槍兵運勢事情 (M:? 傾:バトル)


メッセージ一覧

1: 和泉麻十 (2004/04/12 00:35:28)[izumiasato]

注:セイバールート中とお考え下さい

2: 和泉麻十 (2004/04/12 00:36:42)[izumiasato]

寒気が走る。



悪寒がする。



脂汗が滲み、



鳥肌が立ち、



奥歯がカタカタと鳴った。



「来やがった……」



ここからそう遠くないところにとんでもない『化け物』が現れた。
俺もまあ、人間から見ると『化け物』なんだろうが、今この建物の入り口あたりにいるのは別モンだ。
いや、普段なら別モンじゃない、俺と同等……か、ほんのちょっと強いぐらいだな。


爆音


おーおー、入り口ぶっ飛ばしやがった。


足跡が響く、いや、足跡なんてもんじゃない。
遠雷が立て続けに落ちてきてるような轟音。


   ――ヤバイな……。


こりゃ予想以上に怒ってやがる。
まあ、無理もない、人質とって半死半生にしたら俺でもブチ切れだな。


   ――しっかしここまでマジ切れだとは予想してなかったぜ……。


冷や汗が滝のように流れる。
まだ割りと距離はあるってのに体が強張っちまっていた。


   ――へっ、上等。


舌なめずりをする。
久方ぶりの緊張感に心が打ち震えている。
圧倒的な絶望、不利な状況、確実に殺されるという危機感

俺が欲しくて欲しくてたまらなかったモノ。


   ――これまで汚れ役一辺倒だったからな、これくらいじゃないと割りに合わねぇ。


音が上のほうで止まった。


俺のいる部屋の反対側の階段。
その上に居やがる。ああはっきり分かる。
隠す気なんぞ毛頭無い殺気撒き散らしやがって、お陰でにやけちまうじゃねえか。





軽い飛翔音。





刹那。





大地が捲り上がる様な衝撃。





   ――なんて奴だ全く……。





この俺が反応できなかった。
一瞬足が竦んじまって動けなかった。
目の前の存在はそれほどに強大だってことだ。


   ――いいぜ……。


煙が晴れていく、その中に隠れていやがったのは、俺より遥かに小柄な『お嬢ちゃん』。
だが、見た目はどうあれ、それは英霊、しかも不本意ながら俺より強い。
それが本気でマジ切れと来た。
これ以上の相手ってのはおそらくこの世にないだろうな。


歓喜と恐怖が入り混じった唾を飲み込む。





   ――本気で来やがれ、相手になってやるぜ、セイバー。











<槍兵運勢事情>

3: 和泉麻十 (2004/04/12 15:45:34)[izumiasato]

   ――結論から言おう。











俺には運がない。





そりゃあもう絶望的に






そもそも俺がこの聖杯戦争の召還に応じた理由は、思う存分死力を尽くして戦いたいからだ。
最初に契約したマスターは女だった、勝気で骨のあるなかなかいい女で、口説いたら引っ叩かれた。
あんときは、口説き文句考えながら聖杯戦争もなかなか捨てたもんじゃないな、とか軽く考えてたもんだ。





で、俺は初っ端から運がなかった。





   ――口説く前に、逝っちまいやがった、そのマスター。





霊体の俺を出す前に、即死。
騙し討ち、そういうことだ。

全く持って俺のマスターらしい……、いい女だった。

戦場のならいってヤツだ。
さんざっぱら戦友やら高潔な戦士やら殺したり死なれたりした身だ、それに嘆き悲しむって事はねぇ。




……ただ、やっぱりな、女が……、特にいい女が死ぬ、ってのは何時までたっても慣れないもんだな……。




で、当然そんないい女を騙し討ちにするようなへたれ野郎を黙って見逃すような事はしねぇ、きっちり地獄の三丁目で泣いて詫び入れてもらう……、はず、だったんだが……。





全く、運がなかった。





その外道野郎、言峰とか抜かす神父、そいつがどうもこの聖杯戦争を知りつくしてやがったらしい。
マスターから切り取った左腕から礼呪奪い取りやがった挙句に……、


   ――主替えに賛同しろ。


と来やがった。
ふざけんな、そう言ってぶち殺してやりたかったが礼呪の縛りだけはどうにもならなかった。
マスターが粋な女からむさくるしい外道野郎に変わったって時点で正直止めてやろうかとも思ったが、ここまで来て戦闘の一つも無しに『座』に帰るってのも胸糞の悪い話だ。


