チビと獅子と切嗣と  (M:アルトリア  傾:ほのぼの&シリアス


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1: なたす屋 (2004/04/24 13:29:25)[ark-hryk at ezweb.ne.jp]

「セイバー、宝具で聖杯を破壊しろ!!」

キリツグの令呪が光り、私は剣を構えてしまう。

馬鹿な!!ここまで来て
目の前には待ち望んだ聖杯があるというのに
あと少しで私の望みはかなうというのに
それを・・・自らの手で捨てろというのですか!!

「マスター!!」

駄目だ、止められない。
今ほどサーヴァントである己を呪ったことはない。
今ほどマスターであるキリツグを恨んだことはない。

「騎士王よ、我を忘れたか!!」

アーチャ−が虚空より取り出した宝具が身体を貫く。
だが、そんなものではこの身は止まれない。

「約束された(エクス)−−−」

キリツグ、私は貴方を信頼していた。
共に闘うパートナーだと。
なのに・・・これは

「勝利の剣(カリバー)ーーーーーーーーっ!!!!」

手酷い、裏切りだ・・・






私の放った一撃は確実に聖杯を破壊した。
そしてそこから溢れる泥。

「な!!」

アーチャ−の驚愕の声が聞こえた。彼とそのマスターが泥に飲まれていく。
キリツグは・・・どうやら逃れられたようだ。
だが、身体を射抜かれている私には逃れる力など残ってはいない。

「セイバー!!」

それに気付いたキリツグは必死に手を伸ばす。しかし、私はそれを取ることはできなかった。
もう、彼を信頼できない。
それに令呪も消え、今聖杯も砕け散った。私がここで助かっても意味がない。

今回の聖杯戦争はこれで終わりだ。
また永劫の時の中で聖杯を追い求めるのみ。次こそは、次こそは必ず。
そんな思いを胸に私は溢れる泥に飲まれた。












熱い
熱い
アツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイ
アツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイ
アツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイ
アツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイ

身体が焼ける
咽喉が食道が胃が、内側より溶かされていく
皮膚が燃えている
髪の一本一本からじわじわと侵食される
細胞の一つ一つが絶望に喰われる
圧倒的な恐怖
世界の全てを呪う憎悪
名も知らぬ他人に対する殺人衝動
子供を殺す親
親を殺す子供
それが一瞬ごとに私を襲う。

駄目だ、耐えられない。
こんなモノに耐えられるはずがない。






いつのまにか辺りは地獄に変わっていた。
全てを焼き尽くすかのような劫火
倒れ伏し焼かれていく人々

苦しむうちに移動していたようだ、辺りは焼けゆく民家が立ち並んでいた。

倒壊した建物に押し潰された母親
それを助けようとし、煙に撒かれた少女
水を得られず死にゆく老人
遠くから聞こえる呻き声

それは紛れも無く聖杯戦争の犠牲者である。
この地獄を生んだのは自分達だ。

「私の・・・望みは・・・」

涙が溢れた。
そんな資格などありはしないのに
民のために全てを捧げると決めたというのに
私は涙を堪える事ができない。

何人も・・・何人も斬り殺して聖杯を求めた。
そうすることが王としての私の責務だと信じた。
その果てに辿り着いたのがこの地獄。

「はは・・・あははは・・・」

膝から力が抜け倒れ伏す。
いつのまにか、聞こえていた呻き声も途切れていた。
辺りには濃厚な『死』が漂っている。

「・・・なんと愚かな」

いったい何のために闘ったのか。己の愚かさに吐きそうになる。
自らが作り出したのはこの地獄で
挙句に求めた聖杯はまがい物とは。
そう、あの聖杯は断じて私の望んだものではない。
泥に触れた瞬間に理解できた。たしかに『力』は恐ろしいほどにある。
だが、あの聖杯では私の望みがかなうことは無い。
おそらく、おぞましく歪んだ形で叶えられることになるだろう。

「うっ、くはぁ」

身体の中で泥が暴れる。絶望を次々と吐き出していく。
どうやら私は受肉しているらしい。
この泥の副作用だろう。
本来なら『座』に戻っているはずだ。
歪んでいるとはいえ聖杯。
それとも・・・

