セイギノミカタ   (M:士郎と遠坂  傾:後日談


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1: 鈴蘭 (2004/04/22 22:27:05)[erement_of_fire at msn.com]

 呆れるほどに澄み渡った空
 蒼空に浮かぶ薄い翠の月がはっきりと目視できる
 あぁ…空気が透明で旨い、やはり早朝は良いな
 時刻は午前4:30、別に誰に強請されたのでも無く、普段から早く起きるようにしている
 鶏の鳴き声が遠くから聞こえてきた
「さて、遠坂と食いしん坊の為に朝飯用意しないとな」
 こうやっていつもの日常が始まった



        セイギノミカタ 前編   夢への歩み



 とんとんとんとん…
 心地よいリズムが台所から流れてくる
「むぅ…」
 彼の朝はいつも早い
 たまには寝顔でも眺めたいなぁと思った事はあるが、私が寝る時間には鍛錬をしているし、起きる時間では足元にも及ばないので叶った事はほぼ皆無だ
『私が低血圧だから…とは思いたくないわね』
 心の呟きが聞こえたわけではないだろうが、彼がこちらに顔を向け唐突に声をあげる
「うわっ!?ど、どうした遠坂。こんな朝早くから…熱か?風邪か?あぁ、あれか女の子のぐぼふぁ」
 最後の変な奇声は勿論私の超絶ストレートが鳩尾に----ってそんな事はどうでも良いとして
「衛宮君。私が早起きだと、何?」
 決まった
 声に含まれた嫌悪感と言い、にこやかな笑顔の中に猛烈な毒を含ませた表情など、完璧ね
「あ〜いや、そうじゃなくてだな。え〜っと、その…」
「その?」
 実は大して気に留めてもいなかったのだが、彼の慌てふためく姿が可愛らしくて少し意地悪をする
 …まぁ、好きな子を苛める小学生と同じようなもんね
 と、そう思い軽い自己嫌悪に襲われるが、やはり眼前の慌てる彼は可愛らしい
 やめられない、やめることが出来ない。…何だか一種の麻薬みたいね
 苦笑を漏らすと、それを不快だから微笑んだと受け取ったのか、眼前の少年は今まで以上に恐縮してしまった
「もう良いわ。美味しい朝御飯を作ってくれたら許してあげる」
 流石にそろそろ後味が悪くなり始めたので、逃げ道を作ってやると、それに顔を輝かせて乗ってくる
「任せろ!今日の朝飯は会心の出来だぞ。あの食いしん坊もそろそろ起して皆で朝飯としようか」
 と、食いしん坊と発言した辺りから彼の背中に殺気をも滲ませた眼光が降り注いでいたのだが、それはまた微笑ましいいつもの風景だった
 …少年は真っ青になっており、常人の目から見れば哀れでしかなかったのだが、それはまた別の話としておこう

