Fate / stay night〜時を駆ける少女〜


メッセージ一覧

1: DAY (2004/04/15 21:37:33)[aday at m9.dion.ne.jp]

Fate / stay night〜時を駆ける少女〜


第一話 終わりと始まり





”I am the bone of my sword.”
”体は剣で出来ている”

”Steel is my body,and fire is my blood.”
”血潮は鉄で、心は硝子”

”I have created over a thousand blades.Unknown to Death.Nor known to Life.”
”幾たびの戦場を越えて不敗。ただの一度も敗走は無く、ただの一度も理解されない。”

”Have withstood pain to create many weapons.”
”彼の者は常に独り、剣の丘で勝利に酔う。”

”Yet,thous hands will never hold anything.”
”故に、生涯に意味は無く。”

”So as I pray,unlimited blade works.”
”その体は、きっと剣で出来ていた。”



聖杯戦争・・・・聖杯と呼ばれる願いを叶える呪物を巡り行われる争いの事を指す。
聖杯とは最高位の聖遺物であり持ち主の願いを叶える願望機であり。
その起源は各地の神話で顔を見せる”願いを叶える大釜”であると言われる。

故に聖杯と呼ばれるモノが伝説の聖杯と同じ力を持つのならば偽モノを巡る戦いでも聖杯戦争と呼ばれる。

冬木と呼ばれる土地で行われる争いは他の地方とは、その趣きが違っていた。
七人のサーバントと呼ばれる、かつての英雄
七人のマスターと呼ばれる、夢を求めし者達
七組の聖杯を求めし者が集い争う蟲毒の儀式

そして、今 聖杯戦争は終結の時を迎えようとしていた。

ゴゴゴゴと洞窟が振動する音が聞こえる。

大聖杯を形成する洞窟が崩れようとしている。
ボロボロと体が崩れていく。
彼女の主であった彼が突き刺したアゾットの剣は確実にサーバントの核を傷つけ、この身は崩壊の一途を辿っていた。

しかし、彼はやはり甘い。
深さが足りない。
この身が滅びるのは避けようがないが、あと少しこの剣を押し込んでいれば自分はとっくの昔に消滅しているはずだ。

目を閉じる。

人は最後に自分の人生を垣間見ると言うが、浮かんでくるのは彼と出会ってからの一週間にも満たない短い時間のことばかり。

選定の剣を抜いた時から私の人生は無く。

「な――――――ばか言ってんな、女の子を助けるのに理由なんているもんか・・・・!」
彼のこの言葉を聞いた時からが、アルトリアと呼ばれた少女の人生の始まりだったのだろう。

風の強い日だった。
雲が流れ、わずかな時間だけ月が出ていた。
私が発した問いに対して
「え・・・・・マス・・・・ター?」
これが、土蔵に座り込んだ彼の始まりの答えだった。

一週間にも満たない付き合い。

「これから一緒に戦ってくれるか。オレにはセイバーの助けが必要だ。」
しかし、不思議と信頼できる少年だった。

「魔力の温存は判ったよ。けど人間食事も大切だろ。昼は余りもので済ませちまったから、夕食はちゃんと食べてくれ寝るのはその後でいいじゃないか」
魔力を温存するために眠ると言う私を引きとめ日常を体験させてくれた。

「――――――あの人助かったよ。セイバーのおかげだ」
ライダーに襲われていた人を助け感謝された時には、誇らしい気持ちになった。

「今まで通り学校には行く」
時に私を困らせ無茶をするが、決して嫌いではなかった。

私は、そんな彼の運命を歪め。
「これより我が剣は貴方と共に有り、貴方の運命は私と共にある。
――――――ここに契約は完了した」

酷く傷つけてしまった。
「セイバー おまえに何度も助けられた」
そう言って泣きそうな顔をしている彼の顔が焼きついて離れない。

何をしても 償いきれぬ。

嘆きも後悔も既に遅い。

もはや、この身は砕け心はあの丘に戻るのみ。

されど願う・・・・・願わくば彼「エミヤ シロウ」に武運を








ギシギシと体がボロボロと心が壊れていく。

やはり、■宮士郎は正義の味方■しかなかった。

桜の味■にな■と誓った■にだ。

考えが纏らない。

考えた端からボロボロと崩れていく。

逃げれ■よかっ■のだ、■は既に助けた■だから。

世界■ての悪など他■誰かに任せて■まえば良い■だ。

自分は桜だ■の味方なの■から。

もう長くは無い身■■、闘わず生きる事の■を考え■ば、まだ■■■は持つはずだ。

生き■い、■■たい、生き■■、生■■い、■きたい、■キた■、生■たい、生き■い、
生きた■、生■たい、■きたい、生き■■、生■たい、生き■い、■■■い、生■■■、
生■たい、■きたい、生きた■、■■■い、生き■い、■■■生、生■たい、■■■■、

生きたい、

だが歩みを止める事は出来ない。

それ以外の生き方を知らない。

それ以外の護り方を知らない。

これ以外に彼女らを幸せにする方法を知らない。

左腕が訴えかける。

止まるな

理性が訴えかける。

止まれ、そして何もするな。

止まり、戻ればオレは■と死ぬ瞬間まで幸せに暮らせるだろう。
―だが、それは贖罪にはならない―

もう名前も思い出せない。

歩みを止めれば、それは■■■の生き方への侮辱となる。
―彼女は、喜んではくれないだろうが―

それは、誰だったのだろう。

大丈夫、オレが居なくなっても■■に任せとけば大丈夫だ。
―きっと髪を逆立てて怒るだろうけど―

事態を纏めてくれるだろう人は誰なのか。


■■出せない、思■出せない、思い出■■■、思い■■ない、■■■せない、思■■■ない、■■出せない、思■出せない、思い出■■■、思い■■ない、■■■せない、■■出せない、思■出せない、思い出■■■、思い■■ない、■■■せない。


思い出す必要がない。
この足は止まらず歩きつづけ。
一歩ごとに命をすり減らし、記憶を砕いていく。
味覚を失った。
嗅覚を失った
聴覚を失った。
触覚を失った。
視覚を失った。
名前を失った。
記憶を失った。
信念を失った。
誰かの顔を失った。
誰かの声を失った。
言葉を失った。

■■■■を構成している全てのモノが一歩一歩失われていく。

その前に着いた。
「投影、開始(トレース・オン)」
パリンと音がして、最後に残っていた言葉を放つと同時に失った。

手には星の聖剣
しかし、真名を解放する事も剣を振り下ろすだけの力が残されていない。

だが、世界には多くの夢を織る機械がある。

救えぬはずの命を救い、人の身では叶えられぬはずの偉業を成し遂げた者
それが第一条件、故に世界は彼に問い掛ける。
― 問おう 汝の望みは何か?―

望み?