「これも罪・・・か」

私に相応しい結末だと自嘲する。
苦い笑みを浮かべ傍らを見やり



少年と目があった。



少年は傷だらけだった。
身体のいたる所が血と泥で汚れている。
それでも少年は、この地獄でただ一人生き残っていた。

少年は真っ直ぐに私を見ている。
そして・・・目に涙を浮かべ歩き出した。

その理由を一瞬で理解する。
少年は私に対し、罪悪感を覚えているのだ。
この地獄で、自らを優先するのは当たり前である。
誰もがそうしなければ死んでしまう。
ましてや十にみたない少年では。

それでも少年は罪悪感を抱く。
自分だけが助かろうとすることに
他人を助けることができないことに
この地獄を生んだ私を助けられないことに。

おそらく今日の事は少年の人生を歪めてしまう。
彼は自分を誤魔化す事ができないだろう。責める必要が無い事で自分を責めてしまう。
それは本来、彼が歩まなくてもよい道だ。

少年は歩いていく。
もう振り返ることはない。

その姿が悲しく思えた。



私は・・・何をしている
この地獄を生んだ原因の一人が
望みのために幾人も斬った修羅が
こんな所で何をしている!!


ここで諦めるのが騎士の在り方か!!
私は・・・こんな所で倒れているわけにはいかない!!!!

相変わらず泥は身体を焼いている。
頭の中では絶望が固体化している。

それがどうしたというのだ!!

身体をおこす
両足に力をこめる

生きなければいけない。
私は生きなければいけない。





立ち上がりゆっくりと歩き出した。






───後書き───

えっと・・・あれ?
予定ではほのぼののはずだったんですが・・・あれ?(笑)
なんか暗!!そして説明くさ
セイバーさん難しいし

こ、今後は多分ホノボノデスヨ
次回からは、切嗣さんとチビ士郎が絡んでくる予定です
ではでは

2: なたす屋 (2004/04/25 01:04:14)[ark-hryk at ezweb.ne.jp]

目を覚ますと天井が見えた。
しばし状況がわからず慌てる。どうやらどこかの部屋の中らしい。
部屋の中央に布団が敷かれており、私はそこに寝かされている。
ほとんど物がない事を除けば典型的な日本家屋。
部屋の区切りは障子でされていた。
周囲の状況は把握したが相変わらずわからない事がある。


・・・どうして私はここで寝ている?




「目が覚めたようだな」

不意に声を掛けられる。
障子の開け、部屋に入ってきたのは一人の老人である。
小柄な身体、優しげな顔立ち
だが、その目は覇気に満ちている。全てを射抜くような眼差し。

歴戦の古強者

そんな印象を与える老人だった。

「おまえさんは道で倒れていた。放って置けなかったんで部屋にあげた。
寝てたのは三日ってとこだな」

必要な事を最初に最低限の言葉で話す。
まるで会話を拒むかのように。

どうやら私は、力尽きて気を失ったらしい。
情けないことだ、目覚めなくても何の不思議もなかった。

「礼を言わせてもらいます。助かりました」

頭を下げると

「礼はまだ早いぜ、事情次第では殺す」

そんな言葉を叩きつけられた。






動揺はしなかった、老人は最初から殺気を隠そうともしていないのだから。

「おまえさん・・・何者だい? 人間じゃねえよな。あんな速度で傷が治る人間
はいねえよ」

どうやら睡眠時に自動修復が働いたらしい。
受肉した今であれば、その程度の魔力は生成できる。

「・・・そうですね。既にこの身は人とは呼べません」

「ふん、じゃあその化け物を昨日の火災と結び付けられねえか? 
余りにも信じられねえような被害だ。テロだろうがなんだろうが、あの規模の火
薬をこの街に持ち込んで、俺に気付かれねえわけがねえ」

