Fate/stay night again 機銑察憤貮改訂その3


メッセージ一覧

1: タケ (2004/04/10 01:14:28)[tamaayu at sweet.ocn.ne.jp]


――双剣に写り込んだ自らの顔を見つめながら思う



――――あの日々に衛宮士郎が見た夢は、俺が叶えてみせる――――




Fate/stay night again 此 素肋紊旅姫〜
前編



「ん・・・・・・・」
窓から朝の光が差し込んでくる
毛布にくるまれた体は微かに冷えているが、あそこで眠るよりかは、風邪を引いた方がまだましだ

「・・・・・・・ったく、あの部屋で眠れって言うほうが無理だよな」

そう、俺は昨夜の鍛錬のあと、結局自室に戻ることが出来ずにここで夜を明かしたのだ


――――時刻は朝の六時前

庭に出て、朝の空気を胸一杯に吸い込む

さて、朝食の仕込みを始めないとな

ああ、でもその前に――――

「――――セイバーを呼んでこないとな」

この時間ならきっと、道場にいるはずだ

俺は、セイバーに朝食を作り始めることを伝えるために、道場へと足を運んだ


「あれ――――?」

道場にセイバーの姿はなかった

「おかしいな、もう起きて精神鍛錬やってるころだと思ったんだけど・・・・」

もしやと思い、自らの私室を覗き込む




――――いた




「ん〜〜〜〜〜」

下がった目尻

口元にはとろけた微笑み

とても心地よさそうな顔で、掛け布団を抱きしめて眠るセイバーがいた

遠坂が昨晩用意した、青を基調にして白の縦縞の入ったパジャマに包まれたセイバーは、これでもかというくらい、
無防備な姿を晒していた

パジャマの胸元から覗く白い肌が艶めかしい

「――――――――」
あまりの光景に言葉を忘れる

確かに、俺はセイバーの寝姿を見たことがなかったが、まさかこれほどとは――――

穏やかな 朝の日差しに 感謝する

思わず七五調になる

日本の心は、俺達の中に生きていた


「――――へくちゅっ」

可愛らしいくしゃみ
ビクッと体が反応する

今、セイバーに起きられたら、俺は言い訳する言葉が何もない

「ん〜〜・・・・・・?」
寝返りをうつセイバー
鼻がムズかゆいのだろうか
いやいやをするように、鼻を枕にこすりつける


心臓が早鐘のようになっている

モシ、カノジョガメザメタラ、オレヲミテドウオモウノカ――――――

「んふぅ・・・・・・・」

穏やかな顔にもどり、また掛け布団に顔をすり寄せるセイバー

どうやら、危機は去ったらしい

俺は、セイバーに俺の掛け布団を掛けてやると
起こさないようにこっそりと部屋を出た――――



いただきます、という声が重なる

朝の食卓
座っているのは俺とセイバーと藤ねえ、それに遠坂だ
・・・・桜は今日は来なかった

今後激化するであろう聖杯戦争に、巻き込まないようにするためにも、彼女はいない方がいいのだが――――

「シロウ、おかわりをください」

椀を差し出すセイバー

思考を中断して、彼女の椀にご飯を盛る

セイバーのように、美味しそうにご飯を食べてくれると、作っている側もとても嬉しい

ついつい顔が綻ぶ

「シロー、お姉ちゃんもおかわり欲しいな〜」
そういって、藤ねえも椀を差し出す

保護者兼姉代わりとはいえ、毎日年下の男の子の家に来て
食事をせびるのは、一成人女性としてどうなのだろうか

――――あ、そういえばセイバーも一応年上になるんだっけ――――
藤ねえの椀に山のようにご飯を盛りつけながら思い出す
しかし、体の成長を止めるのとともに、少女であることを止めたセイバーは
外見上の年、相応の感情を持っているのかもしれない

美味しそうにご飯をほおばるセイバーを見ながら思った




穏やかな空気の中で朝食は進んでいく

途中、新都でのガス漏れのニュースが入り

藤ねえが、わあ物騒ね〜等と言っていたり
ままで寝ぼけ眼だった遠坂の顔がキリリと引き締まったり
何も気にせず、セイバーがご飯を頬ばり続けていたことを除けば、それは楽しい朝食だった

――――新都でのガス漏れ
おそらく、キャスターの仕業だ

死者を出していない以上、今は確実に放置すれば死者のでる、学校の結界の方が優先度は上だろう


「なあ、遠坂――――」
小声で話しかける

「ええ、アレは多分、サーヴァントの仕業よ
――――これだけ大規模なものとなると相手はキャスターか・・・・
少なくとも、かなり魔術に精通した相手であることには間違いないわ」

流石に遠坂は鋭い
ニュースという断片的な情報の中から、ここまで正確に推測できるのは一種の才能に他ならない


「でも、今はこっちよりも学校の方を気にした方がいいわね。サーヴァントの強化って面ではこっちの方が
怖いけど、士郎は誰も死なせたくないんでしょ?
なら、一応分別をわきまえてるこっちよりも、学校の方を私たちは優先すべきね」

「――ああ、そうだな」
そう答えることしかできない

こちらの言いたかったことは全て、初めから考慮に入れて考えてくれていたらしい

なら、俺の言うべき事は何もない







後片付けを済ませて玄関に出た
藤ねえは朝練のために一足先に出ている

セイバーは昨日と同じように、家を出ようとする俺についてくる

が、それを認めるわけにはいかない
休日ならまだしも、平日の学校にセイバーを連れて行ける筈もない


「セイバー、いっとくけどここまでだぞ。
俺たちが学校に行っている間はここにいてくれ。セイバーと一緒に行ったら騒ぎが大きくなるし、
何より目立つ。マスターは人目につくのは避けるべきなんだろ?」

「――――――」
納得がいかないのか、セイバーがじっとこちらを睨んでいる

「大丈夫よ、セイバー。学校ではなるべく私が一緒にいるし、アーチャーも霊体にして待機させておくわ
それに、いざというときは霊呪で呼び出せばいいでしょ?」
遠坂がセイバーに諭す

「む―――――」

「遠坂もこう言ってくれてるし大丈夫だって。人気のないところには近寄らないようにするし、日が暮れる
前に帰ってくる。それなら文句ないだろ?」

それに、学校で遭遇するサーヴァントといったら、ライダーぐらいしか考えられない
単純な武器を使った戦闘なら、俺に分があるはずだ

「・・・・ふう、わかりました。リンが一緒にいてくれるなら大丈夫でしょう。
―――しかしシロウ、もうあなた一人の体ではないのですから、くれぐれも無理をしないようにしてください」