 その日の朝食は彼の宣言通り美味しかった
 白味噌の量を減らし、薄めにした中に貝を入れてその出汁で適度な濃さにしてある
 ほんのりとした味噌の甘みの中に貝のさっぱりとした塩味が見事なハーモニーを奏でている
「…驚いた。凄く美味しいわね、このお味噌汁」
 横では食いしん坊呼ばわりされたセイバーが黙々黙々黙々と箸を動かしている
 こくこくと時折頷きながら満足そうな笑みを浮かべている所を見ると、彼女も気に入ったらしい
 士郎はというと、そんな二人を満足そうに微笑みながら眺めている
 こちらの視線に気付いたのか、こちらを見やって本当に嬉しそうな笑顔を浮かべた
 その笑顔は、黄金の光の中で赤い弓兵が浮かべたそれに似ていて----
 不意にどきんと高鳴る心臓と顔の表面温度を維持で抑えて余裕の笑み返す
「あはははは。凛、そんな真っ赤な顔で今更繕った笑みを浮かべてもばればれだぞ。ま、そんな素直じゃない所が可愛いんだがな」
 不意打ちの一言に更に顔の表面温度が上がるのが分かる
 突然の事態に弱い事は自分が一番良く分かっているので、このまま続けても分が悪い
 何となく負けた気分でそっぽを向くと、士郎だけでなくそれまで食べていただけだったセイバーからも忍び笑いが漏れる
 …悔しい
 そんな本物の家族のような朝餉の空気を打ち破るかの如く電話が鳴り響く
「あ、良いぞ。お前らは食ってろ、俺が出るから。……はい、衛宮です。え?…あ、そうです。はい。は…?え、いや、そうでは無いです。はい、分かりました。そう伝えておきます。はい、では」
 電話を置き、食卓へ戻ってくる
 その顔は少しばかり誇らしい色に染まっていて----
「その顔だと、依頼ね」
 質問では無く、確認の声音だ
 それを否定するでもなく頭を縦に振る
 聖杯戦争で自らの末路を知った彼だが、それでも夢----正義の味方になる事----を捨てなかった
 その戦争も終わり、一流になるまで私が鍛えてあげると言ったそれも乗り越え、その暁に何でも屋を開始したのだ
 普通なら在り得る筈の無い自分の完成系を基にした剣術と、禁忌とされる最高位の魔術『固有結界』を習得している彼ならば成功する事間違いなしだろう
 しかも、私という自他共に認める超一流の魔術師に、史上最強の使い魔であるセイバーという三人で経営している何でも屋なので当たり前だが大繁盛している
 と、言うか。このメンバーは既に反則だろう
「うん。でも、遠坂。俺、そんなに顔に出てたか?」
 自らの夢に少しでも近づけるのが嬉しいのか、彼は仕事の依頼が入ると本当に誇らしい顔をする
 その顔に時折見惚れる事もしばしばあり、不審な顔をされることも多々あるが
「お〜い。遠坂?聞こえてるか?」
 この調子ならあの捻くれ者みたいな末路にはなりそうにないし、これでアイツとの約束も破らずに済みそうね
 あぁ、でも、士郎を独占できる時間が減るのも嫌なんだけどなぁ…
 今日みたいに家で士郎の手作り料理を食べる機会も随分減ったから、今日みたいな日くらいは仕事が入らなくたって良いのに
「遠坂!おい、遠坂ってば!…こうなったら----凛、どうかしたのか?」
「え、あ、あぅ…」
 突然名前で呼ばれて不意に固まってしまった
 不覚にも顔が熟しきったトマトより更に赤くなっているのが分かる
「シロウ、リンはどうやら別の世界へ旅立ってしまっているようです。私の個人的な意見ですが、シロウは依頼が来た時物凄く誇らしい顔をする。恐らくはそれが理由では無いかと思われますが」
 いつの間にかセイバーの前にあった料理は無くなり、暇を持て余していたのか私の代わりに答えを述べる
 旅立っているって…アンタ、最近言うようになったわね…

「そ、そうなのか?ちょっと照れるな…。あ、忘れる所だった。明日から中東だ、今回の目標は真紅の華散しって遠坂に伝えれば分かるらしいんだが…」
 最後の代名詞を聞いた途端に遠坂の顔が強張る
「真紅の華散し…聞いた事あるんだけど思い出せないわね…まぁ良いわ。取り合えず明日の準備をしないとね。と、言うことで士郎。セイバーと私の買い物に付き合いなさい」
 自分で顔が強張るのが分かる
 そう、荷物持ち程度は構わないのだが、女の感性?に目覚めたセイバーが実は買い物好きと判明したのだ
 遠坂でさえ驚愕するほどの時間をかける----五、六時間程度は簡単に潰せる----ので、待つ身としてはとてもきついのだ
 それに、その…女性服売り場だし…
 その言葉を吐き出そうとしたが、心の呟きはセイバーの期待に満ちきった眼差しに心の呟きのままにされてしまった
 まぁ…久しぶりの家族サービスと思って頑張りますかね



