あ・・・」
帰省したものの、今回は士郎や桜に合う気はなかった。これから戦いに行くし、感のいい士郎あたりに、
様子を察されてもみれば、大変なことになることは違いなかったからだ。
だが、ドアを開けてしまった以上、中に入っている誰かが出てくることは確かだ。
正直、凛はそれが空き巣であることを望んだ・・・
「おや、リン、帰国したのですか?」
だが、出てきた人物は知ってはいるが、予想はしなかった人物だった。
「ライダー・・・?」
紫の髪の長身の女性、桜の使い魔で現世に残るサーヴァントだ。
「ええ、どうしたのですか?次の春まで戻らないと聞いていましたが」
凛は正直、よかったと胸をなでおろす。
「一時帰国よ、ライダー。悪いけど、私が帰っていることは桜と士郎達には秘密にしておいてくれない?」
ライダーは、凛の顔を少し見ると、凛に微笑みかけた。
「ええ、わかりました。秘密は守りましょう」

そして深夜二時・・・今度は失敗しないように、腕時計を2つつけている。
「さて・・・」
この部屋に入る際に埃を被ってしまったペンダントを、ウェットティッシュで拭いてから掲げる。
「アーチャーが呼べれば、万事問題ない・・・失敗したらランサーを呼びましょう」
今アーチャーと出会うのは少し気まずい気もするが、しかし彼の戦闘能力は熟知している。
それに、彼とは息が合うことは経験済みだ。今回は令呪を使う必要もないだろう・・・

召喚の呪文を唱える。

そして、

閃光が、彼女のいる部屋を包んだ・・・・・

そして、現れたのは・・・1人の日本人

「アーチャー・・・?」
では・・・ない。
彼のトレードマークである赤い外套を着てはいない。
黒い髪に、黒い服・・・いや、これはコートだ。

「む・・・」

そして、そのサーヴァントは凛の姿を確認したらしい。

「・・・ここは何処だ?」

だが、その台詞は凛の想像を超えていた。
まず、自分について、自分のマスターかどうか聞くものではないのか!?
そう凛が思っている間にも、その男はキョロキョロと周囲を見渡している。
「今は何時だ?、それに、お前は誰だ?」
そんな質問をする男を凛は調査するように凝視する・・・格好からすると、はっきり言って現代人にしか見えない。
「こっちの台詞よ!アンタどこの英雄よ!」
男が持っているのは1つの銀色のアタッシュケースだけだ。
当然だが、遠坂凛は、そんな英雄は知らない。
すると、男は少し考えたそぶりをして・・・
「俺か・・・俺は・・・そういえば、とりあえず「ライダー」と名乗れと言われたな」
と、男は答えた。
「そう、クラスライダーのサーヴァントなの・・・って、いうか、なんでアンタが出てくるのよ!」
凛がそういうと、ライダーのサーヴァント(らしい)男は
「勝手に呼び出したくせに、その言い方は無いんじゃないかなぁ」
と、明らかに不機嫌な態度をあらわにした。
「おかしい・・・」
凛は考える。
この場にあるのは、精霊エミヤのペンダントと、クーフーリンのルーンのイヤリングだ。
後は、前回の調査どおりに、英雄のゆかりのモノでないことは確認されている。
では、この英雄(?)を自分が呼び込んだのはどういうわけなのか?
腕には令呪が、確かについている。
「で、こっちの質問にも答えてくれると、嬉しいんだけど・・・どうかな?」
・・・男の喋り方は、凛の神経を逆撫でした。
「うっさいわね!ここは私の家で、私は遠坂凛、今は夜の二時よ!」
と、大声で叫んだ。
「五月蝿い、叫ぶな。それに夜なら近所の迷惑を考えるべきなんじゃないかな」
と、サーヴァントは激しく嫌な視線を向ける。
「いちいちいちいち・・・五月蝿いのよ!」
と、凛の平手が男の頬に飛ぶ・・・
パシィン!!
・・・と、そんな音が響いた。
「・・・痛いぞ・・・というか、喧嘩を売っているのかな・・・君はァ!!」
男は凛に拳を突き出す。
―――嘘!?
と、凛は不思議に思った。
この男・・・目の前の男には、英霊としてあるべきものが全く無い。
目の前の男からは・・・魔力が「全く」感じられない。
「全く」だ。
「嘘・・・でしょ」
自分から、彼に流れる魔力などない。
魔力を蛇口の水に例えるなら、目の前サーヴァントには、蛇口も、貯水庫も全く存在しないのだ・・・
「おい、どうした?」
驚きで呆け掛けていた凛に、男が声を掛ける。
「ちょっと・・・貴方・・・」
ワケがわからない。
こんな奴が、普通であるはずが無い。だったら、一応その正体を確かめてみるべきだ。
「ん?」
この部屋に・・・あなたに所縁がある物ってある?
「・・・・探せと、そいうことかな?」
男は逆に尋ねる。凛はそれに頷く。
「だったら、何か飲み物を持ってきてくれないかな、喉が渇いた」
・・・
「なんでアンタが飲み物なんているのよ!!」
「だから、喉が渇いたと言っただろう。聞こえなかったわけは無いと思うんだが・・どうかな?」
結局凛は、紅茶を炒れて、五分後に部屋に戻った。
「所縁の物など、全く見つからなかった。ガラクタの山だな」
ガラクタ・・・!?
その言葉に凛はさらに愕然とする。
遠坂の代々の秘宝ともいえる、この魔術の道具を「ガラクタ!?」
頭に血が上る・・・
「むっ」
と、そこで男が何かを見つけたらしい。
「所縁といえば、いうものを、今見つけた」
そして、床を指差す。
「それは、俺も良く使っていたな」
男が指差す先にあったもの・・・

それは

先程凛が宝石を拭いていた、地面にくちゃくちゃになって破棄されたウェットティッシュだった。

「・・・・?」

凛には、理解できない。
何故なら、この話で行くと、この英雄は

―――ウェットティッシュを由縁に召喚されたことになるのだから

そんなこと・・・ありえるはずがない・・・・
この男を相棒に戦わなくてはならない。
だが、ウェットティッシュで召喚された英雄が・・・まともなものであるはずが・・・ない。

凛は頭痛でその場に倒れた―――

4: 蒔身-王 (2004/04/25 13:26:43)[ymhkx211 at ybb.ne.jp]

