Doom/stay night


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1: zyu (2004/04/12 07:10:16)[chibatakubon at yahoo.co.jp]

「凛。やはり聖杯を求めると云うのか?」

 目の前には衛宮士郎。五年ぶりに会った彼に、かつての面影は微塵もない。
 赤い外套を纏ったその姿は確かにアーチャー。
 どんな魔術を行使したのか髪の色素は抜け落ち、肌の色さえ変わっていた。

「ええ、アレがどんなものかは前回の聖杯戦争で判ってるけどね。遠坂の魔術師の悲願達成も悪くないでしょう?」

 自分で言っておいて吐き気がする。遠坂の悲願達成のために聖杯を手に入れる? ――冗談。あんなものを手にして何になる。アレは便宜的に聖杯なんて呼んでいるが、アレのどこが『聖』杯なのか。あんなモノは『呪』杯の方が相応しい。

 もっとも、アインツベルンにしろ、遠坂にしろ、間桐にしろ目的と手段が替わってきているのは否めない。

 根源に辿り着くために聖杯戦争に参加するのではなく、聖杯を手に入れるために聖杯戦争に参加するようになったのだから。
 この二つは同じようでいて、その実まったく意味が違う。だからこそ、アインツベルンは聖杯の依り代にイリヤを使ったのだし、間桐は魔術回路の無い慎二をマスターに仕立て上げたのだろう。



 そしてそれは、遠坂でさえ例外では無いと云うこと。
 だからこそ――わたしは今回の聖杯戦争に参加しているのだろう。



「そうか」

 士郎が、ポツリと呟いた一言。
 たった、その一言で公園の気配が変わった。

 深夜とは云え、公園。もしかしたらホームレスが居るのかもしれないし、鳥が木で寝ていたかもしれない。それら全ての『生けるモノ』が――消えた。危機回避能力で逃げたのかも知れない。悪寒がして、嫌な気分になって公園を跡にしたのかもしれない。

 全部憶測の域を出ないけれど、それが当たっているのをわたしは確信した。


 だってコレは――結界。『公園を去れ』と云う強制暗示。


 わたしは目の前にいる『男』の認識を改めた。五年、たった五年で目の前の『男』はわたしに気付かれないままに結界を起動した。
 気付いたのは雰囲気ゆえ。全くもって一流。時計塔に於いて、主席レベルのわたしに気付かせないとは、どれほどの結界なのか。



 認めよう。目の前の『男』――衛宮士郎をわたしは過小評価していた。投影に特化した魔術回路だと侮っていた。余裕を持っていた。



「なら、凛。俺はおまえを殺す。聖杯は俺が破壊する。アルトリアの為にも」

「ええ、構わない。返り討ちにしてあげる」

 そう、わたしは衛宮士郎を全力で潰すに足る人物だと認識した。
 そこには打算も利害も無い。遠坂凛は衛宮士郎を潰すという事実。それこそが重要。

 まったく、聖杯戦争なんて皮肉としか云いようがないだろう。――戦争とは打算と利害で成り立つモノなのだから。

「それで聞くわ。アインツベルンを皆殺しにしたのは士郎、貴方なの?」

「当然だ。イリヤの二の舞は踏まない。アインツベルンさえ居なくなれば、第二のイリヤは生まれない。それに聖杯の依り代がなければ、聖杯戦争がもう起きないと判断したからな。
 結果として聖杯戦争は起こったが、コレの決着をつけ次第、聖杯の依り代を作った奴を殺す。それで終わりだ。二度とココで聖杯戦争は起きない」

 いつの間に投影したのか。両手にはアーチャーが好んで使っていた夫婦剣。
 構える先には遠坂凛。
 睨み付ける眼光を鷹とするなら、沈み込んだ姿勢はさながら獲物を狙うチーターか。

「行くぞ。死んでもらう、凛」

 士郎のその言葉が合図となった。
 振りかぶった腕から放たれる夫婦剣はブーメラン。
 人なら止められるはずもないそれを、

「セイバー!!」

 人ならざるサーヴァントが防いだ。

「マスター。命令を」

 目の前に佇むはセイバー。
 甲冑に身を包み、真紅のマントをたなびかせるその姿は、まるで中世の戦争に迷い込んだよう。
 けれど、今起きているのは魔術師が己の神秘を賭け争う戦争。

 ならば、セイバーさえも例外ではなく、神秘を賭け争う戦争に参加している。
 それ故のサーヴァント。それ故の七騎の使い魔。
 神秘とは聖杯。ああ、本当に、よく出来たストーリーだろう。

 そしてわたしは、

「士郎の目を覚まさせてやって」

 そのストーリーの主役なんだろうか。




 トンッ、と後ろに跳躍し、士郎から距離を取る。
 士郎が手っ取り早く勝負を決めたいのなら、狙うのはまずマスター。


 マスターが居なければサーヴァントは存在できない。そして、マスターはサーヴァントよりも弱い。


 これは紛れもない事実。ならばマスターは、サーヴァントの補助に勤めるのが正しい姿。
 尤も、サーヴァントの補助が魔力の授与以外に、出来ることがないのも事実。

 遠坂の得意とする宝石魔術。コレは余りにもコストが掛かり過ぎてしまう。
 一個数千万の宝石を安易に使用なんてできないし、それが無駄だったら目もあてられない。


 なら、今すべきことはセイバーの邪魔をしないこと。コレに尽きる。


 士郎が五年何をやっていたのか知らないが、セイバーは英霊だ。前回のアーサー王みたく有名どころじゃないけれど、最良のサーヴァントだと云うことは変わらない。


 つまり、セイバーの弱点がわたしだと言える。士郎がセイバーを倒せるなら話は別だが、白兵戦に優れ、抗魔術が恐ろしく高いセイバーは人の身で倒せるものではない。聖杯戦争に於いてサーヴァントはサーヴァントで対抗せざるを得ないのだ。