 数年前までは毎日のように通っていた通学路を三人並んで歩く
 今の時期だったら学生は春休みだろうか、学校からは部活をしている生徒の声しか聞こえてこない
 二人に少し寄って良いか?と告げると、快く承諾してくれた
 弓道場の前に立つ
 今では藤ねえも結婚----どこから見つけてきたのか、相手は世界でも有数の大企業の御曹司だった----したが、教職は辞めずに続けているらしい
 ちょっと中を覗いてみると、新入生らしい初々しくもたどたどしい手つきで弓を持つ部員に弓の持ち方などを教えている
 昔のように雑で荒くて意味不明な教え方ではなく、懇切丁寧で何より貫禄があった
「へぇ…藤ねぇの奴、かっこよくなったんだな」
 口をついた呟きがやけに大きく響いた為、弓道部一同と目が合う
 微妙に気まずい雰囲気が漂いはじめるが、俺が誰かに気付いたのか大声で入ってくるように呼びかけてきた

「うんうん…そっか、元気にしてるみたいね〜。セイバーちゃんも遠坂さんも、勿論士郎もね」
 最近逢っていなかったので近況を報告したり、何でも屋を始めた事を伝えたりと世間話に花が咲いている
「そっちも元気そうだな。そうそう、結婚式に行けなかった事だけど、ごめんな。それと、結婚おめでとう」
「藤河先生おめでとうございます」
「タイガ、良かったですね」
 俺の一言を皮切りに三者三様な祝福を送る
 少し寂しそうな、それでいて嬉しそうな顔をしている
 恐らく、俺に晴れ姿を見せたかったのだろう…俺が衛宮家に引き取られた時からの付き合いの続く、姉として
 結婚式に行けなかった事。それは俺にとってもは心残りだ
 藤ねえの晴れ姿、弟として温かく見送ってやりたかったのだが、結婚式の日程が分かったのは何でも屋としての初仕事と重なっており情報が届いた時には時既に遅しだったのだ
 こちらの表情にも若干の寂しさが混ざったのが分かったのか、すぐに別の話題をふってきた
 曰く、今の弓道部員には経験者が絶対的に足りないので士郎が教えてやってくれ
 こちらにもそんなに時間は無いと伝えたら結婚式に来てくれなかったのにと拗ねられたので断りきれなかった…雰囲気は変わってもやる事は変わってないのな

 袴に足を通す
 日本独特の上長下短の弓を構え、弓を番えずに数度引く
 しゅっ、しゅっと空気を切り裂く独特の音を残して弓が撓る
 一度引き絞る度に精神が覚醒状態に移行していく
 段々と意識が弓を射る事だけに彩られていく
 まずは音が消えた
 次に色が消えた
 そして、矢を番えて…弓を放った
 たん、と軽い音がして的の真ん中に矢が突き立つ
 二本目を番えて同じように放つ
 一本目を弾き飛ばし、全く同じ場所に矢が刺さる
 三本目、四本目、五本目までを放ち構えを崩す
 結果は五本とも同じ穴を貫いていた
 音も、色もなくなっていた世界に活気が戻る
「凄いですシロウ!」
 やけに興奮した様子でこちら見つめてくる
 熱っぽい口調と少し潤んだ視線にどきどきとしていると横合いからわぁわぁと歓声が聞こえてくる
「先輩、俺たちに弓を教えてください!」
「いやっ、私が先よ!先輩は私に教えてくださるんですよね?」
「何言ってやがる!ここは経験者の俺が優先だろう!」
 ぎゃーぎゃーと喧嘩まで始める
 流石に困っておろおろしていると鶴の一声
「はい、それじゃ士郎はこちらの二人とデートがあるから見送ってあげてね」
 藤ねえ…言葉を選んでくれ…
 男子生徒の嫉妬の視線が痛い、女子生徒の軽蔑の眼差しが痛い…
 口を開き弁解しようと思ったが、口を開くその瞬間に遠坂に引っ張り去られた為誤解も解けぬまま弓道場を後にする
 あぁ…俺の株が、俺のイメージが…