・・・俺は妊婦さんか
言い回しは妙だけど、セイバーが俺のことを真剣に心配してくれているのがわかる


「それじゃ、留守番頼むよ。セイバー」
「学校でのことは、私に任せて」

「はい、二人とも気を付けて―――」


家を出る



どこか活気のない学校
草木も人も、全てが色褪せて見えた

「で、学校ではどうするんだ?」

「―――そうね、とりあえず魔力の残滓を追いかけて回りましょう。何か敵マスターの痕跡が
見つかるかもしれないし」

――――そうだな、歴史がかなり食い違ってきている以上、慎二が犯人と決めつけてかかるのは危険だ

「それじゃ放課後に、校内を探索しよう」

「ええ、いくつか目星は付けてあるから、そこを中心に探索していきましょう」
そう言って、遠坂は自分の教室へと入っていった

俺も、自分の教室に入らないと





慎二は学校には来ていなかった
―――どうやら、やはり慎二は何らかの形で、聖杯戦争に関わっているらしい


昼休みを告げるベルが鳴る

今日は弁当を持ってきていたし、生徒会室へ移動しようとすると―――

「っ―――――――――!?」

―――容易に予想できるはずの事態であったのに―――

自分の迂闊さを呪う
廊下には、真剣な顔でこちらを見つめる遠坂

目眩がした


「どうしたのだ、衛宮?頭など抱えて」
一成が心配そうに俺の顔を覗き込む
その優しさが今は辛い

「衛宮はいつも無理をしすぎる。たまにはゆっくり休んだ方がいい」

「ありがとうな、一成。でも、俺ちょっと行かなきゃならないところがあるから」

「今日は、生徒会室で食べていかないのか?」

「・・・そのつもりだったんだけど、どうも今日はそういうわけにもいかないらしい」
廊下にいる遠坂を見る

目がさっさと来いと告げている

―――逃亡は不可能
覚悟を決める

「一成、骨は拾ってくれるな?」

「っな―――!?衛宮、一体何を言っている!!」

「いいから聞いてくれ一成、俺は今からきっと死地へ赴く。だから、お前はここにいて、せめて
俺の冥福を祈ってくれ―――――」

「衛宮・・・・・・・・・」
呆然とする一成を置いて廊下に出る

――――これでいい。たとえ俺がどうなろうとも、これが最良の選択なのだろう――――

目の前には遠坂。その手に持つは、俺が今朝用意したお弁当
――――これが意味するのはただ一つ

「それじゃ、衛宮君。屋上へ行きましょうか――――」
何か話したいことがあるのだろうか

俺を引きずってズンズンと歩いていく遠坂

そして、俺は遠坂に引きずられて屋上へと向かう

クラスメイト達の驚愕の叫びをあとにして・・・・

――――はあ、言い訳どうしよう








二月の空の下、寒々とした風が吹き抜ける屋上に俺達はいた


「美綴りが行方不明――――!?」

「ええ。弓道部の一年の話だと、昨日、間桐慎二に会っていたって話だから士郎のクラスに
来てみたんだけど――――――」

「・・・・ああ、慎二は今日は休みだ」
桜も今日は俺の家に来ていない
これで何も無かったと、信じ込む方が難しい

「桜なら、今日は学校来てたわよ?」

「はあ?」
間の抜けた声が出る

「私も、人づてに聞いた話だから、確実な情報じゃないんだけど。桜は今朝、寝坊して弓道部の練習にも遅れたそうよ。
慎二の欠席のことだって、朝はそれどころじゃなかったみたいだし」

――――美綴が行方不明――――
過去にはなかったことが起こっている

俺が戻ってきたことで、新たな被害者を出すことになってしまったのだろうか――――


授業が終わった
美綴の事件の影響か、放課後の部活も中止され
生徒は足早に帰っていく


廊下に出ると、遠坂が待ち受けていた

「遠坂―――――」
本来ならば、このあと学校の結界を張った相手を探索する予定になっていた

だが―――――――――

「多分、士郎が考えていることと同じ事を、考えていると思うわ」
そう遠坂が答える

「それじゃ、美綴の足跡をたどろう。何か手がかりが見つかるかもしれない」

遠坂の話によると、美綴は昨日、弓道場で慎二と喧嘩していたのを最後に、行方がわからなくなったらしい


やはり、犯人は慎二なのだろうか
状況が、そして過去の記憶が、慎二が犯人である可能性が高いと告げている


遠坂と二人で弓道場へ向かう途中、そんなことを考える
遠坂もきっと似たようなことを思っているのだろうということは、感覚としてわかる
ただそれを明示しないのは、慎二の友人である俺を気遣ってのことなのだろう


それぞれの思惑を胸に、無言で廊下を歩く


「キャーーーーーーー!!!」

「――――――!?」
「――――――!?」
沈黙を破ったのは、女性らしきものの悲鳴

遠坂と顔を見合わせる

「下からだ!!」
「ええ!!」
遠坂と共に駆け出す

階段を一段とばしに駆け下りる


一階の廊下に、女生徒が倒れていた

「――――――!」
女性徒は、非常口前に倒れている

顔を覗き込む、一見ただ気を失っているだけのように見えるがこれは―――


「この子・・・・生命力を抜かれてる
―――このくらいなら、まだ重度の貧血くらいの症状で済むと思うけど・・・・・・」
一応手持ちの石で治療しておくわ、と言って、遠坂がポケットから宝石を取り出す

これは、完全に俺の過失だ
まだ何も起こるまいとたかをくくって、慎二を放置し続けた自分に責任がある

―――美綴も、同じ目に遭わされているのかもしれない

ギリッと、音が聞こえるほどに歯を食いしばる

「ああもう、気が散る・・・・!士郎、非常口のドア閉めてくれない?
風が入ってきて髪が乱れるのよ」


「え―――、あ、ああ。あの非常口だな」

開けっ放しの非常口に視線を送る


・・・・どうして気づかなかったのだろうか

普段開けられることのない非常口

女性徒が倒れているということは、当然襲ってきた第三者がいるということだ

女性徒が悲鳴をあげてから、一分とかからずにここまで来た

犯人が逃げられるとしたら、そこの非常口からしかない―――


「くっ――――!」
ヤバイ、と思った時には体はもう反応していた

とっさに投影した剣とも言えぬ出来損ないで、飛来したソレを打ち払う

一撃で消滅する幻想。だが、それのすべき役割は果たせたから問題はない


「え―――?」
遠坂に当たる直前で俺に阻止された馬糞は、そのまま廊下にぐちょりと落下する

―――そう、馬糞。おそらくはペガサスの

「―――遠坂、その子任せた」

床を蹴る

遠坂の返事を待つ余裕はない

「―――投影、開始」
自己を変革する呪を唱え、非常口から飛び出す


「はあ、はっ―――、はぁ―――」
サーヴァントの気配を追いかけ、全力で走る

干将莫耶はまだ出さない

馬糞を放った相手―――

ライダーには、俺が空手だと思わせて油断させた方がいい

まるでおびき寄せようとするかのように、弓道場裏の雑木林へと気配は向かっている

―――いや、相手はこの衛宮士郎をおびき寄せようとしている。いいだろう、誘いに乗ってやる―――――

垣根を飛び越え、腐葉土の地面を走る


林の隙間に見知った顔

慎二―――!

思わず足を止める


何故慎二がこんなところにいるのかなんて、考えるまでもない

こんなこと止めさせてやる―――

方向転換をして、慎二に向かって駆け寄ろうとした瞬間

喉もとを狙って、釘のような短剣が突き出された

「―――投影、完了」

喉を突き刺そうとするその刃を、虚空より取り出した対の刃で受け止める


俺の目の前には、この短剣を振るった相手

黒色の衣服に身を包み、その白い肌を惜しみなく晒す女性がいた


「ライダー―――!」
今の一撃は、止めさせるつもりで放ったのだろうか
口元に、薄い笑みを浮かべてこちらを見るライダー
その顔からは、なんの動揺もみられない


ライダーが動く

―――目に魔力を集中させる
魔力によって視力を強化した俺には、ライダーの一挙一動。はては、胸の谷間やスラッと伸びる御身足まで
見逃すことはない

上から振ってくるライダーの斬戟
脳を貫こうとするその一撃を干将で弾き、すかさず莫耶で反撃を試みる

だが、ライダーは俺の反撃を見越したのか、初戟を受け止められると共に5Mほどの距離を一挙で後退し懐から
取り出したオレンジ色の鋭利物を放つ―――!

「っく―――!その格好でどこから出したんだよ!?」
飛来する”ニンジン”の悉くを打ち払う

まじめにやってる俺が馬鹿みたいだ


未だニンジンを放ち続けるライダーの相手をしつつ、慎二に話しかける

「慎二、美綴をどうした!」

すると、慎二は心底おかしいといったように、笑いながら言った

「美綴?アイツ生意気だろ、あんまりむかついたもんだから、ライダーに命令して生命力を吸わせたんだ。
それで、そのまま路地裏に放置してきた。まあ今日か明日当たりには見つかるんじゃないか?」

「美綴を、殺したのか―――!?」

「いや、殺そうと思ったんだけどさ。ライダーがここで殺すのは不味いって言うからよしといたんだ。
召使いの言うことを聞き入れてやるのも、よい主人の条件だからね」
慎二が嬉しそうに笑う