 その考えからいくと、士郎もサーヴァントを従えていなければおかしい。


 だが、

 士郎は夫婦剣を犠牲にしながら、セイバーと渡り合っていた。

 セイバーは徒手空拳。宝具――剣は出すな、と伝えてある。
 士郎は解析――特に剣に関しては超人的な才能を発揮する。サーヴァントの正体は隠すものだ。生前、苦手としたものや天敵などが必ず英霊には存在する。

 例えば、アーサー王は竜の因子を持つために、竜殺しの銘を持つ剣や竜殺しの英雄シグルドを始めとした、竜殺しの英雄と相性が悪い。
 それに、この戦いをどのマスターが見ているか知れないと云う点もある。

 士郎がマスターでないことは、セイバーとの戦いで分かる。令呪も反応していないところから見ても決定的だろう。ならば、マスターでもない相手に真名を知られるのは避けておきたし、それを他のマスターに見られるのも避けたい。

 元々、セイバーと士郎では地力が違いすぎる。
 セイバーをセイバー足らしめているのは宝具故。けれど、宝具が無くともセイバーは士郎以上の実力を持っている。

 ならば、宝具は使用せず、士郎の魔力切れを狙う。
 それこそが最善。それこそが必勝。


 ――さあ、士郎。これをどう切り抜けるの?





 セイバーの身が屈みこみ、衝撃音を伴って夫婦剣が砕ける。
 体重移動と筋肉の瞬発力を利用した純粋な打撃技。中国拳法の寸剄に近いかもしれない。

 尤も、英霊の身での寸剄の威力なんて察して余りあるけど。


 そして、それを耐えぬいた士郎も恐らくは規格外。
 砕かれた夫婦剣も一瞬の内に再生する。否、再生しているように見えるだけ。

 投影。それだけに特化した魔術回路を持つ少年は、それをより確固たるものにして現れた。


 ――アーチャーと同じ姿。立ち振る舞いで。


 セイバーが寸剄を放った僅かな隙。それを士郎は見逃さない。翻る外套は鮮血の赤。けれど、それがセイバーから流れることはない。
 甲冑。それに阻まれた夫婦剣は幻想を終える。舌打ちと共に訪れたのはセイバーの打撃。

 壊れたのは果たして夫婦剣。既に十合の繰り返し。
 違いは、時間が経つごとに士郎が不利になることか。

 再びセイバーの寸剄。
 爆発音と共に浮き上がったのは士郎の姿。後ろに跳躍して威力を殺したのか。なんていう動体視力。
 けれど、士郎が今いるのは空中。空中では回避が出来ない。セイバーの追撃で終わり。そう判断し、セイバーが追撃しようとしたところに――


 ――夫婦剣が投げられた。


 立ち止まり弾くセイバー。――ああ、これはわたしの為だ。弾く必要なんてない。けど、回避して士郎を追撃した場合に死ぬのは士郎ではなくわたし。宝石を準備する暇なんて無かった。いや、喩えあったとしてもアレを打ち落とせたかどうかは分からない。それほどの威力。スピード。

 そして士郎は。
 それだけで十分だったのか、セイバーから距離を取り、


「甘すぎる。凛から何を言われたか知らんが、宝具を使わず勝てると思ったか?
 まあ良い。手向けだ、受け取れ」

 そう言い



     我が骨子 は 捻 じれ 狂う
「――――I am the bone of my sword」



     カラドボルク
「―――“偽・螺旋剣”」



「避けるなよ? 避けたら背後の凛が死ぬだろうけどな」



 死の宣告。士郎はそれを云っている。――それを聞いても何も出来ない。
 あれは恐らく宝具だ。士郎は見たこともない弓を構え、螺旋を描いている矢を構えている。


「撃って見ろ。避けはせんが、防いでやろう」

 “偽・螺旋剣”が放たれる。
 大気を狂い曲げ――否、空間さえも狂い曲げ突き進む“偽・螺旋剣”は、それだけで台風じみている。
 自然の脅威に人が抗えないように、この矢も抗うことができない。


 ――はず、だった。


「ぬるいな。この程度なんとでもなろう。
 ……少し買いかぶっていたようだ。そろそろ決着をつけさせてもらおう」

 “偽・螺旋剣”を片手で掴むセイバー。出された腕に抱きとめられた“偽・螺旋剣”はセイバーにかすり傷ひとつ付けられないままに、その使命を終えた。
 その姿を見て安心してしまった。アレは必殺の一撃だったはずなのに、セイバーは危なげなく防いだのだから。それがいけなかったのか。



「そうだな。確かに決着をつけたほうが良い」



 背後から、声。

「な――――!」

 よく考えれば気付けたはず。士郎はアノ矢でセイバーが倒れようと、どうしようと関係ないのだ。倒せたならそれで良いし、倒せないなら囮に使う。
 士郎にとっての勝利とは、遠坂凛を殺すことだ。セイバーはその障害でしかない。そして、士郎はその障害を破壊せずに騙すことでの勝利を選んだ。

 ――なんて云う失態。元から士郎はセイバーなんて相手にしてない――!