   ――腐れ神父、隙を見て叩き殺しておきたかった、というのもあるがな……。


礼呪がある限り俺は手を出せない。
なら精々無茶苦茶な戦闘をしてボケ神父に礼呪使わせて礼呪使いきったところで嬲り殺す。
それなら俺の願いもかなう、敵も取れて一石二鳥……、の予定、だったんだが……。





本気で、運がなかった。





あのド腐れ神父、言もあろうにこの俺に向かって、


   ――諜報活動に徹しろ。


こう言いやがった。
戦うなって事だ、死力を尽くして戦うなって事だ。
礼呪までわざわざ使って来やがって、いやもうトサカに来たなあん時は。
しばらくぶりに犬肉食ってやろうかと思ったくらいだ。

ああ、やったさ、他のサーヴァント六体ときっちり引き分けてやった。
縛りは一回の戦闘だけらしいからな、二回目からは存分に出来るってんで手っ取り早く終わらす気で事に当たった。


   ――死ぬかと思ったがな……。


セイバーにはぶった切られるわアーチャーの時は邪魔が入るわライダーには消されかけるわアサシンには致命傷追わされかけるわキャスターには魔力でタコ殴りにされるわバーサーカーは殺しても死なないわもう散々だった。

それを済ませて、今度こそまともに戦えると思ってたら……、





問答無用で運がなかった。





あんの変態神父、


   ――ランサー、しばらく君には用がない。


とか抜かしやがる。
何時までだ、と聞いたら、


   ――そうだな、事にもよるが、おそらくこの戦争が終わるまでだな。


なんつうかもう、怒り通り越して笑っちまった。
ここまでついてないのはどういうわけだ?
ひょっとしてあれか、不幸の女神に惚れられちまったか?
俺が魅力的なのはわかるが迷惑な話だ。


だがな、今日でその粘着女神ともおさらばだ。
ようやっとまともに戦える時が来やがった。
しかも相手はサーヴァント中最強の『セイバー』と来た。


最後の最後で俺にもようやく運が巡ってきたらしい……。


尤も、マスター半殺しにして呼び出した上、狭い地下室内で明らかに不利とか言う状況を『運が良い』と言って良いもんかは知らねぇ。

ただ、こんな腐れきった聖杯戦争なんぞに未だ参加してるのはこの時を待ってたんでな。
あのマスターの坊主とセイバーには悪いが、俺の願いを果たすこれ以上のチャンスはおそらく無いだろう、だからだな、




           セ イ バー
ようやっと姿を現せた『幸運の女神』、ここで手放す積もりなんざ毛頭ない。





だと言うのにだな、




   セ イ バ ー
その『幸運の女神』が俺のこと気付いても居ないのはどう言う了見だ?

4: 和泉麻十 (2004/04/15 22:33:04)[izumiasato]






オレを空気か何かのごとく無視しながら歩を進めていたセイバーが奥の部屋を見て立ちすくむ。
一瞬の安堵の表情。
だがすぐに顔中に青筋立てて奥の部屋を睨みつける。


   ――まあ、相棒痛めつけられて黙ってられない気持ちはオレも十分解かるがな……。


だからといって涙の対面といかせる訳にはいかない。

「よう、悪いがそこまでだ、セイバー」

ゲイボルグ
 愛槍  を後ろ手にして声を掛ける。
サーヴァントとは言え女には挨拶しておくのがオレの主義だ。
もっとも、向こう側が挨拶する気分かどうかは知らんがね……。

「シロウ……」

案の定、俺のことなど気付いてもいない体で奥の部屋へと踏み出すセイバー。
全く、騎士様はこれだから始末が悪い。
そんなに目の前の敵より主のほうが大事か?