自分には、何もない。
だが、そんな自分の最後に残った一枚の風景。
それは、何でもない食卓の風景
金髪の女の子がコクコクと頷きながら食事をしている。
赤い服を着たツインテールの女の子が我が物顔で微笑みながらで食事をしている。
紫のかかった髪の女の子が嬉しそうに笑いながら食事を運んでる。

壊れきった自分に最後に残った風景、ならばコレが自分にとって最も大切なものなのだろう。

すでに、言葉はない。
故に此れは望みでは無く願い。
欠片となった最後の心が願った願い。
「彼女らが幸せでありますように、幸せになった彼女らが見たかった。」

そして・・・・周囲は、それ以外の光はいらぬとばかりに輝き。

世界全ての悪を育んでいた胎盤と黒い太陽は消滅した。





朝の柔らかな光が顔を照らす。
その心地よい感触に目を開ける。
「・・・・・・なぜ、私は生きている?」
アルトリアは頭を起こし刺された胸を見る。
傷跡など無い。
「なぜ・・・・・・」
そう、何故。
その疑問だけが胸を満たす。
傍らに突き刺さる聖剣は、いまだ呪いに犯されたまま。
「これは一体?」
体を起こそうとして手に赤い布が触れる。
「これは、アーチャーの外套・・・・・」
一級品の概念武装である布で剣を覆い。
歩く、懐かしい令呪の縛りを感じる場所へ向けて。
その丘は砕け、大きな亀裂を刻みながらソコにあった。
禍々しいオドは清浄なモノに変わり祭壇のあった丘には温かな日の光が照らしている。
ここまでくれば間違いは無い、この令呪の縛りは彼だ。
丘を駆け上がる。
駆け上がる。
駆け上がる。


駆け上がった丘の先に彼女らがいた。
リンとサクラが立ち尽くしている。
後にはライダーが控えている。
「リン!サクラ!!・・・・シロウは!!!」
2人の様子がおかしい、嫌な予感を振り切るように走る。
「セイ・・バー」
「・・・・セイバー・・・・さん」
彼女らの声は虚ろ。
彼女らに駆けより、そして言葉を失う。



そこに在るのは幾百の剣に貫かれたモノ言わぬ鉄塊。
そして、墓標のように地面に突き刺さった聖剣。
それが、今の”エミヤ シロウ”の姿だった。



「士郎、サクラを支えるのは貴方とリンでなくては認めないと言ったはずですよ。」
ライダーの言葉は弱々しくシロウを責める。
「私が・・・・悪いんです。
 私が、悪い子だったから
 私が、弱かったから

 私が

 私が

 私が」
サクラが頭を抱えて崩れ落ちる。
それをライダーが支える。
「別にアンタのせいじゃないわよ。こいつがバカだっただけよ」
リンは何時もの調子で、そう言った。
「姉さん!!
・・・・・・・・・」
怒りに顔を上げたサクラがリンの顔を見て何も言えなくなる。
その顔にあるのは始めてみる遠坂 凛の涙であったから。
「いや、サクラは悪くない。
 悪いのは私だ。
 シロウの剣になると誓っておきながら彼を護れず。
 最強のサーバントと言われておきながら何も救えなかった私が悪い。」
そう、私は何も救えなかった。
救ったのは彼、だけど彼は自分を救うことはできなかった。
ならば、彼を救わなければならなかったのは誰か?
彼の剣となり運命を共にすると誓った私の役目だった。
「そう、私が悪い」



「はい
 そこまで、いつまでもウジウジしていては立派なレディとはいえないわ」
そこには陽光を受け黄金の王冠と白いドレスを輝かせるイリヤスフィールがいた。
「どうしろってのよ。
 もうコレは魂の無い抜け殻、ただ士郎であったものってだけじゃない!!」
「そうです。
 わたし達に何ができるって言うんですか!!」
突然のイリヤスフィールの登場にいきり立つ遠坂姉妹、育ちは違ってもさすが姉妹と言ったところか。
「じゃあ、シロウの魂は何処に逝ったの?」
「そんなの解るわけないじゃない!!」
イリヤスフィールの質問に髪を逆立てて怒るリン。
「英霊の座、そこにシロウが行ったのは間違いないわ」
「な・・・・なにを根拠に?」
動揺するリンにヘヘンと言った感じでイリヤスフィールが説明を続ける。
私もサクラも食い入るようにその説明を聞く。
ソコにシロウを救う手段を見出すために。
「私の中には、まだ聖杯戦争に召喚されたアーチャー、英雄エミヤがいるの。
 シロウは、定められた運命を捻じ曲げるような事をしてのけた。
 だから、シロウはアーチャーの穴埋めに英雄の座につき、このアーチャーがするはずであった仕事をしているはずよ。
 当然、何処かの世界の聖杯戦争に召喚される事もあるでしょう。
 シロウはアンリ・マユの胎盤と呪いである黒い太陽を打ち砕いただけ、聖杯は未だ閉じてはいないわ」
大聖杯は、根源へ繋げる穴。
それ故、異界へと繋がる通路となりえる。
「だから、どうしろって言うのよ無限に連なる世界の中から士郎を探し出せって言うの?
砂漠の中から一本の針を探せって言ってるのと同じよ!!」
リンの言葉にフフンとイリヤスフィールは意地の悪そうな笑みを浮かべ私を指す。
「針に糸がついているとしたら?
 糸を辿って行けば捜すのは簡単じゃない?」
「そうか! セイバーなら魂に刻まれた令呪の糸を辿って士郎を探し出すことができる。
まって、そのままじゃセイバーがコノ世界に帰ってこれなくなる。
・・・・・・なにか・・・・なにか方法が・・・・・方法があるはず。」
リンは考え込みまわりを見渡す。
そして・・・・・・
その目はサクラの位置で止まる。
「・・・・・桜!」
「は、はい姉さん!!」
突然声をかけられたサクラが吃驚ながら返事をする。
「士郎の体から令呪を削って『偽臣の書』を創れる?」
「はいっ創れます!!
 仮マスターを作って、こちらの世界への道標とするんですね!姉さん。」
シロウを救える、その為に出来る事がある。
そのことで私達の顔に希望がよぎる。
「そうよ、桜。
 貴方が仮マスターになりなさい。
 私とイリヤは、聖杯の穴の制御をするわ」