―――美綴は無事か・・・・
だが、慎二をこのまま野放しにするわけにはいかない

慎二の話しぶりから考えると、どうやらライダーが人を襲うのは、慎二の命令によるものらしい

「慎二、お前が無関係な人を襲うって言うんなら、俺はお前を止めなくちゃならない。
今すぐ学校の結界を解くんだ。今ならまだ間に合う」

ライダーが慎二を守るようにして、慎二の傍らに立つ


干将莫耶を構える

慎二の返答次第では、慎二とライダー、二人を拘束しなければならない

「は―――――。オレはな、お前のそういう、正義ぶったところが嫌いなんだよ!」
睨み合う、まさに一触即発の雰囲気

最初に動いたのは、ライダーだった
ライダーは、傍らの慎二を担ぎ上げると、くるりと俺に背を向け―――

脱兎の如く駆けだした


「―――は?」
あまりのことに一瞬呆気にとられたが、慌てて俺も追いかける


「おい、何するんだ!」
慎二がキレて、手足をばたつかせる
気持ちはわからなくもない

だが、ライダーはそんな慎二にただ一言
「他のマスターの接近を感じます。2対1ではこちらが不利です」
と言った

こうなっては、慎二も従うよりほかない

慎二がおとなしくなると、ライダーのスピードも上がった


やばい、ここで逃がすわけには―――!
大地を蹴る足に、力がこめる


しかし、無情にも俺とライダーとの差は開いていく


慎二とライダーが、雑木林を抜ける
雑木林沿いの道路には一台のバイクが止まっていて、ライダーは、迷うことなくそれに飛び乗った


「あれは――――――!」



あのバイクには見覚えがある

二人が乗ったバイクはXR250をベースにいくつかの改良を加えたもの

粘り強く扱い易い出力特性をもつ空冷・4ストローク・単気筒エンジンを搭載し
オンロードからオフロードまで一段と軽快で優れた走破性を発揮するランドスポーツバイク



エンジンをかける時ライダーが
「行くぜ■■■■■■!お前に生命を吹き込んでやる!!」
と叫んだ

どっかのACEドライバーかお前は

セリフはともかく、ライダーの能力によって、その性能を極限まで引き上げられたソレは

風のような速さで走り去っていく



それを追うことが、俺にはできなかった・・・

そう、ライダーの乗ったバイクはXR250をベースに、数々の改良を加えたもの


――――お茶の間のヒーロー、仮面ライダー555が駆る”オートバジン”そのものだった


あまりの出来事に全身の力が抜けていく

手から滑り落ちた双剣が、大地に打たれて砕け散る


「・・・・・なんでさ」

呆然と立ちすくみ、そう言うことしかできなかった




―――――――――――――――――――――
今回は前後編に分けるつもりはなかったんですけど・・・

2: タケ (2004/04/10 01:15:02)[tamaayu at sweet.ocn.ne.jp]




あまりの出来事に全身の力が抜けていく。

手から滑り落ちた双剣が、大地に打たれて砕け散った。


「・・・・・なんでさ」

呆然と立ちすくみ、そう言うことしかできなかった――――



Fate/stay night again 此 素肋紊旅姫〜

中編



「士郎、無事・・・・・!?」


まもなく遠坂が駆けつけてきた。

背後から呼びかける声に振り返る。


「士郎・・・・・・?」


「―――ああ、大丈夫だ。多分身体に怪我はない」

心配げな遠坂の声になんとかそれだけ答える。


「―――そう、怪我が無くて良かった・・・・」

その答えに、遠坂が安堵の息をついた。






「それで、結局あいつ何だったの?私が来たときにはもう近くにいないみたいだったけど」

あいつが何か。

その答えはこれしかない。


「仮面ライダー」

確固たる自信を持って、俺は遠坂に答えた。

顔の半分を覆ったマスク。

やたらチューンナップされたバイク。

あれを分類するならば、きっと仮面ライダーになるはずだ。


非の打ち所がない俺の答えを聞くと、遠坂はにっこり笑って


「ふざけるなやボケ」

とのたまった。


「ごめんなさい、相手はライダーです。自分で名乗ってたから間違いありません」


平謝り。


きっと、遠坂はカルシウムが足りてないに違いない
時期を見て牛乳を大量に飲むように話してみよう。
――――――胸も小さいし。



「それで、マスターの姿は確認できたの?」

ギロリと睨んでくる遠坂。

圧倒的存在感で俺を押しつぶそうとする遠坂のプレッシャー。
その視線は、一欠片の偽りすら許さないという意思の表れであった。


「――――――ライダーのマスターは慎二だった。」


ありのままを話す。


遠坂とパートナーである以上、情報の共有は当然だ。

何より慎二を止めるには、一人でも多くの力を借りられた方がいい。


「・・・・・・・・・・・・・そう、可能性の一つとしては考えてはいたけど。
魔術師としての力はなくなっても、間桐の家には魔術の知識が残ってたハズだし」


「慎二には睨みを利かせておいたから、そう簡単には間桐本家をでて、人を襲おうとはしないとは思うけど・・・・」


その場しのぎの対策にしかならない。


「相手が間桐の家に籠もってるとなると、迂闊に攻め込むのは拙いわね。
魔術師の家である以上、どんな結界が張り巡らされているかわかったものじゃないし。
となると、相手が出てきたところを抑えるしかないか」


「相手が出てくるとき・・・・・?」


「ええ。彼らが学校に結界を張っている以上、その結界を使うために必ず間桐の家から出てくるはずよ。
私たちは、結界を発動させられる前に慎二とライダーを止める。これくらいが妥当な案だとは思うけど・・・
今のところ、これがこちらのリスクが一番少ない方法ね」

「なら、セイバーも含めて、この作戦を中心に煮詰めていくか」

「ええ、そうしましょう―――」





「そういえば、さっきの子はどうなったんだ?」


ライダーに襲われた女性徒。

遠坂の話だと、そこまで深刻というわけではないらしいが・・・・・・


「大丈夫、もともとそこまで酷い物じゃなかったし。今は保健室で寝かせてあるわ」


「そうか、良かった・・・・」


美綴もじきに見つかるだろう。ひょっとしたらもう見つかっているかもしれない。



・・・・・・ああ、大切なことを伝え忘れてた。

遠坂も心配してたもんな。

「遠坂」

「どうしたの?」

「美綴はおおよそ無事みたいだ。慎二の話だと女性徒と同じ程度にしか生気を吸われてないみたいだし。
路地裏に放置してきたって言ってたから、もう見つかってるころだと思う」


「・・・・・・・そう。綾子は無事なのね―――」


そう言って微笑みを浮かべる遠坂。


こういうところを見ると、やっぱり遠坂は学園のアイドルなんだということを再認識させられる。


・・・・頭に血が上ってきた。


「――――――ッ!」


いかんいかん!俺にはセイバーがいるじゃないか!!



・・・・・でもこの時代のセイバーは、俺のことをなんとも思ってないし―――

ってそういう問題じゃない!!


「あーもう!俺は一体何を考えてるんだ!!」

「・・・・・・・・・・・・・?」

頭を抱えてウンウン唸る俺を、遠坂はいぶかしげな表情で見つめていた―――――――――








夕食は遠坂が担当した。

なんでも、美味しいニンジンが大量に手に入ったらしい。

・・・・・まさかな。


「「「「いただきまーす」」」」

4人で囲む食卓

結局、夕食にも桜が来ることはなかった。



・・・・それもそうだろう。

慎二からしてみれば、俺は敵以外の何者でもない。

敵の所に人質になるような人間を、わざわざ送り出すような真似をアイツがするわけ無い。

明日からは、学校にすら来なくなるかもしれないな・・・・・・


考え事をして箸を止めていたら、セイバーが話しかけてきた。

「シロウ、食べないのならばその八宝菜は私がいただきますね」

俺が返事を言う前に、セイバーはもう八宝菜を自分の皿に移してしまった。

・・・・・・・食いしん坊万歳。







「なあ、藤ねえ」

食後、藤ねえに話しかける。


居間にいるのは俺と藤ねえの二人

遠坂は台所へ食器洗いに

セイバーは道場で俺をしごく準備をしている


「ん、なーに士郎?」

座布団を枕に転がっていた藤ねえが、横になったままの姿勢で答える。


「―――美綴は見つかったのか?」


藤ねえが息をのむ。
そして体を起こして俺に向き直る。

食器を洗っていた遠坂が、いつの間洗い物を中断してこちらに注意を向けていた。


「どうなんだ、藤ねえ。やっぱりまだ変化は無しなのか」


たとえ大事はないと聞かされていても、不安な物は不安だ。

俺からの又聞きである遠坂はなおさらだろう。


藤ねえは、しばし思案したあと

「・・・・・そっか。士郎、美綴さんと仲良かったものね。
うん、美綴さんは見つかったわ。
外傷は無し。軽い意識混濁状態だったからしばらく自宅で療養することになるだろうけど、二三日もしないうちに学校に出てこられるわ。
―――これ以上の話しはダメ。士郎も友達なら、あとは美綴さん本人から聞きなさい。」

と言った。


「美綴は無事・・・・・」

良かった・・・・。

安堵の溜息が漏れる。


遠坂もきっと同じ気持ちだろう。


再び食器洗いに向かった遠坂の、後ろ姿を見てそう思った。







食後のセイバーとの訓練

これは、自分からセイバーに頼んだことだった。

この体で動きを完全にトレースするには、一回でも多く、動きに体を慣れさせておいた方がいい。

そう思い、セイバーに頼み込んで始めた訓練だったのだが・・・・・・


―――多少武術の心得があったからだろうか

セイバーのしごきは記憶にある物よりもかなり厳しい。


右胴を狙ってくる攻撃を右の竹刀で受け止め、左手の竹刀で反撃を試みる
肩を狙ったその攻撃を、半身になることで難なくかわし、次の攻撃へと転じるセイバー

ちなみに、セイバーの使っているのが一般的な竹刀。俺の使っているの竹刀が、普通の物を二つに折ったくらいのサイズで、干将莫耶を模した物だ。


セイバーの猛攻は続く

両手の竹刀を合わせて、何とか刃を押しとどめるものの、セイバーの力の前に疲労だけが蓄積されていく

このままじゃ、いずれうち負ける・・・・・!