「――覚悟は良いな?」


 宝石を構える。士郎を倒す必要はない。セイバーが来るまで時間を稼ぐ。
 唯一残った勝機を逃さぬように。しっかりと手繰り寄せて。

「舐めるな――! ―――――Anfang……!」

 勘に任せて右に思いっきり飛ぶ。瞬間、振るわれる夫婦剣。まるで追尾能力を持ったミサイルのように追いかけてくる夫婦剣目掛けて、

「Funf,Drei,Vier……!
 Der Riese und brennt das ein Ende――――!」

 秘蔵のルビーを三つ叩きつけた。
 夫婦剣が壊れる。――あーもう。あれ三つがどれだけ価値あるのか分かってるの? 万の単位軽く越すのに。

「ちっ」

 舌打ちと共に、再び夫婦剣が振るわれる。

 それを、

「すまない。マスター」

 セイバーが止めた。それを確認して距離を取る。運はわたしに味方しているようだ。
 勝機を掴んだのは遠坂凛。セイバーに宝具を使うよう言おうとして、


「――邪魔だ」




     我が 骨子 は 鉄のように
「――――I am the bone of my sword」



     イージスの盾
「―――“偽・神威楯”」



 セイバーの動きが止まる。
 士郎が投影したモノが分かり愕然とする。アレは、アイギスの楯にメドゥーサの首を埋め込んだ盾と云われる楯。
 セイバーが動けないのも道理。石化の魔眼を受けて、石化していなのでも十分すぎる。

「終わりだ」

 一瞬で間合いを詰めて来る士郎。右手にはイージスの楯。
 セイバーはイージスの楯に魅入られたのか。

 そして、私は。

 首を掴まれ、持ち上げられた。
 回避など不可能。セイバーと渡り合えるようなバケモノに、対抗する手段などない。奥の手は既に使用してしまっている。
 家にはまだあるが、取りに行くことなど出来ようものか。


「マスター!」




 セイバーが呼ぶ声がする。なんだか遠い出来事を見ている気分。








 ――あれ? なんでわたしアーチャーに首締められてるんだろ? おかしいなぁ。アイツは皮肉屋で現実主義者だけど、こんなことしないのに。



 それに、まだ三つ令呪が残っているのに――








「くうう、ああああああああああああああああああああああああああああ!」

 ――少しづつ首が絞まっていく――わたし、アーチャーに殺されるのかなぁ。



「動くなよ。俺が少し力を入れれば首の骨が折れる
 まぁ、動けないと思うがな」

「どうするつもりだ?」



 アーチャーとシラナイダレカが話をしている。
 けど、そんなことは気にならない。



「どうするも何も、ココで凛は殺す。そう宣言しただろう?」


 だって、わたしは――


「なら、何故殺さない? ここで宝具を開放した場合、マスターを救えたとしたらどうする?」

「それは無いな。可能性を考慮しても非効率だろう?」


 目の――前――が、暗――く――な――る。


「そうか、だったら――」


「――――――――――」
「――――――――――」
「――――――――――」
「――――――――――」
「――――――――――」







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――暗転―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――














あとがき

直してみました。うーんなんか変。へたれているなぁ。おかしいなぁ。
ちなみに神威楯は<アイギス>のほうじゃないかって云うツッコミは却下します。だからこその偽・神威楯ですし。
戦闘シーンを頑張って、士郎をハードボイルドっぽくしてみました。
どうでしょう? これが今のところの限界です。ああっ、石投げないで!
感想とか、意見を下されば書くスピードが上がったりしますので、続きを読んでも良いぞ!
って方がいらっしゃったらよろしくお願いします(ペコリ)。

2: zyu (2004/04/17 22:01:26)[chibatakubon at yahoo.co.jp]

 ――私は夢を見ていた。


 そう、夢を見ていた。
 何時までも燃え続ける煉獄の世界。
 右を見ても左を見ても、上を見ても下を見ても、次々と人が死んでいく。
 上下左右、老若男女。平等に訪れるのは死と云う名の終わり。

 周囲にはアカイ液体が流れ続け、人形は怨嗟の詩を詠う。
 周囲のアカイ液体は視界を紅く染め上げ、人形の詩は聴覚を麻痺させる。
 五感を犯す風景は、見ていて気が狂いそうになるほど。



 ああ、まったく。ココは惚れ惚れするぐらい地獄じみていた。



 そしてわたしは、この光景が何なのか解っている。
 聖杯戦争で出会った私のサーヴァント――――アーチャーの記憶だ。
 皮肉屋で現実主義者でありながら、子供っぽく何故か憎まめなかった赤い弓兵。アイツの記憶。

 マスターは契約している英霊と霊的に繋がっているために、サーヴァントの生前の記憶を夢に見ることがある。
 
 おそらく、この夢は私が聖杯戦争の間に垣間見たアーチャーの記憶の一つに過ぎない。
 アイツは目に映る全ての人を助けようとして、憎まれようと恨まれようと走り続けた。
 裏切られても人を救い、救っては裏切られた。それでも、誰も恨む事無く満足して逝ったアイツの、心の奥底に眠っている古い風景。それが今、私の見ている煉獄の世界。

 私はこの夢を見るのが嫌いだった。莫迦にも程がある。――味方に裏切られ、体中を剣で貫かれ死んだというのに、アイツは恨むどころか満足して死んだのだ。
 だからわたしは、アイツに人並みの幸せとかを教えて、曲がった性根を直してやろうと考えていた。いざとなったら、あの広い背中を蹴り倒してでも――と思っていたのだ。

