注意事項
 メインは桜ルート後
 士郎が誰ともくっついてません(よくあるあれです)
 セイバー生存、ライダー生存、何故かギル様も生き残ってます。ギル様がかなりいい人っぽくなってますので
 当然主人公モテモテです。が、これもお決まりで鈍感野郎です
 ネタキャラじゃないギル様はギル様じゃない!という意見も同意ですがここじゃそんなにネタキャラじゃありませんのであしからず
士郎の昼寝
 遠坂凛は、衛宮士郎を探していた。
 今日は揃いも揃って用事があるといって出かけており、都合よく二人っきりなのだ。
 せっかくのこの機会を逃すわけにはいかない。
 いや、機会と言ってもあくまで士郎を幸せにしてあげるための機会であって別に私が士郎のことを好きとかそう言うわけじゃごにょごにょ。
 ともかく。
 二人っきりと言う状況がまれであることは、事実である。
 朝はまず桜がいる。寝起きが最大の弱点である凛としては、朝だけはどうしようもない。
 登下校だって桜が常に一緒だし、日によってはライダー、セイバー、イリヤも一緒である。
 帰ってからも道場にこもってセイバーと剣の特訓をしていたり、桜と食事を作っていたり、ライダーに食事の作り方を教えていたり、元気にはしゃいでいるイリヤの相手をしたりで大忙し。
夜は一応凛と魔術の特訓と言うことで二人っきりなのだが、いかんせん士郎は大真面目だ。弟子があれだけ真剣なのだから、師匠たる凛が腑抜けているわけにもいかなかった。
そういうわけで、久々に与えられた、二人っきりのプライベートの時間。
だと言うのに。
「……すー………すー………」
 何で寝ているのかこの朴念仁は。
 士郎はソファーで横になって、穏やかな寝息を立てて眠っていた。道理で気配がしないはずだ。
 怒りを感じながらも静かに傍まで移動すると、しゃがみこんでその顔をまじまじと観察する。
 ……そういえば、こうやって顔を見るのは初めてだっけ。
 いつも浮かべているどこか抜けた顔とも違い、戦闘時に見せる鬼気迫るほどに凛々しい顔とも違う。みんなをからかう時に浮かべているあの意地悪な顔とも違うし、からかわれてちょっと起こったようなあの顔とも違って。
 ただただ無防備で、ただただ幼くて。
「……」
 みるみるうちに顔が赤く染まる。だが今日は誰もいないのだ。恥ずかしさなんて隠す必要はない。
「本当によく寝てるわね、こいつ」
 自分をほったらかしてすやすやと。そう考えると、なんとなく腹が立ってきた。
 人それを八つ当たりというがそんな正論は聞きたくない。
「おりゃ」
 ぷに、という擬音がベストだろうか。人差し指で士郎の頬を押してやると、士郎の顔が少しゆがんで、おかしくなった。
「う……ん………」
 ついでに寝苦しくなったらしく、少し眉を寄せて寝返りを打った。が、打った先にあるのは背もたれだ。呼吸が苦しくなったのか、すぐにまたこちらに寝返りを打った。
 なんと言うか。
「面白い……」
 最近は完全にこちらのからかいがかわされるようになってしまった。どうにかして士郎を唸らせてやろうと虎視眈々と狙っていたりもしたが、これはこれでなかなか。
 いや、唸らせるとかはどうでもいい。ただ単純に楽しい。
「おりゃ」
 ぷに。
「てりゃ」
ぷにぷに。
「えい」
 ぷにぷにぷに。
「それ」
 ぷにぷにびよーん。
 面白いくらいに形を変える士郎の頬。それに呼応するように形を変える士郎の眉。相当寝苦しいのか、寝顔なのに表情がやけに真剣だ。それがまたおかしくて、また頬をいじってしまう。
 そろそろ起きてもいいような気もするが、一向に目覚める様子はない。