 今日の夕飯は遠坂とセイバーの二人で用意してくれることになった
 多少の不安は付き纏うものの、刃物の扱いについてはセイバーの右に出るものは居ないだろう…所詮心安めにしかならないが
 そう思うなら俺がやれば良い?ふっ…俺は弓を射った余韻に浸っているからさ
 …正確に言えば、セイバーの買い物に付き合わされてダウンしているからだが。----ちなみに遠坂はその間図書館に調べ物があると言って逃げやがった
 肉体的な疲労よりも精神的な疲労がたまった為、少し休ませて貰っているといった所が本音だろうか
 20歳も過ぎ、美しい盛りの遠坂と清楚で可憐で凛とした雰囲気のセイバーの二人を連れて歩くのだから多少の嫌がらせは我慢しろと言われそうだが
 何の気概も無く月を眺めながらお茶を煽る
 む、このみたらし団子美味しいな。今度お茶請けに買ってこよう
 背後から準備が出来たと呼ぶ声を聞き、食卓へ向かう
 途中、月を見上げた
「爺さん、明日から俺は中東に行って来る。アンタの夢を継いで、胸を張って凱旋出来る日が来ることを祈っていてくれよ」

 微妙な色合いをした料理や、ごつごつとした切り口の野菜等を皆でつつきながら夜は更けていった
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留意点
※ 凛GOODの後とお考え下さい。多少の違和感は作者の力量不足です、メールでがんがん通知してください


初めましての方初めまして、それ以外の方はお久しぶりです(当たり前ですが)
今回はほのぼの→戦闘→シリアスで終わらせようかと思っています
最後までお付き合い頂ける方も、今回だけでもう読まないよという方も拙作を読んでくれましてありがとうございました
それでは〜

2: 鈴蘭 (2004/04/24 22:34:33)[erement_of_fire at msn.com]

 厚い
 最初に感じたのはそんな事だった
 周囲は見渡す限りの荒原
 所々に舗装された道路も見えてはいるが、車通りはほぼ無い
 その道路も雑草が見え隠れしている事からほとんど手入れをされてない事が分かる
 両隣では暑さにだれている赤い悪魔と青い剣女が居るが、あえて視界から除外する
 うだるような暑さは飛行機に長時間乗っていた体には心地良く感じられる
 空が遠い、空気が綺麗、風が透き通っている
 こんな土地だと気合の入り方も違う、やっぱり空気が旨い所は良いな
 さて、仕事の始まりだ



