一箭必中/鏑矢 (M:桜 傾:クロス、ほのぼの ※第六矢改です


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1: HIDE (2004/04/15 19:13:52)[hide at hakodate.club.ne.jp]




 燕が、飛んでいた。

 抜けるような青い空に、その軌跡が弧を描く。

 やがて羽虫でも見つけたのだろう、燕は軌道を変えて真っ直ぐに一点を目指した。

 俺は静かに弓を構える。

 鏃は春の空へと向けて。

 この空のように空っぽだった俺の中に、それは生まれているのだから。

 護りたいもの。

 護るべきもの。

 つかみたいもの。

 つかむべきもの。

 離せないもの。

 離れられないもの。

 たくさんのそれは、いつかきっとこの空虚な空を埋め尽くす。

 だから、始まりと終わりを告げる鏑矢を。

 この一箭を、蒼くて青い、どこまでも空色の蒼穹に番えて───








   『一箭必中』 鏑矢








「……士郎?」

 その遠坂の声で、俺は、弓を下ろした。
 なんか、いい加減にしろー、って叫びたくなるくらい青い空を眺めていたら、無性に矢を放ってみたくなったんだ。
 狙いも定めずに思いっきり引き絞り、空に向けて撃ち放ったら気持ちいいだろうなー、って。
 でも、都合良く手元に弓と矢があるわけでもないし、投影して作るほどのものでもない。
 だから架空の弓を構え、弦を引こうとしたところで遠坂から待ったがかかったわけだ。
 それはそれで大したことじゃないから別にいいんだけど。

「どうした?」
「それはこっちの台詞。どうしたのよ? ぼけーっと空なんか見上げちゃって」
「いや、燕が飛んでるなーって」

 昼休み、屋上。
 今俺は、例の給水塔の陰で、遠坂と肩を並べている。
 さすがに今朝は弁当を作る気力もなかったので、昼飯は食堂で適当にパンを買って済ませた。
 最近はセイバーに昼飯の作り置きをしておかなきゃならなくなったので、ついでに弁当を作るのが日課になっている。
 だけど、今日は多めに炊いた米をおにぎりにして、朝飯の残りと一緒に置いておくのが精一杯だった。
 セイバーには悪いけど、この埋め合わせは晩飯でするとしよう。

「燕? そっか、もうそんな時期か。ここでお昼にするのもそろそろ止めたほうがいいかもね」
「なんでさ?」
「冬の間は良かったけど、暖かくなれば屋上に人が増えるじゃない。ほら、それで変な噂が立ったら困るでしょ?」

 なるほど、確かに遠坂の言うとおりだ。
 しかし、そうなると必然的に遠坂と一緒に昼を過ごすこともできなくなる。
 それはそれでちょっと寂しい気もするが、ま、それくらいは我慢するさ。
 学園のアイドルを外では一人占めだもんな。
 文句を言ったらバチが当たる。

「で、燕眺めて一句捻る柄でもないでしょ? 随分と難しい顔してたわよ」

 む、俺そんなヘンな顔してたか?
 そんなところを遠坂に見られていたかと思うと、ちょっと恥ずかしい。

「……射れるかなって考えてた」
「射るって、弓で?」

 俺は、頷いてもう一度空を見上げた。
 雲一つない青空、燕はもういない。

「いくら士郎でも、燕は無理なんじゃない? 弓から離れた矢は制御できないんだから、その後に気付かれたらおしまいでしょう?」
「いや、燕じゃなくて、空」

 それを聞いた遠坂は、それこそ難しい顔をして何か考えていたが、しばらくして、春だしねー、なんて言いながら背伸びをひとつ。
 ちなみにあくびつき、目尻にちょっと涙。
 なんか馬鹿にされたような気もしたが、こんな仔猫のような仕草を見せられたら怒るに怒れない。
 それに、この姿も俺にしか見せないと思えば、どうしても頬が緩む。

「何よ?」
「何でもない」
「うそ、何かにやにやしてるもの」
「ホント言うと、仔猫が猫被っても意味ないんじゃないかなー、って思った」
「……それ、どういう意味?」
「だって、中身の方が可愛いんだから、もったいないだろ?」
「───っ!」