―――夢を見る。
あの赤い騎士の夢だ。
あの日、私は彼に掃除をやらせたんだっけ・・・

「起きろ、起きて状況を説明しろ」
だが、凛の眠りは男の声でさえぎられた。
「あ・・・」
目を開ける。寝起きが悪いことは自分でも知っている。
「突然倒れるな、全く、ここまで運ぶのも一苦労なんだが」
昨日は倒れたところをこの「ライダーらしきサーヴァント」に運ばれたようだ。
凛は、男の顔を見て・・・それから
「ななななんで人の部屋に入ってくるのよ!」
と、叫んだ。
勝手にベットまで連れてきて寝かせたことについては言わないらしい。
すると、男は呆れた顔をして時計を指差す。
「君・・・今何時だと思ってるのかなぁ・・・もう12時だぞ。昼の」
男は昨日のコートは脱いだらしい。普通の長袖を着ている。
もう、英雄らしさなんてどこかに吹っ飛んでいる。
「一応昼飯を買ってきておいたが・・・食べるかな?」
男は袋を提示する。
「食べる・・・」
まだ寝起きの顔でそう答えると、凛は着替えるから・・・といって男を部屋から出した。
「なんなのよあいつ・・・」

昼飯は、コンビニのスパゲッティだった。
ちなみに男はそれにサラダがついている。
「ちょっと、なんで私はサラダないのよ」
「何で俺が君のサラダを買わなくちゃならないのかなぁ・・・」
「人の金つかっておいて、何言ってるのよ!!」
普通、英霊が買い物をしてきたなどと、言うはずが無い。
この時代のこの国で買い物をすることは、この家にあったお金を使ったとしか凛には思えなかった。
だが・・・
「何を勘違いしてるのかなぁ・・・これは俺の金だが」
と、男は財布を提示した。
「まったく、どういう生活をしてきたのか・・・」
いや、それはこっちが聞きたい・・・と、思う。
「しょうがない・・・普通に聞くか」
スパゲッティを食べ終わった凛は、諦め顔で聞いた。
「アナタ、真名は?」
だが、男は答えず、逆に聞き返す。
「シンメイ・・・何のことだ?」
正直、ここまでとは思わなかった。
「わからないの?」
「何のことだかと、言っているんだ」
凛は少し考えた・・・そして、本当に諦めたように
「じゃあ、なんでもないわよ・・・あなた、自分が何をしに来たか解る?」
「いや、わからない。だから今聞いているんだろう」
淡々と答える男・・・
「じゃあ、説明するわ・・・」
本日三度目くらいの溜息・・・
「今日は、2006年の7月26日、私が貴方を召喚したのは、5日後から始まる戦いのため」
「2006年か・・・もう、二年以上経ったってことに、なるのかな?」
・・・・!!
凛の顔が強張る。
「貴方・・・死んだの・・・何時になるの?」
「ああ、今が2006年なら、一昨年の2004年の新春ってことに、なるのかな?」
―――偶然か、その男が死んだ日は、聖杯戦争が起きた時と一月も違わなかった。
「貴方、日本人・・・?」
「見て解らないかな、それとも、俺が中国人や韓国人に見えるのかな?・・・まぁ、アメリカ人には見えないと思うが」
「というか・・・死んだのが2004年と言うことは・・・現代人ってこと!?」
―――現代人の英雄・・・知名度がある「はずがない」・・・知名度があったら凛も知っているはずだ。
そして、知名度が無いということは・・・強いはずが無い。
いや、ウェットティッシュで召喚されてる時点で、強さを求めるのが逆に無謀かもしれないが・・・
「ああ、俺は1983年に生まれ、そして2004年に死んだ・・・しかし、「呼ばれる」とはこういうことか」
男は、なるほどという視線を向ける。
「で、君・・・ええと、遠坂凛・・・だったかな、俺に何の用かな?」
凛は昨日叫んだ自分の名を男が覚えていたことに少し驚きと喜びを感じつつ、答える。
「だから、5日後の戦いのために、貴方を呼び出したのよ」
「戦いか・・・何故俺がそれに参加しなくてはならない?」

・・
・・・
「ああぁぁぁ!!もう嫌、なんで、なんでこんな奴なの!私に死ねと!!」
凛は、本日二度目の絶叫を発した。

「なるほど・・・こういうことか」
凛が不貞寝を始めたので、男は勝手においてあった資料を引っ張り出して読んだ。
「しかし、魔術やらなにやら・・・オカルトの大会か?」
男・・・ライダーとして呼ばれたサーヴァントは、そういうモノの存在を信じない。
もっと恐ろしいものと戦わなくてはならない運命だったが、見たものしか信じないという信条でもある。
だから、他人の信頼なども、あまり信じられたものではなかった。
「しかし、なかなかどうして、良くできたものだな・・・つまり俺は、呼び出された英霊ということか」
―――俺の何処か英雄なのか・・
と、彼は思う。
確かに、多くの人をこの手で助け、多くの人の命を奪うだろう者をこの手で葬ってきた。
だが、それは彼の目的の副産物でしかない。
彼を動かしていたのは、復讐心から来る憎悪と、そして相手に対する差別の心・・・とても英雄と呼ばれることではない。
「さて、場所は・・・外国か」
―――あの凛という女から、ここが日本の冬木という場所だと言うことはわかった。
「まだ2日ほど余裕があるな」
街を歩くのも悪くない・・・そう思った男は、そのまま外に出た。

「やはり、夏は暑いな・・・そういえば」
ホースの水で頭を洗っていたこともあったな・・・と、過去を回想する。
そんなことを思いながら、歩いて橋を渡る。
「おう兄ちゃん・・・ちょっと金かしてくんねぇかな!」
と、古風な奴等が出てきた。
「出さないと言ったら・・・?」
全部で三人いる、恐らくチンピラだろう男の1人が答える。
「痛い目にあってもらうしかないぜ!」
明らかにチンピラな男が、ライダーの英霊たる男に殴りかかる。
「やるか・・・命が惜しくないようだな!」
チンピラの拳が当たる前に、男はチンピラの足を蹴りつける。
「なっ・・・テメェ!!」
1人が倒れ、もう1人が後ろから殴りかかろうとしたところに、さらに回し蹴りが飛ぶ。
「グハッ・・」
2人目も倒れ、最後の1人は刃物を出す。
「テメェェェ!!」
「死にたいみたいだな・・・お前は!」
ナイフを持った男が突っ込んでくるのを見て、そう呟いた瞬間に、男の体が中を舞った。
「でいやぁぁ!!」
そして、空中から両足で男の胸を蹴りつけた。
「なっ・・・!」
後ろに大きく吹っ飛ぶチンピラ・・・
「さて・・・」
倒れている男三人を放って、男は歩き出そうとした・・・と、そこに1人の男があらわれた。
「待て!」
―――歳の頃男と同じ位・・・十九か二十。
すらっと長身に、きりりとした目、知性をかもし出す眼鏡・・・男の名を、柳洞一成といった。
「何かな?」
このチンピラの親分か・・・と、男はふと思ったが、恐らく違うだろう。と思い返す。
こいつは、間違えなくこのチンピラなどよりは強いはずだ・・・だが、自分と戦う気では無いだろう
男は、幼馴染だった西田と言う男を連想した。責任感が強いタイプ・・・
「この男達は、貴様がのしたのか?」
眼鏡の男・・一成は、倒れる三人の男を見回す。
「見てなかったのかな・・・そうだが」
「貴様が始めたことならば、貴様が後始末をつけろ」
男は、少し苦笑した。
後始末・・・そういえば、今まで倒してきた敵は後始末の必要が無い奴等ばかりだった。
「後始末か・・・」
すこし考える・・・そして、思い立った行動を実行する。
「まあいいだろう」
倒れている男の腕を取り・・・持ち上げる・・・
「落ちろ」
そして、橋の上から投げ落とした。
「は・・・?」
それを見ていた一成は、思考が停止した。
「落ちろ」
「貴様もだ」
そんな一成を尻目に、次々と男を橋から投げ落とすライダーたるサーヴァント。
「終わったが・・・」
見ると、眼鏡の男は固まっている。
「ふむ、文句は無いって解釈で・・・いいのかな?
男は固まった一成を放って去っていった。