        セイギノミカタ 後編   魔性の赤-Crimson Daisy Cutter-



 まずは聞き込みを開始した
 今回の対象は『色白で30代後半の男、いつも不敵な笑みを浮かべているが瞳は怯えた小動物』という奇妙きわまりの無いものだった
 しかし、奇妙という事は周囲から目立つので探す時には利点となる…はずなのだが
「あぁもう!何処にも居ないじゃないのよ。これだけ目立つ風貌だったらすぐにでも見つかっておかしくないのに」
 開始してから既に1週間が過ぎた
 こちらへの滞在は魔術協会が手を回してくれている為心配することは無いが、あまり借りを作るのも気が進まない
 だが、現状はというと…
「リン、シロウ、このままでは最悪の事態という事もありえます。今のうちに協会へ連絡を入れて置くべきでは無いでしょうか」
 セイバーがおもむろに口を開く
 内容が正しいだけに何も言い返せないが、その最悪の事態は考えたくない
 今の状況で最悪の事態と言えば一つ。対象がこちらに気付き、そのまま国外逃亡だろう
 セイバーはそれきり口を出そうとはせず、3歩下がった場所で俺たちが唸る様を眺めている
 彼女の言うとおり連絡は入れるべきかもしれない。しかし、何の成果も無く協会に連絡を入れるのは相手に口実を与えることになりそうで嫌だ
 協会は今現在の目標として、俺達三人を味方に引き込もうとしている
 遠坂が時計塔を主席で卒業した事が大きいのかもしれない
 いや、むしろそれに尽きるのだろう
 セイバーという規格外の使い魔を所持し、世界最高峰クラスの魔術師が肩を並べる何でも屋だ
 周囲の目線は俺も彼女たちと同レベルとして----重荷だが----見るのも仕方はあるまい
 重荷というか既に迷惑の粋なんだが
「いや、それはやめとこう。またいつもの勧誘の出汁にされちまうしな」
 言ってから自分の貌が苦笑に彩られているのに気が付く
 そう、俺が居なければ協会に隷属しても構わないのだ
 むしろそうした方が依頼は早く来るので良いのだ、が----
「こちらのメンバーが強すぎるのも面倒ね。セイバーは良いとしても、士郎は固有結界持ちだから協会には頼れない…」
 固有結界
 リアリティー・マーブルと言われる魔術の総称で、自らの心象世界を現実世界に映し出す魔術だ
 心理風景を現実に投射する、と言えば分かりやすいだろう
 最も魔法に近い魔術であり、協会が禁断とする魔術だ
 何故魔法となりえないのかと聞かれると困るが、心象世界を現実に表す事が出来ないわけではないので。ということになるのだろう
 それこそ、プロジェクターを通した映画だろうが、小説だろうが、作者の心理風景を模写しているに過ぎないのだから
 だが、それは道具が介在している上に表す事は出来るが現す事は出来ない
 その点が固有結界が魔法に最も近いとされる所以だろう
 現実を蝕み、術者の思うままの世界を現実に創りだす
 それ故に協会は固有結界を所持する魔術師を排除しようとするのだ
 人類の殻というささやかな尻尾を追いかけるウロボロスのように
 でも、その殻があるからこそ生きていられる人も居る
 だからこそ、俺は協会にも教会にも所属はしない
「とにかく、もう少し探してみよう。聞き込みじゃなくて魔力残滓の探索をしてみたらどうかな?」
 もし周囲の人物達が記憶を改変されて居るのならば、残留している魔力が検出出来る可能性がある
「そうね、魔力の探知なら私に任せなさい」
 遠坂はそういうと目を閉じ、小さな声で呪文を詠唱しはじめる
 周囲に彼女の魔力の網が広がっていくのを肌で感じた
「見つけたわ…と、言うか…私達は尾行されていたみたいね」
 遠坂が街の一端に目を向ける
 一人の痩身で中背、青白いと言って良いほどの男がのそりとこちらに向かって歩き出した
「君達は何者だね?協会の手先だと言うなら少しだけ待って欲しいのだが。私がやっている研究を教えるからそれから考えてくれ」
 それだけ伝えると男は歩き始める
 時々こちらを振り返っているので、付いて来いと言っているようだ


 歩き始めてかれこれ40分はたっただろうか、開けた場所に出る
 何も無い空間だが大気中に含有される魔力量は多い
「ここ…龍脈だわ」
 遠坂の呟きが聞こえる
 微妙に軽蔑した響きが混じっているのは、工房に他人を入れた相手を蔑んでいるからだろう
 俺には良く分からないが、魔術師とは工房を隠すらしいのだ
 そういえば、遠坂の家は寒気がするほどの結界に守られてたっけ
「見て分かるように、ここが私の工房だ。では、私が何を研究しているか話す。そちらで色々検討してくれ」
 男は茫洋とした目で此方を眺めやり、背後の空間へ歩を進める
 時折地面に手を付いて5秒ほど集中しながら訥々と言葉を紡ぎ始めた

 私はこの土地の龍脈の寿命を延ばそうとしているのだ
 ここは幾年もの間、不作による飢餓に喘いできた
 更には龍脈まで衰えが見え始めたのだ
 このままではこの土地は不毛の土地となり、人々は死に絶え、生き物は居なくなり、無限の荒野と化す
 我が故郷がそうなるのは忍びなかった
 だから私は実験を始めたのだ
 どうやれば龍脈を蘇らせれるのか
 どうやれば龍脈の力を上げられるのか
 後数ヶ月でここの龍脈は枯れる、それまで待ってはくれないか?

