選択2(M:美綴綾子 傾:恋愛未満 H:薄い)


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1: 舟公木 (2004/04/16 13:58:34)[fnk]

セイバールート:「6日目・帰宅〜夕食 − みんな仲良く。」

 よし、これでご飯の仕込みは終わった。
 副菜にもう一品ぐらい追加したい気もするなどと考えながら冷蔵庫の中身を確認する。
 もう一品の追加と明日のことも考えると材料が少し足りないか。


1.一品追加は諦めるか。
2.やっぱり藤ねえのご機嫌取りのためにももう一品追加しよう。

『選択2』

「おかえり、悪いけどちょっと留守番頼めるか?」
 ちょうど帰ってきた遠坂に留守を頼んで副菜の材料と明日の食材を仕入れに行くことにした。
 「それはいいけど、出かけるならセイバーを連れて行きなさい」
 「いや、まだ明るいし大丈夫」
 2号機を車庫から持ち出して商店街まで一気に下る。

 買い出しを終えて帰ろうとしたとき、ふと嫌な気配を感じた。
 邪悪な魔力の感触。
「あれは−−−」
 振り返ったとき目の隅で捉えたそれを確認しようと思った瞬間に、気配もろとも消えてしまった。
「あれって慎二のトコにいたライダーだったような」
 それと殺気、と口には出さずに考える。

 考え込んでいた一瞬の隙に誰かが自分の腕の中に飛び込んできた。
「衛宮?」
 俺の名を呼び、ひしと体にしがみつくウチの学校の制服を着た誰か。
 甘い香り、柔らかくて熱い。お、女の子に抱きつかれている?

「お、おい」
 思わず声が裏返ってしまう。
 慌てて両肩を抱え、体から離そうとするが、しがみついて離れてくれない。
「衛宮ー」
 なんか聞き覚えがある声のような。けど、まさか。

 いっそう強くしがみつきながら顔を上げたその子は去年のクラスメイトだった。
 怯えきった表情を見た時、一瞬にして頭が冷えた。
「美綴じゃないか。どうしたんだよ」
「殺気が、姿は見えなかったんだけど、ずっと、衛宮ー」
 言葉になってない。けどさっきのライダーと思われるヤツに追われたんだろうか。

 左手で頭を少しなでるようにする。
「落ち着け。
 大丈夫、そんなヤツはもういないよ。ストーカーにしろこんな人通りの多いところまでは追ってこないさ」
「うん」
 サーヴァントに追われていたとしたらやっかいごとに巻き込まれた可能性もあるけど、故意にストーカーという言葉を使う。
 なんてことを考えていたのと胸の感触に気を取られていたので、思わず考え無しな言葉を吐いてしまった。
「だから、あんまり抱きつくな」
「え」
 びっくりしたような顔で自分を見上げる美綴。
 目にちょっと涙をためて頬を赤らめた顔は反則だろう。
 だーかーらー健康な男子に抱きついてそんな顔をするな。せっかく戻った理性が蒸発するだろうが。
 もう一度肩をしっかりと掴み、体を離す。
 今度は背中に回した腕を離してはくれたものの、代わりに右腕をしっかり捕まれた。
「すまない。けど、安心できるまで、もう少し」
 少しは落ち着いて来たようだけど、まだ気が動転しているようだ。
「家どこだったっけ?送っていってやるよ」
「帰っても一人なんだ。
 それに追いかけられているとしたらうちに帰りたくない。
 ……だから一緒にいてくれないか」
 捨てられた子犬のような表情で俺を見上げる美綴。

「じゃ、とりあえずウチに晩飯食いに来ないか。
 藤ねえも来ているから相談しよう」
 サーヴァントに追われていた可能性も考えると実際のことは遠坂とも相談した方がいいだろう。
「うん、ありがとう。迷惑かも知れないけどお邪魔する。
 久々に衛宮の食事が食えるな」
 口ぶりはかなり落ち着いて来てるけど、右腕を掴む力は緩まない。