 あ、唸ってる唸ってる。
 何か本当に仔猫とじゃれあってる気分だ。
 このごろ遠坂のあしらい方がちょっとだけわかってきたような気がする。
 だからだろうか、最近、遠坂はことあるごとに俺があの皮肉屋の赤いヤツに似てきたと言う。
 俺自身は全然そんなつもりはないんだけど、あいつのことを一番よく知っている遠坂が言うのなら多分そうなんだろう。
 そんなとき遠坂は、決まってばつの悪そうな顔をして謝るんだけど、実際それほど気にしてるわけでもない。
 あいつが俺だということを否定するつもりはないんだ。
 けど、あいつは、荷物の重さに耐えられなくて途中で折れちまった根性なしだ。
 俺はそうはならない。
 同じ道を歩いたからって同じ場所に出るとは限らないし、同じ所でつまずくとは限らない。
 だったら、しばらくの間はあの赤い背中を追いかけてみるのも悪くない。
 いつか遠坂に、俺があいつに似てるんじゃなくて、あいつが俺に似てるんだと、そう思わせることができたなら、そこから新しい道が開けるんじゃないかって思ってる。
 まあ、不本意だけど仕方ないさ。
 それくらいの敬意は払ってやらないと、この空の向こうで頑張ってるもう一人の俺に申し訳ないって思っちまったんだから。
 いつか俺が追いついて肩を並べたとき、きっとあいつならこう言うだろう。

『失せろたわけ』

 ……やっぱムカつく。



 そして大過なく放課後。
 久しぶりに弓道場にでも顔を出してみようかと思ったら、校門のところに人だかりができていた。主に男子生徒。
 なんか嫌な予感がする。
 む、さっきちらっと見えたあの触覚は……。
 別に小隊長のシンボルじゃないよな?
 金色だからいいものの、赤かったりしたら三倍だぞ?
 ……いかん、混乱してる。落ち着け、俺。

「どうやら、可愛らしい貴方のナイトがお迎えに来てるみたいだけど?」

 いつの間にか近くにいた遠坂は、そこはかとなく邪悪な笑みを浮かべていた。
 こっちには触覚がない。あかいけど。
 でも、大事なのは色だし……やっぱ三倍か?
 ……だから落ち着け、俺。

「まさか……」
「そのまさかよ。今朝あの子何て言ってた?」

 確か主人の送り迎えがどうとか……。
 うー、これだから世間知らずの王様は……。

「……遠坂、ひとつ頼みがある」
「内容と報酬によるわ」
「セイバー連れて先に帰っててくれ。報酬は明日の弁当でどうだ?」
「……仕方ないわね。できればわたしも近づきたくないけど、士郎が出て行ったら余計ややこしくなりそうだし」
「桜のこともあるし、俺はちょっと弓道場に顔出してくるから、後は頼む」

 そういうわけでそそくさと弓道場に向かう途中、その人に気が付いた。
 塀の外側から熱心に弓道部の練習を見学している女の人。
 私服なので断言はできないが、うちの学生ではなさそうだ。
 春物の青いワンピースは、後ろ姿を遠目に見ただけでもこの上なく似合っているとわかった。
 ……誰だろう? 部員の関係者かな?
 だったらあんな遠いところで見てないで、中で見学すればいいのに。
 俺は、お節介かとも思ったが、一応声をかけてみることにした。

「こんなところじゃよく見えないでしょう? 良かったら中に入って見学して行きませんか?」

 綺麗な人だった。
 髪はショートで、藤ねえより少し長いくらいだろうか。
 年は俺とそれほど違わないだろうけど、少し大人びた雰囲気。
 なにより優しそうな人だった。
 だってこんな暖かい笑顔をする人は優しい人に決まってる。
 桜と同じで、柔らかくて、周りを暖かくする笑顔。
 聖母の微笑みとでも言おうか。
 それ以外に目を奪われたのは、服と同じ色の青い髪、それと眼鏡の奥の透き通った空色の瞳。
 ……あっちゃー、外人さんだ。
 思わず声かけちゃったけど、日本語通じないかな?