数時間後・・・
「なんで何処にも居ないのよ!!」
家の中を歩き回った凛は、自らが呼び出した(だろう)男を捜していた。
「帰ったぞ」
と、そんな中、扉が開き、男が入ってきた。
服装は黒いコートの下に来ていた黒い長袖だ。
「ん・・・起きていたか」
男はのしのしと、居間のソファーに座る。
「アンタねぇ・・・!」
凛は既に怒りゲージがMAXと言った状態である。
「勝手に出歩いてんじゃないわよ!!」
「悪いか?」
「悪いわよ!!だいたい、サーヴァントなんて出歩いたら目立ってしょうがな・・・」
ところが、このライダーは一般人と変わらない服装の上に、魔力など感じないので全く問題がなかったりする。
そのことに凛も気付き、口を止める。
「どうした・・・俺がそんなに目立つ格好をしているのかな?」
凛は、揚げ足を取る人間がはっきりいって大嫌いだ。
「あなた、私のこと馬鹿にしているでしょう」
その言葉に、男は薄く笑う。
「当たり前だろう。俺は人を馬鹿にするのは大好きだが、人から馬鹿にされるのは大嫌いだ・・・君もそうじゃないのかな?」
反論はできない・・・いや、実際にそれは多くの人間に当てはまるだろう。
「さて、資料は読ませてもらった・・・なるほど、なかなか面白そうな話だな」
と、男が突然話を切り出してきた。
「参加が自由参加じゃないってことは、つまり、勝ち残れなかった六人には死んでもらうしか無いということだろう」
的を射た質問だ・・・流石英霊になるほどの男か・・・と、凛は思った。
「そうね」
「勝利と、生存という場所に辿りつけるのはただ一組・・・のみ」
「辛いわね・・・」
凛の不安は、そのような戦いなのに、こんな正体不明意味不明魔力完全に無しという男を相棒にしなくちゃならないことだ。
「へぇ、なんでかな?」
なのに、目の前の男はそれに全然気がつかない。
「・・・」
凛は、自分がこの男を失ってからどうやって生き残ろうかを、真剣に考え始めた・・・

5: 蒔身-王 (2004/04/25 20:45:26)[ymhkx211 at ybb.ne.jp]

『2』
―――結局、なにがなんだかわからなかった・・・
現地へ向かう飛行機の中、凛は隣で寝ている男の顔を覗き見た。
結局真名は聞いていない。何度聞いても
―――だからシンメイとは何かな?
と、言われれば、聞く気も失せるものだ。
ライダー・・・とは呼べない。故郷の、背の高い家族と同じにはできないからだ。
凛は、このライダーに魔力を供給していない。
何故なら、このライダーには魔力を吸収する場所がないからだ。
この男は、魔力どころか、魔術の存在さえ知らなかった。
始めは信じないの一点張りだったのだが、実際にガントを食らってようやく信じるといったものだ。
一応、聖杯戦争についての説明もした。
特に、男が戦うだろう英霊達の力も・・・・・・
だが、その話を聞いても、この男は顔色1つ変えなかった。
明らかに現代人・・・自分と生きてきた時間は殆ど変わらないこの男は、
「へぇ、で、続きは?」
と、ひたすら聞き返すのみだった。
「って、貴方、前回のライダーの宝具は、時速350Kmで特攻する技よ。常識的にやばいでしょ!」
このように、凛は熱弁したものだが・・・
「いや、350Km/hってあんまり凄く無いんじゃないかな」
等と、意味の解らない回答を返す。
350Km/hは、凛の常識から言えば、間違いなく凄く速い部類だというのに。
で、この魔力をかけらほども持っていない英雄は、どう戦うのいうのか?
凛は、不安で不安でしょうがない・・・何せ、自分の横で寝ている男は、不敵だ。
はっきり言って、井の中の蛙の可能性が高い。
「・・・・・・士郎、桜」
故郷の家族の顔を思い浮かべる。
一応、自分が死んだら遺言が出るように、家に仕掛けてきた
無論、死ぬ気など全く無いが・・・
「家族の名前か?」
・・・・横の男が起きていたらしい。
「関係ないでしょ」
この男は、口が悪く、皮肉屋で、人の揚げ足を取るのが・・・というか、人を馬鹿にするのが大好きで。
弱みを見せればひたすらそこに付けこむ・・・
「まぁ、いいだろう」
男は再び瞳を閉じる。
「本当に・・・どうしよう」
今回は前回と違って殲滅戦だ。
前回のように、やすやすと他のマスターと組むというわけにもいかない。
隣で寝ている男が少しでも頼りになれば、戦いようがあるのだが、このサーヴァントの体力は士郎並・・・
つまり、少し鍛えている、この年代の男性と同じくらいの力しか持っていないのだ。
「私・・・なんでこんなハズレを引き当てたのかしら・・・」
それは解っている。遠坂凛の才能だ。
―――肝心なときは失敗する
もはや致命的すぎるその欠点は、もう直しようも無い。
「はぁ・・・」
ここ数日は1人で生き残るための魔術を思案してきた・・・だが、芳しくない。
「どうしよう・・・」
いっそのこと、この飛行機が現地に不時着してくれれば・・・と思ったが、飛行機は現地に着陸するわけではないので、却下した。
「俺だと不安って、解釈でいいのかな?」
まだ寝ていなかったらしい。
「まぁね・・・正直、あんたみたいなのじゃ、速攻で殺されるのがオチよ」
男は苦笑した。
「つまり、俺が絶対勝てないと・・・そう言いたいのかな、君は」
大きく頷く凛。
すると、男はニヤリ・・・と笑った。
「覚えておけ、俺がすぐ死ぬと・・・弱いと言ったことを、後で後悔してもらおうかな・・・君には」