準備は迅速に行なわれた。
長期戦になることを見越した食料の用意 アルツベインの城と遠坂家から役に立ちそうな魔具をかき集め準備を急ぐ。


用意は、整った。
私は、選定のやり直しのために聖杯を求めた。
冬木の聖杯は呪いに満ちたモノだったが願いを叶える機能は残されていた。
私が王でなければ、もっと良い王が剣を抜いていれば・・・・・・
あの、悲劇は起きなかったのではないか?
私はアーサーでは無くアルトリアに戻り何でもない日常を過ごせたのではないか?
騎士の誓い、王の責務、少女としての願い。
私は、まだ聖杯を求めるだろう。
何も果たされてはいないが、自分にしか出来ぬ事がある。
自分にしか出来ない事を精一杯している仲間がいる。
ならば、今は前を見るべきだろう。
リンは、サクラ、イリヤスフィール、最後に私を見て言う。
「セイバー、あのバカの頭ぶん殴ってでもつれて帰りなさい!」
その瞳を受け私は誓いを立てる。
今度の・・・・いや、今度こそ誓いを果たせるよう守れるよう力を込めて!



「はい!! 必ず。」



そして、私は揺れる心と硬い誓いを胸に暗い闇の中に飛び込んだ。










作者の戯言

「製作、開始(トレース・オン)!!!」

『創造された物語を鑑定し、
 基本となるアイデアを想定し、
 構成されたキャラクターを複製し、
 文章製作に及ぶ技術を模倣し、
 夢の展開に至る分岐を想像し、
 受け手に蓄積された概念を再現し、
 あらゆる工程の矛盾を突き―――
 ここに、幻想を結び二次創作と成す――!』











2: DAY (2004/04/15 21:38:33)[aday at m9.dion.ne.jp]

Fate / stay night. 〜時を駆ける少女〜

第二話 〜No name HERO〜




世界は夢で織られている。


全ての生あるものは未来に夢をみる。
それは、行動となり。
未来が紡がれて行く。
そう、未来は夢で織られている。



気がついた時、自分はすでに英霊の座にいた。

人を守護する最高の存在
かつて在った英雄という存在を組み込んだ世界の防御機構

自らの名を思い出すこともできず。
赤い布の巻かれた腕よりインストールされた戦闘情報を寄る辺に戦い続けた。

理不尽な運命に流され、世界を呪うしかなくなった者

ただ、生きたいという思いを抱いて生贄となった世界を飲み込もうとする妄執

愛する者と共に在りたいと願い、世界を侵食しようとした者

世界を脅かす終末に現れ
邪悪なるモノを滅する殲滅機関


名を守護者という。


守護者が召喚されるのは、すでに殲滅以外の解決が不可能になった終末の世界
救う者は、もはや居らず
救える者は、もはや居ない。

それでも、救える者はいるのだと信じて。

その思いは純粋で、それ故に強く。絶望の具現と戦い続けた。


楽な戦いなど無く、苦しくない戦いなど無かった。


自分に残された、ただ一つの光景を支えに戦い続けた。

金髪の女の子がコクコクと頷きながら食事をしている。
赤い服を着たツインテールの女の子が我が物顔で微笑みながらで食事をしている。
紫のかかった髪の女の子が嬉しそうに笑いながら食事を運んでる。


守護者は本来、意思のない殲滅機構
だが、彼に奪うほどの意思は無く。
助けるんだ、護るんだ。


その思いしか残されていなかった。


そして、永遠に続いていくような戦いの中で呼び声を聞いた。


「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

その声を聞いたとき、彼は涙を流していた。

「満たせ。 満たせ。 満たせ。 満たせ。 満たせ
繰り返すつどに五度。 ただ、満たされる刻を破却する」

そう、その声は彼を満たし、自分はちゃんと彼女らを護れていたのだと思いを強く持つ。

「―――――セット」

「――――――告げる」

「――――告げる
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

否は無い、すでに己の身は彼女らに捧げている。

「誓いを此処に
我は常世総ての善と成る者
我は常世総ての悪を敷く者
汝三大の言霊を纏う七天
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

召喚の力の渦に身を任せる。
からっぽの自分に聖杯より情報が送られる。


そして、英雄「   」は聖杯戦争に召喚された。





3: DAY (2004/04/19 02:17:46)[aday at m9.dion.ne.jp]

Fate / stay night. 〜時を駆ける少女〜
第二話 〜summoner girl〜





夢幻の空間を漂う。
左右など無く、上下すら無い。
黄昏の空のような空間を細い糸を辿り彷徨う。
不安は無い。
この身は必ず彼の下へと辿りつく。
両端をしっかりと握られた糸の果て
彼の地で待つ魔術師の少女達を感じる。
彼方の地で戦う彼の意思を感じる。

短いけれど
珠玉のごとき思い出がある。





新たな糸が繋がる感覚に目を覚ます。
戦いの時は近い。
恐れは無い。



この身は彼の剣なのだから




聖杯戦争で勝ち抜くには良いサーバントを呼ばなければならない。
宝石で作られた十二楔を基点とした魔方陣を組み魔力を通して起動させる。
大きな器にパスが通り。
高い所から低い所へと水が流れ落ちるように魔力が吸い上げられていく。
貧血で倒れそうな感覚、今にも昏倒してしまいそうな意識を繋ぎ、夢幻の世界へ手を伸ばす。