 自転車まで戻り、自分の買い物と美綴の鞄をかごに乗せる。
 俺が自転車に乗ると、美綴は黙ったまま後ろに乗った。
 で、走り出すとやっぱり、きつくしがみつかれた。
「衛宮って背中でかいな、背は小さいけど」
「一言よけいだ。それにそんなにぴったり引っ付かなくても大丈夫だよ」
 気のせいか早口になってしまう。落ち着け。
「なんで?危ないだろ。
 それに衛宮もまんざらじゃないんじゃないの」
 意地悪く微笑んでいるであろう美綴の表情が目に浮かぶようだ。
「な、なにが」
「間桐ほどじゃないけど、あたしもそれなりって思ってるんだけど」
 なんて言いながら、さらにきつく抱きついてくる。
 背中に心地よい感触が−−−−。
「それとも間桐サイズじゃないと相手にもしてもらえないとか」
 コイツ故意に俺をからかってるな。
「何言ってやがる。大体桜を自転車乗せたりなんてしないよ。
 ったく、俺をからかって何が面白いんだか」
「その反応が楽しいんじゃないか。ご飯三杯はいけるよ。
 やっぱり、衛宮も男の子だったんだねー」
 なんてことを話ながら坂を駆け上る。
 その後美綴がつぶやいた「本当に男の子だね」って言葉は風切り音に紛れて俺には届かなかった。

「ついだぞ。美綴、いつだったかウチに来たことあったよな」
「あぁ」
「自転車置いてくるんで勝手に居間に入っててくれ。
 桜や藤ねえも帰ってるだろうし、場所が分からなくても呼べば誰か出てくるから」

 玄関に美綴を置いて、車庫に向かう。

* * *

「ちわー、お邪魔しまーす」

 玄関の方から声が聞こえる。
「誰か来たみたいね。迎えに行ってみるわ」
 桜に声を掛けて立ち上がる。
 呼び鈴は鳴らさないが、声は掛けるってことは近しい人だと考えていいだろう。
 どのみちいつか会うのであれば先手必勝。
「遠坂先輩お願いします」
 うん、なんて桜の声に答えて玄関に向かう。

 こんなところにいるはずのない人物が玄関にいた。
「−−−−−−え」
「あれ、遠坂だ。なんで衛宮んとこに?」
「衛宮くんの所に下宿してるの」
 大きく目を見開く綾子。
「衛宮と知り合いだったんだ」
「えぇ、4年前から知ってるわ」
「…ってコトはあたしより前の知り合いなのか」
 ”知り合い”になったのは四年前じゃないけど、誤解はそのままにしておこう。
「けど変だな。二日前に衛宮と遠坂のこと話題にしたけど、アンタのこと知ってるとは……」
 何でそんなときに私の話をするかっ。綾子の言葉を遮るようにして。
「あ、あたしは知ってたの」
 してやったりという表情で綾子が笑う。
 げ、引っかけか。
「そうか、あのとき言ってた『好きな相手がいるから断ってる』って、このことだったのか」
 うんうんなんて真剣に綾子は頷く。
「四年越しで実った恋。
 浪漫だよねー」
 ほう、とため息をつく綾子。
「ちょ、ちょっと待ってよ。知ってただけで、好きな相手って訳じゃ」
「けど、四年の間気にかけていた、忘れられないヤツではあるんだよね」
 結果だけみれば確かにその通りではあるんだけど。
 …だけど。
 ……顔が熱い。綾子の前でこんな醜態をさらすなんて。
「だ、だから」
「あぁ分かってる。どうせ遠坂になにか理由があって、無理矢理衛宮の所に押しかけたんだろ。
 衛宮きっとトラウマになってるね」
 こ、こいつー。
「そこまで言い切られると、それはそれで気に入らないんだけど?
 だいたい何故私が原因と言い切れるのよ」
「遠坂と衛宮を知ってるヤツなら、誰がどう考えても同じ結論になるよ。
 理由が色恋沙汰じゃないのは、まぁ確実だけど、
 本当のところは教えてもらえないんだろ?」
 ん、なんてこちらをのぞき込む。
 たかだか二年のつきあいでなんかすっかり手の内を読まれてしまってる気がする。
 ちょっとゆっくり深呼吸する。
「ごめん。
 ところで美綴は何で衛宮くんの所に?」
 一転、綾子がちょっと気弱な顔になった。
「姿が見えないストーカーに追いかけられた」
「姿が見えない?」
「あぁ、殺気だけが追いかけてきた。あたしは人なら何とかする自信はあるんだが、見えない化け物は専門外でさ。
 とりあえず必死に逃げて、商店街で衛宮にあった瞬間にその殺気が消えた」
「それって衛宮くんが何かしたってこと?」
「あたしも結構動転してたから断言は出来ないけど、衛宮も殺気に気付いてのは確かだね」
 綾子は武芸百般の豪傑だ。綾子が感じたってコトは確かに誰かが殺意を持っていたんだろう。
 綾子より腕の立たない衛宮を見て引いたのか。嫌な予感がする。
「今晩は自宅に帰っても誰もいないから、信じられるヤツの側でいたいんだ」
「それって」
「嬉しいことに衛宮がウチに来いって言ってくれたしね」
 話が長くなったね、なんていって廊下に上がり込む綾子。
 ちょっと待ってよ。要するに衛宮が?考えがまとまらない。
 何をしても衛宮の勝手だけど、聖杯戦争中にやるコトじゃないだろう。
 慌てて追いかける。
「で、藤村先生は来てる?」
「まだだけど」
 綾子は手に持ったビニール袋を掲げて台所にいる桜に向かう。