「自分が呼んだ男がどれほどのものか、知って感謝するがいい」

―――それは、二年半前に、凛が彼の呼んだサーヴァントに言われた台詞に酷似していた・・・


「ようやく到着か・・・腰が痛いぞ」
ぼやきながら、バスから出てくる。
「もう、こんな文句ばかり言う男なの、貴方は?」
腰を回している男を、凛が持っている棒で叩く。
「痛いぞ・・・いや、どうもな、君には文句を言いたいだけ言えるようだ。昔も、殆どの場面を猫を被っていたからな」
猫を被って生きてきた・・・というのは、学校という場における遠坂凛と同じスタンスだ。
―――英霊は似たものが呼ばれるって言うけど・・・まさかね
凛と共に歩く男は、アーチャー以上に口が悪く、それでいてアーチャーのような「イイ奴」では決して無い。
はっきり言って「ムカツク奴」だ。
「どうした、これから2時間は歩くんじゃないのか?」
予定の通りなら、その「会場」までは2時間は歩かなくてはならない。
凛は毎日寝る前に腕立て伏せをしている。
男も、この程度の運動は運動とも思わない。
ただ、凛は凄く嫌だった。
この男は、何故か共にいるだけで腹が立つ・・・いや、理由はなんとなくは分かるが・・・
この男の経歴は聞いた。
母子家庭だったが、母親を無くし、ある男に引き取られたこと。
その引き取り先で、同じような孤児と共に数年間を過ごしたこと。
あとは、中学、高校、大学と進学して・・・と、その辺りまで聞いて話を切った。
魔術師ではない・・・が、普通の人間としての生活をしてきたとしか思えない経歴だ。
何故自分が英雄となったか・・・それは本人もわからないらしい。
ただ、自分が死ぬ時に「守護者」にならないか?
と聞かれ、「なる」と答えただけらしい。
英霊が持つはずの知識も、何も無い。
あの男にあるのは、普通の大学生が持つ程度の知識しかない・・・・
凛は、この男の「普通」の経歴を、苛立っていた。
英霊・・・自分が見てきた英霊の多くは、英霊になれるだろうと、誰もが納得する生き方と誇りを持っていた。
それは、たとえ反英雄と呼ばれる者でもそうだった。
なのに、この男は、凛から見ればあまりにも「普通」すぎた。
だから・・・苛立っていたのだ。
戦ったら・・・負ける。そう確信していた。
持ってきた宝石は、前回使った分の半分ほど。
短い期間でそれなりの量を作ることができたのは、あの戦いのおかげだということは分かるが、相棒がこの男では、
前回の2倍あっても足りないかもしれない。
シチュエーションは、前回と比べれば最悪・・・


そんな状態で、敵に出会ったら、これはもうやばいというのに。


「貴様は私の敵だろうな」

道の真ん中に立っていた神父のような格好をした男にそんなことを言われれば、臨戦態勢をとるしか無い。

「美人だが・・・とりあえず消えろ」
ヒュン・・・と
凛と男が身構えた瞬間、凛の方に突然なにか刺さったら死にそうなものが飛んできた。
「黒鍵・・・!!」
なんとかかわした凛は、その敵に対して叫ぶ。
この剣は、教会の代行者たる者が使うものだ。つまり、この敵は教会の異端者・・・ということになる。
「代行者、どういうことよ、開始は明日からでしょ!」
だが、代行者は手を緩めずに次の黒鍵を構える。
「知らないな。私は今日からだと言われている」
男は年のころは二十台後半・・・金髪で碧眼の白人だ。
「というわけだ・・・消えろ、サーヴァント」
次の黒鍵が放たれる・・・標的は・・・サーヴァントと言った。
「避けて!!」
と、凛が叫ぶ。
「何故だ?」
と、男が答えた瞬間、凛の頭上を黒鍵が掠め取った。
「は・・?」
おかしい・・・サーヴァントに消えろと言われたのに、マスターである凛を狙って黒鍵は放たれた。
「俺は、魔力とやらが無いから数にカウントされてないらしいな」
「なっ・・・!」
驚きつつも、凛は宝石を取り出す。
この男は確かにかなり強い代行者ではあるが・・・あの影の群れほどのプレッシャーは感じない。
「行け!!」
指先からガントを乱射する。
「む・・・」
代行者は真上に跳ぶ・・・だが、それは凛の予想通りだ。
「こっちもか・・!」
―――やった!?
ガントは代行者に直撃・・・

「ロウワーズよ、なかなかやる奴もいるものだな」

するモノだけを、突然現れた戦士が全て弾いた。
「悪いな、ランサー」
「全くだ、殺そうと思ったら殺せ、例えそれが神の子というモノでもな」

「・・・ランサーのサーヴァント・・・!」
代行者・・・ロウワーズという男と共に降り立ったのは、銀の軽鎧を装備した男だった。
確かに、その手には槍がある・・・外見は普通の槍だが、ランサーのゲイボルクのような槍に間違いはないだろう。
「ランサー、男の方からは魔力は欠片ほどしか感じられない。先に女を殺せ。キャスターの可能性が高いぞ」
その言葉と共に、ランサーたるサーヴァントが向かってくる。
―――しかし、初戦はランサーってジンクスがあるような・・・
凛は考えながら、来ているコートの裏から、宝石を取り出す。
「サーヴァント相手じゃ、ガントは通用しない・・なら、これで!!」
宝石に魔力を込めて放つ。
強烈な光が、路上を覆った・・・・・・だが・・・
「目くらましにしかならんな」
相手のランサーの気配は、刻々と近づいてくる。
あの、クーフーリンほどの敏捷性はないものの、かなり速いことには変わりは無い。