そして、剣の柄を掴んだような感覚に心でガッツポーズをとる。

「よし! 最強のカードを掴んだ」

私の狙いは聖杯戦争の最良クラスのセイバー、掴み取った剣の感触に気を取られた一瞬。

ピシッ

ガラスにヒビが入るような音と共に結界がきしむ。
時計で言うところの一時方向、私の魔力が最高潮に達するのは二時であるから世界時を模倣した結界も二時方向に英霊の通る通路を作ってある。
本道を補助する副道である一時方向に英霊を支えるだけの地力は無い。

なぜ、一時方向から英霊が来ようとするのか、いや思考の時間も今は惜しい。

『Do not go through the official channels make alterations heavenward』
(正式なる経路を通るな 変更せよ 天へと向かって)

結界の楔が弾け飛ぶ刹那の間に力の経路を上に向かうように変更する。

荒れ狂うエーテルと衝撃が吹き荒れる中、工房にある時計が一時を指しているのを視て、
屋敷中の時計を早くしていた事を思い出す。
「お父さん、この家に生まれたことは後悔してませんが血筋は呪っていいですか?」
そんな事を呟きながら私こと遠坂凛は、しばしの間 意識を手放す。




爆音と共に体が壁のような物に叩きつけられる。
あまりの事に叩きつけられたのが床なのか壁なのか、それとも天井なのかも分からない。
衝撃は二度、そこから自分は天井に叩きつけられ床に落ちたと推測。
敵の攻撃の可能性があり自分には護らなくてはいけない人がいる。
「 fall in start(同調開始)」
全身に魔力を通して剥離していた意識を体を繋ぎ飛び起きる。

素早く周囲を警戒。
周囲に敵意ある存在は無し。
ついでに召喚者の姿も無し。

なんでさ。

体に流れてくる魔力のラインを辿り、召喚者を探す。
床下、しかも弱っている。
助けなくては
その思いで心が一杯になり、その方法を模索する。
「construction analyze(構造解析)」
オリジナル マジックワードを唱え建物の構造を解析する。
床をぶち抜いて急行するか?
却下、天井全体が崩れ工房を潰す仕掛けがある。
このまま撃ち抜けば瓦礫で潰してしまう。
では、降りるための階段は何処にあるか?
この部屋の外に不明なデットスペースの存在を確認。
「無事で、いてくれよ。」
祈るように呟きながら走る。
爆発で歪んで開かない隠し扉を蹴破り、階段を駆け下りた。




正直な話、遠坂 凛は寝起きが悪い。
柔らかい布団の感触と温かさを感じつつ霞む眼を開ける。
「おい、大丈夫か?」
ぼやけた視界に良く見知った顔が映る。

あれ?なんでコイツがいるんだろう?

人の良さそうな顔に不安げな表情を浮かべながら私を覗き込んでいる。

遠くに行ってしまった妹は彼の横では笑顔だったのが印象的だった。
飛べないハードルに何時までも走り続ける彼の顔が心に残った。

あれ?自分は何をしていたんだろう?

だんだんと頭がハッキリとしてくる。

聖杯戦争のパートナーとなる英霊を召喚しようとして、
何故か結界の手薄なところから英霊が現界しようとしたので結界が吹き飛んで・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・は?


「なんで、アンタが此処にいるのよぉぉぉぉ」
振り上げた拳が私を見下ろす彼のアゴにヒットして、仰け反る彼から「だから、なんでさ」なんて声が聞こえた。





あれから私達は居間に場所を移した。
今、ようやく片付けが終わったので私が紅茶を淹れて彼と差し向かいで座っている。
実はその時に瓦礫を退かす作業で
「女の子に重いもの持たせるわけにはいかないから、モップで床掃除をしてくれ」
と女の子扱いされたのが嬉しくもあったが。
改めて彼の顔を見る。
やはり似ている。
肌の色も違えば髪の色も違う、だが雰囲気が彼にとても良く似ているのだ。
家具の修理につかってるドライバーが似合う所なんか特に
しかし、彼は人間そのものに見えるが、こうしているだけで桁外れの魔力を帯びている事が分かる。
間違いなく人間以上のモノ、人の身で精霊の域に達した”亡霊”だ。
「それで。アンタなに?」
彼は紅茶を飲む手を下ろして答える。
「ん、なにさ。君が呼び出しておいてそれはないだろう。」
彼は、少し不機嫌な感じで、そう言う。
確かに不躾で失礼だったかもしれないなと思いながら問い直す。
「じゃあ、確認するけど、貴方は私のサーバントで間違いない?」
彼は信頼と決意を込めて私を見つめ私の質問を肯定する。
「ああ、オレは君に召喚され君を護り、君の敵を打ち滅ぼすために呼ばれたサーバントだ。」
まっすぐに。
「えっ――――――」
思考が停止する。
彼の言葉に嘘は無い。
コイツは初めて会った私を信頼して言葉どうり護ろうとしている。
意外だった、令呪で従えているとはいえ人間以上の存在であるサーバントが私を認め全霊を込めて護ろうとしている。
「――――――」
・・・・顔が熱い、
間違いなく私は赤面している。
なんで、こんなに不意打ちに弱いんだろうと自分を呪いたくなる。
「・・・・分かった。じゃあ貴方は何のサーバント?」
半分照れ隠しに次の質問を投げかける。
セイバーで無いことは分かっている。
召喚時間は間違えるは召喚陣は正しく機能しないわ、はては見当違いの場所にサーバントを呼びつけたんだから。
しかし、彼の言葉はそんな思惑は吹き飛ばすには十分なモノだった。
「ああ、オレのクラスはバーサーカーだ」