「よう、悪いがそこまでだ、セイバー」

二度目の挨拶。
奥の部屋の入り口を塞ぐ、流石に今度は無視するわけにはいくまい。


「……」





まあ、あれだ、友好的な挨拶なんぞ求めちゃいないが……





   ――“それ”が返事かよ……!





衝撃





「っ……!テメエ、いきなり見境なしか……!」

とっさに槍で受けた。
だが威力は殺ぎ切れない。
床板を巻き上げながら壁際まで吹っ飛ばされていく。

   ――なんて剣圧してやがる……!

手足が痺れる。
剣を受けただけだってのに、体中がミシミシと悲鳴を上げる。


「……」


それで事は済んだとでも言うのか、セイバーはまたも視線一つ向ける事無く奥へと進む。

   ――って事はあれか?

今の一撃、本気じゃないってワケか?

   ――なんてぇ化け物だ……。

細っこい体のどこにそんな力が篭っているのか。
セイバーは誰よりも人間らしく、誰よりも化け物じみていた。



   ――やっと俺にも運が廻って来たって事か……。



最後の最後で全力で戦えるのが“最強”の化け物と来た。
後にも先にももうこんな機会は無いだろう。
ようやっとの俺の願いが最良の形で叶うとはな……。


   ――だからセイバー、付き合ってもらうぜ、テメエには不本意だろうがな……!


「ハッ、そんなに坊主が大事か。
 それはかまわねえが……、なら尚のこと、俺を放っておくわけには行かないぜセイバー?」

奥に向かうセイバーの足が止まる。
釣りエサならともかく、決闘に半死人をエサに使うなんぞ好みじゃないんだが、そうでもなきゃテメエは振り向いてもくれねぇだろ?

「……それは、どう言う意味ですかランサー」

   ――入れ食いだな……。

「いや、なにな。そいつの胸を串刺しにしたのはオレなんだが、実はこれが二度目でね。以前は確かに殺してやったのに生きてやがったもんだからな、今回は念を入れて“刺して”やったワケだ」
「貴様……、シロウにゲイボルグを使ったのか……!」

動揺したようにこちらを見る。
それはセイバーにとっちゃ死刑宣告のようなものだろう。

   ――そんなに睨むな、まだ死んでないし、殺すつもりも無いぜ。

しかし何かしら違和感を感じる。
どうもセイバーの反応が主君の無事を祈る“それ”じゃない。
どちらかというと想い人を案じる“それ”のような感覚だ。

   ――まさかこの二人、デキてやがるのか……?まあ、関係無いがな。

「安心しろ、心臓は外してやった。だが呪いはそのままだぞ。
 ……セイバー、貴様とてこの槍の呪いは知っていよう。因果を逆転させる“原因の槍”。
 コイツの呪いを受けたものは、よっぽどの幸運がない限り運命を変えられない」

噛んで含めるように説明する。

「まあ単純に言ってしまえば、ゲイボルグによってつけられた傷は癒されることはない。
 呪いを受けたものは決して回復できず、死に至るまで傷を背負うことになる。
 ……この世に、この槍がある限りはな」

部屋中に満ちていた不細工な殺気が消えて行く
どうやらオレを障害と認めたらしい。
オレを睨む目は、間違い無く敵を相手にする目だ。

「……フン、ようやく理解できたか。そこの坊主を助けたいんだろ?
 ならまず、オレとの決着をつけなくっちゃあな」

挨拶は済んだ、後は命のやり取りがあるのみ。
オレは体中の筋肉という筋肉を引き絞って体制を整える。

「正気ですかランサー。このような狭い室内で、槍兵である彼方が剣士である私と戦うと?
 そのような愚考、貴方の考えとは思えない。
 ……今ならば見逃します、その槍を置いて立ち去りなさい。
 このような不本意な戦いで、彼方の首を獲る気はない」

   ――あん?