俺は反撃に転じるために心眼スキルを発動させた

これで、勝利の確率が1%でもあればそれを引き寄せられるはず・・・・・!

―――状況を客観的思考で分析
相手の攻撃パターンを解析
自らに可能な対処法を想定する

導き出される勝率は・・・・


―――0.9%


足りてないし


がっくりきた。

それが拙かった。

気力が萎えたその瞬間。


「はっ――――――!」

突き通すような一撃―――

とっさに十字に竹刀を構えるが、セイバーの一撃は俺の竹刀を打ち砕き、十分すぎるほどの威力を込めて俺に叩き込まれる―――!


「っぐぅ―――!」

ダァン!!

道場の壁に強く叩きつけられ、ずるずると落ちていく

それを感知したのを最後に

俺の意識は闇に飲まれていった―――――



――――――――――――――――――――――――
作者旅行のため執筆がかなり遅れてしまいました
あんまり更新しないと各所から怒られそうなので、短いですがこの辺りで一度投稿させていただきます

本来なら前後編に分けるつもりだったので、後編は一層短くなりそうですがご容赦ください

3: タケ (2004/04/10 01:15:20)[tamaayu at sweet.ocn.ne.jp]



「っぐぅ―――!」

ダァン!!

道場の壁に強く叩きつけられ、ずるずると落ちていく

それを感知したのを最後に

俺の意識は闇に飲まれていった―――――





Fate/stay night again 此 素肋紊旅姫〜

後編







―――暖かい



後頭部に感じる柔らかな感覚



五感で感じる世界は、とても優しげなものに思えた



この優しい世界を見つめようと目を開ける―――



「・・・・・・セイバー?」



まず最初に視界に入ったのはセイバーの顔



覗き込むようにしたセイバーの姿と、満面に咲く桜が見える



「良かった、目を覚ましたのですね。シロウ」



そう言って、セイバーは息をつく



「ここは・・・・?」



今まで眠っていたせいだろうか、頭にもやがかかっている



「どうして、俺は・・・・・・・・?」



状況がまるでつかめない



「シロウは、お酒に酔って倒れたのです。覚えていないのですか?」



・・・・・・そうだったのだろうか



そう言われるとそうだったような気もする



「そもそも、シロウはまだこの国の飲酒可能な基準に達していない。無理な飲酒は控えるべきです」



一つを理解すると、それに伴い様々な状況が理解できるようになった



「そっか。俺達柳洞時に花見に来たんだっけ。それで、乾杯してしばらくした後酔って・・・・・・・」



懐かしい夢を見ていた気がする



とりあえず、体を起こそうと身じろぐ。だが、酔って倒れた体は、なかなか思い通りに動いてくれない



「ひあっ!?シ、シロウ!そんなに頭を動かさないでください!!」



「・・・・へ?」



突然のセイバーの嬌声に思わず変な返事をしてしまう



―――なんで、俺が動くとセイバーが困るんだ?



後頭部に感じる、柔らかな枕に頭を埋めて考える



・・・・枕?



空を見上げる



顔を赤くしたセイバーがこちらを覗き込んでいた



セイバーの鼓動を感じられるのではないかと思えるほどの密着間



頭部には柔らかな感触



ま、まさかこれは・・・・・・!



「わっ、わわ!!?」



慌てて枕から転がり落ちる



―――その枕は、セイバーの両の太ももであった



「ご、ごめんセイバー!その、ひ、膝枕されてるなんて思わなくて!」



「い、いえ、少しこしそばゆかっただけですから気にしないでください・・・・」



「でも―――」



俺の言葉を遮って、セイバーが言った



「私の意志で、シロウをその・・・・・膝枕していたわけですから、シロウは何も悪くはありません」



頬を染め、うつむきながらセイバーが言った



その言葉に、何も言えなくなる



―――もちろん、恥ずかしくて



それでも、言おうとしていた言葉の中から何とかソレを拾い出して



「ありがとう」



と告げた










5分後、やっと動悸の収まってきた俺はセイバーに話しかけた



「それで、みんなはどこに行ったんだ?」



今日は親しい仲間全員を連れて、花見に来たはずだった



「それだったら、まだあそこで騒いでいますよ」



そう言って、指を指す



つられて、その指の向く方向を見ると―――――



「あれは、凄いな・・・・」



飲めや歌えやの大騒ぎだった。魔術によるものだろうか、偶に発光している



「流石に、あそこではシロウが休めないと思って、こちらに非難してきたのです」



セイバーの言も頷ける



あんな所で体が休まる人はいないだろう



でも―――



でも、楽しみたいのなら別だ



「それじゃ、セイバー。そろそろあっち戻ろうか。俺達も一緒になって騒いでこよう」



「ええっ!」



そう言って、集団へと駆けだした










まず一番最初に声をかけてきたのは学校チーム(?)



遠坂・桜・美綴・慎二・一成の5人に藤ねえとイリアをくわえた計7人の集団



「先輩、もう体は大丈夫なんですか?」



「無理はせずに、まだ休んでいた方が良いのではないか?」



そういって、心配げにこちらの調子を伺ってくれるのが桜と一成



「衛宮は酒に弱いんだからさ、おとなしく僕の給仕をしてれば良かったんだよ」



慎二のその憎まれ口が、心配していたことを伝えられないあいつの照れ隠しだということは、ここにいる誰もがわかってる



「ま、衛宮らしくていいんじゃない?そういうところがさ」



「そうね、士郎ってそういうイメージがあるし。それに、大酒飲んで暴れるのに比べたら何倍もましよ」



美綴、遠坂が続ける



「う〜・・・・。ホントはここにいるみんながお酒飲むのを、教師として止めなくちゃならないんだけど・・・・・
でも、せっかくのお花見だし・・・・・・・・・・・・・」



頭を抱えて、ウンウン唸る藤ねえ



「固いこと言わないの、タイガ。今日は無礼講だって最初に言ったでしょ?」



これはイリヤ



なんだかんだで、みんなに心配をかけてしまったらしい



「みんな、心配かけてごめんな。俺はもう大丈夫だから―――」



謝罪、そして



「―――めいっぱい楽しもう!」



俺がそういうと、みんなにっこり笑って親指を突き出した











変わって、聖杯戦争チーム(?)



メンバーは第五回聖杯戦争のメンバー



エミヤ、クーフー・リン、ライダー、キャスター、ヘラクレス、佐々木小次郎



それに言峰、ギルガメッシュを加えた計8人



サーヴァント達のそれぞれが英雄豪傑の名にふさわしく酒を飲み、歌を歌い、舞い踊る



言峰は、パックに入れてきた麻婆をギルガメッシュと美味しそうに食べている



・・・・・・ギルガメッシュはかなり苦しそうだけど



ソレを見ていたら言峰が



「・・・・衛宮士郎。お前も食べるか?」



そう聞いてきた



あんな赤いモノ、まともな舌では食べられない



だから俺は



「いや、遠慮しておく。ギルガメッシュが取られたくないって凄い目で睨んできてるしな」



ギルガメッシュを盾にした



「雑種!我は、んーーーーーー!!!???」



文句を言おうとするギルガメッシュ。



その口にすかさず蓮華をつっこむ



すまん、ギルガメッシュ。後で水持ってくるから・・・・











みんな、楽しそうに笑っている



俺が望んだ。俺の作りたかった未来がそこにあった



―――目を閉じる



幸せそうに笑うみんなの顔を、少しでも強く心に残せるようにと、目蓋の裏にその光景を焼き付けた―――











再び目を開けると

視界に入ってきたのは、自室の天井だった

これは・・・・・?