「なんですってぇぇっぇぇぇぇ」
私の絶叫に耳を押さえてうずくまる彼
だが、こちらには、どうでもいい事だ。
バーサーカーとは、弱い英霊を狂化させることで強くするクラスだ。
あれだけの宝石と魔力を使って呼び出した彼は弱いということになる。
「じゃあ、アンタ弱いの?」
彼は、その言葉が癇にさわったのか、憮然として言う。
「むっ、確かにオレは強いとは言えないが護り戦う事に関しては誰にもおくれをとる気はないぞ。」
あっ可愛いかも、なんて思いながら私はフフンといった感じで言ってやる。
「なに、癇にさわった?バーサーカー」
「触った、見てろ。自分が幸運であったと思い知らせてやる。」
じっと半眼で抗議するバーサーカー。
その素振りは、どこか子供じみていて邪気がない。
「そうね、それじゃあ私を必ず後悔させてバーサーカー
そうなったら素直に謝らせてもらうから。」
「ああ、忘れるなよマスター。自分が召喚したサーバントがどれほどのモノか知って後悔させてやるからな。」
そう言って不貞腐れる彼。
やっぱりイイ奴だ。
「まあ、いいわ。それでアンタ何処の英雄なのよ」
「――――――」
バーサーカーは答えない。
深刻そうに眉をよせ本気で悩んでいる。
「バーサーカー?マスターの私が、サーバントの貴方に聞いてるんだけど?」
「それは・・・・・・分からない。」
「・・・・・・は?」
「オレは、気が付いたとき、すでに英霊の座にいた。
どんな事を成して英霊になったのか?なんという名前だったのか?
そのような情報を失った状態で世界と契約したのだろう。
だから、その状態で世界に登録されてしまった。」
ずいぶんと深刻な告白に焦りながら私はバーサーカーに聞き返す。
「じゃあ、宝具は?それで名前を割り出せるかもしれない。」
「宝具か・・・・言うならばコノ腕か」
と赤い布が巻き付いている腕を上げる。
「この腕の中に内包された剣の世界から、あらゆる宝剣を召喚する。それがオレの能力であり宝具だ。」
そう言って彼は
偽・螺旋剣(カラドボルク)。
覇王の剣・絶世の名剣(デュランダル)。
魔剣・太陽剣(グラム)。
破滅の魔剣(ダインスレフ)。
と次々と魔剣、神剣を取り出す。
「なっ――――――」
すごい、なんてモノではない。何処の誰とも分からない奴が世界中の宝具をもっているようなモノだ。
「もっとも、オレがこれらの剣を使いこなせないからあまり意味が無いのだが」
「それは、真名の開放ができないという事?」
私は彼を睨み付けるようにして聞く。
こんな英雄など聞いたことが無い。こんな英雄など見たことが無い。
だが、彼は確かにココに存在している。
「ああ、開放できるモノもあるができないモノの方が多い。
オレにできるのは、こいつらを使い潰すことだけだ。」
とんでもないカードを引いた。
確かにコイツは剣だ。
召喚した時の感覚にも説明がつく。
「まあ、いいわ。貴方の名前は、おいおい調べていきましょう。
じゃ、出かける支度してバーサーカー。
召喚されたばかりで勝手もわからないでしょう?
町を案内してあげるから。」
「ああ、よろしく頼む。
オレは霊体になってついていこう。」
バーサーカーの言葉に納得する。
確かに霊的な存在であるサーバーントは力を弱めれば普通の幽霊のように見えなくすることが可能だ。
「分かったわ。じゃ、とりあえず後からついてきてバーサーカー。
貴方の呼び出された世界を見せてあげる。」
バーサーカーはそう言う私を真剣な目で見つめて言う。
「まて、マスター。
まだ大事な事をオレは聞いてない。」
えっ?大事なこと?
サーバントが聖杯戦争に参加する上で大事なことは聖杯を手に入れることだ。
私達にとって大事なことなんて、それ以外に無いはずだけど?
「分からないのか? マスター」
「あっ・・・名前」
そうだ、コイツは自分の名前が分からない。
それだけに名前という事はコイツにとっては何より重要なコトのはずだ。
「気づいたか、マスター。
これから君を何と呼べばいい?」
やれやれといった感じで言うバーサーカー
うん、コイツ絶対イイ奴だ。
令呪による力づくの関係であるサーバントとマスターの間には親愛の情なんて本来はいらない。
名前の交換に意味は無いのだ。
だけど、コイツはそれが大切だと言う。
令呪など関係なく共に戦おうと言ってるのだ。
「・・・・わたし、遠坂凛よ。貴方の好きなように呼んでいいわ。」
嬉しいけれど、なんだか照れくさくて私はぶっきらぼうに返事をする。
だというのに
バーサーカーは噛み締めるように「遠坂凛」と呟いた後、
「じゃあ、凛と・・・・・遠坂 凛、懐かしい響きだ。うん君によく似合っている。」
なんてとんでもないことを無邪気な。
奈落の底から救われたような笑顔で口にした。
「――――――」
「凛?なにさ、顔が赤くなってるぞ。
調子が悪いのか?」
「――――――うっうるさい、さっさと行くわよバーサーカー!
のんびりしてるヒマなんかないんだから!!」
ふん、と背を向けて歩き出す。
悔しい、なんだか分からないけど悔しい。
気をつけろ私、
これからコイツと手を組んでやっていかなければならないのだから。
だから、立ち止まってなんかやらない。
コイツが立ち止まるようなら蹴飛ばしてでも先へ走らせる。
顔が熱いのも動悸が激しいのもコイツのせいだ。

運命の日は始まりを告げる。
これで6人、最後の一人がサーバントを呼び出せば、此度の聖杯戦争が開始される。
十年待ち続けたわたしの戦いが始まろうとしていた。




あとがき

英語に関してはあんましつっこんでくれないと嬉しいな。

4: DAY (2004/04/27 03:40:11)[aday at m9.dion.ne.jp]

Fate / stay night. 〜時を駆ける少女〜
 〜school combat〜




夢をみた。

敵は、いつだって強大。
運命に導かれた勇者が間に合わないほどの姦計を巡らす魔道師。
武芸に優れた英傑が打ち倒されるほどの化け物。
その時代に現存する戦力では人を滅ぼす凶事を防げないと世界が判断した状況で彼は戦いつづけた。
救えるはずだ、護れるはずだ。
ただ、そう信じつづけ戦いつづけた。

