無数の宝具と一振りの聖剣


メッセージ一覧

1: 時重 (2004/04/21 22:29:22)[stigma444 at hotmail.com]


「問おう、貴方が私のマスターか?」

今俺は、青い奴に吹っ飛ばされて土蔵にいた。

そして土蔵の中、突如現れた金髪の少女は俺に問う。

「マスター……俺が?」

「はい」

現状が、理解できない。

そもそも何でこんな事になったのか――

今日の出来事を思い返す。










「おい、いい加減に起きろ」

 聞き馴染んだ声が、朝の到来を告げる。
 だけど、昔の夢を見たせで今日は少し寝覚めが悪い。
 だからもう少し、ゆっくりしていたい。
 時計は六時を過ぎているだろうがたまには寝坊したって良いだろう。
 耳を澄ませば、台所からはトントンと包丁の音が聞こえてくる。
 桜は今日も早いな……。

「ふん、起きぬつもりか……。まあ良い。最近は料理の腕も桜に劣っているようだからな。もう貴様も用無しだ」

 ぬ?
 ちょっと待てよ。それは聞き捨てならない。
 
「待った。洋食ならまだしも、和食なら負けてないぞ!」

 がばっと起きあがってビシッと指を突きつける。
 指さす先はこれでもかってくらいの金髪の男、ギル兄。
 本名、ギルガメッシュ。
 十年前の大災害の原因は自分たちにあるといって、親父、衛宮切嗣と共に俺を育ててくれた俺の兄貴分。
 最初はあの事件に関して親父は何も言わなかった。
 が、それをギル兄が反対を押し切って俺に教えてくれたのだ。
 士郎には知る権利があるし、この事を知っておくべきだ、と。
 その話では、聖杯戦争というものが過去にあったらしく俺はその犠牲者だという。
 そして親父とギル兄はその参加者だったとの事。
 俺は本当の家族を失った。
 でも、不謹慎かもしれないけど、それでも今の生活は悪くないと思っている。
 あ、ちなみにギル兄はいい年なのに無職の駄目人間。
 でも何故かギャンブルは強い。

「相変わらず貴様の扱いは楽だな、士郎」

 む……。
 今日もいいようにあしらわれた?
 でも、料理の事は納得いかないし黙ってるわけにも行かないしな。
 って、それをいいように利用されたのか、俺!?

「ほれ、さっさと顔でも洗ってこい。朝食も直ぐに用意されるぞ」

 取り敢えず、いわれたとおり支度を済ませて台所に急ぐ。
 俺の仕事が無くなる前に!
 …………無駄だった。
 俺が着いたときには朝食の準備は全て出来ていて、仕事なし。

「士郎隊員、貴殿にはお弁当作って持ってくるという重大任務を与える!」
「いや、藤ねえ。朝から意味分かんないぞ……」
「とにかくお弁当をつくるのだー!」
「いや、だからなんでさ?」

 突然意味分かんないぞ。

「ピンチなのよぅ」
「何がさ?」
「もちろん、お財布事情!」

 いや、威張って言う事じゃないし……。

「ギル兄」
「なんだ?」
「お小遣いをプレゼントしてやれ」
「断る。何故我がこんな奴に金をやらねばならん。大体自業自得だ、たまには一食ぐらい抜いけ」

 まあ、ご尤もなんだけどさ……。

「む。いいじゃないのよ。どうせインチキして稼いだお金でしょ?」
「インチキだと! 虎風情が、王である我を愚弄する気か!」
「虎っていうなーーーーーー!!」

 いつも通り、騒がしい朝食は進んでいった。
 結局は、朝の残りを使って桜が昼用の弁当を作って丸く収まった。
 桜は弓道部員だし、藤ねえは弓道部の顧問だ。
 二人が弁当で結ばれるのも至極当然の流れと言える。
 ちなみに、藤ねえのインチキ云々はギル兄の異常なまでのギャンブル運の事を言っているのだろう。
 俺も不思議に思うが、多分インチキはしてないと思う。
 『ふん、愚民が注ぎ込んだ金を我が回収しているだけだ』とは本人談。

「そう言えば士郎。今朝は遅かったけど、何かあった?」
「何もない。それ以上の詮索は我が赦さん」
「む。お兄さん面? 私だって士郎のお姉ちゃんなんだからね!」
「黙れ、虎」
「虎っていうなーーーーーー!!」