―――ああ、そうか。今俺が見ていたのは全て―――


「・・・・夢・・・・・・・だったのか」

体の節々が痛む

どうやら俺は、セイバーに突き飛ばされてから今の今まで眠り続けていたらしい

この部屋までは、きっとセイバーが運んでくれてたんだろう

「・・・・それにしても」

幸せな夢だった

とても幸せな夢

全員が幸せになれたであろう結末

たとえ、それが目覚めと共に消えてしまう、儚い夢だったとしても

それは俺の胸に強く刻み込まれていた

目を閉じれば、みんなの楽しそうに笑う姿が浮かぶ

―――あれは俺が望んで、叶えようとした世界。だから俺は、この夢を、決して夢の間まで終わらせたりしない

目指すべき物を、その夢に見つけられたから―――



―――夜明けまではまだ時間がある


願わくば、幸せな夢を見られますようにと


俺は再び目を閉じた―――


――――――――――――――――――
後書き

連載打ち切りの最終回だと思って、「なーんだ、やっぱり最後まで続ける根性無かったな。コイツ」と思った
そこの貴方。甘い、その考えは蜂蜜の如く甘い!
どれだけ非難を受けても、このシリーズを手放す気はありません。
この夢が、夢でなくなるその時まで、私は書き続けたいと思っています。
ですから、今しばらくお付き合いください

4: タケ (2004/04/10 01:15:54)[tamaayu at sweet.ocn.ne.jp]




―――夜明けまではまだ時間がある


願わくば、幸せな夢を見られますようにと


俺は再び目を閉じた―――






Fate/stay night again 察

前編





衛宮士郎の朝は早い。

それが平日であるならなおさらだ。



6時を回る前に起床した俺は、物音を立てないように部屋から抜け出し、日課の自己鍛錬を行ったあとで朝食を作り始めた。

メニューはセイバーと遠坂の要望により、英国風の物。


英国風とは言っても、早い話がトーストに目玉焼きを付けただけの物でしかないのだが。


俺としては、朝食は和食の方がしっかり食べたとって気持ちになれて好きなんだけどな・・・・・・


そんなことを考えながらフライパンに卵をあける。

主婦技能を一通りマスターした俺に、卵の黄身を破るなんて愚かな真似はない。


「最後にコショウを振って―――」


ん、完璧。


目玉焼きと彩り用にキャベツの千切りを皿に盛りつけたあと、

「おーい、藤ねえ。二人呼んでくるからこれ居間に運んでおいてくれ」

そう藤ねえに頼み、俺は二人を呼ぶために台所を後にした―――





まずはセイバー

セイバーは俺が起きたときにはもう布団の中にはいなかったから、きっと道場にいるのだろう。

俺は道場へと足を運ぼうとし――――――


その途中の廊下でセイバーと会った。


「おはよう、セイバー。ちょうどいいところに―――」

「おはようございますシロウ。ええ、今から居間に向かいます」

会話を端折られた

「ちょっと待て、なんで―――」

「時間もテキストの規定サイズも作者の気力も無限ではないのです。
――――――君も男なら聞き分けたまえ。」

そう言って、軽快な足取りで去っていくセイバー

ポカン、としてその背中を見送る。

「・・・・・・・ムスカ様?」









「遠坂ー、朝食できたぞー。」


遠坂の部屋の前に立って呼びかける


「うちの家じゃ、朝食抜きなんて意見はまかり通らないからなー?」

しかし、ドアの向こうからは何の反応も返ってこない。


「遠坂ー?」


まだ眠っているのだろうか。

朝は苦手だと言っていたから、その可能性は決して低くはない。


・・・・・時刻は6時10分


藤ねえの出勤時間を考えると、そろそろ食べ始めないと間に合わない。


・・・・しかたがない。

女性の部屋に入るのは気が引けるが、遠坂を起こすためだ。


俺はドアに手をかけ、それを無造作に開いた。



――――――ドアを開けると、そこはワンダーランドだった――――――



遠坂は既に起床していた。


突然の来訪者である俺を、驚愕の表情で見つめている。


「――――――――――」

――――これは夢だ。
良くない夢。
むしろいい夢か?
下着姿の遠坂を拝めるんだからいい夢なのかもしれない。
でも、そろそろ起きないと、学校遅れちゃうゾ?
さあ、目を覚まして――――

俺は目蓋を閉じ、もう一度ゆっくりと開く。
見える景色は変わらない。

頬をつねる。
めっぽう痛かった。



沈黙



時間にしたらほんの数秒にも満たないだろう。

だが、俺にはその時間が永遠のように感じられた。



唸る豪腕。

「っわ、わわ!?遠坂!それ当たったらシャレにならないって!!??」


沈黙を突き破ったのは俺の悲鳴だった。


遠坂は悲鳴を上げることもなく、制服を着ると無言で魔力を両の拳に集中させて殴りかかってきた。


顔面を狙ってきた拳を、体を仰け反らせることで何とかかわす。


俺の動きを追って、無言で拳を振り続ける遠坂。


体から立ち上る魔力で、うっすらと遠坂の体が光って見える。


こ、これは、まさか噂に聞くスーパーモード!!?



ま、拙い!マジに殺られる!!?


「ごめん、遠坂!俺が何もかも!まるっと完全に!全て!全面的に悪かった!!」


左、右のワンツー。掬い上げるようなアッパーに、脳天から撃ち落とすような打撃。


その攻撃の合間を縫って、謝罪の言葉を投げかける。


それでも止まらない遠坂の攻撃に、俺は徐々に後退を余儀なくされる。



ドンっ


「っ――――――!!」


背中に壁が当たる感触。


もうこれ以上の後退できない。



俺を追いつめた遠坂がニヤリ、と笑みを浮かべる。


「ガタガタ震えて、命乞いする準備はオーケー?」

うわっ、殺す気満々。

ていうか、既にガタガタ震えて命乞いしてます、サー!!


もうこれまでなのか!?




――――遠坂が、右拳を顔の横まで持ち上げる。


「・・・・私のこの手が真っ赤に燃える――」


遠坂の言葉に呼応して、右手を包む魔力が一層強く輝く!


「なんでGガ○ダム!!?」


「うるさいっ!私が何を言おうが私の勝手でしょ!!こっちだって恥ずかしいんだから、変な突っ込み入れないの!!」


「恥ずかしいんだったらやらなきゃいいだろ!!」


「やかましい!!!」


ドゴゥッ!!


遠坂を中心に風が吹き荒れる。


・・・・・・親父、もうすぐそっち行けるかも。


「・・・・・・・・・最後に一言だけ言わせてくれ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

無言で返す遠坂。

許可するという意味だろう。


「いくらなんでも、2カップは底上げしす――――」

「いっぺん死んでこいーーー!!!!!」

ゴシャッ!

拳が頭部にめり込むやたら生々しい音を最後に、俺の意識は途絶えた。


・・・・・・・朝っぱらから何やってんだが。

――――――――――――――――――――――――
後書き
7章終了後にまとめて

5: タケ (2004/04/10 01:16:11)[tamaayu at sweet.ocn.ne.jp]




「いくらなんでも、2カップは底上げしす――――」

「いっぺん死んでこいーーー!!!!!」

ゴシャッ!

拳が頭部にめり込むやたら生々しい音を最後に、俺の意識は途絶えた。


・・・・・・・朝っぱらから何やってんだが。



Fate/stay night again 察

中編






――間宮邸で籠城を決め込んでいる慎二が、家を出てくる先といったら現状では学校しかないわけで、

そんな慎二と俺達が接触するためには、学校で張っているしか無く、

結果俺達は、いつも通り学校に行くことになった。

まあ、慎二が出てくるのは生徒がいる日中だけというのが、救いと言えば救いになるのかもしれない。




セイバーの昼食やら俺と遠坂の弁当やらを用意していたせいで、教室に着いたのはHRの始まるギリギリの時間帯。


雑談しているクラスメイト達に挨拶をして席に着く。しばらくするとHR開始の鐘が鳴り藤ねえが入ってきて、HRが始まった。



話の内容は当たり障りのないもの。最近は新都の方が物騒だから授業終了後は、まっすぐ帰宅するように。という学校側からの通知だった。



「――と、今日は少し早いけどこれでHRを終わるわね。
みんな残りの時間は好きにしてていいわよ。ただし、騒ぎすぎないように。
――――それと、士郎は話しがあるから私についてきて」

そう言って、藤ねえはHRの終わりを告げると廊下に出て行った。

なんだろう?