 魔術師にもこんな人間が居たのかと少し感心した
 今まで俺が出会った魔術師は自己利益のためなら他人の存在さえも否定するような奴ばかりだった
「なぁ、遠坂。後少しなら待ってやっても…」
 全身に震えが走る
 危険だ。危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険
 今すぐここを立ち去れと本能が警鐘を打ち鳴らす
「まぁ…待つ気があろうと無かろうと、死んでもらうがな」
 セイバーと遠坂を抱えて飛ぶ
 半瞬前まで居た地面が弾け飛ぶように穿たれた
 地面に開いた穴は直径5メートルを越える
 発露した魔力量が半端じゃない
「アンタ…龍脈の維持に何を使ったのよ!この土地、穢れが酷い。…まさか」
 愕然と目が見開かれる
 その先には、老若男女の木乃伊の如き姿があった
 その体に厚みは無く、目などは既に潰れている
 生気を大地に吸わせたのだ
「あ…ぁ…」
 協会地下の風景が浮かび上がる
「うぁ…」
 自分だけが助かった、自分だけが許された、自分だけが幸せになった、自分だけが…
 聖杯に全てを吸い尽くされ、それでも助けを求めていたモノを思い出す
 爺さんが居なければソレと同じになっていたはずの自分を思い浮かべる
「…許さない。お前だけは許さないっ」
 目の前の光景にただただ恐怖が浮かぶ
 その恐怖を振り払うかのように剣を構えた


 士郎の様子がおかしい
 私が気付いたものに彼も気付いた
 その途端に彼は脂汗を浮かべながら呻き始めた
「士郎?どうしたの?」
 私の言葉は届かない
 背後を見れば、セイバーも同じような表情を浮かべている
「セイ…」
 背後で光が生まれた
 立ち上がった彼の手には二本の双剣が握られている
「士郎?一体何をするの?----っ」
 一陣の風を纏い、相手へ突進を開始する
「っ!あの馬鹿…っ、セイバー!士郎の援護を、出来れば挟撃で一気に終わらせるわよ!」
 得体の知れない不安感が広がっていく
 士郎とセイバーの両者が出張って負ける事は無い
 だが、不安は治まらない
「ううん、大丈夫ね。セイバーは英霊だから、魔術師如きでかなうわけは無いわ」
 そう言い聞かせるものの、鼓動は静まらない
 そうして先行した二人が…相手を捕らえた


 狙うのは手足、動きを封じればそれで良い
 疾走を続ける
 魔術師の間合いは遠距離、一度近づいてしまえば発動よりも先にしとめる事が出来る
 セイバーが挟撃に向かっているのは分かっていた
「君達には私の名前を名乗っていなかったね。私の名前はアデルバード=ラニキス。爆炎の魔術を得意とする魔術師だ」
 足は止めない
 後、一歩で間合いに入る----
「士郎、セイバー!今すぐ後退し…」
 セイバーと共に最後の一歩を踏み出し、その地面が弾けた