「いや・・・目くらまし程度で十分だ、マスター」

瞬間、光が次々とランサーを襲った。
「何奴?」
ランサーの頬からは血が出ている。
「この俺に傷をつけるとは・・・貴様・・・!」
ランサーの視線は、光を放った者・・・つまり、凛の呼び出したライダーに向けられている。
「嫌なものだな、俺の知らない世界は、ここまで魔術魔力と叫んでいたか・・・」
凛はこれを好機に、男・・・ライダーの元まで戻る。
「貴方・・・何それ?」
凛の視線は、男が持っているものに向けられた。
「携帯電話に見えるんだけど・・・」
それは凛の目には携帯電話に見えた。
ただ、それが不自然な方向に曲がって、男が不自然な持ち方をしている・・・まるで、銃のように。
「見えなかったら思考を疑うんだけどな・・まぁ、いいだろう」
そして、再び光を放つ・・・アンテナらしい部分から放たれた光は、次々とランサーの方に向かってくる。
「な・・・ロウワーズよ、あれはどんな魔術だ!」
飛来する光弾をかわしながら、ランサーは主に尋ねる。
「分からぬが・・・魔術の類ではないぞ!・・・そちらがサーヴァントだというのか!」
ロウワーズは、後方から支援しようとしているらしいが、ここで黒鍵を放つのも無駄だと分かっている。
「探れ、ランサー・・・それが何処の英雄だか・・・」

「無駄だ」

光弾の飛来が終了する。
「俺は英雄などではない・・・たとえ俺がそうであるとしても、貴様は知るよしもない」
凛は、男の腰に、銀色のベルトが巻いてあることに気がついた。
「俺の戦いを知る者は、俺の敵と、俺の味方だけだ」
そして、男が常にもっていたアタッシュケースの中身がなくなっていること。
「何故俺がこんなことをしているかなど、最早どうでもよくなってきた」
彼が戦ってきた理由は3つ・・・
1つは復讐のため
1つは守るため
そして、最後の1つは・・・

「貴様のことなど、俺には興味は無い。だが、俺はこの女に、俺の力を証明することを約束した」

自らの力を証明すること・・・

「貴様等が俺の敵だというならば、俺の力を証明するために、消えてもらう」

手持ちの携帯電話を開き・・・ボタンを押す・・・

9・・・1・・3・・・・

『Standing By』
路上に、暗い機械音声が響く・・・

「遠坂凛。俺にはああいった相手と戦ったことはない。何かあったら俺に聞こえるように発言しろ」
声がかかる。
凛は、その声を聞いて、戦う気らしい男を止めようとする・・・だが、男はその前に、さらに言葉を紡ぐ。
「俺の名は草加雅人・・・苗字でも名前でも、どちらでも好きなほうを呼ぶがいい」
そして男は、手にした携帯電話を閉じる。

「変身!!」

確かに、この男は魔力など無い。魔術など知りもしない・・・だがしかし
この男には、そんなものは必要なかった。
そのようなものがなくても、この男は戦ってきたのだ・・・決して人と相成れぬと、そう心に誓ったモノと・・・

男は携帯電話をベルトにセットする。

『Complete』

・・・暗い電子音声が、再び路上に響く。

その直後に、紫の目の戦士が大地に降り立った・・・

6: 蒔身-王 (2004/04/26 11:21:39)[ymhkx211 at ybb.ne.jp]

「は・・・?」
その、男の・・・草加雅人と名乗った男の「変身」に、一番驚いたのは他でもない凛だった。
「魔力が・・・」
自分の体から、目の前の男の変わった姿・・・それに魔力が供給されている。
「さて・・・」       
ライダーは・・・生前はカイザと呼ばれていたその姿で、襟を直す動作をする。
―――これはもう直らない癖か・・
その姿を見て、薄く笑ったのはランサーだ。
「なるほど・・・面白い者ではあるな、ロウワーズ」
そして、そのマスターである代行者、ロウワーズも薄く笑う。
「見たところ、近代の英雄のようだが・・・私はこのような奴は知らないな・・・なるほど、面白い」
ランサーはくくく・・・と笑い、その手に持った槍を構える。
「来い・・・串刺しにしてくれる・・・!」

「嫌だね」

ライダーは、槍を構えたランサーに、銃口を向けた。
左手に先程と同じ、ベルトの中心にあった銃を。
右手に腰に付けてあった十字の武器・・・それは銃として機能する武器だった。

「何?」
ランサーがそう聞き返した瞬間に、ライダーの二丁の銃から次々と光弾が放たれる。
「キ・・貴様ァ!!」
ランサーはそれをなんとかかわす。だが、光弾のせいで前進できない。
「君の武器は槍なんだろう。だったら、その槍が届かないところから狙えばいいんじゃないかな?」
光弾の狙いは的確に・・・前進させないことを狙って放っている。
「草加・・・いや、雅人!」
と、後ろから凛が呼んでいるのをライダーは聞いた。
凛は苗字と名前と、呼びやすい方を選んだ。
「どうした?」
撃ちながら答える。
左手の銃は12発撃つと弾切れだが、すぐに弾は補充できる。
光弾は威力は殆ど無いものの、「人を超えたモノ」に対して有効と言う特性を発揮し、ランサーの前進を防いでいる。
「貴方・・・詐欺師ね」
凛は思う。
―――確かに、魔力はなかった。
不思議だったのは、このサーヴァントは「現世に居ること」にすら、魔力供給を必要としないことだった。
だが、今は違う。
今のこのサーヴァントは、「現世に居ること」に魔力を使っている。
当然、その魔力は凛から流れている。・・・懐かしくもあるこの感覚だ。
「昔から人を騙すのは得意だったかな」
表情は見えないが、凛はライダーが苦笑したのが見えた気がした。
「で、何かな?」
「あなた・・・正直、あのランサーに勝てそう?」
ライダーは少し考え、そして答える。
「どうだろうな・・・アレが全力なら、絶対に勝てる・・・だが、英霊と言うものは、隠しているものなのだろう・・・その、宝具とやらを」
「そ、その通りね・・・で、私はあのマスターを狙おうと思うんだけど・・・あいつなら、私の魔術で勝てそうだし」
凛は後ろにいるロウワーズを指差す。
「殺すのか?」
・・・それは、凛にとって考えたくないコトだった。
「・・・とりあえず、無力化してから考えるわ」
おそらく、二年前の凛ならば、殺すと言えただろう・・・だが、あの優しい男・・・恐らく自分の義理の弟になる男の顔が脳裏に浮かんで、即答できなかった。
「甘いんじゃないかな、君は」
「別に甘くても結構よ・・・甘いものは美味しいじゃない」
「なるほど・・・やはり、食えない女だな、君は」

「ロウワーズ」
光弾を手持ちの槍で弾きながら、ランサーがそのマスターたる男を呼ぶ。
「宝具を使うか・・・ふむ、未知数の敵は何が起きるか解らん・・・むしろ使え」
ランサーはフッ・・と笑い、その槍に魔力を込め始めた・・・

「ムッ」
―――弾が弾かれているな・・・槍にではなく、あのランサーとかいう奴に
ライダーは、自分が撃っている弾が既に意味を成さないことに気付き、撃つのを止める。
「遠坂凛、あのサーヴァントの変化は?」