 マジックで落書きでもしちゃおうかな。
 悪戯心に火がつきかけたとき、異変が起きた。
「う…ん……」
 ぷにぷにぷにはしっ。
「え?」
 突然士郎が凛の手を──というか、人差し指を掴み取ったのだ。
 あちゃー、起きちゃったかな。
 士郎の顔を覗き込んでみる。が、目覚めた様子はない。
 単に睡眠の邪魔者を除けただけなのだろう。少しびっくりしたが、まだ平気なようだ。
「こら、ちょっと放しなさい」
 指をつかむ手を解こうとするが、なかなか放さない。案外強い力で握っているようだ。無理やりはがしてしまうと士郎が起きてしまうかもしれないので、強硬手段に出られないのもあるのだが。
 どうしようかな、とそこで考えを直した。
 形は変だが、これも一種の『手を繋いでる』状態ではないか。
 士郎と手を繋いだことなど数えるほどしかない。そう考えてみれば、士郎の手は暖かくて、なんだか指一本だけなのに全身が包まれているような気がして……
 あ、なんだか眠くなってきちゃった……
 辺りを見回す。残念なことにベッド代わりになるものはなさそうだが、別に士郎にもたれかかったまま寝てしまっても構わないだろう。
 士郎が起きたときどんな風に困惑するのか見ものでもある。
 たまには、こういうのもいいか……
 士郎のぬくもりを指先に、服越しに感じながら、そのまま穏やかな眠りへとついた……
「んー……」
 パク。
「……え?」
 ちゅ……ちゅぷ……
 指先に柔らかいような暖かいような、ぬれた感覚。
「え、え、ええええ!?」
 慌てて半身を起こす。その視線の先では。
 あろう事が、士郎が凛の指先を口に含んで丹念に舐めてというかシンプルにいうなれば指ちゅぱだった。
「え、あ、う、ああああ」
「んー……」
 ちゅ……ちゅぷ……くちゅ……
 心なしか満足そうな顔すら浮かべて指をしゃぶる士郎。もはや本能的にやっているのか、ただひたすらに凛の指先をしゃぶる様は、おしゃぶりを口にしたまま眠る赤ん坊そのものだった。
「ちょ、ちょっとシロウ!?」
 指先にこれまで感じたことのないくすぐったい感覚に思わず声が裏返った。だが、士郎は目覚めない。
「ち、ちょっと放し…」
 なんだか思いっきり引っ張るのがかわいそうなくらい安らかな士郎の寝顔。相変わらずしっかりと握り締めているのか、凛の指はちょっとやそっとじゃ放しそうにない。
「……むー」
 それどころか、引き離されそうになったことを察したのか、よりいっそう深くしゃぶりついてきた。
 凛、耳まで真っ赤。
「ちょっと、士郎…」
「うー」
「や、やだそこは」
「ぬー」
「駄目、ちょ…」
「むー」
 そんなこんなで結局士郎が凛の指先を放すころには、凛は魂ここにあらずといった様子で呆然と座りこけていた。
 頬が上気していてどことなく呼吸が荒いのはご愛嬌。
 まさか、眠っている士郎にここまで追い込まれるとは。
 しっかりとしゃぶり尽されてふやけてしまった気がする人差し指を眺めながら、凛は内心悔し涙をだーだー流した。
 しかし悔しいものの、どこか喜んでいる自分がいるのがもっと悔しい。
「なんか、駄目だなぁ、私」
 ついに全員骨抜きか、全くお盛んなことだ。
 少し前にギルガメッシュが言った言葉を思い出す。あの時は食って掛かって全面否定したものだが、今の自分には痛いほど突き刺さってくる。
 当の本人である士郎は『何がだ? 魚のことか?』なんて言っていたが。
 ぼーとしゃぶられた指を眺める。まだ洗っても拭いてもいないそれは当然のように濡れていた。
 なにで?