「お気遣いありがとうございます。ですが、ちょっと様子を見に来ただけなので、ここで結構です」

 その女性は、軽く会釈しながら流暢な日本語でそう答えた。
 物腰は柔らかく、立ち居振る舞いはしなやか。
 どっかいいとこのお嬢様かな?
 日本語が通じるのはいいが、もしかして、ナンパかなんかと間違えられたとか?

「あ、誤解しないでください。俺、ここの弓道部の関係者なんで、興味あるならどうかなって……」

 む、慌てて言い訳してみたものの、よく考えたら余計に怪しいか?
 部員ならまだしも関係者って何だよ……。
 そのお姉さんは、小首を傾げて俺の顔をじーっと見ていた。
 ちょっと緊張。
 しかし、しばらくしてにっこりと春の日差しのような笑顔を見せて、ちょっとお話ししませんか、なんて言ってきた。
 むむ、これはいわゆる逆ナンパってやつか?
 いや、最初に声かけたのは俺の方なんだけどさ。

「間桐桜さんはご存じですよね? 最近何か変わったことはありませんか?」
「桜……ですか?」

 俺は、いきなり桜の名前が出てきてちょっと面食らったが、まあ、桜のところも由緒ある旧家だし、外人さんの知り合いや親戚がいてもおかしくない。
 元々冬木は港町で外人さんは多いしな。
 桜の友だちだって言うんなら、ちょっと話もしてみたいし。

「全然元気ですよ。ああ、でもそう言えば……」
「何ですか?」

 身を乗り出して先を促す青いお姉さん。
 うわ、近いって……でも綺麗な瞳だ、眼鏡もよく似合ってる。

「いや、最近以前にも増して食欲旺盛でして、年頃の女の子としてどうなのかなって」

 俺は、少し顔が熱くなるのを感じながらそう答えた。
 ちょっと目が泳いでたかも知れない。

「それ、桜さんが聞いたら、卒倒しちゃうんじゃないですか?」
「あ、それは大丈夫です。本人には絶対言いませんから」
「そうですね。女の子は怒らせると怖いんですから、気をつけた方がいいですよー」

 それは身に染みてわかってます、はい。
 主に遠坂で。

「えーと、桜の知り合いですか?」

 ちょっと和んだところで、さっきから疑問に思っていることを聞いてみた。
 話してみて気が付いたんだけど、このお姉さん、何となく桜に似てる。
 何だろう……雰囲気っていうか、周りの空気が桜と同質なんだよな。

「ええ、一月ほど前に害虫駆除で御屋敷にお邪魔したんですが、そのときにちょっと……」

 別に親戚とか友だちってわけでもないのか。
 ……一月前って言えば、春休み中だな。
 ちょうど桜も慎二の看病で忙しくて、うちにきてない時期だ。
 しかし、害虫駆除って、どう見てもそんな仕事してる人には見えないんだが……。

「害虫ってシロアリとかそういうの?」
「うーん、蓑虫さんですかね?」
「蓑虫?」
「あ、馬鹿にしちゃいけませんよ。ほら、冬の間はおとなしくしてるんですけど、羽化しちゃうと面倒なんです。昼間隠れてるくせに、夜になると蠢き出して光に群がるんですから。おまけに蛇の真似事をしてたものですから、ちょっと厳しくお仕置きしちゃいました」

 ……ちんぷんかんぷん、ってのはこういうことを言うんだろう。
 む、羽化した蓑虫が蛾になって蛇だったからお仕置き?
 なんだそれ?

「あのー、言っている意味がよく……」
「でしょうね。まあ、愚痴だとでも思ってください。単に不満をぶちまける相手が欲しかっただけです。ええ、まったく、本来わたしが派遣されるほどのことではないはずなのに、たまたま近くにいるからって……確かに最近まともにお仕事していなかったのは認めますが……」

 ……そのまま延々と愚痴を聞かされた。
 給料が少ないだとか、上司が理不尽だとか、ペットの聞き分けが悪いだとか、果てはどこそこのカレー屋の味が落ちただとか、どこそこのカレーパンが値上げしただとか……。
 ……割と俗っぽいお悩みを持ってらっしゃいます。
 見た目に反して結構一般庶民かも、カレー好きそうだし。
 なんでも、一番の懸念は、一月も留守にして恋人に悪い虫がちょっかい出してるんじゃないかってことらしい。
 非常に女の子してる。
 最初は綺麗な人だって思ったけど、話を聞いてみた限りでは、可愛いという表現の方が良く似合うお姉さんだった。