 多分、ギル兄は俺がどんな夢を見ていたのか分かったんだろう。
 冬だってのにあれだけの汗かいてりゃ分かるか……。
 藤ねえは俺が昔その夢で魘されてたのを知ってるから、そういった変化には敏感なのだ。
 ギル兄はギル兄で、藤ねえに余計な心配かけないようにしているんだろう。
 多分……、藤ねえで遊んでる訳ではと思う。
 あと、今日は桜もいるしな。

 藤ねえが家を出た後、俺たちも戸締まりをして家を出た。
 桜には痣の事で云々いわれたが、要領を得ず、何が言いたいのかよく分からない。
 
「……先輩。お願いがあるんですけど、いいですか」
「ああ、出来る範囲でなら聞く」
「わたし、明日の夜までお手伝いに来られないんです。その間、出来るだけ家の中にいて貰えませんか?」
「……? それ、日曜のバイトは休めって事か?」
「はい。出来る限り家にいてほしいんです。あの、わたしも用事が終わればお手伝いに来ますから」
「一日ぐらいなら、良いか。じゃあ休日は家でのんびりしてる。それでいいか、桜」
「はい。そうしてもらえると助かります」

 たまにはバイトのない休日ってのもいいかもな。
 大体、俺のバイトは生活費が厳しくてやってる訳じゃないし。
 ギル兄が居る限り、金銭に困る事はまず無い。
 でも、だからこそ世間の真面目に働いている人にに申し訳なくてバイトしてるんだ……。
 ま、ちょうど良いから今週の土日はたまったガラクタを片付けてしまおう。


 学校に着くと、酷い違和感があったが、気のせいと思いさして気にしなかった。
 土曜日の学校は早く終わる。
 午前中で授業は終わり、その後で一成の手伝いを終えた頃には、日は地平線に没しかけていた。

「そろそろ帰るとするか……」

 そう思い立った矢先、

「あれ、衛宮じゃないか? まだ学校にいたのか」

 慎二とばったり出会う。
 何やら急いでる様子で、そわそわしている。

「慎二こそどうしたんだ? 何か急いでるみたいだけど」
「ああ、ちょいと急用があるんだ。だってのに、弓道場の掃除とか頼まれててね」
「あ、それぐらいなら俺がやっとくぞ?」

 部活を辞めてから、殆ど弓道場には行ってないしな。
 たまにはいってみたくもなる。
 ……む。
 別にそこまでの未練があるわけじゃないぞ。
 一寸覗いてみたくなっただけだ。
 って、俺誰に言い訳してるんだ?

「そうかい? じゃあ任せたよ。鍵の場所は変わってないから、やっといてくれ」

 慎二はそう言い残すと、そのまま走り去った。
 何をそんなに急いでるのかは知らないが、慎二にとって大切な事なんだろうな。
 あいつは女遊びが過ぎて、かつちょっとばかし口が悪かったりする。
 でも、根は良い奴だし部活は真面目にやってる。
 付き合いの長い友人の一人だ。

 勝手知ったるなんとやら、弓道場の整理は苦もなく終わった。
 これだけ広いと時間がかかったが、一年半前まで使っていた道場を綺麗にするのは楽しかった。
 ちょっとばかし弓を引きたい衝動に駆られたが、辞めた。
 もう俺は弓道部じゃないし、人の弓だ。
 勝手に弦を張るのは失礼だろう。

「……にしても、カーボン製の弓が多くなったな。一年前までは一つしかなかったのに」

 とか何とか言ってるうちに、時間はとっくに門限を過ぎている。
 時刻は七時を過ぎたあたり。
 この分じゃ校門は閉められてるだろうから、無理して早く帰る必要はなくなってしまった。
 んでもう一時間程やってしまった……。

 帰ろうとしたとき、校庭の方から何やら音が聞こえてきた。

「――何だ?」

 つまらない好奇心で、俺は校庭に向かう。

「…………人?」

 暗い夜、明かりのない闇の中、遠くからはそれぐらいしか分からない。
 それ以上の事を知るため、徐々に徐々に近づいて、その姿をはっきりと捉えられる。
 
「――――――――な」

 何か、よく分からないモノがいた。
 赤い男と青い男。
 二人は手に持つ武器で、斬り合いをしていた。
 その速度は人のそれではなく、視覚で追う事すらままならない。
 正常に働かない頭だが、その凶器の弾けあう音が二人が殺し合いをしている事を理解させる。

 ――アレは人間ではない。

 本能が危険を告げる。

 ――逃げろ

 これ以上直視していてはダメだというのに体はピクリとも動かず、呼吸をする事もできない。
 そして、動けば感づかれるかもしれないとも思う。
 
 ふと、青い方のソレに、吐き気がするほどの魔力が流れていく。
 青い奴は何かをしようとしている。
 多分、それが決まれば赤い奴は死ぬ。
 死ぬ。
 ヒトではないけれど、ヒトの形をしたモノが死ぬ。
 それは。