 結局その機会は訪れず、わたしを逃がす為にアイツは消滅した。簡単すぎる程にあっけなく。
 わたしはアイツに何もできなかった。心残りと言えばそれぐらい。
 魔術師は等価交換が基本だ。与えるだけ与えて消えるなんて、遠坂凛のプライドが許さない。
 だからだろうか。今回の聖杯戦争に出ようと思ったのは。
 遠坂の悲願とか、そんな建前なんて全然関係なくて。
 もしかしたら、またアーチャーが――――。





 そこで、テレビのチャンネルを替えるようにあっさりと場面が変わった。

 いや、場面が変わったと云うのは適当ではない。だって、風景に変わりはないから。違いと云えば、登場人物くらいのものだろう。
 否、登場人物は常に一人。人形たちを数に入れるのは間違っている。故に、ソコに居るのを許されたのは、ただ一人佇んでいるセイネン。


 “契約させてもらう。俺の死後は好きにしろ。だが、その報酬を今、貰い受けたい”


 赤い外套を纏ったセイネンは契約の言葉を紡いだ。

 ――ああ、なんだってコンナモノを見せられなくてはいけないのか。

 これはセイネンが世界と契約し、英雄となった事件。


 運命の変更。
 因果律の変更。

 世界が欲する<英雄>とは、どのような手段を用いても変えることの出来ない災害を打破できる存在。
 その為に世界は奇跡を起こし、その代償として<英雄>を手に入れる。

 そして、それに合格したのが一人佇んでいるセイネン。
 つまりコレは、愚かなセイネンが『英雄』になった出来事。



 ――けれど、だったら何故。わたしはコノ風景に違和感を覚えている――?



 そこで、風景が黒く塗りつぶされた。




      ★




 目覚めはこの上も無く最悪。何だって、アイツの夢を今ごろ見なくてはいけないのか。
 しかも問題はアイツが英雄になった夢のせいだ。おぼろげなせいで、はっきりと見えなかった。

 ――五年前のときははっきりと見えていたのに。

 忘れていると云うことはないだろう。忘れていたら、最初の夢がはっきりしているはずがないし。
 それに、よくよく考えてみると五年前に見ていた夢と細部が違っていた。
 アイツは赤い外套を纏っていなかったし、若かった気がする。それに、契約の言葉も違っていたはずだ。
 腑に落ちない点が多すぎる。まるで、アイツの記憶でないような感じ。
 そんな風にわたしが思考しているときに、

「やっと起きたか、凛」

 なんて、穏やかな声で士郎が呼びかけてきた。

 なんかもう。遠坂家の遺伝てゆうか呪いを久々に恨んだ。わたしは何暢気に寝ていたのか。しかも起きてからの行動も、アーチャーのことを悩むと云う余裕っぷり。
 だから。
 反射的に士郎の腕を掴んで床に叩きつけてやろうかと思った。――いや、実際やったのだけれど、避わされたあげくそのままベッドに戻された。
 ポスンッなんてマヌケな音を立てながら、わたしはベッドに帰還した。
 ベッドに抱きついた。懐かしい感触。寝ていたときは気付かなかったけれど、ココは士郎の家の離れ。わたしが前回の聖杯戦争で使った部屋だ。


 ――あー。だめだ。ベッドは人を堕落させるー。


 士郎にガンド叩きこむのも後回しでいいな、なんて思考が大半を締め始める。結局のところ、遠坂凛は生きていたのだ。なら、士郎にも何か考えがあるはずだし――

「さすが凛。寝起きの悪さは一流だと思っていたが、ここまでとは。
 死んでからも寝起きの悪いなんて考え物だな」

 ――はい?
 今コイツは何を言いましたか?

「わたしが死んでる?」

 椅子の腰掛けている士郎を向いて訪ねる。
 こう近くで見ると、士郎はアーチャーに瓜二つだった。もちろん再会したときに予測はついていたけれど、改めて確認するとアーチャーが士郎の未来の形なのだと再確認できた。

「気付いてないのか? 遠坂凛は生物学的に見れば死んでいるよ。心臓を停止させたからな。脳死とか細かいところは知らないけど、心臓が止まっていれば死んでるだろ。普通」

 なんてことの無いように士郎が答える。
 胸に手を当ててみた。五年経っても全く変わりないこの胸――気にしている。少なくてもBは欲しい所だ――からは鼓動が聞こえることが無く、動いていないことが知れた。

「まぁ、云ってしまえば呪い、だな。気付いたと思うが、凛の心臓は停止していながら血液の循環は行なわれている。詳しい説明は省くが、俺の心臓と凛の心臓は連動している。
 一種の保険だと思ってくれて良い。俺が死ねば、凛も死ぬ。運命共同体みたいなものだ」

「運命共同体ねぇ」

 呟きながらも、士郎の行動に納得してしまった。
 つまりは今回の聖杯戦争に協力しろ、そうゆうことだろう。前回の聖杯戦争と同じように共同戦線をはりながら、裏切りの心配がない最も合理的な選択肢。
 以前の士郎なら絶対に行なわなかった行動。

「ああ。それと、俺はサーヴァントを召還しない。キャスター以外ならなんとかなるが、俺が魔術師である以上、魔術師の英霊であるキャスターには勝てない」

「つまり、抗魔力に優れるセイバーがキャスターを倒し、」

 わたしが途中まで紡いだ言葉を、

「他のサーヴァントは俺が倒す」

 鋭い眼光でわたしを睨みつけながら、士郎が続けた。

「その際にセイバーにも退場してもらう。そして、俺は聖杯を破壊する」

「アルトリアの為に?」

 真剣な表情があまりにも痛々しくて、士郎にその理由を示唆せずにはいられなかった。けれど、わたしは士郎の答えなんて示唆なんかせずとも分かっていた。――胸が痛い。畳針を突き刺されたような痛み。何故、わたしはこんなことを言ってしまったのか。そんなことを後悔する余裕なんて全然与えずに、士郎は、