「遠坂先輩、長いお話でしたけど、どなただったんですか?」
 人が入ってくる気配を感じて、振り返らずに桜が聞く。
「間桐、お邪魔するよ。いやー、商店街で衛宮に会って飯に誘われてさ。
 ほい、衛宮の買い物」
「しゅ、主将...」
 桜は状況が理解できてないような惚けた表情で固まってしまった。
「手伝わせてくれよ」

* * *

 自転車を車庫に入れ、門の外に歩いて戻る。
「ライダー、いるんだろ?」
 駄目もとの積もりだったが、闇の中から、黒い装束のサーヴァントが姿を現した。
 これは運がいいのか、悪いのか。
「…………」
「美綴は聖杯戦争には無関係だ。手を引いてくれないか」
「……私はシンジの命を果たすまで帰ることが出来ない」
「その命令ってのが、美綴を怖い目に遭わせろってコトなら、もう十分果たされてるよ。
 美綴があんなに怯えることがあるなんて思わなかった」
「それならば命の半分は実質的には果たされたことになりますが、シンジは目に見える形でなければ納得しないでしょう」
「確かに明日美綴がシンジに会ったとしても、今日のことを気取らせるようなことはないだろうな。
 そういうことか」
「それから、私はマスターに負担を掛けないよう活動のための魔力を集める必要があるのです」
 慎二は魔力がないって言ってたからな。
 けどそれは。
「−−美綴から魂を奪い殺すというのか」
「シンジから殺せと言う指示は受けていない。
 数日間学校に出られなくなるかも知れないが」
「そうすればシンジも納得すると……」
 しかし、美綴から魂を奪わせるというのは危険が大きすぎる。例えライダーに殺す気がなくても、どんな影響が出るか。
「分かった。その代わり、魂を奪うのは俺からにしてくれ。
 あと、美綴は明日から数日は休ませる」
 小さくライダーは笑った。
「ミツヅリアヤコからは魂の半分ほどを貰うつもりだったのですが、
 同じ量の魔力を吸収すると貴方の魂をすべて頂いても足りないのですが」
 それは俺の魔力総量が魔術師でない美綴に全然及ばないといってますか?
「あー、少しおまけして貰えないだろうか」
「でしたら量的には減りますが、質を上げる提案があります」
「乗った」
「ミツヅリアヤコを抱いて下さい。その際のエナジーを吸収させていただきます」
 な、何をいってるんだコイツは。
「やっぱりキャンセル。俺は良くても美綴が許してくれない」
「そんなことは無いと思いますが。ミツヅリアヤコが了解すればいいのですね」
「あぁ、けれど可能性は無いと思う。
 俺と美綴は強敵と書いて”とも”と読む関係なんだ」
 現代の人間関係は複雑ですね、と考え込むライダー。そこは突っ込むところだ。
「では、凛、もしくは、あなたのサーヴァントでは?
 何なら凛のサーヴァントでもかまいません」
「全部不許可。大体遠坂のサーヴァントは男だ」
「わがままな。仕方がない。
 ミツヅリアヤコの了解が得られなければ、貴方の魂をほどほど頂くと言うことで手を打ちましょう。
 我がマスターの意向もありますし」
 そうか慎二も命を奪うなと言う歯止めはかけているんだな。
「それはいい。けれど、どうやって美綴の了解を得ろと」
「ストレートに尋ねるのが一番です」
「無理だ。聞いた瞬間に生命がなくなる可能性が高い」
 とどめを刺すのが美綴なのか他の誰なのかは分からないけど。
「なかなかタフなネゴをしますね。
 ではミツヅリアヤコが迫ってきたら受け入れるでは?」
「そんなあり得ない条件でいいのか。
 その条件でなら呑むよ」
 ライダーが音もなく間合いを詰めてきた。
 何だ、何をする気だ。
「では契約成立の証を、目を閉じてください」
 ここまで来たらライダーを信じて目を閉じる。
「そんなに簡単に私を信じて良いのですか」
「お前は恐ろしいよ、けど信じられる。
 困ったことだが慎二よりもな」
 ライダーが微笑んだ気がした。
 さらに近づいてくる気配、何かを外す音。
「目は閉じたままで、今開けると生命を保証できません」
 ふっと、唇に暖かいものが触れた。
「……ラ、ライダー」
「証です。裏切りは許しません。
 では今夜半、貴方、キリツグシロウが寝入った頃に伺います。
 貴方は特に何もなさる必要はありませんので」