みんなが思い思いの相手と雑談を開始する中、俺は藤ねえを追って廊下に出た。




「あのね、美綴さんのことなんだけど・・・・・・」

廊下で待ち受けていた藤ねえの、第一声がそれだった。

「美綴に何かあったのか!?」

慌てて聞き返す。

「違う違う。昨日も言ったように美綴さんは大丈夫よ。ただ・・・」

「・・・・ただ?」

「弓道部の一年生の間で、変な噂が立ってるのよね」


うーん、と藤ねえが眉を寄せる

「噂?」

「美綴さんが無事帰宅したって事を知っている子がいたんだけど、その子の話が他の部員に広まるにつれて脚色されていってるのよ。
ほら、ちょうど伝言ゲームみたいな感じで。」

「――――――!」


女子生徒が行方不明になっていたのだ。どのように脚色されていくかは想像がつく。

そんな噂が流れてしまっては、いくら気丈な美綴でもこの学校にいることは辛くなってくるだろう。


「士郎は美綴さんと仲いいし、そういう噂を何とかするんだったら適任だろうとは思ったんだけど・・・。」

「―――ああ。そんな噂、俺が蹴散らしてやる・・・!」


大切な友人である美綴に、そんな噂が流されているのに放っておく訳にはいかない。美綴が襲われた件には、俺にも責任があるのだからなおさらだ。


「そう言ってくれると助かるわ。まあ、いくら美綴さんでもそんなことはしないだろうから、すぐにこの噂が嘘だって言うのがわかると思うけど。」

「美綴がそんなことしないってどういう意味だ?」


俺の想像を超えた世界だ。一体どのような噂が流れているというのか。


「どういうって、そのまんまの意味よ?
――あ、そっか。士郎にはまだ噂の内容話してなかったわね。」


「・・・・・・・・・」

黙って藤ねえの話しの続きを待つ。


「長くてストーリー性のある噂だから要約するわね?噂によると、美綴りさんが行方不明になったのは不審な男に攫われて手込めにされそうになったからで、その後隙を見て相手の男の急所を潰して脱出。この街に着いたところで安心して気絶したと。
――――こんな感じのが今流れてるみたいなのよ。」

「――は?」

いや、それは・・・

「荒唐無稽な話なんだけど、美綴さんが性的被害を受けてなかったもんだから、一部の生徒の間でまことしとやかに語られてるのよね・・・・。困ったもんだわ」


いくらなんでも無茶苦茶過ぎるだろ、それは


「なあ藤ねえ。その噂なら別に流れても問題ないんじゃないか?
どう考えても嘘にしか聞こえないだろうし。」


「それがねー、そう言うわけにもいかないのよ。
―――ほら、美綴さんって男勝りなところがあるでしょ?」

「たしかに。」


即答する。

そこいらの男よりも男らしいのは間違いない。


「だからね、その・・・・・・・
――――――後輩の女の子にモテるのよ」


そういえば、過去にあった卒業式では、美綴がたくさんの後輩に告白されていたような気がする。

弓道に打ち込む美綴の格好良さと、姉御肌なその性格。そして並の男よりもよほど男らしいその立ち振る舞いで、後輩の女子を中心に幅広い人気を誇っていたはずだ。


「今回のことで噂をしてるのも、その美綴さんラブな女の子達なのよねー。
こんな噂が広まったら、ますますそういう女の子が増えそうでしょ?
美綴さん本人から、このことで相談を受けた私としては、何とかしておきたかったのよ。」

「ちょっと待て、ということは――――」


俺に、その後輩達相手に噂を流さないように走りまわれってことか!?


「士郎隊員、貴方の使命は重大よ。これ以上美綴さんが同性にモテないよう、この噂を何とかしなさい。
――――あ、そろそろ一限のチャイムが鳴りそうだからお姉さんは行くわね。それじゃ、アデュー♪」


走り去っていく藤ねえ。


「そんな難しそうなこと俺だけに押しつけて逃げるなー!!」

俺の悲痛な叫びが、人のいない廊下に響き渡った。








一日の終わりを告げるチャイムと共に、生徒達は波が引くようにして下校していく。


そんな中、俺と遠坂の二人は校舎の屋上にやってきていた。


「なあ、遠坂。何で俺達こんな所にいるんだ?」


沈む夕日を眺めながら遠坂に問う

北風が身に凍みる


「そんなの決まってるじゃない、結界の発動を遅らせるためよ。」

さも当然、という感じで遠坂は答えた


「それって意味あるのか?慎二のことは、あいつが家を出てからじゃないと打つ手がないんだし。発動自体は止められないんだから、下手に手を加えるよりも早く発動させた方がいいと思うけど。」


「意味はあるわよ。」


どうやら、遠坂にも考えがあるらしい。


「一体どんな意味があるんだ?」



「嫌がらせ」


即答でそれですか

ジト目で遠坂を睨む


「・・・・・・・・」

その視線に耐えきれなくなったのか

「――――冗談よ」

と、遠坂は返した。


「これは、慎二を焦れさせるためにやってるの。籠城に対する対抗策は心理作戦。結界の発動を遅らせて焦らしてれば、慎二のことだからすぐに頭に血を上らせてこっちの思い通りに動いてくれるわ。ひょっとしたら、明日にでも無理矢理結界を発動させようとするかもね。
――――そう。慎二は言うなれば、お釈迦様の手のひらの上を飛ぶ孫悟空なのよ」

ニヤリ

そんな擬音が聞こえそうなほどの笑み


・・・・子どもが見たら泣くぞ、それ




ともあれ、俺と遠坂は作業を完了させて家路につくことになった。




帰り道


「そういえば、アーチャーって遠坂の隣にいるんだよな?」

特に意味もなくそう質問してみる。

具現化しているところをあまり見たことがない気がするし。


「いるけど、なに?アイツに話しでもあるの?」


「・・・いや、別に。何となく聞いてみただけだ。」


――――アーチャー

今の俺なら、あいつが英霊となった衛宮士郎であるということがわかる。


ただ、あいつと自分とでは、どこか大切なところで異なっている気がする。その違いが俺には許すことができない

だからだろうか、あいつのことを好ましく思わないのは


そして、前回の聖杯戦争。ヤツ自身も、俺のことを嫌っていたはずだ。


何故、元を同じくする自分自身を憎まなければならないのか――――




その答えは、まだ出せそうにない。








家に帰ると、藤ねえが料理を作っていた。


「・・・・・なあ、藤ねえ」


「あ、お帰り士郎。今日はお姉ちゃんが腕によりをかけて美味しいかに玉丼を作ってあげるから、今でくつろいでていいわよ」

そう言って、藤ねえは溶かした小麦粉の中に卵を投下した。

それでできるのはお好み焼きだぞ藤ねえ・・・・

「ありがとう藤ねえ。その心遣いは嬉しいけど、藤ねえは連日の授業やら美綴の件やらで疲れてるだろ?か弱い女性に、そこまでやらせてしまうのは気が引けるから、後は俺に任せてくれ」


「士郎は口が上手いんだから。そういうところ、切嗣さんに似て来たわよ?
でもせっかくだし、今日はその言葉に甘えちゃいましょう」

そう言って、あっさり引き下がる藤ねえ。

ひょっとしたら、自分が何か間違えているであろう事に、気づいたのかもしれない

今に戻っていく後ろ姿を見ながら苦笑する

「まったく、しょうがないお姉ちゃんだな――――」


――さて、美味しいかに玉を作るとしますか!



――――――――――――――――――――
後編へ続く

6: タケ (2004/04/10 01:16:42)[tamaayu at sweet.ocn.ne.jp]




Fate/stay night again 

後編



夕食後。
後片づけを済まして、道場でセイバーと向き合う。

今日の出来事―――――学校の結界の妨害と、明日にも反撃があるはずだという、遠坂の意見を伝える。

セイバーには、慎二の容姿と性格を教えておいた。

紙に鉛筆を走らせて、俺の発言の要点を素早くメモするセイバー。
何が書いてあるか見ようとしたけど、メモが英語で書かれていたため断念。ブロック体ならともかく、筆記体の英文は、高校卒程度の筆記能力しかない俺には理解するのに時間がかかる。――――話す方は出来るんだ、話す方は。

自己弁論している俺を尻目に、セイバーは自分で書いたメモを何度も見直したあと、俺の方を見てコクリ。と頷いた。
どうやら、俺が説明した慎二の特徴は覚えきったらしい。


「セイバー、もう大丈夫か?」

「ええ。シロウから聞いた特徴は全て、頭に叩き込んでおきました。ただ―――――」

「ただ?」

「いえ、異国人の私の目からは、日本人の顔はほとんど似たようなものに見えてしまうものですから―――」


・・・・・・それは俺の顔も、そこらの有象無象と同じように見られているということなのだろうか。

愛する相手から告げられるには、あまりにも酷な内容だ。


「で、ですが親しくなった相手は別ですよ?全体を遠くから見るのと、相手の顔を近くで見るのとでは、まったくの別物ですから。シロウやリン、タイガは他のもの達とは違います!」


慌ててフォローを入れるセイバー。


「――――大丈夫、セイバー。俺、気にしてないから。
それより、遅くなる前に訓練を始めるぞ。」


そうだ、セイバーに悪気はなかったんだ。
なら、俺が気にしてセイバーに迷惑をかけるわけにはいかない。



就寝まで、まだ4時間ある。
それだけの時間みっちりセイバーと訓練したら、
きっと何も考えずにぐっすり寝られるさ・・・・・・・・。








――――――・・・・で――――――

・・・・何かの音が聞こえて目が覚める。

「・・・・・・・?」

上体を起こし周りを見渡しても、音を発するようなのは何もなかった。


――――――お・・で――――――


出来の悪い夢を見させられているような気がする。


――――――おいで――――――


声に反応するように体が勝手に動き出した。


家を出て、坂を下り、誰もいない夜の街を一人歩く。


夜の凍てつくような寒さが、これが夢ではないことを明確に告げているのだが、それがどうもしっくりと来ない。


夢ではない。
夢ではないというのに意識は眠ったまま。


どこに行くのだろうか?