「あ、すみません。つまらないこと聞かせてしまいました。貴方がわたしの知ってる人によく似ていたものですから、つい文句のひとつも……」
「い、いえ、別に構いませんけど……その人ってどんな人ですか?」

 その人が、さっきから言っている恋人さんなんだろうか?
 俺に似てるってところに興味があったので聞いてみた。
 裏を返せば、このお姉さんが俺をどんな風に見ているのかわかるし。

「そうですね……ちょっととぼけてて、底抜けにお人好しで、困ってる人を見たら放って置けないような人です。ただ何にでも首を突っ込みたがるのが困りもので……あと女性に甘いって言うか、女癖が最悪です」

 えーと、それは……他人とは思えない。
 妙に親近感が湧きますよ?
 きっとその人も苦労してるんだろう。
 主に女性関係で。

「でも、根本のところでは全然違いますね。多分、貴方は創る側の人ですから」
「む?」

 作るって、飯のことか?
 いや、確かに最近台所に立たないと落ち着かないというか何というか……主夫根性ってやつ?
 でもさ、セイバーとか桜が幸せそうな顔して食べてるところ見ると、頑張ろうって気にもなるぞ。
 ……でも、俺ってそんなに所帯じみて見えるんだろうか?

「ところで貴方は桜さんの彼氏さんですか?」
「いや、そんなんじゃないですよ。桜は後輩で、親友の妹で、俺にとっても妹みたいなものって言うか……」
「そういうことにしておきましょうか」

 そんな風に、お姉さんは全部わかってますよー的な微笑みをされると、身に覚えがなくてもちょっと照れる。
 確かに桜は良い嫁さんになるなーとか、胸とかお尻とかいい感じになってきたなーとか思ったことはあるが……遠坂には絶対内緒だ。

「桜さんは、今まで頑張ったんですから、その分幸せになれるんですよ。神様は、頑張った人にはちゃんと御褒美をくれるんですから。でも、貴方もちょっとだけ協力してくださいね」

 青いお姉さんは、道場で後輩の指導をしている桜を眺めながらそう言った。
 よく一成が、情けは人の為ならずー、なんて言うけど、俺の場合はちょっと違う。
 誰かが喜んでくれれば、俺も嬉しい。
 その考えは昔っから変わっちゃいない。
 でも、自分が喜ぶ為に誰かを助けてるんだったら、それは自分勝手でわがままなお節介だろ?
 考えてることもやってることも変わらないけど、今は意味が違う。
 自分を捨てて誰かを助けるんじゃなくて、自分の為に誰かを助けてる。
 まあ、一応消費税程度には自分も勘定に入れてるさ。
 何が言いたいかっていうと、要するにこのお姉さんは俺と似てるってこと。
 それがこの人にとってどんな意味を持っているのかはわからないけどね。

「この街を離れる前にちょっと様子を見に来たんですが、貴方みたいな人が側にいてくれるのなら安心です」

 最後に再び笑顔を見せて、青いお姉さんは背を向けた。
 ……そうだ、大事なこと忘れてた。

「俺、衛宮士郎です。この学園の3年生。良かったら、名前教えてもらえませんか?」
「名前ですか?」

 青いお姉さんは、再び桜に目を向けて何か考え込んでいた。
 む、眉をひそめて小首を傾げる仕草はなかなかに可愛らしい。
 その視線の先にいる桜は、今は弓を構えて射場に立っている。

「弓……とでも言っておきましょうか」

 ……ユミさん?
 ユミ……由美、友美、裕美……まあ、字なんてどうでもいいか。
 でも、どうみても外人さんだよな。
 日系の人かな? ハーフとか。
 ……で、気が付けばユミさんはもういなくなっていた。
 それこそ魔法みたいに影も形もなく。

「藤村せんせー! 衛宮先輩がそこでナンパしてましたー!」
「……おねーちゃんはしろーをそんな軟派野郎に育てた覚えはなーい!」

 えーっと、空襲警報?
 ちょっと待て……これはやばい! やばすぎる!
 つまりゲリラなライブでピンチにGOってことか!?
 なんか微妙に古いしっ!