 そのままライダーの気配は闇の中に消えた。



「衛宮くーん、遅かったわね。今まで何してたのよ」
 居間に戻ると、遠坂が鬼のような形相でこちらを睨んでいた。
 桜と美綴は台所で準備をしているようだ。
「食事の準備もそろそろ終わるだろうからセイバーを呼んで来てくれないか」
 その後に台所に聞こえないように小声で続ける。
「急ぎの話があるから俺の部屋で待っていてくれ」
「分かったわ」
 とりあえずセイバーの元に向かってくれた。
 −−−なんかしたかな、俺。

「桜、美綴が藤ねえに相談があるって言うから夕飯に招待した。
 で、悪いんだけど、残りの準備まかせていいか?
 主菜は炊き込みご飯で、もう炊けてるはず。副菜も準備は終わってるから」
 桜は、美綴と何を話していたのか、俺の方に顔を向けると。
「はい、先輩。いいですよ」
「一品足したいんだったら、美綴に渡したもの使っていいから」
 桜の脇でなにやら手伝っている美綴にも声を掛ける。
「美綴、今日はウチの客なんだし、座っていてくれよ」

「それはアタシが手伝うと問題あると?」
「いや、もうほとんど準備が済んでるから美綴の本領発揮して貰う余地が無いってだけ」

「桜、俺は着替えてくるから、その間は任せた」
「はい、先輩。任されました」

 部屋に戻ると怒ったままの遠坂と、何故か不機嫌なセイバーがいた。

「遠坂、美綴から話を聞いたか」
「えぇ、見えない殺気に追いかけられたって話ね」
 セイバーにも目を向けると、小さく頷く。遠坂から話を聞いているようだ。
「俺が殺気を感じて振り返った瞬間にライダーのサーヴァントが見えた気がした」
「ライダー?」
「何故ライダーと分かったのですか」
 遠坂とセイバーが同時に尋ねる。
「今日の昼休み、例の結界を探っているときにライダーのマスターと会って、サーヴァントも交えて話をしたんだ」
「何ですって、誰がマスターなの」
「だから私を連れて歩くように言ったではありませんか」
 いっそうの怒りを明らかにする遠坂とセイバー。
「マスターは慎二だ」
 あちゃ、なんて頭を抱える遠坂。
「勝手にライダーのマスターと会ったことに関してはまた後で。
 とりあえず晩飯前に美綴をどうしたほうがいいのかを決めたいんだ」
「慎二のサーヴァントに追われていたのよね。
 しかも士郎が美綴を連れて行ったのを見ている」
「俺を見つけた瞬間に気配を隠したように思えた。
 遠坂、美綴がマスターとか魔術師だったり、要するに聖杯戦争に絡むってコトは無いよな」
 遠坂がそれを聞いて、なんとも嫌らしい笑いを浮かべた。
「綾子は魔力総量で言うと魔術師以外の人としては、優れている方ね」
 言葉を句切ってこちらを見て笑う。
「念のため言っておくが、俺と比べなくてもいいから」
「そう、残念ね。
 まぁそれを除けば普通の人。どう考えても聖杯戦争には関係しない」
「ということは慎二の八つ当たりだろうな」
「えぇ、まったくサーヴァントをなんだと考えているのかしらアイツ」
「八つ当たりに割ける時間はどのくらいだろう?」
「せいぜい明日の朝くらいかな。学校でもなんか企んでるみたいだし。
 あの臆病者は、私たちがサーヴァントを連れていると思われるときに、サーヴァント無しでは歩けないでしょう」
「じゃ、今晩ここに泊めて保護すれば大丈夫かな」
「もう一日、二日様子を見た方がいいかも。
 なんとか言いくるめて学校も休ませた方がいいわ」
 セイバーにも目線で確認する。
「ライダーが襲って来る可能性に備えろと言うことですね。