「そうだ」

 簡潔な答えで、肯定した。






 過ぎた時間は幾ばくほどか。

 ただ椅子に座り続ける士郎と、ベッドに腰掛け続けるわたし。

 両者に会話はなく。過ぎる時間に終わりはない。
 そんな中、沈黙を、

「凛は何も言わないのか――?」

 士郎がわたしに質問することで、終わりを告げた。
 わたしは無言。答えないのではなく、答えられない。


 ――士郎の未来の形がアーチャーなら、わたしが前回の聖杯戦争で垣間見たアーチャーの記憶は、士郎の記憶でもある。既に知ってしまっているのだ、わたしは。士郎がどんなふうに生きてきたか、を。


 故に無言。掛ける言葉は無い。一種の罪悪感のようなものかも知れない。アーチャーの生き方を正してやろうなんて考えていたのに、わたしはその士郎を前にして生き方を正してやることが出来なかった。

 否。セイバーと士郎が別離した後、わたしが士郎に後悔はしていないのかと尋ね、士郎がしていないと答えた時点で、わたしは諦めてしまったのだ。
 そう、少なからずわたしは士郎がアーチャーだと気付いていた。けど、そんなことはないと否定し続けてきた。
 己を騙す嘘ほど滑稽なものはない。――ああ、だからこそわたしは、アーチャーの記憶を未だ夢に見るのだろう。

「分かった、凛。それじゃあ、俺は部屋から出るよ」

 わたしの沈黙をどう取ったのか、士郎は悲痛な面持ちで椅子から立った。

「けど、言っておくけど俺は凛を利用するのも躊躇ったりしない。邪魔になるモノは排除するし、容赦しない」

 だからさ、と微笑を浮かべ

「もっと、罵倒し詰ってくれ。
 もう恨まれるのには慣れた。憎まれるのも慣れたよ」

 全てを達観するような口調で士郎はそう言うと、部屋から出て行った。









あとがき

感想掲示板でオリキャラ、自作サーヴァントは痛々しくて見られないからヤメレ! っていうスレが出来てて、全部これに当てはまっていて欝状態のzyuです。
ちなみにこの作品。かなりオリキャラ、自作サーヴァント度が高いです。その割合70%近く。そんなわけで止めようかなぁ、なんて思っていて、全く手がつかない状態だったのですが開き直りました。
そんなわけで、オリキャラ、自作サーヴァントを忌避する人は次回から見ないほうが良いです。
それでは。

3: zyu (2004/04/22 00:48:37)[chibatakubon at yahoo.co.jp]

「セイバー」

 士郎が出て行ってからドアを眺めること数秒。
 わたしは霊体化しているセイバーを呼び出した。

 まぁ、実際。呼び出すも何も、セイバーはこの部屋に居るのだが。

「あの青年――エミヤシロウと言ったか? 中々、奇妙な人生を送っているようだな」

 うむ、なんて腕を組みながら実体化するセイバー。
 前回のわたしのサーヴァントであるアーチャーなら霊体でも支障なく会話出来たのだけれど、何故か今回のセイバーは霊体になっていると会話がしにくいために、いちいち実体化しないといけないのだ。
 喩えるなら、補語とか目的語が会話に混ぜられないとでも云おうか。霊体となっているセイバーとは、主語と述語のみの会話しか出来ない。別段、支障とかないから構わないのだけれど。

 あ、そういえば前回のセイバー――アルトリアも霊体になれなかったし、歴代のセイバーは霊体化に何らかの不具合が生じるのだろうか?
 けど、アルトリアの場合は唯一と言って良い例外だったし。英霊って元々霊体だから不具合なんて生じるはずないんだけど。
 今度それとなくセイバーに聞いてみよう。

 それより、今の問題を解決しとかないと。

「魔術師が奇妙じゃない人生を送るなんて不可能でしょ」

「ま。それもそうだがな」

 甲冑を装備していないセイバーは、そんなことより聞きたいことが有るのだろう? と続けた。

 こっちとしても、話が早いのは助かる。
 だから、

「セイバー、貴方の真名をそろそろ教えて欲しいのだけれど。
 宝具は対人宝具だって説明してくれたから安心、とまではいかないまでも信用はしていたんだからね。けど、士郎に負けたんなら話は別。
 わたしは貴方が勝てるようにしなくちゃならない。そのためには貴方の真名が判らないことにはどうしようもないの」

 セイバーに向かって言う。そう、わたしは未だセイバーの正体を知らない。
 セイバーが答えたのは自身の宝具の種類のみ。対人宝具。それだけ。

「どうしようもない、と言われてもな。諦めてくれとしか言いようがない。
 私の真名は正しくもあり、間違ってもいる。矛盾しているがそう説明せざるを得ない」

 本心から困った顔をしてセイバーが言う。――たしかに矛盾している。真名とは真実の名。つまり、間違っている時点で正しくなんてありえないのだから。
 反英雄みたいなものかも知れない。それとも、伝承と真名が食い違っているとか。予測の域は出ないけれど。
 セイバーの言葉から分かったことは、英霊としてセイバーはそれほど有名ではないのか、あまりにも有名すぎるのか。

