Fate / Next Legend  2章.招かれざる者達  (M:なし 傾:バトル)


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1: ふぇい  (2004/04/06 22:47:58)[fay at mxi.netwave.or.jp]

Fate / Next Legend

2章.招かれざる者達

 ついさっきまで騒がしかった三人がいなくなると家の中はシンと静まりかえった。
 一人取り残された士郎は不意に立ち上がると道場へ足を向けた。
 道場には日課になっている鍛錬以外では滅多に訪れなくなっていた。ここに来るとどうしてもセイバーの面影を思い出してしまう。
 凛やイリヤの手前、未練はないと言ったものの家で一人きりなった時などはどうしてもセイバーのことを思い出してしまう。
 
「まだ、・・・むりか・・・・・」

 今はちょうど一人きり、誰もいない。
 こんな時ぐらいセイバーの事を思い出してみるのも良いかもしれない、そう思って日が傾くに任せて道場にたたずんでいた。

「そろそろみんな戻ってくる頃だな」

 道場で何をするでもなく立ちつくしていた。
 気が付くといつの間にか一時間近くがたっていた、しばらくすればみんな戻るだろうと思い士郎が居間に向かおうとしたその時。
 
カラン!カラン!カラン!

 重い鈴の音が鳴り響いた。聖杯戦争以来一度も機能する事無かった屋敷の結界が士郎に危険を知らせた。
 
「だれだ!・・・・・・この感じ、魔術師!」

 聖杯戦争終結から身の危険と呼べる状況からは遠ざかっていた士郎だが、凛の指導の甲斐もあって”見習い”から”半人前”程度には成長した士郎、屋敷の知らせる警告に侵入者の存在にいち早く気づく事が出来た。

『1、2・・・・・8人。遠坂ほどの術者じゃないと思うけどきついな、せめて・・・・・・』

 幾ら地の利があるとはいえ8対1では真っ正面からでは勝負にならない。たとえ凛ほどの実力の魔術師がいなくても屋敷の結界が反応したのだ最低でも今の士郎よりも魔術師としての実力は上だろう。
 となると士郎が執れる手段はただ一つ。

「遠坂が戻るまで逃げ回るしかないか・・・近所で魔術師がドンパチやればアイツでも気づくはず・・・問題は・・・」 

 そう、士郎が心配しているのは凛よりも先に桜たちが戻ってくる事だ。
 サーヴァントがいないと言ってもイリヤの実力はかなりの物だ、しかしサーヴァント抜きでの単独実戦経験が皆無だ。
 おまけに桜が一緒にいたのではさらに足手まといになるだろう。そうなれば事態は最悪だ。
 
「ならさっさと始めるか!」

 士郎は道場を出るとあえて目立つ庭に飛び出した。
 案の定庭に面した廊下に人影が二つ。
 服装は魔術師とはいえごく普通の服装だが土足のまま廊下に上がっている。
 二人は室内の探索に集中しているのか庭にいる士郎にはすぐに気が付かなかった。 

「何のようだ。この家は土足厳禁、とっとと玄関に行って靴を脱いでこい!」

 まさか自分から出てくるだけでなく、不意打ちの出来るタイミングをわざわざ自分から不意にする士郎に侵入者は戸惑った。

「シロウエミヤか?」
「そうだが、客なら客らしく玄関で待ってろ。それと勝手に、土足で上がって来るな、常識も知らないのか?」
「ふんっ!極東のはぐれごときに説教されるとはな」

 わざと挑発するような事をいってみた士郎だったが、その返答は確信に繋がった。
『やっぱり魔術師、ソレも協会かよ・・・・たくっ、遠坂のヤツちゃんと事情説明したって言ってたんじゃないか』
 聖剣戦争の後、協会と教会の双方に事の顛末を説明したのはこの土地の管理者である遠坂家の当主である凛だった。
 もちろん、全てを話したわけではなく士郎の能力を始めイリヤの事など都合の悪い事は嘘や沈黙で押し通した、むしろ自己弁護の意味もあり殊更言峰に罪をかぶせるような報告内容になっていたが、結局双方ともその不十分な報告内容を受け入れた。
 もちろんむこうもそれで納得していたわけではない。だが監督役であったはずの言峰の独断・暴走、あわやの大惨事に魔術師の存在が世間に暴露されるような事態を回避した事に対して謝礼と口止めという意味もこめ、凛達にお咎めは一切無し。さらに凛には倫敦の時計塔に特待生扱いでの留学というおまけまで付いてきた。
 それから五ヶ月、何も言ってこなかった協会からこうして魔術師が来るという事は少なくとも凛の報告に疑念、もしくは何かをかぎつけたという事だろう。
 もちろんその筆頭が自分だという事は常々凛から注意されていた。
 はぐれ魔術師ながらアインツベルンに引き抜かれ最強のサーヴァント・セイバーを召還し聖剣戦争を生き残り聖杯を破壊した衛宮切嗣、その養子でこれまた二代続いてセイバーを召還し、養父と同じように聖杯を破壊した無名の魔術師、衛宮士郎。
 その投影魔術のすさまじさには凛ですら嫉妬を憶え、箝口令を引いたぐらいだ。
 それほどの特異な存在を協会を始め、在野の魔術師達が放っておくはずがない。もちろんこれまでそう言った事がなかったのはひとえに凛がこの土地の管理者たる遠坂家の名前で圧力をかけていたからだった。
 だが、その圧力を無視、あるいは気にも止めない相手となると相当な実力があるのだろう。現に8人もの魔術師を送り込んできている