 出来ればシロウとアヤコが一緒にいて欲しいのですが。
 二カ所に分かれていては対応できない」
 遠坂が部屋に戻ったときの怒りに満ちた視線に戻った。
「綾子をウチに連れ込んだときと同じように、うまく騙して同衾すれば」
「な、何言ってるんだ。遠坂。俺は連れ込んでもいないし騙してもいない」
「案外、綾子もそうして欲しいって考えてるかも知れないわよ」
 声がすごく冷たい。セイバーも氷のような表情だ。
「とりあえず、今晩美綴をここに泊められるように、藤ねえと美綴の説得に協力してくれ。
 泊める部屋は、セイバーと同じ部屋で」
 わかったわと、遠坂は答える。冷たい視線はそのままだけど。
「3人同じ部屋が望ましいのですが。
 私は同じ部屋で問題ありませんし、凛の話ではアヤコも問題ないとのことでしたが」
「セイバー、お、女の子がそんなこと言うな。
 美綴だって女の子なんだからきっと嫌がるぞ。
 隣でいいだろ」
 目線で隣の部屋を示す。
 本当は座敷に移って欲しいけど、許してもらえないだろうな。
「あ、でも美綴が嫌がったら一緒に座敷に移ってくれ」
「離れていてはシロウを守れない。
 そのときはシロウも座敷に」
 この意見は却下。いざとなったら土蔵に逃げよう。
「そうそう、夜中土蔵に行くのは遠慮してください」
 見抜かれてる。
「じゃ、晩飯にしようか。
 後の話は藤ねえ達が帰ったあとで。
 俺は着替えてから行くから」

 部屋着に着替えて居間に戻るとすでに食事の準備が整っていた。
 藤ねえがいるのを確認して食事を始める。
 いただきます。
「士郎、美綴さんの件は聞いたわ。要するとここに泊めたいってことなのよね」
 藤ねえ、なんかえらく話が早いんですが。
 話を聞いている桜の視線が、遠坂に負けず劣らず冷たいのも気になる。
 困っている人を助けているだけなのに何故なんだろう。
「あぁ、ここまで来たら2人が3人になっても問題ないよ。それに美綴も困ってるんだし」
「そっか、私に相談するとか言っておきながら、美綴さんと一緒に泊まるという結論が先に出ているのね。
 士郎ったら姉代わりの私を口実にして女の子を騙して連れ込もうなんて」
 よ、よ、よ、と泣き崩れるまねをするタイガー。
 それは誘導尋問ってヤツですか。
 冗談にしていい時と悪い時があるだろうに。
「藤ねえ、俺をからかって遊ぶのはいいよ。
 けどストーカーに追われて怯えてる子がいるのに、それをからかいのネタにするのはだめだぞ」
「誰が怯えてるの」
 きょとんと、さも分かりませんという表情をする藤ねえ。
「からかっているのか忘れてるのか知らないけど美綴は普通の女の子なんだからな」
 セイバーと同じペースで黙々と食事を進めていた美綴が固まってしまった。
 気持ち頬が赤くなってるような。なんかまずいこと言ったか?
「そういえば主将、私と話す時の話題ってほとんど先輩のことですよね」
 桜が美綴に怖い視線を投げながら言った。
「そ、それは共通の知り合いだからね」
「確かに美綴さん、私と話す時の話題も士郎のことが多いわ。
 一年の時なんて毎日夢に出てくるとか言ってたこともあったわね」
 追い打ちをかける藤ねえ。
「あ、あの頃は……。
 それに夢に出てきたのは士郎じゃなくて”射”です」
「士郎がした”射”でしょ」
「美綴さん、いつの間に衛宮くんのこと士郎って呼ぶようになったのかしら」
 赤い悪魔も参戦した。
 もうこれは…。
 頭を下げて過ごすことにしよう。
 セイバーが我関せずでコクコク頷きながら食べてるのが救いか。