「令呪を使っても意味がないぞ。まぁ、重要な令呪を、真名ごときを知るために使うとは思えないが」

 一転、軽薄な笑みを浮かべるセイバー。


 ――うう。コイツ趣味悪い。わたしが尋ねようとしたことに先手を討ってきやがった。しかも皮肉のオマケつきで。


「言っただろう? 私の真名は正しくもあり、間違ってもいると。結論から云えば、マスターが私のために出来ることなど全く無い」

 言外に役立たず扱いするセイバー。
 それが無性に腹が立った。頭に血が上っていくのが分かる。目の前が赤くなる感覚。

 その感情に突き動かされるように、

「貴方は士郎に負けたのよ! サーヴァントでもなんでも無い、ただの魔術師である士郎に!」

 そう、叫ぶようにしてセイバーに掴みかかっていた。

「ふむ。マスターは勝って欲しかったのか?」

 掴みかかったわたしを、視界に入れながらセイバーが問う。
 その視線は「殺したほうが良かったか?」と云う疑問形。

「気付いているんだろ、マスター。マスターは私に『エミヤシロウの目を覚ませ』と言った。確かに私は勝てただろう。宝具を開放することによって。
 だが、マスターはそれを是としなかった。結果論になるが、私が負けたことは結局正解だと思うのだが?」

「う」

「マスターは、お人よしで甘いようだ。けれど、それはマスターの長所でもある。
 謝っておこう、マスター。先ほどは確かに悪意が混じっていた」

 頭を下げ、微笑むセイバー。

「―――――――!」

「どうかしたか? マスター?」

 なんでも無い、と返事をし、

「分かったなら良いのよ! 次から気を付けなさいセイバー」

 ふん、とばかりにセイバーから顔を逸らした。

 ああ、もう。どうしてわたしはこうも不意打ちに弱いのか。多分、顔は真っ赤だろう。
 一つ、セイバーの認識を改めた。――気をつけろ、わたし。こいつはきっと、山羊の毛皮を被った狼に違いない――。




      ★




 彼が座っているのは屋根の上。
 奇しくもそこは、アーチャーが好んでいた場所だった。

 尤も、彼にしろアーチャーにしろ偵察する場所として好んでいるだけだったが。

 時刻は既に深夜。爛々と照らす月は満月。吹く風は肌寒い。
 彼が捕らえた風景には間桐家。そこには甲斐甲斐しく通う後輩と、友人が住んでいた。――それは過去形。友人――間桐慎二は前回の聖杯戦争で死に、後輩――間桐桜は行方不明。
 嗚呼――、と月を見上げる。そこには後悔の色があった。
 彼にとって日常の象徴だった後輩は、恐らく魔術師。気付いたのはトオイムカシ。
 友人を彼は信じていた。否、信じることしか出来なかった故の過ち。


 ――魔術師の家系は一子相伝。それだけを信じて。


 よく考えれば分かったこと。凛が云うように、間桐慎二は魔術回路が無かった。ならば、魔術など使える道理もない。言い換えれば、サーヴァントの召還など不可能なのだ。
 例外としてサーヴァントの召還が出来たとしても、魔力の授与が出来ない以上宝具の使用には最大限の神経を使うはず。
                             エクスカリバー
 現に、魔力の授与が出来なかった前回で、セイバーが放った約束された勝利の剣はまさに諸刃の剣じみていた。
 それをライダーは、セイバー戦で使っただけでなく、目くらましとしても使っていた。

 それから分かるのは、間桐慎二が正規のマスターでないと云うこと。おそらく、ライダーの正式なマスターは間桐桜。
 あくまで推論でしかない。ライダーが人を襲って魔力を得ていたかもしれないし、学校で起動した結界で魔力を得たのかも知れない。そう、これはあくまで推論。

 けれど、桜が魔術師で無いんだったら、行方不明の時点で事件になっているはず。兄妹が揃って行方不明。問題にならない方がおかしい。そして、問題になっていないなら例外が起こったのだ。魔術師と云う例外が。




 郊外の森に目を向ける。アインツベルン城はさすがに見えない。
 思い出すのは、イリヤスティール・フォン・アインツベルン。
 マスターであり、聖杯であり、――妹だった少女はもうこの世にいない。
 アインツベルンで、イリヤの延命を望んだ俺を待っていたのは、数え切れないほどのイリヤスティール・フォン・アインツベルン。

 ――気に入ったのならここから好きなだけ連れて行けば良い――。

 そんなことを言ったのは誰だったか。

 ――だから、次回こそは聖杯をアインツベルンにもたらしてくれ――。

 その中にはイリヤは居なかった。無邪気で愛らしい少女は居なかった。
 居たのは人形。イリヤの皮を被った人形。

 ――君ならもう一度聖杯を手に入れられるだろう。コイツが気に入ったのなら好きなだけ作ってやろう。だから、次回こそは聖杯をアインツベルンにもたらしてくれ――。

 懇願する声が五月蝿かった。静かにして欲しかった。今からイリヤを探さなくちゃいけないと云うのに。

 ――それでだ、エミ、ぎ、あああああああああああ。う、腕があああああ――

 だから殺した。八つ当たり。イリヤ探すのに邪魔だったから。
 投影したのはただのナイフ。宝具を投影しようなんて思わなかった。貴い幻想である宝具を汚すように感じたから。

 結局のところ。イリヤは既に死んでいた。だから償って貰った、命をもって。
 全てが終わってから、アインツベルンが聖杯の依り代を用意していたのだと思い出した。




トレース オン
「投影、開始」

 八節を素っ飛ばして投影したのはアルトリアの剣。
  エクスカリバー
 約束された勝利の剣じゃなく、アルトリアが切磋琢磨し、剣術を学ぶために使った剣。
                                セクエンス
 アーサー王としてではなく、アルトリアとしての剣。故にその名をアルトリアの剣。