「くっ!いきなりかよ」
『同調、開始−−−構成材質、補強』
 
 士郎が予想したとおり二人の魔術師は問答無用で士郎めがけて魔術詠唱を始めた。一人は魔弾、もう一人は火球をそれぞれ撃ってきた。
 もちろん士郎がこの程度でやられるわけがない、相手が詠唱を始めると同時に道場から持ち出した竹刀を強化、それを手に二人との間合いを一気に詰める。
 過酷な聖杯戦争を生き残った士郎にとって並の魔術師が使う魔術などさほど恐れる事は
                              ゲート・オブ・バビロン 
ない、二人の使った魔術など凛の「ガンド打ち」やギルガメッシュの「王の財宝」に比べれば止まっているも同然だ。
 もちろん士郎には切り札である投影魔術があるがアレはあくまでも最後の手段だ。
 凛からも厳重に注意されているが士郎の投影魔術は他の魔術師の目を引くどころかあまりにも異常な能力なので軽々しく使える物ではない。
 なにより聖剣戦争からずっと修行してきたとはいえ投影できる物が限られているし、そのほとんどが破壊力ありすぎて相手が魔術師とはいえ使えば確実に殺してしまうだろう。

 魔術を全く恐れず襲いかかる士郎に二人はアッサリと昏倒させられた。
 魔術師でありながらセイバーに手ほどきを受けた剣の腕前は並の剣士では歯が立たないだろう。
すぐさま士郎はその場を離れた、竹刀とはいえ魔術強化されたソレで思い切り殴られたのだ骨ぐらいは折れているだろう。
 だがいつまでもその場に止まってはいられない。今の物音と魔術を聞きつけてすぐにでも魔術師が駆けつけてくる。
『二人・・・・入り口にで待ち伏せが一人、塀の外に一人、となると後4人はどうにかしないと』
 士郎は襲撃者達の行動を予想して邸内を逃げ回っていた。
 だがここで大きな誤算が生じた。
『増えた!?』
 先ほどの魔術発動と騒ぎが周囲に知れる事を恐れた襲撃者達は一気に事を片づけようと、残った全員で士郎を追いつめるため全員が邸内に入り込んできた。
 予想外の事態に士郎も焦ったが、この行動から相手も切羽詰まった状況だという事がよく解った。
 となると室内よりも屋外なら周囲の目もあり大規模な魔術を使えないと判断して士郎は再び庭に戻ってきた。
  
「逃げ回るのは終わりかね?」
「まったく、人の家だと思って好き勝手しやがって」
「大人しくしていくれれば手荒なことをするつもりは無かったのだよ」
「よく言う、敵意剥き出しでウチの門くぐったろ、親父の結界はそう言うのには敏感なんでね」
「なるほど、入り口の結界はソレだったのか。しかし不用心だな、魔術師ならもっと自分のテリトリーはしっかりと守るべきだよ」

 現れた6人の内、最年長らしいリーダー格の男が士郎に話しかけてきた。 
 いかにも自分は「正当な魔術師です」と言わんばかりに士郎を格下と見下していた。もちろんそれは士郎もよく解っている目の前の男は他の三人よりも明らかにレベルが上、そしてこの中で一番レベルの低い魔術師は士郎だった。
 
「さてね、俺は魔術師じゃないんでね」
「おや、キリツグエミヤの後継が魔術師ではないと?何かの冗談かね」
「俺は、”魔術使い”だ!」

 言い放つなり士郎は魔術強化した竹刀片手に一人の魔術師に襲いかかった。
 それが戦闘開始の合図だった。六人は士郎めがけてそれぞれが魔術を放とうとした。しかしそれこそが士郎の望むところだった。

「邪魔をするな!」
「貴様こそ引っ込んでいろ!」
  
 一人目の魔術師との間合いを詰めるとその身を楯にして次の相手に襲いかかった。もちろんその間も次々と士郎めがけて魔術が放たれた。
 それを竹刀で切り払い、躱す。
 必ずしも間合いを詰める必要はない、動き回ることで相手の攻撃を攪乱させ、同士討ちを誘う。
『足を止めるな、常に動き回っていれば狙いを絞れない、同士討ちを誘え』
 遠坂邸から衛宮邸まで普通の人間なら30分以上、急いだとしても15分近くかかるだろう。
 だが凛の足ならそれよりもかなり早く、オマケに魔術によるドンパチとなれば文字通りすっ飛んでくるはず。それまで約10分はこの状況を維持する必要がある。
 それに強化だけでは現状で精一杯なのだ、たとえ投影を駆使しても現状を打破できる手段は限られてくる。
 そして、その結果は”衛宮士郎”だけでなく”遠坂凛”にも迷惑をかけることになる。
 すでに戦闘開始から8分が過ぎていた。この間士郎は止まることなく走り続け魔術師達を翻弄してきた。