凛は、このライダーの致命的な欠陥に気付いた。
このライダーは、魔力供給を受け始めたと言っても、やはり魔術には完全なる素人・・・魔力の感知も全く出来ない・・・
つまり、目の前の敵が力を溜め込んでいることも、目に見える変化がなければ気付かないのだ。
「まずい・・・格段に上がってるわ・・・恐らく・・・宝具!!」

凛がそう言った瞬間だった。

ランサーが空に掲げた槍が、光を増し、そして輝いていくことを・・・

「輝ける槍・・・アレは!」
凛は以前戦ったランサーの「心臓を穿つ」という呪いを込めた槍とはまた違う恐怖を覚える。

「プレッシャーが段違いだな・・・!」
ライダーも気付いたらしい。
アレはまずい・・・マトモに食らったら・・・まずい。

「さあ、食らうがいい・・・」
ランサーは、槍を構える・・・そして、その真名を厳かに口にする・・・

   <ホーリー・ランス>
   『神血授かりし聖槍』

槍・・・その槍はイエス・キリストの胸を貫いたという槍・・・その槍は神の血を授かり、数々の伝説を呼ばれたという。
そして今、ランサーが突き出したその槍は、目がくらむほどの閃光を数メートル離れたライダーに放った・・・!

「チィ!」
ライダーは飛びのく。
アレはまずい。
それは絶対に食らえないものだ・・・だが、

「逃げても無駄だ!」
ランサーは、両手で持った槍の矛先を動かす。
「この威力で・・・そんなことを!」
ライダーはさらに回避行動を続ける。
「宝具・・・なかなかやる!!」
話で聞くのと、実際に受けるのとでは大幅に違った。
「威力」の「プレッシャー」が段違いだ。
「遠坂凛!!、宝具を使えば、それがだいたい何処の英雄か判るのだろう・・・!」
遠坂凛・・・ライダーのマスターたる女はそう言っていた。
そして凛は、その回答を既に用意してあった。
「雅人、おそらくランサーはロンギヌス・・・キリストを殺した男よ!!」
ロンギヌス・・・キリストを刺した瞬間の天変地異で回心した男・・・
「教会の代行者にピッタリの英霊だけど・・・これは・・・!」
凛は走っている。
正直、ライダーは単純な戦闘能力ではあの英霊に勝っていると思う。
だが、宝具・・・あの宝具はでは、ライダーの能力など関係ない。
ホーリーランスの閃光を受けた道は、焦土に変わっている。
『レーザー』
そんな表現が適切な気がした。
「ロンギヌス・・・とはいえ、名前を知ったところで現状が変わるわけではないか!」
ライダーも奔る・・・逃げながら、近づくしかない。
左の腰に用意されている道具を右手に付ける。
―――作戦など、先程決定した。
時間を稼ぐに最も適しているのは、右の腰の、十字を象った武器だ・・・だが、銃弾が効かない相手に、それが有効かどうかはかなり怪しい。

『Ready』

選んだのはこの、手持ちの武器で「ヒット&アウェイ」が出来る武器。
射程が無い代わりに必ず当たる。いや、打って外れるような位置では打てない技を・・・

7: 蒔身-王 (2004/04/26 21:44:57)[ymhkx211 at ybb.ne.jp]

「良く避ける・・・だが」
ランサー・・・ロンギヌスは、決して身体的には強い英雄ではない。
だが、英霊の彼には奇跡か付いて回る。
槍を伝って自らの体に降りかかった「キリストの血」という奇跡は、ロンギヌスの視力を回復させるだけでなく、もう1つ力を与えた。
それは、生前では宣教に専心できる強い精神を形成すほどでしかなかったが、英霊となった今、それは最も強い力となった。
「私は負けはせんよ」
手に持つ閃光を放つ槍は、ロンギヌスにとっては罪の証・・・その矛盾を飲み込む精神がこの宝具に奇跡の力を与えた・・・
「ハァァァ・・・」
レーザーでライダーを狙いながらも、力を貯める。
宝具、ホーリーランスは、ランサーが力を貯めればその分だけ一瞬の爆発力が上がるのだ。
「来るがいい・・・消し炭にしてくれる!」
敵サーヴァントが何だかはランサーは解らない。
だが、宝具に培った力を一斉に放出すれば、それで相手の肉体は消滅する・・・何のサーヴァントであるかなど関係ない。

ライダー・・・草加もそれはわかっていた。
相手のプレッシャーがどんどん上がっていく・・何かがあることを確信させるには十分だ。
「だが・・・!!」
自分も負けてはいられない。

レーザーを避けながらのジャンプを繰り返し、ランサーと約五メートル離れた場所に着地する。
「そろそろ決着をつけようぞ!」
レーザーを放つのをやめ、ランサーが叫ぶ。
「・・・いいだろう」
元から、長期戦など狙わない。
相手の方が攻撃力が高いなら、速攻で葬るのがライダーの戦い方だった。

「勝利は・・・」
「勝つのは・・・」

「我が手に・・・!!」「・・・俺だ!!」

ライダーが跳躍する。
同時に、ランサーがその槍を振り、懐に構える。

ホーリーランス
 「聖槍よ・・・彼の者を討て!!」

空中のライダーに、ホーリーランスから閃光が放たれる。

「―――っあぁぁぁ!!」
空中でさらに体を捻るライダー・・・だが、閃光はライダーの胴を両断しようと迫る・・・!
「だぁぁぁ!!!」
だが、ライダーは光に胴を両断される前に、体を捻りきる。

『Exceed Charge』

ベルトのボタンを押すと共に、そこから右腕にエネルギーが集まる。
この、「フォトンブラッド」という名のエネルギーは、彼が死ぬまで彼の力になり続けた。
黄色の輝きは多くの敵を粉微塵に葬ってきた。

そしてその光は、目の前の槍兵を倒そうと、再び光り輝く。

「はぁぁぁ・・・」

空中で拳を構える。

凛はライダーに説明した。「宝具というものは、その真の名を呼ぶことで、その力を引き出す」と・・・

―――ライダー・・・草加雅人には技を叫ぶ習慣は無かった。

だが、名を呼ぶことで、力を引き出せるなら・・・相手を倒せると、自らに言い聞かせることができるのならば・・・

「グラン・・・!」
                                 カイザショット 
―――いくらでも叫ぶ・・・記憶の片隅にのこる、この 『道具』 を使った技の名を・・・!

「・・・インパクト!!!」
                          インパクト
拳を突き出す・・・グランインパクト・・・その衝撃は、5トンを超える威力を誇る・・・!