「うがー! 桜ちゃん、10時の方角、ロックオーン!」
「了解ですっ! 巻藁さん、援護お願いします!」
「はーい、悪く思わないでくださいねー。次期主将には逆らえませーん」
「わー! 待て待て、誤解だっ! お前ら人に弓を向けるなー!」

 正確に俺を捉えた矢が次々と防射ネットに突き刺さる。
 む、桜も腕を上げたか?
 ……って、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないぞ!
 何だその強弓はー!?
 ちょっと待て、ネット破けるって!
 今半分通ったぞ、おい!

「桜っ! 誤解だ、人の話を聞けー!」
「もう言い訳は聞き飽きました! こうなったら先輩を殺してわたしも死にます!」

 ……ああ、ユミさんも言ってたな、女の子は怒らせると怖いんですよー、って。
 蒼い空に空色の瞳を重ねて、晩飯は久しぶりにカレーでも作ってみようと思った。
 しかし、その空に矢が飛び交ってるのは、洒落にもなりませんです、はい。

「安心してください、先輩! わたしは地獄の底までお供します!」
「地獄行き決定かよ、おい!」

 いつから桜はこんなに凶暴になったんだろうか?
 む、お兄ちゃん育て方間違ったか?
 辺りには誰のものとも知れない馬鹿笑いが響いている。
 美綴を始め、桜以外の部員がみんな腹を抱えて笑っていた。
 藤ねえと桜だけやたら怒ってるけどな。
 ……まあ、こんなのも悪くない。
 防射ネット越しに見上げた空、矢の雨の向こう側では、燕が一羽、俺を馬鹿にするが如く真っ直ぐに飛んでいた。

「蒼穹に 燕の箭と 空の弓……なんてな」

 さて、カレーの具は何にしようか。
 王道はポークだけど、チキンもビーフも捨てがたい。
 そういえばセイバーにカレー食わせたことなかったかも。
 一口食べるごとにコクコク頷くセイバーの姿が目に浮かぶ。
 よし、待ってろよ、遠坂。
 今日はカレーで参ったって言わせてやるからな。



 まあ、そんなこんなで聖杯戦争からかれこれ二月余り。
 失ったものもたくさんあるけど、新たに得たものはそれ以上に多いんだ。
 結果として救いきれなかった人たちがいる。
 それでも、俺は間違ってなんかいないと胸を張って言おう。

 結局憎みきれなかった英霊たちは、この空の向こうでよろしくやってるんだろう。
 ……金ぴかだけは別な、俺あいつ嫌い。

 守護者だかなんだか知らないが、気障ったらしい赤い俺は、相変わらずどっかでこき使われてるんだろう。
 ……少しだけ遠坂貸してやったんだから、それくらいは我慢しろ。

 イリヤは天国でのんびり温泉にでも浸かってるはずだ。
 ……いや、なんとなくそんな光景が頭に浮かんだから。

 だったら言峰あたりは、地獄で閻魔と意気投合してるかもな。
 どっちにいるのかわからないけど、親父も、葛木先生も。
 お前らまとめて背負ってやるから、振り落とされないようにしてろ。
 衛宮士郎は、いつだって全力疾走なんだから。



 さあ、桜花絢爛、春爛漫。今日も天晴れ、日本晴れ。
 空が弓なら矢は燕、燕を追ってどこまでもってなもんだ。
 おしなべて天下太平、世は全て事もなし。
 差し当たり気になることと言ったら、竹刀を持った藤ねえと弓を握った桜が追いかけてくることくらいだ。

「花は桜木、女は桜! この一箭、御旗盾無も御照覧です!」

 ……衛宮士郎は、やっぱり全力疾走です。





※あとがき※
 だいだんえん。これで本当に最後です。
 みんな幸せ、後は野となれ山となれ。
 他力本願ですが、凛ルートで穏便に救うならこれしかないかなーと思いまして、先生にご登場願いました。
 微妙に桜が元気過ぎるような気もします……。
 投稿先が元気になるまで再度暫定で置かせて頂きます〜。
 第一矢〜第五矢は↓で。

 http://www5d.biglobe.ne.jp/~mitikusa/


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