「ちょろちょろ目障りだ!」
「なっ!」
 
 業を煮やしたのかかリーダー格の魔術師はそれまでとは比較にならない威力の魔術を発動させた。凛の宝石魔術ほどではないにしてもその魔術は巨大な氷塊となって襲いかかった。
 士郎は自分の持つ竹刀では防ぎきれないと判断してとっさに身をかがめて躱すが、その魔術は士郎を通り越しそのまま後ろにいた別の魔術師に直撃した。

「正気か!乱戦でそんな物使うなんて」
「うるさい!役立たず共がどうなろうと知ったことではない!それよりも私を馬鹿にするのもいい加減にしてもらおうか!魔術使いだと?貴様はその棒きれの強化以外魔術を使っていないではないか!それでも聖杯戦争の勝者か」 
「あいにくと何とかの一つ覚えでね」
「ふん!隠し通せると思ったら大間違いだ」

 どうやら時間稼ぎよりも士郎が魔術を使わないことに腹を立てたのかリーダー格の魔術師はそれまでとは比にならない威力の魔術を次々と放ってきた。
 もちろん黙ってそれを喰らう士郎ではなかったがその余波は周囲に魔術師達に飛び火し、一人また一人と同士討ちによって次々と被害が増えていった。
 やがて周囲にの魔術師は全員地に倒れその場に立っていたのは士郎とそのリーダー格の魔術師だけだった。
 だが士郎にはその最後の一人を攻めあぐねた。
『防御魔術を展開してるのか? くそっ、この竹刀じゃ役に立たない』
 士郎が相手を倒せない理由は相手の防御魔術にあった。
 さっきから何度もその身に竹刀を打ちこもうとしているが近づけないのだ。そればかりか近づくたびに竹刀を強化している魔術が衰えていく。明らかに何らかの魔術、それも防御結界らしきものが働いていた。
 それでいて攻撃は際限無しに行われてくる、凛のガンド打ち程の速射性や宝石魔術ほどの威力はないものの手が出せないのが現状だ。
『もう10分立ってるぞ、遠坂は何やってるんだ!』
 内心、士郎は焦っていた。既に10分以上経っているにもかかわらず凛が駆けつける気配はなく、そればかりか目の前の魔術師は我を忘れたかのように次々と魔術を放ち続ける。
 既に庭のあちこちにクレーターや焦げ後が出来ている、よく壁が壊れない物だと感心していた。
 もしこの壁が壊れ出もすれば近所にこの光景が丸見えになってしまう。それだけは避けなければならない。

「ふん、小技ばかりでは気にいらん様だな。せっかくだこの私の秘技を見せてやろう」
「!!!余計なことに気を回すな!」

 どうやら士郎の時間稼ぎは相手を別の意味で追いつめてしまったようだ。
 士郎が手出しできないのを良いことに魔術師は10節にもなる複雑な詠唱をこなしていく。
『マズイ!アレは半端な威力じゃない』
 どうやら相手の使う魔術は基本的な爆裂火球のたぐいだがその威力が半端ではない。まともに食らえば家が半分は吹き飛ぶ、逃げたところで余波に巻き込まれて吹き飛ばされてしまう。

「馬鹿、そんなモンこんな人気の多いところで使うな!第一、味方を巻き込むぞ!」
「役立たずがどうなったところで問題ないわ!・・・・くらえっ!」

 魔術師の手から巨大な火球が放たれる。
カウンター   キャンセル
『俺の力じゃ”対抗”も”消去”も無理、何が何でも止めなきゃ』
 士郎の後ろには壁、そして倒れた魔術師達がいる。士郎が止めなければ魔術師達諸共壁を突き破って、周囲の隣家にまで被害が及ぶ。
 なりふり構う余裕はなかった。
『−投影、開始−』

 −検索− それはもっとも身近な存在

 −選出− それ以外はこの身にあり得ない

 −解析− かつての自分の半身

 全行程を一瞬で終了させる。士郎の頭の中にはこれを防げる物は一つしか思い浮かばなかった。
 10年前に命をつなぎ止め。あの夜に大事な人を喚ぶ要となり、救い、救われた。

 −投影− 今一度、奇跡を

 自分と彼女との絆は絶対の存在なのだから

 ア ヴ ァ ロ ン
「全て遠き理想郷」

 聖剣の対たる存在、剣の戻るべき場所、気高き理想に生きてきた彼女そのもの。
 そして自分にとっても長年供に生きてきた半身
 間違えるはずのない投影。

 だが、士郎の脳裏に、そして眼前にはあり得ない物が映し出された。
 風を纏い、美しくも気高く蒼い姿が、


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