 士郎の、そう、その…
「……ごくり」
 思わず喉を鳴らす。そして好奇心が湧き上がってくる。
 一体、どんな味がするんだろう。
 いや、別に士郎の味に興味があるわけではなく士郎があんなに熱心にしゃぶる自分の指が一体どんな味がするのか興味がわいただけで──
 そうだ、自分は間違っていない。好奇心を満たすためだ、仕方がない。
 眼を閉じて深呼吸。
 心の準備は出来た。
 それでは、いただきます。
 口を開いて舌を伸ばす。それが指先に触れる、直前。
「今帰ったぞ、リン」
「ただいま、リン」
「*#&$!?」
 やけにわざとらしいただいまの声。びっくりして飛び上がるような勢いで声のしたほうを見ると、ギルガメッシュとイリヤが二人並んで扉のところで立っていた。
 何故か、ニヤニヤと嫌な笑い方をしながら。
「なにやら知らんがそこまで驚くこともなかろう? 帰ってきた者に対しての態度としては、それはどうかと思うのだが」
「そうよ。ただいまなんだから、おかえりくらい言ってくれてもいいと思うけど?」
「あ、う、お、おかえ…り」
 やっとのことでそれだけ言う凛。だが、未だに頭はパニック状態で、状況がさっぱり理解できていない。
 彼女が不意打ちに弱いことは、ギルガメッシュもイリヤもよく知っている。
 だから不意打ちにしたのである。
「どうした、己の指など眺めて。珍しいものでもついているのか?」
「……!!」
 言われて、慌てて自分の指を背中に隠した。だが、そんなことしても無駄である。
「さっき、指舐めようとしてたよね? 一体何がついてたのかなー?」
「な、何もついてないわよ!」
「リンよ。声が上ずっていては説得力など欠片もないぞ。どれ、指に何がついているのか我に見せてみろ」
「だから何もついてないって言ってるでしょ!」
 必死になって後ずさりする凛。その様子を見て、ギルガメッシュは少し表情を真剣なものへと変えた。
「……ふむ、そこまで言うか。ならばいい。御前の言うとおり、その指には何もついていなかった、ということにしておこう」
 あっさりと引き下がるギルガメッシュ。考え込むようなポーズで口元を隠してはいるが、当然しっかりと笑っている。
「行くぞ、イリヤ。なにやら我らに知られたくない事らしい」
「はーい」
 イリヤもギルガメッシュの言葉に従って、あっさりと引き下がった。
 おかしい。
 あまりに不自然だ。
 世の中は我のもの、我に隠し事など以下省略のギルガメッシュにしろいあくまと士郎に呼ばれたイリヤが、こうもあっさり引き下がるはずがない。
 何かしら切り札を持っているに違いない。
 ひょっとして、見られていたのだろうか。
 そんな凛の考えをよそに、ギルガメッシュとイリヤは廊下へと姿を消した。これもあっさりと。
 と、イリヤが顔だけ出して、
「そうだ、リン。ひとつだけ質問」
「なによ」
「……気持ちよかった?」
 爆発した。
「一体なんなんだよ、全く」
 時は夕食。台詞は士郎。頭にできたたんこぶをさすりながら。
「先輩、大丈夫ですか?」
「んー。まだちょっと痛いけどさ。一晩寝れば治ると思う」
「そうですか。それはよかった」
「家に帰るなりシロウが頭を抱えて唸っていたので、本当に心配しました。一体、何があったのですか?」
「いや、それが俺にもさっぱりなんだ。思いっきり頭を打ち付けて起きたってことしかわからないからなぁ」
 士郎は首をかしげる。寝ていただけのこの男は悪くないようで物事の原因だ。
「貴方たちは既に家に帰っていたのでしょう? 何か知らないのですか?」
 あの後一番最初に帰ってきたライダーは、そのとき既に屋敷にいた三人に問い詰める。だがその質問は予想済みだ、と言わんばかりの態度で、
「我は知らんな」
「私もしらなーい」
 ギルガメッシュとイリヤはそっけなくそう答えた。だが、ただ一人凛だけは何故か黙って食事を淡々と続けていた。
 そういえば今日の彼女には妙に覇気がないというか、むしろ近寄ると身の危険を感じたと言うか。
 どちらにしろ、様子がおかしかった。
「…………」
「…リン?」
「し、知らないわよ何も!」
 顔を覗き込んできたセイバーに対して叫ぶ凛。突然のことに驚く、若干二名を除いた周囲。ちなみにその二名はニヤニヤと笑っている。
