Purgatory【Gaia's Fall】02/12(M:オリ、セイバー、蒼崎橙子etc... 傾シリアス90年後クロスオーバー


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1: 心無鳥 (2004/04/06 00:44:18)[shina_lain at hotmail.com]http://www113.sakura.ne.jp/~the_470in/




 02/12

 煉たちがアサシンと戦っている頃、橙子とランサーは草をかきわけながら、夜の森を歩いていた。
 先を行くのはランサー。その凛々しい顔に不満げな表情を張り付かせている。
 体には緊張が張り詰め、周囲への警戒も怠っている様子はない。
 片やマスターの橙子はといえば、それこそ夜の散歩のように気軽な足取りで、ゆっくりとランサーの後をついていく。
 イライラも少しは落ち着いたのか、瞳からは剣呑な光りが消えていた。
「なぁマスター。本当にこっちでいいのかよ?」
 肩越しに振り返りながらランサーが言う。橙子はこともなげに、時々雲間から顔を覗かせる月を見上げていた。
「さっきから五月蝿いぞ、ランサー。涼しい時に見る月ほど美しいものはない。それが暑いと言われる夏なら尚更だ」
 視線を合わせようともしない橙子に、ランサーは肩をすくめて溜息をつく。
「風情ってやつか? そんなもん、持ってても敵は殺せないだろうが」
「ふん、とてもお前らしい感想だよ。だがね、この世界は殺し合いだけで出来ているわけではない。お前とて、それを知らないわけでもないだろう?」
 ようやく顔を向けた橙子が薄く笑い。それを鼻で笑い、ランサーは再び前を向いた。
「さぁな……少なくとも、戦い以外ロクなコトがなかったから、よくわからねぇ。月を見るくらいなら、敵を殺してた」
 どことなく寂寥を漂わせるその声に、橙子は頷き、
「勿体ないことをするものだ。だが、それは完全な間違いではない。少なくとも、世界の半分は殺し合いで出来ていると、私は思っている」
「へぇ、そのこころは?」
 おどけて問いかけるランサーに、橙子も歌うような言葉で答えた。
「誰でも人を殺し、親を殺し、己を殺して生きていく。極論するなら、私たちは生まれた時点で世界を殺しているんだよ、ランサー。シュレディンガーの猫を思い出せ。私たちが猫を見ると、その猫が死ぬか生きるか決まってしまう、即ち命は我らの観測に委ねられている。であるならば、此処に命が宿り世界を見れば、そこに生じるはずの数多の可能性はつぶれ死ぬ。一秒ごとに変わる日々はまた一秒ごとに殺されて、そうして皆死に生きる。だからきっと、その半分は殺し合いなんだろうさ」
「はっ、言葉遊びが好きなのか?」
 笑うランサーの手が木をへし折る。
 橙子は胸元を探りながら、もう片方の手で葉に溜まった雫を飛ばした。
「魔術師は口上が好きなものだと、昔から決まっているだろう? これだけはどれだけ時が経とうと変わらんよ」
「じゃあ、もし口の利けない魔術師がいたらどうすんだ?」
「筆談で口上ぶてばいいだろう。文盲ならば覚えさせればいいことだ」
「いいや、その解答じゃ不適当だぜ」
 ニヤニヤ笑うランサーを、橙子がにらむ。
「ほう、何か良い答があるなら言ってみろ。もし少しでも感心したなら、褒美くらいはくれてやろう」
「言ったな。約束は守れよ?」
「ああ、お前の誓約程度には、信用してもらってかまわない」
 一瞬複雑そうに顔を歪ませたランサーだったが、それでも言葉を紡いだ。
「口の利かない奴ぁ殺せばいい。そうすりゃ後腐れないし手っ取り早い。一々成長させる手間もない。どうだ?」
「ふむ、それなりに正しいが、やはり不足している。いいか、ランサー。口の利けない状態で殺してしまっては、犖の利けない魔術師がいた瓩箸い事実が残る。だが、筆談でも口上を述べられるようになれば、犖上好きな口の利けない魔術師がいた瓩砲覆襪世蹐Α」
 ランサーは舌打ちし、また一歩前に進む。
「やっぱりあんたの言う通り、魔術師相手に言葉遊びなんざするもんじゃねぇ。最初っからごねてごねてごねて、最後にゃ諸手を上げて向こうに行っちまうのがお前らだ」
「そう拗ねるな。悪い答ではなかったし、暇つぶしにもなった。言った通り、褒美をくれてやる」
「どうせ大したもんじゃねぇだろうが、一応聞いておこうか」
「喜べ、爛ー・フーリンが本当に欲するもの瓩澄
 沈黙。
 足を止めた後、ランサーが振り向いた。
 橙子はいささかも動じることなく、あごで促す。
「どうした、足が止まっているぞ。ただでさえこんな非常事態なんだ。伏見の奴がマスターに選ばれている可能性がある。となれば、他のサーヴァントに害されているかもしれないだろう?」