 食事の片づけは、いつもだったら黙っていても桜が手伝ってくれるのだが、今日は居間で暴露合戦に加わったままだ。
「切嗣さんが引っ越してきた頃の士郎はねー」
「遠坂は4年前から「あーやーこー、何言ってるの」」
「私だって兄さんが連れてきた先輩に会ったのは……」
 セイバーだけは会話に加わらず、食後のお茶を飲んでる。
 けど聞き耳を立ててる気がするのは何故なんだろう。
 巻き込まれると怖いので片づけが終わったら風呂を先に浴びることにする。

 俺が風呂から戻ると、早めの時間なのに藤ねえが動き出していた。
「美綴さん。
 ウチの若いのに車ださせるから、まず桜を送って、その後貴方の家から着替えとか荷物持ってくるってコトでいい?」
「はい、お手数をおかけします。先生」
 遠坂が目線で大丈夫?と聞いてくる。
 ライダーとの取引のことは言えないけど、目線で大丈夫と頷く。
「田舎に帰っているというご家族には私から連絡するわね。電話番号教えてくれる?
 じゃ、車が来るまでに電話すましちゃおっか」
 とりあえず嵐は去ったようだ。
 電話をするために美綴と藤ねえが立ち上がる。
 桜も、じゃ、お先になんて言って一緒に立ち上がる。

 玄関から、車来たよ、じゃ、帰るねーという藤ねえの声が聞こえた。
 これで聖杯戦争に関係のある人だけが残った。

 慎二のこと、ライダーのこと、柳洞寺の魔女のことを話し合う。
「魔女というのはキャスターに間違いないと思うんだけど、何故”魔女”と教えたのかしら。
 士郎に伝えるのにはキャスターといった方が誤解の余地がないと思うんだけど」
「何らかのミスリードを誘おうとしているのでは」
「少なくともライダーは嘘はついていないと思う。ただ、正体を直接言わず、魔女ということで
 ライダーに何らかのメリットがあるんだろうな」
「例えば、魔女と呼ぶと相手が激昂するとか」
「そのあたりか。けど大体の女性の魔術師は魔女呼ばわりされると怒るのでは?
 どうでしょう遠坂さん」
 本性は魔女で間違いないと思える人にお伺いを立ててみる。
「私がそう呼ばれたら、呼んだヤツにはきちんと教訓を与えるわね。
 ところで衛宮くん、何故ライダーは嘘をつかないと思えるのかしら?」
「セイバーもそうだけど、信じられる気がするんだよ。
 これが慎二だったら半分は疑うんだけどね」
 あきれたような視線をよこす遠坂。お人好しって言いたいんだろうな。