「どうしたんだよ遠坂。急に大声出して」
「そうだぞ、女。それにどうしたその右手は。まるで誰かを思いっきり殴ってできた痕」
「わー! わー!」
「ちょっと、リン。食事中に叫ばないで。レディとしてのマナーがなってないんじゃないの?」
「うぅ……」
 どうにもイリヤとギルガメッシュに頭が上がらない様子の凛。一体何があったのか、周囲はさっぱり理解できない。
 セイバーはどうでもよくなったらしく、熱心にご飯を食べているが。
「なぁ、ギル。何かあったのか?」
「だから我は何も知らん。それよりシロウ。貴様、昼寝をしていたのだろう? どのような夢を見た?」
「夢? 変な事を聞くなぁ」
「いいじゃない。で、どんな夢だったの?」
 何故か士郎の夢に興味津々な二人。この話題は桜、ライダー共に興味深いものだ。セイバーも箸を動かす手を止めて、じっと次の言葉を待っている。
 好きな相手の夢に自分が出てきたら。
 それはとても素敵なことだろう。扱いが酷くなければ。
「いや、夢なんて見なかったぞ。見たとしても覚えてない」
「なーんだ、つまんない」
「でもなんか……」
 士郎はそこで言葉を切って何故か凛の方を眺める。凛はさっきから黙ってうつむいているため、士郎の視線に気付かない。
「……遠坂の味がしたな」
 本日二度目の爆発。
「なぁギル。俺、なんか変なこと言ったっけ?」
「我は知らんな」
 たんこぶがもう一個増えた士郎がギルガメッシュに相談を持ちかけて素っ気ない態度をとられたのは、また別の話。
「で、リン。この写真についてどう思う?」
「な、それは!」
「何、心配するな。そちらの態度によってはこの写真はなかったことにしてやってもよいぞ?」
 それからしばらくの間。凛が何故かイリヤとギルガメッシュの言葉に素直だったのも、また別のお話。
 本当の話、ギルガメッシュとイリヤは用事などなかった。
 昨日の夕食時。桜にライダー、藤村までもが用事があると言い出したので、ギルガメッシュはふと戯れを思いついたのだ。
 攻撃目標は二択。リンかイリヤ。
 コンマ数秒でリンに決定。
『イリヤ、我に策がある。乗らんか?』
『策?』
『何、少しリンをからかう程度だ』
『乗った』
 イリヤも即決。士郎と遊ぶ時間も惜しいのだが、凛をからかうとなっては話は別だ。
 そういうことでその場は『我も用事がある』『私も用事があるわ』なんて二人揃って言い出して、凛と士郎が二人っきりになれる環境を作り出したのだ。
 最近士郎のことで少し焦っている様子の凛。間違いなく行動に出るだろう。
 ギルガメッシュはそう踏んだのだ。
 二人ばらばらに時間をずらして外出。門の前で待ち合わせ。そして足音を立てないように屋敷に侵入。
 廊下からこっそりと居間を覗き込んだのは、丁度士郎の頬を凛がぷにぷにしているところだった。
『何だ、つまんない。シロウ寝てるじゃない』
『いや、雑種が眠っているからこそ起こせる行動もあるだろう。見てみろあのリンの幸せそうな顔を。とりあえずキャメラだ、キャメラ』
『はーい』
 ぱしゃっ
『さて、このまま何も起きないのは確かに何一つ面白くないな』
『リンももっと積極的になればいいのに』
『あの朴念仁相手にあれでは、永遠の生があろうと振り向かせるのは非現実的思うが』
『この際押し倒しちゃえばいいのに』
 わいわいと勝手にやかましい外野。
 ここで、士郎が凛の指先に食いついた。
『おぉ! この展開は予想しなかった! さすがだ褒めてつかわすぞ雑種』
『見て、あのリンの顔。真っ赤っか』
 笑いを必死にこらえながらとりあえずまた写真を一枚。
『なにやらリンが妙に艶かしいな。雑種も意外な才能を発揮する』
『指先だけなのにねー』
 ぱしゃっ
 ぱしゃっ
 ぱしゃっ
『お、雑種がリンを放したな』
『リン、出来上がっちゃってるね』
『まるで本番後だな。お、どうやら雑種が口にした指に興味を持ったようだぞ』
『リンったら奥手ねー。すぐそこに本物がいるのに』
『俗に言う間接接吻か。よし、あれを口にする直前に突入する』
『らじゃー』
 以下、同文。
 どっちかってーとこっちの話を書きたかっただけだったり
 誤字脱字があるかもしれませんが、読んでくださった方、ありがとうございます