 ランサーは渋々踵を返し、先ほどと同じように進む。
「――俺はただ強い奴と戦いたい。望みがあるなら、それだけだ」
「いいや、それは違うぞ」
 不意に呟いたランサーの言葉に、橙子は即座に返事を返した。
「どう違うってんだ。俺がそう言ってるんだから、それが事実だろ?」
「浅はかなことを言うな。生前からそうだったのか、或いは英霊になって何かに縛られているのか……ああ、それは私が知る必要もないか。とにかく、私のサーヴァントになった以上はもう少し考えて物を言え。人間離れした力があっても、頭が人並みではこの先が不安だ」
 人並み以下、ではなく人並みと言ったのは橙子がランサーを多少は評価している証拠だろうか。
 ランサーは不快そうに眉を寄せ、
「じゃあ何か? ここにいる俺がダミーだとでも言うのかよ?」
「そんなことは言っていないだろう。ただ、聖杯戦争に呼ばれるサーヴァントは、いずれも何か願いを抱えていると聞いている。ならばお前にもそれがあるのが当然だろうさ」
「そいつはデマだ。英霊なんて奴はどいつもこいつも、そんなことは望んじゃいねぇよ」
「たとえお前の主観から観てそうだとしても、だ。いいか? 戦うには理由が必要だ。戦うために戦うとしても、そこには必ず何らかの因が存在する。因果から切り離された存在なら、それこそ英霊にはなれまい。そんなものはただの現象だ。在るべくして在る、無きべきして無きなんていうのは、私やお前のような人間あがりには不可能なんだ。故にランサー、戦うためにここにいるお前にも、因は確実に存在する。それが願いであれなんであれ、酷く興味深い。英雄が自覚しなかった願いなぞ、そうはお目にかかる機会はないだろうさ。私の要求は、侵入者を排除する時点で既に果たされる。なら、その報酬である聖杯はお前に与えられるものと、最初から決まっている」
「そんなもんがあるなら、だろ?」
「あるさ、必ずある。拒否は許さんぞランサー。これはもうマスターである私が決定したことだ。蒼崎橙子は、ただその興味を満たす為だけにこの戦争に勝利する――どうだ、魔術師として悪くはあるまい」
 勝手にしろ、とランサーは手を振り、
「そんなこたぁ勝った後でもいいんだが、この道合ってるのか? さっきから、歩き難いとこばっか進んでる気がするぞ」
 足元の木を蹴り飛ばす。
「当たり前だ。そう簡単に私のところまで侵入されてはたまらんからな。それなりに入り難くはしてある。多少結界も張ってあるから、アイツが来る道はここしかないだろうよ。まぁ、サーヴァントでも使って強制的に結界を吹き飛ばせば話は別か。お前らのような神秘にかかれば、私のものなど児戯に等しい」
「……いつもこんな道なのか。気の毒だな、その伏見ってヤツも」
 心底嘆かわしげに言うランサーの背中をにらむ橙子。しかし自分でも自覚しているのか、それだけで何も言わない。
「んで、そいつは魔女だとか言う話だが、男なんだろ?」
「そうだ。お前の時代では魔女は魔女、魔法使いは魔法使いとそのままの意味だったんだろうが、今では魔法そのものが衰退してしまってね。いや、化学に侵略されたとでも言おうか、ともかく魔女というのは一つの称号のようになっている」
「称号? 二つ名か、それとも栄誉に与えられるもんか?」
 問うランサーに、橙子は鼻で笑って答えた。
「中々面白いことを言う。二つ名がつくほど有名なら狩られているだろうし、栄誉など与えられるはずもない。いいかランサー、魔女という名が意味するのはただ一つ、犁少種瓩鉢犖況伸瓩燭世修譴世韻澄
「希少種っていうのはわかるが、原型か?」
 首を捻るランサーに、橙子は続ける。
「この世界にある魔法はもう残り五つになってしまったが、そうなる以前の、まだ魔術が魔法であった時にその雛形たる魔法があった。どれだけ魔法が魔術に変わろうと、根源的なところであるその魔法――奇跡だけは変わらない。ちょうど英霊の宝具と似たようなものだな。お前たちは変化しない幻想によって奇跡を起こすが、魔女は己の意思で奇跡を起こす。なんとも不思議だが、魔女の魔法は不変の雛形だというのに、変化する意思で行使するんだよ。まぁ、だからこその魔法かも知れんがね」
「ややこしい言い回しするな。要するに、魔法使いなんだろ?」
「ふむ、私としたことが誤ったか。確かにお前に説明するなら、そう言ったほうが早かったな」
 納得したように頷く橙子。
 ランサーが呆れて何かを言おうとした時、はるか前方から閃光と共に破砕音が轟いた。
 いや、それは破砕音というには綺麗すぎる。壊されているのはあくまで大地と木々であり、飛んでいるソレ自身の音はあくまで清らか。