自分の意志で体を動かせない危機感よりも、その好奇心が勝った。


俺は声のなすがままに、夜の闇を突き進んでいく。








「あ―――――」



声が漏れた。


目の前には柳洞寺へと続く石段。

体は、その石段を一歩一歩登っていく。


この場所が、目的地なのだろうか。


境内へと続く山門が見えた。


口を開いた大きな門。


その奥に何か見えた。


自由のきかない身体。


何故自分はここにいるのか?


――――――あの門を越えたら、俺はきっと生きて帰れない。


「っ――――――」


まどろみの中に沈む意識が危険を告げている。


逃ゲロ。
逃ゲロ。


逃ゲロ。
逃ゲロ。


「ドアヲアケロー!!」

思わず口をついて出たその言葉によって、意識が完全に覚醒した。


まどろんでいた意識はクリアになって、ようやく自分の意志が戻ってくる。


だが、遅い。


この身は依然いうことを聞かず、山門をくぐっていく。


自分の意志で動かせられる場所は無く、確かなものは思考するこの意識だけ。


俺の体は声の主に逆らわず、境内の中へ入っていった。




闇に沈む境内。


その中心に、さらに濃い闇がわだかまっている。


陽炎のように揺らぐ影、死神のようなフォルムをしたそれは、徐々に身に纏う闇を剥ぎ取っていった。


闇から現れたのは一人の女性。

全身黒ずくめ、円筒のようなフードを目深に被り、漆黒のマントを着たそいつは、俺を見て嘲笑を浮かべた。


「ブギー○ップ!」

俺の口をついて、そんな言葉が出る。


「・・・・・誰ですか、それは?」


・・・・誰だろう?


「悪い、電波だ。」


最近の電波はアンテナが無くても受信できるから困りものだ。


「・・・・・・そう、坊やも大変ね。
―――そこで止まりなさい。あんまり近づくと殺してしまうでしょう?」


そう言って、キャスターは嘲りをふくんだ微笑みを浮かべた。

どうやら、この体はキャスターの思い通りらしい。


あれだけ止まれと念じた両足は、今の一言でピタリと止まっていた。


「――――――――――――」


意識がきしむ。


――――体は思い通りにならず、唯一まともな思考ですらたまに変調をきたし、なおかつ目の前にはキャスターがいる。


「っ――――――!」

両足に力を込めるが、体は全く動いてくれない。



―――くそ、何してるんだ俺は・・・・

こんな所までまんまとおびき寄せられた上に、体が動かないなんて・・・・・・!

前回の方がよっぽどましな動きをしてたじゃないか!!


「あ・・・・・くっ!う、あ・・・・・・・!」

全力で手足に意識を集中させる。

カラクリはわからないが、この体の自由を奪っているのは間違いなくキャスターの仕業だ。

なら、体からその魔力を押し流せば――――!

「自由になれる、と?そんな方法で私の呪縛を解こうだなんて、ずいぶんと優しいのね貴方。」


唯一自由になる意識を総動員して、体内を探る。

――内面を見ることは簡単だ。強化の魔術をこの身に応用するだけだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・!」

・・・・・・それでわかってしまった。

相手による浸食を受けている場所はただの一点。

ただのそれだけで、全身が異常をきたしていた。

流れる物に異常があるのではなく、流れそのものが異常。

この体は、たった一点の呪いで、完全に命令権を奪われている―――――



「そん―――な、バカ、―――な」

魔女という言葉が浮かぶ。

今回のキャスターと俺は、これが初見の筈だ。

と言うことはキャスターは、この土地から俺に対して呪いをかけたことになる。

近距離ですら成功させることの難しい魔術を、遠方から俺の抗魔力を打ち破って成功させるなんて・・・・・・・!

抗魔力を持った魔術師ですら遠方から意のままに操れるというのなら、抗魔力を持たないただの人間はどうなるのか――――――


「っ――――――」

・・・・余計なことは考えるな。今はこの状況を打破する方法だけを考えろ。

この身を縛っているのが魔術である以上、呪はそれを制御するキャスターに繋がっている筈だ。
そのラインさえ断ち切ることが出来れば――――


「理解できて?貴方を縛っているものは、魔力ではなく魔術そのもの。一度形を得たものは魔力という水では押し流すことは出来ない。固体に水をかけても、その形は崩れないでしょう?」

冷笑を浮かべ、キャスターが近づいてくる。

目を凝らす。
だが、キャスターから出ているはずの"糸"を見ることが出来ない。

くそっ、俺の低い魔力感知力じゃ駄目なのか!?


「けれど例外もあるわ。
貴方達の行使する魔術は、私にしてみれば泥で出来た建造物のようなものにすぎない。
そんなもの、かける水量が多く激しければ簡単に洗い流すことが出来る。
現代の魔術師と私たちの差は、そういう次元のものなのよ」


見えないのなら、他の方法を考えろ。


「そう―――かよ。なら何で俺をここまで連れてきたんだ?
わざわざこんなことをしなくても、簡単に俺を殺せたはずだ。」


時間を稼ぐ。


「―――そうね、強いてあげるとするなら、こうした方が楽しそうだったからでしょうね。
どうせ同じことをするなら、少しでも興に乗るものを選ぶものではなくて?」

クスリ、と笑う声。

「安心しなさい。殺すつもりはないわ。殺してしまったら、魔力を吸い上げられなくなるでしょう?
殺さない程度に生かし続けて、最後の一滴まで魔力を差し出して貰わないと」

――――見つけた。
たった一つ。
衛宮士郎に出来ることを――――


「―――I am the bone of my sword.」

―――目を閉じる

衛宮士郎に、キャスターと自身を繋ぐ糸を見ることは出来ない。そんなことは、最初から分かり切っていたことだ。

・・・・なら、全身の感覚に頼るまでだ。

幼児体験か、或いは先天的な物か。衛宮士郎には異変を感知する能力がある。

この身に纏う世界の中で、他とは異なる場所を探すことが出来れば、そこがキャスターへと繋がる場所――――!


「あら、もう諦めてしまったの?もう少し抵抗して貰わないとつまらないでしょう。」

目を閉じた俺を、観念したと判断したのか。
キャスターが好き勝手なことを言っている。

・・・・・異変は感知した。あとは剣を振り下ろし、糸を断ち切るのみ。

油断大敵。
散々俺が噛み締めてきたこの言葉をキャスターにも教えてやる――――!!


「・・・・・・つまらないわね。
もういいわ。貴方の顔も見飽きました。そろそろお別れの時間といたしましょう。
それでは、お休みなさいセイバーのマスター。貴方のサーヴァントは私が――――」


「――投影、完了」


奴の言葉を遮るように
虚空に出現した陰剣莫耶が"糸"を断ち切る。

それだけで、俺の体の制御は俺の元に返ってきた。


「なっ――――!」

ここに来て、初めてキャスターの顔から笑みが消えた。


「いくぞキャスター―――闘いはこれからだ」

右手に干将、左手に莫耶を構える。

「・・・・ふん、たかが術を解いた程度で、現代の魔術師風情が私に勝てるとでも?
自らの分をわきまえない者には、相応の罰が必要ね――――」

キャスターのローブが歪む。

大気に満ちた魔力は濃霧となってキャスターを覆っていく。


「罰だって?
――――面白い。俺をただの魔術師と同一視すると、痛い目を見るぞキャスター」


「・・・・ふふ。血の臭いをしない魔術師など魔術師とは呼べませんわ。
三流の魔術師にすら劣る貴方を、どう警戒しろと言うのです?」

そう言って、影が笑った。

「・・・・・なら、その見解が間違っていることを、この一撃を持って証明してみせよう。それで無理なら、あとはセイバーに任せるさ」

突風のように、影に向かって疾走する。

「――――――!」

呪文の詠唱など許さない!

キャスターが片腕を突き出すよりも早く間合いを詰め、
双剣を振り下ろす――――


はらり、と真っ二つになったローブが舞い散る。


「む――――――」

手応えがない。

ローブを切り裂いたものの、それを身に纏うキャスターがいない。


・・・・・・・殺すつもりはなかったとはいえ、あっさりかわされるとは思わなかった。



キャスターを捜して周囲を見渡す。

こういうのは大抵、背後か頭上のどちらかと相場が決まっているのだが――――


「・・・・・・予想よりは速かったと言っておきましょうか。
私と同じ舞台に立つ程のレベルにはとうてい達していませんが」


荒涼とした境内に、キャスターの声が響き渡る。


っ来る!!