「ただいまー」
 玄関から美綴の声が聞こえた。

「あたしの荷物何処に置けばいい?
 誰かと一緒の部屋が嬉しいんだけど」
「私の部屋は離れだけど、狭いんで却下」
 結論はいいんですが、もう少し話のもって行き方を考えてくれませんか、遠坂さん。
「私はシロウの隣で眠っています」
 すごい誤解を招きかねない表現はやめて欲しいのですが、セイバーさん。
「お、それいいね。
 じゃ、あたしも衛宮の隣で。部屋案内してくれる?」
 俺の答えも聞かず、セイバーと美綴はそのまま俺の部屋の方に向かった。
「綾子、同衾する気、満々みたいね。
 良かったじゃない」
「セイバー、ちゃんと隣の部屋に連れて行ったろうな。
 これ幸いと俺の部屋に居座るようなら、俺が逃げだすぞ」
「冗談じゃなく同衾した方が安全よ。
 分散するのは危ないわ。何なら私の所に来てもいいわよ、士郎」
「お前までそれを言うのか。
 そりゃ、一緒の方が安全かも知れないが保護している女の子と同衾なんか出来るか。
 大体眠れなくなったら状況が悪くなる」
「セイバーも綾子も気にせず眠ると思うけど」
「若い健康な男子と一緒なんだから、恥じらいをもって欲しいと思うんだけど」
「貴方のそれは邪念よ。
 まぁセイバーはともかく、綾子はちゃんと持ってるわよ。
 その上で貴方となら同衾してもいいと思ってるんじゃない?」

「呼んだかい?」
 美綴が居間をのぞき込んだ。
「何の話?」
「美綴さんが何処で眠るのかってコト。
 1,セイバーの隣、2,衛宮くんの隣、3,衛宮と一緒、どれがいい?」
「布団は1だね。けど衛宮が許せば3がいいんだけど」
「−−−−−!!!!」
 言葉にならない雄叫びを上げる俺。
「今日みたいに怖いことがあったとき、家にいればぬいぐるみでも抱きしめて眠るんだが、ここには無いから」
「つまり、ぬいぐるみの代わり?」
「ぬいぐるみはあたしを抱きしめてくれないから、衛宮の方が安眠できるんじゃないかと思ってる」
「俺は健全な男子なんだからそんな状況になったら何するか分からないぞ」
「え、ナニをするかはもう決まってるんじゃないの」
 茶々を入れるな、あくま。口に出して言えないのが悲しいけど。
「うーん、衛宮には一宿一飯の恩義があるから、一回くらいならいいぞ」
「恩義でして貰っても嬉しくない」
「大丈夫、いくら恩義があっても好きなヤツ以外とは出来ないから。
 じゃ、風呂借りるよ」
 遠坂にも手で挨拶して美綴は去っていった。
「だってさ」
「二人でからかうなよ。俺はもう寝るわ」
 美綴が帰ってくる前に眠ってしまおう。それが最善だ。