 爆音が鳴り止む
 轟々と鳴り響いていたのが嘘のような静寂が広がる
 セイバーと士郎は無事だった
 体中が煤けているが、何処にも大きな怪我は無いように見える
「士郎、セイバー、出来れば跳躍してここまで戻ってきて」
 私の言葉に二人は首をかしげている
 しかし、説明をしている時間は無い
 急いで!と目で促すと、セイバーが士郎を抱えて飛んできた
 ラニキスは逃げる所か余裕の笑みで此方を眺めている
「説明は簡潔に行くわよ。あいつ…いえ、ラニキス家は魔力の貯蔵に特化した家柄を持っているのよ。手に触ったものなら何にでも使える」
 一度言葉を切る
 アデルバードはこちらの説明が終わるまで攻めてくる気は無いらしい
 ちっ、工房に連れ込まれたのが失敗だったわ
 後悔が込み上げて来る
 しかし、今は後悔している時間が惜しい
「この土地にはアイツの魔力が馴染ませてある。そして、その残留させた魔力を爆発に変えることが出来るみたいね」
 地面に手を置く事で魔力を設置しているのだろう。と告げると士郎の顔色が変わる
「おい、それってやばくないか?ここはアイツの工房なんだろ?」
 セイバーもそれに思い至ったのか、渋い色に顔を染める
 三人の間に静寂が生まれる
 龍脈の上に作られた工房、そして触った場所に魔力爆弾をしかけられる相手
 相手の能力自体は何処にでもあるような簡単な能力だが、戦いの場と貯蔵されている魔力量が尋常じゃないのでかなりの難敵と化している
「さぁ諸君の話し合いは終わったみたいだな。それでは…真紅の華を咲かせようか」
 アデルバードが腕を振り上げる
「そろそろここの龍脈を使って実験するのにも飽きが来たようだ。この戦いで全ての貯蔵を使わせて頂こう」
クリムゾン・デイジーカッター
「----真紅の華散し」
 腕を振り下ろすと共に大量の爆発音が重なって響いてくる
 三人を囲んだいくつかの魔力点が解放されたらしい
 爆炎が迫る
 このままじゃ三人とも今のままでは助からない----ならば、助かる為に必要なモノを創造するだけだ
トーレス オン
「----投影、開始」
 剣の丘が脳裏に浮かぶ
 赤い弓兵が使っていた円冠を思い浮かべる
 神の槍さえも防いだとされる7枚の花弁を想像する
 想像が像を結ぶ
 作り上げた像を現実世界に想像する----
「体は剣で出来ている----」
 現実が悲鳴を上げる
 燃え上がるような炎が浮かんだ
 軋みを上げる歯車が生まれた
 この場の主は既にアデルバードではない
ロー.
「熾天覆う------」
 爆発が迫る
 一つでは足りないというのなら複数作り出す
 爆音が響き渡る
 二つ目が頭の中で創造される
 吹き上がった炎が目前へと飛び込んで----
 最後の一つが焦点を結んだ
アイアス
「七つの円冠----!」
 眼前まで迫った業火は花弁一枚さえも焼くことは出来ない
「遠坂、こいつには近づけないんだよな?」
 確認ではなく事実と知った上で尋ねる
「この場合倒す方法は二種類。遠坂の魔術と、俺の投影だよな?」
 答えを確認もせずに呟きを続ける
「それじゃあ、後二つ投影させてもらうな」
 再度剣の丘に身を任せる
 神話の時代から語り継がれる最強の弓を探し出す
 月さえも射抜くとされた神弓を----
ベルセルクアロー
「月夜を砕く黄金の弓」
 彼が好んで使っていた魔力障壁さえをも穿つ剣を探し出す
 槍と剣が一体化したような剣を見つけ出した
「----我が骨子は捻じれ狂う」
 元々の剣に改造を加える
 アーチャーが…英霊エミヤがそうしたように----
カラドボルグ
「偽・螺旋剣」
 体が燃えるように熱い
 眠っていた魔力回路が全て開かれる
 使っていなかった回路さえも抉じ開ける
 焼ける、灼ける、熱い----
 弓を構える
 音が消える
 色が消える
 世界が消える----
 狙うのは的ではない
 自分の心に向かい合い
 弓を引き絞る
「殺しはしない」
 弓が放たれる
「弓如き軟弱な代物で私の障壁は破れんよ」
 周囲に残存していた魔力をも消費し強大な障壁を作り上げる
 カラドボルグが壁にぶつかり…先端を捻じ込まれる
 螺旋を描き、全てを穿つ矢が障壁を貫いた