 それを屋根に叩きつける。八節を飛ばした投影に完成度は全く無い。ガラスが割れるように幻想は砕け散った。
 それはまるで、今の彼とアルトリアと云う少女のようだった。

 彼はアルトリアと云う少女を思い出すことが出来なくなっていた。声も顔も背も立ち振る舞いも思い出すことが出来ない。忘れているのではない。あくまで、思い出せない。

 それでも彼は未だアルトリアを愛していた。一途と云うには、あまりにも純粋すぎる思い。それを胸に抱いて。
 だからこそ、彼は今回の聖杯戦争に参加したのだろう。
 建前なら幾らでも思いつくだろう。けど、本心は何なのか、と尋ねられたら答えられないはず。なぜなら、彼も迷っているから。

 彼は空を見上げた。輝くは満月。


 彼の名は――衛宮士郎。



 ここに、聖杯戦争が開始された。









あとがき

まず、セクエンスについてはそうゆうことでお願いします。
いろいろと調べてみましたが、詳しく書かれていないのでこうなりました。
説明ばっかりですが、次からちゃんと進む予定ですので。
それでは。

4: zyu (2004/04/26 03:17:40)[chibatakubon at yahoo.co.jp]

 其処の名は冬木中央公園。

 新都の中心部に位置しながら、何故か開発指定区域に入らなかった場所。
 自然公園でありながら、『生物』が寄り付かない場所。
 一言で云えば異界。そんな場所。

 ある魔術師は云った「一種の固有結界のようだ」と。
 確かに其処は固有結界と云うのが一番近いのだろう。

 固有結界とは術者の心象風景で現実を侵食する魔術。そう、確かに此処は侵食されている。――死と云うものに。
 理不尽に容赦なく蹂躪されたモノタチ。ソレラの怨念が篭るが故に。

 そこには、2体のサーヴァントが佇んでいた。ああ、――確かに相応しい。ココはまさに異界。ならば、ココに踏み入ることが許されるのも人ならざるモノ。
 それから考えれば、まさにサーヴァントと云うモノは皮肉な存在だろう。


 なぜなら、――サーヴァントが聖杯を求めるのは受肉する為なのだから。


 もちろん例外も有るだろう。聖杯を求める理由が違うサーヴァントも居るだろう。聖杯を求めぬサーヴァントも居るだろう。

 それから考えれば、今回の聖杯戦争は根本から間違っている。
 どんな形であれサーヴァントは『聖杯』を基準に行動する存在だ。求める、求めないと云うのは『聖杯』を基準にしている故。
 ソレは絶対的なモノだった。――今回のキャスターが召還されるまでは。




「ふーん。今までキャスターは、魔術師しか召還されなかったはずなんだけどねぇ。どこをどう間違って陰陽師なんて召還されたのかな?」

 ニコニコとした笑顔で問い掛けるバーサーカー。
 それを見ながら、キャスターはギリと奥歯を鳴らす。

 バーサーカー、狂戦士。本来なら有名ではない英霊を強化する為のクラス。
 狂うことによって、基本能力を底上げする為のクラス。
 だが、――狂っているはずのバーサーカーはニコニコと笑い、話し掛けて来る。
 一見して少年。身長はキャスターよりも低い。大体150僂らいだろうか。僂覆鵑憧霆爐鮹里辰燭里蓮⊂ご圓気譴討らだけど。
 そんなことをキャスターは考えながら、バーサーカーを睨みつけた。この問題であるバーサーカーをどう対処するのか考えて。

 尤も、キャスターが陰陽師であることも問題なのだが。

 バーサーカーの周りには紙で出来た人型が散乱していた。
 式神。日本版使い魔と表現すべきソレに篭められた呪は『対象の抹殺』。しかしそれは叶わず、バーサーカーを傷つけることすら出来なかった。

「返事は無いの? まぁ良いけど。それじゃ――」

 ぐ、とバーサーカーが沈みこみ、

「――去ね」

 そう、掃き捨てるように告げると、一瞬でキャスターと間合いを詰めた。
 驚愕するキャスター。それもそうだろう、バーサーカーが肉薄した後に言葉が伝わって来たのだ。一体どれほどの速さなのか。振るわれる拳さえ見えない。

 それでも、キャスターは危なげなく回避する。否、キャスターは避けていない。傍目から見れば、バーサーカーがわざと外しているように見えるだろう。もちろん、バーサーカーがわざと外していることなど有り得ない。
 少年の姿をして居ても、その本質はサーヴァント。奴隷が手を抜くことなど有り得ぬ。主人を勝たせるのが奴隷ならば、全霊を持って勝たせるのが使命。
 それでも、キャスターには届かない。触れられない。当たらない。

 キャスターは事実、避けてなどいなかった。避けているのはバーサーカー。

 正に一撃必殺と称すべきバーサーカーの一撃も当たらぬなら意味が無い。そして、当たらぬなら、――と取り出したのは『白木の弓』。
 行なうのは、『鳴弦』。矢など無い。元より『鳴弦』に矢など必要無い。

 吹き荒れる嵐の中で闊歩するように、ゆっくりと、余りにもゆっくりと矢を引くキャスター。
 キャスターは動いていない。それでも、バーサーカーは触れられない。

「吹き飛びなさい」

 告げた言葉は、そのまま事実を表す。弦を鳴らす『白木の弓』。
 吹き飛ぶバーサーカー。いや、吹き飛ぶだけではない。バーサーカーの右手は消滅していた。



 ――『鳴弦』。『白木の弓』の弦を鳴らすことで、『目に見えぬ矢』が『目に見えぬ異界の者』を打ち倒すと云われる陰陽道独特の祓い。だが、本来は男子出産を祝ったり、災厄が起こったりする時に行なわれる祓い。