* * *

 あたしが部屋に戻ると、衛宮はすでに寝息を立てていた。
 うーん、あたしなりに精一杯迫ったつもりなんだが、間桐が苦労するのも分かるわ。

 仕方がない。ちょっと心細いがセイバーの隣で眠ろう。
 セイバーもあのときの衛宮じゃないが何か安心感を与えてくれるものがある。



 体が熱い。頭がぼぅっとして何も考えられない。

 机の上に座っているあたし。
 その前に衛宮がいる。

 夢だ。だって衛宮と抱き合うあたし自身が見える。

 何故だろう。世界が赤く染まっている。

 前から後ろから、あらゆる方向から挑みかかってくる衛宮。
 手で、胸で、あそこで、身体のあらゆるところで衛宮を受け入れるあたし。

 夢だ。雑誌で読んだことがあることも、友達から聞いたことがあることも、
 知らないはずのことまでも体が勝手に行う。

 ひたすらに行為を続ける衛宮、あたしの中に、体の至る処に欲望を吐き出す。



 視界が暗転する。

 衛宮の部屋だ。赤い。
 相変わらずあたしと衛宮は抱き合っている。

 いや違う、あたしの腕の中に衛宮はいない。
 あたしに衛宮がのしかかる。衛宮の背中に手を回すあたし。
 あそこに居るべきなのは、あたしなのに。

+ + +

 目を開くと、そこは暗い世界だった。

 あぁ、衛宮の家だ。セイバーと同じ部屋に、衛宮の部屋の隣に泊まったんだっけ。
 いままでのは、夢だったんだろうか。

 起きあがり衛宮の部屋との間のふすまを開く。
 そこには衛宮を後ろから受け入れている女がいる。

 あたしじゃない。

 紫の長い髪をした女。
 衛宮を受け入れるべきはあたし。
 紫の髪の女はあたしに視線をくれると、あざけるように微笑んだ。

 気付くと目の前の女は消えていた。
 あたしは衛宮を押し倒す。

 あたしは知っている。衛宮を口で喜ばせる方法を。
 思っていたほどはうまくできなかったけど衛宮も答えてくれる。
 胸も使ってあげる。桜には負けるけど十分役には立つ。
 衛宮の欲望を口で受け止める。むせる。
 −−−−何故さっきと同じコトが出来ないんだろうか。
 さっきほど気持ちよくはない。けれど衛宮を受け止めると胸が温かくなる。

 舌で衛宮をきれいにする。もう一度衛宮の準備が整ったら、上にのしかかり衛宮を受け入れる。
 あたしの準備はできている。
 痛い。けれどあたしは受け入れる。
 −−−−−さっきは快感だけだったのに。
 衛宮の熱い。気持ちいいって訳じゃないけど、暖かい。満たされる。

 そう、あたしは衛宮を受け止めるんだ。
 もう一度衛宮のすべてを受け入れよう。

* * *

 夢を見ていた。美綴と愛し合う夢だ。
 いや、愛し合うではなく美綴を一方的に蹂躙する夢だ。
 けれど、俺の欲望に美綴は健気に答えてくれた。喜んでくれた。
 初めての痛みも受け入れてくれた
 −−−−あれ、一番最初は気持ちよさそうだったのに、途中で痛みに顔を歪めていたような。

 頭がはっきりしてくる。
 これはライダーの見せた夢なのか。
 そうだろうな、大体美綴があんなことするわけないし。

 あぁ両腕の感覚が無い。
 何故なんだろう。
 
 目を開けて左側を見ると美綴が俺の腕に頭を載せて寝息を立てている。
 「ら、ライダー。いったい何をしてくれたんだ。えと落ち着け」
 考えが思わず口から漏れていた。
 「契約の履行とその手伝いをしただけですが」
 その声は俺の右肩に響く。
 頭を右に向けるとそこにはライダーが同じように右腕に頭を載せている。
 あ、マスク外している。なんかセイバーの時も思ったがサーヴァントってみんな人間離れした美人だな。
 「何故美綴が」
 「ミツヅリアヤコが迫ってきたら受け入れる約束でしたよね。
  彼女は貴方を受け入れると昨夜宣言しましたし、貴方の寝床にも自分の意志で入りました。
  すべて契約通りの履行です」
 「あれは夢じゃなかったのか」
 「さて、私もあなたから十分な精を頂きました。
  他のサーヴァントに見つかる前に失礼します」
 布団を抜け出して、白い背中を俺に見せつけると、一瞬にして黒い装束をまとう。
 こちらを向いて一礼するとライダーは消えた。
 ちょっと待て、ひょっとしてライダーともしたのか。

 落ち着けと自分に言い聞かせる。
 深呼吸してもう一度美綴を見る。
 と、その先に開いた襖、隣の部屋で布団の上に身を起こしたセイバーが見えた。
 「シロウ、男女間で魔力をやりとりする術を身につけたのですね。
  アヤコの魔力の一部がシロウに移動している」
 そうなのか。確かにライダーに吸精されたにしては元気が残っている気がするが。
 「では、私に魔力の補給を。敵は今にも来るかも知れない」
 今から、何をするって。
 
 「遠坂先輩、何故先輩の部屋覗いてるんですか」
 気のせいか桜の声が聞こえる。それに遠坂先輩って今言ったよな。
 ひょっとして−−−−−−−。
 「静かにしてくれ。お前が無理するから体のあちこちが痛いんだよ」
 美綴まで目覚める。
 これはきっと悪い夢だ。
 
 ばーんと力一杯部屋の襖が開く音が聞こえ、その瞬間、俺の意識は消失した。
 
 DEADEND

postscript
応援作品投稿がはじかれたようなので(Hアリは不可の模様)
見直してこちらに。

後半力尽きてます。前半も....。



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