 死ぬ、死ぬ、死ぬ、しぬ、シヌ
 恐怖の対象が迫る
 怖い怖い怖いこわいコワイ
 障壁に穴が開く
「ひっ…ひひっ…ひひひっ」
 魂が壊れる
 崩れる、滅びる、消える、入れ替わる
 スイッチが入る
 壊れる前に壊す
 矢が障壁を貫いて飛んでくる
「ひひひひひ!」


ブロークン・ファンタズム
「壊れた幻想」
 相手の目前数メートルを残し、超絶的な破壊の嵐を生み出す
「は…っ」
 息が続かない
 目標は死んではいない
 障壁を一つ残して爆発させたし、今の俺の使役出来る魔力でやった所で俺が見た威力は再現出来ない
「悪いな、遠坂。魔力、吸い尽くしちまった」
 最低限セイバー維持の為に必要程度の魔力以外は全て俺が吸い尽くしたので、顔を上げるのさえ億劫そうだ
「…悪いと思うなら、最初からやらないでよ。私何もしてないのにくたくただわ…。っ!士郎、あいつ動いてる!」
 ゆらりと擬音を残すような起き上がり方で立ち上がる
 それはゾンビのような衝撃的な光景だった
「遠坂、これってピンチじゃないか?」
 二人居る魔術師は魔力切れで身動き不能
 最強の使い魔も主の魔力切れにあてられて眠っている
 ゆらり、ゆらりと近づいてくる
 その体には重要なものが足りない
「こいつ…!人間捨ててやがる」
 体の真ん中が空洞なのだ
 それも、物理的に壊されたのではなく、最初から空洞だったかのように滑らかな肌を晒している
 いつもの三人なら片手で相手できるような相手なのだが、如何せんこの状況では何も出来ない
 死神の足音が一歩、また一歩と迫ってくる中…
「うん、ありがとう。君達のおかげで俺達の仕事が減ったよ」
 背後から青年の声が響いた
「初めまして、君の事は先輩から聞いた事があるよ。俺は…そうだな、殺人貴と名乗っておこうかな」
 黒の何の変哲も無いコートを着た眼鏡の青年だった
「あいつはもう人間じゃない。ここから先は俺達の出番だからね」
 おもむろに眼鏡を外す
 そこに浮かんだ目は青く輝いている
「俺達…って。一人じゃないのか?」
「ん?あぁ、もう一人はここには居ないみたいだね。それじゃ行って来る」
 一振りの小ぶりなナイフを懐から取り出し、駆けていく
 その速度は死人できるような生半可な速度ではなかった
「殺人貴って確か…人外の者を狩る人だわ。復讐騎って奴と二人一組だったと思う」
 鮮やかだった
 ナイフが翻ったと思う暇も無く、堕ちた魔術師は砂のようにさらさらと崩れていく
 眼鏡をかけなおした青年の瞳の色は闇より深い黒
 そして、青年は片手を上げて去っていった
「一体何だったんだろうな…。まぁ、終わったから良いか----」
 これは俺が正義の味方と呼ばれる前の物語り
 だから、大して意味は無く、不思議な青年との遭遇も意味があったとは言えない
 ただ、あの青年からは…自分と同じ臭いがした----
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留意点
※ これは作者の独断による作品です。不平不満は掲示板に書き込むのではなくメールで送ってください
  作者の励みになります。
  感想は掲示板に書いてくれると嬉しいです。
  作者の励みになります。

お久しぶりです。
鈴蘭(れいらん)です。
はい、終わりました。
オチが弱くてつまんねーなどなど文句は多々おありと思います(汗
それでは、次回作でまた逢える事を祈っております。(暗に読めとか言ってません。気が向いたら読んでやって下さい)
どうもありがとうございました。


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