弱いくせに無理をするから、彼はいつもボロボロ。
腕や足を失うことなんてザラで真っ二つにされた事だってある。
敗れても敗れても彼は立ち上がり続けた。

ああ、コイツはバカだ。
だって、世界が悪と定めたモノを
救うべき者としか見ていないのだから

理解できないモノを見る眼でみる それら悪に写るコイツは

とても眩しくて

綺麗だったから

ああ仕方が無いな、なんて顔で滅びていく彼等の気持ちが分かる気がした。





眼が覚める。
頭は重くて体はだるい。
アイツに魔力が持っていかれてるせいだ。
暖かい布団の感触は惜しいけど、もう起きなくてはならない。
学校に行かなくてはならないからだ。
長年、優等生を続けてきたのだから、こんな所ではやめられない。

だるい体を引きずって廊下を歩きながら昨日のことを思い出す。

私は、昨日バーサーカーをつれて街を案内した。
冬木市は、深山町、新都、大雑把にわけると街はこの二つに分かれている。
深山町は手軽に見まわれるので新都を中心に見て回った。

駅前パーク

冬木市中央公園

新都オフィス街

その町と人をアイツは宝物でも見るような眼で見ながら。
「オレ達は亡霊だから、霊魂とか感情を吸収することで、魔力の貯蓄を増やすことができる。
でも、この時代に生きる生き物は殺さない。オレのような亡霊に殺されて良い筈が無い。
だから、人の魂を喰えとかマスターを殺せって命令は令呪を使われても従わない。」
なんてコトを言ってくれやがりました。
まぁ、私も人殺しがしたい訳じゃないし、マスターを暗殺するのは優雅じゃない。
遠坂の家訓は「どんな時でも余裕を持って優雅たれ」だ。
うん、私の行動は矛盾してない。
今、決めた。
私が決めた。

そんな事を考えながら居間の扉を開けた。




腕に記録されている情報を元に掃除をして朝食を作る。
なぜ、戦闘情報に紛れて効率的な掃除の仕方とか美味しいご飯の炊き方があるのか分からないが、まあ役に立ってるのだから良しとする。

情報を元に作業をしているだけなのだが妙に楽しかった。
自分は生前、家事が好きだったのかもしれないな。
その考えは戦っている自分の姿を思い描くより、しっくりとくるものだった。
ギィィィと扉の開く音がしたので振り返ると。
「――――――おはよ。朝早いのねアンタ」
思いっきり不機嫌な顔で凛がやってきた。
「え、英霊に睡眠は必要ないんだが・・・・。
凛・・・・・?どうした、何かあったのか・・・・!?」
「別に、朝はいつもこんなだから気にしないで」
凛は、ゆらゆらと幽鬼のような足取りで居間を横切っていく。
「おい・・・・大丈夫か?凛、目つきが尋常じゃないぞ」
「だから、気にしないでって言ってるでしょ。
顔でも洗えば目が覚めるわ。」
と言って凛は、ふらふらと居間を出て行く。
まあ、いいか朝食の用意をしよう。



居間に戻ると朝食の用意ができていた。
ごはんに豆腐の味噌汁、玉子焼きに塩焼きにしたシャケ。
・・・・・・頭イタイ。
アンタ、ほんとに何処の英雄よ?
「どうした?凛、朝飯が冷めちまうぞ。」
「私、朝はたべなくていいんだけど」
頭を抱えながらバーサーカーに言う。
「むっ。凛、朝飯くらい食べないと大きくなれないぞ」
「余計なお世話よ。人の生活スタイルに口ださないでくれない。」
何が気にくわなかったのか凛は不機嫌そうにこちらを睨んでくる。
「私は召使が欲しくてマスターになった訳じゃないわ。
あなたもね頼みもしない事する必要はないわよ」
すると彼は言う。
「しかし凛、朝食は大事だ。しっかり食べてしっかり休んだ方が魔力だって回復するんだからな」
うっ確かにバーサーカーの言う事は正しい。
しかも、真剣な目で本気で心配してる。
「わかったわ、そこまで言うんなら食べてあげる」
と私は、席について食事を始める。
でも悔しいからそっぽを向いた状態でバーサーカーに言う。
「そうそう、バーサーカー。
私、今日から学校に行くから霊体になってついてきて。
私はマスターになったからって、今までの生活を変える気はないから」
「ん、分かった凛は必ず護る。安心して学校に行ってくれ。」
と朝食を食べながらこっぱずかしいコトを言うバーサーカー・・・・・コイツらに食事って必要なのか?
「頼りにしてるわバーサーカー。
ところで、アンタらって食事必要なの?」
「ん、睡眠や食事で僅かではあるが魔力を補給できる。
オレは燃費がいいほうではないから多少は意味があるかな。」
ふーん、そんなモノかと思いつつバーサーカーと食事をとる。
誰かと一緒に食事を取るのは、ものすごく久しぶりで、ものすごくくすぐったい朝食だった。



冬の通学路を歩く。
冬木市は、名前に似合わず寒さが厳しくは無い。
でも、やっぱり冬は寒いわけで、私は「はー」と手に息を吹きかけながら人の少ない通学路を歩いている。
深山町の中心に位置する交差点まで歩いたころ、ふいにバーサーカーが話しかけてきた。
「凛、学校ではどんな危険があるか話しておいてくれると助かるんだが」
「マスター同士の戦いは隠されるものよ。
人の多い学校では、それほど注意する必要はないわ。
むしろ、空中に話しかける怪しい人とか思われる方が私的には困るわね。」
と、とびっきりの笑顔で凛は話してくれます。
もしかして、おこっていらっしゃいますか?
「うっ・・・・了解した。必要な時意外は話しかけないようにする。」
「分かれば、いいのよ」
なんて呟いて、どんどんと先に行く凛。

ゴッド オレなんか悪いことしましたか?



