月下の季節(冬) M:アルクェイド 傾:シリアス


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1: 六畳 (2004/04/07 20:12:01)[rokujyou]





雪が降ってる。

真っ白い雪が、山間を染めていく。

遠くに狼の遠吠え。

寂しい風景。

でも、わたしは寂しくない。

腕の中に視線を落とす。

愛する人がそこにいた。

志貴――――。


























「ごめんね、志貴。ずいぶん遠くまで連れてきちゃったね」

彼の頭を撫でる。

「でも仕方なかったんだよ。早くしないと、シエルのやつ絶対わたしたちを行かしてくれなかっただろうし」

頬を動かし、微笑む。

「ねえ? 怒ってるの、志貴・・・・」

彼は答えない。かわりに青ざめた頬に雪が積もる。そしてそれは溶けることがない。

「ねえ、なにかしゃべってよ、いつもみたいにわたしの頭を撫でてよ、志貴・・・・」

返事がないのは分かってる。

視界が涙で滲む。

思わず彼を抱きしめた。冷たい。ひたすらに冷たい。

顔を上げ、わたしはまた歩き出す。志貴を抱えたまま。

「もう少しで着くから・・・・」

いつの間にか足首まで埋める雪。

真っ白な厚いカーテンが果てしなく続いている。

まるで、この世界に二人きりしかいないよう。

・・・ううん。わたしは志貴と二人きりがいい。

二人だけが全ての世界。

思えば、志貴に会ってからわたしの世界が始まった。

殺したいと思うほど激しい怒りを覚えて、

それ以上に彼を愛するということを知って、

無駄に過ごす時間が、どれほど楽しく素晴らしいものかを感じた。

それもこれも、全部あんたのせいなのよ、志貴。

わたしが今までの在り方に疑問を持ったことも。

わたしがわたしの役割を棄てたのもそう。

気が付けば、今まで生きてきた時間と同じ長さの刻を志貴の傍らで過ごしていた――――。

この『幸福』という時間は、もっとずっと長く長く続いていくと思ったのに。




わたしは純白の大地の中心に足を止める。

「ここがわたしの故郷よ」

周囲にはなにもない。

人里も遙か遠く、野生の獣すら通わない。

そっと志貴の亡骸を抱き直し、彼の耳へ囁きかける。

「志貴ってば、最後の最後までずるいよね・・・・」

熱いものが頬をつたう。

「最後の言葉が『元気でな』なんて・・・。あんたが死んでわたしが元気でいられるわけないじゃない・・・」

強く抱きしめて頬を寄せる。

「だから、今からするのはわたしの我儘。許してくれるよね? もう、志貴とずうっと一緒じゃなきゃ、嫌なんだもん」

『無茶いうなよ、アルクェイド・・・・』

そういって、困ったように微笑む志貴の姿が瞼に浮かぶ。

わたしも微笑み返して、『力』を解放した。

幾千もの鉄をこすり合わせる音がわたしの中から溢れる。

何千条もの鎖がわたしたちをくるんだ。

わたしを縛り付け、死徒を察したときにだけ覚醒させる、他の真祖たちが作り出した機構。

でも、今は違う。

この鎖は、わたしを縛るものではない。わたしを守るもの。

あらゆる干渉からわたしたちを守る結界。

わたしを縛り付ける鎖はただ一つ。

胸に抱いた志貴。

永遠(とこしえ)の鎖。

「ね、一緒に眠ろ、志貴?」

鎖が激しく絡みあう。

「死徒なんて、もうどうでもいいの。ただ、あんたと一緒にいたいんだよ・・・」

世界から途絶される。

変わりに構築されたわたしの世界。

この世でもっとも堅牢な城。

外界が崩壊しても、この中だけは永遠に刻が止まる。

眠ろう、志貴。千年期が終わっても、たとえこの世が終わっても――――。

ずっと、ずうっと一緒だよ。

意識を閉じる。






――――おやすみ、志貴。













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