「なっ・・・!!」

だが、インパクトの直前に驚きの声を上げたのは、拳を放ったライダーだった。

「私を・・・舐めるな!」

ランサー・・・ロンギヌスは、放った槍を既に引き戻して、ライダーに光を放とうとしていた。

「いや、俺が・・・速い!!」

一瞬の攻防・・・ライダーの言ったとおり、拳は先にヒットした・・・ランサーの、聖槍に・・・!!

「くっ!」
「かぁ・・・・!」

凄まじい光が大地を照らす・・・時刻は既に夕方だ。
閃光は地表数十メートルまでを明るく照らし、そしてその光を生んだものたちを弾き飛ばした。

「チィ・・・」
ライダーは、胸の装甲が半分ほど溶解していた。

「おのれ・・・貴様」
ランサーの銀色の鎧も、脱色するほどの熱と光を浴びて変色している・・・
と、ランサーは己の主の無事を確認しようと振り向く・・・だが
「ロウワーズ・・・・?」
そこに、彼の主は居なかった。

「ハハッ・・・」
ライダーの笑い声が聞こえる・・・ライダーは、光に包まれて、魔力を全く持たない姿に戻っていた。

そして、その顔は

―――作戦通り・・・これで俺達の勝ちだな

と、勝ち誇っているようだった。

8: 蒔身-王 (2004/04/27 23:15:51)[ymhkx211 at ybb.ne.jp]

「落ちなさい!!」
「そう言われて、落ちるわけにもいかないと、わかってるだろう」
凛の声と、代行者ロウワーズの声が響く。
既に、道から外れた茂みの中を、2人は駆け回っている。
「魔術師にしては・・・全くたいした運動能力だな」
黒鍵を持つロウワーズは、跳んでくるガンドをそれで弾きつつ、凛に反撃のチャンスを狙っている。
「アンタに運動能力のことは言われたくないわよ!」

―――奇襲は成功した。
ライダーとランサーの戦いの中、凛はロウワーズをガンドで狙撃した。
「なっ・・・!」
ガンドは直撃・・・ロウワーズの身体能力を下げることに成功している。

だが、ロウワーズはこれでも強い。
「逃げても無駄だ」
黒鍵はあらぬ方向から飛来する。
刃を持ち、そのまま直線に投げる。そして、地面に跳ね返らせるのだ。
「人間業じゃないわよ・・・!」
それと同時に正面に迫る黒鍵。
ガンドで弾いたり、身をかがめて避けたりするのだが、明らかに持久力で負ける。
「本調子なら、間違えなく5回は殺されてるわね・・・」
凛が呟く。
「いや、10回は殺している・・・」
ロウワーズの黒鍵が、前後左右から飛来する。
「くっ・・!」
回避するために、跳躍する凛。
だが、当然そこにはロウワーズが待っている。
「折角だ、貴様が落ちろ」

―――ロウワーズ・キエスラ
現在27歳。代行者としての腕は教会でも一目置かれる。
信仰心も人一倍厚いが、「慈悲」よりも「容赦無さ」を持った、正に代行者になるべくなった男だ。
だが、彼は異端であった。
彼が異端とされる原因は、ただひとつ。彼の力だった。
魅力、いや、魅惑の魔力。
男性に使うには少し違うかもしれない言葉だが、この男はそういった「魔力」を持っていた。
そして彼には「ただれた人間関係」がついて回った。
―――この男は節操というものを持っていなかった。
寡黙なのだが、節操は無い。
自分から誘いはしないが、相手の誘いは断らない・・・たとえそれが同性でもだ。
だから、この男は異端だった。

ロウワーズは黒鍵ではなく、凛を殴りにかかる・・・空中での回避など、少し体を鍛えていようが魔術師には不可能・・・
そして、自分の拳には相手を沈黙させる威力は十分持っている。
たとえ自分の体が本調子で無いとしても・・・

「―――stark---Groβ zwei!!」

だが、ロウワーズがいつか格闘戦を仕掛けてくることなど、赤い魔女・・・遠坂凛はかなり前から気付いていた。
握っておいた宝石が、詠唱と共に光る。

「なっ・・・!」

ロウワーズを襲った驚きは、自分の拳が相手の拳に払われたこと・・・そして、魔術師に空中で殴りかかれたことの両方からだ。

「ハァァァ!!!!」

殴ったまま相手の服を掴み、引き寄せて膝で打つ。
空いた拳で裏拳を打ち込む。

「貴様・・・!」
体の痛みをこらえつつ、体制を整えるロウワーズ。
「人を小馬鹿にするんじゃない!!」
着地と同時に懐から、黒鍵の柄を両手いっぱいに・・・両手で合計八本取り出す。
「私の編みし技、その身で受けてるか・・・!」

と、ロウワーズが言った瞬間だった。

凛とロウワーズが戦っている場所と少し離れた場所に、光の柱が立ったのは。

9: 蒔身-王 (2004/04/28 14:39:10)[ymhkx211 at ybb.ne.jp]

「ランサー・・・!」
ロウワーズはその柱を成した者が、自分のサーヴァントだということに気付いた。
「あいつ・・・!」
それは凛も同じこと・・・そして、マスターである2人の行動は全く違わなかった。
ロウワーズは黒鍵を収める。
そして凛も、構えを解いた。
「貴方1人を倒して終わりなら、まだ続けるべきだけど・・・」
ロウワーズが頷く。
「うむ、だが、我等がサーヴァントが盛大な火を上げてしまった。これは他のマスターにこちらの存在を明かすことになる」
あの光だ。この戦場のどこからでも見ることができるだろう。
「確かに、ここで決着をつければ、どっちかは敗れる・・・けど、勝った方がサーヴァントのほうに戻れば、既に次のマスターが・・・」
「勝者に止めを刺すだろう・・・あれほどの光を放ったということは、ランサーといえどもただでは済むはずが無い」
「そうね」
緊張が解ける―――その直後
「!!」