「―――――!」

天空より飛来した光弾を双剣で弾き落とす。

頭上を警戒していたおかげで、さほど苦もなくそれを為すことが出来た。


「・・・・・・正確な射撃だな、キャスター。だが、それゆえに予測しやすい。
真上なんてのは、常套手段にも程があるぞ。次回からはもっと別の方法を考えろ」


上空のキャスターを見上げながら告げる。


「たかが一撃防いだ程度で、調子に乗って貰っては困ります。」


「―――同じセリフをお前にも言ってやろうか、キャスター?」


「・・・・不愉快です。消えなさい」

境内に満ちた魔力が、キャスターを中心に渦を巻く。


「チッ――――――!」


・・・・しまった、挑発しすぎた!


俺はキャスターの視界から逃れるため、境内から脱出しようと疾走する。

魔力に満ちたこの空間では、キャスターの独壇場だ。




「ふん、逃げ切れると思って・・・・・!」


キャスターの杖が動く。


その杖の先端がピタリと俺に狙いを定めると、冗談のような攻撃が降ってきた。


キャスターの周りに浮かぶ光弾で、境内が真昼のように照らし出された。


「死になさい!」


キャスターの声に応じて、一撃一撃に必殺の力を込められた光弾が雨のごとく降り注ぐ――――!


こいつ、大魔術クラスの魔術を詠唱無しで!?


「くそっ、強いんだったら、ちゃんと強いところ見せてくれよ――――!」


過去のキャスターに対して愚痴る。



―――無数の光弾が境内に穴を穿つ中、俺は迫り来る光弾を双剣で弾きながら疾走する。


キャスターの魔術を止めなければ、この寺の人がとても可哀想なことになる気がする。


――――男は度胸、そろそろキャスターに一泡吹かせて――――



「ちょこまかと・・・・!」

苛立たしげなキャスターの叫びと共に
突如として世界が凍り付いた。


「――――――――」


身動きがとれない!?

さっきのように体を乗っ取られたか?いや、これは――――


「気分はどうかしら?セイバーのマスター。周りの空間ごと固定されては動けないのでなくて?」


勝ち誇ったキャスターの声。

確かに、動くことは出来ない。


―――しかし、俺の仕込みはもう終わっている。

アレをかわすためには、キャスターも防御に集中しなくちゃならない筈だ。

「どうやらこれで詰めのようね。・・・・そうね、ただの人間としては頑張った方かしら?
貴方を殺してしまっては、セイバーを手に入れることが出来なくなるけど――――まあいいわ、最大の敵が苦もなく消えるのですから。
それでは、楽しい時間をありがとう、坊や。次に生まれるときはもう少し懸命になることね」

キャスターの左手が向けられる。

もはや自分の勝利しか見えていないのだろう。周りに注意を払うことを完全に止めている。


――あいつ、また油断して・・・・・!


くそっ、なんで俺がここまで気を使わなくちゃならないんだ!


「―――!――――――!」

キャスターに避けるように叫ぼうとするが、思うように声が思うように出せない。空間を固定されたせいか!?

慌てて俺は、自らの中からこの魔術を打ち破るための剣を選定し具現化させる。

ガシャーン!

ガラスの砕けるような音を残して、俺の周りの空間を包んでいた魔術は砕け散った。


「――――馬鹿、避けろキャスター!死ぬぞ!?」


そう叫んで、俺は跳んだ。

一回の跳躍でキャスターの視界から離脱する。




「な、何をバカな――――」


俺の怒号に気を取られ、戸惑うキャスター。

その両脇に、弧を描いてキャスターを狙う双剣が迫りつつあった。

キャスターの魔術を止めるために俺が考えたものがこれだった。
流石に、キャスターも攻撃されては魔術を停止せざるをえないと踏んで、行動を起こしたのだが――――


「――――!!!!!」

俺の叫びで周囲を警戒したおかげだろう。何とかキャスターは双剣を回避した。




「――――the bone of my sword.」

―――そして俺は詰めに入る。

地面に膝を立てて弓を天空に向ける。
狙うはキャスター。
そして、弓にあてがわれた矢こそ、捻れし魔剣。カラドボルク――――!


「―――偽・螺旋剣!」

俺の声が、境内に響き渡る。

放たれた矢は、大気を巻き込み、螺旋を描いてキャスターに迫る。

夜空に軌跡を残しながら、それは一直線にキャスターへと突き進み――――




「は――――あ・・・・・・・・・・!」

俺の放った矢は、容易くキャスターの防御を貫いた。

おびただしい量の血が、キャスターの体から流れ落ちる。


・・・・やばい、防御結界だけ撃ち貫くつもりだったのに、本体にまでダメージがいっている。

カラドボルクの余波だけで、キャスターのローブの下の肉体はずたずたに引き裂かれてしまった。

キャスターが全魔力を自己再生に回しているのがわかる。


境内には再び沈黙が戻った。

キャスターが呆然と、俺を睨んでいる。


「く・・・・・・・・・あ・・・・・・・」

地上に降り立ったキャスターに覇気はない。

肉体の再生は終わったようだが、それで中身の魔力を使い果たしたらしい。

                                キャスター   
どれだけ魔力が境内に満ちていようとも、それを汲む“器”が万全でなければ意味がない。

今のキャスターは完全に死に体。とても戦闘を続行できるような状態じゃない。

怪我の功名とはこのことか?


「ふぅ・・・ふっ・・・・・はあ・・・・・」

乱れた呼吸のまま、キャスターは俺を見据える。


「・・・・・・セイバーのマスター。何故今の一撃を外したのです?」


覇気のない声で問う。


む・・・・・


「何でって言われてもな・・・・・。一撃で証明できなかったら諦めるって言っただろ?
最初の攻撃を避けられたんだから、後の攻防は全部おまけみたいなもんだ。約束を違えてまで中てるつもりはなかったし。」


「――――――――――。では、私を殺すつもりはなかったと?」


「あんまり格下だとか、三流だとか言うから挑発に乗っただけだ。
そもそもお前が呼び出さなかったら、まだ闘うつもりも無かったんだぞ?」


・・・・その言葉が面白かったのか。キャスターは口元を緩ませて、愉快そうに微笑んだ。


「そう。なかなか面白いことをいうのね、貴方。
気に入ったわ、貴方は力も、その存在のあり方も稀少よ。敵に回してしまうのは惜しい。
私と手を組まない?私なら、今よりも優れたパートナーを用意してあげることが出来るわ」


「・・・・・・・・魅力的な提案だけど、断る。無関係な人巻き込んでいる限り、お前と手を組むわけにはいかない。
――――それに、俺にはセイバー以上のパートナーなんていないしな」


「――――そう、残念ね」


「そっちが、無関係な人を巻き込むのを止めたら、いつでも手を組むさ」


そう言うと、キャスターは微笑んで


「そうね、考えておくわ。いくら私でも、貴方とセイバーを相手するのは少々骨が折れそうですから」


そう言った。

穏やかな雰囲気。

キィンッ!!

その空気を引き裂くように、鋼を打ち合う音が響く。


「・・・・・迎えが来たみたいだし、そろそろ帰らせて貰うよ」

そう言って、俺はキャスターに背を向けて歩き出す。


「――――ええ、さようならセイバーのマスター。
・・・・・次会うときは敵かしら?それとも味方かしら?」


「全部そっち次第だな。それと、俺には衛宮士郎っていう名前があるんだ。セイバーのマスターなんて名前じゃないぞ――――」

山門をくぐりながら、俺はキャスターの言葉にそう答えた。





「――――どうやって、キャスターを丸め込んだ?」

「っ――――!?」

石段を下ろうと足を踏み出した瞬間、突然背後から声をかけられた。

ビクッ!!

驚きのあまり体が硬直する。

   
――――石段を下ろうと、重心を前に移した状態で


「あ――――」



―――それはどちらの漏らした声だったか。

バランスを崩して、石段を転がり落ちていく。

俺の意識が途絶えるその前に
最後に見たのは、焦ったような顔をしたアーチャーだった――――



――――――――――――――――――――――――――
あとがき

やっと・・・・・・・・やっと更新できたんだね・・・・・・・・・・・・
ここ最近私生活が忙しすぎて手を付ける暇が全くありませんでした。
更新遅れた言い訳?そうだよ、何か悪いかーヽ(`Д´)ノ


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