 それは。

 それは、見過ごして、いい事なのか。

 駄目だろ。

 ああ、駄目だ。

 金縛りは説けて、走り出す。
 多分、追ってくるはずだ。
 案の定、それに気づいた青い奴が後ろから追ってくるのが分かる。
 それにしても、凄い殺気。
 何でか分からないけど、校舎の中に逃げ込んでしまった。
 逃げるなら町中の方が都合良いだろうに……。
 ああ、何やってんだろ、俺。
 ギル兄、藤ねえ、桜……。
 ごめん、俺死んだ。






 気が付くと、廊下に倒れてた。
 
「あれ? 確か俺……っ!」

 体がズキズキ痛む。
 起こった事を思い出そうとすると、酷く頭が痛む。
 長いこと廊下で眠っていたせいか、震えがくるほど体は冷え切っている。
 唯一確かな事は、胸の部分が破れた制服と、べったりと廊下に染みついた自分の血だけ。

「これは、さすがにまずいよな……」

 自分が倒れていた場所は、殺人現場のように酷い有様だ。
 廊下の染みついた血を何とか拭き取る。

「胸を、貫かれたのか――?」

 ハッキリとは分からない。
 徐々に記憶は戻ってきてるが、自分の死んだ瞬間なんて思い出したくもない。
 大体、とんでもないモノに出会って、いきなり殺されたっていうんだ。
 なんだってこんな時まで、後片づけをしなくちゃいけないなんて思ってるんだ、馬鹿。

 何とか片づけを終えて、朦朧としながらも帰路につく。
 家に帰る頃には日付が変わっていた。
 屋敷には誰もいない。
 桜はもとより、藤ねえもとっくに帰った後だ。
 ギル兄は藤ねえの所で雷画さんと酒宴でも繰り広げてるんだろう。
 いつもの事だ。

「は、――――あ」

 腰を下ろし、そのまま床に寝そべる。
 深呼吸をしたところでようやく頭もさえてくる。

「殺されたってのは、間違いないよな……」

 でも、生きてる。
 誰かが俺を救ってくれたのは間違いないが、誰だ?
 あの場に居合わせた、という事はアイツらの関係者かもしれない。
 でも、礼ぐらいは言いたいぞ。

「ぐっ……」

 体のまた痛む。
 そりゃそうか、死んだんだもんな。
 せり上がってくる嘔吐感を体を持ち上げ、耐える。

「くそっ!」

 思い出される。
 槍の穂先が胸に吸い込まれていく様が、感触が。
 実に不快な感触。

 ずっとウダウダしていてもしょうがない。
 少し落ち着いた所で先程の事を考える。
 青い男と赤い男。
 見た目は人間だったが、アレは人ではないと思う。
 二人は殺し合いをしていた……。
 
「………………」

 色々考えるも、結局分かったのは一つだけだ。
 俺にはどうしようもない。
 それだけ。

「――――!?」
 
 屋敷につけられていた警鐘が鳴る。
 ここは腐っても魔術師の家だ。
 敵意ある者が入ってくれば、警鐘が鳴るように結界が張られている。
 そして恐らく、襲撃者は先程のあいつだ。
 だって、あの男は『見られたからには殺すだけだ』と言っていた。

 迫り来る殺気を感じて、俺は俺に出来る事をするだけだと、思考を研ぎ澄ませていった。









「そうか、それであいつと衝突してこうなったのか……」
「何を言っているのです?」
「あ、いやこっちの事」

 金髪の少女は訝しげな表情で此方を見ている。
 金髪度はギル兄と同じくらいか?
 って、今はそんな事を考えてる場合じゃない!

「――――っ」
 
 左手に痛みが走った。
 思わず左手の甲を押さえつける。
 見てみると、何やら紋様のようなものがあった。
 それが合図だったのか、少女は静かに、可憐な顔を頷かせた。
 
「―――これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。
 ――――ここに、契約は完了した」

 俺は現状を理解してないのに、勝手に話を進めていく。
 
「ちょっとまてって!」
 
 俺の言葉なんて聞く気はないのか、俺に背を向ける。
 ――――向いた先は外への扉。

 その奥には、

「ギル兄っ! 帰ってきてたのか! っていうか外の奴は!」
「騒々しい。外の輩ならば片づけた」

 片づけたって……。
 あの化け物をか?

「あ、貴方は!」
「ふん、久しいなセイバー」


記事一覧へ戻る(I)