 少しづつ近づいてくるその音に、ランサーが身構える。橙子は変わらず、余裕を持ったまま立っていた。
「まったく、自然破壊はよくないと先生に教わらなかったのか。この国の教育不備が叫ばれてから何年も経つが、まだ改善されていないと見える」
「そうだな。本当に派手にやってやがる――」
 ランサーの声を塞ぐほどにその音が大きくなった時、目の前の茂みから何かが飛び出した。
「――来るぞ!」
「近くでがなるな。その程度、言われなくてもわかっている」
 橙子がバックステップを踏み、それを守るようにランサーも後退。
 その直後、茂みごと吹き飛ばす光の矢が降り注ぐ。
 大地に穴を穿つそれはまるで砲弾。一つ一つが巨木をも薙ぎ倒す力を秘めた塊だ。
「射撃、アーチャーか!?」
 ランサーが叫ぶ。それに対して橙子はただ、
「ふむ」
 と言って目を細めた。
 先ほど飛んできた何かも吹き飛ばされ、橙子とランサーの横に転がる。朱の槍が走り、その首を跳ねんと迫った。
「待て、ランサー」
「ちょ、ちょっとストーーーーップ!」
 必死の叫びと、橙子の静止が重なる。
 薄皮一枚のところで停止した槍、その上にあるのはやや茶がかっている長髪の、初老の男の顔だった。
「こりゃまた。いきなりな歓迎だね、橙子師」
「お前こそ忙しそうじゃないか、伏見」
「まぁね、ちょっとした手違いっていうかデタラメっていうか、兎に角そんな感じだよ」
 言って、男は肩をすくめる。
 そう、彼こそ猖盻瓩燭訝法伏見銀迩。既に50過ぎだというのにその体は引き締まっており、顔も年相応だが、老いさらばえているようには見えない。
 猯匹でのとり方の見本瓩箸任盞鼠討靴燭蕕茲い。今その顔に張り付いている強張った笑みも、子供のようで微笑ましい。
「いいからさっさと煙草を寄越せ。まさか忘れたわけではないだろう? お前には、自殺願望はなかったと記憶している」
「はいはい、ちゃんと持ってきてるから、これでも吸って落ち着いてくれないか」
 ランサーの槍はまだ引かれないまま、鋭い刃を銀迩の首筋に当てている。そんな状態でも器用に動き、彼の右腕は荷物を橙子へと放った。
 橙子は片手でそれを受け取ると、視認し難い速度で開封し始める。
 そこに再び、矢の嵐が打ち込まれた。
 蒼の槍兵が動く。
 ランサーは必殺の重みを持つそれらを、雷光が如き勢いで薙ぎ払った。
 不思議なことに弾かれた矢が周りに落ちることはなかった。その全てが霧散したように消える。だがそれも、次なる矢群にかき消される――!
 銀迩が立ち上がり、空中に文字を描く。それは現世では理解されぬであろうアルファベット。
 次の瞬間、文字は質量を持つ透明な力場と化し、降り注ぐ矢の全てを受け止めた。
 矢止めのルーンと魔法の併用。奇跡をイメージの補助として、その意味を意思を以て顕現させた強化盾。
 だが、本来矢止めのルーンは飛翔武器の類を一睨みで叩き落すもの。だとするなら、今受け止めていること自体がおかしい。
「くっ……橙子師! 俺だけじゃ無理だ!」
「だろうな。だがそう慌てることはない。その道のエキスパートが、すぐ傍にいるだろう?」
 煙草をくわえ、ライターを探す橙子が返事を返す。
 銀迩は目を丸くして、傍に立つランサーを見た。だが彼はルーンに受け止められ、霧散し、即座にまた受け止められる矢の群れを睨んでいる。
「駄目だ橙子。こいつ、ルーンくらいじゃ引いてくれないようだぜ」
 そう言う彼の口元は、笑っていた。
 同時にルーンが崩壊、一斉に襲いかかると思われた光の矢は、しかし訪れない。
 その代わりとでもいうかのように、透き通った声が森の中に響いた。
「お久しぶりです橙子師。お元気そうで、何より」
 薙ぎ倒された森の向こう、約500メートルを隔てて、その女は微笑んだ。
 長い金髪が風になびき、金の眼が月光に煌く。
 橙子は煙草に火をつけ、息を吸い込み、煙と共に吐き出す。
 そうしてあくまで冷静に、言った。
「本当に久しぶりだな。しかしお前が現れるとは、迷って出たか?」
 一陣の風が吹き、女がまとう白い衣服を波立たせる。
 彼女は微笑んだまま、静かに首を振った。
「いえ、そんな愚行をオレ《・・》がするはずもない。ただ強いて言うなら、必要だったから出てきただけのこと。そうでなければ兄さんはおろか、あの忌々しい式すらいないこんな時代に蘇るワケがないでしょう?」
 ぶすっ、とする女を見て、橙子が笑う。
「ふん、言葉使いは多少異なり、髪と眼の色も違うが――」
 紫煙をくゆらせながら、彼女は懐かしげに言った。

「――なるほど、お前は確かに黒桐鮮花だ」











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