んなこた最初から承知の上だ。
オレが誇りも矜持も脇に置いてやりたくねえ汚れやってたのは何のためだと思ってやがんだ?
この機会逃したらもう後は無い。
それに奥にはあの腹黒神父が居やがる。
腐れマスターのこった、んなことしたらすかさず妙な命令抜かしてくるだろう。
それにだ、例え凄まじく不本意だとしても、一応契約関係にある奴見捨てたら寝覚めが悪い。

   ――ったく、テメエも騎士なら解かりやがれ。

「それこそ愚考じゃねぇのか?いったいどこの英霊が相棒を置いてくってんだよ。
 オレは何も取引をするためにそいつを刺したんじゃない。
 ……オレはな、おまえと殺し合いをする為に此処にいる」

これ以上の口はいらねぇ、オレが欲しいのは凍えるほどの冷たい白刃だけだ。

「……いいでしょう。ならばその槍、御身ごと叩ききって捨てるだけだ」

セイバーは“何か”を構え、オレと向かい合う。

「よく言った。白状するとな、貴様が最後に残ってくれて嬉しいぜセイバー……!」


騎士としての礼儀の言葉と同時に、戦士としての礼儀をセイバーに叩きつける……!


「!」

月光を煌かせて疾風が飛びこんでくる。

「ちっ!」

横っ飛びに飛び退る。

爆炎と砂煙。

オレが居た場所にぽっかりと穴が口を開けていた。

   ――イカれた戦い方しやがって……!

セイバーはオレの一撃を受けるどころかかわす気も無かった。
もしあのまま突っ込んでいたら、セイバーにかなりのダメージを与えてたが、その瞬間オレの体は真っ二つってとこだ。

   ――ぐずぐずやりあってる暇はないって事だな……。

『その通り』、そうとでも言いたいのか、再び目の前に烈風が迫る。

5: 和泉麻十 (2004/04/20 12:09:21)[izumiasato]

それを受けはせず、もう一つ飛んで、部屋の中央に陣取る。

   ――さて、どうしたもんか……

願いはかなったものの、払った代償が馬鹿でかい。

まずは狭い室内。
槍ってのは基本的に突くにしても投げるにしても適切な距離ってもんが必要になる。
それは別に槍に限った話じゃないが、槍の攻撃は“点”
威力こそ大きいが、当て難い、その上槍を突く為には一旦引く必要がある。

前後に大きな空間を必要とするってワケだ。

部屋の中央、ここで迎え撃つ。





旋風。





次にセイバーの得物。
どういうつもりかは知らないが、セイバーの“剣”は見ることが出来ない。
長さの分からない武器ほど厄介なものはない。
大体は言峰から聞いちゃいるが、実感が沸かないと戦いようがない。


槍を立てて旋風を受け止める。





爆圧





「があ!」

再び床板を巻き上げながら壁際まで押し付けられる。

最後のは、アレだ。
本気になって欲しくはあったが、少々、本気にさせ過ぎちまった!


爆音。


セイバーの追い討ちを辛うじて交わして、壁を蹴って再び部屋の中央に戻る。


「どうしたランサー、貴方の言う殺し合いとは、そのように逃げ回ることなのか?」


   ――いっぱいいっぱいの顔の奴に挑発されるようになっちゃオレもお終いだな。

「ハッ、ちょっとした準備運動だ、最近こういった事が無かったもんでな。
 安心しろ、どうやら鈍っちゃいないらしい、存分にお相手出来そうだぜ」
「そうか、なら遠慮は要らぬな」

セイバーの姿が消える。

残像を辛うじて目で追って一撃を叩きこむ。


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