凛はライダーへの魔力供給が止まっていることに気付いた。

「まさか・・・!」
走る。
ロウワーズはもう先に行ってしまった。
―――魔力供給が止まっていると言うことは・・・敗れたということが最も容易く連想できたからだ。

そんなことは無いと信じて走る・・・いや、疾った。

「どうした、そんなに急いで」

と、前から声を掛けられるまで。
「雅人・・・?」
凛に声を掛けた男は、紛れもなく彼女の呼び出したライダー・・・人の姿に戻っている。
「あ・・・そうか」
凛の頭がようやく整理が付いてきた。
「貴方、そういえばその姿のときは魔力要らないんだったっけ」
ハァ・・・と溜息をつく。
やられたのか、それとも元の姿に戻ったのか、現地に行かなければわからないからだ。
・・・いや、「元」の姿という表現は少し複雑だ。
ライダー・・・草加雅人からしてみれば、いまのこの人としての姿が「元」の姿だ。
だが、世界が「英雄」として「英霊」にしたのは、あの黄血と紫目の戦士ではないのか・・・?
だから、あの戦う姿こそが「ライダー」ということか。
凛はふとそんなことを考えた。
だが、普通にする分には魔力供給がいらないというのも、あながち悪くない。
「どうした、考え込んだ顔をして」
ライダーが横から声を掛けてくる。
「いや、なんでもないわ、雅人」
凛の方では、既に「雅人」という呼び方が定着しているらしい。
「そうか・・・しかし、ランサーだったか。あの男は強敵だったぞ」
ライダー・・・雅人が語り始める。
「あの宝具、ホーリーランスと奴が呼んでいたものの威力がこれだ」
歩きながら、雅人は焦土となった平原を指差す。
そこに乱雑に茂っていた雑草は、綺麗なラインで何もなくなっている。
それどころか、地面が変色していた。
「なかなか面白い相手だ・・・あと5人か」
「いいえ、あと6人・・・ランサーのマスターは倒せなかったわ」
「へぇ」
雅人はどうでも良さそうに答える。

「ねぇ、じゃあ説明して」

凛は雅人の持っているアタッシュケースを指差した。

「ソレは・・・何?」

「道具だ」
「・・・いや、それは見ればわかるけど」
当たり前の回答に頭を抱える。
「いいわ、じゃあ聞き方を代えましょう。貴方・・・何と戦ってきたの?」
雅人は少し考える。
「―――敵と」
はぐらかした答えは、当然凛の精神を逆撫でした。
「そんなことわかってるわよ!!で、魔術も知らない貴方が、あんなものを使って何と戦ってきたかって聞いてるのよ!」
髪の毛が逆立つほどの勢いで凛は聞く。

「それは絶対に・・・知らない方がいい・・・そういうモノだった」

だが、それに答える雅人は、今までで最も険しい顔だった。

時刻は少し戻る。

夕暮れの街を、光の柱が照らしている・・・
そして、それを遠くの丘で見る少女が1人。
「おーー!!」
年のころ13〜15、短く切った黒い髪のの少女は、遠くの光の柱を見て騒ぐ。
「凄い凄い、凄いねセイバー!!」
そして、騒ぐ彼女の横で草の上に横たわっている男に視線を向けた。
「・・・・・・」
男・・・黒い髪と黒い外套の「セイバー」と呼ばれた男は答えない。
「寝るなーー!!!!」
・・・男は寝ていた。
「起きろーー!!」
そんな男の頭を、少女が蹴飛ばす。
「・・・痛いぞ」
ゆっくりと体を起き上げる男も、光の柱を見る。
「あれは・・・なんだ?」
まだ眠そうで半開きな目で、セイバーと呼ばれた男は少女に尋ねる。
「観に行くのか・・・?」
腰にさした剣は足と同じくらいの長さ。
「行かないの?」
「面倒臭い・・・」
再び草の大地に体を預ける。
「わざわざ行くこともあるまい・・・俺は厄介ごとは無いことに限るって信条なんだよ」
老人臭い態度の「セイバー」。
外見は、まだ二十台前半だ。
「それに、まだ始まったばっかりなんだろ・・・とりあえず体力は温存しとけよ、カレン」
―――「セイバー」は少女を「カレン」と呼んだ。
「そうだね、セイバー」
少女・・・カレンも草の大地に体を預けた・・・

10: 蒔身-王 (2004/04/29 23:15:18)[ymhkx211 at ybb.ne.jp]

戦場となる街は、既に人は住んでいない。
数十年前に、青い吸血種によって壊滅した、小さな街・・・
その街の教会の中で、ランサーのマスター、ロウワーズは休んでいた。
「しかし・・・なんという血の臭いのする教会だ・・・」
ロウワーズは知っている・・・この教会を血に染めた、青い吸血種のことを。
―――いや、ロウワーズが知っているのは、吸血種ではない。
ロウワーズが知っているのは、「青い」代行者だった。
「ロウワーズ、ここでいいのか?」
ステンドグラスの下の柱に寄りかかり休むロウワーズに、霊体のランサーが語りかける。
「ああ、確かにここは血生臭さがいくら洗っても落ちないような場所だが・・・それゆえ、拠点としては優秀だ」
持ってきた食料を口に含む。
食べているのは、メキシコのタコス・・・それもかなり真っ赤な。
「辛い・・・だが、そこが美味い」

凛はライダー・・・雅人と歩く。
街の入り口に着いたところだ。
「宿というか、拠点とする場所が必要ね」
ライダーも同意する。
「そうだな、できれば、高いところが良いが・・・どうかな、君の資料には確かに明日からと書いてあったが」
凛も思い出す。
ロウワーズという代行者は、今日からだと言っていた。
「資料は、渡される人間によって内容が違う可能性が高いわね」
もしそうだとしたら、この街を散策するのは危険の極みだ。
「・・・そうなら、罠があるって解釈で・・・いいのかな?」
凛は無言で頷く。
「今、何人のマスターがここに到着しているかはわからない・・・けど、私が二人目だと思うのは危険ね」
正式な開始時刻を持たないことは別に新鮮でもない。
だが、今回は場所の問題が一番高い。
決められたゲーム盤・・・その中で、どう動くか・・・それが最重要の課題だ。

「移動する拠点・・・「足」が欲しいところね」

と、地平線に沈む太陽を見ながら、凛は呟くのだった。


―――そして、時間は過ぎる

夜闇に覆われた街の中、黒髪の女が立っている。
「どうです、なにか見えますか?」
屋根の上を見る。
そこには、着物の青年が立っていた。
「いいえ、人らしきものは殆ど見えません。それどころか、動いているものすらありませんよ」
そう報告する青年は、ただ屋根の上から遠くを見つめている。
「そう、さっきの光、出したのは恐らくサーヴァントでしょうけど、上手く逃げたみたいね」
黒髪の女が持っているのは、1冊の本・・・魔術書と、彼女の胸ほどの高さを持った棺だ。
「じゃあ、そろそろもどりなさい、アーチャー」
「はい」
青年・・・「アーチャー」と呼ばれた青年の姿が消える。
「私は勝たないと・・・しかし、協会の規制がここまで激しいとは、思わなかったわ」
女は魔術師協会に所属していない・・・モグリの魔術師だ。
だが、優れた師のせいか、彼女はただの「モグリ」ではすまなかった。
だから、協会はそれを疎ましく思い、彼女をこの地に呼び出した。
彼女の名は、黒桐鮮花といった。

・・・1日目、凛にとっての1日目が終わる・・・だが、戦いはまだ終わらない。
残るサーヴァントは7騎・・・戦わなければ生き残れない。


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