おそらく老人は世界の裏にいる人物なのだろう。
平穏に身を置くものでは有りえないほど鋭い気配。

「その通りです。あれは人のモノではない災いです」

「・・・じゃあ、最後の質問だ。あんた・・・あれに関係してるな」

怒気を押し殺したような声。
私に答えられる言葉は一つだけだった。

「そうですね。あの地獄を作り出した一人です」

真正面からそう言った。







「ふん、目を逸らしやがらねえか」

老人はニヤリと笑う。
正直意外である。斬られても仕方がないと思っていた。
もちろんここで死ぬ気など無い。
だが、誤魔化す事なんてできなかった。

「いいぜ、事情を話してみな。聞いてやるよ」

「・・・私を信じられるとでも?」

「ああ、おまえさんは気を失う直前まで人を助けていたらしい。
何人かの感謝の言葉も聞いたよ。
なら俺も信じてみるさ」

「な!?貴方は本気ですか」

こうもあっさりと信頼できるなんて。
自殺行為だ。
まったく・・・これが彼の器の大きさなのだろうか。

老人に事情を話す。
聖杯、サーヴァント、その中にあった『泥』。
今回の事件の事も含め、知る限りを全て。
あるいは私は断罪を望んでいたのかもしれない。
いや、それは逃げだ。
私に許される事ではない。

「それで? おまえさんはこれからどうするんだい」

「私は・・・この地に残らなければいけません。
この地には、今だ強い魔力が残っています。おそらくそう遠くない未来に次の
聖杯戦争が始まるでしょう」

そしてまた悲劇が繰り返されるかもしれない。
それだけは・・・それだけは絶対許す事はできない!!

「ふん、それで次こそは聖杯を手に入れると」

「な!? それは侮辱ですか!! 私はそのような事は考えていません。
訂正を要求します」

反射的にそこまで言って気付く。私はそう思われても仕方がない。
今までの私は、聖杯を手に入れる事しか考えていなかったのだから。

その思いが顔に出たのだろう。
老人は低い笑い声をもらした。

「くっくっく、冗談だよ冗談。まったくおもしれい嬢ちゃんだ」

この老人は意地が悪い。他人をからかう悪癖は私の知人そっくりだ。

「ならこの家に住みな。どうせ行くあてなんかねえんだろ?」

「し、しかし」

「あのなー、国籍もねえようなおまえさんが一人でどうやって生きてくんだよ?」

む!? それは・・・確かに。
私一人では活動が酷く困難だ。

「国籍も俺が用意してやんよ。とりあえずは俺の孫ってとこだな」

「・・・何故そのような事を」

「勘違いすんな!! いいか、これは契約だ。
おまえさんが生活する全てはこちらでそろえてやろう。
住居も、食事も、衣服も、全て与えてやる。
だからおまえさんは必ず次の悲劇を防げ!!
子供から親を奪うな!! 親から子供を奪うな!!
誰かが泣くような世界を作るな!!!!」

叩きつけるような言葉、あるいは彼も誰かを失ったのかもしれない。

立ち上がり魔力で武装を編む。
身体を覆う鎧、全てを切り裂く聖剣。
それは黒く染まっていた。

それはあの『泥』の影響だろう。
だが、そんなものはどうでもいい。
それすらも今日の誓いにしよう。

「我が名はアルトリア・ペンドラゴン。この剣にかけて必ず!」

「ふん、上等!! 今からおまえさんは藤村大河だ。
その誓いを忘れんな」


これが私とライガの出会いだった。
この日より私はフジムラタイガと名乗ることになる。






───後書き───

ほ・・・ほのぼの・・・は?
しかもやけにじいさんが熱くて士郎&切嗣は出ないし
なにやら、既に作者の処理が追いついていない予感満載(爽)

えっと、読んで下さった方はわかると思いますがこのssにはFateの藤ねえは出てきません
原作のセイバーに似た存在が藤ねえと呼ばれる事になります
藤ねえファンの皆様申し訳ない(土下座)
作者も藤ねえファンの一人です
ただし、藤ねえルートは否定する似非ファン
『虎は冷遇されてこそ虎だ!!』という信念がございますので(酷)

藤ねえが英霊のssはあるけどセイバーが藤ねえのssってないなー(当然)
そんな思いつきから出来たこの物語
まだまだ始まったばかりなので、できれば長い目で見てくださいな
作者も無い知恵絞って考えますので

作者はちと特殊な環境にいますので普段ネットが使えません
そんな理由で次のアップは来週になります

それでは皆様またらいしゅーー


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