そして、不評の多い坂道を歩くこと15分、穂群原学園に到着した。
「驚いた。私のテリトリーに好き勝手してくれてるじゃない。」
「オレも驚いてる。結界ってこんなに堂々と張れるモンだったんだな。」
正門をくぐりながら、軽口をたたきあう。
動揺を感じながらも足は止めない。
周りには教室に向かう多数の生徒がおり、立ち止まってブツブツいってるなんて醜態はさらせない。
「とんでもない素人ね。他人に異常を感じさせる結界なんて三流の仕事よ。やるなら、発動するまで隠しておくのが一流ってものよ。」
「ここまで、あからさまだと。挑発とか脅迫かもしれないぞ。」
その言葉に挑発的な笑みを浮かべて、バーサーカーに言ってやった。
「望むところよ。誰に喧嘩を売ったのかわからせてやるわ」



二時限目が終わり移動教室から戻る途中、大量の資料を抱え頼りない足取りですすむ後輩の姿を見かけた。
間桐に出した、私の妹。
不干渉の決まりがあるので気安く話しかけることはできないが、困っているのを手伝うくらいはいいだろうと思い、近づいていく。
「桜、手伝うわ」
「えっ――――――」
桜は、驚いた顔をして此方を振り向く。
「あっ遠坂先輩――――――」
「なに?世界史のプリントじゃない。
葛木の奴、女生徒にこんなもの運ばせるなんて何を考えてるんだか。
半分貸しなさい、桜の教室まで運べばいいの?」
「いいえ、葛木先生の所です誤字があったからって」
「なるほど」
確かにあの先生なら、そうするか。
葛木は、誤字が一文字あっただけで中間試験を中止してしまうような堅物だ。
何が可笑しいのか、桜が私の顔を見てクスリと笑う。
「ふふ、遠坂先輩は葛木先生のこと好きなんですね。」
「キライじゃないわね。もう少し柔軟性を持てばいいとも思うけど」
でも、アレはあのままでも、いいかとも思う。
「桜、最近はどう?」
「ぁ・・・・はい、元気です私」
「慎二のバカが何かやったら言いなさい。調子に乗りやすいバカなんだから、きちんと言わないとエスカレートしていくだけよ。」
私の言葉を聞くと不安げな表情を笑顔に変て桜は言う。
「大丈夫ですよ。最近、兄さんは優しいんですよ。」
教室の前に着いたのでプリントを桜に渡す。
「そう。じゃあね。」
と別れの言葉をいって桜を見送る。
「凛、彼女は桜というのか?」
とバーサーカーが話しかけてきた。
「えっ・・・ええ、そうよ後輩の桜。
でっでも、アノ子は大丈夫よ。今までも観察してきたし、争いごとも苦手みたいだから。
だから、気にしなくても今回の聖杯戦争には・・・・」
ああ・・・やっぱり私は不意打ちに弱い。
自分でも何いってるんだろうとか思いながらも考えがまとまらない。
それでも、周りに人がいないことを確認してから話せたのは、反射と言ってもいいだろう。
「凛、落ち着け。慎二という言葉が出てきたがソイツは彼女に何か害を成しているのか?」
「えっええ、どうしようもないダメ兄貴よ。自意識過剰で性根は曲がってるわね。」
「そうか」
と心配するような声で呟くバーサーカー。
むっ、なんだか面白くない。
第一、わたしのサーバントなのに何故、他人を心配するのだ?
「バーサーカー、早く行くわよ。授業が始まるまでに見ておきたい箇所はいくつもあるんだかね。」
そう、言ってズカズカと私は歩き出す。
「おっ、ちょっと待ってくれ凛」

ふん、止まってなんてやらないんだから。




一日が終わる。
冬の夜は早く訪れ。
黄昏の金が赤、赤が蒼へと変わっていく。
そして、夜の静寂が学校を支配する。
結界には多くの種類があるが共通する点が一つある。
すなわち、己の有利な空間を作り出し、それ以外のモノの自由を束縛するという点。
防御の結界であれば、相手の攻撃するという自由を奪い。
攻撃の結界であれば、相手の生命力を奪い取る。
休み時間にバーサーカーと調べた結果、この結界は後者のモノであるとわかった。
つまり、狙いは生徒及び教職員・・・まったく下種な結界を作ってくれる。
時刻は8時、七つ目の刻印を屋上で見つける。
「ここが起点か・・・・まいったな。ここまで高度な結界だとは」
そう、この結界は私が手出しできないほど強固な呪でくくられている。
流れる魔力を阻害することは出来るが楔を破壊することができない。
「――――――」
バーサーカーは何も言わない。
ただ、怒りだけが伝わってくる。
この結界が発動すれば常人は生きてはいけない。
解かされ体より解き放たれる魂を狩る血の要塞(ブラッドフォート)
「癇に触るわ。消せないけれど邪魔くらはできる。」
左腕に刻まれた魔術刻印、遠坂が体に刻み続けた魔道書に力を通す。
「leave the whole area」(全域より退去せよ)
結界の刻印に魔力を流し、施術者の魔力を洗い流す。
魔力を流し終えた、その時
「なんだ、もったいねぇ消しちまうのか?」
なんて、十年来の友人に言うような気安させ声をかけられた。
蒼い装束に身を包み、粗暴な雰囲気をもった20代後半くらいの男
「――――――これ、アンタの仕業?」
「いや、小細工は魔術師の分担だ。オレ達はただ命じられるままに戦うのが役目だろ坊主?」
いつの間にか、バーサーカーが私を庇うように立っている。
その手には二振りの短刀
「いいねぇ、そうこなくっちゃ。話の早い奴は嫌いじゃない。」
男の腕が上がる。
一瞬のうちに男の手には二メートルの紅い凶器が握られていた。
両者の距離は5メートル、残りの3メートルなど、この男にとっては無いも同じだろう。
「二刀使い、セイバーって感じじゃねぇな。かと言ってアサシンのような陰気な気配でもない。アーチャーってところか?」
嘲るような質問にバーサーカーは答えない。
戦いは、すでに始まっている。
「バーサーカー、手助けはしないわ。
私を護ってみせて。」
私の言葉に答えるように彼は前に出る。



「―――――― strengthen start(強化開始)」
考える必要は無い。
自分はカラッポ、戦闘状況の判断は左腕に任せておけばいい。
戦い方は呼び出した剣に任せればいい。
自分は全力で、それに答えるだけでよい。
「う――――――おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ」
赤い弾丸が走る。
ランサーは豪雨のような突きで応戦するが進撃は止まらない。

