DEEP RED  プロローグ  1  (M:エミヤシロウ 傾向:シリアス


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1: ゴールデンタスク (2004/04/19 22:56:59)[flarestar666 at hotmail.com]

 
 イリヤは笑った、
 「幸せだったよ」と。

 藤ねぇは泣いた、
 「行っちゃイヤだ」と。

 桜は祈った、
 「どうか、無事で」と。

 遠坂は怒った、
 「勝手にしろ、バカ!」と。

 セイバーは言った、
 「貴方を、愛している」と。

 そして、俺は誓った、
 「正義の味方になる」と。


                DEEP RED
              
               プロローグ 『夜明け』

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 「・・・イミヤ・・・イミヤ!おい、イミヤ!」
 
 「・・・・・・何だ」
 
 俺はそのダミ声を聞いて、思考の闇から覚醒した。目の前には大きめの窓があり、そこ から夜の闇が延々と続いている。俺は窓の外に広がる昏い平原に少し目をやって、それ から、その声の主のほうへゆっくりと振り向く。

 「何だ、じゃねぇ!ボーっとしやがって。それより、見てもらってた俺の銃の調子はど うだ?」

 「ああ、コレか。まぁ大丈夫だろう」

 一度、手元の銃に目をやり、再び目の前の男に向き合った。この男の名前はジム、俺の 同僚だ。デカイ体にヒゲもじゃの顔、三十がらみの典型的な白人である。彼が年がら年 中被っている、トレードマークのベレー帽も健在だった。ちなみに、俺はジムが帽子を 脱いだところを見たことがない。気さくな男で、部隊で気軽に俺に話しかけるのはジム と他数人くらいだ。

 「おい、お前の方が大丈夫かよ、もうそろそろ作戦だってのに。お前らしくもねぇ、ど うしたんだ?」

 気のいいジムは心配そうに聞いてきた。確かに、俺は常に隙を見せない様に気を付けて いたつもりだが、少し油断していたようだ。今まで、話しかけられるまで気づかないな んて無かったのだが・・・。

 「ああ、少し昔を思い出していた」

 最後の作戦前。そんな感傷からか、俺はほとんど語ったことが無い自分のことについて 話していた。

 「家族や昔の友人とか色々な」

 「へぇ!お前さん、家族がいたのか!なんかそんな感じにみえねぇな」

 「む、俺だって木の股から生まれたわけじゃない、家族くらいいる。今は、姉と妹みた いなのが一人づつって感じだけどな」

 「元気なのか?」

 「さあな。もうずいぶんと会ってないし、連絡も取ってない」

 さっきまで考えていたことを、再び思い出す。最後に見た、姉と慕っていた人の泣き顔 だったり、元後輩の心配そうな顔、そして、銀髪の少女の笑顔だった。
 
 「冷てぇ奴だ。しかし、あのイミヤが家族について話すとはなぁ。じゃあ、恋人はどう なんだ、いるのか?」

 ジムは変な指を立て、ニヤニヤしている。

 「恋人か・・・」
 
 俺の脳裏に彼女が浮かんだ。あの聖杯戦争を共に戦った、美しく、気高き王。食いしん 坊な女の子。そして、黄金の別離。彼女は今、幸せな夢を見ているだろうか。

 「・・・そうだな、昔はいたよ」

 「なんだ、別れたのか?しょうがねぇなぁ、女は大事にしなきゃだめだぜ?その点、俺 ときたら・・・」
 
 その時、 「ウィン!ウィン!ウィン!ウィン!」 と、集合を告げる電子音が狭い宿 舎全体に鳴り響いた。

 「集合だ」

 サッと立ち上がり、手に持った銃を突き出す。

 「はぁ、もう集合かよ・・・」

 ジムは銃を取りながらぼやく。

 「ワリィな、使いもしない銃を見てもらってな」

 「たいしたことじゃない。銃のことなんて全然知らないしな。できるのは動作不良を起 こさないように調整することだけだ」

 「それで十分だよ。・・・しかし、信じられないのはお前だ」

 俺に背を向け、ドアの方に歩きながら呟く。ジムの巨体が少し震えているように見え  る。

 「あんな短剣2本だけで戦場に出るなんて、正気の沙汰じゃねぇ。俺は未だに、目の前 でお前の戦いぶりをみても信じられねぇ。」

 ジムは歩くのやめ、こっちを向く。いつものニヤケ顔だった。

 「実際、お前はすごい奴だよ。これまでの戦いだって、敵さんの指揮官達の首をあげた のはほとんどお前だろう?さすが、『レッド・デビル』だ。ほんと、イミヤが味方で良 かったよ」
 
 「『レッド・デビル』?」

 「ああ。敵がお前さんに付けた愛称だ。ま、俺達も使わせてもらってるが。ガッハッ  ハ!」

 ・・・レッド・デビル、赤い悪魔、あかいあくま、か。懐かしい響きだ。倫敦に行った 彼女とは、もう4年近く会っていない。喧嘩別れだったし。あいつは今、どうしてるだ ろう。今頃、俺とは違ってすごい魔術師になってるだろうけど、相変わらず金欠なんだ ろうか。あいつ、けっこうツメが甘いしなぁ・・・。

 「どうした、顔がにやけてるぞ?」

 「・・・そうか?」

 ジムが声をかけてくる。どうやら、顔が自然と笑みを浮かべていたようだ。そういえ  ば、ここ最近笑ったことなどあっただろうか。最後に笑ったのはいつだったか。

 「ああ、お前さんの顔が緩むのを見るのは初めてだぜ。じゃ、珍しいもんも見たし、そ ろそろ行くか」

 気付けば集合を知らせる音はとっくに止まっていた。俺も頷き歩き出す。だが、その前 に・・・。

 「最後にもう一度だけ言っておく。俺の名前はエミヤだ!イミヤじゃない、いい加減覚 えろ!」

 いくら大声を張り上げても、

 「だって、スペルはEだろ?Eならイミヤじゃないか。それに言いにくい」

 などとぬかし、ニヤニヤしている。

 「最後まで無駄だったか・・・」

 「まあ、気にすんな。ガッハッハ!」

 と、ジムは笑いながら部屋を後にし、部屋には俺一人が残された。静寂が降りる。

 「・・・そうか、もうあれから5年か・・・」

 なんとなく、口にだしてそう呟いてみる。あの聖杯戦争から5年。そんな感傷に意味が 無いのはわかっている。しかし、あの頃の輝く思い出は、自分の選んだ道を信じ、走り 続ける俺を支える掛け替えのない宝だ。その時の想いだけを胸に、俺は今も戦い続けて いる。

 「さて、行かなければな」

 俺は壁に掛かっている赤い外套を手に取り、それを着込んだ。そして、鏡の前に立ち、 自分の姿を見てみる。赤い外套を纏い、しかめっ面で立っている鏡の中の男は、俺の嫌 いだったアイツに似ていた。色素が薄れ、オレンジがかって来た髪。日焼けして、薄黒 くなっている肌。そして、185を超える長身。今、実家に帰っても一目で俺だってわ からないかもな。

 「・・・アーチャーか」

 不遜で自信家で皮肉屋で、とんでもなく相性が悪かったが、アイツの言葉は全て的確だ った。最後まで正体の知れなかったアイツ。最強のサーヴァントとも、堂々と渡り合っ たアイツ。アイツの最期の言葉は今でも俺の胸に刻まれている。アイツを超えることは 俺の目標の一つだ。

 「また考え込んでしまったな」

 今度こそ、俺はドアを目指す。そして、誰もいない部屋を見やった。

 「行ってくるよ、セイバー」


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