 実際、『鳴弦』にあそこまでの破壊力は無い。元々、魔を祓う為の儀式なのだ。――キャスターの行なう陰陽術は全てが歪んでいる。バーサーカーがキャスターに触れられなったのは『方違え』を行なったから。だが、方違えにあれほどの強制力はない。凶方を避ける方位呪術では福を呼び込むことしか出来ない。


 吹き飛ばされたバーサーカーが体勢を整え、着地する。消し飛んだ右腕も何時の間にか復元していた。その目に映るのは驚愕。解せぬ、と云う疑惑。
 バーサーカーもキャスターが行なった一貫の行動が、陰陽術によるものだとは気付いている。だがしかし、バーサーカーの知る陰陽術とはかけ離れすぎている。尤も、バーサーカーも詳しくは知らず、齧った程度だが。

 それでも、キャスターの行なう陰陽術が異常だと云うことは分かった。
 まるで、因果を逆転されているかのような強制力。運命を決められてしまい、その通りに行動しているような違和感。

「何者ですか、貴方は」

 一枚の式符を取り出したキャスターがバーサーカーに問う。彼女の知る限り、まともに『鳴弦』を受け、大して外傷も負っていないモノなど居なかった。ある意味で最強の武器。其れこそが、彼女の扱う『白木の弓』であり、『鳴弦』だった。

「何者だ、なんてこっちが聞きたいよ。まったく冗談じゃない。宝具でもないのに右腕が吹き飛ぶだなんて」

 プラプラと右手を振るバーサーカー。握ったり開いたりするところを見れば、新しい右腕の感触を試しているようだった。
 それを見ながら、キャスターは毒づく。――全くの余裕。確かにバーサーカーは本気だろう。けれど、それは遊びとしての本気。自分が負けるなど有り得ぬ、と云わんばかりの態度。

「けど、だいたい気づいたし。そのトリックも中々面白かったよ?」

 ニコリ、と微笑むバーサーカー。微笑む姿は禍々しい。それを見たキャスターが凍りつく。バーサーカーの余裕だった理由に気づいた故に。
 まずい――、とばかりに式符を投げるキャスター。


「――十二神将。『朱雀』」


 現れたのは、翼を広げた鳳凰状の鳥。
 かの安倍晴明が使役したと言われる式神。南方を守護する神獣。
 キャスターの使役する朱雀は、一種の概念武装に近い。南方を守護する。それだけに特化しきった式神。――そう、キャスターの居る方角こそが南方。
 朱雀が翼を広げる。楯のように。バーサーカーが踏鞴を踏むのが見える。

 頃合だろう。キャスターはそう判断した。聖杯戦争――全くコレはなんなのか。『鳴弦』を受け、大した外傷も負っていないバーサーカー。召還される七騎の使い魔。そして、わたし。

 彼女にとって聖杯などは必要ないものだった。いや、彼女は聖杯など知らないのだ。知らないモノを求めるなど愚者以外にしようか。

 しかも、主でさえ何も知らないと来ている。――益々不可解。正に面妖としか云いようがない。


 知識は全て、過去を覗き見て得たもの。特に気になったのは『復讐者』。


 ――調べてみよう、と思ったのは酔狂だったなと感じる。主になんて謝ろうか。あの少年はわたしを大事にしてくれているし。
 『葵』。そう呟いてヘラ、と頬が緩んでしまう。

 『葵』。良い名だ。高貴で清清しい蒼さを感じる。そしてまた――ヘラ、と頬が緩んでしまう。会いたいなと思う。名など無かったわたしを大事に扱ってくれる少年に。
 さっさと帰ろう、とキャスターは呟き、

「それでは、バーサーカー」

 ――その身を消した。
 消えたのはキャスターだけでは無かった。掻き消えるのは朱雀さえ同じ。
 蜃気楼のように希薄になる朱雀を眺めながら、バーサーカーは何をするでもなく佇んでいた。




「くくくくくくくくくくくく」

 キャスターが消えた空間を眺めながらバーサーカーが笑う。その笑いは怨嗟であり、喜びであり、嘲笑だった。
 ブン、と腕を振るう。――刹那、砕け散るのは地面。直径十mはあろうかと云うクレーター。

「舞台は整った。全ては踊らさせる。舞台の上で」

 愉快だ――そう言いたげな顔。

「さあ――始めよう」

 云うや否や、掻き消えるバーサーカー。
 残ったのは散乱する紙と巨大なクレーター。

 それを見て、何が起こったのか気付くモノはどれほど居るのか。――ただ分かっているのは、七人の人間は否応なく気づいてしまうと云うことか。







あとがき

あれ? なんかキャスターが強いんですが。おかしい、変だ。最弱のはずなのにバーサーカー相手に惚気る余裕ぶり。バーサーカーもダークだし。本当ならもっと純情な少年の予定だったのに。
そんなわけで、自作サーヴァントのみの出演でした。ちなみにキャスターは陰陽師っぽい服を着てますので(なんか着物とゆうかそんな感じのやつです)。名前がわからなくて描写できなったのです。知っている人が居たら教えて下さい。本当に(ペコリ
ヘタレ度MAXすぎて(しかも自作サーヴァントのみ)でビクビクしてます。感想と云うか、この自作サーヴァントについてどう思うかとかを教えて頂けると嬉しいです。
それでは。


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