足を心臓を頭を急所を狙った刺突は双剣によって逸らされる。
 
だが、槍は肩を貫き脇腹を抉る。

それは、ありえない剣戟。

切りかかる体は槍に削られ、手足は裂かれ、無傷な場所を探す方が難しくなってゆく。

だが、彼は止まらない。

踏み込む速度もとるに足らぬ、斬撃も基本を愚直に守ったモノ。

だが、一撃一撃が信じられぬほど重い。

「な――――――に。」
ランサーの戸惑いは、秒をおかず驚愕に変わる。
振るわれる剣撃は狂ったように速度を増していく。
「くっ、なめるなぁぁぁぁ」
槍が雷光のごとく煌き握った手ごと剣を弾く。
だが、彼の手には依然として剣があり、上下左右から一息で斬撃が襲い掛かってくる。
「貴様っ!!」
ランサーは槍を巧みに使い必殺の四撃を逸らし弾く。
否、その四撃を上回り一刀が首を刎ねにくる。
「こいつ・・・・・・バーサーカーかっ」
ランサーは獣のごとき瞬発力で後ろに飛びのく。
「 trace on (投影開始)」
左腕の戦闘経験が最適な武器を選択し剣に丘から呼び出す。
そして、後は武器に蓄積された経験に任せるだけ。
自分は、ある限りの魔力をソレに注ぐだけ。
「おおおおぉぉぉぉぉぉ」


投影された5本のヴァジュラがランサーに向けて飛ぶ。
さっきから、もの凄い勢いで消費される魔力にふら付きながらもバーサーカーの戦いを見守る。
ヴァジュラは使用者の魔力に関係なくB+の攻撃力をもつ投擲武器、直撃すればサーバントと言えど無傷ではすまない。
「わりぃな。昔っから、この手の武器はオレには効かねぇんだよ。」
ランサーの槍がブレた瞬間、5つの宝具が叩き落される。
”矢避けの加護”がヴァジュラを防ぐ。
「broken fantasy!!(壊れよ幻想)」 
叩き落とされたヴァジュラはバーサーカーの叫びと共に弾け飛び。
ランサーの足元、屋上の一角を消滅させる。
「ちっぃぃぃぃ」
「くっ――――――かぁぁぁ」
なす術もなく。校庭に向けて落下していくランサーを追い、満身創痍の体を引きずりバーサーカーが飛ぶ。
「こら、アンタ達っ待ちなさいよ」
私は、それを追い非常口を抜け階段を飛ぶように降りる。
校庭にたどり着いた、その時には二人の間に膨大な魔力が渦巻いていた。
「――――――食らえ、我が必殺の一撃を」
空気が凍る。
ランサーの魔槍に魔力が収束してゆく。
「まずいっ」
アレを喰らってはいけない、アレは必殺の意味をもつ。
バーサーカーは死ぬ。
それが予知できていながら動くことができない。

ジャリッ

「―――――― 誰だ・・・・・!!!?」
第三者の存在でランサーの気が逸れる。

そして

そのチャンスを見逃すバーサーカーではない。
「I am the bone of my sword go mad.(骨子は 捻れ 狂う)」
バーサーカーから放たれた螺旋を描く剣はランサーに向かって飛び。

「なっ・・・・・くっ、刺し貫く――死翔の槍(ゲイ ボルク)!!」
バーサーカーが放った剣を驚愕の表情でランサーが見て、槍がソレを迎撃する。

両者は、ぶつかり遭い魔力を減衰させながら標的へと向かう。

「broken fantasy!!(壊れよ幻想)」
バーサーカーの剣を受け止めたランサーは宝具の崩壊に巻き込まれて木の葉のように吹き飛ぶ。
ランサーの槍はバーサーカーの腹を貫きバーサーカーを十数メートル吹き飛ばす。

ランサーは、腕が付いているのが不思議なほど抉られた肩を押さえて言う。
「ちっ興が、そがれた。バーサーカーてめえが、その剣を持っている訳と決着はいずれつける。」
だっ、と校門を飛び越えて離脱してゆく。

「バーサーカー、大丈夫?」
私は、バーサーカーにかけよっていく。
「ああ、大丈夫だ。少し休めばうごけるようにもなる。」
傷口が蠢いて塞がっていく。
凄い回復力だが、なんか気持ち悪い。
「でも、正直ランサーの気が逸れて助かった・・・・・・って、生徒!?。
まだ、学校に残ってたの?」
目撃者は消すのが魔術師のルールだ。
例外は無い。
「・・・・・くっなんて間抜け。早く追って少なくとも記憶だけは消さないと」
目撃者など出したくなくて気をつけてきたのに、なんだって今日に限ってこんな失敗を
「バーサーカー、私は目撃者を追うわ。回復したら追ってきて」
そう言うと、私は校舎にむけて走り出した。




鉄と鉄のぶつかり合う音に誘われて校庭に行き。
そこで見たモノは、人間に似た別の何かの戦い。
人の身では、とうてい及ばない高次元な剣撃
蒼い男が使おうとした魔力に怯えた体は、人の形をしたモノが殺される事に賛同できず。一歩踏み出してしまった。
あげく、向けられた殺気に怯えて校舎に逃げ出してきた。
なんて、情け無い。
「ハァ・・・・・・ハァ・・・・なんだったんだ。今のは」
あそこに居たのは人外のモノ。だが、もう一つ視界の隅にあったのは?
「・・・・もう一人、誰かいた気がするけど・・・・」
そう考えながら帰ろうとしたとき。
カタンと音がした。
「?」
顔を上げると、窓から差し込んでくる月明かりを受け仁王立ちしている遠坂凛の姿があった。
「・・・と、遠坂?まだ、残っていたのか?」
混乱する頭は、ありえない事を尋ねる。
遠坂は、黙って此方を指差す。
女の子らしい白く細い腕にボウッと燐光を帯びた刺青が浮かびあがり。
「・・・・・・衛宮くん、運が悪かったと諦めてね。」

黒い何かがオレに撃ち出されてきた。





あとがき

次はセイバー召喚かな
語学に疎い者ですので誤字にはご容赦を


記事一覧へ戻る(I)